生徒会長イッセーと鳥さんと猫   作:超人類DX

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まるでOSRBP(オサレバトルポイント)の如し……。
最終章手前なんでって理由で吹っ切ってます。

※加筆しても吹っ切ってます。


それでも立ち上がる男達

 フリード・セルゼン。

 

 天然のジョワユーズ使いである彼は、白銀に輝く銀牙騎士へと覚醒した祐斗により、銅を切り裂かれ敗れた。

 力量は上回っていたが最後の最後で勝利を掴み損ね、白い神父服を自身の血で真っ赤に染めながらフリードは手に持っていたジョワユーズを落とし、崩れ落ちた。

 

 

「ク……クソッタレ……が……!」

 

 

 油断はしてないつもりだった、さっさと始末してしまう予定だった。

 だが、今立っているのは銀の鎧が天に吸い込まれるように霧散し、生身の姿へと戻って疲弊している祐斗と、その祐斗に肩を貸しているゼノヴィアだ。

 

 

「ハァ、ハァ……っ」

 

「だ、大丈夫か祐斗? 今の鎧は一体……?」

 

「そ、それはねゼノヴィアさん……僕の神器(セイクリッドギア)とは違う……もうひとつの――」

 

 

 

 

「………」

 

 

 緊張が解けたのか、押し込んでいた疲労感が一挙に押し寄せてフラフラな祐斗と肩を貸すゼノヴィアの声が遠くに聞こえるフリードは大量失血のせいで思考がまともに働かず、視界も霞んでいる。

 自身の左目が失われた原因である赤龍帝の男への復讐が師とも云えるコカビエルからの施しにより完了できたのに、結果的にその赤龍帝の男と同じく地面に転がってる。

 

 死ぬほど嫌いなジョワユーズまでも使って追い込んだのに、予想だにしない祐斗の覚醒がフリードを敗北に叩き込んだ。

 その現実が致命傷という形でフリードの死に体同然ともいえる今の状況に重くのし掛かる。

 

 

(くっそ、身体が動かねぇよボス……結構やべぇぜ)

 

 

 うつ伏せに倒れ付し、今尚流れ出る自身の血を感じながらフリードは自分に手を差し伸べてくれた堕天使を想う。

 今こうして自分が負けて倒れてる間も、あの赤龍帝の男とそっくりな男と戦ってるというのに……。

 

 

「くっ……ぐっ……がぁっ……!!」

 

 

 こんな切り傷程度で寝てられる訳がない。

 学園の運動場のど真ん中で殴り合うコカビエルに失望される訳にはいかない。

 ボスが戦ってるのに部下がこんなところでサボる訳にはいかない。

 

 

「こんな、程度でっ……! 負けて! 堪るか……よぉ!!」

 

 

 死に体同然。本来ならとっくに死んでいる筈の身。

 しかしそれでもフリード自身の持つ意地と執念が身を突き動かし、再び活力を与える。

 

 

「ボスなら笑って何度でも立ち上がるってのに、部下がこんな程度でお寝んねなんざ笑えねぇぜぇ……!」

 

「なっ……!?」

 

「フリード……」

 

 

 ボロボロだ――だから何だ?

 最早戦えるコンディションでは無い――分かってる。

 

 しかしそれでも、フリードは意地と執念とコカビエルにより影響され芽生えた勝ちたいという想いが、大嫌いな武器(ジョワユーズ)の柄をしっかり持ち、歪んでいるけれど強い意思を右目に宿しながら、驚愕するゼノヴィアを前に立ち上がった。

 

 

「けっ……けーっけけけ!!! 俺はまだくたばっちゃねェゾォォォ!!!」

 

「こ、こいつ……!」

 

 

 ドクドクと未だ流れ出る血の量からしてとっくに死んでてもおかしくないのにジョワユーズを杖にしながらも尚立ち、狂気の笑みを見せるフリードにゼノヴィアはある種の恐怖を感じながらも、デュランダルを即座に構える。

 

 

「ごほっ!? っ……アァ……頭がボーッとしやがるぜ……ひゃははは」

 

「もう止せ! そんな身でまだ戦う気か!?」

 

