生徒会長イッセーと鳥さんと猫   作:超人類DX

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……。ぶっちゃけ暗黒騎士が苦戦するか? と考えた結果ほぼ瞬殺でした。


暗黒騎士とカテレアさん

 闇に魂を捧げた男が居た。

 

 その男もまた、絶対的な力を欲した。

 

 母との約束を守る為に、それが間違いである事に目を逸らして。

 

 故に男は最後まで利用され、喰われてしまった。

 

 しかし男は、死の際に再会した師により光へと戻った。

 

 師の息子に力を呼び寄せる手伝いをし、その身を騎士の家系へと転生させた。

 

 それにより闇の力は消えた筈だった……。

 

 

『邪霊幻身!』

 

 

 しかしその力は、異なる世界に生きる少年の渇望と変異により再び出現した。

 

 

「こ、これは……!」

 

「ぶ、分身……?」

 

 

 友に救われ、自身の未熟さを自覚した時より力を求めた少年が居た。

 

 その少年は友に対する恩返しと、やり直す事により獲た大切な人達を守る為に渇望した。

 

 そして今、その少年は目の前で奪われた怒りにより暗黒騎士へと覚醒した。

 

 

『……』

 

 

 禍々しき鎧を身に纏い、一誠達を足止めしていた名も知らぬ悪魔の力を喰らう事で力を増した暗黒騎士こと元士郎は、自身を中心に数百もの分身を作り出すと、戦慄し動けなくなっていたシトリー夫婦を黒狼の鎧越しに睨みながら、両刃の剣の切っ先を突き付けながら小さく呟いた。

 

 

『その陰我、俺が喰らい尽くす』

 

 

 禍々しき暗黒騎士の処刑宣告。

 あらゆる力を喰らい、己の糧とする事で無限に力を増す禁断の力を得た元士郎は、戦慄する二人を獲物と標的を定め、自ら作り出した分身と共に襲いかかった。

 

 

「がはっ!?」

 

「ぐふっ!」

 

 

 それは最早数の暴力でもあった。

 実態のある数百以上の暗黒騎士の軍勢が、たった二人の悪魔を容赦なく蹂躙する。

 

 殴り付ける、叩き付ける、わざと致命傷を避けた斬撃を浴びせる。

 直ぐに楽にはさせないという怒りの念が元士郎から容易に感じ取れる攻撃に、シトリー夫婦も勿論やられているだけでは無く反撃しようとはした。

 

 

『…………』

 

「き、効いて無い……だと……?」

 

「そ、そんな……!」

 

 

 分身からの攻撃から逃れようと上空へ翔び、水氷の魔力が込められた力を少なくとも数百は分身している暗黒騎士目掛けて叩き込んだ。

 だが煙が晴れた先にあったのは、禍々しき眼光を放った無傷な暗黒騎士の姿。

 

 

「あ、あぁ……!」

 

「ひ、ひぃ……!」

 

 

 それは最早悪夢だった。

 たった一人の元人間の下級悪魔に純血である自身の力が一切通じないという現実は、無力さを痛感させるのと同時に、やがて恐怖へと変わっていく。

 

 

『テメー等は許さない』

 

 

 上空を見上げ、愕然とするシトリー夫婦を見据えた元士郎はそう呟いた。

 小さい声ではあったが、その声はハッキリと夫婦の耳に入り、恐怖により身を硬直させた。

 蛇に睨まれた蛙の様に。

 

 その一瞬の隙を元士郎は逃さず、重厚な鎧を全身に纏っているとは思えない圧倒的な速度で飛翔し、二人の背後に回る。

 そして――

 

 

「ぐわぁぁぁっ!?」

 

「ぎぃぃぃっ!?」

 

 

 赤き鮮血と共に二人の腕と脚をそれぞれ片方ずつ切り飛ばした。

 夫婦二人は痛みにより大きく顔を歪ませ、苦痛の声で叫ぶ。

 しかしその痛みすら苦しませてやる慈悲など与えんと、二人の頭を掴んだ元士郎は、隕石の落下の様なスピードで地面目掛けて落下すると、二人をそのまま叩き付けた。 

 

 

「か……あ、ぁ……」

 

「ひ……っ……」

 

