生徒会長イッセーと鳥さんと猫   作:超人類DX

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……。まともだよ! すっごいまともじゃん!

※砂糖……か? 追加した。


フリードと魔法少女

 運命の日――なんてオーバーな事を抜かすつもりは別に無いけど、俺にとっては人生の分岐点とも云うべき日なのかもしれない。

 

 一度全てを無くし、再起し、その原因との決着。

 

 兵藤誠八という名の影からの脱却。

 

 それこそが兵藤一誠としての俺の本当の再起だと思うのだが、同時に俺は思う。

 

 奴のお陰で俺は生徒会長を出来た。

 奴のお陰で此処まで昇華出来た。

 奴が奪ってくれたから――――レイヴェルと出会えた。

 

 

「今更言っても貴様にしてみれば嫌味だろうが……ふふ、俺は心の底から感謝しよう。

『ありがとう兵藤誠八』『貴様のおかげて俺は胸を張って幸せだと言える』」

 

 

 俺は俺。奴は奴。

 なじみが言っていた、俺が歩む筈だった本来の道筋が欲しくばくれてやる。

 多数の女と関係を持ちたければどうぞ勝手にしろ。

 

 

「だから――」

 

 

 お前は兵藤誠八――俺は兵藤一誠。

 顔が似てるだけの『他人』なんだから。

 

 

「貴様も『本来の貴様』の姿として生きて――おやすみ」

 

 

 そうだろ? 俺に絶望(マイナス)希望(プラス)を与えし転生者よ。 

 

 

「明日――いや厳密には今日……因縁は此処で終わる」

 

 

 赤龍帝も本来の道筋も俺には必要の無いものなのだから。

 

 

「一誠様……明日もお早いですし、今日はもうお休みに……」

 

「おう……」

 

 

 住んでる小さなアパートの屋根に上がって星空を眺めながら、感傷に浸ってたりしていた俺にレイヴェルが姿を見せ休め……なんて言いつつ座って空を眺めていた俺の隣に座る。

 多分俺が部屋に戻らない限り、レイヴェルはずっと隣に居るだろう……だから明日の事もあるし部屋に戻らないととは思う――だけどさ。

 

 

「聞いたぜレイヴェル。白音が進化したみたいだな……しかも能力保持者(スキルホルダー)に」

 

「ええ……驚きはしましたが何とか叩き伏せてあげましたよ――何時ものように」

 

 

 解らないけど、何故か眠れない。

 眠れず、星空を眺めながらレイヴェルと話をしてしまう。

 レイヴェルも律儀に付き合ってくれるからつい甘えてしまう。

 

 

「明日……か」

 

「ええ、明日です」

 

「長いようで、生徒会長をやってからは早かったな」

 

 

 けれどぎこちない。

 肩と肩が触れるか触れないかの微妙な距離で俺の言葉にレイヴェルが相槌を打つ。

 ぎこちない……けれど心地好い。

 

 

「なじみに拾われ、連れられ……フェニックスの家に来てお前に出会えたから此処まで折れずに来れた。

何度だって言うが……お前が居なかったから途中で妥協して終わってただろうな」

 

「………」

 

 

 俺は本当に運が良かったよ。

 安心院なじみに拾われ、フェニックスの家族に迎えられ……レイヴェルに出会えたんだもの。

 宝くじで一等を当てるより遥かに……。

 

 

「そういえば覚えてますか一誠様? 高校生になる前の時に私の下に公爵の一人息子との縁談話の事を」

 

「ん……あぁ……そういやそんな事もあったな。

ある訳無いのに勝手に俺が嫉妬して公爵の一人息子を殴り飛ばして半殺しにしてしまったアレね。

いやー……ほら、何かエロい目でレイヴェル見てたからつい感情の線がさ――若気の至りにしてもヤンチャし過ぎたねアレは」

 

 

 俺はレイヴェルが大好きだ。

 変わらない……今も昔も変えたくない俺の気持ち。

 白音と黒歌に好かれてる事は……ま、まぁ嬉しいけど、それでも俺にとって帰ってきたと感じるのはレイヴェルとこうしてる事なんだ。

 

 

「あの時からハッキリ思ったけか。

『あー……やっぱレイヴェル居ないと駄目だわ俺』ってさ」

 

「一誠様……」

 

 

 心の底からの安心。

 なじみから与えられても感じること無い絶対的な安心。

 

 

「ハァ……全く女々しいったらありゃしない――――が」

 