「当たり前だぜ元同僚ォ! コカビエルのボスが諦めてねぇのにこんな所で寝てられるかばか野郎!」

 

「う……!」

 

 

 血で身体を染め上げ、それでも尚闘気を剥き出しに吠えるフリードの背後に元神父とはいえ似つかわしくない『フードを被り、大鎌を持つ死神』の姿を幻視し、思わず身体を強張らせてしまうゼノヴィアに、ジッと見ていた祐斗が庇うように前に出て覚醒した聖魔の力を宿す双剣を構えた。

 

 

「下がっててゼノヴィアさん……。決着は僕がつけるから……」

 

「だ、だがお前は――」

 

「大丈夫……必ず勝つ」

 

 

 地面に突き刺したジョワユーズを杖代わりに何とか立っている状態にも拘わらず、嫌な予感しか感じないゼノヴィアが決着をつけると宣言する祐斗を止めようとするも、祐斗は笑ってゼノヴィアに勝つと約束し、両手に双剣を手にする。

 

 

「……。絶対に負けないからさ」

 

「祐斗……わかった」

 

 

 その声は優しく、ゼノヴィアは渋々とデュランダルを下げて祐斗から離れ、その背を見つめながら只ひたすら祈った。

 死なないでくれ……と。

 

 

「くっくっくっ……やべぇ、勝てる気がしねぇのに逃げようとする気もしねぇ……」

 

「行くぞ……!」

 

 

 腰を軽く落とし、二対の剣を構えた祐斗にフリードはこんな状況でも逃げようとする気が起きない自分に笑えてしまいながらも、地面に突き刺していたジョワユーズを抜き、フラフラと軽く押しただけで倒れそうになりそうなのを踏ん張りながら両手でしっかり持つと……。

 

 

「斬る!」

 

「行くぞぉぉぉっ!!!」

 

 

 身構える祐斗に向かって最後の力を振り絞ったフリードが一気に飛びかかった。

 

 だがいくら気持ちが折れてなかろうとも、その身は既に死んだも同然……。

 ましてや銀牙騎士へと覚醒した祐斗の鎧に刃は通らず、渾身の一刀も虚しくフリードの刃は祐斗の持つ左の剣に弾かれると――

 

 

「はぁっ!」

 

「!」

 

 

 祐斗の刃がフリードの身を貫いた。

 

 

「が……うぁ……」

 

「僕の勝ちだ……!」

 

 

 腹部を貫かれ、目を見開きながら動かなくなるフリードに剣を引き抜きながら静かにそれだけを言った祐斗は、再び倒れるフリードに剣を消して見下ろす。

 だがしかしフリードの目に敗北の文字は無かった。

 

 

「ぐ、がぁっ……!」

 

「まだ闘うつもりなのかい……キミはまだ?」

 

 

 下半身に力が入らず、立つことは不可能な所まで消耗したフリード。

 しかしながら未だ右目のみとなった瞳は死んではおらず、立っていた祐斗の脚を力なく掴みながら呻き声に近い声を出しながら睨み付ける。

 

 

「ぐ……ぅあ……ま、だ……だ……! オレは……死んじゃいねぇ……!」

 

「っ……」

 

 

 どちらかが死に、どちらかが生きる。

 フリードにとっての戦いはまさに全てを賭けたものであり、自分にトドメを刺そうとしない祐斗を獣の様な眼光で睨み付けながら、闘う意思を見せつける。

 

 

「ゥ……ォォォ……!」

 

「もう……もう良いだろう!」

 

 

 それは祐斗にしてみれば、このままトドメを刺してあげるべきなんだろう。

 しかし祐斗には出来ない……。

 死体蹴りをかませる程祐斗は非情ではなく、ましてや相手は元々持つ才能を更に磨きあげて此処まで登り詰めた相手なのだ。

 そんな相手に自分がトドメを刺すことなんて……祐斗は自分の脚を掴んだまま尚も戦おうとするフリードに悲痛な面持ちで叫ぶ。

 

 

「ぅ……」

 

 

 その叫びが届いたのか、それとも力尽きただけなのか……祐斗の声と共にフリードは脚を掴んでいた手を緩め、そのまま意識を失ってしまい、これにより嫌味な程に晴れた星空に展開される三つの戦いの内の一つが完全に終わった瞬間だったと思われた。

 

 

 

 

 

 

 

 ドクン――

 

 

 

「…………」

 

 

 そう……少なくとも祐斗は、見届けていたゼノヴィアはそう思っていたし、最期の最期までその目に闘志を宿らせたまま動かなくなってしまった時点で終わったと感じていた。

 けれど祐斗やゼノヴィア……更に言えば校庭の中心で派手な空中戦を繰り広げているコカビエルや一誠達ですら見誤っていた。

 

 

(死んで……堪るかよぉ……!)

