生徒会長イッセーと鳥さんと猫   作:超人類DX

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…………。構想段階では原作通りキャラだったのに、すっかり一誠を食う勢いの主人公になっちまって……。




ギャーくんと生徒会長……時々コカビエルとフリード

 

 

 今更……になるかもしれんが、グレモリー3年とその取り巻き及びシトリー3年とその取り巻き、そして『兄貴。』は『休学』扱いとなっている。

 まあ、独房にぶちこまれただなんて理由込み込みで言える訳も無いので無難な話なのだが、奴等はどうであれ人気者だ。

 故に奴等の休学を知った一般生徒達――つまりミーハーは絶望に大騒ぎだ。

 

 

「おい木場ァ!! 二大お姉様は何処だよ!?」

 

「さぁ、同じ部活仲間だけって関係だったし僕は知らないよ?」

 

「匙は確か支取先輩達とよく一緒だったよな? 何で休学なのか知らないのか?」

 

「知らね。

そもそも俺がアレ等の周りをうろちょろしてたのは、『真面目そうな奴と真面目やってれば内申点が上がりそうだった』とかそんな短絡的な理由だしな」

 

「あ、あっそう……。

それにしても何かお前変わってね? 雰囲気とか……」

 

 

 お陰で二組のグループと縁があった祐斗と元士郎は特に男子生徒からの追撃が多く、その度に適当に足らっていた。

 

 

「でも小猫ちゃんはちゃんと来てるんだよな……。今日もレイヴェルちゃんと一緒に歩いてたし……」

 

「つーか兵藤(誠八のこと)も居ないのが実に怪しいんだけどっつーか果てしなく不安なんだけど。お前の兄貴なんだろ? 本当に知らないのかよ?」

 

「殆ど戸籍上の関係だ。俺は親戚の家で暮らしていたからな」

 

「「………」」

 

 

 縁があって関わりが何気に多くなっている元浜と松田の言葉に俺達は『その予感はほぼ合ってる』とは言えず、我関せずで通す。

 まさかミーハーであるコイツ等に現実を教えてしまう訳にはいかんのだ……。

 

 

「さて、そろそろ行くか」

 

「そうだね」

 

「おう」

 

 

 そんな事よりも俺達はやらなくてはならんことがある。

 然り気無く元浜と松田同級生が高頻度ど生徒会室で寛ぐようになってるけど、特に追い出すつもりも無いので適当に菓子でも与えた俺達は席を立つ。

 

 

「は? 何処にだよ?」

 

「生徒会の仕事か? 匙も木場も生徒会じゃないのによく手伝うなぁ……」

 

 

 その際二人が不思議そうな顔をしているが……すまん、アイツが大丈夫になるまでこの事はまだ話せんのだ。

 

 

「ま、そんな所だ」

 

「『旧校舎』周りの草むしりさ」

 

「生徒会の仕事を手伝ってた方が内申点上げて貰えるからな」

 

 

 故に適当な事を言って俺達は、買いだめしていたポテチを食ってる二人を置き、先に旧校舎で待っているレイヴェル達と合流する為に生徒会室を後にする。

 

 

「昨日の帰りにPCショップ行ってパーツを買ってみたぞ」

 

「は? 何で?」

 

「いや……白音と扉を破壊した際、その余波でヴラディ1年愛用のPCが壊れたらしくて……その弁償を」

 

「でもパーツって……本体を買えば良いんじゃないのかい?」

 

「それがヴラディ1年のPCはゲーミングPCクラスらしくて、市販のじゃあ割りが合わないんだ。

マザーボードからグラフィックボードやメモリなぞの性能重視の最新式を買い揃えたが、特殊ルートで10万近くに抑えられたよ」

 

「じゅう!?

お、おいおい……よくそんな金があったな!?」

 

「うむ……中学の頃からフェニックス家から毎月お小遣いを貰ってて、それを使わずにずっと溜め込んでたお陰で何とかなったよ」

 

 

 まさか使わずのお小遣いがこんな所で役に立てられるとは思わなんだ。

 ホント……俺ってフェニックス家の皆におんぶに抱っこだよな。

 

 

「という訳でまずはヴラディ1年のPCを弁償し、地道に彼女――いや彼? いやアイツの心を上手いこと軽くさせてやろうじゃないか」

 

 

