それだけさ。
復讐心を否定せず、手を差し伸べてくれた仲間の為に。
死にかけた自分を拾い、あらゆる事を叩き込んでくれた師の為に。
『ハァァァッ!!!』
『死ねやァァァァッ!!』
白銀と純白の鎧騎士へと覚醒した二人の男は、目の前の男に勝つ為だけにその力を注ぎ込んでいた。
『ぐぅ!? ダァッ!!』
『グアッ!? っ……野郎!!!!』
銀牙の称号を持つ騎士の双剣が切り裂けば、白夜の称号を持つ騎士の槍が薙ぎ払う。
一進一退の攻防劇……。
神器使いと聖剣使いを超越し、本来存在しない騎士へと覚醒した二人の少年の戦いは熾烈を極めた。
『くっ……ならば!』
鎧の強度は互角、使い手の腕も互角。
覚醒時期もほぼ同じな為、互いに有効打が無く鎧を叩く金属音と火花が駒王学園全体に広がる中、まず先に動いたのは祐斗だった。
『
『!?』
競り合いから大きく後退して距離を取った祐斗が、持っていた二本の双剣を空高く放り投げ、自身の禁手に至った神器の名を叫ぶ。
すると祐斗の目の前に蒼く輝く実態の無い剣が一つ出現し、その横に二本、四本と同じ形の剣が分身するかの如く増えていく。
『即興で作ってみた……。『百刀剣乱』――なんてね!!』
次々と増える蒼剣。
それはやがて百となり、祐斗の意思に呼応するかの如く切っ先が一斉に白夜騎士にへと襲いかかった。
『チッ! そんなもん喰らうかよ!!』
しかし百の刃が襲い来るのを見た白夜騎士もまた負けじと、槍へと変化したジョワユーズの柄を撫で付け、全身に紫色の炎を纏うと、槍を盾の様に回してさせて全て弾き飛ばした。
『クヒャヒャヒャヒャ!! 烈火炎装――なんてな!!』
『っ……全くの互角か……ならば!!』
どちらかが仕掛けても避けられ、どちらかが殴っても殴り返され。
まさに互角。まさに一進一退。
騎士へと覚醒した二人の少年の戦いはより苛烈さを増し、遂には鎧が解除されて生身に戻っても戦いの手を緩めることは無かった。
「オラァァァッ!!!!」
フリードが祐斗の頬を殴り付ければ……。
「ウォォォォォッ!!!!」
祐斗はフリードの腹部を力一杯殴り返す。
「ゆ、祐斗……」
ベタ足インファイト。
剣を、槍を手放しても尚止めない意地のぶつかり合いは、一番近くで見ていたゼノヴィアにとっても入る余地がないものとなっており、ただ祐斗の勝利を祈るだけだった。
「ぐはぁっ!」
「がふっ!」
悪魔を祈る矛盾を今はただ忘れて……。
「ぐ……」
「うぎ……」
「祐斗!」
互いの拳が頬を同時に打ち、同時に倒れるその時まで……。
フリードが倒れた。
これにより俺達は完全に敗けてしまった。
安心院なじみの後継者である兵藤一誠……。
油断したつもりも、慢心したつもりもなく全力で挑んだ結果俺は身を貫かれて負けた。
…………。急所を奴が外して死にはしないとはいえ、セラフォルー・レヴィアタンが現れた今、俺とフリードに勝ちの目は無い。
ふふ……たった一晩でここまで叩き落とされるとはな。
しかし俺はこの敗けを決して恥はしない。
安心院なじみ続き、兵藤一誠という存在を知れた事もそうだが、何よりフリードがあそこまで進化したのだ。
これ程嬉しい事はない。
「さて、人間界を危機に陥れようとした罪。天界所有物の強奪とグレモリー領土への不法侵入……言えばキリが無い罪の数々を行ったアナタがどうなるか……わかるよね?」
