雁夜おじさんが勇者王を召喚して地球がやばい   作:主(ぬし)

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アルトルージュ「あの時は死んだかと思ったわ」
アルクェイド「窓から白旗振ってたのに気付いてもらえてよかったじゃない。私が“抵抗なんてやめとけ”って助言したおかげでしょ。感謝してほしいわね」
アルトルージュ「うっさいわね!城を木っ端微塵にされてアパート住まいになっちゃったことに変わりはないのよ!」
アルクェイド「あっはっはっはっ!姉さんざまぁ!!」
志貴「お、そろそろ始まるみたいだぞ、ロアのピアノコンサート。ミュンヘンで演奏だなんて、アイツも出世したよなあ」
アルクェイド「ホントだ。生き生きしちゃって、相変わらず楽しそうねえ。
あっ、あれネロじゃない?お~い!」
アルトルージュ「久しぶりじゃない。今なにしてんの?」
ネロ「獣医師」


雁夜おじさんが勇者王を召喚してもうなにがなにやら 中編その2

「問おう、貴様が我がマスター(アルマ)か」

「アル、マ……?」

 

 少年のことを“アルマ”と呼ぶその男は、およそ常人とは思えない風体の戦士―――そう、まさに戦士(・・)としか言いようのない男だった。

 ほんの数秒前まで命の危機に瀕していたことを、少年は忘れた。眼前の男の驚異的な疾さ(・・)を魅せつけられ、言葉を失うしかなかった。確かに、槍の切っ先は少年の眼球に突き立つ寸前まで迫っていた。槍兵の放った刺突は、次の瞬間には眼球を貫いて脳みそをミキサーのように蹂躙するはずだった。しかし、彼は生きている。無傷のまま、両の目で男を呆然と見上げている。

 

 真っ直ぐに迫る槍先が眼球の皮膜を破らんとするまさにその刹那、突如として魔法陣から出現したこの白亜の戦士は、ひと目で少年の危機を悟ると槍兵の動きを遥かに超える一閃で槍を打ち払った。それどころか、返す刀で鍔迫り合いに持ち込むと、人外の膂力でもって槍兵を土蔵の外まで弾き飛ばしてみせたのだ。その一連の攻撃は、時間にしてわずか0.1秒にも満たないほどの神速の業であった。

 およそヒトでは成し得ない動作の直後にも関わらず、男の息は少し足りとも乱れていない。改めて、屈強という言葉では不十分な目の前の戦士を凝視する。天を突くような長身は靭やかに引き締まった筋肉で形作られ、それを鋭角的な白亜の鎧で覆っている。動きを阻害しない程度のそれらは地球の金属とは思えない神秘的な質感を放ち、少年の目を奪った。特徴的な兜に遮られて目元は見えないが、鉤爪のような鋭い鼻梁は猛禽類を彷彿とさせる。

 

しかし、そんな見た目よりもずっと際立っているものがある。……貫禄(・・)が、違うのだ。

 衛宮 切嗣や言峰 綺礼も、目の当たりにしてみれば一級の殺し屋としての“重み”を感じることが出来るだろう。だが、この戦士はそれらとはまったく異なる貫禄を有している。格が違う。次元が違う。否、世界が違う(・・・・・)。まるで、生まれながらに倒すべき宿敵が定められ、戦いの果てに討ち果てることを運命づけられたかのような、儚くも誇り高い男だった。

 孤高の戦士が纒う苛烈な鬼迫(・・)に気圧され、少年は声も出せない。その様子に了承の意を感じたのか、戦士は一度頷くと先と同じく精悍な声で宣言する。

 

「我が名はソルダート・J。ここに契約は完了した。今より貴様が我がアルマとなった。三重連太陽系で最高の戦士が、貴様の敵を一夜にして駆逐し尽くそう。万能の願望器をこの手に収め、必ずや我らの手で赤の星を蘇らせるのだ」

 

