生徒会長イッセーと鳥さんと猫   作:超人類DX

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短編に置いてた奴を流用するのでペースがそこまでは早い……つもり。


生徒会長だったりするイッセー

 ―無限大に広がる宇宙の様だ―

 

 

 それが、俺を見る人外の師匠や他の悪平等(ノットイコール)の評価らしいのだけど、ハッキリ云って俺がそんな御大層な男な訳か無い。

 

 単に人から認めて貰いたいからって理由で常日頃鍛練に明け暮れ、脳内麻薬が生成されるまで肉体とか精神を虐めき、分泌された時に感じる何とも言えない清々しさを味わいたいってだけの奴なのだからな。

 

 なのでそんな過大評価されてもくすぐったいというか……。

 ぶっちゃけると、始めた理由だってあの胡散臭さが抜けない笑顔を浮かべて人との輪を次々と紡いでいく兄貴に負けたくねぇとかいう対抗心から来たものだしね。

 

 

 

 

 

『世界は不変か?』

 

『未来はレールの上か?』

 

『現実はつまらんか?』

 

 

 同じ制服を着た、同じ年代の大人へ差し掛かる少年・少女がポカンとした面持ちで、壇上に立つ一人の少年を見つめる最中、少年は凛とした面持ちと声をマイク越しに聞かせていた。

 

 

『心配するな。生きてるだけで人間は儲けもんだ!』

 

 

 少し赤みがかった茶髪。

 整った容姿。

 すらりとしながらもガッチリとした体型。

 駒王学園二学年に在籍する少年・兵藤一誠を壇上の下から見つめる生徒達は色んな意味で知っていた。

 運動・勉学・その他全てが学園で一番は普通。

 そして今もこうして聞かされる彼の声と姿から嫌でも感じ取れる圧倒的なカリスマ。

 

 彼の声や挙動を目にし、耳にすればするほど彼に引き込まれる。

 生徒の一人一人はそう感じていた。

 

 

「ハァ……ご立派ですわ一誠さまぁ」

 

 

 特に友の妹であり、1つ下の学年である少女に至っては、勝ち気に見られる表情をこれでもかと蕩けさせながら、壇上で堂々と演説する少年に熱い視線を送っている。

 

 

『……。まあ、こんなつまらん俺の話をしても諸君を退屈させてしまうと思うので要点だけ言うとだ……』

 

 

 圧倒的な存在感、圧倒的な才気。

 その全てを兼ね備え、他の生徒会長候補をぶち抜き、笑えるくらいに凄まじい支持率で就任するという伝説を作った今代の生徒会長・兵藤一誠は、前置きをさっさとやめて要点だけ言おうと備え付けのマイクをひったくり、壇上に目安箱と書かれた鳥かごの様な木箱を見せ付けながら堂々と宣言した。

 

 

『俺は今までの生徒会とは違った事をする為、この度から皆の持つお悩み等の相談事も引き受けようと思いこの様な目安箱(めだかボックス)を作成した。

どんな悩み事……勉強・恋愛・進路・家内安全から交通安全まで等々、悩み事があればこの目安箱に投稿してくれ。

24時間365日可能な限り俺は誰からの相談を引き受ける! 以上、生徒会からの連絡だ!!』

 

 

 悪く言えば啖呵にしか見えない一誠の堂々とたる宣言で幕を下ろした全校集会。

 しかし一誠の場合は違った……。

 

 

「「「「「うぉぉぉぉっ!! イッセェェェェ!!!」」」」」

 

「レイヴェルたんに好かれてるなんて羨ましいぞー! しねー!!」

 

「セーヤはもっと死ねー!!」

 

 

 フハハハハ! とどっかの悪役みたいな笑い声と共に言い切る一誠に、生徒達はわーわーきゃーきゃーと、目安箱設置の案を出した一誠を歓迎する生徒達の声と一部関係無い妬みの声と共に迎えられた生徒会長・兵藤一誠。

 圧巻なる支持率『97%』

 他の候補者を完全に蹴散らし満を持して就任した生徒会長・兵藤一誠は、実にやりきった感満載な顔で壇上を降りていく。

 その右腕に付けられた会長の腕章………そして『副会長』『会計』『書記』『庶務』の腕章も付けたまんま。

 

 

 兵藤一誠。

 二年一組。

 血液型・AB型

 駒王学園・第18代生徒会長・副会長・会計・書記・庶務。

 

 

 

 

 

 

