IS ~Identity Seeker~   作:雲色の銀

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第21話 焦りは少年の水面を揺らすか

 もう日付が変わり、寮中の部屋の電気が消え、全ての生徒達が眠っているであろう頃。

 そんな時間帯にも拘らず、俺はベッドに横たわりながらも意識を覚醒させていた。

 好きで起きているのではない。本来だったら、勉強にトレーニングを熟して頭も体も疲れ切っている。1時間前には夢の世界に旅立っていてもおかしくなかった。

 

「やれやれ、だ」

 

 眠れない理由は分かっていた。自分自身への疑問と苛立ちだ。

 俺は自らのアイデンティティを証明する為に強さを手に入れようとしていた。いずれは世界最強の地位を手に入れ、唯一無二の存在になり上がる為。そして、俺を転生させたあの神に答えを示し付ける為。

 だが、最近は連敗を喫していた。ラウラに敗け、シャルロットにも敗けた。特に、シャルロットとの勝負はVTシステムによる横槍があったものの、敗けた上に命を救われるという結果になってしまった。

 更に、あの簪も遂に専用機を完成させた。セシリアも鈴も、あの一夏すらも前に進んでいる。

 

「俺は、俺だけが弱いまま……っ!」

 

 そんなことを考えるな!

 俺は弱くない。ラウラとの勝負も、シャルロットとの勝負も、全て邪魔が入ったものだった。だから完全な敗けじゃない。

 自分で思い浮かべた疑念を必死に掻き消そうとする。ここで俺が弱いと認めてしまったら、"蒼騎凌斗"というちっぽけな自我が今度こそ消えてなくなってしまうような気がした。

 

「強くなるしかない。奴等よりも、もっと」

 

 動揺を抑え、湧き上がる疑問を振り払う。

 弱くない。弱くないんだ……。

 

 

 

「──斗! 凌斗!」

 

 身体を揺らされて、名前を呼ばれる。

 最近、不眠続きでようやく眠れたところを起こされた俺は、隣でやたらとテンションの高い女子を睨んだ。

 

「……なんだ、シャルロット」

「海だよ! ほら!」

 

 シャルロットが指さす先には、陽の光に照らされてキラキラと輝く青い海原が広がっていた。

 今日は臨海学校初日。雲一つない快晴の中、バスは大勢の生徒を乗せて目的地に向かう。組で分けられているので、普段はいるはずの簪と鈴はいない。

 だからか、俺の前では一夏の隣に座るラウラと、通路を挟んだ隣の箒が火花を散らしている。

 

「海がどうした。毎日見てるだろうが」

 

 IS学園は元々、絶海の孤島。海なんて毎日飽きる程見ているので、何の感慨も湧かない。

 

「そ、そうだね。あはは……」

「そうですわ。シャルロットさん、もう少し落ち着いたらいかがですの?」

 

 俺の通路側の隣から、セシリアのやや不服そうな声が届く。そういや、バスに乗る前に2人で何か交渉していたようだったな。よく聞こえなかったが、最初がどうとか順番がどうとか。

 

「帰りになれば、セシリアも同じ状態になると思うけど?」

「それは……否定出来ません」

 

 何故もう帰りの話をするんだ。

 それより、俺はまだ眠い。着くまではもうひと眠りさせてもらおう。

 

「そろそろ目的地だ、全員座れ。寝てる奴は隣が起こしてやれ」

「だってさ、凌斗」

 

 ……仕方なく、俺はペットボトルの水を飲み干して微睡んでいた目を覚ました。

 それから数分後にはバスも停まり、旅館の前に整列させられていた。名前は確か、"花月荘"と言ったか。

 

「全員、従業員の仕事を増やさぬようにな」

「よろしくお願いします!」

「はい、こちらこそ。今年の一年も元気そうですね」

 

 織斑先生の号令で、全生徒が頭を下げる。どうやら、ここは毎年恒例の旅館らしいな。

 従業員の案内で、女子達は荷物を持って各自の部屋へ移動する。しかし、俺と一夏だけは当然のように例外だ。

 