 

 

 フリードという少年が如何に短い付き合いながらもコカビエルという堕天使を心から慕っていたのかを。

 

 

(まだ俺はボスに借りを返してねぇのに――)

 

 

 そしてフリード・セルゼンもまたその想いに到達した事により……。

 

 

(俺は……まだ死ぬわけにはいかねぇんだよ!!)

 

 

 資格を持つ者にまで登り詰めていた事を……。

 最期の最期まで闘う意思を崩さずに散っていったフリードにある意味負けたと思う祐斗もゼノヴィアも気付かないままその時はやって来た。

 

 

『まだ闘いますか、フリード・セルゼン?』

 

(……。あぁ?)

 

 

 本物か、それとも息絶えるフリードの頭の中に幻聴として聞こえた声なのか。

 少なくとも眠くなる様な気持ちに呑み込まれそうになっていて本人には確かに問い掛けるような女性の声が聞こえた気がした。

 

 

『アナタの事はずっと見ていました……。何を想い、何を憎み、何を考えて生きてきたのか私は誰よりもアナタを見て理解しています……』

 

(………………)

 

『アナタが敗北し、此処で死ぬのは見たくない。

だからアナタに……やっと私の声が届いたアナタに私の力を貸すことを許してください』

 

(ちょいちょい、さっきはからペラペラ勝手に語ってる所悪いけど、アンタ誰だし?)

 

 

 その声に何と無くフリードは『懐かしい』気持ちを覚えさせるも、聞き覚えが無い声でもあった。

 故にフリードの反応を待たず何やら力がどうとか言ってる声の主に何者なんだよと問うフリードは最近の日々を考えると割かし冷静な方だったかもしれないが……。

 

 

『私はアナタ自身の人生を壊してしまった元凶であり、その中に宿る単なる意思……。

故に名前なんてありませんが……貴殿方は私をジョワユーズと呼んでいます』

 

 

 返ってきた答えは、フリードの中に形成された常識的許容範囲を越えたものだった。

 

 

(………………は?)

 

 

 声の主がジョワユーズ。

 ジョワユーズといえば聖剣。

 こんな訳の分からない真っ暗空間から聞こえるこの声が嘘を言ってる様には今更思えないフリードは思わず久々に間抜けな声が出てしまっても仕方ない話だった。

 

 確かに聖剣だし多少は使い手だった自分でも知らない何かがあってもおかしくは無いのだが、ジョワユーズに意思が宿っててくっちゃべってくるだなんてのは、いくらぶっ飛んでるフリードとて驚く話だった。

 

 

(ちょ、ちょいちょいちょいちょいちょいちょい? ジョワユーズ? いやいやいやいや、剣に女の声が出る機能なんてオレっち知らんし)

 

『機能じゃありません、かつて私を造った存在ですら『知らなかった』事実ではありますが、私はジョワユーズという聖剣の中に宿る意識です。

だからこそ、アナタの事は誰よりも見てきたと言ってるのです』

 

(…………。それが本当なら、オレがテメーを――)

 

『知ってます。アナタ様が私をどれだけ憎んで忌み嫌っているのか……』

 

(………)

 

『ですが、私を使う者として私の真の力を知らないまま敗北するアナタ様の姿は見たくない……そう私は思っています。

だからこそ勝手ながら……かつての使い手であったシャルルマーニュを越えた使い手へとご成長されたアナタ様に私の真の姿を使って欲しい……それがあなた様の武器となった時から抱く私の望み』

 

 

 ジョワユーズと名乗る女の声の淡々としながらも、何と無く不安げにも聞こえる言葉。

 武器として……そして真の姿としての自分を使って欲しい。

 ぶっちゃけると真の姿云々も去ることながら、妙に人間味を感じるジョワユーズの意思に驚いてるせいで、毛嫌い感情があんまり出てこない。

 

 

『あの(スガタ)は謂わば仮の姿であり、本来の1割にも満たない力しか使えません。

ですが、一時的でも良いのでアナタ様が私をお認めくださり、受け入れてくれるのであれば……』

 

(……。あれば?)