「…………」
だからこれから俺がどうなろうと構わん。
戦争時代からあんまり変わってない珍妙な格好のセラフォルー・レヴィアタンにこのまま殺されても良い。
アザゼル達が火消しとして俺を殺そうとも構わん。
『いや、ソイツの始末は待って貰えるかセラフォルー・レヴィアタン』
「!? …………誰?」
『堕天使総督・アザゼルから頼まれで来た者だよ』
(……………。フリードだけはどさくさ紛れに逃がすか)
安心院なじみの後継者が兵藤一誠であるように、俺の夢の一部を継いだフリードだけは、こんなつまらん連中に殺させやしない。
嫌味の様に青白く照らす月下に現れる、白い鎧を身に纏うアザゼルからの刺客に皆が目を引かれている間、俺は金髪の小僧と一緒にぶっ倒れているフリードに、俺が出来る最後の『事』を行うため静かに時を待った。
少年はその日、落胆と歓喜を同時に噛み締めた。
自身のライバルになる予定であった『赤龍帝』が呆気なく脱落してしまった。
けれどその代わりに見たのは、間違いなく世界全体で最強ランクであり自力で『神を超越』した伝説の堕天使であるコカビエルを打ち倒した赤龍帝にソックリな少年の闘いを目にした事だ。
「初めましてと言っておこうか諸君。
俺はヴァーリ・ルシファー……『白龍皇』だ」
「っ!? ルシファー!? まさかキミは旧――」
「おっとセラフォルー・レヴィアタン。
確かに俺は旧魔王の血を遺憾ながら引いているけど、奴等とは関係ない。……人間とのハーフだしな」
見ているだけしか出来ない事がこんなにも辛いと思ったことは無かった。
コカビエルと兵藤一誠だけでは無く、其々の仲間も見たこと無い進化を見せたり、大きな力を持っていたのだ。
暗い銀髪に蒼い瞳……人と悪魔の間に生まれた少年は闘うことが生き甲斐という生粋の戦闘狂であるが故に、この闘いに加われなかったのは苦痛だった。
「赤龍帝が再起不能となり、どうやら宿命の戦いは楽しめそうに無いが、その代わり良いものを見せて貰ったよ……兵藤一誠くん?」
「………。なるほど、盗み見していたという訳か。
用件は―――――コカビエルの後始末か?」
「御名答。
本来なら俺が戦って始末を付けるつもりだったんだが……悔しいことに自力で聖書の神を越え、二天龍をも単騎で凌ぐと言われている伝説の堕天使に俺はまだ勝てないからな。
不本意ながら弱ったところを見計らっていた訳だ」
「………。アザゼルの所の白龍皇小僧か。
以前に1度だけ見たが……」
出来ることなら今すぐにでも兵藤一誠と戦ってみたい。
年の変わらない純人間が神越えを果たしたコカビエルを打ち倒したその強さを直接知りたい。
戦闘狂少年・ヴァーリ君は涌き出る闘いへの欲求を押さえ付けながら目を細めて宙へ制止する自分を見上げている一誠に不敵な笑みを浮かべながら、彼を取り巻く仲間達もまた――強者とますますワクワクしてしまう。
「アザゼルからの命令だコカビエル。
アンタを拘束して最下層に送るらしい……俺としては実に残念な話だよ。アンタとは戦ってみたかったからな」
「…………………。俺だけか?」
「? あぁ、そこで白夜騎士と聞いたことも無い存在に進化した人間の事を気にしているのか?