 こういう事に金を使えばエシルねーさんもシュラウドのおっさんも怒りはしない筈。

 という訳で旧校舎へと到着した俺達男三人は、あらかじめグレモリー3年が使ってた部室に置いておいたPCパーツの入ったダンボール箱を回収してからヴラディ1年が居る部屋へと足を踏み入れると……。

 

 

「何で女の子状態のギャーくんにまで私は負けてるんですか……」

 

「いたたた!?!? 胸を強く掴まないでくださぃぃぃ!!!」

 

「ちょっと白音さん! ご自身の胸が貧相だからってヴラディさんに当たらないでください!」

 

 

 ほぼ裸にひん剥かれたヴラディ1年の胸を、白音が殺気立ちながら掴み、それをレイヴェルが咎めようとして居る変な絵面を見てしまった。

 

 

「「「あ、失礼しました」」」

 

 

 シュールというか、不可抗力で見てしまったヴラディ1年の胸の膨らみからして女へと変化してるのを察するや否や、俺達男三人組はさっさと目を逸らしながら外へと戻った。

 

 

「ひぃぃんっ!?」

 

「寄越せ……寄越せ……」

 

 

 聞こえるヴラディ1年の断末魔。

 気付いたのだが、男でも女でも声は同じなんだな――いや、元々が女声なんだろう。

 厄介な性質を持ってしまったものだし、兄貴様はだから手を出さんかったのたろうか。

 

 

「はぁはぁ……うぅ、小猫ちゃんが乱暴する」

 

 

 最早捕まって女との接触の一切を絶たれてると聞いているので、真実のほどは知りようも無く、ヴラディ1年の叫び声が止んだのを見計らって今一度入ると、涙目で駒王学園の女子制服の乱れてた箇所を直してるヴラディ1年と、それを実に恨めしそうに見てる白音と、呆れてるレイヴェルが居た。

 

 

「終わったか? というか白音よ……人の乳房をもごうとするな」

 

「すいません。世の中の不条理さに怒りが沸いてしまって……」

 

「無い星の下に生まれて置きながら嫉妬とは見苦しいですわよ」

 

 

 考えてみれば俺の見知ってる女性は確かに胸の大きな人ばかりな気がする。

 特に白音の姉の黒歌なんかはこの前のプール遊びの時に改めて『わーぉ……』ってリアクションが出てしまう程だ。大きさ的な意味で。

 

 

「…………」

 

「……。なんですか?」

 

 

 それに比べて妹の白音は…………確かに無い。

 同い年のレイヴェルも年相応に成長してるのに、白音はその兆しがあんまり見えてこないのがこうして見てると解ってしまうし、俺の視線が露骨なせいか軽く半目で睨まれてしまった。

 

 

「いやいや、小柄な白音の体型で黒歌みたいな大きさだったら逆に怖いだろ。

お前はお前で充分に女の子らしいと思うぞ……なぁ? 祐斗に元士郎?」

 

「え゛!? きゅ、急に振ってくるなよ! い、いやまぁ確かに一誠の言う通りというか……」

 

「そもそも一誠くんは拘らないと思うよ?」

 

 

 取り敢えずこの場に居る異性である俺達の意見を聞かせてコンプレックスを解消させてやろうと次々に『気にするな』とフォローを入れてみると、白音は自分の胸を両手で抑えながら、祐斗の言葉に反応するかの如く俺を――――ええっと、こういうの何だっけ? 上目遣い? って奴でジーっと見つめてくるではないか。

 

 

「先輩は……胸の無い女は嫌いですか?」

 

「別に胸の大小で好き嫌いを判断した事は無いぞ。

そいつ自身を好きか嫌いかで俺は何時だって判断してきたのだ……故に白音よ、俺はお前が寧ろ好きだぞ?」

 

 

 割りと真面目に答える俺に、何故か皆の視線が生温くなってる気がする。

 はて……俺は何か間違ったのだろうか?

 

 

「こ、こんな目の前で浮気宣言されると悲しいですわ一誠様……」

 

「えっ浮気!? ちょ、ちょっと待てレイヴェル、俺は別にそんなつもりで――――」

 

「なーんて、冗談ですわ一誠様……」

 

「ぬぐ……」

 

 

 レイヴェルにからかわれたりもしたが、白音が妙に嬉しそうにしているのを見て、取り敢えずコンプレックスをちょっとだけでも解消できた様でひと安心しながら、ちょっと蚊帳の外っぽかったヴラディ1年のメンタルケアタイムへと移行する。

 

 

「そらヴラディ1年。お前のPCをグレードアップした状態で返すぞ」

 