 

『銀牙騎士と同等の力をアナタ様に明け渡す事が可能です』

 

(…………。嘘じゃねーだろうな?)

 

『アナタ様の道具として誓って嘘はもうしません』

 

 

 ジョワユーズに更なる力が宿っていた。

 それだけでも驚くものだったが、自分を斬り伏せたあの銀牙騎士なる鎧の力にも拮抗できる力を解放できると言いきったジョワユーズの意思にフリードは、天然の使い手だからこそ壊れてしまった人生に対する禍根を今だけ忘れ――

 

 

「嘘だったら炉に溶かしてやるからな……」

 

『ありがとうございます……フリード様』

 

 

 生まれて初めて、真の意味で自身に宿ったジョワユーズという力を受け入れ、暗く何もない空間が裂かれ、漏れだした目映い光の中に浮かぶ見慣れた剣へ手を伸ばしたフリードはしっかりその柄を握りしめ、光に包まれながら意識を再びこの世に覚醒させた。

 

 

「……。待てや」

 

「っ!?」

 

「な、なんだと……!?」

 

 

 フリードが自身の宿す力の源と対話していた――なんて露にも思わなかった祐斗とゼノヴィアは、再び聞こえる強敵の声に思わず身を強張らせながら振り向く。

 本来ならモヤモヤした気持ちであったものの、一誠達の元へと向かおうとしてたその矢先の出来事であり、振り向いた先に、ジョワユーズ片手にあの歪んだ笑みを浮かべて立つフリードに目を見開く。

 

 

「ど、どうして……君は死んだ筈じゃ……!」

 

 

 明らかに決着寸前のフラフラ状態じゃない……よく見れば自分が切り裂いた胴の傷が塞がっているフリードに困惑した表情で問う祐斗にニヤリと笑う。

 

 

「生憎オレっちはゴキブリのようにしぶといんでね、終わらせたくばバラバラにしねー限り基本的に復活すんだよ……ヒャッハハハハハーッ!」

 

「くっ」

 

 

 持っていたジョワユーズをくるくる回し、おちょくるように話すフリードに祐斗はなぜかホッとした気持ちを一瞬だけ抱きつつ、すぐさま双剣を構える。

 

 

「おっと、またあの鎧を出されたらオレっちに勝ち目はねぇ」

 

 

 刀身をクロスさせ、再び鎧を呼び出そうとする祐斗にパッと広げた右手を突き出しながらヘラヘラするフリードに、鎧を召喚しようとした祐斗もゼノヴィアも違和感を覚え、先程から妙にジョワユーズをグルグルと手首を使って回してる姿を警戒しながら見つめ――唖然とする。

 

 

「フンッ!」

 

「は!?」

 

「なっ!?」

 

 

 何を思っての事なのか、少なくともゼノヴィアと祐斗には皆目検討もつかない行為……即ちジョワユーズの刀身を根元からポッキリと地面に叩き付けてへし折ったのだ。

 驚くなという方が無理のある話だが、折った本人は金の装飾が施された……柄だけのジョワユーズを持ったままケタケタと笑っている。

 

 

「ジョワユーズが剣だなんて誰か宣言したのか? 今のコイツの姿は謂わば仮の姿よ」

 

 

 致命傷の傷が消え、不死身が如く再び立ち上がるその姿はまさに獣。

 何度でも何度でも……片目を抉られようとも、胴を切り裂かれようとも折れずに立ち上がる。

 これこそフリード・セルゼンが敗北を期に打ち立て、師と仰ぐ堕天使を見て確立した想い。

 その想いが、ジョワユーズに宿る意思を呼び起こし、完全なる忠誠を勝ち取った理由であり……真なる力を呼び起こす鍵。

 

