東方紅奏郷   作:ねるゔぁ

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初執筆&初投稿です!
全てにおいて初なのにいきなり二次創作(しかも主はにわかとかいうオマケつき)というのに自分自身の馬鹿さを感じますがその辺は生暖かい目で見守っていただけたらと思います!
ご感想や指摘などお待ちしております!全裸待機です!


序章
邂逅


もしかして、いやもしかしなくても自分が悪かったのではないだろうか。

この時になってようやく少年はそう悟った。

 

しっかりと言いつけを守っていればーーー

もしあの時ああしていたらーーー

 

だが、いかに後悔したところで状況が変わるわけではない。

少年は右腕に抱えていた手作り感の溢れる人形をぎゅっとその胸に抱くと辺りをせわしなく見回した。

その目に映るのは自身を遥かに超える太さの木の幹や地面に横たわる倒木、そして天を覆う無数の葉。

今はまだかろうじて木立の奥まで見通すことができるが、時刻はすでに暮六つ。辺りに闇の帳が降りてくるのもさして遠くないだろう。

そして森の中で闇を迎える、それがいかに危険なことであるのか。この少年は今になってようやくその片鱗を理解した。

右も左も分からない世界。ただでさえ視界が悪いというのに太陽という生命線を失うことの意味。究極的には夜を基本とする者たちの存在ーーー

 

少年は全身を襲う恐怖に耐えることができずにただただ震えていた。その足が一歩、ゆっくりとではあるが前へと踏み出す。

しかし次の一歩が前へと踏み出されることはなかった。再び少年はその場に縫い付けられたかのように動けなくなる。

どのくらいの時間そうしていただろうか。

世界はだんだんと色を変えていきーーー

 

そしてついに、日が沈んだ。

 

そこは同じであり、違う世界。

辺りを包み込んでいた鳥の歌声は既にない。

足元を陽気に駆け回っていた小動物たちの姿は既にない。

優しく包み込んでくれた陽の明かりは既にない。

そこにあるのは風が静かに木の葉を揺らす音。虫たちが奏でる演奏。

もしそこが自分の家の庭であったなら、少年はその綺麗な音色に瞼を閉ざしたことだろう。

だが、今の少年の耳にはその音色は届いていなかった。

いや、少し表現が適切でなかった。正しくは耳ではなく心だ。

木々たちが風に揺れ会話する音は不気味な音となり、虫たちが無心に演奏する音色は不協和音となり少年の心を責め立てた。

少年の頭の中をよぎるのは母の顔。

『絶対に森に入ってはいけない。もし森に入ったら迷ってしまって二度と出てこれなくなってしまう』

何度も何度も、それこそ毎日のように言い聞かされていた言葉だった。だが、だからこそ、その言葉は重みを失ってしまっていた。むしろ、何度も言い聞かされたことでそれは知らず知らずのうちに少年への挑戦状となってしまっていたのだ。

きっかけはささいなことであった。友達に臆病者呼ばわりされたのである。

数人に囲まれて臆病者臆病者と叫ばれては我慢できるはずもない。そこで少年は自分の勇気を馬鹿な友人たちに見せつけてやることにしたのだ。

そして、その結果が今の惨状である。

少年の心の中で無数のもしもが生まれては次々と消えていく。

 

もしも、母の言いつけを守っていたらーーー

 

もしも、あいつらが自分を臆病者なんて呼ばなければーーー

 

もしも、このまま帰れなくなってしまったらーーー

 

もしも、怖い”何か”が現れたらーーーーーーー

 

そんな少年の不安はふいに実態となって少年を襲った。

背後から静かに、だが確実に近づいてくる何かがいた。

しかしその影は音を立てない。まるで少年に自身を悟られたくないとでも言うかのように。

そしてそれは少年にとって大変不都合なことであった。

なぜならその影に気づくのが遅れてしまったからだ。

突然、かなりの勢いで少年の体が逆さに持ち上げられた。有無を言わさぬ力で持ち上げられた少年は半狂乱になって両腕を振り回す。

だが、そんな抵抗など無いに等しい。触手のようなもので少年を吊り上げている”何か”がうっすらと笑みを浮かべる。久々のご馳走だ、と。

と、不意に少年が持っていた人形がその手をすっぽ抜けて”何か”の顔へと直撃した。それに驚いた”何か”はうっかり少年を取り落としてしまう。

結果として地面へと叩きつけられた少年であったが、今はその痛みに呻いてる時間はない。一刻も早くこの場から、”何か”から離れなくてはーーー

 

 

□□□□□□□□□□□□□□□□□□□□□□□□□□□□□□□

 

 

どのくらい走っただろうか。

辺りは再び静寂に包まれていた。もうあの”何か”はいない。

だが、どうして安心なぞしていられるだろうか。心の臓はまるで早鐘のように脈動し、その目は落ち着きなく辺りを見回す。

闇雲に逃げ回ることでもはや完全に迷っていたがそんなことを心配している余裕はない。そんなことを考えている暇はない。

と、少年の耳が微かに聞こえる何かをとらえた。

この聞き覚えのある声は、この安心する声は、この毎日聞いている声は、母の声ではないか?

