生徒会長イッセーと鳥さんと猫   作:超人類DX

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……。わー……やっちまった……。

マジやっちゃった……。

※ちょっと直しました


黒炎

 思えば俺は失敗ばかりだ。

 くだらない理由でテメーから悪魔になる事を選び、そのくだらない理由の元であった主がおかしくなる様を見せつけられ、揚げ句の果てには耐えられなくなって見限ったと来た。

 

 こんな事なら初めから悪魔なんかにならなければよかったと何度後悔したか解りゃしない。

 けどそんな俺にも友達は居た。助けてくれる友達が居た。

 本音をぶちまけられ、笑い合える友達が居てくれた。

 

 だから俺は悪魔に転生した事を今では後悔なんてしていない。

 

 

「着いた訳だが、何だろうか、不気味に思えるほど静かだな」

 

「どうするの? このまま正面から行く?」

 

「いやまずはカテレアちゃんの安否を確かめないと……。

電話から聞こえた声からして、冗談の類いじゃ無かったし」

 

「チッ……」

 

 

 一誠、木場、セラフォルー・レヴィアタンと共に耳鳴りすらする静けさを誇るシトリー城の門前にレイヴェルさんによって転移するが、城の中を探っても気配の類いがまるで感じられなく、自分の育った家じゃないみたいだと困惑するレヴィアタンに、俺達は慎重に事を運ぼうと、バカでかい門をゆっくりと開け放ち、中庭へとスパイ映画の様に慎重に慎重を重ねながら侵入しようとするが。

 

 

「そんなに警戒しなくても良い」

 

「私達はここに居ます」

 

 

 中庭の真ん中まで固まりながら進んだ瞬間、突如として大量の気配が俺達を囲うように出現し、元主の両親とシトリー家に忠誠を誓う手伝い共が、明らかに殺気立ちながら姿を見せた。

 

 

「お、お父様にお母様……!」

 

「ご苦労だったねセラフォルー……。

匙元士郎ばかりか兵藤一誠まで連れてきてくれるとは」

 

「これなら事は早く済みそうです」

 

 

 そう言いながら俺達を見る元主の両親。

 どうポジティブに考えても歓迎の類いはない。

 

 

「理由は察する。

俺達のせいで自分の娘が最下層送りにされた恨みか?」

 

「そう取って貰っても構わない」

 

「アナタ方は逆恨みだと思うでしょうが」

 

 

 石像みたいな表情をする元主の両親が、俺と一誠と木場に視線を寄越しながら冷たく言い放つと、セラフォルー・レヴィアタンは困惑しつつも悲しげに叫んだ。

 

 

「どうしてこんな事を!」

 

「どうして……か。決まっているだろう、納得が出来ないんだよ我々は。

旧魔王派の反逆者であるカテレア・レヴィアタンは軟禁状態で済んでいるのに、何故ソーナは最下層に閉じ込められなければならないんだと」

 

「っ!? そ、そのカテレアさんは何処だよ!?」

 

 

 殺気立つ面子に対して、一誠と木場が何時でも動けるように重心を静かに落とす中、カテレアさんの名前を聞いた俺は、セラフォルー・レヴィアタンと一緒に元主の両親に向かって彼女の安否を問う。

 無責任に自由を束縛した状態であの人を生かしてしまった責任は俺にある……だから、俺なんかが理由で危険な目に逢わせたくは無いという本音を持っていた。

 

 

「主のソーナよりも、反逆者の一人を気にする転生悪魔……か」

 

「彼女は生きていますよ。

アナタ共々、ソーナの解放の取引材料ですからね」

 

「ぐっ」

 

「解放してどうするつもりだ? 恐らく解放した所で兄貴様に狂っているのは直らんぞ」

 

 

 元主を解放する事が目的な為に、カテレアさんは生きているらしい。

 くそ、俺はやはりどうしようも無いバカだ。

 失いたくないだの、トモダチだのと偉そうにほざいてるけど、具体的何にも守れやしなかった。

 

 

