本当にありがとうございます。
さて、今話は王を見限った匙きゅん……に続き、木場きゅんのお悩みと、オマケです。
俺の所に顔を出し、不平不満を毎日のように愚痴りに来るようになってから、何時かはこうなるんじゃないかとは思ってたが……ふむ、どうやら匙同級生は完全に現状から脱却したがってしまったようだ。
まるで昔の俺みたいに兄貴シンパと化してしまった周りを拒絶し始めてる。
ん? それは嫌な事から逃げてるから悪いことじゃないのかだと?
いや、別に俺はそんな事思わんな。
そもそも俺は『黒神めだか』みたいな『王道』な道を歩んでる訳じゃないし、今じゃ兄貴シンパ化してる肉親よりも遥かに超越している強い繋がりがある人達が俺を俺としては認めてくれているのだ。
これが黒神めだかなら、兄貴すら改心させてしまうのだろうが俺は違う。
最早、兄貴の洗脳じみた魅力なんて何の効力もない皆との繋がりをさえあれば、更なる人数の女性を虜にして肉体関係を持とうが何してようが俺はどうとも思わん。それが兄貴のやりたい人生なんだろう? だったら勝手にやればいいよ……俺の大事な人達に干渉さえしなければな。
あぁそうさ……俺ってかなり性格が悪いぞ?
人であって
だから、友人である匙同級生がそうしたいのであれば俺は匙同級生――いや、元士郎を全力でバックアップするつもりだ。
かつて白音と、その姉の黒歌の身に降り注いでいた『
なじみの言ってた通り兄貴が俺の『成り代わり』とやらになってるのであれば、俺は構わんと思ってる。
昔はその理不尽さに絶望したが、さっきの通り俺にはもうそれすら小さく見えてしまう程の大事な繋がりが出来たのだ。
故に成り代わりになりたければなれば良い。
俺はお前の存在を否定も肯定もしない……兄貴の魅力に身体を明け渡す連中についても同じくだ。
勝手にやってろ学園内以外でならな――――尤もこれだけは言っても連中は聞いてくれんが。
「中止とはな……」
さて、そんな訳で匙同級生がシトリー3年に完全な反抗心を示してから数日の今日、待ちに待った球技大会当日となったのだが、俺達は今生徒会室でのんべんだらりとしていた。
理由はそう……窓の外に映る強い雨が理由で球技大会が中止となってしまったからだ。
一応午前までは晴れてたので、一試合ずつはできたのだが……うむ、思いきり身体を動かそうと思ってたので、この中止を受けて実に残念な気持ちとなってしまった。
なので、有り余る体力を発散しようと思った俺は――
「2602……2603……2604……!」
「一誠様ファイトですわ!」
背中にレイヴェルを乗せた腕立て伏せに興じていた。
フェニックス家で鍛練していた頃と比べると、明らかに戦闘勘が鈍ってしまってるし、久しぶりにレイヴェルと二人きりだという変な理由で基本的な筋力トレーニングをやりながら会話をする。
家に居る時と大体同じような内容の会話なのだが、最近はレイヴェルが近くに居て当たり前と思ってるせいか、変な安心感も感じる。
「4000っと……ふむ、こんなもんかな」
「お疲れさまです」
恐らく長く居たからだろうか。
上手くは言えんが安らぐんだよね……実家に居るような気分というか。
一番素になれる相手の一人なのが俺にとって大きいからだな。
「それにしても、今日も木場同級生は心此処にあらずだったが大丈夫だろうか……」
一通りの筋力トレーニングを終え、軽く流した汗をタオルで拭き取った後、脱いでたYシャツに袖を通しながら此処数日の木場同級生についてふと思い出したように声に出す。
というのも、俺達と共に居る時でも球技大会の時でもずっと何処かボーッとしてるというか、何かを考えているというか……。
「最近街に新しい気配を感じる……」
最近街の空気もそれと平行して違和感を感じる事が多くなった。
こう、淀みがあるというか……よからぬ前兆というか。
これは調べるべきなのか……うむ、迷うな。
出る杭をさっさと地中に埋め込むべきなのは分かるが、木場同級生の様子がこの違和感と関係があるのなら、何も相談されてない状況で動くべきではないのか。
「堕天使・コカビエルが天界陣営が保管している聖剣を奪取してこの街に現れたみたいですわね。
昨日兄から連絡が……」
「何?」
迷う。
