IS学園での生活が始まって二日目。
俺は食堂で憂鬱な雰囲気を纏わせながら朝食を取っていた。
「どうした、凌斗? 朝からそんな暗い表情で」
すると、俺とは逆に呑気な雰囲気の一夏が和食セットを持ってやってきた。後ろには、箒も連れている。
因みに俺は洋食セットだ。流石に三食全部リンゴだけだと飽きるしな。
「あぁ……相部屋で少し問題があってな……」
「そ、そうか」
思い出すだけでも頭を抱えたくなる。
一夏も思い当たるようで、箒の顔色を伺いながら引き攣った笑いを浮かべていた。
そして、当の箒は依然不機嫌そうな表情で一夏を睨んでいる。お前は昨日、何をしたんだ。
「いや、俺は箒と同じ部屋になってさ……」
「知っている。あれだけの騒ぎを起こしておいて今更だ」
既に1年生の間では、一夏の部屋番号と相部屋の相手は知れ渡っている。
俺が織斑先生との交渉に失敗した後、一夏と箒が一騒動を起こしたのだ。全く、ドアまで破壊しておいて隠すも何もないが。
「そういうお前は?」
「……セシリア・オルコット」
「……生きろ」
相手の名前をボソッとつぶやくと、一夏は同情の眼差しを向けながら肩を叩いてきた。余計なお世話だ。
ふと、別の席で朝食を取っているセシリア・オルコットに視線を向けると、こちらをジッと睨んで、すぐに視線を逸らしていた。嫌われたものだ。
◇◆◇
話は昨日まで遡る。
セシリア・オルコットが落ち着いてから、今後のことについて話し合うことにした。
シャワーの使用時間、私物の置き場、着替え等。この辺は俺としても決めておかないと、知らない内に犯罪者扱いはゴメンだからな。
「で、では、シャワーはわたくしが七時から八時。あなたが八時から九時ということでよろしくて?」
「ああ」
「ベッドと机はあなたが窓側。キャビネットはわたくしはここからここまで。あなたはその一角を使うということで。よろしくて?」
「ああ」
「……やけに素直ですわね。まさか適当に聞き流しているのではなくて?」
「譲歩してるつもりなんだが?」
俺は基本的に荷物も少なく、部屋についての要望もない。逆に、金持ちのお嬢様となると、その辺で気になるところとかが多いのだろう。服とか、化粧品とか。
「……で、ではそのように」
「あ、そうだ。冷蔵庫は?」
「冷蔵庫? わたくしは飲料水以外は特に入れませんが……ひょっとして、リンゴですの?」
「当然だ。いつまでも外に放置してたら腐るだろ」
今は最低限の荷物しか持っていないが、その内自宅から大量のリンゴを送らせる予定だ。
寝床とシャワーとリンゴ。後は筋トレ用と勉強用の道具さえあれば俺は別にどこで暮らすことになっても構わない。
「呆れましたわ。そこまでリンゴがお好きなんて」
「貴様にはやらん」
「いりません」
セシリア・オルコットは深い溜息を吐いて、椅子に座ると教科書を広げ始めた。
「……勉強か?」
「放っておいてくださいまし。気が散りますわ」
「そうかよ」
ツンツンした態度は相変わらずで、俺のことなど視界に入れたくもないらしい。ヘッドフォンを付けて声まで遮ろうとする始末だ。
まぁ、私生活では下手に関わってくれない方がこちらとしてもありがたい。
「……フン」
俺は俺で、筋トレでもするか。
勉強も大事だが、強くなるには肉体も鍛えるべきだ。ISを動かせるようになる前からの習慣だが、力を手に入れてからはより励むようになった。
「……ん?」
鞄に入れていたペットボトルをダンベル代わりにしようと思ったのだが、肝心の鞄が2つ並んでいる。
これではどちらが俺の鞄か分からん。
「セシリア。おい、セシリア・オルコット」
「話し掛けないでくださる? 猿の臭いが部屋に充満しますので」
セシリア・オルコットに聞こうとしても、俺の言葉を聞こうともしない。それはアレか? 俺に呼吸するなと?