 

 俺はそれをレイヴェルから感じ、そして思う。

 

 

「ねぇ、鬱陶しいと思うか? こんな俺を……」

 

 

 欲しいなー……なんて。

 

 

「そんな事……思う訳なんてありません」

 

 

 レイヴェルの両肩を掴み、此方へ向かせて額をくっ付ける。

 鼻先が触れあうまで近づけ、意地の悪い質問にレイヴェルは微笑みながら小さく首を横に振った瞬間――

 

 

「ずっとアナタを愛してます……一誠」

 

「俺も大好きだよ、レイヴェル……」

 

 

 今だけ全てを忘れ、ただ目の前の大好きな女の子だけに全てを向け、手を絡まさせる様に繋ぎながら唇を重ね合った。

 

 

「ん……あー……やばいなぁ……レイヴェルとするのいいなー……頭がふわふわしてきた」

 

「うふふ……私も同じですわ」

 

 

 此処に居る……幻想じゃないよと互いに確かめ合いながら――只時間を忘れて。

 

 

 

 

 

 

 

「…………。今日だけは邪魔しないで置きますよ……」

 

「いいなー……かれこれ三十分もしてるにゃ。

まぁ……諦める訳なんてないけどね――でしょう白音?」

 

「当然です」

 

 

 星空の下に重なる二つの影を、羨ましそうに眺める姉妹。

 当然諦めるつもりは……無いみたいだ。

 

 

 

 

 敗北とコカビエルとの出会いにより、その運命を変化へと導いたフリード・セルゼン。

 駒王学園での激闘の末、少しだけ憑き物が落ちた様子で今日も元気にリベンジの為の鍛練をする彼だが、最近ちょっとだけ困っていた。

 

 

「そ、その姿……! まさか貴様が最近現れた純白の鎧騎――」

 

 

 コカビエルに頼るだけでは駄目だと野良に出てはぐれ悪魔や野良妖怪を狩る毎日。

 

 

『…………………。驚く暇があんなら防ぐ動作ぐらいしろし』

 

 

 劇的な覚醒を遂げたフリード―――いや、白夜騎士の名はココ最近『はぐれもの』達の間で『恐怖の象徴』として広まっていた。

 無論それは根っこが戦闘狂であるフリードにしてみれば、相手が逃げ腰になってしまうという意味で歓迎できないものであり、今も白夜の鎧を召喚して纏った瞬間、それまで調子よく見下していた相手の表情が恐怖に染まって逃げようとしたのだ。

 

 

「………。ハァ……狩り過ぎちゃいましたかねー」

 

 

 逃げ腰になる相手なんて狩っていても修行にならない。

 風の噂では自分と共倒れした銀牙騎士へと覚醒した木場祐斗もはぐれ者達の間では自分と肩を並べるレベルで名が急速に広まっているらしいのだが、どちらにせよフリードにしてみれば退屈だった。

 

 しかも挙げ句が――

 

 

『フリード様、お気付きかもしれませんが、4時の後方『10』メートル圏内に気配を感じます。

恐らく『何時もの』方かと」

 

「……。あっそー」

 

 

 何時からか、修行のはぐれ狩りを行う度にほぼ間違いなく現れる謎の少女の妙な視線。

 

 

『日を追うごとにフリード様を観察する距離を縮めてますね』

 

「…………………はぁ」

 

 

 埃っぽい廃墟を出て新鮮な夜風を吸いながら星空をボーッと眺めていたフリードの意識に直接語りかけてくる『ジョワユーズ』であり『白夜騎士』の意識の抑揚の無い女性ボイスに深呼吸ついでに溜め息が出てしまう。

 

 

「………………フリードさま」

 

 

 三角帽子を被り、そこから溢れる金髪の少女の熱っぽい視線。

 最初は50メートル離れた場所からだったのが気付けば声で会話が成立出来るだろう距離まで縮まっており、少女から向けられる視線の意味がさっぱり解らないフリードからすれば、むず痒くて仕方無かった。

 

 

『どうしますかフリード様?』

 

「…………」

 

 

 とはいえ斬り殺す訳にもいかない。

 なんせここ最近は敢えてわざと隙を作ってボロを出させようとしてたのに、少女は見てくるだけで攻撃をしてくる様子も殺気も見せないのだ。

 狂人などと言われているフリードだが、流石に敵意を向けてこない相手を問答無用で斬り殺す程には狂っては無く、去る様子を全く見せない魔法使いコスプレの少女の視線を受けながらジョワユーズの声に沈黙して考える。