 言っていることはまったく理解できない。だが、その言葉に込められた感情が只ならぬものであることはわかる。ギリと決意に固く握りしめられた拳が何よりの証左だ。両肩から立ち上る凄まじい闘気が、土蔵を破裂させんばかりに燃え上がる。何度となく死線を乗り越えた者だけが纒うことを許される、極限まで洗練された闘志の炎だ。

 

 

「―――まさか、小僧がマスターになるとはな。しかも、とんでもねえ奴まで召喚しやがって……」

「―――ッ!?」

 

 鬼神の如き戦士の迫力に呑まれ、思わず忘れてしまっていた。ゾッとして声の方を見やれば、土蔵の入り口を背にして青の槍兵が立ち塞がっていた。青装束の胸元には真一文字の切り傷が刻まれ、ジワジワと血が滲んでいる。十中八九、戦士によるものだろう。あの須臾の交錯の中、この白亜の戦士は槍兵の攻撃を弾くだけに留まらず、なんと反撃の一太刀まで刻んでいたのだ。

 手傷を負った槍兵は先ほどまでの余裕綽々な態度をかなぐり捨て、何時でも攻撃を繰り出せるように腰を低く構える。双腕の筋肉が見る見る膨張し、図太い血管を葉脈のように全身に浮き上がらせる。その表情も、少年を追い詰めていた時とは打って変わって切羽詰まっている。槍兵は本気だ。この戦士と対峙するには命を懸けるしか無いと心得て、不退転の覚悟で望んでいる。彼にも、白亜の戦士から滲み出るナニカを感じ取れるらしい。むしろ同じ武に生きる者だからこそ、少年よりも多くのものを感じているのだろう。果たしてその覚悟は、白亜の戦士を振り向かせるに至るほどのものだった。

 

「青の星の戦士か。私のプラズマソードを間一髪で回避するとは、並々ならぬ猛者のようだな」

「お褒めに預かり光栄だぜ。だが、不可視の剣ってのは反則じゃねえか?いや、実態のない(・・・・・)剣って言った方がいいな」

「……ほお」

 

 猛禽の兜の奥で、戦士の双眸がスッと細められる。対する槍兵も矢張り只者ではなかった。一瞬にも満たない交錯、しかも心臓の位置に一太刀を浴びながら、白亜の戦士を鋭く分析していたのだ。絶体絶命まで追い詰められながらも反撃の糸口を探る猛々しい姿勢は、この槍兵が歴戦の強者であることを物語っている。

 

「詫びよう、青の星の戦士。そして誓おう。次の一撃は手を抜かん」

 

 言うやいなや、組んでいた腕を解き、手甲で覆った両の手を自由にする。剣は手にしていない。否、槍兵の言が真実であるのなら、彼の剣には形がない(・・・・)。とすれば、一見すると無防備に見える飛翔直前の鳥類のような構えこそが、この戦士にとっての戦闘態勢だ。

 

「当然だ、クラス最速(ランサー)を舐めんじゃねえ。次は本気(マジ)だ」

 

 槍を握る手がギリリと音を立て、重心をさらに低くして腰だめに構える。その身構えは、まるで身体そのものを弓とするかのようだ。ならば、異形の槍はまさに引き絞られた巨大な矢だ。矢の穂先がピタリと虚空に固定され、白亜の戦士の眉間を狙う。槍兵はこの穿刺に全身全霊を賭ける腹積もりだ。常人なら正対しただけで気絶するほどの殺気を受けて、しかし戦士は微動だにしない。速度での敗北などあり得ないという矜持と誇りをそのまま瞬発力に変換し、来るべき瞬間に備えて両脚に注ぎ込んでいる。あたかも西部劇のガンマンが引き金に指をかけたまま静止するかのように、たった数メートルの間合いを開けて二人の一切の動きが止まる。

 

 

静寂が、訪れた。

 

 

