IS ~Identity Seeker~   作:雲色の銀

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第5話 白の覚醒は蒼の待ちわびたものだったか

 セシリアとの戦闘を終えた俺は、一先ずシアン・バロンのエネルギー補給を済ませていた。

 紛失したスペリオルランサーも予備をインストールして、準備は万全の物となった。

 

「ISは自己修復出来ますし、装備も予備があります。でも、蒼騎君の体力はすぐには戻りませんから、気をつけてくださいね」

「はい」

 

 山田先生の忠告を聞き流して、俺は再びアリーナに出る。リンゴも食ったし、少しは休めたから大丈夫だ。

 因みに、セシリアはプライベートチャネルで部屋に戻ると言っていた。負けたことがショックだったのだろう。

 

「キャー! 蒼騎くーん!」

「こっち向いてー!」

 

 アリーナの客席からは、大きな歓声が沸き上がる。

 代表候補生に勝ってしまったのだ。観客からの人気も熱い。

 

「さぁ、来い。織斑一夏!」

 

 まぁ、別に人気が欲しくて戦っているのではないがな。

 俺は黄色い歓声を背に、対戦相手の名を呼ぶ。シアン・バロンのセンサーには、ピットゲートにたった今起動したISの反応が示されている。

 名前は"白式(びゃくしき)"。戦闘タイプは……俺と同じ近距離格闘型のようだ。

 

「待たせたな」

 

 少し経ってから、ピットより勢いよく飛び出してきたのは白──というより、灰色に近い色のISを身に纏った一夏だった。翼のような2つの巨大スラスター以外は、至ってシンプルな形をしている。

 ただ、機動性を重視した結果、曲線の多いデザインのシアン・バロンとは対照的に機械的な凹凸の目立つISだとは思った。

 

「それがお前のISか」

「ああ。白式だ」

 

 力を手にしたライバル候補を見て、俺はフッと笑みを零す。

 目の前の白い鎧武者が何処まで俺の強さのステージを上げてくれるのか、楽しみで仕方ないのだ。

 

「武器の出し方は、分かるな?」

「あ、ちょっと待て」

 

 俺もさっきまではそうだったが、相手はとりわけ初心者。せめてものハンデにと、初期操作には慣れさせてやる。箒には教えてもらえなかったらしいし。

 一夏は装備一覧を眺め、若干困惑した表情を浮かべながら一振りの刀を出した。

 

「近接ブレード……それがお前の武器か」

 

 剣道の練習をしておいてよかったな、と一夏に同情を含んだ視線を投げる俺だった。

 これで射撃型だったら目も当てられなかったぞ。

 

「行くぞ!」

「さぁ、来い!」

 

 剣を振ろうと向かってくる一夏に対し、俺はスペリオルランサーで受ける体勢を取った。まずは、奴の一撃がどれほど重かいのか確認したかったのだ。

 流石に剣を振る鍛錬を積まされていただけあって、何の変哲もない刀でも十分な威力を持っていることが分かった。

 

「一週間でこれとは、剣の才能があるんじゃないか?」

「言ってなかったか? 俺、子供の時にも剣道やってたんだぜっ!」

「それは初耳だっ!」

 

 経験者ならば、余計に一撃の重みに納得がいく。これならセシリアに勝てずとも、少しなら耐えられただろう。

 

「だが、その程度で俺を倒せると思ったか!」

 

 パワーの調べは済んだ。俺は防戦一方だった状況から一転させ、ランスを軽々と一夏に振った。

 一夏も負けじと近接ブレードで防ぐが、身のこなしは俺の方が上手のようで、ガードされたところから突き刺すことでシールドエネルギーを削っていく。

 

「隙が多い!」

「くっ!?」

 

 これは剣道ではない。ISバトルだ。

 空中で戦っている以上、剣道の踏み込みは何の役にも立たない。加えて、自身が振り慣れていない得物での戦闘だ。動作の隙が大きくなるのも当然と言えば当然である。

 そこを見逃してやるほど、俺も甘くはない。

 

「ははははっ! どうした! 攻めなければ、勝ちは狙えないぞ!」

 

 槍による猛攻のトドメに蹴りを入れ、一夏を向かいの壁まで吹っ飛ばす。

 いいぞ、この力。セシリア戦の時以上に、シアン・バロンが俺に馴染んでいく。

 

「この程度で終わってくれるなよ、一夏! 俺はまだこの力を使っていたいんだ!」

 

 気持ちいい。力を解放するこの快感は、俺の脳細胞を征服していく。

 だが、まだだ。まだ物足りない。もっと俺に自分の力を認識させてくれ!