『…………………』

 

 

 片腕と片足を切り飛ばされ、流れ出る血と地面に叩き付けられたダメージにより最早虫の息にすらなっているシトリー夫婦を獲物を喰らう狼そのものの瞳で見下ろす元士郎は、喰らう事で得た分身を消し剣を握る手に力を込めながら口を開く。

 

 

『終わりだ……。

娘と会えずにそのまま朽ち果てろ』

 

「ひっ、や、やめろ!」

 

『命乞いなんて聞く訳が無い。

俺がカテレアさんを傷付けるなと言ったのにテメー等聞かなかっただろうが……!』

 

「そ、それは――がふっ!?」

 

『それ以上喋るんじゃねぇよ……』

 

 

 力への渇望。

 カテレアを守れなかった無力感。

 そして奪われた怒り。

 その三つが今の元士郎の心境を支配し、それ故に声は冷たい。

 

 

『殺すだけじゃ済まさない――いや、殺してやる価値なんてテメー等には無い』

 

 

 だからこそ、殺して楽にしてあげる慈悲すら元士郎には無かった。

 

 

「ぎゃぁぁぁぁっ!!!」

 

「あぁぁぁぁっ!!!」

 

 

 永遠の生き地獄に落とす。

 それが暗黒騎士 呀となった元士郎の望みだった。

 もう片方の腕と脚を容赦なく剣により切断し、文字通りの達磨な状態にした元士郎は、苦しみと痛みに絶叫する夫婦二人を只冷たく見下ろしながら、鎧を解除した。

 

 

「殺す価値の無い奴は生まれて初めてだ……」

 

 

 水溜まりとなっている血をぐしゃりと踏みつけ、激痛とショックで意識を吹き飛ばしたシトリー夫婦を見下ろしながらそう吐き捨てた元士郎は、覚醒させた時に出現したペンダントを首に掛けると、そのまま踵を返し、ただ黙ってその様子を見ていた一誠、祐斗、セラフォルー……そして、眠るように穏やかな表情でセラフォルーに抱えられているカテレアの元へと戻る。

 

 

「…………。終わった、殺してやるやる価値は無かったから死んではないけど」

 

「う、うん」

 

「……。ふ、ククッ! アンタの両親をあんなザマにしたんだぜ? 恨めよ?」

 

 

 力を覚醒した喜びを一切感じない、表情で自嘲気味に笑う元士郎がセラフォルーを挑発した。

 だがセラフォルーは元士郎を恨む事無く、ただ辛そうに黙って首を横に振る。

 

 

「恨まないよ……恨む訳が無い。

私のせいなんだから……」

 

「………。そうかい」

 

 

 いっそ人殺しと責めて嫌ってくれた方がマシだったぜ……と思いながらセラフォルーの言葉に元士郎は目を逸らし、抱えられているカテレアに視線を向けると、一誠が安心させる様に元士郎の肩を叩きながら口を開いた。

 

 

「……。カテレア・レヴィアタンの死は否定させる事が出来た。だから大丈夫だ」

 

「ま、マジかよ……。ほ、本当に?」

 

「あぁ……苦労はしたがな」

 

「っ!? お、お前……その髪……!?」

 

 

 カテレアの死を否定したという一誠の言葉に元士郎の表情は動いた。

 そして感謝という言葉すら足りない感情を何とか示そうと一誠へ視線を向けた元士郎だったが、その瞬間変化した一誠の姿に息を飲む。

 

 

「否定出来るとはいえ、廃神モードにならなければ難しくてな……暫くはこのままだ」

 

 

 フッと笑み浮かべた一誠の髪が真っ白となり、その瞳は淀んでいる。

 それだけならまだ良かったが、今の一誠は一誠を知る者からすれば明らかに違うものがあった。

 

 

「何だその顔は? 別に気にするな、暫くすれば勝手に戻る。」

 

 

 覇気が無い。頼もしさが感じられない。気力を感じない。

 明らかに今の一誠は誰が見ても弱さの塊を人の形に集約したかの様な姿だったのだ。

 

 

「俺のせいだ……俺のせいで……」

 

「おいおい、そんな事言われたら廃神モードになった甲斐が無いから止めてくれよ。それに後悔なんて俺はしてないからな」

 