……仕方ない。両方の鞄を持ち、重い方を開けることにした。俺の鞄にはリンゴが入ってるし、普通よりも重くなっているはずだ。
「よっ。右、か」
右の鞄を開ける。すると、まず目に入ったのは──黒い布地の何か。
「左だな」
今の俺は織斑先生の出席簿攻撃を避けられるほどのスピードが出せたと思う。
瞬間的に右の鞄を閉じ、左の鞄を開けた。中から出て来たのは赤いリンゴだ。
「やれやれだ」
自分の鞄をベッドに運んで、筋トレを始めた。
互いに気を付けていてもこの有り様だ。全く、注意を払わないとな。
◇◆◇
「それから、テレビはわたくし優先ですわだの、リンゴを食べる音がうるさいだの、何をするか分からないから腕を縛って寝てくださるだの……」
「大変だな」
気に食わなければ指をさして指摘しやがる。流石の俺も、行動の一々を封じられればストレスも溜まるぞ。
嫌なら出ていけ? 廊下で寝ろ? それやったら日本政府から何を言われるやら。
「お前は昔馴染が同室だろう? 気を無駄に張り詰めなくていいから楽だな」
「そうでもないぞ。昨日なんて箒のブラ」
「ふん!」
一夏が余計なことを言おうとしたからか、箒のチョップが一夏の脳天に刺さった。
いや、今の文脈から想定するとお前が悪い。
「いてて……箒、まだ怒ってるのかよ」
「怒ってなどいない」
「顔が不機嫌そうじゃん」
「生まれつきだ」
男に対して頑なな態度を取るのは最近の女子のトレンドなのか?
箒と一夏のやり取りを横目で見つつ、俺はサクサクにトーストされた食パンを頬張った。ん、朝はやはりトーストとコーヒーに限る。
「あ、蒼騎君。私達も隣いいかなっ?」
「ん?」
そこへ、今度はトレーを持った女子三人組がこちらへ話しかけてきた。少し緊張しているらしく、俺の反応を待ちわびている。
「ああ、構わないぞ。一夏もいいだろう?」
「別にいいけど」
断る理由もない。
俺と一夏が許可すると、訪ねてきた女子は安堵のため息をつき、後ろの二人は小さくガッツポーズをした。そこまで喜ぶことか?
かと思えば、周囲ではざわざわと小さく騒ぐ声も。
「ああっ、私も早く声かけておけばよかった……」
「まだ……まだ二日目。大丈夫、まだ焦る段階じゃないわ」
「織斑君なんて、昨日の内に部屋に押し掛けた子もいるって話だよー」
「何ですって!?」
あぁ……騒がしい。噂好きも大概にして欲しいものだ。
聞かなかったことにすると、隣に座った女子達から質問が飛んできた。
「織斑君って、篠ノ之さんと仲がいいの?」
「お、同じ部屋だって聞いたけど……」
「ああ、まぁ、幼馴染だし」
幼馴染というワードに、周囲は更にどよめく。
そこまで幼馴染がいたことにショックだったのか?