 割れる寸前の風船のような、火を噴く寸前の銃口のような、肌を引き攣らせる静寂が土蔵を支配する。我知らず、少年はゴクリと喉を鳴らす。乾き切った喉は水分を嚥下できずに上下するだけだ。高圧の殺気に、斬り付けられるような激痛が皮膚を刺す。掌に食い込んだ爪先から血が滲む。キンと張り詰めた鼓膜は今にも裂けて血を吹き出しそうだ。肺を潰されるような息苦しさで目眩がする。開きっぱなしの眼球が血走り、視界が赤黒く濁る。だというのに、少年は目を逸らせない。この戦いが己の命を左右するからではない。この超常の戦闘から目を逸らしてしまえば、これからの人生が何の意味もない時間の積み重ねに成り下がってしまうことを理解しているからだ。

 速度は、白亜の戦士が一枚上手だろう。おそらくは技の練度も。それは一度刃を交えて打ち負けた槍兵が誰よりも理解しているはずだ。その隔たりを理解して尚正面から切り結ぼうとするのなら、きっと次の一撃は、槍兵がその身に積み上げてきた技の粋を極めた絶技に違いない。槍を極めた強者(つわもの)が己の全てを掛けて放つ至高の一撃。例え失明しようともそれを脳髄に焼き付けなければ、この先何千何万回と生まれ直そうとも、同じ光景を見ることは絶対に叶わない。

 雲が流れ、ゆっくりと月が翳る。土蔵に暗闇が落ちて、何も見えなくなる。両肩に伸し掛かる闇に震えながら、少年は悟る。この影が晴れた刹那、すでに勝者は決まり、敗者は地に付しているのだと。

 

「なッ!?」

 

 そして、気付く。槍兵の異形の槍が紅く輝いている(・・・・・・・)ことに。練りに練られた魔力が熱を帯びて発する闇の灯火(・・・・)。暗闇にならなければ気がつけなかったであろう超常の紅光が、槍兵の口元を淡く照らす。果たせるかな、槍兵はギラつく犬歯を剥き出しに必勝の笑みを滲ませていた。

 少年は知るよしもないことだが、その紅い長槍こそ最強の槍兵(クー・フーリン)の得物にして最凶の切り札(・・・・・・)―――その名も『刺し穿つ死棘の槍(ゲイ・ボルク)』である。魔力を充填し、真名解放によってその真価を発揮すれば、例え敵が如何なる駿足や大盾で身を護ろうと因果を逆転させて確実にその心臓を破壊する、神話に語り継がれる魔槍だ。

 

世界に名高いその宝具は、今まさに真名を開放される寸前にあった。

 

「あの女には“宝具は使うな”って言われてたんだが、テメェ相手には無茶な話だ。遠慮無く使わせてもらうぜ」

 

 もはや隠す必要もなくなったのか、槍兵が鋭く笑う。弓のように引き絞ってみせた身体も、渾身の突きの体勢も、全てフェイクだった。全身全霊を賭けた穿刺を放つかのような殺気は、ただの見せ掛け(・・・・)に過ぎなかった。槍兵は、その魔槍に秘められた怪異の力で白亜の戦士を仕留めるつもりだ。彼には速度で挑むつもりなど毛頭なかった。一太刀を浴びた段階で技では敵わぬと見切りをつけ、宝具による決着を付けることを決意して密かに魔力を充填していたのだ。なんということだ。互いに引き金に指をかけて睨み合っているはずが、いつの間にか片方はすでに弾丸を放っていたのだ。

 槍兵の表情と魔槍に漲る魔力から全てを悟った少年は、その冷徹な決断力に思わず呻き声をあげた。卑怯ではない。反則でもない。槍兵は確かに「本気で挑む」と宣言したではないか。必勝必殺の虎の子を持ち出さなければ倒せぬ敵だと判断したから躊躇いなく実行したのみだ。

 

「その心臓―――」

 

