生徒会長イッセーと鳥さんと猫   作:超人類DX

18 / 65
取り敢えず更新、またグダグダです。

※加筆と修正をしてもグダグダです。


もっと這い上がれ、木場きゅん!

「バラバラタイムのお時間だぜぇぇぇっ!!!」

 

 

 これでもかと狂い咲きながら聖剣を振り回すは、左目を失った元・悪魔祓いのフリード。

 復讐の為に形振り構わず実力を増したこの少年を迎え撃つは、現役悪魔祓いのゼノヴィアと転生悪魔である木場祐斗だ。

 

 

「ぐっ! 魔剣創造(ソードバース)!!」

 

「テメェの太刀筋は読めてんですぅぅぅ!!」

 

 

 廃墟を派手に壊し、祐斗の持つ神器(セイクリッドギア)である魔剣創造(ソードバース)によってあちらこちらに出現する魔剣を時には空を舞い、時には地を縫ったりと、一見しなくても無駄にも見える散漫な動きをしながら次々と天閃の聖剣で破壊していく。

 

 

魔剣創造(ソードバース)とはレアな神器ですなぁ! だが俺っちの聖剣様の前では紙屑同然よ!!」

 

「っ……!」

 

「き、木場……! このっ!」

 

「はっはっはっ~!! どうした元・同僚ちゃん、早く助けねぇと愛しの悪魔くんがおっ死んじまうぜぃ!!」

 

 

 兵藤誠八に殺されかけた怨みだけが、今のフリードの戦闘能力を増大させた結果、祐斗とゼノヴィアという剣のスペシャリスト二人を同時に相手とっても有利に立ち回れていた。

 

 

「オラオラどうしたんだラブカップル! そんなんじゃあのクソ悪魔をぶち殺す為の肩慣らしにもならねぇぜ!!」

 

「ぐはっ!!」

 

「き、木――」

 

「おっと、余所見は行けねぇぜ元・同僚ちゃんよぉぉっ!!」

 

「ぐぅっ!?」

 

 

 精度の問題か、それとも相性の問題か。

 出現させては尽く破壊される魔剣と、フリード自身の無駄に見えるようでまるで読めない太刀筋と体術により翻弄された祐斗とゼノヴィアは、砂埃を巻き上げながらフリードに蹴り飛ばされ、派手に壁に背中を叩き付けて崩れ落ちる。

 

 

「はっはっはっ~! 土下座してまで旦那に頼んだ甲斐があったぜぇ?

此処まで俺っちは強化しちまったんだからなぁ~♪」

 

「くっ……ぅ。

ま、参ったな。バルパー・ガリレイを追う前にとんだ伏兵に出くわしちゃったよ……」

 

「よ、余程兵藤誠八にやられたのが悔しかったのだろうな、此処まで聖剣を使いこなしているとは……」

 

 

 突き刺さるような前蹴りにより、腹部に鈍く残る痛みに顔を歪めながらヨロヨロと立ち上がる祐斗とゼノヴィアは、割りと本気で困った。

 言ってることは一々小悪党じみたフリードが、予想よりも遥かに強いのだ。

 

 魔剣を自在に召喚して扱えても、フリードの体捌きと聖剣に紙屑同然に切り壊され、天閃と呼ばれる力で太刀筋すら目視しずらい。

 転生悪魔の身と騎士という位を持つ故にスピードでは何とか食らい付いて行けてるものの、それでもギリギリで致命傷は避けるがやっと。

 体力的な問題もあるので、今の自分と隣で肩で息を切らしているゼノヴィアを見ても、それが何時まで持つか分からない。

 

 

「そぅら!! 休ませねぇぞぉぉぉい!!」

 

 

 その癖フリード自身は化け物かと思うほどに疲れ知らずな様子で突撃してくる。

 まさに防戦一方……。祐斗は此処に来て一誠達に連絡しなかった自分を後悔し、派手に周りの物を『見えない太刀筋』で破壊しながら突撃してくるフリードを気合いを入れて睨み、その手に取り敢えず耐久性に長けた剣を創造し、構えながら同じく破壊の聖剣(エクスカリバーディストラクション)を構えてるゼノヴィアに声を掛ける。

