雁夜おじさんが勇者王を召喚して地球がやばい   作:主(ぬし)

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二次創作において受け身役が固定されている雁夜おじさんが多い中、一人だけまったく違うキャラがを書いてもいい。自由とはそういうものだ。


雁夜おじさんが勇者王を召喚して宇宙もやばい

「消えて、いく……?」

 

誰ともなく、呆然と呟く。

それは気絶から意識を回復させたウェイバーだったかもしれないし、マスターを置いてバイクで遁走するセイバーだったかもしれない。

彼らが見上げる視線の先には、現世への顕現を維持できずに消滅していく巨大な英霊―――勇者王の崩れゆく姿があった。

 

『くっ……マスター……!!』

 

勇者王の苦悶の声を聞くまでもなく、消滅の原因は明白だ。マスターの魔力切れである。強大無比だと思われていたアーチャーを一蹴して余りあるその力は、人の身で支えることなど到底不可能だ。例え令呪全ての補助を受けたとしても、それを英霊に送る機関であるマスターへの負担は重すぎる。

考えても見て欲しい。ネズミが回す滑車の動力で、戦車を動かすことが可能だろうか?答えは、非情なまでに『否』だ。

 

マスターの魔力をその命ごと食い潰した英霊が蹌踉めき、激しく地に膝をつく。起きるはずの地響きはない。額に輝く翠緑のクリスタルがその神々しい光を失えば、その後を追うように巨体が陽炎のように揺らめく。

崩壊が始まった。

鋼の手足が砂細工のようにぼろぼろと崩れ、風に舞って光の粒子と化してゆく。

ついにその頭部までもが夜闇に溶ける寸前、黒金の巨神が宙に向かって語りかける。それは、今はもういない、己のマスターへの“勇気ある誓い”。

 

『マスター……いや、雁夜!俺は信じている!お前もまた、真に勇気ある者、勇者である、と!お前が喚ぶ限り、俺は、何度でも、また……―――』

 

そして―――第四次聖杯戦争を終わらせると思われた英霊は、たった数分の偉容を誇り、現世から消え失せた。

 

 

 

 

 

聖杯戦争の参加者の誰もが安堵の溜め息をつく中、一蹴されたはずの“王”が浜辺にごろりと打ち上げられる。

ざばぁんと一際大きな飛沫を浴びて強制的に覚醒させられた王が金髪を振り乱して慌ててその場に立ち上がる。気管に入った海水を吐き出せば、遠くには勇者王の消えた夜の虚空が見えた。

それを認めた瞬間、血のように紅い双眸がうるると涙に潤う。

 

「い、生きてる!我生きてる!」

 

そう、彼こそは英雄王、ギルガメッシュその人である。唯一無二の王を自称する彼は、なんと勇者王の苛烈極まる攻撃に対峙して辛くも生き残ることに成功したのだ。

 

勇者王のヘルアンドヘブンが目前に迫った瞬間、ギルガメッシュは咄嗟に天地乖離す開闢の星(エヌマ・エリシュ)の出力を最大にした。

それでも一向に止まらぬ勇者王の疾走に悪寒を感じ、さらに王の財宝(ゲート・オブ・バビロン)を全開にして己が持つありとあらゆる宝具をぶつけた。

それでも少しも怯まない破壊の奔流に涙目になりながら虎の子の天の鎖(エルキドゥ)を発動させて雁字搦めにしようとした。

それでもエルキドゥを引きちぎって豪腕を振りかぶる圧倒的な()()()()を見上げ、いよいよ恐怖の限界に達して絶叫したギルガメッシュは武具を全て放り捨てると近くにあった海面に一目散に飛び込んだのだ。

 

生まれて初めて感じた生物的な戦慄に総身を震えさせながら、ギルガメッシュはフラフラと遠坂邸への帰路についた。

彼が自信を取り戻すまでしばらくの時間を要したが、元々の神経が図太かった英雄王は戦争が佳境に入る頃には何とか戦えるまでに精神を回復させた。主たる武装はほとんど全てを消費してしまったが、幸運なことに乖離剣(エア)だけは無事であった。逃げ出す際に放り捨てた結果、ヘルアンドヘブンの破壊から免れたのだ。勇者王に踏まれたせいで刀身はペチャンコに歪んでしまったが、見た目さえ気にしなければその世界を再誕させるほどの攻撃力に遜色はない。

 

