生徒会長イッセーと鳥さんと猫   作:超人類DX

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すげー駆け足っすね。

いや、マジに。文も雑だし。


毎度感想ありがとございます。
返しは更新後にしますので、気にせず感想頂けたらモチベが上がります!


※ちょっとの加筆と修正、オマケの追加。


それは唐突に

 辛くも不意討ちでフリードを撃退できた僕とゼノヴィアさんは、塔城さんのお姉さんで……ちょっと変だなと思う黒歌さんという人を加えてやって来てくれた一誠君達と合流し、1度情報を整理する為に一誠くんが住んでる小さなアパートへと皆でお邪魔することになった。

 

 

「狭いが適当に寛いでくれ、今お茶を出す」

 

「へぇ、此処がイッセーの住んでる部屋か。

フェニックスさんと一緒と聞いてたからもっと広いところだと思ってたぜ」

 

 

 お世辞にも綺麗とは言えない、こじんまりしたアパートの一室。

 悪魔の支援を受けて一人で住んでる僕の部屋の方が正直レベルが上だと思える程の部屋であり、匙君が僕の内心を代弁する様に呟くと、一誠くんは『はは……』と苦笑いしながら首を横に振っていた。

 

 

「レイヴェルが人間界(コッチ)に住むと知った時は勿論そのつもりだったんだが、レイヴェル自身が此処で良いと言ってくれてな。

贅沢できるほどの余裕もそんな無かったし、そのまま甘える形でこの場所に住んでるのさ」

 

「一誠様と二人きりで住むのですから、広いお部屋は持て余すだけですわ」

 

「なるほどなぁ……」

 

 

 確かに二人でなら充分でもあるとは思うね。

 それにレイヴェルさんって、一誠くんが高校に入る前は小さい時から一緒だったらしいし。

 お互いに気を許せる同士だからこそ、かな? ちょっと羨ましいと思う。

 

 僕と匙君に気を使ってるのか、最近のレイヴェルさんは前よりも一誠くんに対する強い愛情を表に出さなくなってるし、ひょっとしたら邪魔してるのかなとか思ってるけど……。

 

 

「一誠様、お召し物をこちらに」

 

「ん、すまんなレイヴェル」

 

 

 家ではちゃんとレイヴェルさんらしくなんだなと、ちょっとだけ安心した気がするよ。

 今だって極自然に……まるで夫婦みたいに一誠くんが着ていた上着を脱がせ、ハンガーに掛けてるんだもん。

 やっぱり何だかんだで一番付き合いが長いと感じさせるやり取りが多く見えるのはレイヴェルさんって事かな? それを見てた塔城さんが羨ましそうに、お姉さんの黒歌さんは…………なんか、布団が畳まれてるだけで他は何も無い押し入れに入って枕に抱き付いてるけどね。

 

 

「うぇへへ、イッセーの生枕……!」

 

「…………。ま、何だ。取り敢えず適当に適当に……」

 

『………』

 

 

 一誠くんの家に向かう最中もずっとレイヴェルさんと塔城さんの恨めしい視線を物ともしないで一誠くんに、持ち前のスキルを駆使して色々としてたけど、段々それも慣れてしまったせいか、あからさまに頬を染めた恍惚な顔で、確実に一誠くんの使ってるだろう枕に何かしてる黒歌さんに僕達もどうリアクションして良いのかが分からない。

 

 一誠くんだって本当はちゃんとツッコミたいと思うが、曰く、『スキルの問題で黒歌を止められん』と言っており、今も見てみぬフリしてテーブルを囲って座った僕達は早速今までの事とこれからの事についてを整理する為に話し合事にした。

 

 

「木場とゼノヴィアが出くわしたと言っていた、はぐれエクソシストが聖剣を持っていたとなると、殆ど決まったも同然だ。

まだ姿を見ては無いものの、コカビエルは確実にこの地に居る」

 

「あぁ、だが問題はソイツをどう処理するかだが……イッセーとレイヴェルさんの二人はどう思う?」

 

「さて? 直接対峙をしてない以上強く言うつもりはございません。

ただ、全力を尽くしてこの街を守護するだけですわ」

 

 

 匙君の問い掛けに飄々と答えるレイヴェルさんと、その隣に座り、無言で頷く一誠くん。

 大戦という修羅場を潜り抜けた相手だからこそ油断はしない……これこそ絶対勝利の悪平等(ノットイコール)たる秘訣なのかな?