 

「何っ!?」

 

「伝説にはこうある、ジョワユーズの柄には聖槍が埋め込まれていると……」

 

「……。まさか……!」

 

 

 刀身が折れて光となって消え、柄だけとなったジョワユーズがフリードの手元で目映い光と共に左右へ棒の様に伸びていく。

 それはやがて槍の形を形成し、光が収まればフリードの手には真っ白で飾り気の無い長槍があった。

 

 

「聖槍・ジョワユーズ……。本来の力を引き出す為の姿……」

 

 

 刀身を折った事で真なる姿へと変貌したジョワユーズ。

 細身で飾り気もなく、先端に小さな刃があしらわれてるだけというシンプルな姿ながら教会に身を置くゼノヴィアが膝を付いてしまいそうな――転生悪魔である祐斗が再び本能的な恐怖を感じさせるほどの聖なるオーラを纏っていた。

 

 

「槍……か。

へっ、コカビエルのボスがよく光の槍状にして攻撃するのを見て一応の使い方を学んどいてよかったぜ」

 

 

 剣から槍へと変化したジョワユーズをその場で素振りして試すフリードは妙に嬉しそうな表情だ。

 恐らく慕っているコカビエルと同じ形の武器を使う事が無意識に表情へと出てしまっているのだろう。

 

 

「剣の時よりも心なしか軽い……へっ、悪か無いですねぇ」

 

 

 異様なまでのスピードで真なる姿へと変貌したジョワユーズを使いこなし始めるフリードは羽毛の様に軽く感じる得物をアクション映画のワンシーンの様なアクロバティック的動きで振い続ける。

 だが、如何に真なる姿へと覚醒したジョワユーズと云えど、このままの細身な槍で祐斗の纏う白銀の鎧を貫けるかと問われれば難しいと云わざるを得ない。

 

 現に祐斗の両手には進化した聖魔の双剣が握られており、エクストララウンドとも言える戦いを前に不安が無さそうだ。

 

 

(ったく、マジで人生ってのはわかんねぇや。

このオレがジョワユーズを受け入れてるんだからよ……)

 

 

 だからこそ――だからこそ、大嫌いだったジョワユーズを受け入れなければならない。

 復讐を越えて銀狼へと覚醒した祐斗の様に、ジョワユーズを受け入れ、その先の領域へ進むことにより自分を拾ってくれ鍛え上げてくれた師であるコカビエルへの恩を返す為に……。

 

 

「……」

 

 

 今一度フリードは拘りも何も捨てて更なる進化への道を切り開く。

 迷いと憎悪を捨て去り、ただ眼前の敵に勝つ為にフリード・セルゼンという少年は――

 

 

 

「俺はフリード・セルゼン!」

 

 

 真なる覚醒の扉を開け放つ。

 準備運動を終えたフリードの片方の瞳には、これまで以上の強き意思を纏わせ、双剣の刀身をクロスさせる祐斗と、今度こそ終わらせる為に自分も加わるとデュランダルを構えたゼノヴィアに鋭くも真っ直ぐな眼光で見据えながら己の名前を宣誓するかの如く叫ぶ。

 

 

「テメー独りじゃ全部中途半端で、直ぐに調子に乗る馬鹿野郎」

 

 

 過去の自分を客観的に語るフリードの声は煽ってる事も無く真剣であり、真の姿となったジョワユーズの切っ先を夜天へ翳した。

 

 

「こ、これは……!?」

 

「まさか……!」

 

 

 その動きは何処かで見た――そう、祐斗が覚醒した力を解放した時と一緒であり、思わず剣を下ろしてしまう祐斗とゼノヴィアの表情は大きく狼狽えていた。

 

 

「だから受け入れてやらぁ、コイツのせいで教会のクソ共に拉致られしたが認めてやる。

テメー等をぶちのめし、ボスと戦ってる奴等もぶちのめして勝ってやる……!」

 

 

 狼狽える二人に今度こそ勝つと宣言するフリードが夜天に翳した槍を小さく回す。

 するとどうだ……祐斗が鎧をその身に纏った時に出現した小さな光の円陣が現れ、そこから光が漏れだし、フリードの全身に降り注ぐではないか。

 