そんな俺の考えを察してたのか、お茶の用意をしてくれたレイヴェルが兄から連絡があった話を俺に説明してくれたのだが……。
「天使陣営とはまるで関わりも興味もないから聖剣は良いとして、コカビエルというのは……」
「ええ、一誠様のお察し通りですわ。
「…………」
俺としてはコカビエルという名前の方が気になり、確認の意味合いでレイヴェルを見つめると、レイヴェルはコクリと頷いて肯定して見せたので、多分今の俺は渋い表情になって小さく唸った。
コカビエル……聖書にも乗ってる有名どころの堕天使――――なのはどうでも良い。
肝心なのは……。
「ふむ……他人事って訳にもいかなそうだこれは」
成り代わりとやらになってくれた兄貴とその取り巻きにはちと荷が重い相手だし、何より様子のおかしな木場同級生の理由がそれなら無視なんてできない。
俺は近々起こるだろう大きな騒ぎを急に降りだした雨の様な不穏な空気と共に予感しつつ、鍛練を怠らぬよう戒めるのであった。
最近の僕は前に比べたら大分ストレスを感じなくなった。
それは、兵藤くんの双子の弟でありこの学園の生徒会長である兵藤一誠くんが僕達に向けて言ってくれたこの一言のおかげだった。
『木場同級生も匙同級生も暇だとか居心地が悪いと思ったら何時でも来い……。愚痴くらいなら俺でも聞けるからな』
双子の兄のしていることに対しての謝罪のつもりなのかは図りかねなかったけど、僕は少なくともその言葉が何よりも嬉しかった。
兵藤君が仲間として加わってから徐々に感じるようになった疎外感と人目も憚らずやっていることによる居心地の悪さで胃がキリキリ痛むほど辛かったので、余計にイッセーくんのその言葉に救われ、甘えてしまう。
だからこそ僕は言えない。
いくらイッセーくんがフェニックスさんと親しく、
最近見てしまったあの写真のせいで、僕の復讐心が戻っていることに。
「最近の貴方はおかしいわ。
兵藤一誠に何か言われたか知らないけど私に小猫共々反抗
するし」
「………………」
恐らくイッセーくんはこんな気持ちを持つ僕を軽蔑するかもしれない。
だから言えない……言いたくない。
「……。私も祐斗先輩も反抗じゃなくて単なる意見を言っているつもりなのですが」
「っ……とにかく二人ともこれ以上彼と関わるのは止めて頂戴。
セーヤが言うには、彼は他人を言葉巧みに騙すような――」
「失礼します」
「っ! 待ちなさい祐斗!」
「文字通りに話になりませんね」
「小猫まで! 話は終わってないわよ!!」
今の僕は、思い出した復讐心で視界がぼやけてるだなんて……言えないよ。
「ハァ……リアス部長にも困りましたね。
予想はしてましたけど、兵藤先輩が一誠先輩についてあること無いことを吹聴し、それを全面的に信じてますよ」
「はは、そうだね……」
この前匙くんがシトリー様に対して『眷属脱退』を堂々と宣言してから、あからさまに部長が僕達に対してイッセーくんとの接触をさせまいとしてくる。
だけど塔城さんはそんな部長の言葉を殆ど無視しており……こうして生徒会室に一緒に向かってる僕も同じくだ。
匙くんの言った通り、兵藤くんを取り合ってる光景をただ眺めてるくらいならイッセーくんのもとへ行った方が比べるのもおこがましい程にマシだと最近は思い始めてしまってる。
というより、兵藤君にとってすれば男である僕が居なくなった方が都合が良いんだろうなと思うんだ。
この前だって『嫌なら眷属をやめたら?』なんて平然と言ってきたしね……女の子である塔城さんには言わなかったけど。
「それにしても、祐斗先輩は大丈夫なのですか?」
「ん、何がだい?」
部長には拾われた恩がある。少なくとも兵藤くんが加わる前の部長には本気で忠誠を誓っていたつもりもある。
けれど最近の部長は本当に変わってしまった。
兵藤君を他の女性と取り合いし、それに夢中すぎて本来の悪魔の仕事はほぼ放棄。
その穴を僕等が何とか埋めてきたけど……ふふ、もう色々と限界なんだよ。
匙くんじゃないけど、眷属をクビにしてくれるならしてくれて良いくらいだ。
その方が、よくよく考えても復讐に走りやすいし……って、こんな事を考えてるのが塔城さんにバレてるみたいだけど。
「確か兵藤先輩の自宅で写真を見てから様子が変わりましたよね? ………剣が写ってる写真を見てから」