 油断はしないと言ってるものの、その表情に不安はまるでなかった。

 

 

「まぁ、それより前に兄貴達が先に何とかしてるかもしれんし、願わくば兄貴達にコカビエルが襲撃を咬ましてくれれば良いのだがな。その隙に俺達で聖剣を失敬できるし」

 

「ええ、役立たずと分かった今、せめて囮にでもなって貰いたいものですわ」

 

「一番それが現実的ですね」

 

 

 

 失っても腐らず、そして這い上がる。

 今僕達が目指している目標の先へ既に君臨しているからこその冷静さ。

 そして何よりも失うことになった原因に対しても冷静に対応する。だからこその説得力なのだが、そういえばゼノヴィアさんは直接一誠くんの実力を見ていなかったっけ? ちょっとだけ暗い表情なのが彼女の座る隣に居る僕には気になった。

 

 

「どうしたのゼノヴィアさん?」

 

「いや、先程からイリナと連絡が取れなくて……」

 

「……え?」

 

 

 どうやら一誠くんの事じゃなく、彼女が本来組んでいた相棒にて、既に兵藤君に深くのめり込んでいた紫藤イリナって人と連絡が付かないことに心配になってるみたいで、僕の問い掛けに沈んだ声で返してきた。

 

 

「む……紫藤イリナ、か。

確かレイヴェルと白――いや小猫は兄貴と出会した際にアルジェント同級生とくっついていたと言ってたが?」

 

「はい、一応まだ主であるグレモリー先輩と、匙先輩の主であるシトリー先輩――とその次いでに他大勢の取り巻きさんの女性達と同じく、彼女も兵藤先輩を『そんな目』で見てました」

 

「その際あの女は一誠様を事もあろうに痴漢呼ばわりしたので、思わずぶっ殺してしまいそうでしたわ」

 

 

 紫藤イリナさんの名前に、ピクリと頬を痙攣させつつ三組の中で先程接触のあったレイヴェルさんと塔城さんに問い掛ける一誠くんに、二人は揃って嫌そうな顔で紫藤イリナさんの様子を説明してくれた。

 

 

「おいおいレイヴェル。お前程女の子がそんな汚い言葉を使うなよ。エシルおば――じゃなくて、エシルねーさんに怒られてしまうぞ?」

 

「ぅ……た、確かに言葉遣いに母様は煩いですが、それでも冤罪に陥れる汚い女の如く一誠様を痴漢呼ばわりするのは嫌なのです……!」

 

 

 どうやら話の内容から察しても、やっぱり彼女は既に手遅れみたいらしく、それを聞いたゼノヴィアさんも哀れむべきなのか憤慨すべきなのか分からないって顔だった。

 

 

「イリナ……。

やはり無理にでも兵藤誠八とは距離を離すべきだったのか……?」

 

「いや、1度兄貴の洗脳に掛かった者は、その者の思考回路が兄貴一辺倒となってしまう。

故にゼノヴィア……残念だがあの時点で貴様の言葉も届く事は無かった筈だ」

 

「そう、だね。

僕も目の前で散々見せられたからそれは本当だと思うよゼノヴィアさん。

聞けば一誠くんがまだ小さかった時から既にそうなってたみたいだし、キミと会った頃から既に手遅れだったんだよ」

 

「……。確かに兆候はあったが……」

 

 

 僕と一誠くんの話にゼノヴィアさんは項垂れてしまった。

 どうやら彼女なりに紫藤さんを相棒として思っていた所があったみたいで、この地で兵藤君と再会してしまったことで暴走してしまった姿を見て多少なりともショックだったんだと思う。

 僕だって最初は皆まともだった部長や副部長、最近加わったアルジェントさんが盲信的に兵藤君に拘っていく姿を見ては怖いと感じたんだ。

 

 多少なりとも彼女の複雑な気持ちを僕はわかってるつもりだ……って、何で僕は彼女の肩を持つような事を考えているのだろうか……?