最初は聞き間違いかと思ったが、それは次第に確信へと変わっていった。

母の声が聞こえる。母が自分を呼んでいる。

きっといつまでも帰ってこない自分を心配して探しに来てくれたのだろう。

少年は声のする方へと無我夢中で駆けた。一刻も早くこの悪夢から抜け出したい。母の胸に抱かれたい。その一心で。

程なくして視界が突然開け、目の前に小さな小屋が現れた。

森の中にある山小屋、そんな出で立ちの小さな掘建小屋から母の声は聞こえている。

少しも疑問に思う気持ちなどなかった。

中に入ってきてくれ、という母の呼びかけに元気よく返事をした少年は小屋の扉を開く。

だが、中は暗くて母の姿を見ることはできない。

すると母は壁際に蝋燭があるから、扉を閉めてから灯りを灯してくれと言う。

素直に従った少年は扉を閉めると、真っ暗な部屋の中を手探りで移動し、ついに蝋燭に火を灯した。

ほっとするような蝋燭の暖かい灯。少年は満面の笑みで振り向いた。

が、その笑顔は一瞬で凍りついた。

 

そこにいたのは母などではなかった。

これはなんだ?と少年は純粋に疑問を抱く。

体を小さく縮こませ、小屋の奥の方に詰め込んだという表現がしっくりきそうなほど巨大な”何か”。

頭は猿、胴体は鳥で自身の丈の2倍はあろうかという長い尻尾を持つ巨大な”何か”が、その顔を醜悪な笑みに歪ませてこちらを凝視していたのだ。

 

「あれ…お母さんは…?」

少年は呆然と呟いた。あまりのことに頭が追いつかない。

そしてその巨体はその問いに答えた。お前の母など知らないと、そう答えたーーー母の声で。

 

長い尻尾が呆然とする少年の足へと巻きつく。再び少年の体を逆さに吊りあげるとニタニタとした笑みを一層濃く浮かべ、サル顔は縮めていた体を起こした。どうやら先ほど触手のようなものと形容したのは尻尾であったらしい。

サル顔が立ち上がったことでバキバキと他愛もなく小屋が壊れ夜空が顔をのぞかせた。

少年は今になって必死に抵抗しているが何も意味などなさない。

サル顔が大きく口を開け上を向く。そして少年を掴んだ尻尾も同時に上へと掲げられる。

ここまでくればサル顔が何をしてようとしているのか理解できない方がおかしい。そして少年もそれを理解した。してしまった。

少年が泣き叫び、狂ったように両手を大きく振るうがサル顔はまるでその様子を楽しんでいるかのように笑みを深めた。ゆっくりと少年の体がサル顔の口元へと運ばれていく。

そしてついにサル顔が少年を飲み込もうと一際大きく口を開けた瞬間だった。

 

少年が消えた。

 

サル顔は突然の出来事に混乱して顔を顰めた。

だが、そこで気づく。消えたのは少年だけでなく己の尻尾も消えている、という事実に。

それを理解してようやく痛みを感じ始めたらしい。サル顔が苦痛に大きく叫ぶ。

そして周りを見回してようやく事を理解した。

なんてことはない。何者かが自分の尻尾を切断し、少年を助け出したのだ。

だが、サル顔はそれを一切感知することができなかった。一体どれほどの速度をもってすればこのようなことが可能となるのだろうか。

サル顔の視線の先にいたのは1人の人間であった。

特徴的なのは腰をさらに超えるであろう長さの銀髪。そしてその銀髪を結わえる赤い髪飾り。小脇に少年を抱えた、百合の花を思わせる凛々しいその人間は、只々無感動に真っ直ぐサル顔を見つめていた。

赤い門貫袴を履いたその人間にサル顔は怒りの咆哮をあげる。同時にその人間を、自身の尻尾を引き裂いた下手人を八つ裂きにしてやろうとその腕を伸ばす。

もしこのサル顔にそれなりの知識があったのならもっと冷静な判断も下せたことだろう。

もしこのサル顔がそれなりの時を生きた妖怪だったならきっと思い出したことだろう。

かつて妖怪社会を恐怖に陥れた人間の話を。

 

次の瞬間、サル顔に訪れた運命は単純明快なものであった。

しかし、サル顔はそれを理解することができない。なぜ自分の体が見える?

理由は単純である。首を落とされたのだ。

だがサル顔はそれを理解できないまま事切れた。

赤い門貫袴を履いた女性はそれを確認することもなく少年を地面に降ろすと、一言も発することなく少年に背を向けた。そしてあろうことかそのまま立ち去ろうとしてしまう。

これに焦ったのは少年である。だが、なんと声をかければいいのかがわからない。

助けてくれてありがとう?

さっきの化け物は一体なに?

様々な疑問が浮かんでは消えていく。

だが、そうして逡巡している間にもその女性は森の中へと紛れてしまいそうだった。

ついに意を決した少年が口を開いた。

 

「あなたは・・・誰ですか…?」

 

蚊の鳴くような小さな声。少年の問いかけは木々のざわめきに紛れて消えてしまう。

だが、その女性は足を止めた。

しかしこちらを振り向くことはない。

少年は待った。その女性が、命の恩人が言葉を紡ぐのを待った。

永遠にも感じられる時間の後、ついに女性が答えを告げた。

振り返りもせぬまま告げられたその名は、しかししっかりと少年に届いた。

そして少年はその名を口の中で静かに反芻する。

 

 

 

ーーーーーー藤原妹紅、と。

 

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