 備考・人にして無限(インフィニットヒーロー)夢幻(リアリティーエスケープ)に到達したもう一人の完全なる人外。

 

 

 

 

 

 さてさて、今無き先代の生徒会長兼先輩の義理を返すために急遽生徒会長に立候補し、毎日毎日を支持率集めに努力した結果が実ってくれて実に良かった……………なんて此処で胸を撫で下ろす訳にもいかない。

 先代の……俺にとって尊敬すべき先輩から受け継いだこの腕章を守り、次の代に受け継ぐために頑張らなきゃならんのだ。

 それに……。

 

 

「ふーむ、急遽過ぎて他のメンバーが居ないのは良くないか……」

 

「それでもご立派でしたわ! レイヴェルはますます一誠様をお慕い申してしまうほどに……」

 

「お、おぅ。そ、そうか……」

 

 

 師匠(なじみ)の変な思い付きで預かる事になった、友達の妹に情けない所を見せるわけにはいかない。

 かれこれこの子が来てからもう結構経つが、相変わらずというか何というか……。

 

 実はこの学園は――いやもっと言えばこの街一帯が実は悪魔と呼ばれる生物が治めてる領土ですとか。

 

 この学校には悪魔の軍団が二組居るとか。

 

 その片方の軍団に双子の兄となってる兵藤誠八が人間を捨てて転生して遣えてたりしてましたとか。

 

 何かもう色々とあるんだけど、今こうして生徒会室でのんべんだらりとしてる俺のもとで『転校生』という肩書きで通うようになってから毎日毎日顔を見せてくれるレイヴェル・フェニックスも実は彼等と同じ悪魔とかとかとかとか色々複雑な事情がある。

 

 

「一誠様を想う度に私の下腹部は喜びが沸いて――」

 

「や、やめろよ……!

お前が言うと色々とアウトになるだろが!」

 

 

 だが俺はそれをある程度把握してるからといって彼等にへーコラするつもりは無い。

 そもそも俺は人間であって悪魔じゃないのだ。

 故に彼等の信仰してる魔王とやらを崇める必要も、顔色をうかがってゴマする必要なんて無い。

 あくまで俺は駒王学園の生徒会長として責務を果たすだけだ。

 ……。まあ、レイヴェル――牽いては彼女の実家でるフェニックス家の面々とは『悪魔でも人間でも無い別の繋がり』を持ってるので、多分色々と贔屓しちゃうかもだけど。

 

 

「そ、それとレイヴェル。

頼むからその『一誠様』って呼ぶのはやめてくれないか?

なんというかね、生徒達から物凄い噂をされてしまうというか……」

 

「な、何故ですか!? 一誠様は私が嫌いになりましたの……?」

 

 

 そんなこんなで、レイヴェルとは結構な昔から顔馴染みであり中々に仲良しと言える間柄なのだが……。

 その……この前の事件から発覚したのだが、レイヴェルは俺を男として見てるらしく、一学年下にも拘わらず――もっといえば家も一緒だというのに休み時間になる度に甲斐甲斐しく俺の所属するクラスにやって来るのだ……こう、すっごい楽しそうに微笑みながら。

 いや、それだけなら別に良いんだが……その、俺を呼ぶ時が一誠様のせいで変な誤解をクラスメート――いや学園全体に広がってしまってる。

 

 

「そういう訳じゃない……無いんだが、お前って聞けば俺以外だと物凄いドライな態度らしいな?」

 

「? それがなにか?」

 

 

 金髪縦ロールに碧眼のつり目という、アニメから思いきり飛び出してきた様な容姿を持つレイヴェル。

 人の容姿を判定するほど偉くは無いが、正直にこの子はかなり可愛いと思う……というか、容姿とは裏腹にめちゃくちゃ素直で良い子なんだよ、俺にとっては。

 けど、どういう訳かレイヴェルは俺以外にはかなりドライというか『押し並べて平等にどうでも良い有象無象』と、彼女の根底に持つ特性ゆえにそう思っており、転校してから暫くはそのアイドル的なルックスで多くの男子諸君が騒いだらしいのだが――

 

 

『レイヴェル・フェニックスと申します。

夢で終わらせるつもりはありませんが、目標はこの学園に通う兵藤一誠様にお嫁さんにして貰うことです』

 

 

 どうも転校して最初の挨拶がそれだったらしく、見事に男子諸君の淡い期待をぶっ壊したとかなんとか……。

 お陰で俺は男子諸君から恨めしい何かを見るような視線を若干送られる羽目になってだな……いや、それでも嫌われてないから良いんだけど。

 とにかく、学校内ではちゃんと先輩後輩のメリハリを付けて兵藤先輩とかそんな感じに呼んで欲しいのだよ……うん。

 

 

「お前が男子から何て言われてるか知ってるか?