 

「終わるわけ、ねぇだろ!」

 

 復活してきた一夏が俺に斬りかかって来る。

 そうこなくては! 喜々として、俺も一夏へと掛かって行った。

 蒼と白。二つの光はアリーナの中央でぶつかると、二重螺旋を描きながら場内を飛び回った。光が重なるごとに金属音が鳴り、花火のような衝撃は観客を大いに沸かせた。

 

「くっそぉぉぉぉっ!!」

「いいぞ一夏! 互いの最高の力でぶつかり合っている! この衝動、この熱気、たまらない!」

 

 ヒートアップした俺は高笑いしながら一夏に競り勝ち、奴を地面へと突き飛ばした。土埃が奴の体を覆うが、すぐに出てきて俺の眼前まで飛んできた。

 そして、もう一度鍔迫り合いになる。

 

「……が、やはり差はあるか」

「な──がはっ!?」

 

 俺は上がっていたテンションを少し落としながら、一夏を薙ぎ払った。

 最初の方こそ、一夏は俺のスピードに付いてこれていた。だが、やはりISの操縦すらろくに経験のない初心者。一週間、真面目に鍛錬に励み、代表候補生にすら勝てた俺の敵ではなかった。

 

「俺のスピードに付いて来れるか!?」

 

 俺は一夏を突き放して、アリーナ中を飛び回った。勿論、攻撃も忘れない。スペリオルランサーを持ち替え、多方からレーザー攻撃を仕掛ける。

 近接ブレードを振り回すことで防ぐ一夏だが、俺から見れば隙だらけにしか見えない。

 

「まずは、腕っ!」

 

 隙の見えた一夏へ、俺は宣言した箇所へレーザーを撃ち込むべく構えた。スペリオルランサーの射撃能力はあくまでおまけ的意味合いが強い。それでも、連射が出来ない分一発の威力も油断できない程高く設定してある。

 今、まともにこれを喰らえば装甲を抜き、もう一発で絶対防御が発動するだろう。そうすれば白式のエネルギーは0になり、一夏の敗北が決定する。

 

「ぜああああっ!」

 

 だが、一夏は無理矢理加速を加えて突進することで、スペリオルランサーの照準を狂わせたのだ。しかも、今の衝撃でこちらのシールドエネルギーも少しばかり下がってしまった。

 トドメの一撃は避けられたが、それでも無駄な足掻き。俺の絶対優位は変わりない!

 

「くっ! このっ!」

 

 レーザーを薙ぎ払いながら、一夏は俺に迫って来る。そうだ、こんな戦いを俺は望んでいたんだ!

 一方で、俺の脳裏にはあることがよぎっていた。

 

 ああ、コイツはダメだ。と。

 

 IS初心者の癖に、操縦技術も学ばない。基本的な知識は予習もせず。おまけに、武装はさっきから近接ブレード一本に絞っている……いや、近接ブレードしか持っていないのだろう。

 何がライバル候補だ。織斑一夏は強敵にもなりえない。

 

「センスは認めてやるが……正直がっかりだ。拍子抜けだ、一夏」

「何……っ!?」

 

 スペリオルランサーの穂先を一夏に向ける。俺の表情は戦いを楽しむものから一転し、敵意を剥き出しにしたものへと変わっていた。

 弱者がこれほどの力を振るうことが、何より気に食わないのだ。

 本当にこの程度の実力しかないのなら、この先コイツの出番はないだろう。

 

「そういえば、お前はこの学園に望んで来た訳じゃなかったよな。ISも、動かしたくて動かしたのではないと。なら、その力はいらないな」

 

