酷く曇った灰色の空。
厚い雲の下では、今日も人々が忙しなく行き交う。
残業続きで疲れ切った顔のサラリーマン、友人達と駄弁る女子中学生、子を保育園に預けてパートへ向かう母親。
その群衆の中に「俺」はいた。
学生服を身に纏い、無表情なままスマホのニュースを眺める。
不自由なものは特にない。金持ちということではないが衣食住に困らず、一般的な生活を続けられる。こうしてスマホを使ったり、家にはパソコンやゲームだってある。
両親からは愛されている……んだろう。最近は家で顔を合わせることも少なく特に会話らしい会話もしていないが、虐待やネグレクトという目にも合わない。
よく漫画やラノベで語られるようなキャラクターの環境と比べれば十分幸せな方なんだろう。
だからこそ、「俺」は特に何も考えずに生きてきた。
退屈に慣れ切った「俺」はレールの上で流されることを良しとした。その方が頭を使わずに済んで楽だし、事件に巻き込まれることもない。傷付くことも、傷付けられることもない。
別に今日明日に死ぬわけでもあるまいし。
ああ、ここで「俺」が何をしなくとも世界はゆっくりと回り続けるのだ。無理に何かになる必要なんてなかったんだ。
「…………?」
ベチャ、と目の前で赤い果実が落ちる。衝撃で潰れて傷んだ部分はあるが、それ以外はまだ食べられそうだ。
誰かが落としたのだろうか。勿体ないとは思うが、拾おうとは思わない。どうせこれはゴミになり、虫の餌にでもなるだけだ。
「俺」は落ちたリンゴを一瞥して、そのまま通り過ぎた。
◇◆◇
「凌斗さん!? 凌斗さん!」
シアン・バロンのシグナルがロストし、セシリアが必死に呼びかける。
だが、反応は帰ってこない。海上でセンサーから消失したということは、凌斗自身も海の藻屑と消えたことと同義なのだ。
それでも、凌斗の死を受け入れられないセシリアは何度でも呼びかけた。
「返事をしてください! 凌斗さん!」
そこへ、銀の福音の射撃が邪魔をする。
背中にある巨大な翼。スラスターの役割も果たしているそれこそが福音の主武装である。展開した装甲の中には砲口がいくつもあり、高密度のエネルギー弾が一斉に放たれる。
まるで羽根を撒いて飛翔する銀色の天使のようだが、見た目とは裏腹に相当危険な武装であった。
「くっ!」
急旋回して躱すセシリアだが、エネルギー弾は自動で追尾してくる。おまけに、触れれば爆発するという厄介な代物でもある。
通常時のブルー・ティアーズならビットの射撃で掻き消せるが、今は高機動パッケージ"ストライク・ガンナー"のスラスターとなっているため使えない。
「このぉっ!」
飛行し続ける福音を箒の二刀流が攻める。加えて腕の装甲が開き、エネルギー刃を自動で射出する。
鍛え上げられた剣の実力と展開装甲による自在な戦法に、飛び回り続けていた銀の福音もついに防御姿勢を取った。
「よし!」
僅かに出来た隙を狙って、一夏が零落白夜の特攻を仕掛けようとする。しかし、福音は高い機械音と共にスラスターの砲口を全て開いた。
視認出来る全ての敵への一斉掃射。その光弾の雨を三機は回避していく。
「だが、行ける! 私の紅椿ならっ!」
躱し切った箒が福音を再び押さえつける。これでまた隙が出来た。
この時、箒の思考に僅かな驕りが生まれていた。
目の前の敵は大したことがないのではないか。
相手は第三世代。第四世代の紅椿の敵ではない。
このまま、自分が倒してしまえば、きっと
「私なら、コイツにっ!」
欲に目が眩んだ箒は押さえておいた二本の刀"
紅椿の機動性ならば、例え福音が逃げようとしてもすぐに追い付ける。いくら引き離されようと、間合いを詰めながら箒は福音を追い詰めていった。
「深追いするな! あとは俺がやる!」
「任せて置け一夏! この程度の敵、私が!」
作戦のことすらも忘れ、箒は与えられた力を楽しむ。心配が現実のものとなり、一夏はこれ以上余計なことが起きないよう福音を仕留めに行く。
が、ツケはすぐに回ってきた。
「なっ!?」
福音がせめてもの反撃に箒の手から刀を叩き落とす。落ちた雨月は海に吸われることなく、空中で粒子となって消えた。
続いて箒が握っている空裂も光の粒子となる。これは、
長距離の音速飛行に加え、高機動による猛攻。いかに第四世代のISとはいえ、エネルギーの消耗が激し過ぎたのだ。
「箒っ!」