 

 

「……。ん、何だ木場? 私の顔に何か付いてるのか?」

 

「え、あ、い、いや別に……」

 

 

 どうしてだろうと思わずゼノヴィアさんをジーッと不躾に見ていたら目が合ってしまい、思わず目を逸らしてしまった。

 むぅ……さっき失礼な真似をしたせいで余計目を合わせ辛い。

 

 

「イリナは気になるが、こうなれば私だけでも任務は達成させる。

木場に一本程どさくさに紛れて聖剣を破壊してもらい、残りは回収……出来たら良いが」

 

「ゼノヴィアさん……」

 

「助けられた借りは返すつもりだよ木場。此方としても敵に渡るくらいなら破壊しても良いと言われてるしな」

 

「そっか……ありがとう」

 

 

 とはいえ、ゼノヴィアさんとは奇妙な関係となっており、そのお陰で結構信頼されてるような気がする。

 今だって本当はダメなのに聖剣の一つを壊して良いとまで言われてるんだもの……何かちょっと嬉しいかな。

 

 

「なんだよ木場~? 随分と仲良くなってんじゃーん?」

 

「い、いや匙くん? べつにそんな事は……」

 

 

 代わりに匙君に茶化されるとかなり恥ずかしいけどね。

 今だって妙にニヤニヤしながら肩を組んでくるし……。

 

 

「意外な出会いって奴ですね……」

 

「確かに」

 

 

 その上塔城さんとレイヴェルさんまで。

 うぅ……ゼノヴィアさんはキョトンと目を丸くしてるだけだから良いけど、代わりに僕が気恥ずかしくなってくるよ。

 

 

「イッセーごめんね? 枕がびしょびしょになっちゃったにゃん」

 

「お、お前……一体何をした……」

 

 

 黒歌さんは相変わらず過ぎてある意味安心するけどね。

 

 

 

 安察頑望(キラー・サイン)

 スキルという概念もよく知らないまま目覚めさせた黒歌に一誠が暫定的に名付けたスキル名なのだが、それを聞いた黒歌は猫なのに、まるで犬のように喜びながらその名を名乗ることにした。

 

 己の思うがままの任意に気配・姿・実態を消し、他の物理的にも概念的に干渉をカットするという、一誠の幻実逃否(リアリティーエスケープ)の干渉すら防ぐ恐ろしきスキルだが、前回の通り黒歌自身この能力の使い道は一誠にのみであった。

 

 わりと普通に初な反応を見せる一誠と接触し、思う存分堪能する。

 他の干渉は防ぐのに、己は干渉出来るという暗殺向け宜しくな力を存分に使い、今もこうしてテンパる一誠に背中から抱き着き、かつて出会った頃から随分と逞しく成長したその身体を全身で感じ、露になっている首筋に舌を這わせる。

 

 妹や幼馴染みらしい純血悪魔がそれを見てわいわいと騒ぐが知らない。

 いくら妹だろうと、一誠の大事な幼馴染みだろうとこの気持ちだけは偽り無しの本当の気持ち。

 

 

『お前達はもう自由だ。お前を転生させた悪魔も、お前の事情を知る全ての連中はお前達姉妹に関する記憶は無い……そして『転生悪魔だった現実』もな』

 

 

 疲弊し、絶望の淵を歩かされる日々だった姉妹の前に現れた小さな人間の少年。

 ちっぽけで自分達がその気になれば直ぐにでも殺せそうな小さな子供。

 

 そんな子供に黒歌はそれまでの柵すべてを消失させて貰い、本当の『自由』を与えてくれた。

 悪魔に転生し、主が嫌で妹と逃げていただけの日々が嘘の様になくなり、誰にも怯えること無く暮らせる日々をこんな少年の『お伽噺』みたいや力で与えてくれた。

 

 

『だから生きろ。飽きるまで生きろ。

猫というのは自由で愛嬌があるからこそ……猫だろう? じゃ、達者で生きろよ? 互いにな』

 

 

 修行という理由でフラフラしてた所を単に助けてみただけ、だから礼なんて必要ない。

 そう言って少年は姉妹の前から何の見返りも要求せずに去っていった。

 けれど、それで済ませる程姉妹は諦めやすい性格じゃあ無かった。

 

 どうであれ、修行の成果を試す為だったとしても黒歌と白音はハッキリと一誠と名乗った少年に助けられたのだ。

 ロクなお礼も出来ず、助けられっぱなしなんて嫌だし、何よりたった数日だけだったとはいえ、一緒に過ごした時は確かに少年の旁に絶対の安心感を感じた。

 

 自由になれた、追われる心配もない。だったら好きにしても良い筈だ、好きな人生を歩んでも良い筈だ。

 わりとアグレッシブな姉妹は去っていった少年を9年近くの歳月を使って全力で探した。

 

