IS ~Identity Seeker~   作:雲色の銀

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第18話 思いの強さは力の強さを打ち破るか

「凌斗さん!」

「何なの、あれ……?」

 

 アリーナの客席で観戦していたセシリアが、思わず声を上げる。

 その隣では、鈴音が変化するラウラのIS"シュヴァルツェア・レーゲン"()()()()()を見て絶句していた。

 漆黒の機体は操縦者を飲み込み、泥人形のような姿へと変異を遂げていた。ボディラインはラウラのものだが、手らしき部分にはシュヴァルツェア・レーゲンの武装にはなかった一本の剣を持っている。

 

「い、一体何が起きて……!? 凌斗は……?」

 

 鈴音の更に隣に座る簪も、凌斗の心配をする。

 ラウラと同じような現象が、凌斗と"シアン・バロン"にも起きていたのだ。

 蒼いカラーリングは濁った水のようにどす黒く変色し、肩の装甲はスライムのように解けて凌斗の頭を包んでいた。

 このままでは、ラウラ同様に泥人形になるのも時間の問題だろう。この事態を目撃した誰もがそう思っていた。

 

『非常事態発生! アリーナの遮断シールドをONにします!』

「そんな、凌斗さん!」

「セシリアダメだって! アンタの"ブルー・ティアーズ"はまだ休ませてる最中なんだから!」

 

 そこから先を見ることも叶わず、観客達はシールドによって外と隔離される。

 凌斗を心配したセシリアが飛び出そうとするが、鈴音によって止められた。

 

「全く……って、箒は?」

 

 だが、実はもう一人。先程まで傍で試合を観戦し、今この場から姿を消した友人の存在があった。

 鈴音が気付くも既に遅く、箒はアリーナからピットへの道を走っていた。

 

 

◇◆◇

 

 

「ラウラと同じことが凌斗にも……?」

 

 シャルルの目の前で変色していくシアン・バロン。しかし、姿はそれ以上変化することはなかった。

 泥に包まれた頭部は中世の兜のような形に姿を変え、生身の部分は右目周辺が欠けてむき出しになっているのみ。その右目もハイライトがなく、餌を前にした猛獣のように見開いているが。

 代わりに兜で覆われた左目部分は赤いセンサーライトが怪しく光り、標的を捕えている。

 

「でゅ、の……ア……デュノ、ア……!」

 

 唯一、元のカラーリングを保ったままの右腕で落ちていたスペリオルランサーを拾うと、凌斗は口元の装甲を大きく開いて荒々しく咆哮した。

 

「デュノアアアアアアアアアアッッッ!!」

 

 凌斗の襲撃をかわしたシャルルは、後退しながら一夏と合流しようとした。

 

「テメェェェッ!」

 

 しかし、一夏はエネルギーが僅かしか残っていない白式でラウラだったものに特攻していた。一夏の攻撃は敵が持っていた剣によって防がれ、軽く弾き飛ばされてしまう。

 カウンターを何とか回避した一夏だが攻撃を避けきれなかったらしく、左腕から血を流している。

 

「一夏! 大丈夫!?」

「それが、どうした!」

 

 シャルルが駆け寄って心配するが、興奮状態の一夏は怒りのままに敵へ突っ込んでいこうとしていた。

 

「一夏っ! 何をしている!」

 

 そんな一夏の暴走を止めたのは、打鉄を装備した状態の箒だった。元々、試合の順番が近かった箒にも予め使用する機体が割り振られていたのだ。

 思わぬ方向からの援軍にホッとするシャルルだったが、それでも一夏の激昂は止まらない。

 

「デュノア、無事か?」

「うん。ありがとう、箒」

「離せよ箒! アイツはぜってぇ許さねぇ!」

「落ち着け! お前らしくもない! まず何があったかを説明しろ!」

 

 箒は暴れる一夏を引き摺りながら、シャルルと合流する。その間、ラウラだったものは微動だにせず、凌斗だったものはシャルルをじっと見続けるが同じく動こうとはしない。

 敵と引き離されたことで、一夏も漸く落ち着いてきたのか自身の怒りの理由について説明することにした。

 