『ツンデレっぽいのに、デレはおろかツンすらしない』とか言われてるんだぜ?」

 

「はぁ……それを言われても私は一誠様に――ハッ!? もしや一誠様がおっしゃりたいのは、『もっと甘えてくれ』ということですね!?

それならそうと早く仰って頂ければ、私は……ポッ」

 

「いや……あー……全然違うんだけどなー……」

 

 

 この話を良い方向に解釈する癖はこの子の兄貴であるライザーにソックリだな。

 アイツもいやにポジティブというか……。

 キツい性格してそうな見た目なのに、ほんのり頬染めながら微笑む姿が無駄に可愛いから悔しい。

 

 

「一誠さま……一誠さま……♪」

 

「わ、わかった……! わかったから、女性ともあろうものがそんな簡単に男にくっつこうとするなって……!」

 

「む! 私はそこら辺に居るような尻軽女とは違いますわ!この身もこの心も全て一誠様だけに捧げるのです!」

 

「だから早いっての、色々と……!!」

 

 

 その上、家でも学校でもスキンシップが激しいときた。

 それだけ俺を慕ってくれるのは物凄い嬉しいし、小さかった頃を知ってる分、その……なんだ成長してるのが嫌でもわかるんだよ……フニフニしたものが当たるしてか意外と大きい……って、違う!!。

 

 

「お、お前とこんな真似してるなんて兄貴三人衆にバレたら何を言われるか……」

 

 

 力付くでひっぺがすのは悪い気がするし、だからと言って好きにさせると色々と不健全なので、口を『3』の形にしながらグイグイ迫ってくるレイヴェルの両肩を押さえながら、これ以上はやめてけろとこの子の兄貴三人の事を引き合いに出すも、あんまり意味が無かった。

 

 

「お兄様達からは前に言った通り『全て公認』して頂いてます、それに父と母も同じく。

ですので、私と一誠様を阻む壁なぞ何にもありませんわ!!」

 

「ぐぐ……大事な娘……! もしくは妹を人間ポッチに任せるなんて、とんだ放任一家だぜ……今更だがな!」

 

 

 勝ち誇った顔で家からは何も言われないと言い切るレイヴェル。

 唯一悪魔として一家全員が悪平等(ノットイコール)であるフェニックス家は、俺も師匠経由でかなり世話になったというか、兵藤家に兄貴が現れてから一度も帰らずにフェニックス家に入り浸ってたくらいだ。

 寧ろ確実に肉親以上にフェニックス家との繋がりは深いともいえる。普通に皆優しいし居心地よすぎだし……。

 けれどだからといって、純血悪魔でもない只の能力保持者(スキルホルダー)でしかない人間の俺にレイヴェルという誰が見ても美少女な子は死ぬほどに勿体無い気がしてならん。

 いや、レイヴェル自身の気持ちを最優先した結果がこれだってのも嫌というほどわかるんだが……。

 

 

「もう、一誠さまのいけず……」

 

「隙あらば人の寝てる布団に潜り込んでくるお前は、ある意味すごいよホント……」

 

 

 それこそ、血の繋がりは無けれど年の近い妹か何かだと思ってたレイヴェルと男女関係になったらといきなり言われても戸惑いしかないんだよ。

 それに俺はライザーと違って女の子の扱いがド下手だしな。

 

 

「まあ、取り敢えずその話はまた後で話し合うとしてだ。

今は生徒会のメンバーをどうするかなんだが……」

 

 

 レイヴェルの積極性のおかげで大分逸れてしまった話を、不満そうに離れてくれた彼女を見ながら軌道修正する。

 そう……今回の問題は生徒会メンバーをどうしましょうかという話であり、レイヴェルとイチャイチャしちゃって宜しいのかって話じゃないのだ。

 というか、お前ってば生徒会に入ってないのに何で当たり前の様に此処に居るんだよ――――は野暮だし言うのは止めておこう。

 

 

「『副会長』『会計』『書記』『庶務』……取り敢えず最低でもこれだけは集めておかないといけないんな。

しかしだからと云って適当に募集して集めるのは何か違うと思うし……うーむ……」

 