 どんな些細な情報でも良い。

 ある程度信用できると判断した権力の強い悪魔に従事して捜索範囲を広めた妹の行動に複雑な気持ちがあったが、妹の意思の強さに折れてでも探した。

 

 その結果、ある時黒歌は己の中にある種族としての力とは違う何かがあると気付いた。

 

 最初はこれが何なのか分からなかった。

 しかし、自問自答し……そして己を知ることでその何かの正体を掴むのに時間は掛からなかった。

 そして正体を掴み取り、自分自身を完全に確立させたその瞬間、黒歌は一誠と同じくとある存在の成り代わりによるイレギュラーとして覚醒した。

 

 そう、天然の能力保持者(スキルホルダー)としてだ。

 猫の様に忍び寄り、猫の様に気紛れに、猫の様に自由に。

 自由を与えられ、自由を与えた者を愛し、愛した者から与えられた自由を守る為に、邪魔をする者を始末する覚悟を具現化した能力(スキル)

 

 それが――

 

 

「ね、イッセー……。私、実はイッセー達が聖剣を探してるっていうからさ……えへ?」

 

「む?」

 

 

 

 

 

 

「さっきそこの金髪君が言ってイッセーの偽者顔にくっついてた雌からね……えへへ?」

 

「な、なんだよ……?」

 

 

 

 

 

 

「ちょっとその聖剣を『借りて』来ちゃったにゃん♪」

 

 

 安察頑望(キラー・サイン)

 

 

 

 

「ちょっとその聖剣を『借りて』きちゃったにゃん♪」

 

 

 ……。そう可愛らしく笑って言い出す黒歌に、正直な所この場に居た全員が絶句した。

 

 

「な、なんだと? イリナの擬態の聖剣(エクスカリバーミミック)をか!?」

 

 

 特に驚いてるのはゼノヴィアだった。

 まあ、当然と云えば当然だが、黒歌は『にゃ』と言いながら頷くと、ちゃんと着てくれ……と思う着崩れた着物の袖から針金の様な紐のような……とにかくそんな物体を取り出し俺達の囲うテーブルの上に置く。

 

 

「ま、間違いない……!

イリナが持ち運ぶのに楽だと言って擬態させたままの擬態の聖剣(エクスカリバーミミック)だ……」

 

 

 擬態の聖剣……言い得て妙だな。

 その目で確認して息を飲んだゼノヴィアの手に触れられた紐のような針金みたいな物質がうねうねと動き、やがて西洋の剣に変化してるを見た俺達はただただ驚いた。

 

 

「ね、本当だったでしょ?」

 

「いつの間に姉様は……」

 

「うん、レイヴェルと白音がイッセーの偽者くんを吹っ切った後、実はわざと姿を晒して会ってみた時にね……」

 

「あの後……悔しいことに全く気付かなかったですわ」

 

 

 ふふん、と何処かしてやったり顔で説明する黒歌はちょっとだけ苦笑いになってから兄貴に姿を見せた時のやり取りを話しだす。

 

 

「白音が話したとは思えないのに、『何故か』私が白音の姉と知った上で近付いてきたんだにゃん。

で、ものすごい胡散臭い笑顔を何度も向けてた『そんなバカな』って狼狽えててね……。

多分、私にイッセー達が噂してた洗脳ってのをしようとしてたんだと思うよ。ま、全然何にも思わなかったけどにゃ」

 

「お、おぅ……」

 

 

 ニコニコと俺を見ながら話す黒歌に、ホッとすべきなのだろうが微妙な気持ちになった俺は気の抜けた声しか出せんかった。

 つまり、黒歌はレイヴェルと白音に続き、兄貴の洗脳を突っぱねたのだ……。 

そしてその理由もこれまでの行動で何と無く察してしまうので複雑だった。

 

 

「そういえば何度か彼に家族はいるかと聞かれたような……。

居ないって答えてたのですが、何故姉様を?」

 

「さぁ?