 俺は違う。ここへは望んでやってきた。

 ISの登場で捻じ曲げられた世界を、俺が力によって再び変える為。俺以外の力に二度と屈しない為。何より、世界最強の自分という自己(アイデンティティ)の探求の為。

 これらの野望を全て叶えるべく、俺は強くなることを欲していた。なのに、こんな弱者が俺と同じ場所に立っている。

 力を扱いこなせない弱者に、身の丈以上の力なんて必要ない。俺は一夏の白式を徹底的に壊すことを思いついた。

 

「その力を、手放すがいい!」

「断る!」

 

 一夏は息切れしながらも、俺の突撃をブレード一本で封じる。だが、力の差は歴然で、食い縛っていた一夏は次第に押されていく。

 無駄だ。お前なんかが俺とシアン・バロンに勝てるわけがない。俺は一夏を見下しながら、邪魔なブレードを払い捨てた。

 

「これでお前を守るものは、そのバリアだけだ」

 

 あっけない決着だ。心の奥底で落胆しながら、俺は再びスペリオルランサーの切っ先を一夏に向けた。

 悔しそうにこちらを睨む一夏に対しても、何の感慨もわかない。これがセシリア相手だったら愉悦に浸れるのだが、相手は力の使い方もままならない雑魚。

 

「消えろ!」

 

 シールドを突き抜けて白式を破壊すべく、俺はスペリオルランサーを大きく振りかざした。

 

 

◇◆◇

 

 

「一夏っ……!」

 

 ピットのモニターで一夏の戦いぶりを眺めていた箒は、思わず声を上げてしまう。

 ISを動かせると判明してから、今日までの期間は凌斗も一夏も大差ない。

 ならば、ここまでの実力差を生んでしまったのは自分が一夏を上手く鍛えてやれなかったからだと、箒は後悔していた。

 その傍では、千冬と真耶も静かに一夏と凌斗の戦いの様子を眺めている。

 弟の劣勢に暫く顔を顰めていた千冬だった──が、ふとその表情が安堵を含んだものへと変わる。

 

「ふん、馬鹿者め」

 

 鼻を鳴らす千冬の傍で、真耶は目を大きく開いて驚いている。

 その視線の先では、一夏は未だ白式を身に纏っていた。

 

「我が弟ながら、運だけはいいようだな」

 

 無事だっただけではない。凌斗が攻撃の手をやめた理由もしっかり存在していた。

 灰色に近かった機体のカラーリングは"白式"の名前の通り純白に変わり、ダメージを受けていた装甲も瞬く間に修復されていった。

 

 

◇◆◇

 

 

 一瞬、何が起きたのか分からなかった。

 最後の一撃を一夏に与えようとしたその瞬間、奴のISが光り輝くのが見えた。

 

(な、なんだ……?)

 

 一夏も困惑の表情で自分の変化を見つめている。目の前に現れたボタンを押すと、更にISの変化が起こった。

 甲高い金属音が響いたかと思えば、ISの装甲が光の粒子に弾けて消えて、新しく形成していく。機体の色はくすんだ白から輝かしい純白に変わり、デザインそのものも洗練されたフォルムへと変わっている。

 

「これは……」

 

 この現象に、俺は見覚えが有った。つい数日前のことだ。

 俺も30分ほどISに乗って動かしていると、"初期化(フォーマット)"と"最適化(フィッティング)"を終えたという表示とボタンが出現した。そう、この現象は──。

 

一次移行(ファーストシフト)……貴様、まさか初期設定で今まで戦っていたのか」

「……らしいな」

 

 一夏にもよく分かっていなかったらしい。

 てっきり、俺がセシリアと戦っている間に済ませたものだとばかり思っていた。

 だが、これで純白の機体は改めて織斑一夏専用ということになった。

 デザインは最初の機械的な凹凸が消えて、シャープなラインが増えている。そして何よりの変化は、武器だろう。弾き飛ばしたはずの近接ブレードは消失し、一夏の手に握られていたのは日本刀のような反りのある刀だった。

 

 ──近接特化ブレード"雪片弐型"。それが、あの刀の名称。

 

「……ああ、俺は世界で最高の姉さんを持ったよ」

 