「織斑、蒼騎。お前達は個室を使ってもらう。場所は教員室の隣だから羽目を外しすぎてもすぐ分かるからな」

「それじゃ、二人共荷物を持って付いてきてください」

 

 無駄に釘を刺されつつ、山田先生の後に続く。日差しが熱すぎる外から一転、中は冷房が程よく効いていて廊下まで快適だった。

 

「ここです。何かあったら、私か織斑先生がいますので教員室まで来てください」

 

 そう言い残して、山田先生はぱたぱたと何処かへ行ってしまった。教員たるもの、こういった場所でも事務作業に追われるのだろう。

 さて、臨海学校初日は終日自由行動となっている。恐らく、既に浜辺に出ている生徒もいるはずだ。

 

「どうする、凌斗。早速着替えて海に行くか?」

 

 荷物を置いた一夏も同じことを考えていたようで、俺に尋ねて来る。

 海は見慣れているとはいえ、浜で泳ぐとなると話は別だ。折角来た訳だし、出て行かない訳にもいくまい。

 

「そうだな。行くか」

 

 

◇◆◇

 

 

 さっと着替えを済ませ、俺達は浜辺に繰り出す。更衣室からすぐに浜に出られるのは楽でいい。

 

「あ、織斑君と蒼騎君だ!」

「嘘!? 水着、変じゃないよね!?」

「二人共ー、後でビーチバレーしようよー」

「俺に挑戦か。いいだろう」

「おう、時間があればいいぜ」

 

 予想通り、既に遊びに出ている生徒が多く、俺達と同じタイミングで隣の更衣室から出て来る女子達もいた。

 普段から女子に囲まれた生活をしているとはいえ、水着姿のような露出度の高い格好だと流石に目を合わせづらくなってしまう。俺だって男だ、気になってしまうのも仕方ない。

 

「あちちちっ」

 

 砂浜を歩く一夏が、足の裏を焼かれ悶える。夏の日差しを受けた砂は素足で歩くにはやや辛いほどの熱を持っていた。これもまた、夏の海の定番だ。

 足早に移動してから、俺達はまず準備運動を始める。ここで足を攣っても間抜けなだけだしな。

 

「い、ち、かぁーっ!」

「うおっ!?」

 

 すると、鈴がいきなり一夏へ飛び掛かってきた。

 オレンジのタンキニタイプの水着を着ており、良く言えばスレンダーな体型で飛びつく姿はまるで飼い主にじゃれ付く猫のようだ。

 

「あんた達真面目ねぇ、準備体操なんて」

「お前もしとかないと溺れるぞ」

「ふふん、あたしは溺れたことがないのよ。きっと前世は人魚ね」

 

 前世は人魚、ねぇ……。

 

「……ハッ」

「ちょっと、何鼻で笑ってんのよ」

「いや、お前みたいなジュゴンがいたと思うと……くくくっ」

 

 ジュゴンとは人魚のイメージの元となったと言われる動物だ。が、実際のジュゴンは一般的な人魚からかけ離れた、白くてむっくりとした海洋哺乳類である。

 俺は鈴の顔をジュゴンにした図を思い浮かべ、思わず吹き出してしまった。

 

「誰がジュゴンよ!」

「ちょっ、暴れんなって!」

 

 ジュゴン呼ばわりされた鈴は一夏によじ登ったまま憤慨して暴れる。

 まぁ、鈴みたいな気性の荒い奴がジュゴンだったなんてありえないから安心しろ。

 

「お前の前世は人魚でもジュゴンでもねぇよ」

「む、どういう意味よそれ」

「そのままの意味だ。大体、前世なんてくだらねぇよ」

 

 そんなもの思い返すだけ無駄だ。

 ……ああ全く、前世がどうのこうのなんて話をした所為で気分が悪くなってきた。

 

「凌斗さん! ここにいらしたのですわね!」

 