 

 そして――――

 

 

「よー……そこの変人さん? いい加減俺っちに何かご用ッスかねー?」

 

「はわっ!?」

 

 

 フリード・セルゼンは生まれて初めて『即殺し』じゃなく『対話』をする為に、ずっと見てくるだけの少女へと自ら歩み寄るのだった。

 

 

 

 

 

 小さい頃に読んだ絵本。

 その絵本の内容は、たった一人の騎士が沢山の人々を守る為に魔獣と戦うというシンプルな内容でしたが、私は今でもその絵本が――いえ、その絵本に出てきた純白の鎧騎士が大好きです。

 

 でも所詮絵本は絵本……現実は白騎士様なんて居ないけど、夢を見続けることは出来ると私はずっと心の中に白騎士様を留めていました。

 

 そう――

 

 

『おいそこの女……邪魔だから下がってな』

 

『え?』

 

『何だ貴様は……人間か?』

 

 

 月明かりに煌めく白髪とルビーの様な真っ赤な瞳が目を引く私と歳が変わらなそうな男の人が不敵な笑みを浮かべて私の前に現れた運命の日を迎えるまで、私は絵本の中の白騎士様とは決して会えないと諦めていました。

 

『あーん、俺が誰だって?

そうですなー……これから狩る雑魚に名乗っても意味なんてねーだろうが、リベンジの願掛け目的にちょいとカッコ付けさせて貰おうか?』

 

 

 とはいえこの時はまさか白騎士様だと思わなかった私は、失礼ながら黒いロングコートを着た男の人――つまりフリード様に逃げてくださいなどと宣ってしまいます。

 

 

『ま、待ってください! 危険ですから逃げて――』

 

『あーん? 何言ってるんですかねー? アンタこそさっさと消えなよ。

一応、こういう輩を見逃すってのは元職業柄無理なもんでねー』

 

 

 でもフリード様はそんな私に優しく微笑みかけてくださるばかりか(注意・ルフェイ視点)安心させるように逃げろと促すと……。

 

 

『つー訳で、俺はフリード・セルゼン。またの名を――

 

 

 

 

 

 

 

 

 白夜騎士・打無(ダン)

 

 

 聖なる剣を槍へと変化させて、その切っ先を天に掲げて円を描き、現れた円陣から降り注ぐ眩い光を浴びたその身に纏う純白の鎧。

 

 

『覚えとけクソはぐれ悪魔。

これから俺がテメー等に狩られる恐怖を教えてやるぜ……ヒャハハハ!!』

 

 

 何もかもが小さい頃に読んだ絵本の白騎士様がそのまま飛び出して来たとしか思えないお姿に私は見惚れた。

 雄々しきお姿。

 どんな相手でも立ち向かうそのお背中。

 

 全てが私の中で思い描いていたヒーローさんと合致する。

 だから私は茫然と魔を斬り祓う白騎士様――いえ、白夜騎士様であるフリード様を見つめ、追いかけ、そしてまた見つめ、お近づきになれたら良いなと考えながらまた見つめの日々を送った。

 

 そして今夜――

 

 

「返答の次第じゃ首チョンパすっから正直に話せよ? テメーはこの前から何なんですかー?」

 

「あ、あの、わ、わたし! え、ええ、ええっと、しょ、しょの!!」

 

「……………………………。落ち着けよ」

 

『………。私を引っ込めた方がよろしいかと』

 

 

 ヒーローが――フリード様がこんな近くに…………………………………えへ、えへへ……えへへへへへへへ!

 

 

 

 日に30回その姿を……いや『色』を変化させるジョワユーズを剣形態へと戻し、切っ先を喉元へと突きつけながら少女への尋問を開始したつもりのフリード――だったが。

 

 

「わたし……えと、ルフェイ・ペンドラゴンと申しましゅ―――ひへ!? し、舌ひゃんじゃいまひた……」

 

「お、おう、だから落ち着けよ?」

 

『ペンドラゴン……?』

 

 

 フリードはある意味最大の困惑を覚えていた。

 紛いなりにも自分の殺り方を見ていた筈の女が、その獲物を喉元へと突き付けて脅されてるというのにも関わらず頬を染めながらニヨニヨ笑って名前を名乗ったのだ……。

 フリードからしてみれば訳がわからない――というコイツまさかのマゾ? という懸念すら出てしまう。

 