 

 

「ごめんよゼノヴィアさん、僕のミスだ。

もっと早く一誠君達に連絡して応援に来てもらえればこんなことには……」

 

 

 ゼノヴィアに差し出された聖剣を壊しても気分が晴れる訳じゃないしと格好付けたばかりか、代わりに現れた聖剣使いとの戦いは自分の未熟さでこの様。

 

 いくら任務の為と協力し合ってるとはいえ、完全に巻き込んでしまったと言葉弱く謝る祐斗に、ゼノヴィアは一瞬だけ目を丸くするが、今はそれどこじゃないと激を飛ばす。

 

 

「弱音を吐く暇があるなら構えろ! 奴は待ってくれんぞ!」

 

「そ~いう事でーっす!! とっとと死ねやゴラ!」

 

 

 そもそも何で謝られてるのかよく分からないゼノヴィアとフリードの狂気じみた声が重なり、常人にはとても見えない程の剣撃が鎌鼬の様にゼノヴィアと祐斗に迫り来る。

 

 

(くっ……偉そうにしてまだ僕は弱いだけの子供じゃないか! 何が……何が聖剣が憎いだ!)

 

 

 ゼノヴィアに迫るフリードの剣撃から、せめて守らんと咄嗟に彼女に飛び掛かり、無様に床を転がり回る中祐斗は己の不甲斐なさを呪った。

 主を見限り、自分を否定せず迎え入れてくれた彼等に希望を見出だしたのに、その恩に報いるだけの強さも無いまま……。

 

 

「おいおいおい! 愛しの彼女を守るために埃まみれたぁ泣かせますなぁ?

でーも俺っちは容赦しまっせーん!! ヒャハッ!!」

 

「うぐっ、くっ……!」

 

「ば、馬鹿何をしてる!? 私なんか庇う暇があるならその隙を突けば……!」

 

 

 サディストの様な笑みを浮かべながら、ゼノヴィアを庇いつつ床を転げ回る祐斗に追撃するフリードと、庇われて驚きながら思わず怒ったような声を出すゼノヴィアに挟まれながら祐斗は思う。

 

 

(確かにゼノヴィアさんを庇う暇があるんだったら、さっきこのフリードが彼女に攻撃した隙を突けば良かったと思う。けど違う……! もしも一誠くんが今の僕の立場なら、このフリードも倒し、ゼノヴィアさんも救ってる筈だ! だから僕は――)

 

 

 誠八の双子の弟という理由で何となく距離を置いていたが、結局はその一誠に疎外感という心を救ってもらった彼ならこの状況も切り抜けて見せる筈。

 ならそんな一誠の友人でありたい自分だって、この程度の修羅場を潜り抜けられずして友人と言えるか?

 否……断じて否! 泥まみれになっても良い、みっともないと笑われても良い……それでも失うより遥かにマシだ! 祐斗は知らず知らずの内にその目は力を取り戻していた。

 

 

「庇うと託つけて悪魔祓いちゃんとイチャコラしたいんですかぁ? 早く掛かってこないとマジで殺しちゃうよーん?」

 

「そ、そうだ木場! 今日がまともに知り合ったとも言える私なんてどうでも良いだろ! だから早く離れるんだ!このままでは二人とも共倒れに――」

 

 

 

 

(ま、まだ……まだだ……! 今のフリードは完全に油断してる。

自分が有利だと思って完全に隙を作っている……後はこの隙を――)

 

 

 王道(ヒーロー)卑怯(アンチヒーロー)も肯定する一誠に倣い、祐斗はただ転げ回る祐斗目掛けて聖剣を振り回して弄ぶフリードに、劣勢で何とか避けていると見せ掛けて徐々にその距離を縮めていく。

 壊れた備品で腕や背中が傷だらけになろうとも、本人に知らせずそれに付き合わせてるゼノヴィアを庇いながら少しずつ、少しずつその場を動かず油断しきってるフリードへと詰め……そして――