エネルギー切れのISの装甲は脆い。そして、今はIS学園の訓練ではなく実戦だ。
あの弾丸の雨を受ければ一溜まりもない。
「あ――」
容赦のない光弾が炸裂し、青空に似合わない爆煙が上がる。
紅椿はまだ健在だった。攻撃を浴びたと思った箒は、敵の攻撃ではない何かに包まれていることに気付く。
「あ、ああ……」
光弾を受ける寸前で一夏が割って入り、箒を庇うように抱き締めていたのだ。
しかし、一夏のダメージは無視出来ないほど大きかった。箒側からは見えないが、白式のアーマーは無残にも破壊され、背中は熱で焼け焦げていた。
「い、一夏ぁぁぁぁぁぁぁっ!!」
箒の叫びが空に木霊する。
一夏は箒が無事なことを確認すると、がくりと気を失った。
しかし、福音は未だ健在である。すぐにウイングスラスターから次の攻撃が繰り出されようとする。
「一夏さん! 箒さん!」
福音の背中を一発のレーザーが焼く。
一瞬バランスを崩したことで発射タイミングがズレてしまった。その隙を狙い、セシリアは箒と一夏を掴んでその場から一気に離脱した。
「セシリア!? 一夏が、一夏が!」
「今は逃げることを考えなさい!」
自分のせいで一夏が瀕死になり、戦意を喪失した箒をセシリアが一喝する。
音速飛行で逃げる敵を、福音も追う気はないようだ。最も、エネルギー効率面を機械が考えて出した結論ではあるが。
(凌斗さん……!)
最後まで反応が返ってこなかった凌斗を思い、セシリアは目に涙を浮かべる。
本当ならば沈んだ場所に向かって助けに行きたい。
だが、今一夏と箒を運んで逃げられるのはセシリアだけである。その自分が、仲間を見捨てて意中の男を探しに行くことは出来ない。
(後で必ず、探しに行きますから!)
女の涙も、一人の男も深く飲み込んだ青い海は、変わらず穏やかに水平線を揺らしていた。
遠い海岸線を見つめる束。その表情は普段のにこやかさとは裏腹に、何処かつまらなそうに冷めている。
「あんな出来損ないに負けるなんて拍子抜けだなー」
誰かに話しかけるかのように呟くが、この場にいるのは束ただ一人。
海に沈んだ凌斗への言葉だったが、答えるのは波の音だけだった。
「所詮、イレギュラーって言ってもただの人間。相手にする価値すらなかったなぁ。まぁ、死んじゃったしもうどうでもいいか」
黒いシアン・バロン――"ゴーレムⅡ"に敗れた凌斗に対し、一つ一つ文句を言う束。
期待外れもいいとこであり、不満が爆発しそうだったがすぐに切り替える。
「いっくん、生きてるかな?」
◇◆◇
「見ろ。あれがお前の転生前の姿だ」
死んだ魚のような目で歩き続ける「俺」を、後ろで俺と黒いローブ姿の神が見ている。
そうだ、あんなに退屈そうな人生を歩んでいたのが過去の俺だった。代わり映えのない日常は、あの事故の瞬間までは不変のものだった。
「今のお前じゃ考えられない程のつまらん人生。だが、今みたいに傷付くことも悩むこともなく楽に生きることが出来る」
あの「俺」の生活が灰色だとしたら、蒼騎凌斗として生まれ変わってからの生活は間違いなく色鮮やかだった。
しかし、その分苦労も多かった。自己の為、強くなるために頭を働かせ、戦いの中で幾度となく危険に晒された。
その挙げ句の果てが――。
「結局、俺は何者にもなれずに死んだのか」
自分自身に殺られる、憐れな末路だった。転生したところで、俺が得たものは何もなかったのだ。
俺に、蒼騎凌斗の人生に意味はあったのか。もうそれすらも分からない。
ふと、「俺」のそばを誰かが通りすがる。
従者を従えて、周囲に尊敬されながら我が道を進むイギリス人の令嬢。
両親に可愛がられ、甘えながら旅行を楽しむフランス人の少女。
歳の近い姉と仲良くウィンドウショッピングをする、眼鏡をかけた日本人の女子。
知っていたはずの人物達の、あり得たかもしれない現実。だが、そこに「俺」の入り込む余地はない。
横を通り過ぎるだけで、あの眩しすぎる彼女等の一部にはなれない。
「そうだな。そんなお前に最後のチャンスをやろう」
呆然と眺めていた俺に、神が肩を叩いて囁く。
そして、真っ黒なローブから覗く細い指で、黙々と歩き続ける「俺」を差した。
「お前を元の生活に戻してやろう。あの平凡でつまらなく、安全な人生に。ここで起きたことを夢のように綺麗さっぱり忘れてな」
「……何?」
本来の暮らしに戻れるのか?