「え、あ……」
「私は……今だから言いますが、昔助けてくれた人――つまり一誠先輩の行方を探るため、権力があって加わりやすい悪魔に転生しただけなので、他の皆さんが何故リアス部長の眷属になったのかは深く知ろうとしませんでした。
が、今になってそれを後悔してます……祐斗先輩が何故悪魔に転生したのかを知らないのを」
「と、塔城さん……」
うん、僕もキミがそういう理由で悪魔に転生したなんて初めて知ったよ。
でもごめん……。
「言えない。
いや、本当は言って楽になりたいけど、これを言ったらイッセーくんに幻滅されるかもしれないし……」
剣……それも強い力を込められた聖剣と呼ばれる代物を恨んでいるだなんて言えない。
だってこれは僕個人の問題であり、無関係のイッセーくんが関わるべき事じゃないんだ。
僕の復讐とイッセーくん達は関係ない……。
「……。そうですか。
恐らく何をカミングアウトしても一誠先輩は幻滅なんてしないと思いますが、言いたくなければ深くは聞きません。ただ……」
ただ言えないとだけしか言えない僕を見て察したのか、気を回してくれたのか、深く追求することなく頷いた塔城さんがジーッと……『まるで見透かす』ように僕を見つめると……。
「勝手に居なくなるのはやめてくださいね? そうなったら友達の少ない一誠先輩や私達が全力で探し、無理にでも連れて帰りますので」
「うっ……」
心臓を鷲掴みにされたかと思うような一言を、軽く口元を緩めながら言ってきた。
そしてその瞬間気付かされ、自然と乾いた笑い声が無意識に出てしまう。
「ふ、はは……連れて帰るか。
今のリアス部長達から同じ台詞は聞けそうもないし、最近は期待もしてないけど……そっか、塔城さんやイッセーくん達なら本気でやりかねないな。はは、参ったよ」
そうだ……言えないだ何だのと言い訳がましく思っているけど、本当のところの僕は言いたいのだ。
聖剣のせいで大切な人達を奪われ、聖剣のせいで失い、聖剣のせいで心が晴れない。
だから自分は存在する聖剣を全部壊して楽になりたいと、僕に安心感を与えてくれるイッセーくんに全てぶちまけたいのだ。
恐らく塔城さんの言う通り、聖剣に対する拭えない復讐があると言ってもイッセーくんは幻滅なんてしないだろう。根拠なんて無いけど何と無く確信できる。
不思議だな。
会って間もないのに、こんなにも僕は彼を信頼している。
初めて見た時に感じた絶対的なオーラに平伏させられる気持ちになったから? それとも話してみるとビックリするくらい気さくだったから? それは分からないけど……。
「ねぇ、兵藤くんに傾倒してる女性達ってこんな気分なのかな塔城さん?」
「は?」
「会ってまだそんなに経ってないのに、何故か僕は彼に話をしたいと思ってるからさ」
「あぁ……。一誠先輩も友達が少なく、強者オーラを纏ってるせいで近寄られませんからね。
慕ってくれる人が居ると心のそこから嬉しくなって面倒見が良くなるんですよ」
復讐がしたいと言っても、イッセーくんは否定せず僕を受け入れてくれる。
だから今は話しても良いかもしれない……そう思えてならないのさ。
次章……過去との決着と這い上がる男の子達に続く。
オマケ
その頃の黒猫お姉ちゃん……その2
イッセーは学校に行ってて家に居ない。
本当は本人にこうしたいけど……
「イッセーの使ってる毛布……イッセーに包まれてるみたいで最高だにゃ~♪」
いきなり出て来ても困っちゃうだろうし、何よりも白音曰くレイヴェルって子に邪魔されちゃう。
勿論そんな事で私も白音も諦めないけどね。
「イッセーのYシャツ……イッセーのパジャマ……イッセーの下着……えへ、えへへへ♪」
追われていた私達を偶然通りかかった、まだ小さかったイッセーに助けられ、ボロボロに疲弊した身体を不思議な力であっという間に消し、挙げ句の果てにははぐれだった現実と転生悪魔だった現実まで『無かったことに』否定し、自由の身にしてくれた。
あの時のイッセーは私達に……
『修行してる最中の偶然が重なったからな。別に感謝しなくてもいいぞ。
寧ろ俺としても
力の名称? を話ながら、お礼なんて言葉が生温い恩を抱く私と白音にそう告げながら行ってしまった。