 一言一言に力を込めるように、槍兵が低く唱える。担い手の意思に応じた魔槍がその輝きを増して鮮血の如き紅光を放つ。外が明るくなる。ジワジワと影が晴れていく。雲の切れ目が広がり、月明かりが迫る。再び土蔵内が月光で満たされるまで、あと僅か。

 

「―――貰い受ける―――!!」

 

 ウォン。槍が唸りを上げる。天地自然の条理を覆す神代の武具がギシギシと世界を軋ませて(・・・・・・・)吠えている。敵の血を啜るのを今か今かと待っている。槍兵がその手綱を離せば、次の瞬間には白亜の戦士の心臓は挽肉と化すだろう。

 遂に、月光が入り口から侵入してくる。入り口を背にする槍兵の背中を静かに照らし、次いで白亜の戦士を穏やかに抱いてゆく。槍兵の術中にまんまと嵌った戦士の引き攣る顔が顕になるまで、あと少し―――。

 

「ンだとォ……!?」

 

 驚くべきことに―――戦士は、嗤っていた(・・・・・)。想定外であるはずの必殺宝具を前に、さも満足そうにくつくつとほくそ笑んでいた。

 

「私はこの聖杯戦争とやらを矮小な土地での小競り合いに過ぎないと考えていた。たかが一つの惑星の中(・・・・・・・)での小戦でしかないと過小評価していた。だが、その甘い認識を改めよう。この戦争は、我らソルダート師団の誇りを掛ける価値がある。死力を尽くす意味がある」

「てめえ、いったい何を言っていやがる……!?」

「このような果てなる地で貴様のような強者に巡り会えたのは僥倖だった。これでようやく、私も本気を出せる(・・・・・・)!!」

 

 月光を浴びた白亜の鎧が、ギラギラと光沢を帯びて歓喜に輝く。槍兵の宝具を眼前に突きつけられながらも、怖じた気配はまったく見られない。むしろ、瀬戸際まで追い詰められた状況を楽しんでいる。闘志に火を付けられたことを喜び、最高に高揚している。この余裕の源は何か? 答えは簡単だ。この白亜の戦士には、槍兵の切り札に勝る切り札(・・・)があるからだ。

 それは例えば、戦士が高々と突き上げた左腕で燦然と輝く、真紅の宝石(Jジュエル)だ。

 

「貴様が宝具を解放するのであれば、対峙する私もまた、持てる最強の宝具解放で応じなければなるまいッ!!」

「う、おぉ……ッ!?」

「ぅわあッ!?」

 

 Jジュエルが眩いばかりの烈光を爆発させる。質量を有したスパークが膨れ上がり、まるで目に見えぬ拳のような衝撃を周囲に叩き付ける。烈火のような赤い光は、針先ほどの粒子一つ一つが膨大な魔力の凝縮体だ。余波を受けた物品は一つ残らず粉々に破壊され、分厚い土壁に幾重もの亀裂が走り、柱を基礎を屋根をと次々と欠落させてゆく。

無限の 魔 力 (エネルギー)を溜め込む真紅の宝石は、超々高速複雑精緻な魔力回路の結晶だ。神を使役するため(・・・・・・・・)の宇宙最強の宝具だ。

 

「今こそ、我らソルダート師団の力を全宇宙に示す!!」

 

 マズイ、と。この時、槍兵(ランサー)は心から恐怖した。必勝のために持ちだした奥の手は、最悪にも、彼が未だかつて経験したことのない恐るべきナニカ(・・・)を呼び起こしてしまったのだ。それでも一歩も引かぬのは、槍兵の最後の意地だ。

 何を怯えることがある。まだ勝機はある。例え勝てなくても、相打ちに持ち込むことは出来る。ゲイ・ボルクを放てば、例え次の瞬間に自身が消し飛ばされようとも敵の心臓を確実に貫くことが出来る。必死に自分に言い聞かせると、地響きに揺れる大地を然と踏みしめ、槍兵は切り札を解放する。