間桐雁夜の早々の敗退後、第四次聖杯戦争は残った陣営によって再開された。その流れは、予め決まっていた運命とほとんど変わらないものだった。

まずアサシンが蹂躙され、次にキャスターが消し飛び、ランサーが自害し、ライダーが満足気に遠征を終えた。内心ヒヤヒヤとしながらも征服王の疾走を跳ね除けたギルガメッシュは、ライダーのマスターにドヤ顔で格好つけた後、冬木市市民会館へ急いだ。そこで一目惚れしていたセイバーに告白をしたはいいものの、ちょうどいいところで、何をトチ狂ったのか「聖杯を破壊せよ」というセイバーのマスターによる命令によって台無しにされてしまった。それだけならまだしも、突然上から降り掛かってきた得体のしれない泥を全身に浴びてしまった。彼は自らの不運を呪いながら泥の中に沈んでいった。

 

しかし、奇しくもその暗黒の泥は、汚染された聖杯の中身であった。全てを融解させてしまう膨大な邪悪の質量は、並の英霊などではコンマ数秒とて持たずに飲み込まれてしまうだろう。そして、ギルガメッシュは並の英霊ではない。願望機に蓄積されていた泥は、彼に現実の血肉を与えて受肉させ得るものであったのだ。

ようやく回ってきた幸運に、ギルガメッシュはほろりと涙した。

 

 

 

 

 

 

 

 

ここで、くだらぬ問いを繰り返すことを許して欲しい。

 

ネズミが回す滑車の動力で戦車を動かすことは、本当に不可能だろうか?

 

例え、その小さくて弱いネズミに、無限の勇気が備わっていたとしても?

 

 

 

 

 

 

 

 

「―――ふん、期待させおって、最期はそのザマか。興ざめだよ、雁夜」

 

しわがれた声を蟲蔵に響かせ、悪辣の権化、間桐臓硯が唾を吐き捨てた。淫猥な形状をした蟲がその唾を啜る。吐き気を催す邪悪極まる地下空間には、一つの死体が打ち捨てられている。ミイラのように干からびてひび割れたその瞳に、すでに生気はない。命ごと魔力を吸い尽くされ、とうの昔に絶命しているのだから。

彼の死体がこうして蟲蔵に持ち込まれたのは、ただ単に()()()を有効活用しようという間桐臓硯の悪意に満ちた発想によるものだ。即ち、次代の間桐を―――臓硯の野望を担う()()への教育材料だ。

 

「見ろ、桜。儂に楯突いた者の最期を。実に惨めであろう?情けないであろう?」

「―――はい、お祖父様」

 

間桐桜の目にも、すでに生気はない。希望を失った幼い彼女は、もはや臓硯から生かされているだけの道具に過ぎない。臓硯の庇護の手を振り払った瞬間、自分は目の前の哀れな叔父と同じ道を辿ることになる。

 

(……馬鹿な人、お祖父様に逆らうから……)

 

桜の足元で、牙を向いた蟲たちが雁夜の死体に群がる。蠢く蟲の山に飲まれ、とうとう雁夜の姿が見えなくなる。ガリガリ、ボリボリ、とナニカを砕き、削る音が鼓膜に滑りこむ。

山が小さくなっていく。音が小さくなっていく。

 

(……本当に、馬鹿な人……でも……)

 

生気を失った紫の瞳から、桜の最後の心が零れ落ちる。

 

(―――ありがとう、雁夜おじさん)

 

ポツリ、と。足元で雫が弾けた。少女に残っていた、人間らしい心の欠片が、一筋の涙となって流れ落ちたのだった。

こうして、桜は自ら心を捨てた。かつて心があった場所にはぽっかりと虚ろな穴が空き、眼差しは死体も同然となった。もはや、彼女を救う者はいなくなった。

救おうとしてくれたただ一人の男は、今はもう、蟲たちの腹の中―――

 

 

 

 

「――――()()()……()()()()ッ!!」

 

 

 

 

「むっ!?」「えっ!?」

 

蟲蔵に、男の声が爆発した。闇が埋め尽くす地下室には余りに似合わない精悍な声が、気合を伴って言葉を紡ぐ。

その発生源は、桜の足元の蟲の山だ。否、その内部から翠緑の光を発する、()()()()()からだ。

哀れな死体を覆っていた蟲がすっくと盛り上がり、男がその全容を露わにする。神々しいエネルギー光でもって邪悪な蟲を一匹残らず焼き払いながら、生まれ変わった彼が桜の頭に手を置く。優しげな微笑みが、桜の瞳に光を灯す。

 

「き、貴様……貴様、雁夜、どうして、」

「―――()()

 