「じゃあ、蒼騎君は……」
「昨日、一夏を通じて知り合った程度だが」
「そ、そっか」
俺達の回答ごとに周囲も一喜一憂している様子で、中には「よかったー」などどいう声まで聞こえてくる。
……最早何も言うまい。
「え、それじゃあ──」
「いつまで食べている! 食事は迅速に効率よく取れ! 遅刻したらグラウンド十週させるぞ!」
また別の質問が飛んでくる、というところで織斑先生の叱咤が食堂内に響き渡った。
途端、全員が慌てて食事に戻った。そうだ、IS学園のグラウンドは一周が5kmもあるんだった。それを十週ともなれば、50kmは走らされることになる。
普通ならば脅しの範疇なのだろうが、相手は鬼教師、織斑千冬。有言は必ず実行するだろう。
「話の続きはまた今度だ」
俺は残っていたコーヒーを飲み干して、一足先に食器を片付けた。
◇◆◇
「これより、再来週行われるクラス対抗戦に出る代表者を決める。クラス代表者とは対抗戦だけでなく、生徒会の会議や委員会への出席など……まぁ、クラス長と考えてもらっていい。自薦他薦は問わない。誰かいないか?」
授業が始まるかと思いきや、織斑先生はそんなことを聞いてきた。
クラス対抗戦は、1年生は今の段階でほぼ差がない。つまり、代表者は誰が選ばれてもいいということだ。
その代表者はいわばクラスの顔になる。だとすれば──。
「わたくし、イギリスの代表候補生であるセシリア・オルコットが自ら立候補致しますわ!」
まず目立ちたがり屋のエリート様が出て来る。プライドの塊のような女だ、自薦しない訳がない。
さて、俺も手を挙げ──。
「はいっ! 織斑君を推薦します!」
「私は蒼騎君がいいと思います!」
──まぁ、そうなるな。
世界中でも珍しい男性操縦者の、俺か一夏が推薦されるのも目に見えていた。
「では、候補者はセシリア・オルコット、織斑一夏と蒼騎凌斗。他にはいないか?」
「ちょ、ちょっと待った! 俺はそんなのやらな──」
「自薦他薦は問わないと言った。他薦されたものに拒否権などない。選ばれた以上は覚悟しろ」
一夏の訴えは速攻で棄却される。やりたくない、という軟弱な答えを許しそうにもないからな。……織斑先生、本当は軍教官なんじゃないのか?
かくいう俺は、代表者という立場にゾクゾクしていた。戦う場が増えるだけでなく、生徒会や委員会と言った場にも顔が利くようになる。ならば、これを見過ごすわけにも行かない。
手を上げる前に他薦されたので何も言わないがな。
「私は織斑君に一票!」
「蒼騎君がいいかなぁ。織斑君より勉強出来るっぽいし」
「千冬様の弟だよ? これからこれから!」
ちょっと待て、いつから投票制になった。
教室内では一夏か俺かで意見が段々割れていく。
「待ってください! 納得がいきませんわ!」
その時、一番最初に立候補したはずのセシリア・オルコットがバンッと机を叩いて立ち上がった。
そうだ、このプライドの高いお嬢様が男の代表なんて許すはずなかったな。それに、自分のことを忘れられて怒らないはずがない。
「先に立候補したわたくしを差し置いて、物珍しいからという理由での選出は認められません! 大体、軟弱な男がクラス代表だなんていい恥晒しですわ! わたくしにそのような屈辱を1年間味わえとおっしゃるのですか!?」
ほう、俺がクラス代表になれば、コイツは1年も屈辱を味わってくれるのか。ならば、是が非でもならんとな。
屈辱に顔を歪ませた奴の顔を思い浮かべる俺を余所に、セシリア・オルコットの演説は続く。
「実力から言えば、代表候補生であるわたくしがクラス代表になるのが必然。それを物珍しいからという理由で極東の猿達にされては困ります! わたくしはこのような島国までIS技術の修練に来ているのであって、サーカスをする気は毛頭ありませんわ!」
サーカスをする気はない、か。
「自分がピエロになりかけてるのに、よく言うな」
「な、なんですって!?」
おっと、口に出てしまったか。
猿だ猿だと相手の力量も碌に図らずに見下す様は、ピエロに相応しい。
「いいですか!? 大体、あんな猿と同じ部屋で暮らさなくてはいけないこと自体、わたくしとしては耐えがたい苦痛で──」
「なら、俺はセシリア・オルコットを推薦する」
さり気なく俺と同室だってバラすなよ!