「一誠様のお手伝いが出きるのであれば、是非とも私を加えて頂きたいのですが……」

 

 

 考える横でレイヴェルはそう期待を込めた様な目で立候補してくれたが、すまぬレイヴェルよ……それは無理だ。

 

 

「駒王学園 学園則 第42条・第二項目を生徒手帳で調べてみろ」

 

「え……はい。えっと……『他校から編入した生徒は、編入後半年間は生徒会役員に立候補できない』……………そ、そんな……!」

 

 

 まあ、そういう訳だ。

 どうであれ、レイヴェルは転校生としてこの学園に入り込み、まだ半年も経ってない。

 だからどうあがいても半年間は立候補不可能なのだ。

 

 

「うー!」

 

「俺としてもお前がこの学園の生徒として居てくれるなら、是非とも必要な人材なんだが、規則がそうなってる以上はな?」

 

 

 残念そうに項垂れるレイヴェルにフォローを忘れずに入れる。

 ……。うむ、今日の帰りに何かご馳走してあげよう……何か見てて居たたまれない気分になる。

 

 

 

 

 とるに足らない人間だけが人間ではない。

 いや、正確に云えば全ての人間には(プラス)(マイナス)のどちらかの素養が備わっている。

 しかしそれでも多くの――ほぼ全ての人間はそれに気付かず生涯を閉じてしまう。

 私が知ってる限り、そのどちらの素養を自力で発現させ、今尚無限に広げているお方は兵藤一誠様しか知らない。

 悪平等(ボク)達以上に安心院(ボク)であり、誰も到達しなかったもう一人の安心院なじみ(ノットイコール)……それが私が恋心を抱くお方……兵藤一誠様なのだ。

 

 

「何か飲むか?

まあ、一応任期を終えて来期になってもまた立候補するつもりだから、その時はお前に背中を任せる。

だから元気出せって……な?」

 

「はい……」

 

 

 迷惑と思われるくらいに身を寄せても、大袈裟に落ち込んでメンドクサイ姿を晒しても一誠様は変わらず私に優しくしてくれる。

 誰よりも努力を怠らず、誰よりも壁を乗り越え続け、誰よりも先に頂きに立つ。

 無限に進化をする異常性(アブノーマル)と現実を簡単に書き換える過負荷(マイナス)の二つを持っているにも拘わらず、決して傲らずに自らを高める。

 最初は勿論、泥臭い性格である一誠様に対して冷めた気持ちを持っていたかもしれない。

 けれどそれは最初だけだ。

 安心院さんに対して、当たり前の様に勝負を挑むという、いっそ大馬鹿と言わざるを得ない事をして死にかけても彼は絶対に折れず、傷だらけになりながらも笑顔で言うのだ……

 

 

『次こそ負けねーぜ……!』

 

 

 安心院さんがどんな存在なのから悪平等(ボク)である以上誰よりもよく知っている。

 そんな彼女に何度となく叩き潰されようとも心を折らず、更に鍛練を重ねるお姿を見ている内に興味が沸いてしまうのは必然であり、気付けば私から話し掛け、年が近いのもあってか直ぐに仲良くなれた。

 

 

『俺は一度突き付けられた現実から逃げた事があってな。

……。まあ、逃げることが悪いとは思ってないが、弱いから逃げる真似は2度としたくないと思ってさ……』

 

 

 『突如現れた双子を名乗る兄』に自分の居場所を全て奪われ、居心地の悪さから全てを捨てて安心院さんに弟子入りした話から、その際発現したオリジナルの能力(スキル)と目標。

 一つ一つ、それらのお話から他愛のない小さなお話までをしていくうちに、私は一誠様を強く意識するようになった。

 それは純血悪魔である私が決して抱いてしまってならない気持ちなのは分かっていたが、父も母も兄達も既にもう一人の完全なる安心院なじみ(ノットイコール)である一誠様を我が子、もしくは弟のように気に入っていたので大した弊害も無かった。

 

 

「あ、一誠様に言っておかなければならないことがありまして……。実は兄のライザーが婚約するのです」

 

「アイツが? えっと、一体誰と?」

 

「ほら、この学園のオカルト研究部なる部長をしてらっしゃる……リアス・グレモリー様とです」

 

「グレモリー3年だと?