ま、どちらにせよ私にも白音にも手出しさせないし? どうでも良いと思ってる奴にかまける程私も暇じゃないからね。

何か勝手に狼狽えてるのを心配そうに見てた悪魔祓いから去り際に……ササッとね」

 

「普通にスリじゃん」

 

「うん」

 

 

 あぁ、俺も思ったぞ匙に木場。

 いや……まあ、危うい精神状態の紫藤イリナが持っててはぐれエクソシストに奪われるかは、ゼノヴィアに預けておいた方が良いとは正直思うが……。

 

 

「イリナ……盗られた事にすら気付かなかったのかお前は……!」

 

 

 ゼノヴィアからすればかなり複雑だろうな。

 現に怒るべきなのか悲しむべきなのか分からないって顔だし……。

 

 

「どうする? 返して置いた方が良いなら今からさっさと返してくるけど?」

 

「……。いや良い。

恐らく今のイリナは兵藤誠八しか見えてないだろうし、そんな状態でこれを持ってても、何れは奪われるか落とすか……どちらにせよ危ういのは確かだ。私が預かっておく」

 

 

 だが相棒の精神状態を知ってる身として、任務としてこの場に居る者としての判断を優先したゼノヴィアは、テーブルの上に鎮座して輝く西洋の剣を、先程の紐のような針金のような物体に擬態させ、懐にしまい込む。

 まあ、兄貴達が大騒ぎしてもしらばっくれればバレんだろうし……これで良いのかもしれん。

 

 

「にゃにゃ~ ね、ね、イッセーの役に立てた?」

 

「え、あ、うん……助かったぞ黒歌」

 

 

 結局黒歌が失敬してきた聖剣はゼノヴィアが厳重に保管する事に決まり、木場も『その方が良い』と嫌に親身になって複雑そうにしてる彼女を元気付けてるのを見ていると、再び俺の背中に抱き着く黒歌が耳元で囁いてくる。

 

 一々引っ付かなくても良いのに……レイヴェルと白音が……と思いつつも役に立たなかったなんて事は勿論無いので助かりましたと、異様に柔らかい感触を気にしつつ頷くと、黒歌は実に嬉しそうに俺の頬に自分の頬をくっつけてスリスリしてくる。

 まるで猫の様に。

 

 

「ぐぬぬ……! ポッと出の泥棒猫のくせに……!」

 

「腹立つ程都合の良いスキル……」

 

 

 あぁ、現状真正面からじゃ俺も為す術無しなスキルだからな。

 エライもんを覚醒させたもんだよホント、こっちからの干渉は出来ないのに黒歌からは出来るって……殆どの奴等は一方的に獄殺されると思うと恐ろしいよ。

 

 

「黒歌……頼むから今は離れてくれ」

 

「にゃ……はーい」

 

 

 現状はこうして頼まなければ離せない。

 一方的に触れられ、一方的に舐められ、一方的に揉まれ……とにかくよくぞ此処まで独学でスキルを使いこなせたものだとある種感心しながらも渋々ながらと黒歌に離れて貰うことに成功させる。

 正直、俺も男のつもりなんであぁも密着されと……色々と困るのだ――――

 

 

 

 

 

 

 

 

「ヒャッハロー! ご機嫌かい諸君~!!」

 

 

 願ってもないお客様が来てるしな。

 

 

「っ、フリード!」

 

「よぉさっき振りだな金髪くん! フリード様は復活したぜぇー!」

 

 

 部屋の窓から派手にガラスを破壊しながら姿を見せる同年代っぽい男の登場に、その場に居た全員が注目する。

 いや、正確にはフリードとやらとその後ろに控えていた初老の男と、強い覇気を放つ男の三人にであった。

 

 

「ほぅ、どうやら此方も大所帯のようだな」

 

「フリードよ下がれ」

 

「りょーかい! コカビエルのボスにバルパーの旦那♪」

 

「っ!?」

 

 

 初老の男がフリードに下がれと命じ、それに返すフリードが口にした名に木場が目を見開きながらも殺気を一気に解放する。

 しかし、飛び掛かろうとはせず何時でも動けるように身体を方膝を付き睨んでいるに留める。

 

 

「バルパー・ガリレイに堕天使コカビエル……! まさか向こうとは来るとは予想外だぜおい!」

 

 

 匙も同じく冷や汗を垂らしつつもニヒルに笑ってその腕に黒い蜥蜴の頭の様なものを装備し、ゼノヴィアも臨戦体勢へ移行している。

 だが、黒髪で充血してるように見えなくもない堕天使の男コカビエルに殺気が見られず、寧ろ構える匙と木場……そして白音を特に品定めするように見ているだけだった。

 

 

「ふむ、転生悪魔三匹に猫魎一匹に人間が一匹とは中々変わった組み合わせだな。それに――」

 

「…………」

 

 

 ジロジロと無遠慮に俺達を見ていったコカビエルは、レイヴェル……そして俺を見てその視線を止め、ニヤリと……これでもかという程の悪党顔を浮かべて始める。

 