「だ、だが……」

 

「罪悪感を覚えるのであるなら、今度はちゃんとカテレア・レヴィアタンを守るんだ。良いな?」

 

「あ……お、おう! ありがとう一誠……」

 

「ん、それで良い」

 

 

 しかしその精神は一誠そのもので間違いなかった。

 真っ白な髪で違和感だらけだけど、ヘッと笑って見せるその姿は兵藤一誠だった。

 

 

 

 

 

 

 死に際というものを知らなかった私が最後に目にしたのは、敵である筈だった私を助けてくれた少年の泣き顔だった。

 

 だからその、元士郎に悪いけど、これから迎える死に恐怖は無かった。

 こんな私なんかを助けてくれてから過ごせた不自由だけど自由な日々は間違いなく楽しかったのだから。

 

 けれどどこまで行こうとも私は負け犬の旧魔王の血族だ。

 今更になって投降したとしても私をよく思わない者が多く居る事くらい、私だって分かっている。

 

 だから……私は来るべくして来た死を受け入れた。

 先に進む元士郎の心に私という存在を刻み込め、私は目の前に広がる闇へと自ら飛び込んだ……。

 

 

『おっと、そいう訳にはいかんなカテレア・レヴィアタン。貴様はまだ死なせん』

 

 

 筈だった。

 

 

『元士郎の友となった貴様を、元士郎が望まぬ形で迎えてしまった貴様の死をそのまま見送る事はしない。

故に否定する……故に逃げさせる、故に夢へと変化させる』

 

 

 薄れゆく意識……肉体から精神が剥がれていく筈の私に聞こえる元士郎を変えた少年の声。

 

 

『だから生きろ。

俺に足りないものを持った男を支える為にな……廃神モード・幻実逃否(リアリティーエスケープ)……全開』

 

 

 その声に私は呼び止められ、聞いた事もない言葉を確かに耳? に入れた瞬間、闇だった目の前が目映い光で照らさせる。

 そして気付いた時には――

 

 

「ぅ……?」

 

「!? カ、カテレアちゃん!」

 

「カテレアさん!」

 

 

 私の目に飛び込んで来たのは、私からレヴィアタンを取った変な女と、私を助けてくれた男の子の顔だった。

 

 

 

 

「わ、私は……? き、傷が無くなってる……」

 

「もう大丈夫だぜカテレアさん」

 

「元士郎……」

 

 

 重い身体を何とか起こそうとするけど上手く身体に力が入らず、安心しきった様な表情をする元士郎に抱えられている私は、死に際に受けた致命傷の傷が綺麗サッパリと消えている事に気付きつつ、私を此方側に引き戻したと思われる……何故か白髪になっている兵藤一誠の姿を視線で追っていた。

 

 

「アイツがカテレアさんの助けてくれたんだぜ? ……諸事情でイメチェン中だけどよ」

 

「みたい、ですね……。彼が私に死ぬなと言ってましたから……」

 

「え?」

 

「いえ、何でも……。

ふ、ふふ……確実に感じた死すら回避できるとは……私はやっぱりレヴィアタンに相応しき運の持ち主だと思いませんか?」

 

 

 コカビエルを倒した人間で、元士郎が慕う人間。

 なるほど……死すら欺く力を持つ時点で疑い様が無いのと同時に、サーゼクス達を倒すことすら難しい上に彼等まで控えていたという時点で初めから旧魔王派に勝ち目なんて無かった様ですね。

 あはははは……。

 

 

「身体は大丈夫ですか? 痛い所とか……」

 

「ええ、大丈夫です。

それにしても……その……」

 

 

 いえ、今はそんな事を考えても仕方無い。

 死により元士郎と語らう事も出来ないと思っていた私は今こうして、元士郎を間近に触れ合う事すら出来る。

 生きてきた中で、これほどに嬉しく満ち足りた気持ちになる事なんて無かったくらいに、私は目の前の男の子に惹かれてしまってる。

 

 

「……。何ですかセラフォルー? その微妙な顔は?」

 

「べ、別に……」

 

 

 私からレヴィアタンを勝ち取ったセラフォルーすら出し抜いてね。

 ふふふ、別に……か。嫉妬が隠しきれてませんよセラフォルー?