むむ、何の間違いがあってそうなったんだ? 彼女は確実にて手遅れレベルの兄貴シンパなんだぞ? しかも魔王の妹という人間で無関係の俺ですら面倒だとわかる――」

 

「なんでもベロンベロンに酔っぱらった父が間違えてグレモリー卿と話をしてしまったとか……正直我が父ながらとんでもないアホかと」

 

「お、おい、おっさん……」

 

 

 そう……私は一誠様と添い遂げる資格がある。

 誰にもこの気持ちの邪魔はさせない……。

 馬鹿に真っ直ぐで、馬鹿に無謀で、お馬鹿で大好きな私だけのヒーローに恋をしたというだけなのだから。

 

 

「おっさんってあんまり酒強くないだろ……それでよくおばさんが怒らなかったな」

 

「当然怒られましたわね……。

いえ、怒られてるにも拘わらず、二人の寝室からは『も、もっと激しくぅ!!』という気持ち悪い父の声が聞こえてたので……微妙に反省はしていませんわね」

 

「お…………おっさん……」

 

 

 うふふ……私は一誠様にそんな事しませんわ。

 寧ろ色々とメチャメチャにされたい……なーんて! なーんて!! 恥ずかしいですわ!!

 

 

終わり

 

 

 オマケ

 ライバル?

 

 

 さて、恋する暴走娘であるレイヴェルだが、そんな彼女にも意外なる敵が居るようで居なかった。

 

 

「しつれいします……一誠先輩は――あ、いた」

 

 

 綺麗な白髪と瞳孔が縦長に開いた金色の瞳を持ち、学園内では専ら癒し系だかで大人気の美少女だ。

 圧倒的過ぎる存在感故に、支持率はあれど実はそんなに周りから近付かれない一誠に近付ける数少ない存在の一人なのだが……。

 

 

「ん? おぉ塔城一年、丁度良いところに来てくれた。

貴様の所属する部活の部長について一つ聞きたいことが――」

 

「また来ましたわねこの泥棒猫!!」

 

 

 拒む理由が一切無い一誠の歓迎する態度を上塗りするかのごとく、目付きを鋭くさせ勢いよく備え付けの椅子から立ち上がって威嚇するは、同学年かつ同級生のレイヴェルだった。

 

 

「……。なんだ、フェニックスさんですか。

すいません、アナタには用は無いので引っ込んでて貰えますか?」

 

「引っ込むのはアナタよ。

いえ寧ろさっさとこの部屋から去りなさい! 此処は私と一誠様の愛を育む空間――」

 

「違うぞレイヴェル、ここは生徒会室だ」

 

 

 水と油、猫と火の鳥。

 顔を合わせた途端険悪な態度を隠そうともせず帰れと口にするレイヴェルにちょっと不機嫌そうに顔をしかめる駒王学園オカルト研究部部員――否、グレモリー眷属戦車(ルーク)塔城小猫は、生徒会長である一誠が間に入ることで一旦は矛を収める。

 

 

「一誠先輩もこんな煩い鳥とよく一緒に居れますね、感心します」

 

「いや、俺にとっては良い子だから……うん」

 

「ふん、さっさと消えて兵藤誠八とやらにすり寄りにでも行けば良いのに。というかアナタ、前々から一誠様を気安く名前で呼ばないで欲しいのだけど?」

 

 

 来客用のパイプ椅子を用意し、そこに小猫を座らせると鬱陶しそうな表情を隠そうともせず互いに睨み合ってる。

 レイヴェルからすれば、この塔城小猫がとてつも無く気に入らないのだ。

 

 

「一誠先輩を兵藤先輩と呼ぶのに違和感があるし嫌だ」

 

「普通逆でしょう!? なんで同じ眷属のお仲間である兵藤誠八を名前で呼ばないのよ!」

 

「お、落ち着けって……」

 

 

 ただのグレモリー眷属で悪平等(ノットイコール)ですら無いくせに、リアス・グレモリー含めたグレモリー眷属女性陣とは違って誠八では無く一誠に近寄ってくる小猫がだ。

 この時もシレっと一誠の出したお茶とお菓子にホクホクしながら受け取り、目を吊り上げて威嚇するレイヴェルを半ば無視しながら此処に来た理由を一誠に説明している。

 

 

「ちなみに、兵藤先輩なら部長や副部長やアーシア先輩と宜しくやってる様だったんで、居心地が悪くなって遊びに来ました」

 

「へー……やっぱり過ぎて今更驚かんが、兄貴ってやっぱりモテモテなんだなぁ」

 

「ふん! だからアナタもその一人になれば宜しいでしょうに、何故わざわざ一誠様の下へ来るのか理解に苦しみますわね。というか邪魔するな雌猫」

 