 

「はぁ、はぁ……はぁ……ご、ごめんなさい……私だけはしゃいじゃって……」

 

「分かったから目的はよ」

 

「ぇ? も、目的はその……白騎士様――フリード様のお姿に……」

 

「いやだから目的――」

 

「きょ、今日もカッコよかったです! 雄々しきそのお姿、決して圧されない力強いお言葉も何もかもが!!!」

 

 

 しかしルフェイ・ペンドラゴンと名乗る少女は怖がる処か興奮した面持ちで矢継ぎ早にフリードを褒めちぎる言葉を口にするだけだった。

 

 

「何だしこの女……」

 

『少なくともフリード様の戦うお姿に見惚れた少女というだけで、敵では無いと思われます。

とはいえ、只の少女では無いようですが……』

 

「ですからお話できて光栄で……えっと……その……!」

 

 

 少女には聞こえないジョワユーズの意識が淡々と顔を真っ赤にしながらはにかむ少女に敵では無いと評価するのを聞きながらフリードは武器を仕舞いながらジーッと、自身もとっくに感じてる『只の少女では無い』その源を探ろうとルフェイなる少女を見つめる。

 

 

「あわわ……そ、そんなに見つめられると……」

 

「……………」

 

 

 が、何を思ってるのかルフェイなる少女は鮮血を思わせるフリードの……実は片方は義眼だったりするその瞳に照れながら帽子を深く被り込んでしまう。

 

 

「………。(ただのバカなのかこの女?)」

 

『それはフリード様がお決めになる事ですので、所詮は武器である私には何とも……』

 

 

 ある意味初めてとも言えるタイプにフリードは口封じすべきかどうか迷ってしまう。

 いや、というかどう見てもこのルフェイという少女では自分の――ましてやコカビエルの脅威となる器を感じられない。

 このまま放っておいても良いか? とまで考え始めていたフリードだったが、帽子を深く被って照れていたルフェイが発した言葉が――

 

 

「フリード様をお目見えする前は、黄金の夜明け団(ゴールデン・ドーン)に所属し、色々な魔術の修行をしてました!」

 

「は?」

 

 

 わざとなのか、それとも勝手に口を滑らせただけなのか……。

 有益な情報とも言うべき言葉にフリードは思わず口をポカンと開ける。

 

 

「黄金の夜明け団……?」

 

 

 近代魔術を独自に研究する、歴史としてはまだ新参とも言える秘密結社まがいな組織の名前にフリードは、前に何処かで聞いたような……と思い出そうとしながら、一気にルフェイに対して警戒心を抱く。

 

 

『黄金の夜明け団……ですか。申し訳ありませんがフリード様。

私の『記憶』には無いですね』

 

「……。(だろうな。

確かどこぞのクソ悪魔の眷属が作ったとかそんな話だった気がするし……。

やっぱりこの女殺しちまうか?)」

 

 

 まだテレテレとしてるルフェイに冷徹な瞳を帯びた表情で見据えながら、仕舞い込んだジョワユーズを再び呼び出そうとする。

 今更『黄金の夜明け団(その程度)』の組織に自分やコカビエルが潰されるつもりなんて無いが、知った以上芽はさっさと摘んでしまうべきだ。

 

 

「そっかー……ルフェイたんは魔法使いなんだー?」

 

「な、名前で呼んでくださるのですか!? ほわぁ……か、感激です!」

 

 

 女だろうが子供だろうが……邪魔になるんであるなら斬り伏せる。

 フリード・セルゼンのぶれ無い精神こそが真骨頂の1つであり、またその覚悟があるからこそ覚醒と進化を――そしてジョワユーズの意識は惹かれて全面的に力を明け渡す。

 何やら名前で呼ばれて勝手に感激している少女へと手を伸ばしたフリードは、その首を跳ねようとジョワユーズ本体を呼び出す――――

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「と、いう訳で大した脅威にも無さそうで、逆に使えないかと思ってボスに相談しに来たんだわ」

 

「ほう?」

 

 

 事はせず、取り敢えずフリードはボスであるコカビエルに相談しようとルフェイを連れて元オフィスビルだった廃ビルを二人で日曜大工して改造した隠れ家へと連れて帰ってきたのだった。

 

 

黄金の夜明け団(ゴールデン・ドーン)か。魔術師共の派閥の一つだな。

よく連れて帰ってきたなフリードよ」

 

 