 

 

「よーし、もう死んでくれや悪魔くんよぉぉっ!!」

 

「っ!」

 

 

 その時は訪れた。

 互いに完全な間合い(エリア)内へと入った瞬間、フリードが隙だらけに剣を振り上げたそのタイミングを祐斗は見逃さなかった。

 

 

「今だ! 魔剣創造(ソードバース)!!」

 

 

 振り上げたその瞬間に出来た大きな隙に、すかさず祐斗はゼノヴィアを抱えたまま右手を前に翳し、短剣サイズの剣を創造しフリードの鳩尾辺りに真っ直ぐ投げ放った。

 

 

「ガッ!?」

 

 

 復讐の為に力を得た。報復する為にプライドを捨てた。

 しかしそれでも……ほんの少しだけ残ってしまった心のムラッ気がフリードの身体を貫いたのだ。

 

 

「がは……て、てめぇ……!」

 

 

 ビチャリと口から鮮血を吐き出しながら、狂気じみた笑みを引っ込めたフリードは聖剣を振り上げたまま痛みにより動けないまま足元で自分に手を翳して睨む祐斗に目を見開くも、祐斗は素早かった。

 

 

「ハァッ!!」

 

「ごぎゃっ!?」

 

 

 フリードの持っていた聖剣を叩き落とし、これでもかと自分の同じく砂埃をまみれで目を丸くしてるゼノヴィアを横に祐斗は床を蹴りバネの様に勢いを付けた拳をフリードの顔面に叩き付ける。

 

 

「まだ、まだだッ!!」

 

「ぐぎ!がッ!? がふっ!?」

 

 

 完全に隙を突かれて致命傷を負ってしまったフリードに更なる追撃として、騎士ならぬ徒手空拳というスタイルでフリードの全身に可能な限りの連撃を加えていく。

 

 

「き、木場……」

 

 

 その様子を床にヘタリ込んだゼノヴィアはただ唖然としながらポツリと騎士なしからぬベタ足インファイト状態の、悪魔にしては変な気分になる金髪の青年を見つめて小さく声を洩らす。

 

 

「こ、この隙を伺ってわざわざ転げ回ってたのか……」

 

 

 私を庇うくらいなら……なんて言っておきながら、実際は相手に自分を有利だと思わせて隙を突かせる作戦だったとは……。

 これでもかと殴り続ける祐斗と見つめながら、ゼノヴィアは何となく恥ずかしくなった。

 

 

「うぉぉぉぉっ!! これで最後だ!!!!」

 

「ぐ……ほ……!」

 

 

 たった一つの隙で戦局が変わる。

 その言葉のお手本のような戦闘は、祐斗による渾身の右ストレートがフリードの頬に突き刺さり、ゴムボールの様にバウンドしながら数十メートル程吹き飛んでピクリとも動かなくなった所で決した。

 

 

「ハァ……ハァ、ゼェ……」

 

 

 立っているのは、疲弊した身体で息を切らす祐斗。

 紛れもなく祐斗の勝ちだった。

 

 

「き、木場……」

 

「ハァ、ハァ……。く、ふふは……や。やっぱり僕は塔城さんや一誠くんみたいに徒手空拳のセンスはあんまりないな……はは……ぐっ!」

 

「お、おい!」

 

 

 ヘラヘラと自嘲する顔で笑っていた祐斗だったが、隙を作らせる際に致命傷とまでは行かないものの、悪魔にとっては猛毒とさえいえる聖剣の太刀を肩に受けてしまった様で、アドレナリンが切れたのか、苦痛に顔を歪ませながら倒れそうになる祐斗に、ゼノヴィアは自分の立場を忘れて思わず駆け寄ってその身を支える。

 

 

「私なんか庇ってるからこんな傷だらけに……」

 

「きょ、協力者だからねキミは……それに、何となく目の前でキミが傷つけられるのは見たくなかったというか……服汚してごめんね?」

 