さぁな……俺が言われたのはアンタの拘束だけであって、あの人間の事は特に何にも言われていない。
まあ、天界連中が許すとは思えないし、このまま平和な人生を送れる事は無いんじゃないか?」
「……………」
胸に風穴を開けたまま、ヴァーリの言葉に少しだけ視線を落とすコカビエル。
今はまだ気絶しているが、このまま自分が黙ってヴァーリに付いていって『
そうなれば確実にフリードは殺される。
短い間しか居なかったが、確実にフリードを種族を越えた一人の男として信頼していたコカビエルにとっては死んで欲しいとは思わなかった。
「………。万が一の時は、フリードの事を頼めるか? 兵藤一誠……」
「なに?」
「今の俺には貴様しか頼れる者が居ない。
恐らくフリードは俺を恨むだろうが……ふっ、俺はアイツに死んで欲しくないからな」
「………。お前」
ならばどうする? 答えは決まっている。
自分を打ち負かせた男……少なくともこの中では信じれる男である兵藤一誠にフリードを託すことだった。
「アイツはまだまだ強くなる。
俺が成し遂げられなかった夢をアイツなら叶えられる。
だから――――頼む」
敵である一誠に頭を下げてまで懇願したコカビエルは、小さくそれだけを言ってヨロヨロと立ち上がると、上空から見下ろすヴァーリに向かって大きく言った。
「良いだろう小僧! 戦いたいのであれば――望み通りにしてやる!!」
「……!? ククッ……来るか……!」
安心院なじみとの再会とリベンジは出来なかった。
けれどこの戦いで得たもの……フリードの成長を目に出来ただけでも満足であり、自分の蒔いた種を片付ければフリードはきっと助かる。
であれば喜んでこの命を捨ててやる。暴れて……暴れて、暴れて暴れて暴れて暴れて暴れて暴れて! この命を派手に咲かせてみせる。
「弱った程度で、小僧ごときが俺を捕まれられると思うなよ!!」
漆黒の翼を広げ、堕天使コカビエルは飛翔する。
「くっ!?」
「フハハハァ!! どうした小僧、白龍皇の力はそんなものかぁ!!!」
「がっ!? ま、まだそんな力が……!!」
兵藤誠八が纏う赤き鎧と同じように、禁手化により進化していた白い鎧を纏うヴァーリ・ルシファー少年を殴り付けたコカビエルは、口からどす黒い血を吐きながら嗤っていた。
一誠によって致命傷を負わされた身でありながら、その力はヴァーリの予想を遥かに越えており、顔に速く重い一撃を喰らい、盛大に地面に叩き付けられたヴァーリは、即座に起き上がって反撃に出る。
「ぐふっ!?」
「死にかけの男一人殺れない程、俺は弱くはないぞ!」
「……………。ニヤリ」
「っ!? ガハッ!?」
力を半減させる白い龍の力を使い、コカビエルの一撃を半減させながら一撃を見舞うも、歪んだ笑みを見せながら尚も即反撃してくるコカビエル。
「クックックッその程度か小僧ォ……?
これならアザゼル本人が来るべきだったなぁ……!」
「っ……こ、この……言わせておけば!!」
半減させても重い一撃。
弱った死に体とは思えない強い力。
漆黒の髪が『真っ赤に染め上がってる』様に見えるほどの気迫を見せながら鎧姿のヴァーリの肉体を殴り付けるコカビエルはまさに鬼神を思わせる迫力があった。
「腰を入れて殴れ!! そんなものでは虫も殺せんぞ小僧!」
「グハァッ!?」
殴り、殴られは続き、それはやがてコカビエルの一方的な攻撃へとなっていく。
誰が予想したか。
胸に風穴を開け、血ヘドを吐いている男が白龍皇を一方的に殴り付けながら嗤っているのだ。
「………。レイヴェルは気付いてるか?