「それはキミ達の知るところでないし、カテレア嬢が無事と安心している所悪いが、誰も五体満足無事とは言ってないぞ?」

 

「っ!? て、テメェ!」

 

「そこまでです。少しでも不審な動きをすればこのカテレア嬢がどうなるか分かりませんわよ?」

 

 

 そう言いながら元主の母親は、縛られていたカテレアさんを見せつける様に転送用の陣で呼び寄せ、足下に転がしやがった。

 

 

「くっ……ぅ……!」

 

「カ、カテレアちゃん!?」

 

「こ、この野郎……!」

 

 

 力を封じられていたせいで碌な抵抗も出来なかったんだろう、中庭を一望出きるだろうテラスから俺達を見下ろしている元主の両親に乱暴に扱われているカテレアさんは傷だらけ。

 俺はそれだけで頭が沸騰しそうな怒りを覚え、元主の両親をこれでもかと睨み付ける。

 

 

「俺達が来たんだ。今すぐ元士郎の友人であるカテレア・レヴィアタンを解放しろ」

 

「例え魔王を相手にしても頭を垂れない態度……。噂通りだね兵藤一誠」

 

「頭を垂れろと? それで貴様達の気が済んでカテレア・レヴィアタンを解放するのであれば、喜んで額を地面に擦り付けてやるさ」

 

「いえ、別に構いません。それでソーナが解放される訳ではありませんからね」

 

 

 元主以上に無表情……恐らく内心キレ掛けている一誠との言い合いを耳にしながら俺はこんな時でも無力な自分が嫌になる。

 

 何時だって口だけだった。

 偉そうな事だけ一丁前に宣うだけで、具体的に為し遂げたものなんて一つも無い。

 

 

「そもそも最下層に送る事を決めたのは魔王達だろう。俺達がどうこう出来る話では無いぞ。(良いな、祐斗)」

 

「……。(わかってるよ一誠くん。

隙が出来たら僕達が暴れ、動揺した所を元士郎君に動いて貰うんだね?)」

 

 

 俺は無力だ。

 口だけの、ハッタリだけの役立たずだ。

 

 

「サーゼクス殿から気に入られている――いや、何故か顔色を伺われているキミの一言で直ぐ様解放してくれそうだと思うがね」

 

「それに、最下層送りになった元凶の赤龍帝はアナタの兄とも聞いてます」

 

「……。だから? 俺が貴様等の娘が進んで身を預けた兄貴様の弟だからという理由で、サーゼクス・ルシファーに頼んでソーナ・シトリーを解放させるように口添えしろとでも言いたいのか?」

 

「短絡的だがそうして貰いたい。

娘は――ソーナはキミの兄に洗脳されていたのだろう? だったら娘も被害者だ」

 

「っ!? ざけんな! そのせいで人間界が――俺達の街が危うく消滅しそうになったんだぞ! それを無関係な筈の一誠が尻拭いまでしたんだ! 被害者で済まされる訳が無い!」

 

 

 意見を通せる力も無い。

 今だって奴等の理不尽な物言いに吠えるしか出来ない。

 

 

「なら何故キミはそうしていられる?

リアス嬢の眷属である筈の木場祐斗君も、塔城小猫君もギャスパー・ウラディは何故自由だ? 主を裏切って逃げたからでは無いのか?」

 

「逃げた……ですか。

確かに見方によってはそうかもしれません。

けど、下僕の僕たちがいくら説得しても聞きもせず兵藤誠八を取り合っていたんです。

説得も何も既にありませんでした」

 

「そうだ……。何でもかんでもあのクソ性欲バカが正しいと信じてほざいて、与えられた使命すら放棄して遊んでた挙げ句、口を挟めば逆ギレするような相手に説得もクソもねーよ!」

 

「そうか……。じゃあ何故兵藤一誠は娘を助けない? キミなら可能だと噂では聞いているのに……。何故そこの兵士や騎士は助けて、娘達を助けない?」

 

 

 それが悔しい。

 話の通じない相手を下して、トモダチを助けられる事すら出来ない己がどうしようもなく滑稽に思ってしまう。

 

 

「アナタは赤龍帝を嫌っていた。

故に、彼を肯定する娘達も平行して嫌っていたから、助けようともしなかった……違いますか?」

 

「て、テメェ等さっきから勝手な事を……!」

 

 

 だからこんな奴に勝手な事を言われて、弱味を取られて……クソ!