 

「そ、そんな……キミって男は……!」

 

「な、なんて奴だ……! この土壇場で!」

 

 

 手持ちの武器は違えど、何から何まで先程の祐斗と同じ手順を踏んでるフリードにゼノヴィアは持っていたデュランダルと共に『させぬ』と斬りかかろうと祐斗の制止を待たずして飛び出した。

 

 けれど遅かった。

 全ては完全なるトドメを刺さなかった二人の落ち度であり油断がフリードにジョワユーズを受け入れさせ、復活させたのだ。

 

 故にそのツケは――

 

 

「我が名はフリード・セルゼン! 堕天使・コカビエルの一の子分! そして――」

 

「っ……ぐぁっ!!」

 

「ゼノヴィアさん!! くっ……!」

 

 

 光に包まれるフリードに斬りかかるも、見えない何かに阻まれ吹き飛ばせてしまったゼノヴィアを気にも止めず、フリードは自分の存在を叫び――

 

 

「白夜騎士だぜ!!」

 

 

 ガチャン! という金属音と共にフリードの前進は真っ白な鎧に包まれた。

 

 

「っ……くそっ……間に合わなかった!」

 

「ゼノヴィアさん、大丈夫かい……?」

 

「あ、あぁ……すまん」

 

 

 吹き飛ばされたゼノヴィアの身を全身で受け止める祐斗。

 二人が見る先には、祐斗に続いて現れた色違いの鎧騎士。

 

 

『おぉ……力がみなぎるなぁオイ』

 

 

 祐斗が身に纏う銀と違い、純白の鎧。

 狼のようなフェイスは祐斗のと違って牙が露出しておらず、マスクをしているように隠れており、細身だったジョワユーズの槍は全体が大型化され、穂先の部分もより大きく鋭い刃となり、鎧の背には深紅の背旗があった。

 

 

『これでテメーと対等になれたぜ悪魔くんよぉ……!』

 

「……フリード」

 

 

 純白の鎧騎士へと覚醒したフリード。

 その力を感じ、追い抜かれた祐斗へ再び並んだ事を確信し、大型化されたジョワユーズの槍の先端を向けながら鎧越しに声を出す。

 

 これで勝負は再び振り出しに戻ってしまった。

 勝てたと思った相手の執念と意地により再び戦いが……今度は楽に終わりそうもない戦いが始まる。

 

 

「ゼノヴィアさんは下がってて……」

 

「っ……足手まといとなってる自分がこうも憎いと思った事はないぞ……」

 

 

 槍を構えたフリードに勝つため、祐斗はゼノヴィアを下がらせ再び白銀の鎧を身に纏う。

 

 

『今度は楽に行かねぇぞクソ悪魔ァ!!』

 

『分かってる……行くぞ!!』

 

 

 そして始まるは騎士へと覚醒した者同士の戦い。

 有史以来始めてとなる、誰も知らない鎧騎士同士の戦い。

 それは神器とは違う。聖剣とは違う力を宿す……赤と白の龍な戦いと並び評される新たな伝説の幕開けとなる。

 

 

『オラァァァッ!!!』

 

『ハァァァァッ!!!』

 

 

 エクストララウンド……スタート。

 

 

 

 

「くくっ、フリードが俺も知らぬ領域に入ったか! ふ、ふはははは……アッハハハハハ!! なら俺も負けられんな! そうだろう? 兵藤一誠ェェェェ!!」

 

「あぁ……貴様の言うとおりだよコカビエル!!」

 

 

 白夜と銀牙がぶつかり合うその頃、一誠とコカビエルの戦いもまた佳境に入っていた。

 一誠自身がこれまで積み重ねてきたその集大成ともいえる矛神モードver黒神ファイナルの準備も終え、自身で生成した光槍を両手でしっかり持って迎え撃とうとするコカビエルに対し、全身からドス黒いオーラを放っている。

 

 

「これで貴様を倒せなければ俺に打つ手は最早無い……行くぞ!!」

 

「来い!!」

 

 

 三人の少女に見守られながらの兵藤一誠による最新・最終・最後の一撃。

 失い、差し伸べられ、その恩に報いるために今日まで積み上げてきた一誠の集大成は――

 