アイツ、俺が苦労してモノにした乱神モードを……」
「はい……。
悔しいですが安心院さんが目を掛けていただけの男ですわね」
「ふふっ……俺とコカビエルを戦わせる事がアイツの目的だとすれば、俺達はとことんアイツの掌の上だな」
一誠とレイヴェルは死に体となっていた筈のコカビエルが進化している様を見て、この場には居ない人外を思い。
「す、すっげぇ……。あんなボロボロなのに白龍皇を殴り付けてる」
「ど、どうしよう……」
「アイツも大概化け物だにゃ」
「………」
元士郎達もコカビエルの異常なしぶとさにただただ感心する。
それ程までにコカビエルの力は異常な進化を見せているのだ。
「小僧……どうやらお前もまだまだ強くなる様だ。
だから強くなれ……俺にやられて悔しくば強くなって俺を殺しに来い! それまで俺は泥を啜っても生きてやる」
「ぐ……く……」
禁手化が解かれ、銀髪の少年へと戻ったヴァーリはトドメに貰った拳骨により地面に叩き付けられた状態で、血塗れで立つコカビエルを睨み……そして意識を手放した。
しかし……負けた事により心の奥底で何かが芽生えたのはヴァーリ少年のみぞ知るものであり、今はただ意識を失うのであった。
「ごほっ……チッ、傷口が開いたか」
ヴァーリ少年を下したコカビエルは、胸元から止めどなく流れ出る失血の量により視界を掠めながらも、ギョロりと元士郎―――――の横に然り気無く立っていたセラフォルーへと向く。
「どうする……次は貴様が来るか?」
「…………。そうしたいけど……此処で戦ったらまた無駄な被害が増えるしお互いに只では済まなくなる。
だから今はただアナタが去ることをお願いしたい……かな」
「……。クックックッ、そうか……悔しいがこのザマでは兵藤一誠にリベンジなぞ出来んからな。
傷を癒し、フリードと共に鍛え直させて貰おう……か」
被害の拡大を防ぐため、この場を見逃すと言外に言ったセラフォルーに内心『このままやったらまず死んでたな』と、フリードを守る事しか考えてなかったコカビエルは内心ホッとすると、倒れていたフリードの元へと向かい、その身を抱えながら無言で静観していた一誠に小さく口を開いた。
「次は勝つ……」
「……。ああ」
それは好敵手と互いに認めたが故なのか。
ただ一言だけ言葉を交わした一誠とコカビエルはフッと笑みを見せ合い、それ以上はなにも語る事はしなかった。
「ぐ……ぅ……ぼ、ぼす……?」
「フリード……か。済まん……偉そうな事をお前に言っておきながら俺は負けた。
負けたばかりか敵に情けまで掛けられてしまった。
今回は俺達の大敗だ……一からやり直しだフリード」
「へ、へへ……あぁ……今度こそぶっ潰してやるぜ……」
傷だらけの堕天使は満月の空を飛翔し、去っていった。
リベンジを誓い……更なる領域を求めて。
さてと……コカビエルは去ったが、やることはまだ残っている。
白龍皇とやらの男はコカビエルが去った後に意識を取り戻し、何やら悔しさと歓喜入り交じった顔をしながら去っていったが、セラフォルー・レヴィアタンはまだ残っており俺達と一緒に後始末をしている。
「…………。
荒れ果てた校庭を幻実逃否で否定して元に戻し。
「暴れられては困るからな……手足と力は一時的に否定させて貰ったぞ兄貴」
「くっ!? て、テメェ! ふざけるな!! 戻せ!! その訳の解んねー力で戻せよ!!」
「……。この馬鹿は自分の立場を解ってないのか?」
「知りませんわ。バカに付ける薬は無い……そういう事でしょう」
取り敢えず手足と力を消した状態で死にかけの兄貴を元に戻して縛り付け。
「この裏切り者!」
「覚えてなさいよ……! 絶対に後悔させてあげるわ……!」
「リアス部長……」
「…………。これでは祐斗達が尻拭いした甲斐も何も無いな」
「ゼノヴィア! どうしてソイツ等に肩入れを――」
「お互い様だろうイリナ。