 

 

「逆に聞くが、貴様等は溺れた魚を見て助けようと思うのか?」

 

「なに?」

 

「兵藤誠八がどんな生き方をしようが、それこそ貴様の娘とコカビエルからの宣戦布告を受けておきながら懲りずにヤッていようが、俺にとってはどうでも良い。

そんな奴等を――言った所で聞く耳すら持たない連中を何故俺が説得しなければならない? ハッキリ言ってやるよ――――道端に這えてる苔を間違えて踏んでしまった所で、俺には何の罪悪感も無い」

 

 

 だが一誠はそんな苛立つ俺に代わってただ無表情に、永遠に助けるつもりなんぞないと啖呵を切ると、隣で悟られない様に身構えていた木場とアイコンタクトを取り……。

 

 

「黒神ファントム!!」

 

「双覇の聖魔剣!」

 

 

 目にも止まらぬ速さで二人はその場から消えると、俺達を囲っていたシトリー家の兵隊を一気に片付けた。

 そしてその様子を動きに着いていけずに呆然と見ていた俺に二人は兵隊を薙ぎ倒しながら言った。

 

 

「今だ元士郎!」

 

「キミがあの人を助けるんだ!!」

 

 

 俺がカテレアさんを助けるんだ……と。

 

 

「っ……伸びろライン!!」

 

 

 それを聞いた俺は、弱い自分を今は忘れ、テラスの床に傷だらけで倒れるカテレアさん目掛けて大きくジャンプした。

 シトリー家の兵隊がそんな俺を打ち落とそうと手から魔力を放とうと構えるが。

 

 

「させないよ!」

 

 

 それを阻止したのは……痴女だけど強いセラフォルー・レヴィアタンの氷の力だった。

 一誠が薙ぎ倒し、木場が峰打ちで気絶させ、セラフォルー・レヴィアタンが凍らせて無力化させる。

 足の引っ張り合いなど皆無な連携に助けられている事に俺は感謝をしながら、伸ばしたラインでカテレアさんの身体を繋げて引き寄せようとした。

 

 

「そう来ると思ってましたよ」

 

「うっ、ラインが弾かれ――」

 

「子供に出し抜かれるほど、我々も間抜けのつもりはない!」

 

 

 だがそれを阻止してラインを切り刻んだ元主の両親は、飛び上がった俺に向けて氷と水の魔力を叩き込む。

 

 

「ぐはっ!」

 

 

 もろに腹へ二人の力が当たり、口の中に鉄の味が広がるのを感じながら俺は地面に叩き付けられる。

 

 

「ごほっ、げほっ……!」

 

「キミはまだ弱いと聞いているからね。

私達でもどうとでもなる」

 

「げ、元士郎……!」

 

「アナタは黙りなさい」

 

 

 一誠達との修行で痛みに慣れてるとはいえ、痛いもの痛い。

 たった一発でガンガンとする頭を振りながら、俺は立ち上がり……ふと一誠達が戦っている場所へと視線を向け――息を飲んだ。

 

 

「な、なんだ? あ、あの三人なのに、さっきから数が減ってない……だと?」

 

 

 ケルベロスを90秒で100体以上を黙らせた一誠が、銀牙騎士の木場が、魔王のセラフォルー・レヴィアタンが三人協力して戦っているというのに、黒い燕尾服と仮面の兵隊共の数がまるで減っておらず、次々と何もない場所から現れては、一誠達を囲うように足止めをしている。

 

 

「ウチの使いの中には実態のある分身を大量に作り出せる者が居てね、コカビエルを撃退したキミ達相手では力不足かもしれないが、足止めは出きる」

 

 

 そんな俺達の疑問に対して、シトリーの親父の方が得意気にカラクリを話した。

 

 

「チッ、数が減らないと思ったらそういう事か」

 

「なら僕達は元が力尽きるまで倒し続けるさ! 元士郎君が人質を救出するまでね!!」

 

「お父様にお母様……!