「アイツが使った技、千冬姉のものだった。あの姿も雪片みたいな剣も、きっと千冬姉のデータを使ったからだ。ふざけやがって、あんな簡単に千冬姉のものをパクりやがって!」

「一夏……」

 

 敵を睨み続ける一夏を見て、箒は寂しそうな貌を浮かべた。

 一夏の根底にある強さの基準は千冬から出来ている。あの厳格な千冬から教えられたものを守ることこそ、一夏の追い求める強さなのだと。

 だからこそ、それをあんな形で真似する偽物が何よりも許せないのだろう。まるで家族を侮辱されたようで。

 

 

『貴様にとっての強さはなんだ? 篠ノ之箒。力とは? 貸し借りの出来るただの道具か? 欲しいものを手に入れるだけの手段か?』

 

 

 先日の凌斗の言葉が今更になって、箒の心に重くのしかかる。未だに箒にとっての強さの基準は分からないままだ。

 

「お前は、いつだって千冬さんばかりなのだな」

「それだけじゃねぇ。ラウラ本人も許せねぇんだ。あんな訳の分かんないものに振り回されていい訳あるかよ」

 

 ラウラもあの黒い塊の中にいるのだが、本人の意思は全く感じられない。現に、向こうへ攻撃を仕掛けなければピクリとも動かない。そういうプログラムが施されているかのように。

 誰かの力を真似たISと、その力に振り回されるラウラ。そのどちらも一夏は気に入らなかった。

 

「……そうだね。アレが何かは分からないけど」

 

 シャルルもまた、一夏の意見に同意する。

 ついさっきまで自分に"逃げるな"と言った男性。心の弱い自分を断罪し、改めて道を切り開かせようとした人が力に捕われている。こんな滑稽なこと、許していいはずがない。

 

「凌斗の目を覚まさせなくちゃ」

 

 さっきまでとは打って変わり、シャルルは闘志の炎を燃やす。

 

「正気か? いずれ先生達がやって来てこの事態を鎮圧してくれる! お前達が動く必要なんてない!」

「いいや、それは違うぜ」

「うん。全然違う」

 

 これから危険な戦いを挑もうとしている2人を箒が説得する。会場内には非常事態発令の放送が響き渡り、いずれ教師部隊がアリーナ内に雪崩れ込んでくることは容易に想像出来た。

 が、それでも一夏とシャルルは退こうとしない。それぞれが倒すべき敵をジッと見つめ、首を横に振った。

 

「これは"やらなきゃいけない"ことじゃない。"俺がやりたいからやる"ことなんだ」

「他の誰かに任せておしまいなんて、僕は絶対に納得出来ない。僕がやりたいことをここで選べなかったら、この先ずっと後悔することになる」

 

 義務感や責任感よりもずっと重いものを2人は持っていた。ここで退けば、彼等は自己(アイデンティティ)を失くすことになる。

 それほどまでの譲れない何かを前に、箒も最早止めることは出来ないと悟った。

 

「……分かった。だが一夏、白式のエネルギーはもう僅かしかないだろう?」

「そ、それは……」

「お前はいつも通り、一撃に集中しろ。その間、私が時間を稼ぐ」

 

 白式のエネルギーはもう全身の装甲を展開することすら出来ない程に減ってしまっている。使えたとしても、右腕の部分展開がやっとだろう。

 そこで、零落白夜を確実に当てられるよう箒が囮になることを提案した。

 

「いいのか? 箒……」

「私は、お前達程強くはないからな。せめて、これぐらいなら!」

「……ああ、頼む!」

 

 箒は一夏を庇うように立ち、近接ブレードをラウラだった黒いISに向ける。

 強さというものが分からない箒だが、大事な人を守りたいという気持ちは一夏にも負けてはいない。

 

 

◇◆◇

 

 

 箒が戦闘を開始したのと同時に、シャルルも凌斗だったISとの戦いを再開していた。

 動き回りながらアサルトライフルを連射するシャルル。とにかく、得体の知れない状態の相手に近付くのは得策ではないので、離れたところからの射撃でISのエネルギーそのものを削る作戦だ。

 対する敵ISはシャルルのみを見据え、ひたすら追いかけて来る。かと思えば、手に持っていたスペリオルランサーからレーザーを放ち応戦した。

 