このまま蒼騎凌斗であることをやめれば、あの灰色の人生を元通り続けられる。
「お前は生まれ変わっても、アイデンティティを見出すことも出来なかった。なら退屈な人間のまま死んでいく方がいいんじゃないか?」
……ああ、その通りだった。
何も為せなかった。自分を証明できるものも残せなかった。俺の居場所なんて、元々なかったんだ。
それなら、流されるままに生きていた頃に戻ってもいいんじゃあないか。それが本来の俺自身の人生だったのだから。
「俺は」
◇◆◇
『作戦は失敗だ。以降、状況に変化があれば招集する。それまでは現状待機だ』
戻ってきたセシリア達を迎えたのは、千冬の事務的な言葉だった。
千冬はボロボロになった一夏の手当てを他の教師に任せ、作戦室に戻ろうとする。セシリアがそれを引き留めた。
「待ってください。凌斗さんはまだ見つかってません」
「……蒼騎を探している時間はない」
「ですが!」
「話は以上だ」
千冬はそれ以上聞く耳を持たず、作戦室の戸を閉めた。
後に残されたのはセシリアと箒のみ。
「私は……結局何も変わらないのだな」
箒は自嘲的に呟く。
憂さ晴らしで力を振るった時のように、今度も優越感に浸り驕り昂ったまま力に浸った。
しかも、その所為で恋い焦がれた人を死に目に追いやってしまったのだ。
「……何処へ行く」
そんな箒とは逆に、セシリアは踵を返して表に出ようとする。
「決まってます。凌斗さんを探しに行きますわ」
「待機だと言われただろう」
「待機中にどうしろとは言われてません」
覇気を失った箒とは違い、セシリアの瞳には落胆も絶望もなかった。
あるのは凌斗の生存を信じ、助けて見せるという意思のみ。
「箒さんこそ、このまま終わってもよろしくて?」
「私は……」
意気消沈したままの箒をキツく見据え、セシリアはハッキリと言葉を発する。
「あなたにとっての強さは何ですの? 貸し借りの出来るただの道具? それとも欲しいものを手に入れるだけの手段?」
「そ、それは……」
「以前、凌斗さんにそう言われてましたわね」
学年別トーナメントにおいて、箒が凌斗にペアを組むよう頼んだ際に言われたことを今度はセシリアに投げかけられる。
あの時、保健室にいたセシリアにも聞かれていたようだ。
「姉である篠ノ之博士に頼んで、そうまでして手に入れた力で何がしたかったんです? こんな無様な思いをするため?」
「違う! 私は……」
「……どうするかはあなたの勝手。ですが、わたくしの邪魔はしないでくださる?」
厳しい言葉を残し、セシリアはその場を後にする。呆然としたままの箒は虚ろな表情で一夏の眠る部屋へ歩を進めた。
ふと、セシリアが廊下の角を見ると、鈴音が壁に背を預けたまま一部始終を聞いていた。
「あと、お任せしてもよろしいかしら?」
「はぁー、しょうがないわね。シャルロットと簪が探してるから、必ず拾ってきなさいよ?」
「ええ、勿論ですわ」
箒を鈴音に任せ、セシリアは浜へと走っていく。
あの普段から強気で、鈍感で、戦うこととリンゴしか考えていない偏屈な男がそう簡単に死ぬわけがないと信じて。
◇◆◇
「な、に……?」
口を開きかけた瞬間、背中や腕を引っ張られる感覚が襲った。
気が付くと俺の意識は生前の「俺」の中にあり、服の後ろを掴んでいたのは三人の女だった。