「………」

 

 

 余程倒すことだけに全力を注ぎきったのか、疲労困憊の様子でゼノヴィアに支えられる祐斗は無理に笑っているのが見え見えだった。

 悪魔に助けられるとは……と自分の不甲斐なさに怒りを覚えるが、平行して何故か彼に助けられた事に妙な安心感を覚えるのは何故なのか……。

 考えてもよく分からない不思議な気分になりつつ、ゼノヴィアは傷だらけの祐斗に借りを返すために黙って治療をする。

 

 

「あ、あれ? こんな事して良いの? 一応僕って悪魔なんだけど……」

 

「今はそんな事言ってる場合か……! あんな手の込んだ芝居に私を巻き込んでおきながら……」

 

 

 祐斗の肩からの出血が止まらない……聖剣の力を少量とはいえ受けてしまったせいか……。

 悪魔にとっては猛毒とさえ言える聖剣の力により治癒力が遅れてると、鋭い目付きで見据えながら壁を背に驚いた様子で目を丸くしてる祐斗をうもはも言わさずに座らせ、ゼノヴィアは簡易的な治療を施しつつ悪態をつく。

 

 

「は、ははは……いや、僕一人でも良かったんだけど、それだとキミが狙われちゃうかなと思って巻き込む形に……」

 

 

 言葉の節々に『い、いたたっ……!』と顔をひきつらせながらも笑って宣う祐斗に、ゼノヴィアは抱えている心のモヤモヤを更に増大させる。

 転生悪魔の癖に主に逆らって不思議な人間とツルんでるのもそうだが、聖剣使いである自分に聖剣計画の被害者の癖に何も恨み言も言わずに、寧ろ初対面の時点でイリナがどっぷり浸かってしまってる兵藤誠八には気を付けろとわざわざ忠告までしてくれた。

 

 悪魔なんて信用できないとこっちは言ってるのに、それでも祐斗は妙に気にしてくれてるのか知らないがこうして協力し合う関係までになり、挙げ句の果てには借りまで作ってしまった。

 

 イリナは既に兵藤誠八ばかりで任務を忘れてしまい、自分一人でやらなければならなかったこの状況で、もしさっきのフリードと戦っていたら自分は殺されて聖剣まで奪われてた……。

 木場という青年が居なければ自分は……そう思えば思う程にゼノヴィアはよく分からないモヤモヤした気持ちを膨らませ、それを誤魔化すかのように俯きながら小さく呟く。

 

 

「……。怒ってる私がアホみたじゃないか。バカ……」

 

「ご、ごめん……」

 

 

 先の戦闘で汚れたシスター服の比較的清潔な部分を切り取り、出血している祐斗の肩に宛がって包帯代わりに巻きながら小さく呟くゼノヴィアに、祐斗はただ謝っていた。

 お前の機転で撃退できたから謝る必要なんて無いのに……と密かに思うゼノヴィアの心情を見抜けないまま。

 

 

 そして……。

 

 

「チッ、随分と派手にやってたみたいだな。おい木場! それとゼノヴィアさーん!! 無事かぁ!?」

 

「まったく、このエロ猫のせいで木場さんにもしもの事があったら責任取って貰いますわよ!!」

 

「まったくですね、この淫乱姉」

 

「う……だ、だって」

 

「木場自身も強いし、死にはしてない筈だ。

怪我をしても俺が何とかするが……確かにお前が最近の原因だったのは驚いたな」

 

「えへ、だってイッセー目の前にして何もしないなんて、私には無理だにゃん」

 

 

 

 

 外から聞こえる安堵を覚える声に祐斗は犬みたいにピクリ反応しながら声が聞こえる方向へ首を傾ける。

 その表情は妙に嬉しそうだ。

 

 

「あ、い、イッセーくん達の声だ……!」

 

「どうやら私達の異変に気付いてくれたみたいだ。行くぞ、立てるか?」

 

 