私はアナタ方の味方はもう出来ない。全力で戦わせて貰う!」

 

 

 どうやらセラフォルー・レヴィアタンも知らなかった力を持つ兵隊を抱えていたらしく、強くはないもののどこまでも邪魔をする兵隊を薙ぎ倒す三人。

 どうやら、カテレアさんはやはり俺が助けないといけないみたいだ……元々そのつもりだがな。

 

 

「キミを拘束すれば更に要求を通しやすくなりそうだし、三人を黙らせられる様だ」

 

「どうします? このまま投降しますか?」

 

「するかボケ……そっちこそさっさとカテレアさんを解放しやがれ……!」

 

 

 倒しては増える分身達を一誠と木場とセラフォルー・レヴィアタンに任せた俺は戦う覚悟を更に固めながら元主の――名前すら聞く気にもならない悪魔二匹を睨み付ける。

 するとそんな俺が気に食わなかったのか、それまで表情が冷たかった元主の両親は、若干だが表情を歪めた。

 

 

「ソーナを裏切っておきながら、そこまでして反逆者は助けようとするのかね」

 

「その気力があるのなら、ソーナが赤龍帝に堕とされた時何故救おうとしなかったのですか?」

 

「ふざけるな! さっき一誠の言った通り、テメー自身の意思で堕ちた奴の尻拭いはごめんだったんだよ!」

 

 

 飼い殺しなんかごめんなんだ、納得のいかない尻拭いなんてやってられるかと、あくまで見限ったと宣言する俺に元主の両親は更に顔を歪める。

 くそ、現役を退いたとはいえ、純血悪魔としての力で俺を越えるこの二人からどうすればカテレアさんを助け出せる……!

 

 

「勝手に魔王の命令を無視して、力を封じられて無抵抗なのを良いことに……こんな……こんな……ふざけるんじゃねぇ!!!」

 

 

 力を、進化の道を俺にも歩ませろ。

 誰に対してでもない……自分自身にそう命じながら、俺は小さく構えをとった二人に向かってもう一度飛び掛かる……フリをしてカテレアさんにラインを飛ばす。

 

 

「甘い。一度目で通じないと悟れない辺りは所詮は子供だな」

 

「ぐふっ!?」

 

 

 だが虚しく、簡単にラインを消し飛ばされた。

 

 

「アナタを人質にすればあの二人も大人しくなるでしょう……」

 

「がはっ!?」

 

 

 そして攻撃もあっさり見切られ、突き出した拳を掴まれた俺はボディと顎に鈍い痛みを感じながら吹き飛ばされ、地面に叩きつけられる。

 

 

「ふむ、セラフォルーがヤケに拘る理由は定かでは無いが、キミはやはりあの面子の中では弱い様だな」

 

「確かにソーナを押さえ付けられる程度には実力はある様ですが、そこまでですね」

 

「げ、元士郎!」

 

 

 言われなくなくたって、そんな事は自分が一番自覚してる。傷つけられたカテレアさんにまで心配されてる時点でどうしようもなくな。

 

 だが俺は学んだんだ……。

 諦めの悪さを……往生際の悪さを……!

 

 

「だ、だったら何だよ……。

俺の友達が、俺の為に身体を張ってるんだ。折れる訳にはいかねぇよ……!」

 

 

 何度倒れても這い上がるコカビエルやフリードの様に、死にかけても決して心は折れない、折らない!