 

「うっ……おぉぉぉぉっ!!!!」

 

「っ!? 空間がねじ曲がっただと……!? しかしっ……!!」

 

 

 音を、光を……時間をも置き去りにし、全身を使った一撃と化し光槍を構えたコカビエルを破壊せんと地面を抉りながら襲いかかり……。

 

 

「っ……一誠様!」

 

 

 何よりも大切な女の子を目の前に爆音と共に決着への道へ突き進む。

 どちらかの勝利という結果の為に、目を覆いたくなる砂煙に二人の姿は一時その姿を消失させた。

 

 

 

 

 

 好きだった。

 一目惚れだった。

 分かってる……そんなものは一方通行なのも、それでも傍で役に立てるなら俺は本望だと思っていたし見てるだけで結構満足する安上がりな性格だった。

 けれどもう今の俺にはその気持ちすら無い。

 目の前でズルズルと堕ちていく主。

 奴の寵愛とやらを一心に受けたいが為に醜くなる主。

 夢すら忘れてしまった主……。

 

 そんな主は俺のエゴだが主じゃ……ソーナ・シトリーじゃない。

 自分の男がズタボロになって取り乱すのは分かるけど、それを奴の弟のせいにして喚くソーナ・シトリーなんて……。

 

 

「な、なによその目は……!」

 

「……。何でもありませんよ先輩方……。何でもないから黙っててくれや」

 

 

 願い下げだぜ。

 

 

「もう良いだろ先輩……。

奴の生命力なら手足失っても死にはしませんって。だから黙って邪魔せず終わるのを待ってろよ」

 

 

 虚しさすら覚える呆気なさで二人を拘束した。

 前までならこう簡単にいかなかった筈なのに、どうやらこの二人……いや兵藤誠八にイカれちまった連中はロクに戦闘勘も鍛えずにいたみたいらしく、あっつー間に拘束出来てしまった時は何かの罠だと思った程だ。

 

 だがどうやらそうでもなさそうで、二人の純血悪魔はラインで縛られたまま地面に転がった状態で俺を殺意溢れる顔で睨んでくる。

 

 まあ、連中にとって俺達は奴の意に添わない存在だし敵視されるのは分かってたんで今更何を思うことも無い。

 

 

「全部終わったら解きますし、一応奴も治療しますから安心して黙って見ててくれ頼むから」

 

「「くっ……」」

 

 

 数メートル先……フェニックスさんを中心に張られた障壁の外で転がってる兵藤誠八を引き合いに出すと、悔しそうに顔を歪めてる二人の純血悪魔に俺は何と無く冷めた気分になる。

 というか分かってるのだろうか? この騒動が終わったら兵藤誠八以下略であるアンタ等がどうなるかってのを……。

 

 いやわかんねーか……。分かるわけねーわな、どうせ許されるとか思ってそうだし俺達が横槍をどうのこうのと宣って悪役にでもするんだろうと思うと馬鹿馬鹿しく思えてしょうがねぇ。

 まあ、それもどうでも良いと思うんだよなぁ。

 だってよ――

 

 

「あ、どうも……。

ええ、こっちは多分何とかなってますし、兵藤誠八は再起不能で暴れようとしてたアンタの妹も抑えたんでさっさと来てさっさと引き取って貰えませんか? ――え、ルシファー様が暴れててそれどころじゃない? いやそんなの此方に関係ないんで早くして貰えませんか? テメーん所の妹の尻拭いをテメーの命令でやらされてるこっちの身にもなれよ、この魔王少女(笑)めが」

 

 

 もう、色んな意味で手は打ったんだよね此方は。

 だから地面に転がってキョトンとしてるお二人さん? アンタ等結構ヤバイよ立場が。

 

 

「さ、匙……何ですか今の電話は……?」

 

「ま、魔王様って今言って……」

 

 

 拘束し、予め言い逃れしたり罪を擦り付けられるのを防止する為に俺が独断で冥界の魔王に事のあらましを説明してました――なんて知ってるわけが無い二人の先輩様が急に狼狽えた顔をし始めているが、俺は無視して電話してる相手にさっさと来いと言う。

 

 

「妹が大事ならさっさと引き離すべきだったんだよアンタは……。

なのに今になって動いて兵藤誠八に怒りを向けてもなぁ?