「デュノアアアアアアアアアア!!!」

 

 凌斗の声で、まるで野獣のように吠える敵IS。ザクザクと突き出す槍が地面に小さなクレーターを作っていく。

 さっきまでの凌斗とはまるで違う、力任せな戦い方。そして怒号にも似た叫び声から、シャルルはある仮説を立てていた。

 

(ラウラと違って、凌斗の怒りの記憶からデータを取っている……? だとすれば、今の彼はデュノア社に憎悪を向けて……)

 

 シアン・バロンが変質した黒い泥。それを形成したプログラムは、凌斗の奥底に眠る怒りの記憶を呼び覚ましていた。そこからデュノアの人間であるシャルルを標的にし理性なく暴れている、というのがシャルルの推測だった。

 

「全く、冗談じゃない」

 

 シャルルはボソッと悪態を吐くと、その場に立ち止まって凌斗をジッと見つめる。

 そして、ある質問を投げかけた。

 

 

 

「君は誰?」

 

 

 

 一見、彼女の行動は無策にも見えた。だが、敵ISはシャルルの眼前で動きを静止する。

 ギギギギ、と目の前の端正な顔を穂先で貫こうとするが、右腕が何かに縛られたかのように次の動作へ移ることが出来なかった。

 シャルルは確信していた。凌斗の意識はほんの少しだけでも残っている。シアンカラーを保ったままの右腕が、何よりの証拠である。

 

「君は誰だい? 答えてよ」

 

 彼女は異形のそれへ視線を逸らすこともなく啖呵を切る。

 このやり取りは先程まで自分が目の前の相手としていたもの。但し、今は立場が逆である。

 次に彼女は髪を結んでいたリボンを外し、セミロングのブロンドヘアーを解くと大声で宣言した。

 

「僕はシャルロット・デュノア! 君と友達になりたい、ここで君と一緒に強さを学んでいきたい、女の子だよ!」

 

 今、この場に彼女の正体を知らない人間は箒とラウラしかいない。最も、ラウラは意識を失っているのだが。

 それでも、例え周囲に大勢の人がいたとしても、彼女はこうして自身のことを叫んだだろう。

 

「僕に進む道を決めろと言ったのは凌斗だよ! どうしたいのかを決める勇気をくれたのは君だった!」

 

 シャルル──シャルロットは動きの止まったISへ次々に言葉をぶつけていく。

 さっきまで凌斗がシャルロットの心を揺さぶったように、今度はシャルロットが凌斗の心へ問いかける。

 

「僕の知ってる凌斗は強かった! そんなものに操られるような人じゃなかった!」

 

 "高速切替(ラピッド・スイッチ)"によって近接ブレード"ブレッド・スライサー"を呼び出し、一気に距離を詰める。

 反応が少し遅れた敵ISの腕からスペリオルランサーを叩き落とし、そのまま斬りかかろうとするシャルロット。しかし、刃は黒く染まった機械の腕で掴まれてしまう。

 

「デュノアァァ……!」

「確かにデュノア社を憎んでた。けど、それを僕にぶつけてくることはなかった! 何かへの恨みを、他の誰かにぶつけるようなことを凌斗はしなかった!」

 

 硬直状態になったその時、シャルロットが装備していた盾の装甲が弾け飛んだ。

 中からはリボルバーと杭が融合したかのような武装、パイルバンカーが現れる。これこそ、第二世代型が持つ最強威力の武装"灰色の鱗殻(グレー・スケール)"である。

 強力ではあるが至近距離でないと使えないため、シャルルはリヴァイヴの盾の中にずっと隠し持っていたのだ。

 

「だから、目を覚まして! こんなものに、負けないでっ!」

 

 シャルロットは叫びながら、ISの腹部へ左腕を突き出す。すると、パイルバンカーの痛烈な一撃がしっかりと敵を捕らえた。

 衝撃が腹部から全身へと伝わり、デュノアの名前を吠え続けた口からは黒い泥を吐き出す。同時に、変色したシアン・バロンの装甲がドロドロに溶け出していった。

 

「凌斗……?」

 