 眉間を抑えていると、水着姿のセシリアが俺の方へやってきた。手にはパラソルやシート等を持っており、いかにも夏のビーチを満喫する気満々といった感じである。

 着ている水着はこの前買った青いパレオの奴だ。改めて、何でも着こなせるセシリアのスタイルの良さを実感出来る。出るところは出て、締まるところは締まっている。

 

「ああ。探してたのか?」

「ええ。凌斗さん、是非サンオイルを塗ってください!」

 

 そう言うセシリアはキョロキョロと周囲を警戒しながらサンオイルを差し出してきた。命を狙われてるわけでもないだろうに、何をそんなに慌てているのか。

 一方で、そんなセシリアの大声に気付いた女子達が慌てて道具を取りに行ったり、海水でオイルを落とそうとしていた。いや、もう塗った奴については一切触れるつもりはないぞ。

 

「構わないが何をそんなに」

「で、では! お願いします!」

 

 軽く了承してしまうとセシリアはまた急ぎながらパラソルとシートの準備を始めた。そんなに慌てなくとも俺は逃げないんだが……。

 サッと準備を終わらせ、パレオを脱いで座るセシリア。その仕草は妙に色っぽく、本当に触れていいのかと疑問に思ってしまう。

 

「さぁ、どうぞ」

 

 漸く落ち着いたらしいセシリアはビキニの紐を外し、胸が見えないよう押さえながら寝そべった。少しでもズレれば見えてしまいそうな危うさに、俺は柄にもなく緊張していた。

 ボディライン自体はISスーツの上からでも分かるが、露出の高い水着では見え方が変わって来る。シミ一つない白い肌、脇から見える形の変わった乳、くびれた腹部とは対照的に肉付きのよい尻。

 もう一度言うが、俺とて男だ。気になってしまうのは本能的なもので仕方がないことなのだ。

 

「こ、このまま塗ればいいのか?」

「いえ、サンオイルは手で少し温めてから塗ってください」

「そうか」

 

 言われた通りに手の平にオイルを出し、すり合わせて温める。

 

「こういうのは初めてなんだ……上手く出来なかったらすまない」

「まぁ、凌斗さんにも苦手なものがありますのね」

「うるさい」

 

 弱みを握られたような気分になり、少しずつ冷静さを取り戻す。いよいよだ。俺はそっとセシリアの背中に触れてゆっくりと塗っていった。

 オイルの所為なのかは分からないが、初めて触った家族以外の女の肌はすべすべしていた。それでいて柔らかく、触れているだけなのに気持ちよく感じる。

 

「ふふっ」

「なっ!? 変なとこでも触ったか!?」

「すみません。けど、あの凌斗さんがこんなにぎこちなくサンオイルを塗っていると思うと……ふふっ」

 

 初めてなんだから仕方ないだろうが!

 謎の敗北感に苛立っていると、背後に人の気配を感じた。その人物は傍に置いてあったサンオイルのボトルを取り、俺と場所を変わる。

 

「凌斗さ──ひっ!?」

 

 ふと背中からの感触がなくなり、疑問に感じるセシリア。だが、すぐにそれどころではなくなり小さな悲鳴を上げた。

 

「オイルなら、私が」

 

 現れた人物、簪はサンオイルを冷たい状態のままセシリアの背中に無造作に塗り付けていく。その手つきは、何処か怒りすら含んでいるようにも見える。

 因みに、簪の水着も先日買ったスクール水着だ。よく着てこれたな、それ。

 

「簪さん!? 何をしまひゃああああっ!?」

「出し抜こうったってそうはいかない……これはバスが別だった分」

「それはクラスが違うからでひいいいっ!?」

 

 悲鳴を上げながら抗議するセシリアだが、黒いオーラを背負った簪は聞く耳を持たない。簪は4組だから行き帰りのバスは違う。

 しかし、恨みはそのことだけではないらしい。心なしか、簪の視線はセシリアの胸を捕えているようだし。

 