 受けたダメージにより、折れた肋骨と潰された内蔵による激痛を無視し、何とか立ち上がった俺は手足を縛られて地面に伏すカテレアに必ず助けると一瞬だけ強がった笑みを見せながら、元主の両親に啖呵を切る。

 すると、それまで冷静に見えた元主の両親の表情は、それまで押さえ付けていた感情を爆発させるように大きく歪み、喚くように吐き出した。

 

 

「その必死さをどうして娘にも向けなかった? どうして赤龍帝に堕ちていく姿を見て助けようとしなかった!」

 

「こんな反逆者に何故そこまで!!」

 

 

 悔しそうに叫ぶ元主の両親に、俺は今になって悟った。

 あぁ、そうか……この二人は俺が裏切った事よりも、性欲バカに娘が堕とされた事が悔しかったんだと。

 眷属だった俺が助けずに自分だけ無事なのが許せなかったんだと……。

 

 

「どうしてソーナに対してそこまでの覚悟を見せてくれなかったんだっ!」

 

「こんな女に……反逆者に!」

 

 

 だからこんな真似までして、元主を解放しようとしたんだと。

 そして――

 

 

「貴様も私たちと同じ苦しみを味わえ!!」

 

 

 動けないカテレアさんの身を貫こうと、抜き手をしようとした姿を見た俺は悟ったんだ。

 

 

「っ!? や、やめろぉぉぉっ!!」

 

 

 

 

 

 

「げ、元士郎……ごめん……な……さ…い」

 

 

 

 元主を裏切った俺に対する復讐なんだと……。

 目の前でカテレアさんの身が貫かれる姿を見せられた俺は、目の前が血の様に真っ赤に染まった。

 

 

 

 

 

「くそ、本体は何処だ!」

 

『キリが無いよ! 元士郎君を援護にもいかせてくれないなんて!』

 

「くっ、この、どいてよ!!」

 

 

 次々と無限に現れる分身をなぎ倒していく一誠と祐斗とセラフォルーは、未だに見つからない本体に苛立っていた。

 壁の様に次々と現れては自分達を取り囲む仮面を着けた燕尾服姿の男のせいで動けない中、三人は元士郎の気配の変化に気付いてしまう。

 

 そして……異常なまでの力の膨張も……。

 

 

「こ、これは……!?」

 

『元士郎君……なのかい?』

 

「こんな怖い元士郎くんは初めて……」

 

 

 それがどういう意味なのか等三人は直ぐに理解した。

 元士郎が進化をした事も……そして、その進化が危うい事も……。

 

 

 

「ごめんなさいごめんなさいごめんなさい! 俺の、弱い俺のせいで!」

 

 

 シトリー卿により致命傷を負わされたカテレアを我すら忘れ、がむしゃらに飛びかかって奪い返した元士郎は、震える身体で腹部を貫かれ、血の気が引いていくカテレアを抱き締めながらただ子供の様に謝っていた。

 

 

「弱いせいで……俺が弱いから!」

 

 

 最初は偶然が重なってしまっただけの関係だと思ってた。

 けれど元士郎にとっては間違いなく一誠達と等しくカテレアも友だと思うようになり、何時からか唯一の連絡手段の文通が楽しみだった。

 

 

「っ……う……げ、元士郎……」

 

「ぁ……か、カテレアさん……」

 

 

 確かに一誠のマイナスさえあればカテレアを復活させることは可能かもしれない。

 けれど結局それは一誠頼りで自分の何の成長もしていないと自分で暴露しているようなものであり、腹部から血を流すカテレアを守れなかった現実は否定しようもない事実だった。

 

 

「あ、謝らないで……アナタに救われなかったら、あの会談の時に死んでいたんですか、ら……」

 

「ううっ……!」

 

 

 けどカテレアは元士郎を恨まなかった。

 いや、寧ろ無力さに失意して泣く元士郎の頬を力無く笑って撫でている。

 

 

「力を制御、されてた……とは、いえ……私は、アナタと、知り合えた……ごほっ! 知り合えた日以降、確かに幸せでした……」

 

「も、もう喋らないでよ! 喋ったら体力が……!」

 

 