 

「シュラウド・フェニックスの娘と……あの女の後継者……ククッ……ハハハハハ!!! 運が良いとこれ程迄に感じた事は無かったぞ悪平等(キサマラ)!」

 

「「……」」

 

 

 ただ嗤う。歓喜するように。

 ただ嗤う。待ち焦がれていたように。

 ただ嗤う。やっと届いたかのように。

 コカビエルはただただ嗤いながらその内に秘める強大な力を垂れ流す。

 

 

「っ……!」

 

「クソッ……! 舐めてないつもりだったが、ヤベェ怖いぜ……!」

 

「くっ……!」

 

 

 その力は木場と匙とゼノヴィアに身動きすら取らせずにいるほどであり、レイヴェルに叩き込まれている白音ですら冷や汗を流している。

 

 

「ふっふふふ! わざわざサーゼクス・ルシファーとセラフォルー・レヴィアタンの妹を生け捕りにして脅しに使うつもりだったが……それも最早必要ないな」

 

「なに……?」

 

「生け捕りですって?」

 

「あぁ、元々こんな茶番を引き起こしたのも三大戦争を復活させる為だった。

ミカエル共が後生大事に抱えてた聖剣を奪い、そこのバルパーという男に別れた聖剣を元に戻させ、それを狼煙に戦争を復活させたかったのさ。

だから魔王の妹二人を生け捕りにもしたよ……まあ、貴様そっくりな赤龍帝の小僧共々拍子抜けしたがな」

 

 

 ……。兄貴がやられた。

 クスクスと嗤うコカビエルに続き、聖剣をぶら下げていたフリードがニヤニヤしながら言う。

 

 

「いやぁ、なんか大量のビッチ共と宜しくやってたんで、挨拶がてら腕を切り落としちゃいましてねぇ?

その後激おこプンプン状態で来たところを散々ぶん殴ってから、コカビエルのボスがトドメにどーん!! とねん♪」

 

『……………』

 

 

 ケタケタケタと笑って兄貴達とのやり取りを語るフリードに俺は――いや俺達は途端になんとも言えない気分となったのは果たして悪いことなのか。

 いや少なくともその事実が本当だとすれば、紫藤イリナは……。

 

 

「ま、待て! その中に私の同僚がいた筈だ!」

 

 

 当然、ゼノヴィアとしてはそれが一番気になるわけで、恐怖を押し殺してコカビエルに吠えると、コカビエルはふんと詰まらなそうに鼻を鳴らしながら答える。

 

 

「ん、あの転生悪魔と馬鍬ってた悪魔祓いの小娘のことか?

殺す意味も無いし一応生かしてはあるが……ハッ、俺達がどうこうする以前にアレは生きて帰っても異端者扱いで追放だろうな」

 

「なっ……! そんな馬鹿な!?」

 

「現に貴様が今持ってる擬態の聖剣が証拠だろう? あの小娘は自身のやるべき事すら忘れて、赤龍帝とくだらん事をしていたんだ。恐らく孕んですらいるかもな」

 

 

 いっそ哀れむ様な表情で、要らない現実を突き付けられたゼノヴィアはその場に崩れるように両膝をついてしまった。

 それを見た木場は直ぐに駆け寄り、ゼノヴィアを介抱するが……此処に来て最後まで余計な真似をしてくれたな兄貴。

 

 

「で、だ。

俺としても本来の目的も一応果たしたく、こうして貴様等の下に交渉と顔見せに来たのだが……」

 

「交渉だと?」

 

 

 交渉という言葉に反応する俺とレイヴェルにコカビエルはニヤリ口を吊り上げてと頷く。

 

 

「あぁ、俺達が抱える人質共とそこで絶望してる小娘の抱える聖剣二本の交換だ」

 

「な、なんだと……!」

 

 

 そう来たか。わざわざ殺さずに生かした理由の1つが聖剣奪取と魔王達への挑発。

 中々どうして考えたなコカビエルめ。

 

 

「取り敢えず俺としては悪魔の英雄とまで言われ、尚且つあの人外の分身であるシュラウド・フェニックスの血を受け継ぐそこの小娘と、あの女の後継者とまで言われている貴様と戦いたい所だが、その前に戦争がしたいのでな。

今のところ三本しか此方は聖剣を抱えてない……故に貴様等が抱えている二本の聖剣と人質の交換だ」

 