 刀を握る一夏の姿は先程以上に鎧武者という言葉が似合うと思えた。俺が蒼い槍騎士で、一夏が白い鎧武者というのも対照的だ。

 一夏は雪片弐型を見ると、何処か誇らしいような表情を浮かべていた。

 

「じゃあ俺も……コイツを使うからには、とりあえずは、千冬姉の名前から守る!」

 

 一夏は何か吹っ切ったようで、雪片弐型を構える。

 やる気になったのは別にいい。問題は、そこではない。

 つまりは、今の今まで初期設定で戦っていたということだ。俺を相手に、コイツは。

 

「俺を、舐めていたのか……?」

 

 屈辱だった。パワーをセーブした状態を相手に、俺は全力だと勘違いして挑んでいたのだ。

 これは、格下だと思っていた相手に手を抜かれていたのと同義だ。

 

「許さん……絶対に許さんぞ、一夏ぁぁぁぁぁぁぁ!!」

 

 スペリオルランサーを構え、一夏に特攻していく。

 一次移行を今更終えたところで、シールドエネルギーは戻っていない。叩き伏せれば、それで終わりだ。

 だが、一夏は先程まで以上の反射速度で対応してきた。雪片の刀身でスペリオルランサーの穂先を捕え、上に弾くとそのまま薙いで俺ごと吹っ飛ばした。

 

「なん、だと!?」

「行ける……行けるぞ!」

 

 最適化が終わった白式は、一夏の手足も同然。動きが悪かった初期設定とはまるで違うのだ。

 身体能力自体も高い一夏はISの動かし方をすぐに理解し、俺に反撃を仕掛けてきた。

 

「この力は、守られるだけの俺から誰かを守る俺になる為のものだ! もう、易々と手放したりはしない!」

「ぬかせ! 弱い奴が何を言っても聞いてはもらえない! 強さで示せ!」

 

 もう、先程までの一夏ではない。俺は目の前の相手に集中すべく、槍を構え直す。

 雪片弐型とスペリオルランサー。二種類の武器が漸く本気でぶつかり合い、火花を散らす。一夏が袈裟懸けをしたかと思えば俺はそれを受け流し、擦れ違い様に俺が突き刺そうとすれば一夏が切り払って俺の攻撃を逸らす。お互い一歩も譲らない連続の打ち合いに、周囲も唖然として見つめている。

 徐々に刀身に光を纏っていく雪片に対し身の危険を感じ取ったが、俺はそれ以上にとてつもないワクワクを感じていた。これだ、これこそが俺の真に望んでいた戦い。互いが凌ぎを削り、一歩も譲らずに切磋琢磨する。

 

「うおおおおお!!」

「はぁぁぁぁぁ!!」

 

 何かが発動したような音がした。エネルギーがより密度を増した雪片弐型の逆袈裟払いが俺のスペリオルランサーを捕える。

 防いだ、と思った。だが、その考えは事実に裏切られる。

 雪片はスペリオルランサーの穂先を斬り裂き、俺の元まで辿り着いたのだ。

 マズい、と考えた時には既に遅く、身体が斬り裂かれる。

 

「が、は──」

 

 真っ二つに裂かれて爆発する槍を手放し、俺は飛びそうな意識をしっかりと抑え込む。

 まだ、負けていない。絶対防御は発動してしまったが、シールドエネルギーは残っている。

 俺は踏みとどまり、レイピア"スーパーノヴァ"を粒子空間から取り出して一夏に対抗しようとした。

 

「これで!」

 

 しかし、雪片のエネルギーはまだあるようでその刀身は眩しい程の輝きを放っていた。

 

 負けた。

 

 防ぐ術もない雪片の一撃に沈む。俺はそう覚悟した。

 

 

「試合終了。勝者──蒼騎凌斗」

 

 

 ……え?