 

「げ、ゲイ・ボル―――」

 

 

 恐怖のあまり、彼は忘れてしまっていた。槍兵は、速度では白亜の戦士に勝てないことを。技の速度でも――――宝具解放の速度(・・・・・・・)でも。

 

 

 

 

 

「発進せよ!! ジェイア―――――――クッッッ!!!!!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

一方その頃、冬木市上空では。

 

 冬木の夜天を、一隻の船(・・・・)飛翔(・・)している。黄金とエメラルドで形作られた見目麗しきその船は、古代インド最古の叙事詩マハーバーラタに描かれた伝説の『ヴィマーナ』である。満月を背にして優雅に空を舞う姿はまさに浮かぶ芸術である。

その光り輝く至宝の船の上では、現在、その持ち主であるはずの半神の男がツインテールの少女に髪の毛を激しく引っ張られていた。

 

「もう、なんですぐに気が付かなかったのよ金ピカ! 間に合わなかったらどうすんのよ!?」

「ええい、五月蝿いぞ小娘! 我が温情で忠告してやったというのに仇で返しおって!」

「ランサーがアイツをまた狙うかもしれんぞムハハハ、なんてワイン飲みながら言われたってこれっぽっちも恩は感じないわよ! いいから急いで! アイツの家まであと少しよ!」

「あだだだだっ! だから髪を毟るな、無礼者め! この我をここまでコケにするとは―――ん?」

 

 王を王とも思わぬあまりに扱いように肩をいきり立たせていたギルガメッシュが、はたと眼下の武家屋敷に目を落とした。眉を潜める横顔が気になり、つられて凛もヴィマーナから身を乗り出して地上を見下ろす。そこには目的地である少年の家がひっそりと鎮座している。庭の一角を占める土蔵を除いて。

 

「……なんで土蔵が崩れかけてんの?」

「我が知るか。そんなことより、入り口を見てみろ」

 

 なぜか、土蔵がガラガラと現在進行形で崩壊していた。まるで内側で何かが爆発したかのようだ。ギルガメッシュに促されて土蔵の入り口に目を凝らすと、申し合わせたように蒼装束の男が大慌てで飛び出してきた。

 

「あ、あれはランサー!? しまった、もう追いつかれてたんだわ! じゃあ、あの土蔵の破壊はランサーが!?」

「……にしては、妙な狼狽えようだな」

 

 言われてみれば、ランサーの様子は確かに不思議だ。ほとんど転がりながら無我夢中で飛び出してきたランサーの態度は、どうにも破壊を起こした張本人のそれではない。土まみれになるのも構わず地面に尻餅をついてヒイヒイと肩を大きく上下させる姿は、まるで何かに怯えているかのようだ。

 

 

ゴウンゴウンゴウン(・・・・・・・・・)

 

 

「よくわからないわね。 状況から見るに、ランサーはアイツの家まで追いかけてきた。おそらくは土蔵まで追い詰めた。だけど、土蔵は崩れて、ランサーはなぜか庭で怖がってる。むう、さっぱりわからないわ。何があったのかしら?」

「おい、小娘。雑種がこちらに気づいたぞ。何か叫んでいるようだ」

「あ、ホントだ」

 

 

ゴウンゴウン(・・・・・・)ゴウンゴウン(・・・・・・)

 

 

 持ち前の動物的な勘が働いたのか、ハッと上空を見上げたランサーが驚愕に仰け反った。そのままヘナヘナと地面にへたり込み、ガクガクと震えている。ギルガメッシュがそれほどまでに恐ろしいのか、それともそれ以上に恐ろしい(・・・・・・・・・)何かを恐れているのか、歯の根の合わない口からしきりに何かを叫んで上空を指さしている。

 

 

ゴウンゴウン(・・・・・・)ゴウンゴウン(・・・・・・)ゴウンゴウン(・・・・・・)

 

 