 

 人質か。

 魔王の妹二人は生存確定がコカビエルの話で分かったが、単なる下僕の兄貴はまさかまだ生きてるのか? 正直どちらでも良いが……ふむ。

 

 

「断ると言ったら?」

 

「愚問だな、人質の小娘共をそこら辺の畜生にでも犯させてから冥界の魔王共に送り付けるまで。

それでも戦争の大義名分を作るには充分だからなぁ?」

 

 

 敢えて問う俺にコカビエルが悪どく嗤って脅しにくる。

 ……。どうしてだろ、その文句を聞かされても焦る感情が全然無い自分がいる。

 いや、勿論良くないとは分かってるので一応阻止するし退治もするが。

 

 

「それを言われて俺等が『はいそーですか』と頷くとでも?」

 

「それならそれで良し、俺としてもシュラウドの娘と人外女の後継者である悪平等(キサマラ)と殺し合いもしてみたいかなぁ?」

 

「……。物騒な野蛮堕天使ですわね」

 

「何とでも言え。

取り敢えず考えるだけの期限は与えてやるが、人間界の日付が変わるまで、場所は貴様等の学舎だ。

精々良い答えを待ってるぞ? 我が求めし者よ……」

 

 

 どれを選択してもコカビエルにとっては損がない条件を突き付けられた俺達は、笑いながら消えていき、控えていたバルパーもそれに続いて消えた。

 そして最後に残ったフリードは……。

 

 

「いやいやぁ、どうやらあのクソ悪魔の弟くんだってねキミィ?

同じ顔してるからもう一度八つ裂きにしてやりたいけど……ま、俺的にもう満足したし? 次のターゲットはそこの金髪くんかなぁ?」

 

「っ……! フリード……!」

 

「ヒャッハハハハ! 良い顔だぜ? じゃ、バイビー!」

 

 

 木場を挑発してから去っていった。

 

 

「………。囮と押し付け作戦は無駄になったか」

 

「というか、そういう状況でもしている兵藤誠八の精神が理解できませんわ」

 

「……。まぁな」

 

 

 コカビエル達が去り、支配していた重圧感から解放された匙達に水を飲ませながら、兄貴達の何とも言えないヘマに愚痴が出てしまう。

 

 

「白音も黒歌も大丈夫か?」

 

「はい……なんとか。でもまだまだでしたね私も。コカビエルの殺気で動けませんでした」

 

「にゃにゃ、私は……んー? 不思議と全然怖いとは思わなかったにゃん。

だって、イッセーという王子様が傍にいるんだもん!」

 

「………。黒歌は平常そうだな」

 

 

 皆がプレッシャーに押し潰されては無いと確認しつつ深呼吸をさせる。

 どうやら完全に潰れてる奴はこの中には居くて安心だ。

 

 

「ハァ……で、どうするよイッセー?」

 

「ぼ、僕自身弱いかもしれないけど、それでもバルパーを討つから行くつもりだけど……」

 

「……。私は……イリナの事はショックだが、それでも任務が残っている」

 

 

 コカビエルに圧されてしまった匙、木場……そして少しだけ立ち直ったゼノヴィアは行く気があるらしい。

 交渉について云々を抜かしてだが。

 

 

「私も行きます……。

此処まで来て尻尾は巻きたくないので」

 

「当然私も手伝うにゃ。ま、人質連中はどうだって良いけど、戦力は多い方が良いでしょ?」

 

 

 白音も黒歌も同じく。

 

 

「最早人質となってしまわれた以上、彼等は役には立ちませんわ。それに学園を儀式に使ってるようですし……」

 

 

 レイヴェルも……皆が皆決意を固めている。

 

 あぁ……そんなもん俺だって当然――

 

 

「当然行くぞ。

学園を、学園に通う生徒の為の校舎を見殺しにする訳にはいかん」

 

 

 なじみを知るコカビエルを放置はしない。

 学園を傷付けさせない。

 悩む理由なんてありはしなかった。

 

 

「行くぞ、これより生徒会長を執行する!」

 

 

 行くに決まってる。

 なじみの弟子として、生徒会長としてな。

 

 

「……。まあ、生徒会は俺だけというオチなんだけどな」

 

『………』

 

 

 とにかく行く!