 試合終了のブザーと共に、勝利者の宣言がなされる。だが、一夏はまだ何もしておらず、雪片の光が誕生日ケーキの蝋燭のようにフッと消える。

 一夏も俺も、何が起きたかさっぱり分からず、ポカンとその場を飛び続ける。客席も予想外の事態に騒めき出す。

 ピットにいる山田先生や箒も俺達と同じ心境で、何が起きたか分からないようだ。

 そして、ただ一人。織斑先生だけは呆れたという表情で頭を抱えていた。

 

 そのまま、試合は終了。俺の勝ちということで、アリーナの使用時間が終わって全員解散という形になった。

 

 

◇◆◇

 

 

「どういうことだ貴様!」

 

 試合後、俺はピットで一夏の首を絞め上げていた。

 あんな勝ち方で納得など出来る訳がない。

 

「お、俺にも何がなにやら……」

「そんなわけあるか! 貴様が何か変なことをしなければ、あのまま貴様が勝っていたんだ! こんな勝利、認められるか!」

「く、くるし……!」

 

 ブンブン、と一夏の首根っこを揺さぶる。あの意味不明な勝利者宣言さえなければ、一夏が俺を切って試合終了だった。

 試合に勝って、勝負に負けた。こんな中途半端な結果では、俺の気が済まない。

 責任追及していると、背後から気配を感じた。

 

「そこだ!」

「馬鹿者」

 

 パシッ、と手を叩く乾いた音が響き、直後にチョップが俺の脳天に繰り出される。

 真剣白羽取りのタイミングを読んで流してからの攻撃……見事としか言えない。

 

「理由はどうあれ、結果は出た。それを受け入れろ、未熟者」

「……はい」

 

 未熟者。その言葉が胸に刺さる。

 試合結果は俺の勝ちだ。しかし、勝負は完全に俺の負けだった。相手を侮って軽く見た結果、力を見誤り負ける寸前まで追い詰められた。

 これでは、セシリアのことを悪く言えない。

 

「今日のところは解散だ。帰って寝ろ」

 

 そう言い残し、織斑先生は引き上げていった。後に残された俺は、改めて一夏に向き合う。

 

「次だ。俺とお前の決着は、次に預けておく」

 

 クラス代表の座も俺は辞退することにした。こんな負けを引きずったままでは、クラスの顔なぞ務まらん。

 

「覚えておけ。お前はやはり俺のライバルに相応しかった、と」

「……おう。また、戦おうぜ」

 

 それだけを言い交わし、俺は自室に戻っていった。

 織斑一夏、白式。口惜しい最後ではあったが、自身のライバルが改めて出来たことが内心嬉しく、誰も見ていないところで口角を緩めるのだった。

 

 

◇◆◇

 

 

 部屋に戻るとセシリアの姿はなく、代わりに水音だけが微かに聞こえてきた。

 

「あー、俺だ」

「っ! ……蒼騎凌斗、さん」

 

 戻ってきたことを告げると、シャワールームからセシリアの苦そうな声が聞こえた。

 

「邪魔なら、外に出るか?」

「い、いえ! 着替えならありますので、お気になさらず……」

 

 ……ふむ?

 普段のセシリアなら、男は邪魔だから出て行け、と言うと思ったのだが。

 負けた後だからか、妙に沈んだ雰囲気のセシリアを少し気にしつつ、俺はリンゴをかじった。

 

「……あの!」

「ん?」

 

 珍しく、セシリアから話しかけてくる。

 何だ? 別に覗いてないぞ。

 

「どうして、凌斗さんはそこまでお強いのですか? 誰かに媚びたりもせず、自分の強さを信じていられるのですか?」

 

 唐突なセシリアの疑問に、俺は思わず首を傾げた。

 そう、言われてもな。"自分というものを探求し、証明するため"なんて言っても分からんだろ。

 転生のことについても言う気はなかった。誰も信じやしないしな。

 

「俺は……俺だから。そうとしか言えないな」

「……そうですか」

 

 また、水音だけが二人の間に響く。

 

「男だ女だの、そんな小さいことはどうでもいい。俺は純粋に強くなりたい。誰よりも強くなって、この世に俺の存在を証明したい」

「……あなたらしいですわね」

「馬鹿にしてるのか?」

「いえ、今のは正直な感想ですわ」

 

 そうか、と俺は妙に嬉しそうになったセシリアに背を向けてリンゴを貪った。

 今日のは勝利も敗北もない、何だか甘酸っぱいような味だ。

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