魔王ってのは腰が重いのか? まあ、『この前いきなり俺の前に現れた』時の印象からして頭がおかしいとは思ってたが――――――はい? 別に怒ってませんけど? 『ソーナちゃんは騙されてるだけだから許してあげて?』とか何とか、ぶりっこっぽくほざいたアンタを、非力ながらぶちのめしてやりたかったとかそんなのありませんけど?」

 

「ちょ、さ、匙!」

 

「こっちの話を聞きなさい! 誰と話を――」

 

「――まあ、アナタ様は恐れ多いレヴィアタン様ですから? 下僕の最下層な奴隷転生悪魔である俺はハイとしか言えませんけどねぇ?

は? だからキレてねーってんだろ? 何泣き真似声してるですか?

んな事してる暇があんなら早く来いや痴女」

 

 

 第一印象から引き、無理矢理テンションで誤魔化そうとしてる所にイラッとし、数日前から勝手に電話してきてはソーナ・シトリーの様子を半はぐれ悪魔になってる俺に聞こうとする訳のわからない魔王に、俺は微妙に昔のやさぐれた気分を抱きながら、何か言おうとしてたのを無視して電話を切るのだった。

 

 あぁ……初めて会ったあの日も、この電話の時もそうだが、姉妹だけあってなまじ似てる癖に、一々泣きそうな顔して『ごめんなさい、ごめんなさい……!』って謝んじゃねーよ。

 

 何か納得いかねぇ気分になるんだよコッチは……ったく!

 

 

「心配してくれる姉が居てくれてアンタは贅沢者だぜ……ったく!」

 

「え……」

 

 

 それを知らねぇって顔のソーナ・シトリーを見るともっと納得いかねぇ……くそ。

 

 

 

 

 聞いてない。

 聴いてない。

 知らない、知らされてない。

 俺がこんな目に逢うだなんて、消えるべき奴があんなに活躍してるなんて……。

 

 ふざけるな、俺が主人公……俺が中心だ。

 コカビエルもフリードも一誠も木場も匙もオレの踏み台なんだ……!

 レイヴェルや白音や黒歌が一誠にだなんてあり得るわけが無い……! ゼノヴィアが木場となぜか仲良しなのも気にくわない……!

 

 許せるか……許すべきじゃない……!

 お前らは必ず殺す! オレをこんな目に合わせた貴様等は必ず……殺す!!

 

 俺が主人公なんだ……!

 

 

 

 

 因果応報で失いつつある、自らを作り替えた男は憎悪を募らせ、そして甦ろうとしていた。

 

 心を滅した獣と化し……自らの力に飲み込まれた哀れな姿となりて。

 

 

 

 ―――――――――Beast Dragon Mode!

 

 

 

 




補足

某吉良並みのしぶとさ。
それがフリードきゅん。

その2
元ネタは某白夜騎士の某ダンです。


その3
メンバーの中ではまだ燻ってる匙きゅんは、匙きゅんなりに頑張ろうと手を尽くした結果……魔王様とのコネを作り上げてました。

が、コネ相手が失恋した相手の姉であり、しかも姿はととかく容姿がなまじ似ており、加えて一度直接コッソリ邂逅した時も泣きそうな顔で謝られたせいでかなり苦手意識を持ってます。

こう、今更ソーナさんに謝られてる気がして。
 故に処刑覚悟で態度も口調も辛辣にして突き離そうとしてます。

 今回の事件だけの付き合いにしようという意味合いで。


その3

安心院さんにコカビエルさんの方が好みと言われて荒れまくりなルシファー様と、それを止めようとするレヴィアタン様達。

そのレヴィアタン様ですが、妹を好いた下僕の子の事が色んな意味で気になってます。

ヤサグレまくってる所しかり
時たま自暴自棄になってる所しかり。

こう、妹の事で割りを食った罪悪感というか、そんな感じで目にかけてます。
 まあ、物凄い遠ざけようとする言葉をぶつけられまくってますが。


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