「もう、いい加減に!」

 

 遂に我慢の限界を迎えたセシリアが起き上がる。けど、今はブラの紐は外れているわけで。

 

「あ」

 

 簪の目の前で露わになっただろう()()を、俺は拝むことはなかった。こうなることが分かり切っていたので、咄嗟に後ろを振り向いたからな。

 それでもセシリアの羞恥心が収まることはなく。

 

「きゃあああああああっ!」

「ご、ごめんなさい……」

 

 居心地の悪そうな俺の背後では、セシリアの悲鳴と悪乗りしすぎて謝る簪の小さな声が聞こえて来たのだった。

 

「あ、いたいた。凌斗ー」

 

 二人の言い争いに巻き込まれないようその場を離れると、今度はシャルロットと合流した。シャルロットも、俺が選んでやった水着を着ている。ISのカラーもだが、コイツはオレンジ色がよく似合う。

 だが、すぐ傍にいる謎の生命体の所為でシャルロットの水着姿が全く気にならなくなってしまった。バスタオルを何枚も体に巻き付けており、まるでミイラのような風貌だ。ここまでどうやって移動してきたのか。

 

「あれ? 一夏は」

「一夏なら鈴と泳いでるが……そこの変な奴はなんだ?」

「えっと、ラウラなんだけど」

 

 は?

 あのラウラ・ボーデヴィッヒか?

 目の前の不気味な生物がラウラだと言われてもにわかには信じがたい。頭から出ている2本の髪の色がそれらしいだけで、一目でラウラと見抜ける人間は恐らくいないだろう。

 

「別に変じゃないから出て来てもいいんじゃない?」

「い、いや、やはりこういうのは……」

 

 シャルロットが声を掛けると、謎の生命体からは確かにラウラの声が。

 だが普段とは違い、どこか自信がなさそうな声色だ。キリッとした雰囲気で堂々としたアイツのイメージからは程遠い。

 

「大丈夫だってば。それに早くしないと、一夏が鈴に取られたままでいいの?」

「ぐ……ええい、分かった! 取ればいいんだろう!」

 

 シャルロットの説得でようやくラウラがバスタオルを脱ぎ捨てる。

 

「……笑いたければ笑え」

 

 不安そうに睨んでくるラウラの水着は、コイツの愛機と同様に黒を基調としたものだ。暗い紫のレースをあしらっており、露出度の高さからも水着というよりもランジェリーのようにも思える。

 ラウラは鈴みたく凹凸の少な──良く言えばスレンダーな体型をしているのだが、水着を着こなしているおかげで大人の色気というものを醸し出しているように感じられた。

 

「全然変じゃないよ。ね、凌斗」

「似合ってるじゃないか」

「ふ、ふん。口だけでなら何とでも言える」

 

 照れ隠しのつもりか、素直に賞賛を受け取らない。まぁ、ラウラが欲しいのは俺のではなく一夏からの褒め言葉だしな。

 

「それじゃ、一夏呼んでくるね」

「お、おい!? 待てシャルロット! 私にも心の準備が!」

 

 ラウラの制止を無視して、シャルロットは鈴と競争してる一夏を呼びに行ってしまった。

 残された俺達に、奇妙な空気が流れる。

 

「そういえば、こうしてお前と話すのもあの時以来だな」

「……そうだな」

 

 先日の大会、そしてVTシステム騒動以降、俺とラウラは二人きりで話す機会はなかった。ラウラは一夏に惚れ込んでいたようだし、俺も特に用事はなかったしな。

 

「あの時は、済まなかったな。お前の言う通り、私はまだまだ弱かった」

 

 話しかけてきたラウラの表情は何処かスッキリしているようにも見えた。固執していた何かが剥がれ落ち、代わりに新しい「ラウラ・ボーデヴィッヒ」という存在になり始めている。

 ああ、コイツも自分自身(アイデンティティ)を見つけられたのか。

 

「そう気付けただけでも、お前はまだまだ成長出来るということだ。よかったな」

 

 全く、羨ましい。

 やはり俺だけが立ち止まったままだ。ドイツもコイツも先に進んでいってしまう。

 

「ね、一夏。ラウラの水着、似合ってるでしょ?」

「ああ。可愛いと思うぞ」

「か、かわっ!?」

 

 そこへ、シャルロットが一夏を連れてきた。鈴は……何やら何処かへ走り去っていく様子が見える。一夏め、また何かやらかしたのか?