それにお前とは違って私の身はまだ純潔のままだ。寧ろお前は越えてはならない領域を越えすぎだ」
しかしまあ……ゼノヴィアの言う通りだな。
別に感謝されたくも正直無いが、こうも恨まれると結果的に助け船を出した甲斐をまったく感じない。
どれもこれも魔王のセラフォルー・レヴィアタンの無言な威圧をガン無視して祐斗と元士郎と白音を裏切り者呼ばわりするわ、俺に殺意の目を向けるし。
まあ、わからんでもないが。
「静かにして」
『……っ!?』
まぁでも、こ奴等悪魔の長の一人がこうして黙れと言えば黙らないわけにもいかないんだがな。
「セ、セラフォルーまで何でコイツ等に―――ギイッ!?」
「キミごときに気安く名前で呼ばれたくは無いなー?」
………。それにしても兄貴ってのはこうしてまともに観察してると、随分と地雷を踏むというか……。
セラフォルー・レヴィアタンに腹から下を凍らされてらぁ。
「セ、セーヤくんに乱暴しないでくださいお姉様!」
「そ、そうですよ! お言葉ですが、私達はまだセラフォルー様のお話に納得できてません!」
「吠えたければ吠えれば良いよ。サーゼクスちゃんも同意してるから君達は逃げられないし」
『っ!?』
セラフォルー・レヴィアタンは軽い性格……とレイヴェルが言ってたが、少なくとも今の彼女からは微塵もそんな気配は感じず、ただただ能面の様な表情で縛り付けた兄貴と兄貴シンパ達を見つめている。
紫藤イリナもこの分じゃあ教会に戻った所でどうなるかわからんし……お先真っ暗とはまさにこの事だな―――――まあ、俺は絶対に助けないが。
「兄貴――いや、兵藤誠八。アンタが女好きなのは解ってたが少しやり過ぎたな」
「だ、黙れ! テメーさえ居なければ俺は黒歌と白音とレイヴェルも俺のモノに……!」
………………。おい、これキレてぶん殴っていいのか? この期に及んでまだ――
「全力で気持ち悪いので止めて貰えますか?」
「カスごときに見られるだけでこんなにも身の危険を感じるとは……性犯罪者の才能だけは認めてあげますわ」
「どう足掻いても私はイッセーにしか興味が無いにゃん。だからキミの洗脳も受け付けないにゃん。残念だったね?」
嫌悪感丸出しな顔をして拒否する三人に兵藤誠八はこれでもかと顔を歪め、そしてまた俺に殺意を向ける。
いや、悪いけど死んでもレイヴェル達は貴様に渡さんよ。そうなったら裁判の前に貴様を直接八つ裂きにするというか――あんだけ洗脳しておきながらまだ足りないのか。
仕方ない、こういう行為はあまり誉められんが……。
「レイヴェル、黒歌、白音……俺にくっつけ……」
「はい♪」
「喜んで」
「わーい♪」
「!?」
「……。貴様の言い方を借りるなら……この三人は死んでも貴様の元には行かさん。
それでも尚しつこいようなら俺は貴様を殺す」
嫌味っぽく三人にくっついて貰いながら、俺は兵藤誠八に脅しを掛けた。
奴の性格上、これでホイホイ諦めるとは思えないが……心を少し折れただけでも充分だ。
「まあ、女とプロレスごっこ出来る機会が貴様にこの先あるかは知らんがな」
「て、テメェ……!」
「悔しいか? ふっ、貴様にかつて両親や初恋の女の子を奪われた挙げ句追い出された俺もそんな心境だったよ」
昔の借りを少し返せた……それだけでも俺の心は満たされるんだからな。
兵藤誠八……以下グレモリー眷属とシトリー眷属は力を封じられた状態でセラフォルーにより一旦冥界の独房に送られた。
その際最後まで一誠に憎悪の言葉を吐き散らしていたが、最初から眼中にも無かった一誠はそれらの殺意の全てをことごくスルーし、荒れ果てた駒王学園の後片付け――そして。
「
一旦破壊した聖剣も元に戻し、ゼノヴィアに返還する事で事態の八割は終息した……のだが。
「……。フリード・セルゼンが言っていたが、本当に神は死んでいたのか?」