 

 

「むむ……」

 

「あ? 何だよその顔は?」

 

「いや、カテレアちゃんと近いなー……なんて」

 

「は?」

 

 

 ほらやっぱり。

 ふふ、何をしても勝てなかった私が、セラフォルーを悔しがらせている。悪くない気分です……。

 でもそれ以上に私は……。

 

 

「元士郎……」

 

「え、なんです――っ!?」

 

「あぁぁっー!?!?」

 

 

 レヴィアタンとは関係無く、元士郎が大好きだ。

 呆然とする元士郎の顔を引き寄せ、あの時とは違って唇同士を気持ちと共に重ねた。

 

 

「な、な、な、ななっ! 何を!?」

 

「あ、ごめんなさい。

その……下手、でした? 何分初めてと云いますか……」

 

「はい!?」

 

「ちょっと待ってよ! 私だってそこまでしてないのにカテレアちゃんだけズルい!」

 

「いや、ズルいも何もアナタのやってる事を考えたら私はまだマシだと思いますがね」

 

 

 真っ赤な顔して狼狽える元士郎を見て、私自身も顔が熱くなるのを誤魔化す様に、ショックで取り乱すセラフォルーを挑発する。

 自分からしておきながら今更ですが、恥ずかしいものですね……あはは。

 

 

「ふむ、助けた甲斐があったな」

 

「軽く修羅場になってるけどね……はは」

 

 

 

 

 元士郎とカテレアがキスをした場面を文字通り間近で見せられて思わず嫉妬してしまったセラフォルーだが、実の両親が暗黒騎士へと覚醒した元士郎に討伐された現実が残っていた。

 

 

「……。どうする? 切り落とされた手足を否定すれば元には戻せるが……」

 

「いや……今は良いよ。

アナタにそこまで面倒を見て貰う必要はないから。

ホント、何から何までアナタに尻拭いさせられでばかりだね」

 

「今回は事情が事情だしな……それは別に構わんよ」

 

 

 出血を止め、両親の命を繋ぎ止めるだけの処置を施す。

 最早この事件によってシトリー家の未来は決まった様なものであり、その家の出身である自分もどうなるか解ったものでは無い。

 だから魔王として実の両親の処遇をキッチリと下す覚悟を決めたセラフォルーは、遅れてやって来たサーゼクスとグレイフィアに事情を説明し、両親をレヴィアタン領の城に連れていくと伝える。

 

 

「多分シトリー家はこれで終わりだと思う……だからせめて殺さなかった元士郎君の意思通り、二人をソーナちゃんと同じ場所に……」

 

「いや待て」

 

 

 だがそれに待ったを掛けたのは、白髪になった一誠だった。

 

 

「何だい一誠君? なにかやり残した事が?」

 

 

 白髪になっている一誠に当初は目を見開いて驚いていたサーゼクスが、待ったを掛けた一誠に眉を潜めると、一誠は頷きながら、意識が戻り元士郎を見ながら恐怖に顔を引き吊らせていたシトリー夫婦を目にしながら口を開く。

 

 

「そんなにソーナ・シトリーの洗脳をどうこうしたいのであれば、廃神モード状態となった今、望み通りにしてやろうと思ってな」

 

「何だって?」

 

「ちょっと待てよ一誠! 何でそこまでするんだよ?」

 

 

 この言葉にサーゼクス達は目を見開いて驚いた。

 元士郎もまた同様にだ。

 

「言い方は悪いが、物の次いでだ。

俺もそろそろ、同じ顔をした男のせいでこういう事になるのは嫌なんでな」

 

「何だって? という事は……」

 

「あぁ……もし本物なら諦めて貰うが、兵藤誠八に洗脳された女達を元に戻す。

そして、兵藤誠八の今の姿を否定して――『元の姿』に戻す」

 

 

 右手に巨大な釘を。左手に巨大な杭を持った一誠がその言葉と共に地面に突き刺すと、廃神モードに措ける雰囲気の変化が手伝って実に寒気のする笑顔を見せながら、全てを終わらせると宣言した。

 