セシリア・オルコット。険悪な出会いから始まり、最初に相部屋となって、俺が初めてISの実戦をした相手。プライドの高い性格は相変わらずだが、態度は徐々に軟化していき、今では肩を並べて戦えるまで信頼出来るようになった。
シャルロット・デュノア。素性を偽ってまで学園に忍び込み、正体を知った俺の怒りを買った女。だが、自分自身と向き合い、己の本当にしたいことを告げて成長した。今では、良き好敵手だ。
更識簪。未完成の専用機を自分の力だけで組み立てようとしていた、無口な少女。最初は戦いたい一心で手伝ったのだが、何でも出来る姉への反骨心の強さに感銘を受け、完成した後でも交流が続いている。
「凌斗さん」
「凌斗」
「……凌斗」
三人とも、
「お、俺は……」
「蒼騎凌斗さん、ですわ」
「僕達と関わって、変えてくれた蒼騎凌斗はただ一人だよ」
「貴方、だけ」
セシリア、シャルロット、簪は俺をじっと見つめてあるものを差し出してきた。
さっき道に落ちた、赤い果実。生前の「俺」にはただの食べ物でしかないが、今の俺にとっては特別なもの。
「……は、はは」
口からは笑い声が込み上げてくるが、目からは涙が零れ落ちた。
確かに
他の誰でもない――生前の「俺」でも現世の記憶を取り戻す前の蒼騎凌斗でもない――俺自身があのIS学園に存在したんだ。
目の前にいる3人や一夏、箒、鈴、ラウラ達と過ごした日常は紛れもなく俺だけのものだったんだ。
「否定出来るはずもなかった」
一口、リンゴを齧る。
苦い敗北の味が口の中に広がる。
「負けの数なんて関係なかった」
二口目を喰らう。
酸っぱさは、苦しみと怒りの記憶を蘇らせる。
「今は弱くても、前に進み続ける力こそ俺の強さ!」
三口目を貪る。
その甘さは、勝利の美酒と呼ぶに相応しい。
「全てを含めて俺自身だったんだ。退屈な時間も、敗け続けた日々も、全てを乗り越えていける。それこそあの世界、あの場所にいた唯一無二の
右耳のカフスを触る。俺が手に入れた、自分を証明する為の力。
前世の学生の姿から元の"蒼騎凌斗"の姿に戻った俺は、シアン・バロンを展開した。蒼いISは光を放ち、薄暗い光景を吹き飛ばしていく。
「ほう」
重苦しい灰色から白く神々しい空間に変わっていき、黒フードの神が感心した風な声を漏らす。
セシリア達も光に消えて、この場には俺と神しかいない。あれはなんだったのだろうか。
いや、それよりも俺にはやることがある。
「あの自分に戻りたくない、というのは嘘になる」
俺は神に向かい合い、口を開く。
元はと言えば、この神が俺を殺さなければ何事もなくあの生活を送れたのだ。未練が全くないという訳じゃない。
「だが、俺にはやり残したことがある。今の世界で最強になり、世界に俺の名前を刻みつける。そして――」
セシリア、シャルロット、簪。あいつらの下に帰りたいと思う自分がいる。
それだけでも、どちらの世界を選ぶかなんて明白だ。
「……なら、もう一度問おう。お前は誰だ?」
最初に神に問われた質問。それをもう一度問いかけられる。
さっきまでの俺ならば、また答えられなかっただろう。果たして俺は前世と現世、どちらの人格なのか。はたまた、全く別の誰かなのか。
だが、今の俺はハッキリと答えられる。
前世も、現世に生まれた俺の前身も、全てを含めた上で俺はここにいるんだ。
「俺は、
それまで、こんなところで死んでたまるか!