 殺すより、利用できないか……。

 コカビエルへ師事してからある程度冷静に考えることが出来るようになったフリードはそう考え、どうやら出奔した『兄』を探して一人旅していた背景を抱えていたらしいルフェイをそのまま連れ帰ってきたのだ。

 

 

「まあ……強くなりそうな可能性のある輩を潰したらつまんねーかなーとか思ったりしてよ……」

 

「フッ、お前も俺の悪いところが似てしまったな。

だがよーく分かる話だ」

 

 

 居心地が悪そうに目を逸らすフリードに、ホームセンターで安売りされていた御気に入りソファに腰掛けて酒を煽っていたコカビエルは笑みを溢しながら、自分を見て固まってるルフェイという少女に視線を移す。

 

 

「小娘……。む、おい小娘?」

 

「………………。で、伝説の堕天使!?」

 

「は?」

 

 

 どうやら自分を知ってるようで、ルフェイは驚愕を通り越したオーバーリアクションでだらしなく座ってるコカビエルを前に怯えを孕んだ目をしながらフリードの背へと隠れてしまう。

 まあ、大きな三角帽子のせいでちょっと間抜けに見えてしまう訳だが。

 

 

「ど、どうしよう……た、たたた、食べられちゃう!」

 

「いや人間の肉味なんて食っても美味くないから俺は食わんぞ。

そもそもフリードが連れて来た客人相手にそんな事するつもりだって無いし、というより……俺ってそんな野獣じみてる様に見えるのか……?」

 

「やっぱ斬っちまうべきだったかも――って、鬱陶しいからしがみつくなよ!!」

 

「あわわわ!」

 

 

 自力で神を超越せし堕天使。

 コカビエルという名前は知る者からすれば大層ビッグなネーム故に、その系譜であるルフェイは怯え、フリードの背中にしがみつきながらプルプルと震えてしまう訳で……。

 

 

「取り敢えず誤解を解くか……。

何か最近どうも――いや、兵藤一誠と戦ってからは餓鬼の将来の芽を無意味に摘みたくなくなってる自分に驚くよ」

 

 

 自覚は十二分にしていたものの、その悪人顔故に怯えられる事にほんのちょっぴり気持ちを沈めつつ、フリードが連れてきた客人だしとコカビエルは何時間も掛けて『何もしません』という意思を示すのに時間を費やすのであった――――勿論フリードのアシスト込みで。

 

 

「―――以上の事から、俺とフリードはお前に何もせん。

帰りたければ今からでも自由にしろ」

 

「オールオーケー?」

 

「そ、そうだったんですね……。

勝手に取り乱してごめんなさい……」

 

 

 結果、時間にして4時間程掛かったが何とかルフェイの誤解を解くことに成功したコカビエルは、ホッとしながらスーパーで買った安酒を煽る。

 

 

「フリードの姿に見惚れてずっと尾行していた……か。

ふっ、お前も中々隅に置けないじゃないか、え? フリード?」

 

「ちょっと酔ってるだろボス? やめてくれよ……」

 

 

 ちょっとほろ酔いなのか、若干どこぞのオッサンを思わせる様子でフリードを煽っているコカビエルに、フリードは辟易……そしてルフェイは意外な気持ちを抱いていた。

 

 

「も、もっと怖い方かと思ってました……」

 

「怖い顔なのは生まれつきでな。

お陰で慕われた事もなければモテ事すらない……ヒック……まあ、別に良いけど」

 

「あ、 注ぎますね?」

 

「うむ……おっとと……。最近の娘にしては中々デキる娘だな。

どうだ? 兄を探して組織から出たと言っていたが、行く宛が無ければ暫くココに居るか? フリードもいるし」

 

 

 何というか……顔に似合わずフレンドリーなのだ。

 兵藤一誠という人間の少年の影響故……だったりするのだが、その事を知らないルフェイはほろ酔いで自慢の弟子だとフリードの事について語りまくるコカビエルにすっかり警戒心を解いたばかりか、空になったグラスに酒を注ぐ始末だった。

 

 

「へ?」

 

 

 しかもまさかの提案にルフェイは思わず持っていた酒のボトルを落としそうになる。

 

 

「ちょ、待てやボス!? 確かに連れてきたのは俺っちだけど、ここに置くなんて――」

 

「何か困ることでもあるのか? 別に良いじゃないか、お前のファンなんだぞ?」

 

「ファンって……。

そ、そんなの強くなるのとかんけーねーし……」

 