 

 

続く。

 

 

 

オマケ。

 

やはり二人は幼馴染み。

 

 

 コカビエルからの招待状に乗ることとなってしまった一誠達は、早速の準備に各々取り掛かるのだが……。

 

 

「ほら一誠さま? ボタンをかけ違えてますわよ?」

 

「ん? あ、ホントだ……」

 

「全く、変な所で抜けてるんだから……ほら動かないでくださいな」

 

「うむ……」

 

『……………』

 

 

 独り身としては入り込めない変な雰囲気を二人には出ていた。

 恐らく全く自覚も無しにである。

 

 

「うふふ、やっぱりこういう所は昔と変わりませんわ」

 

「むぅ……そんな子供扱いするなよ……」

 

 

 かけ違えてたボタンをレイヴェルが直し、昔を思い出す様に笑みを浮かべれば、一誠が地味に拗ねる。

 人間界の高校に通う前まではずっとフェニックス家に住み、ずっと一緒だったからこその雰囲気にさしもの木場達も茶々いれ出来ずに見てるだけしかできない。

 何せこの部屋は一誠とレイヴェルの住み家なのだから余計だった。

 

 

「お前、段々エシルねーさんに似てきたよな……」

 

「はて、そうでしょうか?」

 

「あぁ、流石母子というか……。 正直、お前にこうされて文句は言ってるけど安心するし……」

 

 

 着替え終え、その場に座る一誠の傍らにレイヴェルも座って話をする最中のその表情も学園で生徒会をやってる姿しか知らない木場達にとっては初めて見るような、緩んだ表情だ。

 

 

「……。まだ時間はあるだろ? ちょっと寝るよ」

 

「そうですか……では此方に」

 

「ん……」

 

 

 挙げ句、目をとろんとさせながらレイヴェルにもたれ掛かるという……子供みたいな姿をさらけ出し始め、そんな一誠を当たり前だとばかりに受け止めて膝枕をするレイヴェルに、とうとう黒歌までもが口を挟めず白音共々ジーっと恨めしそうに眺めていた。

 

 

「んん……久しぶりだな、レイヴェルにこうして貰うの」

 

「あ……ほら一誠様? それじゃあ膝枕じゃなくて只の抱き枕――」

 

「んーん……レイヴェルの匂いが安心する……」

 

「ぁ……ん……♪ くすぐったいですわよ♪」

 

 

 終いには膝に頭を乗せる――じゃなくて、うつ伏せ体勢でレイヴェルの腰に腕を回して抱きつき、お腹に耳を当てながら寝始める一誠と、全く嫌がる事なく微笑みながらその頭を撫でるレイヴェルに、そろそろ本気で突っ込みを入れて空気を変えてやりたいと思う他のメンバー。

 

 

「うわぉ。家での一誠が普通にガキみたいでちょっと安心してる俺がいる」

 

「うん、なんだろうね……べつに疎外感も感じないし」

 

「…………。なぁ、男というのはああいう事をして貰うと嬉しいのか?」

 

「え? あ……う、うーん……多分、僕は好きかも?」

 

「うむ……そうか……」

 

 

 

 

 

「えー……良いなぁ。幼馴染みってやっぱ強いにゃ~」

 

「……。最近姉様のキャラにすら負けてるのに……ぐぬぬ」

 

 

「すーすー……」

 

「ふふ、時間までずっとこうしてますから、安心しておやすみなさいませ一誠さま……」

 

 

 閑話・決戦前の平穏……終わり

 

 

 

 




補足

コカビエルさん安心院さん知ってましたの巻。
+彼女を知ってるからこそ、某信者大魔王の如くあくなき強さを求めてストイックに鍛えた結果……。


「禁手化!」

「蝿だな」

「我、目覚めるは……」

「……。わざわざ待っててやったのにその程度とはな。
ガッカリだぞ小僧」


イレギュラーによるイレギュラー化……完了。


で、まあ、本編通り、黒歌さんにフラれた悲しみを別の女の子達に向けたらクソヤバイ回復力で復活したフリードきゅんに腕を落とされ、女の子達は全員人質に取られ、嘗めてたコカビエルからは雑魚扱いされてボコられ、頼みの綱のフルパワー覇龍も、わざわざ詠唱待ちまでしてもらったのにズタボロにされ……。

多分、兄貴の転生人生どん底期です。


その2

黒歌ねーさんにキャラ負け気味ですが、やはり幼馴染みは強し……という訳ですな。



感想返しは明日以降となりますが……。

兄貴ェ……どんだけ切られろ思われとんねん……(笑)

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