それはさておき、セシリア・オルコットの発言を遮って俺は高らかに宣言した。
「なっ!? ど、どういうつもりですの?」
「何、これで候補者全員が誰かからの推薦を受けたってだけだ。同じ条件でここに立っているのなら、決める方法は一つだろ?」
確かに、このままでは折角立候補したセシリア・オルコットには明らかに不公平だ。
そこでコイツには同じ土台に上がってきてもらうことにした。他薦された人間に拒否権はない、ということは不本意に降ろされる心配もない。
「さぁ、どうする? 猿達と同じ土台で、喧嘩でも始めるか?」
「……いいでしょう。決闘ですわ! 貴方達、二人に決闘を申し込みますわ!」
よりにもよって、見下されていた相手に勝負の場へ引きずり出されたお嬢様はプライドが勝手にズタズタになったのか、遂に俺達へ決闘を申し込んできた。
「いいだろう。ここで、貴様と決着を付けておこう」
「俺も!? ま、まぁ四の五の言うより分かりやすいけど」
ここまで呑気に話を聞くだけだった一夏も実は鬱憤が溜まっていたようで、セシリアとの決闘に応じる。
「言っておきますけど、わざと負けたりしたらわたくしの小間使い──いえ、奴隷にしますわよ」
「へぇ、じゃあお前が負けたら俺の奴隷だな」
よせばいいのに、余計なことをポンポン言うせいで自分の首を絞める。
そんなセシリア・オルコットが滑稽で、俺は怒るどころか笑いすら込み上げてきた。
「そうですわね……ハンデとして、お二人まとめて掛かってきても構いませんわよ」
「ん? いや、俺達の方がハンデつけた方がいいんじゃねーの?」
「ったく……」
ヒートアップする2人のバカさ加減に、俺だけが頭を抱えた。特に、一夏の無知ぶりは教室からはドッと爆笑が巻き起こるくらいだ。
「織斑君、それ本気で言ってるの?」
「男が女より強かったのって、大昔の話だよ?」
「織斑君と蒼騎君は確かにISを使えるかもしれないけど、それは言い過ぎだよー」
一夏がバカなのは、この期に及んで男が女よりも強いと思ってハンデを付けなきゃいけないんじゃないかと考えたこと。
そして、セシリア・オルコットがバカなのは女が優位でも俺達を侮ってハンデを付けようとしたこと。
「一対一ずつでいいだろ。ハンデなんぞいらん」
「えー、蒼騎君。それはそれで代表候補生を舐めすぎだよー」
「いや、別にいい」
たとえ代表候補生がどれだけ実力が上でも、奴のお高い鼻を盛大にへし折るには一対一の方がいい。
あと、一夏とタッグなんか組んだら間違いなく邪魔だ。
「さて、話はまとまったな。では、勝負は一週間後の月曜。放課後、第三アリーナで行う。織斑、蒼騎、オルコットの三名は準備をしておくように。それでは授業を始める」
ずっと黙っていた織斑先生が話をまとめ上げ、きっぱりと完結させた。
まさか、こうも早くセシリア・オルコットと戦う機会が来るとはな。自分のチャンスの恵まれ度合に鳥肌が立つぐらいだ。
そうと決まれば、俺もさっさと行動せねばなるまい。
◇◆◇
放課後、俺は生徒用のトレーニングルームの真ん中に立っていた。
「蒼騎君、本当にいいの?」
心配そうに尋ねて来るのは、赤茶系の髪をおさげにした女子。名前は確か、
「ああ。手加減なしで頼む」
「手加減って、私達も素人なんだけど……」
真剣に頼む俺に、黒いヘアピンを付けた黒髪の女子が引き攣った笑みを浮かべる。彼女は、
「じゃあ、いっくよ~」
最後に間延びしたピンク髪の女子、
俺は今朝の食堂で同席した女子三人組に頼み込んで、一対他の戦闘訓練に協力してもらっていた。