俺の模造品に負けたまま終われるか!
「クッ、ハハハハハハッ! まぁ合格にしてやろう!」
神は高笑いしながら手をかざす。すると、俺の背後に巨大な扉が現れる。
ここから自分で戻れ、ということなのだろうか。
「迷いがなくなった以上、お前はここにはもう来れないだろう。完全に死ぬまではな」
神に課された課題をクリアした、ということでコイツに会うのもこれが最後になるらしい。そう何度も死にかけるのもどうかとは思うが……。
っと、戻る前にこの神には聞きたいことがあったんだ。
「待て。いくつか質問に答えろ」
「……いいだろう」
神はかざした手をそのままに、ゆっくりと頷いた。
「俺は何故ISを扱える? 転生者だからか?」
「ああ。お前の魂が世界線を超えて入り込んだ時に生まれた小さいバグの影響だ」
一つ目の疑問に神はあっさりと答える。
束の関係者である一夏はともかく、特別な生まれでもない俺がISを動かせた理由。それは世界線によるバグのようなものらしい。
なんだ、コイツに与えられた力じゃないのか。
「なら二つ目だ。篠ノ之束。アイツも、転生者か?」
俺の次の疑問は、世紀の天災について。
俺に偽物をぶつけたのは十中八九あの女だ。あの偽物の前にも、IS学園を襲撃した無人機を作ったのはISの生みの親である篠ノ之束で間違いない。そして、俺を知っていたかのような素振り。怪しむなという方が無理な話だ。
そもそも、あの異常なまでの天才ぶり。この世のものとは思えなかったが、もしも目の前にいる神の手が入っていたとしたら?
「いいや、違う」
しかし、神は首を横に振った。
「篠ノ之束は、所謂あの世界が独自に溜め込んだバグの影響でああなった、お前とは別の意味での"
神の回答に俺は目を見開く。
転生者ではないにしても、あのハイスペックぶりも世界の異常が招いた結果か。
「最後だ。何故俺を選んだ?」
「ハッ! 大した理由はないさ。別に退屈しのぎが出来れば誰を殺して生き返らせてもよかった」
神は最後の質問に対し鼻で笑い飛ばす。
「ただ、強いて言うなら――お前が一番つまらなそうに生きていたからだ」
「そうか」
不思議と怒りは湧いてこなかった。
多分、心の何処かで退屈さを疎ましく思っていたのかもしれない。そして、この神様も退屈さを嫌っていた。だから俺が選ばれたのだろう。
「いい暇潰しになってくれ。神様ってのも退屈なんだ」
「ふん。精々そこで楽しんでろ。俺の生き様を」
捨て台詞を吐き、俺は扉の向こうへと飛び立った。
雲を突き抜けて何処までも飛び続けていく。
この力と共に、俺は上へと目指していく。
それこそ、蒼騎凌斗の真の人生なのだ──。
◇◆◇
微睡む意識の中に、波の音だけが入り込んでくる。
次に感じたのは身体を揺らす水の動き。
「……ぅぐ……」
気が付くと、俺は何処かの浜辺に打ち上げられていた。
ISスーツのままだからかとても寒い。
「俺、は……」
まだ死ねない。死んでたまるか。
至る所が痛む身体を動かし、浜から起き上がる。
口の中が塩辛い。海水をどれくらい飲み込んだのかも分からない。けど、まだ生きている。
「戻るんだ……俺の、居場所に……」
無意識に右手を伸ばし、フラフラと歩き出す。
歩みを止める訳にはいかない。今は、一刻も早くあいつらのいるところへ戻りたかった。
「俺自身を、見つけたんだ……!」
体力が尽き、足が躓く。俺は再び浜に倒れ込んだと思った。
だが、伸ばしていた右腕を掴まれ、身体が地に着くことはなかった。
「俺は……」
ぼやけた視界に映るのはロングスカートと細い腕。
ああ、漸く戻ってこれたんだ。それだけを感じ取って、俺はまた意識を手放した。