 自分の主よりも露骨に嬉しそうな反応な祐斗に、ゼノヴィアは変な奴だと思いつつ立てるかと問い、頷きながら立とうとするもアドレナリンが切れたせいで後になって痛む身体に顔を歪ませながらズルズルと崩れ落ち、罰が悪そうに笑みをゼノヴィアに向けて口を開く。

 

 

「あ、あはは、ゴメン正直辛いかも……」

 

 

 『そ、そう言えばあのフリードって人にしこたま蹴られたりもしたからなぁ』と目を泳がせながら笑って誤魔化そうとする祐斗に、ゼノヴィアは呆れながらも手を差し出す。

 

 

「ふん……悪魔だがお前には何度も借りを作ってるからな。仕方無いから私が肩を貸してやろう、ありがたく思え」

 

 

 プイッと顔を横に向けながらも手を差し出すゼノヴィア。

 言った通り、こんな状況でもなければ本来は住む世界が違うし悪魔祓いが悪魔に手を貸すなんて水に油を混ぜるが如く有り得ない話だ。

 しかし、貸してもらわないと立てないのもまた事実なので、祐斗はただただ感謝しながらその手を取り、肩を借りて立ち上がる。

 

 

「いたたた……。わりと本気で危なかったと今になって感じるよ、この痛みで余計に」

 

「お陰で何とかなったんだ……贅沢は言わない方が良い」

 

「そうだね……キミの言う通り――っ……あ!」

 

 

 ホッとしながら自分達を呼ぶ一誠達に姿を見せようとゼノヴィアの肩を借りた状態で歩いていた祐斗だが、変にはやる気持ちが働いたのか、ゼノヴィアの歩幅では無く自分の歩幅で歩こうと足を踏み込もうとしたその時だった。

 

 

「あ……」

 

「わ……!」

 

 

 足が縺れてしまった祐斗がガクンとバランスを崩し、肩を貸していたゼノヴィアも巻き込まれるが如くバランスを崩した。

 足場が悪いのと先の戦闘で地面には木片だのなんだのと危ないものが散らばっている事にハッとした祐斗は、フリードの襲撃の時の様に咄嗟に目が丸くなって倒れそうになってるゼノヴィアを抱え、その身を守るかのごとく抱き締めながら盛大に二人揃って倒れ込む。

 

 

「くっ……急にバランスを崩すな! また無駄に転んでしまったじゃない……か……ぁ……?」

 

「…………」

 

 

 捲き込まれる形で共倒れしてしまってゼノヴィアは、怪我人だから仕方無いとは思うものの一言言ってやろうと一緒にひっくり返った祐斗に文句を言おうとした。

 が、上の通り言い終わる直前に、己の身に起きてる状況でその声が止まる。

 

 

「うっ、ま、前が見えない……!?」

 

「な……な……!」

 

 

 というのもひっくり返った拍子に、祐斗が思いきりゼノヴィアの胸に顔を埋めていたのだ。

 そりゃあゼノヴィアどころか神もビックリな偶然である。

 

 

「な、なにを……してるんだお前は……!」

 

「え……? ハッ……!?」

 

 

 全身がカーッ! っと熱くなるのを感じながら、怒りなのか、それとも別なのか……取り敢えず震え声となって状況が分かってないで自分の胸元に顔を突っ込んでモゴモゴしてる祐斗に声を掛けるゼノヴィアに、漸く状況を理解したのかハッとなって顔を上げると、真っ赤になってるゼノヴィアと正反対の真っ青な顔色でババッと離れる。

 そして怪我はどうしたと言わんばかりな華麗な土下座をスタイリッシュにキメてガンガンガンガンと何度も額を……否顔面を床に叩き付け始める。

 

 

「そ、そんなつもりは無かったんだ!