震える声で問いかけた臓硯は、その否定の声音に怖じた。翠緑の瞳に強く射抜かれた瞬間、清浄にして不可侵の波動が空間を揺らして臓硯を胸中の魂ごと叩き揺らしたのだ。

さっきまで死体だった男とは思えない。そもそも、サーヴァントすら圧倒する強烈な存在感は生きていた頃からもかけ離れている。今や人間の域からさらに高みへと到達した己の子孫()()()男に、臓硯は再び問う。

 

「なれば……お前はいったい何なのだ!?」

 

我知らず地に膝突きながら吠えた臓硯を見下ろし、彼が咆哮する。もう、間桐雁夜は存在しない。

今ここにいるのは、Gストーンと生機融合を果たした人類の進化系。

勇気ある者だけが到達できる、弱者の味方にして悪の天敵。

 

そう、彼こそ―――

 

 

「俺は、エヴォリュダ―・カリだッッッ!!!」

 

 

掲げた右手の甲で幾何学的な模様が眩い閃光を発する。それはGストーンのエネルギーと令呪が融合した、まったく新しい『G令呪』だ。

G令呪の閃光が地下空間を圧倒し、膨張し、天井を爆砕する。地上の屋敷すら貫通するほどの超破壊的なエネルギーを内包した閃光は、暗雲立ち込める闇空を真っ二つに切り裂いて()()()()へ着弾した。マグマのように赤黒く燃える泥を吹き飛ばし、ついに閃光が泥の内部で()()していた英霊の額のクリスタルに吸い込まれる。

 

「目覚めろ、ガオガイガー!!!」

 

 

 

 

獅子の双眸が、開く。

 

 

 

 

 

 

 

 

―――誰が認める?誰が許す?誰がこの悪に責を負う?

 

―――愚問なり。問うまでもなし。王が認め王が許す。王が世界の在り方の全てを背負う。

 

 

聖杯の泥の中で、ギルガメッシュはその持ち前の強烈な自我によって受肉をする寸前にあった。ここまで行けば万々歳である。マスターからの供物に頼らずとも好き勝手に動きまわり、天下を制することが出来るようになるのだ。

さあ、あと一歩だ。あと一押しで、泥はギルガメッシュを吸収できなくなり、不純物の結晶体として彼を現世に受肉させる。

ついに泥が問う。「王は何者か」と。

ギルガメッシュがにやりと口端を吊り上げ、一度息を吸う。そして宣言のために口を開く。

 

「即ち、この我に―――」

 

 

 

『これが―――Gストーンを持つべき、勇気ある者の―――!!!!』

 

 

 

「え゛っ」

 

足元に広がる泥。その遥かに深い場所から、今もっとも聞きたくない声がした。

なぜ気が付かなかったのか。ギルガメッシュすら飲み込めない泥に、()()()()()()が吸収されるはずがない。

忘我して泥の深部を見つめる中、ウルテクエンジンが唸りを上げる轟音が這い上ってくる。黄金の角が泥を切り裂き、黒金の巨躯が捻り潰し、翠緑の輝きが触れる邪悪全てを浄化していく。胸部に備えられた獅子の頭部が咆哮すれば、泥は自ら膝を屈してその英霊に道を開ける。

冬木市を燃やし嘗め尽くすはずだった泥が黒煙と化して消えてゆく。マグマすら超える熱量の邪悪を、それをさらに超える勇気のエネルギーが蒸発させていく。

轟々と天に突き立つ蒸気の渦が、内側から爆砕した。冬木の上空に、再び翠緑色の太陽が顕現する。

 

『絶対勝利の力だぁああああああああああああああああああああ!!!!!』

 

この世の全ての悪(アンリマユ)は大きな間違いを犯してしまった。泥が飲み込んでしまったものは、よりにもよってこの世の全ての悪を駆逐し尽くす『破壊神』だったのだ。

 

しかも、救いようのないことに―――この英霊は何の不条理を使ったのか、己の力だけで受肉を果たしていた。

 

「……やっぱやーめた」

 

こんなバケモノがいる世界に受肉なんてしたくないと言わんばかりにギルガメッシュは自ら泥の中に再び飛び込んだ。今回、彼には運が回って来なかったようだ。

 

 

 

 

 

 

こうして、エヴォリュダ―・カリとガオガイガーはこの世界に爆誕した。

彼らはやがて、世界を救い、勇気ある仲間を世界中に作り、地球やそれが属する星系を滅ぼそうとする強敵と相対したりすることになるのだが、それはまた後に語ることにしよう。

 

だって収集がつかないからね。




誰かがね、この作品の感想にね、「ソルダート・Jも召喚されれば面白いのに」とか書いてくれたんだよ。その時主に電流走るって感じだったね。うん。これ以上は言わない。

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