別件問題が――ゼノヴィアにとってはこれまでの人生を否定されかねない事実を先の戦いで知らされおり、その事実の有無を『何故かまた戻ってきたセラフォルー』に問い詰めていた。
「……。コカビエルがフリードって子に多分教えたんだね。
うん……キミにとって残念な話だけど、キミ達が信仰していた神はとっくに死に、今は天界のミカエルって天使が作った神のシステムで補ってる」
それに対してセラフォルーは静かに頷き、ゼノヴィアに事の真相を丁寧に説明した。
だがその非情なる現実はゼノヴィアの精神を大きく削り取るのに充分であり、セラフォルーの説明を終えた頃には、虚ろな瞳でその場に崩れ落ちていた。
「は、はは……じゃあ私はそのシステムとやらの為に命を張っていたのか。
あは、あははは……道化じゃないか……」
「ゼノヴィアさん……」
何のために生きていたのか。
神を信じてこれまで生きてきたのに、その神はとっくの昔に死に、張りぼてとなっていた。
聖剣奪還も神を信じていたからこそやったのに……これでは……。
「ゼノヴィアには悪いが、俺は
というか、自分がやって来た事を何でもかんでも神に結び付けたくないから信じてないだけだが」
「…………」
「とはいえ、信じてきた貴様にしてみればショックだろう。
だがどうするんだ? 貴様と一緒に頑張ってくれた祐斗をも貴様は否定するのか?」
「そ……それは……」
「え、ぼ、僕は別にゼノヴィアさんの足ばっかり引っ張ってただけだし……」
一誠のそこそこ冷たい言い方に、虚ろな目でアタフタしている祐斗を見るゼノヴィア。
神は死んでいた……が、今回の聖剣奪還で得たものは神なぞ関係ないものだった。
心の整理はまだまだ無理だが、自分の目の前で見たこともない綺麗な鎧騎士となって戦った男との妙ちくりんなやり取りは……楽しかった。
「……。ゼノヴィアさん。
僕は寧ろ神を憎んでいた立場だから何も言えないけど、僕はキミと知り合えてよかったと――」
「……。国に戻る。
奪還した聖剣を納めにな」
「あ……う、うん」
「あと次いでに……教会を辞めてくる」
「う、うん…………………うん?」
「辞めて……そうだな、私を胸を思いきり掴んでくれたお前に衣食住の保証をして貰おう。うん、そうしよう」
「…………………え、えっ?」
楽しかったからこそ。知ってしまったからこそゼノヴィアは自由になる決意をした。
目を丸くしてる男にまだ返せてない借りを返す為に……。
「責任取れよ?」
「あ、は、はい……」
終わってみれば全然成長してないのは自分だけ。
元主達を無傷で無力化したという結果を残したというのに、元士郎は特に祐斗とフリードが見せた神器とは違う覚醒を目の当たりにして少し羨ましいと思っていた。
(銀牙騎士と白夜騎士……か。それに加えて俺は弱くなっちまった元主を無力化しただけ)
周りの進化が異常なだけであり、元士郎もまた成長をしている。
けれどああも華やかな姿を見せられてしまえば焦りを感じてしまうのは仕方無い話であり、現に元士郎は一人目を伏せていた。
「あ、あの……」
「あ?」
そんな元士郎に声を掛けるのは、さっきから妙に距離の近い元主の姉であり魔王でもあるセラフォルー・レヴィアタン。
妹に関して迷惑を掛けた罪悪感と、自分に対して一切の物怖じ無しに罵る態度が気になる彼女の遠慮じかちな声に元士郎は露骨に嫌そうな顔をしながら距離を離す。
「アンタまだ居たのか……。もう帰れば?」
好きだった元主の面影ありまくりなセラフォルーの申し訳無さそうな態度が気に食わない元士郎は、知り合いとなってからもつっけんどんな態度なのだが、セラフォルーは特にそこら辺に怒る事は無かった。
「い、いやー……元士郎くんが気になっちゃって戻ってきちゃった♪」
「あっそう。俺は別にアンタを気にしてないからとっとと消えろ。
愛しの妹のケアでもしてれば良いんじゃないでしょうか?」