「は、はぁ――って凄い!? 今までのより遥かにサクサクと動きます!」

 

「取り敢えずHDDから2TBのSSDを二枚積んでみた。それによりOS起動から立ち上げまで体感10秒以内だ。

それと表ルートに偶然出回っていた3世代先のグラフィックボードとCPUとそれに余裕で耐えきれるマザーボードのお陰で騒音はほぼゼロ。

ほれ、空冷ファンと電源も厳選したから静かだろう?」

 

「4Kモニターまで……」

 

「うむ、これなら向こう8年はパーツ変えせんでもエンコだろうが最高画質設定でゲームも余裕だ」

 

「で、でも良いんですか? 僕なんかがこんな凄いPCを……」

 

「まあ、壊したのは俺だからな。弁償したくて勝手にやってるだけだから何も気にするな」

 

 

 …………。入手ルートは言えんというか、ショップの店員の中に凄いのが居たおかげで手に出来たのは本当に運が良かった。

 妹萌えと宣う変態で、ヴラディ1年の写真を見せたら全力で揃えた辺りが特にな。

 

 

「わぁ……わぁ……凄いっ! 起動が本当に一瞬です!」

 

 

 組終えたPCを嬉々として動かしているヴラディ1年の反応を見る辺り、あの変態男が全力で揃えた甲斐もあったみたいだ。

 

 

「さて、PCにお熱の所に水を差すようで悪いが、早速貴様の持つ暴走してしまう神器についてなんだが……」

 

「あ、は、はぃ……」

 

 

 物で釣ってる様であまり良い気はせんが、取り敢えずある程度ヴラディ1年の警戒心を削ぐという作戦は成功に終わった。

 そして此処からが本番な訳である。

 

 

「残念ながら俺は神器に関してはズブズブの素人なんだが、白音と祐斗からある程度貴様の神器については聞いた。

停止世界の邪眼……だったか? 視界に投影した存在すべてを停止させるとか何とか……」

 

「は、はい……」

 

 

 引きこもる理由の一つ、神器の不制御と効力。

 無意識に……自分の意識とは無関係に時を止めてしまうともなれば嫌にもなる。

 現にヴラディ1年の表情はさっきとは打って変わって曇っている。

 

 

「それに神器だけが勝手に成長しているとも聞いている。

確かにそんな状況では制御の訓練も儘ならんだろう……」

 

「…………」

 

 

 正直な所、引きこもり続けたければ引きこもっても構わんと思っている。

 が、その引きこもりですらその内儘ならなくなってしまう神器だけはそのままにして置くわけにもいかん。

 故に制御の手伝いを何とかしてやりたいと思うんだが……。

 

 

「最初からスキルは使わん。アレはあくまで最終手段だ。

何でもかんでもスキル頼りに事は運びたく無いからな」

 

「え? ス、スキル……?」

 

 

 スキルの事を知らないヴラディ1年は何の事だか解ってなさそうに首を傾げているが、説明はしない。

 勝手に勘違いされて頼りにされても困るからな。

 

 

「そして俺は神器は持ってない。そこで出番なのが、俺の知る限りでの神器使いである祐斗と元士郎だ」

 

 

 とにかくヴラディ1年にはほんの少しで良いから『前に進む覚悟』を身に付けさせる必要があるのだ。

 神器もスキルも共通して『想いと精神』に左右されるのであるなら、まずは本人の意思自身に委ねなければならん。

 

 そこで出番となるのが、神器使いの祐斗と元士郎という訳だ。

 

 

「特に元士郎の神器がヴラディ1年の制御訓練と相性が良いっぽそうなんだ」

 

「は、はぁ……」

 

「力が暴走するってんなら俺の神器でお前の過剰なエネルギーを奪って調節すれば良いって事だからな」

 

「よろしくギャスパーさん」

 

 

 ヴラディ1年にとってすれば神器を制御できる人材が集結している絶好の機会。

 

 

「うぅ……じ、自信が……」

 

 

 が、やはりずっと諦めてきたせいで尻込みしているのが見て解る。

 うーむ……ならもの試しをさせてみるか?

 

 

「元士郎、ヴラディ1年に接続してくれるか?」

 

「おいーっす」

 

「へ? わっ!? な、何ですかこれ……?」

 

 

 自信が無ければ植え付ける。

 という訳で早速元士郎の腕に現れた黒い龍脈から伸びるラインをヴラディ1年の身体に接続させると、初めて見るせいかかなり驚いている。

 

 

「よーし接続できたな?