 やがて泥の中から、右腕の装甲とISスーツを残したままの姿の凌斗が現れる。口元から黒い液体を流し、ハイライトを取り戻した瞳はシャルロットを見つめている。

 

 

「……やれば、出来るじゃねぇか……シャルロット」

 

 

 意識を失う前に、凌斗は残った力を振り絞ってニイッと笑って見せた。もう一度立ち上がる為に頑張った仲間への、今出来る最大の賞賛であった。

 

「……ありがとう。凌斗」

 

 意識を失った凌斗に、太陽のように明るい笑顔を見せるシャルロット。

 彼女がIS学園に来てから、そして母を失ってから初めて心から笑った瞬間だった。

 

 

◇◆◇

 

 

「く、そ……!」

 

 箒が苦悶の表情で敵を見つめる。装備している打鉄の装甲は、あちこちに切り傷が残っていた。

 対する、ラウラを飲み込んだままのISは全く疲れた素振りすら見せず、雪片を模した黒い剣を箒に向けていた。

 いくらコピーとはいえ、相手は世界最強(ブリュンヒルデ)。ISを満足に乗りこなせすらしない学生一人で勝てるはずもない。

 

「流石に、強いな……」

 

 箒自身も勝つつもりではいなかったようだが、あまりの実力差を痛感し乾いた笑いが出てきてしまう。

 

「だが、お前は()()()()。ただ、力に振り回されてるだけ。昔の私と同じだ」

 

 目の前の相手には聞こえていないだろうが、箒は自虐的に呟く。

 

 姉の束がISという兵器を開発したことで、家族は政府主導の重要人物保護プログラムによって離散することになった。

 その後も西へ東へと転々とし、束が行方をくらませてからは執拗な監視と聴取を繰り返され、箒は心身の休まる時がなかった。居場所を特定されるからという理由で一夏に連絡すら取れず、未成熟な彼女の心が荒んでいくのも時間の問題だったのだ。

 そうして何処かで"誰かを叩きのめしたい"という気持ちが生まれたまま剣道の全国大会に挑み、見事に優勝を果たした。だが、そこで箒が行ったことはただの暴力でしかなかった。

 

「憂さ晴らしで、私は力を振りかざした。醜い有り様だったよ。あんなもの、本当に強いとは言えない。私にとっての強さは──」

 

 箒の言葉に答えるかのように、白い光が後方で輝きを放つ。打鉄のセンサーが伝えて来るのは、居合の構えで一直線に向かう幼馴染の姿。

 良く見慣れた姿だったはずだが、箒には一夏に重なる二つの影が見えていた。一つは、彼の姉であり剣の師でもある織斑千冬。もう一つは、つい最近まで剣を教えていた箒自身。

 

(──そうか、一夏。お前の強さは)

 

 敵はブリュンヒルデの動き通りに袈裟斬りをしてくる。

 が、一夏は想いのこもっていない剣を容易く振り払い、縦に真っ直ぐ断ち切った。

 "一閃二断の構え"。千冬の教えに習い、箒の姿に学び、一夏が己のものにした。

 真っ二つに断たれたISから一糸纏わぬラウラが現れ、力なく倒れる。一夏は彼女を優しく抱えると、フッと笑った。

 

「まぁ、この一回で勘弁してやるか」

 

 

◇◆◇

 

 

「VTシステム、沈黙したようです」

「所詮は試作段階か。しかも片方は正常に作動しなかったようだしな」

 

 アリーナの外では、ドイツ軍の男達が小型モニターを見ながらコソコソと話をしていた。

 映し出されている二つのデータはどちらも既に反応がなく、もう意味を成していない様子だ。

 

「やはり連動しての強制作動ではあまり効果的とは言えないか」

「操縦者の精神状態、機体の蓄積ダメージ、そして操縦者の意思……いや、願望か。それらが揃っていないと、な」

 

 第三者の声に、二人の男はギョッと振り向く。

 声の主はIS学園の教師、織斑千冬。女性らしい細い手には、IS用の近接ブレードが握られている。

 

「ヴァルキリー・トレース・システム。過去のモンド・グロッソの部門優勝者(ヴァルキリー)の動きをトレースするものだが、人道的な理由から全ての国家、組織、企業において開発、研究、使用が禁止されている。ここまで言えば、分かるな?」