本当ならその時点で何かしらの理由を付けて引っ付いてしまえば良かったのだが、修行の邪魔になってしまうと考えると躊躇してしまう。
だから絶対に再会しようと心に誓い、今度会ったときは絶対に強くなってるだろう姿を思い浮かべながら、私と白音も出来る限りは己を高めた。
そのお陰かは知らないけど、私には種族の力とは別の……変な力が備わった気がする。
名前はわからないけど、これを意識して使うと『誰も私に気付かない』のだ。
真後ろに立とうとも、頬をつついてもその人は私に気付かない。
暗殺とかにめちゃくちゃ便利なよくわからない力。
それがあるから……ふふ♪
「イッセーに気付かれないのは寂しいけど、おかげでこうしてイッセーの物を堪能できるにゃん……♪」
イッセーの私物を堪能できる。
正直、一度目で止めようと思ってたけど止められない。
イッセーの匂いがする服や、布団にくるまうだけで薬物みたいな依存性が……
「あ、ぁ……お腹が切なくなって来ちゃったにゃ……ん……っ……」
有り体にいうと発情しちゃう……ってことだにゃん。
でも誤解しないでね……この気持ちになれる相手はイッセーのみだよ。
本日の黒猫お姉ちゃんが手にした私物。
イッセーの毛布。
イッセーが昨晩洗濯籠に入れた、洗う前のYシャツと下着。
本人にストーカーの自覚は…………無い。
その夜。
「…………? なんだ、最近俺の毛布やら布団からレイヴェルでも白音でもない匂いが……?」
「どうされました一誠さま?」
レイヴェルが住むようになってからの一誠は、寝室を空の押し入れにしており、今日も疲れた身体を休めようと使用してる毛布を被ったのだが、この前からマイ毛布から一緒に住んでるレイヴェルでも、高頻度で遊びに来る白音でもない別の匂いがする事にとうとう気が付き、首を捻りながら此方に近づくパジャマ姿のレイヴェルを一瞥する。
「…………」
「一誠さま? 私の顔に何かついて――」
そして何を思ったのか、お風呂上がりで髪を下ろしてるレイヴェルをひょいと抱えると、驚く暇も与えず――
「すんすん……」
確かめるよという意味合いでレイヴェルの身に鼻を近づかせて嗅ぎ始めたのだ。
こう、首筋辺りをすんすんと……。
「る……うぇ……? な、な、何ですの急に……!? く、くすぐったいですわ……ぁ……」
「いや、ちょっと確かめたくてな……やはりレイヴェルじゃないか」
いきなりこんなことをされたレイヴェルも、まだすんすんしてる一誠に対し、首筋に感じるよう擽ったさと何かて
、変に艶っぽい声を出しながら頬を染めて悶えてしまう。
「ぁ……っ……ま、まさか漸く私と一緒に寝てくださるのですか……? そうだとするなら、レイヴェルはとても嬉しいです……」
今まで必要以上に触れて来なかった一誠が、こんな大胆な行動をしてきた理由を、そういう意味で捉えたレイヴェルはいよいよ待ってましたとばかりに目をとろーんとさせながら一誠の身体にもたれ掛かる。
が、一誠はレイヴェルを抱えたまま不審そうに首を傾げてるだけだ。
「やはりレイヴェルじゃないか……。
どちらかといえば白音に近いような……?」
「い、いやん一誠さまぁ……最初は優しくして欲しいですわ……♪」
一誠はマイ毛布に付いてる覚え無き匂いを確かめる為に…………とは知らずにスッカリ『デキあがってます状態』となったレイヴェルは、真っ赤な顔でこれからされるだろう事について夢想しながら身体をくねらせている。
当然一誠からこの後何にもされずに終わるとはこの時まだ知らずに……不憫なまでに。
終わり。
補足
居心地の悪さと疎外感の反動と、最近聞かされた
とはいえ、拭いきれない復讐心はそのままですがね……。
その2
黒猫お姉ちゃんは……まあ、シャ、シャイなんですよ。
だから一誠の私物をハスハスと……。
とはいえ、流石に勘づかれ始めてますが……。
ちなみにそ後の一誠とレイヴェルは何をするでも無く普通に別々で寝ました。
レイヴェルの寝てるベッドから、グスグスという泣き声と……じゃっかんの『アレ』な声が聞こえたとか何とかありますが……。
ちなみに一誠は別に匂いフェチじゃあないです。
無いですが、自分が大切だと思ってる人達の匂いを普通に覚えるという犬みたいな習性があります。
ちなみに一番の好みは言わずもながら……レイヴェルたん。