 しかし、近くで工事でもしているのかやけに聞き取りづらい。何故だか月明かりも巨大な雲に隠されてしまったせいで、暗闇では口の動きで探ることも出来ない。

 

「ちょっと、ランサー! なに言ってんのか全然聞こえないわよー!? もっと大きな声で言いなさいよ―!!」

「ふん、役に立たん奴だ。どれ、我が見聞きしてしんぜよう。……ふむ、“う”と“え”を繰り返しているようだな」

「“う”と“え”?」

 

 腐っても 弓 兵 (アーチャー)クラスだ。感覚器官のポテンシャルは高いらしい。

もう一度ランサーの方を見下ろして目を凝らしてみる。なるほど、“う”と“え”と繰り返しながら両手をぶんぶんと振り乱しているらしい。恐怖のあまり錯乱するような英霊だったかと思い返してみるが、そうではないのでますます不可解だ。身振り手振りをしながら喚き立てる姿は、見ようによってはこちらに危険を知らせようとしているかのようでもある。

 

 

ゴウンゴウン(・・・・・・)ゴウンゴウン(・・・・・・)ゴウンゴウン(・・・・・・)ゴウンゴウン(・・・・・・)ゴウンゴウン(・・・・・・)

 

 

「くっ付けると……うえ(・・)?」

「“上”か。ふはは、何を馬鹿げたことを。王の領域たるこの空で、我より上に存在するものなどあり得ぬわ」

「それは一理あるわね。―――っていうか、」

 

 

ゴウンゴウン(・・・・・・)ゴウンゴウン(・・・・・・)ゴウンゴウン(・・・・・・)ゴウンゴウン(・・・・・・)ゴウンゴウン(・・・・・・)ゴウンゴウン(・・・・・・)ゴウンゴウン(・・・・・・)

 

 

「さっきからゴウンゴウンうるさいわね! いったい何が―――ムビャッ!?」

「ええい、さっきから暗いぞ! いったい何が―――ギャブッ!?」

 

 撥ねられた(・・・・・)

 言わずもがな、ここは空中である。“撥ねられた”という表現は不適切だと思うだろう。だが事実として、ヴィマーナは撥ねられた(・・・・・)。それはあたかも、不用意に飛び出した50cc原付バイクが大型30トントレーラーに弾かれたかのようだった。トレーラーは通り抜けざまにただ掠っただけだというのに、原付バイクはその余波だけで粉々に大破して注意不足の運転手諸共彼方へ吹っ飛んだ。普通に考えるのであれば、インド神話にその名を残すヴィマーナをスーパーカブに例えるなど正気の沙汰ではない。ガンジーですら助走をつけてバーフバリの如き勢いで殴りかかるレベルの暴論である。大体、現代の航空機程度では古代文明の技術の結晶であるヴィマーナには傷一つ付けられないはずなのだ。だが、その認識を嘲笑うかのように、ヴィマーナは現在墜落の一途を辿りつつある。

 

「な、なに!? 何が起こったっていうの!? ヘリかジェット機にでもぶつかったの!?」

「ば、馬鹿な! 我がヴィマーナをこうもいとも容易く砕くなどあり得ん! 何者だ―――!?」

 

 翼を失い、動力部にも甚大な被害を被ったヴィマーナがひゅるひゅると落下していく。黄金の尾を曳きながら落ちていく様は儚い流れ星のようだ。その流星に必死にしがみ付く二人が、自分たちを叩き落とした何者かを睨め上げる。果たしてそれは、不用意に近づいたヘリコプターか、偶然低空飛行をしていたジェット機か―――。

 

「……なにそれ」

「……あり得ん」

 

 ヘリコプターでもなく、ジェット機でもなかった。現代の航空機ではなかった。そもそも、航空機でもなかった。ヴィマーナの翼を易易ともぎ取ったそれは―――宇宙戦艦(・・・・)だった。




聖杯戦争、壊れる
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