 

 そもそも第一印象から気に食わない。

 自分を慕う相手を無下に出来ない一誠の甘さを良いことに、都合の良い時だけ懐ついた素振りを見せる雌猫宜しくに一誠にすり寄る小猫が初めから邪魔に思えて仕方無かった。

 その上小猫は小猫で――

 

 

「うるさい……この鳥頭が」

 

 

 シレッと毒を吐いてくるのだ。

 誠八の話を聞いて難しそうに腕を組んで考えてる一誠を穏やかな表情で見てた小猫が、横で帰れと連呼するレイヴェルに一瞬だけ冷たい表情を見せながら、ほぼ普通に罵倒の言葉を吐いていた。

 まあ、レイヴェルも言い続けていたのでお互い様なのだが、それで納得する訳もなく……。

 

 

「あ”? 今なんっつった?」

 

 

 悪平等(ノットイコール)特有の怒り顔をしながら視線外して一誠をじーっと見つめてる小猫にドスの利いた声で凄む。

 しかし小猫にそれは通用せず、寧ろそれを利用するかの如く会長席に座ってた一誠のもとへ素早く移動すると――

 

 

「くすん……鳥頭さんが怖いです一誠先輩……」

 

「ちょ、おい……レイヴェルみたいなことするなよ……!」

 

 

 まさに猫なで声で一誠に抱き付きながら、思ってないことを平然と口にし、見せつけるかのようにギョっとする一誠を他所に更に強く抱き付く。

 

 

「あぁっ!!? な、なにしてくれちゃってるんですかこの泥棒猫ぉぉっ!! 一誠様にすり寄るなぁぁぁっ!! 離れろぉぉぉっ!!」

 

 

 当然レイヴェルの怒りは頂点になり、そこはかとなくドヤ顔な小猫に飛びかかろうとするのは自然の流れだった。

 

 

 そう、レイヴェルだからこそわかる。

 一誠に想いを募らせているからこそわかるのだ。

 この塔城小猫がどういうつもりか、あの催眠術みたいにグレモリー眷属の女性陣が兵藤誠八に好意を寄せているというのに、唯一この小猫だけが例外で違うという事に。

 

 

「落ち着けよレイヴェル!

お、おい塔城一年よ、あんまりレイヴェルを刺激しないでくれないか? こう見えて俺にとってレイヴェルは大事な子でさ……な?」

 

 

 小猫に殴り掛かろうと構えるレイヴェルを見て、咄嗟に席から飛び退いた一誠が後ろからレイヴェルの身を羽交い締めにしながら小猫に注意する。

 だが小猫の表情は不満そうにしかめており、何時までも塔城一年と他人行儀に呼ぶの一誠にむかってこう告げた。

 

 

「それはわかってますが……。昔一誠先輩に助けてくれたお礼の事を忘れたとは言わせませんよ?」

 

「え……? いや……え?」

 

「嘘こくな、このいやしい雌猫!」

 

 

 昔? 何のことだ? とちょっと暗い表情の小猫をみながら考える一誠と、そんなものなぞ無い! と即否定するレイヴェルは無視し、言われてからうーむと過去を思い出してる一誠を見た小猫は、ハァと残念そうにため息を吐く。

 

 

「……。嘘じゃないのですがね……。まあ、一誠先輩にとっては修行中の片手間の出来事でしたので仕方無いと思いますが……ちょっと悲しいです」

 

「一誠様、こんな雌猫の戯れ言に付き合う必要なんて――」

 

「ちょっと待て……昔――修行――塔城一年――猫――――」

 

 

 さっさと兵藤誠八のシンパになれば良いのに、何故かならない。

 いやならない理由を本当はレイヴェルも解ってる。

 だからこそ、だからこそ気に食わないのだ。

 

 

「え、え、え?? あれ待てよ? ………………………あ!! お前もしかして白音か!!? 姉の黒歌と死にかけてた!!」

 

「ええ、やっと思い出してくれたみたいで嬉しいです。

ほら、再会のキスでもしませんか? 所謂べろちゅーってやつを――」

 

「え”? いや、それは良い――」

 

「そ、そそそそ、そんなことは許しませんよ! 一誠様の唇は私だけのものです!」

 

 

 似てると感じてしまうこの塔城小猫が、レイヴェルは物凄い嫌いだった。

 

 

終わり




補足
多分、全シリーズの中では一番突き抜けてるじゃないすかねー(チート的な意味で)

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