とはいえ、ISはコア数の限られた貴重なもの。訓練機でもおいそれと貸し出されるはずもなく、使用するのには書類申請してから一ヶ月は待たなくてはならないらしい。
当然、俺には悠長に待っている時間はない。ならば、せめて戦い方だけでも学んでおくべきだ。
「でもでも、なんで一対多数? オルコットさんとは一対一でしょ?」
癒子が尤もな質問を投げてきた。
普通は一対一を想定して、一人ずつと戦った方が良いのだろう。
「ISというのは飛行して、高速で移動しながら戦うんだろ? なら、周囲360度に注意を向けなくてはならない。普通の一対一では前しか気を使わないから、これぐらい相手がいた方がいい」
ISのハイパーセンサーは周囲全てを捕えることが出来るらしい。が、人間の目は基本的に前を見るように出来ている。いくら高感度なセンサーが付いたところですぐに360度見回して戦えというのは、酷な話だ。
だから、ここで周囲をよく見て、反射神経を身に付ける訓練をする。何処から来るか分からない攻撃に対し、いかに集中力を切らさないで対応出来るか。
「でも、素人の弾で訓練しても意味ないんじゃ」
「ようは状況に慣れることが目的だからいい。それに、ISは絶対防御とやらを持っている。避けきれなかったからといって、怪我はしないだろう」
「ま、まぁ蒼騎君がそう言うなら」
俺達が扱うことになるISには、操縦者を守る絶対防御と言うものがある。エネルギーを大幅に消費するものの、これによって宇宙での活動も安全に行える──はずらしい。だから、万が一この訓練が無駄でも心配はいらない。
癒子もさゆかも、イマイチ納得は出来ていなさそうだったが、とりあえず本音と同じように俺を狙う。
因みに、これは訓練用のモデルガン。少し痛いらしいが、大きな怪我は負わない……らしい。
「よし!」
一方、俺の武器は木の棒一本のみだ。
射撃はあまり得意じゃなくてな。使うISもデュノア社製の"ラファール・リヴァイヴ"より近接戦闘向けの"
「えーいっ」
目の前の本音が発砲する。が、撃った途端に銃口があらぬ方向を向いている。
結果、放たれたペイント弾は俺に当たることなく明後日の方角へと飛んでいった。
「ふっ!」
訓練とはいえ、これは戦い。すでに始まっているのだ。
俺は棒を振るって本音の持つ銃を弾き落とす。
「隙あり!」
俺の背後を癒子が狙う。
だが、俺は咄嗟に左へ転がったため、ペイント弾は俺の真ん前に立っていた本音に命中してしまう。
「ぎゃん!?」
「あっ、ごめん!」
「何処を見ている!」
シアン色のペイント塗れになった本音に謝る癒子。隙だらけになった彼女にも棒を振り、銃を弾く。
残りは一人。俺はすぐに振り向き、棒を構えようとする。
「えいっ! えいっ!」
最後に残ったさゆかが俺にペイント弾を連射する。棒でガードする俺だったが、二発だけ防ぎきれずに腕と肩を汚す。
軽く舌打ちしつつ、さゆかに近付いて銃を叩き落す。
「……まだまだだな」
ペイント弾の跡は洗えば落ちる。が、これがもし本番だったらこの汚れが俺の致命傷に繋がるかもしれない。
俺は棒に付いた汚れを振り払い、三人の中心に再び立つ。
「さ、次だ。頼むぞ」
「い、一回だけじゃないの!?」
「協力してくれたなら、学食のデザートを奢ろう」
「よーし!」
「じゃあ、がんばろ~!」
デザートで協力者達を釣りつつ、照準が不安定な銃弾を捌いていく。ステップを踏みながら躱し、避けられないものは棒で弾く。
こうした鍛錬を繰り返していく内に日が暮れ、気付けば動き回っていた俺以上に銃を乱射していた本音達の方がヘトヘトになっていた。
「も、もうだめ~……」
「流石、男の子だね……」