 

 完全に出歯亀のオッサン化してるコカビエルにニヤニヤ顔にフリードは『それでも普段はカッケーし……』と慕う心の方が遥かに勝ってる故に口ごもってしまう。

 

 

「俺もフリードも何処の組織に所属してる訳じゃない。

とある事情でクビになったからな……。

故に俺達の目的はただ強さを追求するという事で……まあ、ぶっちゃけるとアレだな……………華が欲しい」

 

「は、華?」

 

「うむ……ヒック……まあ、嫌なら別に良いんだがな。

フリードの近くに居れるかもしれないという意味での提案――」

 

「はい! よろしくお願いします! こう見えて炊事洗濯掃除何でも出来ます!!!」

 

「―――――だ、そうだがフリード?」

 

「…………。楽しんでねーか? ボスよ?」

 

 

 何だか知らないけど酔っぱらってるせいで勝手に話が進んでる。

 本当ならもっとダークでハードボイルドに……人質的な意味として利用しようぜ的な意味でわざわざ殺さずに連れて来たのに、気付けば世話掛かりとしてボスに雇われてる……。

 

 

「よーし! ヒック……ならルフェイの部屋だが……ヒック……あー……無いからフリードと寝ろ」

 

「はぁっ!?」

 

「フ、フリード様とですか!? フ、フリードしゃまと……」

 

「ちょっと待てボス! 話が飛躍し過ぎて訳わかんねーよ!?」

 

「良いだろ別に。

お前だってもう餓鬼じゃないんだし、ルフェイだって満更ではなさそうじゃあないか……なー?」

 

「わ、私……! しょ、しょの……ふ、フリードさまさえ良ければ、べ、べちゅに……あぅあぅ……」

 

 

 しかもルフェイもルフェイで何でか乗り気で、頬をヒクヒクさせてるフリードに真っ赤な顔でチラチラと視線を寄越している。

 

 

「チッ、俺はそこら辺でも寝れるからアンタは俺が使ってた部屋使えよ……ったく」

 

「え、そ、そんな……でしたら私が――」

 

「もう良いから……取り敢えずシャワー室まで案内するから先に浴びてろ――」

 

「一緒に入れば良いだろ? ついでに仕込めよ」

 

「黙れよ!? 酒弱い癖に飲み過ぎなんだよ!!」

 

 

 ルフェイという少女に対する対応を完全に間違えてしまった……フリードは後悔するのであったとか。

 そして……。

 

 

「フ、フリード様のお部屋……。

フリード様の匂い……あは……♪ あ、あれぇ? 頭がボーッとして身体が熱くて……」

 

 

 その予感はある意味当たっているのかもしれない。

 

 

 超戦者……コカビエル

 白夜騎士……フリード・セルゼン

 魔法少女……ルフェイ・ペンドラゴン

 

 

 対悪平等・コカビエルチーム……密かに結成。

 

 

「……………。やりますねあの少女……。

ですが、おかげでコカビエルの寝顔を写真に納められました……ふふふ」

 

 

 密かなる見届け人……ガブリエル。

 

 

「Zzz……」

 

「もう、こんなに飲んでだらしないですね……ア・ナ・タ❤」

 

「むにゃ……?」

 

「きゃ、アナタって言ってしまいました! 結婚もしてないのに……うふふふ♪」

 

 

 見届け人の現在。

 爆睡しているコカビエルの目の前でサワサワしながらクネクネしてる。

 

 

「んぁ……?」

 

「っ!?!?」

 

 

 だが意識を持つ本人を前にすると――

 

 

「む……?

何だ……また手首が虫に刺されたのか――しかも知らん誰かの匂いがまたするし……」

 

(はっ……ハァ……ハァ……!! お、起きるのが早すぎですよ!)

 

「む……髪……それも金?」

 

(わ、私の髪の毛ですよコカビエル!)

 

 テンパって若干ツンデレになる気――アリ。




補足

禍の団……では無くコカビエルチーム入り。
これからはお洗濯と称してフリードきゅんの召し物に悶々したり、ほぼ本能でパシャパシャと激写したり……。

フリードきゅんの嫌な予感はほぼ大当たり。


ガブリエルさんは………まあ、此処に至っては平常運転で。



一誠くんは禁断症状入ると、某ル◯ズコピペ状態に――――ならんこともない。

というか、ストーカー女性陣は確実になりますかも。



 次回から一気に進めます。

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