それならまずは何も考えず力一杯神器を発動しろ」

 

「え、で、でも……」

 

「心配するな。暴走する程のパワーが出そうになったら元士郎の神器がその分を奪うからな」

 

 

 躊躇するヴラディ1年にそう言って安心させ、発動するように促す。

 すると腹でも括ったのか、それともヤケクソなのか……瞳の色に変化を見た瞬間……。

 

 

「むっ!?」

 

 

 世界の色が変わった。

 

 

「っ……く………あ、あれ……? 何時もより軽い……?」

 

 

 …………。なるほど、これがヴラディ1年の時止めか。

 なじみのスキルに時間干渉系が500種類程あるせいで何度も体感してたのが項をそうした様だ……確かに時間を止められてる感覚はすれどその認識はちゃんと出来る……。

 ヴラディ1年がキョトンとして自分の胸元辺りに視線を落として確認する様な動作をしているのが見えるから間違いない。

 

 

「…………。何だか何時もより楽な気がしました」

 

 

 そんな訳で時は動き出し、今までに無い感覚を感じでもしたのか、ヴラディ1年は独り言を呟くようにして俺達に言った。

 厳密には元士郎のアシストありきだが、これで少しは諦めていた可能性を見出だしてくれた筈だ。

 

 

「お前は力を入れすぎというか……わざわざコップ一杯の水を注ぐのに蛇口を捻りすぎてるっつーか、兎に角力を垂れ流しにしてるぜ?

もうちょい調節したら割りと直ぐに制御できるんじゃねーか?」

 

「ぼ、僕が……ですか?」

 

「おう、それまでは俺がアシストしてやるからよ」

 

 

 チンピラ認識していた元士郎のちょっと優しい言い方にヴラディ1年はビックリしつつも心無しか嬉しそうだったのと同時に、ちょっとだけ元士郎に対するイメージを緩和させた……と思う。

 

 

 

 

 

 

 白夜騎士。

 ジョワユーズを受け入れ、真の姿と力を引き出したと同時に至った純白の鎧騎士。

 フリード・セルゼン自身の進化の象徴。

 

 

『そうですフリード様。

ジョワユーズの真価は『形を変える』事。聖槍ですらその一つでしかありません』

 

「そーですかー」

 

 

 銀牙騎士と互角の戦いを演じたフリードは今日も師であり恩人であるコカビエルの右腕に相応しき強さを身に付けようと、嫌っていたジョワユーズの性質を引き出す訓練をしていた。

 

 

『流石ですフリード様。たったこれだけの期間で此処まで私の力を引き出せるとは……感服致します』

 

「へーいへい」

 

 

 結局負けに等しき決着だった木場祐斗へのリベンジ。

 そして何よりもコカビエルへの忠義が天賦の才を持つフリードの実力に磨きを掛けていく。

 

 

「ラブカップル。

次は俺が勝つから首洗って待ってろ……!」

 

 

 這い上がった堕天使に拾われしはぐれ悪魔祓いは自身の力を受け入れて覚醒する。

 

 聖と魔を越え、どちらをも平伏させる白夜の称号を持つ騎士へ。

 

 フリード・セルゼン――またの名を

 

 

「白夜騎士・打無―ダン―」

 

 

 

 

 堕天使・コカビエル。

 その名は有名であり、それでいて畏怖の対象でもあった。

 何せ自力で神を超越したのだ……三大勢力以外の数多の勢力にとって彼の存在と名前は抑止力として成り立つほどだ。

 特にとある神話系統は彼に対して……。

 

 

『アイツ、わしより強くねー?』

 

 

 と認めざるを得ない程だった。

 故に今回コカビエルが起こした事件と堕天使勢力からの失踪は瞬く間に全ての勢力へと伝わり、特にとあるテロ組織は『チャンス』とばかりに彼への接触を頻繁に行おうとしていた。

 勿論、取り込む為にだが……。

 

 

「貴様等の目的に興味など無い。

寧ろトップなんぞやってるオーフィスが俺を危険と判断して殺しに来ることを望むよ。何せ『奴等』との前哨戦として戦えるからな……ふはははは!」

 

 

 当のコカビエルは今回の事件により地位も名誉も消えた事で獲得した自由を楽しんでしまっており、勧誘話を『敵対して欲しいから』なんて理由で笑いながら蹴り飛ばす始末。

 

 