 止まらない出血により、血の気が更に引いていくカテレアに元士郎は喋るなと叫ぶが、カテレアは元士郎を安心させるようにと努めて微笑み、喋るのを止めない。

 

 

「あ、ありがとう……元士郎……。

わ、私……アナタの事が………………」

 

 

 ニコリと……。

 最期の最期にレヴィアタンとしてではなくカテレアとしての笑みを浮かべ……彼女は事切れた。

 

 

「…………」

 

「か……ぁ……う、わぁぁぁぁっ!!」

 

 

 一誠がいる以上確かにカテレアの死は否定できる。

 しかし自分の無力さのせいだ、カテレアが目の前で殺された現実だけは否定できない。

 その現実は元士郎に重くのし掛かり、がむしゃらになっていた元士郎に殴られて口から血を流していたシトリー夫婦は無慈悲に口を開く。

 

 

「娘を裏切った復讐はまだ終わらせない。次は貴様自身の身で償わせる」

 

 

 そう言って殺意と魔力を放出させるシトリー当主。

 

 

「……ろ……す……」

 

 

 だが、気付いてなかった。

 虎の尾を踏めばどうなるか……。

 一誠自身から誰よりも気質が自分に似てると評され、尚且つ一誠以上にある意味純粋で真っ直ぐなこの少年の本気の怒りを。

 

 

「殺してやる!」

 

 

 匙元士郎の持つ潜在能力を。

 本人ですら知らない領域が存在し、この瞬間元士郎の中にあったリミッターが壊され、急激に押し上げられるかの様に入り込んでしまった事を誰も知らなかった。

 

 

『強くなりたいか?』

 

 

 知らない声が聞こえた気がした。

 

 

(なりたい……強く、大事な人たちを守れる力を……!)

 

 

 元士郎は誰の声とも分からない……もしかしたら幻聴でしかない声に対してカテレアの身を抱きながら心で答えた。

 

 

『ほうあくまで他人の為か。

ふむ、よかろう……我は最早滅ぼされ、意識だけの存在だ。

故に我を宿した貴様の行く末を見てやろう』

 

 

 すると何か面白いものでも見つけたと、低い女性の声が聞こえた時……元士郎の中で何かが開かれた様な感覚がした。

 

 

『見せてみろ転生悪魔よ。

精々我を退屈させぬ事だな……』

 

「…………」

 

 

 そして声が遠くへと行ってしまったその瞬間……元士郎はカテレアの身をそっとその場に置き、ゆっくり立ち上がる。

 

 

「……?」

 

 

 先程まで取り乱していたのが嘘のように静かな元士郎にソーナの両親は訝しげな表情を浮かべながら様子を伺っていると、いつの間にか首にぶら下げていた『シルバーペンダント』を外し、装飾部分に小さく息を吹き掛ける。

 

 

「ふっ」

 

「何の真似――!?」

 

 

 勿論その意図が分からず、何の真似だと問おうとしたソーナの両親だったが、息を吹き掛けた後、天に捧げるかの様に頭上に掲げて一回転させた瞬間、沿って現れた赤い円陣に目を見開いた。

 

 

「なんだ、それは……!」

 

「…………」

 

 

 思わず声に出すシトリー卿。

 すると、俯いたままカテレアの血を服に付けたまま赤い光を浴びる元士郎は猛禽類を思わせる縦長に開いた瞳孔の瞳で睨みながら、二人に向かって宣言する。

 

 

「俺は匙元士郎でも……転生悪魔の兵士でも無い」

 

 

 降り注ぐ赤い光がほんの一瞬だけ閃光となって広がる。

 

 

「っ!?」

 

「なっ……そ、その姿は……?」

 

 

 閃光と共に一瞬の内に円陣から注ぐ光を浴びていた元士郎の身を覆う、禍々しきモノにシトリー夫婦は驚愕した。

 元士郎の全身を覆う黒き鎧に……そして、黒い鎧騎士は機械で加工された様なエコーの効いた元士郎自身の声で自ら名乗り上げる。

 

 

『我が名は呀――暗黒騎士……!』

 