冷たい態度の元士郎を気にする様子もなく、然り気無く距離を詰めてくるセラフォルーに舌打ちをしてしまう。
シスコン魔王なんだからとっとと消えれば良いのに……そう思うも彼女は何故か自分に構ってくる。
それが元士郎を余計に苛立たせるのだが……。
「勿論冥界に帰ったらするよ? でも……でも私決めたんだ」
「何を……ち、近い!! わざわざ近付くな!!」
セラフォルーは後退りする元士郎の腕を、華奢な見た目を裏切る勢いで掴み、狼狽える彼にぴっとりと身を寄せると、ニッコリしながらこう言う。
「あのね? 元士郎くんを見てるとどうしても放って置けない。私に物怖じしないで……いっそヤケクソになってるアナタがどうしても気になっちゃう。
だから、ソーナちゃんの件とか関係なくキミを――」
腕を掴み、身体をみっちゃくさせ、体勢を崩して仰向けにひっくり返った元士郎の上に覆い被さるように絡み付き、頬を染めながら彼の耳朶を甘噛みするセラフォルー
「て、テメッ!? いきなり何――ど、どこ噛んで……あ、あぁ……!」
「えへ、キミが欲しい……と言ったら怒る?」
それは初めてにも近い気持ちなのかもしれない。
自分を一切恐れない。自分のやることに平然と駄目だしする。
そんな年下の男の子に変な保護欲を抱いたセラフォルーは悪魔らしく狼狽えまくる元士郎の身体をまさぐりながら求愛行動をしたのだ。
「ざ、ざけんなゴラ! 誰がテメーみてーな――――ぶっ!?」
当然ソーナの件があってセラフォルーを信用してない元士郎は『どうせ嘘だ』と決めつけて暴れながら拒絶しようとしたが、最後まで台詞を言う前にドバッとギャグ漫画の様な鼻血を出してしまった。
「えへ……♪
サーゼクスちゃんを止めるのを止めて、元士郎くんに会うために、お着替えした時に履かなかったんだけど――ね、本当だったでしょ?」
「お……お……ば、馬鹿かテメェ!? そ、そんなもん……」
頬を上気させながら自分に馬乗りしているセラフォルーのコスプレまがいな衣装のスカートが夜風の悪戯により捲れ……露になった何かを見てしまったが故。
チェリーボーイ元士郎くんは盛大に鼻血を出してしまったのだ。
「…………。魔王様から姉様と同じ気配がします」
「……。言いたくないですが、痴女っぽさが特にですわ」
そんなやり取りを生暖かい目をして見ていた白音とレイヴェルは黒歌に通ずるものを感じており、言われた本人である黒歌は心外だとばかりに声をあげた。
「にゃ!? 私はあんな変な格好なんてしないにゃん!! 確かにあの魔王と同じで履いてないけど!」
「それはツッコミを入れて欲しい―――いっ!?」
プンスカと憤慨しつつ、壮絶なカミングアウトをする黒歌に一誠は何とも言えない顔になるが、直後に例のすり抜けスキンシップを開始され、元士郎の様に動けなくなってしまった。
「えへ、イッセーと何処でも交尾するんだもん。履かなくたって良いもんね~」
等と宣いながら頬を上気させながら一誠の背中に抱き付き、セラフォルーと同じように耳朶を噛み、もぞもぞと身体をまさぐる黒歌に一誠は情けない悲鳴をあげてしまう。
「あぁん♪ イッセー……いっせぇ……! お腹が熱いよぉ……切ないよぉ……早く私をめちゃめちゃにしてぇ……♪」
「な、やめ……く、くそ……! スキルが無駄に凄いせいで干渉が……はひ!?」
「この雌猫ォォォ!!! なにさらしとんじゃぁぁぁ!!」
「………。殴りたい。我が姉ながらぶん殴りたい……」
「元気だなアイツ等」
「あ、あはは……賑やかで僕は好きだな」
駒王学園の夜は更けていく。
補足
セラフォルーさん……もう殆どストーカー化してた。
ヤサグレた匙きゅんの態度を真正面から受けた結果、母性本能をコチョコチョされたセラフォルーさんは取り敢えず履かずに会いに行った。
ね、可愛いでしょ?(棒)
その2
これ補足じゃないですが、IFでやらかしてた分、次回は露骨なイチャコラ回……かも。