「無限の龍神に勝てるなぞと自惚れるつもりは無い……クックックッ。

しかしっ! 血が騒ぐビッグネームを聞くと鍛練が捗るものよっ! ぬははははははは!!!!」

 

 

 自由を獲られた事でコカビエルは更なる進化を遂げる。

 それは最強と呼ばれる存在の横をF1カーの如く高速で通り抜けるが如く。

 

 

「安心院なじみに兵藤一誠、そして悪平等共。

待っていろよ……必ず俺は――俺達は貴様等を越える!」

 

 

 己の非力さ、弱さを知ったからこそ種族を超越せし堕天使の瞳に一点の曇り無し。

 只ひたすらに強さを追求する男・コカビエルは今日も『挑戦』し、自らの進化道を歩むのだ。

 

 

「……………。また安心院なじみ……誰ですかその女は?」

 

 

 テロ組織とやらの勧誘者を丁重に帰し、一人メラメラとリベンジの炎を燃やす姿を盗撮しつつ、何度もコカビエルの口から出てくる見たことも無い女の名前に嫉妬の炎をメラメラ燃やす何者かが居ても、コカビエルは不意打ちを噛まして来ない限りは豪胆に放置する。

 そんな男なのだ。

 

 

 

 

 

 そんな訳でコカビエルとフリードは二人三脚状態で着々と進化の道をズンズンと爆進している訳だが、自力神超えを果たしたコカビエルも、過去の例がない白夜騎士へと覚醒したフリードも自身の事に疎かった。

 

 故にコカビエルはどこぞの美人天使にストーカーされても『別に良いか』で済ませる困った男なのだ。

 そしてフリードも――

 

 

「き、貴様……な、なんだその力―――ばぇ!?」

 

『チッ、この程度じゃ鎧を呼び出しても修行にならねーよ』

 

 

 自分の置かれた立場を『コカビエルのボスの部下』とだけしか自覚していない困った男の子であった。

 

 

「ふぅ……。やっぱし修行はボスに相手を頼むが一番ですなー」

 

 

 実戦の勘を決して鈍らせない為にという理由で、人間界に隠れているはぐれ悪魔相手に辻斬り紛いな真似をしていたフリードは、白夜騎士の力をもっと使いこなさなければとどんな相手でも纏って戦うが、あまりにも相手の歯ごたえが無さすぎて、鎧を返還し生身に戻ったその表情は不満がありありと出ていた。

 

 

「いっそラブカップル共にリベンジ――は、まだ早いし……ったく、もっと強い相手は居ないもんかねー」

 

 

 ケンタウロスみたいなはぐれ悪魔を一突きで無に帰したフリードはぶつくさと独り文句を呟きながら廃病院となっている建物を後にしようと歩き出す。

 そもそもコカビエルを相手にボロボロになるまで毎日毎日腕を磨いているフリードは、人間の身でありながらもはや並みの輩は全ての有象無象となるまでに強くなってるのだが、どうにも本人にその自覚が無い。

 

 コカビエルに常日頃から『油断と慢心は身を滅ぼす』と教えられ、過去に兵藤誠八や銀牙騎士に覚醒する前のの祐斗相手に嫌と言うほど思い知った経緯がある故に、どんな格下でも油断なく戦う冷静さを身に付けている今のフリードを満足させる相手は少なくとも今はこの近くには居ない訳で……。

 

 

「ボスの右腕への道のりはまだまだ遠いぜぇ……」

 

 

 月が薄く照らす夜道を冷たい風を頬に感じながら、フリードは消化不良な気持ちのままゆっくりと帰路へと着こうと歩き出した。

 

 

「…………………………」

 

 

 その後ろ姿を見つめている一つの人影が居る事を、敢えて知らんぷりして無視しながら……。

 

 

「……」

 

 

 トボトボとコカビエルの待つ隠れ家に帰ろうと歩いているフリードの――なんと僅か20メートル後ろから木の影、壁の影から見つめては一定の距離を保つ人影。

 その人影はフリードが気付いていないと思ってるが故に、最初は50メートル離れた箇所から見ていたのを、日を追う事にその距離を縮めている。

 

 

「……」

 

 

 偶然……本当に最初は偶然だった。

 とある事情で一人旅的な事をしていた時にたまたま見てしまった魔を切り裂く純白の鎧騎士。

 そのあまりにも綺麗な鎧に目を奪われ、鎧騎士の正体が『年が変わらない白髪の少年』だったのを見てから、『こんな事をしている場合じゃない』と頭ではちゃんと解っているのに、気づけば目で追い、姿を追い……追い掛けてという行動に走ってしまう。