 

 喰らえば喰らうほどに強くなる……匙元士郎が持つ黒の龍脈と何かが一体化した事により至った禍々しき黒狼にシトリー夫婦は抱くことの無かった恐怖を植え付けられた。

 

 

『アンタの言い分は解らんでもないが、言ってやるよ………糞喰らえボケが』

 

「「!?」」

 

 

 匙元士郎は燻っていた進化への扉を完全に開け放ったのだ。

 そしてその恐怖は……。

 

 

『滅せよ……そして、我が血肉となれ!!』

 

 

 一誠達の妨害をしていた者の分身体をその手に持った両刃の剣で一刀の下に切り伏せた後に植え付けられた。

 

 

「か、かぁ……!?」

 

『あぁ……アンタの力喰わせて貰ったよ』

 

 

 本体の首を掴んで吊し上げ、その力を喰らっているという姿を見せられて……。

 

 

「元士郎……なのか?」

 

『あ、あの鎧……元士郎君も僕と同じ……?』

 

「黒い、狼さん……?」

 

 

 苦戦していた分身が黒き鎧を纏った元士郎に一撃で葬られ、更にはその本体と思われる者を吊り上げながら無理矢理力を喰っている、暗黒騎士となった元士郎を目にした三人も驚愕する。

 

 

『一誠……』

 

「……。何だ?」

 

 

 祐斗が至った銀牙騎士と同じ狼の鎧。

 だがしかし何かが違うと感じ取った一誠に、帝王を思わせるマントを背に靡かせた元士郎こと暗黒騎士は両刃の剣を軽く降り下ろしながら、背中越しに話す。

 

 

『カテレアさんの事を……頼む』

 

「……わかった」

 

 

 眠るように横たわるカテレアの事を頼む元士郎に、一誠は悟る。

 レイヴェルがゼファードルにちょっかいを掛けられてるのを見て激怒した自分以上に、今の元士郎はカテレアを手に掛けた相手へ、そして守れなかった自分に激怒している事を。

 

 

「他人の死を否定する……か。

カテレア・レヴィアタン相手に使えるかどうか」

 

「え、ど、どうして?」

 

「……。そんなに万能でも無いんだよ、俺のスキルは」

 

 

 だから一誠は敢えて援護に回らずにカテレアの身柄を預りかり、精神を均一に戻す準備に取り掛かる。

 

 

「そもそも俺は、自分の死に対しては何度も否定して逃げたが、他人に対して執行した事が無いんだ。

………死が否定できたとしても、それが元のカテレア・レヴィアタンである保証がない……」

 

「そ、そんな……」

 

「……。いや、考えてみたら死はそれほどに重要で取り返しがつかないものだし……そうだよね」

 

「だがやれるだけはやってみる。

それか、位の昇格をした元士郎自身に――」

 

 

 最早元士郎は止められない。

 カテレアを一誠達に任せ、意識を失った三人を苦戦させた悪魔を投げ捨てた元士郎は、持っていた両刃の剣を地面に突き刺しながら静かに呟いた……。

 

 

『邪霊幻身……!』

 

 

 たった今奪い取った力を……。




補足

奪う神器だし……みたいな。
そんな理由でぶっちゃけてしまった。

つーかこの覚醒で完全に最強レベルになった元士郎君だった。


その2
カテレアさんが覚醒の引き金て……これヒロインやんけ。
うーん……今だかつてカテレアさんがこんなヒロインやってるネタはあっただろうか……。


その3
乱心しちゃった理由は

カテレアさんは最下層免れてるのに、ソーナが最下層は納得できないしどうであれ娘を見限った事に少なからず怒りがあった……て感じですね。


その4

幻実逃否でカテレアの死を否定は可能……かは不明。
理由は死を否定するという時点で自分の精神をかなりマイナス寄りにしなければならないのと、それを続けると今の自分が崩壊する可能性がある。
ので、まるっきりノーリスクでホイホイって訳でもないです。

なので、出来ない可能性もある。

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