 

 VTシステムはIS条約において違法とされる技術であった。それをIS学園において使用したということは、国際指名手配されてもおかしくない。

 

「大人しく、我々と来てもらおうか。」

 

 既に、周囲にはアリーナ突入用に待機していた教師部隊が包囲している。

 逃げ場の残されていない男達は大人しく両手を上げるしかなかった。

 

 

◇◆◇

 

 

「……もう、慣れてきたな」

 

 ぼんやりと白い天井を見つめながら、俺は独り言ちる。

 目が覚めるとどこぞのベッドに寝かされているというのも、数回目となれば何の驚きもなかった。今回は、特に身体の不調は感じないが。

 さて、記憶を遡ろう。確か、零落白夜を喰らったラウラ・ボーデヴィッヒが、突然溶けだしたISに飲まれたんだったな。

 その後で俺のシアン・バロンも──。

 

「まさかっ!?」

 

 一気に顔が青ざめ、起き上って周囲を確認する。あのままシアン・バロンが壊れたとなれば、俺は力を失うことになる。それだけは絶対に嫌だ!

 何処だ、何処にある!?

 

「あ、起きた?」

 

 イヤーカフスは見つからず、代わりに知った声がかけられる。

 その人物はベッドの傍に座り、ジッとこちらを見ていた。

 

「ああ、()()()()()()。俺のシアン・バロンは何処に……ん?」

 

 コイツなら知ってるかもしれない、とバロンの在り処を聞いてみる。

 が、自分の発言に違和感を感じて首を傾げた。俺は今、コイツのことをなんと呼んだ?

 

「凌斗のISなら、コアは無事だったから予備パーツを使って修復中だよ。完成したら、先生が渡しに来るって」

「そ、そうか」

 

 ブロンドヘアーの少女ははにかみながら、俺の知りたい情報を教えてくれた。

 そうか、バロンは無事だったか……よかった。

 一先ず安心はしたが、俺の中に違和感が残り続ける。

 

「……もしかして、覚えてないの?」

「ああ。変なシステムが発動したっていうのは分かったが……」

 

 飲まれてからの記憶は全く残っていなかった。

 ただ、不思議と胸の内に燻っていた怒りの感情が、まるで大掃除でもしたかのようにスッキリとしていた。デュノア社に抱いていた劣等感が、蝋燭に点る小さな火に戻ったようだ。

 

「あと、お前が吹っ切れたことも分かった」

「うん。それは、凌斗のおかげかな」

「俺の?」

「あんなこと言ってくれた人、初めてだったから。自分の道は自分で選べなんて、考えたことすらなかった」

 

 シャルル改め、シャルロットは笑顔で話し始める。自分の決めたことを。

 このIS学園で俺達と共に学んでいきたい。楽しいことも、辛いことも、共有出来る仲間になりたい、と。

 要するに、今まで通りってことだな。

 

「それが、お前の本心か」

「そう。これからはちゃんと自分を抱き締めて生きたい。母さんがくれた本当の名前で」

 

 シャルロットは自分の道を漸く選んだようだ。親の人形でも、企業のスパイでもない。普通の女としての生き方を。

 お互い心の靄が晴れたようで、やっと本当の自身での対話が出来るな。

 

「でも、僕は結局のところ犯罪者。国に戻って、両親と罪を償わなきゃ」

 

 確かに、スパイ行為は許されるものではない。データを盗んでいないとはいえ、素性を偽ってIS学園に侵入している時点でその罪は消えない。

 この問題をどうにかしない限り、シャルロットの生活には常に影が差すことになる。

 

「お前、決めたはずだろう? ここで、俺達と学んでいくって」

「でも」

「それに言ったはずだ。その先の障害を排除することぐらいなら手伝ってやる、と」

 

 シャルロットがデュノア社と手を切ることになった場合のことも、俺は考えていた。でなければ、手伝ってやるなどと無責任なことは言わない。

 ただ、俺の奇策を成功させるにはシャルロットの協力が必要不可欠だ。

 

「ど、どうすればいいの?」

 

 シャルロットが不安気に尋ねて来る。

 なに、よく考えれば簡単なことだ。

 

「お前には、死んでもらう」

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