 

 

「…………分かりやすく魔王クラスの馬鹿がどっかで人間様相手に暴れてねーもんかねーっと……」

 

「…………」

 

 

 その矛盾した自身の行動に初めは戸惑った。

 これじゃあ不審人物じゃないだろうか? とかあのお方……フリード"様"に失礼ではなかろうかとか。

 当初は罪悪感に苛まれていたが、『知りたい』『お話がしてみたい』という欲求が誤魔化すように罪悪感を薄れさせ、今ではそんな罪悪感も殆ど消し飛んでいた。

 

 

「……。(前々から何なんだこのウゼー視線は。つーかアレで隠れてるつもりなのか? だとしたら笑っちまうついでに消すか? 格好からして普通の人間様じゃないだろうし、まさかコカビエルのボスへの刺客か?)」

 

「…………。フリードさま……」

 

 

 満月を背に魔と戦う純白の鎧騎士の少年に近付けば近付く程その罪悪感は自分の中で正当化して行き、その距離を恐れを吹き飛ばして近付け――惚けた表情と声で純白の騎士の名を何度も呟く。

 

 

 

 

 

「(いや……にしては殺気なんてまるで無い――ってフリード様……だと……?)」

 

 

 フリードにしてみれば訳が分からなかった。

 今も何度も様まで付けて名前を連呼されると、流石にちょっと――怖い。

 

 

『どうするのですかフリード様?』

 

「(………。隠れ家近くになったら撒くから問題ねーし、そもそも強そうに見えねぇからな。コカビエルのボスの右腕目指してからは雑魚の命なんて狩ってもしょうもねーと思うようになっちまったから……)」

 

 

 自身の中に宿りしジュワユーズの抑揚が無い声にフリードは隠れてるつもりでも気配が駄々漏れな追跡者をどうするかと考える。

 狂気のはぐれ悪魔祓いとしての修羅場を潜り抜けて来たフリードは殺意を向けられている事には敏感だが、そうで無い場合の経験が殆ど無いので対処の方法が解らないのだ。

 

 

「あっ……!」

 

 

 故にフリードが取った選択は『向こうが飽きるまで気付かないフリ』であった。

 何を考えて自分の後を追っているのか……。

 コカビエルに師事してからは殺意を持たない者は無意味に殺さなくなったフリードは『あっ……』等と名残惜しそうな声を出す『少女』の声を風の音に混じらせながら耳にしつつ、人間を越えた速力で走り出した。

 

 

「ったく、意味がさっぱりわかんねーよ。コカビエルのボスを狙って俺をストーキングしてるとは思えねーし……あぁ、メンドクセーな」

 

『………』

 

 

 ここ最近……慣れる訓練のためにはぐれ悪魔狩りをわざと白夜騎士の状態で狩り始めた辺りから、毎晩毎晩下手くそな尾行してくる変な存在の視線にフリードは妙な居心地の悪さを感じながら、意図の読めない相手に半分苛つきつつも隠れ家へとひた走る。

 

 

「また、明日も会えますよね……フリードさま?」

 

 

 風の様に走り去ったフリードの姿が見えなくなろうとも、去った先の暗闇を見つめる少女が、また明日も会える事を願っていると露にも思わず……。

 

 

「子供の頃絵本に出て来た私の白騎士様(ヒーロー)……」

 

 

 『魔法使いの様な格好をした金髪の少女』に自身のボスが天使様にストーキングされてる様な状況にぶちこまれつつある事なぞ思いもせず……。

 覚醒したはぐれ悪魔祓いもまた……意図せずとも知れば兵藤誠八がハンカチを噛んで悔しがる程の旗を立てていたのであった。




補足

覚悟を持たせる――それが一誠達の一番の目的。
ただしギャーくんの性質を考慮して丁寧に……いきなりのスパルタはご法度に。


その2
コカビエルさんは一誠とのバトルを経て信じられないくらいの進化を遂げました。
しかし本人はまだまだと判断して鍛練続行。

フリードきゅんもまた日に日に強くなってます……。

そして運悪く白夜騎士の姿を見られたせいで、追っかけ(決してストーカーでは無い)られてます。

『魔法使いの様な格好をした金髪の少女』

とは一体誰なのか……誰なんだろ? つーかフリードきゅんにまさかの旗って……なんでやねん。

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