 一夏の飾り気のない褒め言葉に、ラウラは一瞬で顔を真っ赤にしてしまった。

 

「あれ? 凌斗、どうしたの? なんか不機嫌そうだけど」

「……何でもない」

 

 

◇◆◇

 

 

 夕食後、一夏が織斑先生に呼ばれたので一人で筋トレでもしていると、ドアの前で何やら騒がしい声が聞こえてきた。どうやら箒達が織斑先生の部屋の前で聞き耳を立てている様子だ。

 ここの旅館、やや古いせいか大声でも出せば向かいの部屋まで聞こえてくるくらい防音設備が整っていない。ドアに耳でもつければ中の会話など簡単に聞けるだろう。

 

「へぶっ!?」

 

 しかし、すぐに女子があげるものではない悲鳴が漏れる。相手はあの織斑先生だ。中の声が外にも聞こえるということは逆もまたしかり。

 

「今のは箒と鈴、セシリアか……ご臨終だな」

 

 どうなるかは考えたくもない。俺は聞かなかったことにして腕立て伏せを再開させる。はて、今何回目だったっけか。

 

「おーい、凌斗。今から風呂に行くけどお前はどうする?」

 

 用事が終わったのか、一夏が部屋に戻って来る。よく見ると、部屋に呼び出されたはずなのに汗を搔いている。何をしてたんだコイツは。

 

「……そうだな。俺も行く」

 

 かく言う俺も汗まみれになっていたので、風呂に行くことには賛成だ。

 換気の為に窓を開け、俺は着替えとタオルを手に持った。

 

「で、何の用事だったんだ?」

「ああ、マッサージしてくれって千冬姉に頼まれたんだ」

「ほう。上手いのか?」

「まぁそれなりにな」

 

 コイツの特技はどうしてこう、妙に家庭的というか……。

 

「凌斗にもしてやるよ」

「考えておく。ところで、セシリア達はどうなった?」

「多分大丈夫だと思うけどな……くつろげもしないだろうけど」

 

 一夏の様子から、そこまでキツい折檻を受けているという訳ではなさそうだ。

 ただ、織斑先生の部屋だ。弟の一夏以外からすれば、ライオンの檻にでも入れられるようなものだろう。そこでくつろげなんて、一夏も無茶振りが過ぎる。

 そんな会話をしている内に大浴場に到着。旅館というだけあって、IS学園に負けず劣らずの広さだ。そして何よりも、露天風呂がある。

 

「いやー、露天風呂も中々乙なものだよなー」

 

 夕食前に入りに行ったと思ったが、一夏は頭にタオルを乗せてご満悦のようだった。

 特技に反し、趣味はなにかと爺臭い奴だ。

 

「い──」

 

 俺は口を開きかけて、頭にお湯を被った。

 

 今、何を聞こうとした?

 お前から見て、俺は強くなっているか?

 初めてお前と戦った時から進んでいるか?

 

「ん? 呼んだか?」

 

 能天気に一夏が聞いてくる。

 クラス対抗戦では鈴に勝ち、学年別トーナメントではVTシステムに呑まれたラウラを救った。

 そのどちらも直に見ることはなかったが、結果だけ見れば一夏は随分と成長しているように思える。それに比べ、俺はどうだ?

 

「──何でもない」

 

 もう負けられない。これから先、何が立ち塞がろうとも。

 ふと、水面に映る自分の顔が揺らぐ。それはまだ何者にもなれない()を的確に表しているようだった。

 

 

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