た、たたた、ただ転んだ時に咄嗟に庇おうとしたら何故かこんな事に……ごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさい! すいません!!」

 

「っ……ぅ……わ、わざとやってないかお前?」

 

「無いです! 魔王様に誓ってそれはありません!!」

 

「魔王に誓われても困る……私はカトリックなんだが」

 

 

 1度ならず2度までもこの青年に胸を何かされたゼノヴィアは、今までに無いほどにバクバクと心臓を鼓動させ、全く冷えない全身の熱にちょっとだけボーッとなりながら、何故か半泣きになり始めてる祐斗を取り敢えず立たせ……。

 

 

「後でご飯食べさせろ。それで手打ちにしてやる」

 

「な、何だって、それは本当かい!? そんなもん是非ともさ!」

 

 

 飯で手打ちにしてあげるのであった。

 が、それでもゼノヴィアな胸はバクバクと喧しく、全身は熱いままだった。

 

 

 

 

 

 やはり木場達の異変は間違いなかったみたいだ。

 半壊した廃墟からゼノヴィアの肩を借りて出て来た木場は満身創痍であり……『とある事情』――というか、物凄い罰が悪そうに白音とレイヴェルに睨まれて縮こまってる黒髪の女性との変な騒動で到着するのに時間を喰った俺は、申し訳なく思いながら直ぐに木場とゼノヴィアの負った傷を『否定して逃げさせる』事により綺麗さっぱり消した――のは良いが。

 

 

「すまん、遅れてしまったが……お前ら何かあったのか? 妙に揃って顔が赤いが」

 

 

 消して健康体にした筈なのに、何故か木場とゼノヴィアの顔は赤く、さっから互いに目が合ってはサッと逸らすのやり取りをしている。

 

 

「だ、大丈夫さ……何でもないよ。

僕も何でもかんでもキミに助けられては何時まで経っても成長できないからさ! はは、あはは!!」

 

「何でもないと言ったら何でもない、ちょっとお腹が減っただけだ」

 

「………? そうか……」

 

 

 何でも無いわけないだろ……とは思いつつも本人達がそう言ってる以上突っ込むだけ野暮なので取り敢えず納得して置こうと頷くと、ゼノヴィアが自身の身体の調子を確かめながら驚いた様子で口を開く。

 

 

「しかし驚いたな。これがスキルという奴だとするならまるで魔法だ」

 

 

 応援に来るのに遅れた事に詫びる俺を木場は笑いながら首を横に振って許し、ゼノヴィアは神器でも魔法でも何でもない能力(スキル)の効力をその身に受けてただ驚いている様子だった。

 人間の俺がただ単に『木場の手伝いをしている』と言っても実力が伴ってないと言われては元も子も無いので、簡易的に俺はこういうのがあると前以て別れる際に教えておいて良かった。

 

 

「で、誰とやり合ってたんだお前らは?」

 

「あ、うん……聖剣持ったはぐれエクソシストとね。

本当は連絡しようとしたんだけど、その前な連絡手段を壊されちゃって……」

 

「取り敢えず木場の機転で何とか撃退はしたが、既に逃げられてしまい、聖剣も回収できなかった……」

 

「……。ふむ、なるほど」

 

 

 はぐれエクソシスト、か。会ったことは無いが、かなりの実力者だったなのが木場とゼノヴィアの姿を見るに想像がつく。

 が、どうやら何かしらの隙を突いて何とか撃退はしたとゼノヴィアは言ってるし、半壊した廃墟を匙達と調べたが既にその相手は居なくなってた。

 どうやら逃げたらしく、奴の持ってたとされる聖剣もちゃんと消えてしまっていた。

 

 

「恐らくあのはぐれエクソシストはコカビエルの手の者で間違いないと思う……逃がしてしまったが」

 

「うん……それもかなり強くて聖剣破壊するどころじゃなかったよ……」

 

「良い……どうであれ格上と認めた相手を撃退できただけで十分だ。

此処にコカビエルと奪われた聖剣が隠れていると確信めいた情報を得ただけ大きな戦果だしな」

 

 

 後ろで匙が残した手懸かりは無いかと半壊した廃墟を捜索し、その近くでは白音とレイヴェルが黒髪の女性になにかを言って凹ませているを耳にしながら、とにかく二人が無事で何よりだと思いつつ、俺はこの街に潜伏するはた迷惑な連中がそろそろ本格的に出てくる予感を感じながら二人を立たせ、腹も減ったしという理由で先の喫茶店に戻る事にする。

