一体いつになったら本編に入れるのだろうか!!
甲高い悲鳴が響いた。そして何かが地に倒れ伏す音が続く。
最初、うるさいほどに感じられた悲鳴は段々と力を失っていき、次第に弱々しく鳴くだけになったそれもついに途切れた。
そこへ1人の少年が近づいていく。
年齢は16.7ほどであろうか。
その少年は死体のそばへ膝をつくとその体に深々と刺さった矢を引き抜いた。
「よし、今晩のおかず獲得っと」
少年はそう呟くと腰に提げていたナイフを抜いてそこに横たわる鹿を捌き始める。
自身の身の丈ほどはあろう大きさの鹿をそのまま持ち帰るのは大変だと判断したのだろう。食べられる部位を黙々と切り出しては背中につけた籠へと放り込んでいく。
最後に少年は鹿に頭を下げると立ち上がり踵を返した。これだけあれば十分だろう。
少年は重い荷を背負っているとは思えないような、むしろ身1つの状態でも到底無理と思えるような速度で木々の間を駆け抜けていく。
時に岩の上を跳ね、時に木々の枝々を足場にして。
少しして少年は崖の上にある洞窟の中へと入っていった。
「妹紅さん、帰ったよー」
しかし返事は得られない。
だが少年が浮かべたのは呆れ顔だった。
ひとつため息をつくと洞窟の奥へと進んでいく。
そこにいたのは御座の上に腰を下ろして眠る女性だった。
「妹紅さん」
少年が呼びかけると女性、藤原妹紅は顔を上げた。
特に返事はなかったが少年は気にした様子もなく言葉を続けた。いつものことなのだ。
「でっかい鹿がとれたけど食べる?」
すると妹紅はようやく口を開く。
「んー…いらない」
「じゃあちょっとご飯にしてくる」
「あんた今日の鍛錬は?」
「自分でできる分は終わらせたよ、もう少ししたら手伝って」
妹紅はだるそうに返事をすると再び目を閉じた。
昼間っからダラダラと寝ている妹紅だが、実は妹紅は睡眠や食事を必要としない。
ある出来事がきっかけで不死身の体となった際に食欲や睡眠欲をなくしてしまったのだ。たとえ何年何百年と食事、睡眠をとらずとも何ひとつ体調を崩さぬまま生きていける。
それでも妹紅がダラダラと寝てばかりいるのは他にすることがない為だ。
寝ることが唯一にして最高の時間潰し、そう考えているのである。
ふと、洞窟の外からいい香りが漂い始めた。
少年が鹿肉を焼いているのだろう。
しばらくその匂いを嗅いでいた妹紅は、ふと腰をあげると洞窟の外へと足を運んだ。
「雪風」
名を呼ばれた少年は顔をあげると物珍しいものを見る目で妹紅を見つめた。
実際、雪風が食事の準備や食事をしている時に妹紅が話しかけるのはとても珍しい。いつもなら確実に寝ている。
妹紅が起きているのは基本的に雪風の鍛錬の時間だけなのだ。
一体どんな心境の変化なのか、妹紅は雪風の隣に腰を下ろすと火に焚べられていた鹿肉に手を伸ばした。
雪風が目を丸くして見つめる前で鹿肉を一口頬張るとその綺麗な柳眉をひそめる。
「…生焼けじゃないか」
「誰も焼けたなんて言ってないよ…」
呆れた調子で雪風が答えるが、妹紅は気にした様子もなくそのまま鹿肉を一口、また一口と頬張っていく。
やがて妹紅は近くに置いてあった汲み水を飲むと大きく伸びをした。
「どうしたの急に」
「いや、暇だったからな。久しぶりに食べてみようかと」
そう答える妹紅に雪風はようやく焼きあがった鹿肉を平らげていく。
しばらく続いた沈黙を先に破ったのは鹿肉を食べ終えた雪風だった。
「どうだった?」
「ん?何が?」
「これ。おいしかった?」
「まずくはない、といったところね」
その答えに雪風は苦笑を浮かべた。
「そういえば妹紅さんはなんで食事をしないの? いつも暇だ暇だって言ってるし、別においしさは感じるんでしょ?」
「そりゃもちろんおいしさは感じるよ。味覚までなくした訳じゃないからね。でも食欲はなくした。雪風、あんた全くお腹が空いてない時に何か食べたいって思う?」
この答えに雪風は納得した様子で首を振った。
なるほど、確かに食欲がない時には何か食べたいとは思わないものだ。
「そういうこと。別に食べてもいいけど、それならまだ寝てる方が楽なのよ。さ、鍛錬始めるよ」
「えー、まだ食べ終わったばかりだよ…少し休憩したいんだけど」
「あんた、もし食事を終えたばかりの時に敵が襲ってきたらそう言うの? 敵が あ、わかりました待ちましょう てなればいいんだけどね」
そう言うや否や、妹紅はいきなり雪風が座っていた場所にどこから出したのか、刀を振り下ろした。
だが、次の瞬間には雪風は大きく飛び退って距離を取っていた。
飛びすさりながらも腰に下げていた刃渡り30センチほどの短刀を抜き放ち、悠に構える。
「ちょ、妹紅さん不意打ちとか卑怯だよ」
雪風が不満をたれると妹紅は何も気にした様子もなく雪風の元へと踏み込み、刀を横薙ぎに払う。
「それ、敵にも同じこと言える?」
刀を短刀で防いだ雪風はお返しとばかりに斬撃を繰り出す。
「あーもーわかったよ!」
雪風が短刀の軽さと短さを活かした素早い斬撃を次々と打ち込んでいくが妹紅は涼しい顔でそれら全てをいなす。そらどころか妹紅は大振りの刀を使っているというのに片手しか使っていない。
鍛錬。
雪風は本物の短刀を使っているが、妹紅は刃を潰した刀を使っている。
これは雪風が本物に慣れるため、そして妹紅が斬られてもすぐに再生するためだ。
かれこれ5年は本物の短刀を使って鍛錬している雪風だが、しかし妹紅に傷の一つでも与えられたことは一度もない。
雪風がどんな攻撃をしても妹紅はその全てを軽々とあしらっていく。
その攻防は凄まじいものだった。
目で追うのが難しいほどの光景は、並の武士であれば驚愕の表情を浮かべるだろう。
もしかしたら頭を地に擦り付けて教えを請うかもしれない。
しかし雪風が顔に浮かべているのは苦渋だった。
自身の限界を持って攻撃しているが、妹紅は未だに涼しい顔をしている。片手に本を読んでいるかのような雰囲気さえある。
いつになったら一本取ることができるのだろうか。
そう考える雪風の思考は、鳩尾に妹紅の足がめり込むことによって中断された。
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村に出ていた雪風は道行く人々からある噂を聞いた。
なんでも、とあるやんごとなき方が近くの城下町に姿を見せたらしい。
結局、最後までその方がどなたなのかは分からなかったそうだが、大変見目麗しかったらしい、ということだ。
それを話半分に聞いた雪風はその噂を話していた人、店主から金を受け取った。
昨日余った鹿の肉を村へと売りに来たのだ。
森で妹紅と暮らしてはいるが、時たまこうして村へと足を運ぶこともある。
すべての用事を終えて森へ帰りながら、雪風は今日聞いた噂を思い出していた。
なぜか昨日は妹紅さんが珍しく話しかけてきた。
帰ったらこの噂をきっかけに話をしてみようかな。
自然と口元に笑顔を浮かべた雪風は軽い足取りで森へと消えていった。