「体力が全然違う……」
座り込む癒子達の制服にも、流れ弾を受けたのか汚れが付いていた。
白い制服だから汚れが目立ちやすい。悪いことをしてしまったか……。
「いや、今日はここまでにしておこう。助かった、ありがとう」
かくいう俺も至る所に被弾していて、全身シアン塗料だらけだ。
肩で息をしながら、俺は疲れ切った3人に頭を下げた。こういう協力者を早々に得られたのは幸運だ。
一夏の奴は、上手くやっているのだろうか。
◇◆◇
大浴場へ行く本音達と別れ、俺も夕飯前にシャワーを浴びようと部屋へ戻る。
「あ、蒼騎君。こんな時間まで訓練ですか?」
その途中で、山田先生と鉢合わせる。書類を抱えていることころを見ると、先生はまだ仕事だったようだ。
「はい。そうだ、一つ聞きたいことがあったんです」
「なんですか? 勉強のことで分からないところでも?」
山田先生は大きな瞳を輝かせる。まるで先生として頼ってくださいとでも言いたげだ。まぁ、普段の先生は頼りないからな……。
けど、生憎と俺の質問は勉強のことではない。
「来週の代表決定戦で使う機体のことです」
セシリア・オルコットと戦うことが決まった後、俺はある問題と直面していた。
相手は専用機持ちのエリート。対する俺は訓練機で戦うのか。それでは分が悪すぎる。
「ああ、そのことでしたらちょっと待ってください。えっと……蒼騎君の専用機は土曜日の放課後に到着予定だそうです」
「……はい?」
山田先生は持っていた書類から一枚取り出し、見ながらさりげなくすごいことを答えてくれた。
俺が、専用機をもらえるのか?
「普通は国家の代表候補生か組織に所属する人しか専用機を持っていませんが、蒼騎君と織斑君は事情が事情なので特別に国から支援が出るそうです」
そうか……男性操縦者なんて、貴重なデータサンプルを採るまたとないチャンス。
特例で専用機を渡すのも当然といえば当然だ。
「そ、それで、どんな機体が来るんですか? 装備は?」
必死にニヤつきを押さえながら、山田先生に次の質問を聞く。
あぁ、恵まれすぎていて自分が怖い。
「それはまだ分からないんです。機密事項ですし、蒼騎君のISはイギリスの方で開発しているので」
……なんだと?
日本人である俺のISを、何故イギリスで作る必要が?
日本で有名な企業と言えば、打鉄を開発している倉持技研だ。あそこには第三世代も作れる技術があったはず。人手不足か、予算不足か。いずれにせよ、気分のいい話じゃない。
「日本の倉持技研は織斑君のISを製作するのに手一杯で、代わりにイギリスが支援を受け入れてくれたんです。日本も丁度財政難でしたし」
ああ、そういうことか。確かに、前例のない男性用ISを作るとなると今まで以上に手間がかかる。それを二機同時になんて、無理もいいところだ。
しかし、最初に発見された一夏の専用機を優先させるのはいいとして、俺の機体はイギリスか。一体どんな縁なんだか。
「あっ、も、もちろん、オルコットさんとの決闘のことは話していません」
「そうですか」
それなら安心だ。専用機とはいえ、データ取りの試験機の役割も持っている。同じ会社の機体となると、どちらかのデータを効率強く採るためにリミッターを付けられるかもしれない。
真剣勝負なのだから、部外者からの横槍は避けたいものだ。
「ありがとうございます」
「いえいえ。では、また明日」
礼を言うと、山田先生は笑顔で会釈して去っていった。
専用機か。俺の、俺だけの力。それがまもなく手に入る。
「……今夜は寝れそうにないな」
どうしようもない高揚感に襲われつつ、俺は帰路に就いた。ああ、土曜日が待ち遠しい。