 

 

「あ、ねぇイッセーくん。そういえばこの人は?」

 

「そういえばさっきは見なかったが……誰なんだ彼女は?」

 

 

 その道中、レイヴェルと白音に足蹴りにされて歩く黒髪の女性が誰なのかと問われ、俺とついでに横を歩いていた匙は絶妙なる微妙な表情を見せながら、今も俺をチラチラ見ている彼女について説明する。

 

 

「……。彼女は黒歌というあの小猫の姉でな……。

自力で覚醒したかなり厄介な能力保持者(スキルホルダー)……らしい」

 

「え、それって……」

 

「お前のその魔法みたいな力と似たような力を持つのか!?」

 

「あぁ……正直俺も気付くまで分からなかった程だ。

何せアイツは……『最近ずっと俺達の傍に居た』のだからな」

 

「「なっ……!?」」

 

 

 黒髪の女性……つまり黒歌という昔気紛れとその場に出くわしたからって理由で白音共々『助けた?』と言えるかよく分かんない事をしてから久方振りなる再会なのだが、まさか彼女本人曰く、姿を見せた今日から暫く前くらいからずっと俺達の傍に――誰からも悟られずに居たと聞かされた時はなじみと相対した時と同じくらい背筋が凍りついた。

 

 俺はおろか、レイヴェルにすら悟られずにだなんて……余りにも凶悪しているスキル持ちだったと暴露してるのと同じだし、実際目の前で見せられてしまっては疑い様がない。

 

 

「この淫乱猫め……。

どうして猫というのはこうも一誠様に……!」

 

「いやいや、私はスキルを使って姿を消して一誠先輩にベタベタする卑怯な真似しませんよ、この姉様とちがって……」

 

「そんなに僻まなくても――」

 

「「あ?」」

 

「……。にゃぁ」

 

 

 

 

 が、まぁそこまでは良いとしよう。

 黒歌がスキルホルダーであり、この前からの違和感と……な事に対しての説明も付くから受け入れられる事実で間違いない。

 無いのだが……。

 

 

「にゃぁ~ レイヴェルって子と白音が意地悪するにゃイッセー……」

 

「なっ!? レ、レイヴェルさんと塔城さんをすり抜けてイッセーくんに……!?」

 

「ど、どどど、どうなってる!?」

 

「能力保持者ってのは大概何でもありかよ……。五大竜王なんて宿してる俺より使えそうじゃねぇか……羨ましい……」

 

 

 問題はその用途だ。

 気配も実態も姿も任意に消せる……それはつまり相手からの物理的干渉すら防ぎ、一種の無敵状態で相手を倒せるという……現状の俺やレイヴェルですら為す術が無い凶悪な黒歌のスキルなのだが、問題は二度言うがその用途だ。

 

 聞けば黒歌はこのスキル――差し詰め安察頑望(キラー・サイン)を使って悪いことをする考えは無いらしく、本人も名前はよく知らないけど、イッセーと別れてから暫くして使えるようになったと言っていた。

 ……それを聞いて普通に驚いたし、妹の白音すら初耳だったみたいで一緒になって驚いた訳だが、黒歌本人はそのスキルの使い道を、主に俺が困る様な使い方をしている。

 例えばそう――

 

 

「っ……!? や、やめろ! そんな密着する――っひ!?」

 

「ん……ちゅ……やっぱりこうして姿を見せた状態でする方がよりコーフンするにゃ……♪」

 

 

 姿と気配をわざと見せた状態で『実態だけ』を消して俺にこんな真似をするだけ――それが黒歌の持つスキルの使い道らしく、今も皆の前で俺の身体をすり抜けて背後に回ったと思えば抱き付き、ゾワゾワするような舌技で俺の首筋をペロペロと舐めてくるし、こちらから黒歌に干渉できないのに黒歌自身から密着されてる感覚はちゃんと感じる。

 正直にさっきから背中にすごいアレの感覚がするというか……色々とまだ餓鬼でしか俺には刺激が強いというか……

 

 

「えへ♪ かーわいいっ!」

 

「や、やめっ……!」

 

 

 耳朶まで軽く噛まれ、全身がゾワゾワするのに耐えられず、ほぼ反射的に首に回された腕を掴もうとしても俺の手は黒歌の腕を煙が如くすり抜けてしまう。

 ……。マジで真正面から戦っても勝てない相手である。

 

 

「い、一誠様に何さらしとんじゃ雌猫2号!」

 

「んー? 何って…………ナニの準備?」

 

「………。冗談も程々にしないとぶっとばしますよ?」

 

「えー? でも私イッセーのこと大好きなんだもん」

 

 

 背中に黒歌の身体が密着してるとは感じる……だが接触が出来ない。

 幻実逃否(リアリティーエスケープ)で否定すれば何とかなりそうだと思ってるのだが……何故か出来ない。

 多分だが、なじみやフェニックス家以来出会う俺の格上……それが今の黒歌なのだと俺は思う。

 もしかしたら、一個だけとはいえなじみレベルの精度なのかもとも……。

 

 

「イッセーのイッセーは流石に触るだけだったけど、そろそろ欲しいかな?

えへ、イッセー好き好き……だいしゅき……♪」

 

「い、一誠様の一誠さまですって!?

け、消し炭にしてやりますわこのド淫乱がぁぁぁっ!!」

 

「ビンタしてやる、踏んづけてやる……!」

 

 

 何をどこでどう間違えてるのか、レイヴェルと白音に続いて彼女にまで好かれてるのがまだ信じられない。

 ……。色々と今もこんな事されてるが、好かれる要素やら身に覚えがまるで俺には無いのに……。

 

 

「き、木場に匙にゼノヴィア……!

な、何とかなる方法があるなら教えてくれ! 正直初めてレベルの大問題なんだ!」

 

「い、いや……無理かなぁ」

 

「物理干渉の有無すら任意に出来る人なんて俺等が止められねぇだろ」

 

「うむ、よく知らんが無理だ。すまんな」

 

 

 物凄い生暖かい目を向ける友人二人と、協力者の女性は無理と言いながら目を逸らす。

 

 

「ねぇ、イッセー、私の胸がドキドキするにゃ……あとお腹の下の部分がきゅんきゅんしておかしくなりそうだにゃ……ぁん……♪」

 

「じゃ、じゃあ離れれば良いだろ! それくらいなら直ぐに幻実逃否で綺麗さっぱり――」

 

「なってもまたなるにゃん。多分、毎日毎日イッセーにめちゃめちゃにされないともう無理だにゃ……あは♪」

 

 

 黒歌……。

 俺の好敵手確定のレベルの実力者で間違いなく、一刻も早く今の状態から更に上の領域に踏み込まなければレイヴェルに泣かれてしまう……様な気がしてならなかった。

 




補足

木場きゅん、何とか撃退するもフリード……きゅんの待ってた聖剣は回収できず。
代わりに主人公化に近づいてるせいか、よりラッキースケベ率があがったよ。

ゼノヴィアさんのお胸に顔面ダイブのご褒美さぁ!



その2
一誠達が遅れた理由は、あの後直ぐに最早我慢不能となった黒歌さんが大々的に現れて……………ちとR-18的やり取りが開始されてしまったゆえにです。

なので、そこら辺はカットしてます。

そして、黒歌さんのスキル安察頑望(キラー・サイン)という名はアルクシェイドさんから頂きました。

ありがとうございまする!

で、この安察頑望(キラー・サイン)なのですが、驚く事に一誠の幻実逃否(リアリティーエスケープ)の干渉すら『すり抜けられます』。
つまり、唯一安心院さんと同等精度のスキルって訳でありまして、今の一誠の格上です。


※安殺……じゃなくて安察です、ミスりました。
アルクシェイドさんすんまへん。

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。