 その際、兵藤誠八の元の姿という言葉の意味が解らずに殆どが首を傾げたが、薄く口を半月の形にしながら嗤う一誠に誰もが圧されてしまった為、誰もその事について質問する勇気は無かった。

 

 

「だからソーナ・シトリーの両親よ安心するが良い。

貴様等の娘は正気に戻るかもしれんぞ」

 

「か、かもしれん……だと?」

 

「それはどいう意味、なんですか?」

 

 

 廃神モードによる弊害か。

 今の一誠は実に得体の知れなさの塊となっており、殆ど関わりの無いシトリー夫婦に、違和感だらけの笑顔を見せつけると、困惑している二人にその意味を教えた。

 

 

「洗脳をされてました、身体を許してました……なんて現実が一挙に押し寄せてきたら、人間ならその時点で精神が壊れるが……フッ、悪魔ならどうかな?」

 

「「!?」」

 

「わぉ、エグい……」

 

 

 解放によるリスクをアンバランスな笑顔で……。

 思わず元士郎は小さく他人事の様に一誠の言い方に対して突っ込んでしまうくらいに、今の言葉は衝撃を与えるのに十分なのだ。

 

 

「ま、待て! カテレア嬢にした様に、ソーナの身を元に戻すことは……!」

 

「私達はこの姿でも構いません! だ、だからソーナを……!」

 

 

 当然夫婦は切羽詰まった必死の形相で、手足の無い姿で懇願した。

 だが今の一誠は実にマイナスだった。

 実に負け、実に弱く、実に底意地が悪かった。

 

 

「良いぜ、洗脳された現実を否定する前のソーナ・シトリーが、俺に『助けてくれ』と言ってきたら、な」

 

 

 的確に相手の心をへし折る言葉を吐く。

 今の一誠は確実に過負荷(マイナス)だった。

 

 

「……!」

 

「コカビエルと戦った際、ソーナ・シトリーに『セーヤ君の邪魔をするな』……なーんて言われてたし、助けてくれなんて言いそうも無いがな」

 

「な、なに!?」

 

「おっと、だが最下層で暮らしている内に心境の変化があるのかもしれないし、一概には言えん。

……ま、左腕残しの達磨な兄貴様と最下層でも宜しくやってるようなら……希望もクソも無さそうだがな」

 

 

 

 終わり。

 

 

オマケ

 

 

 マイナス寄り化した一誠により、不安を煽られて震えるシトリー夫婦だったが、同じく妹を大事に思ってて複雑な表情を向けていたセラフォルーにだけ密かに一誠は耳打ちをした。

 

 

「……。ああは言ったが、アンタはまだソーナ・シトリーが大事なんだろ? 心配しなくても、本当に精神が壊れそうになったら処置はする」

 

「え?」

 

「……。別に俺は苦しむ姿を見る趣味もないし、アンタも元士郎の友人だからな……」

 

「あ、ありがと……」

 

 

 友人……。いや、恋人なんだけどなー……と突っ込みたい衝動に駆られたセラフォルーだったが、最低限のケアの手伝いはしてくれる事に内心ホッとした。

 どうであれ、ソーナはセラフォルーにとって大事な妹なのだ。

 

 

「さて、アナタ方の処罰は後程という事にしまして、元士郎君とカテレア……キミ達に提案がある」

 

「え?」

 

「何でしょうか? というか、グレイフィア・ルキフグスがアナタのお尻を後ろから触ってるのは何の冗談でしょうか?」

 

「気にしないでくれ、この女は病気なんだ……頭のね」

 

「「………」」

 

 

 ホッとするセラフォルーの横で、グレイフィアに尻を撫でられまくってる事に殺意溢れる表情を一瞬だけ向けたサーゼクスは、困惑する二人に向かって……どことなーく一誠の背後に君臨する人外の女性に対する欲望を孕ませたオーラを放ちながら提案とやらを話し出す。

 

 

「今回の事でカテレアはキミの傍に居た方が安全だと判断してね……。

で、もしよかったら今回の騒動の鎮圧に一番貢献したキミに魔王・ルシファーとしての褒美……という名目で匙元士郎君に特例で悪魔の駒(イービルピース)の生成可能な地位を与える事にした」

 

「はい?」

 

「……。元士郎は転生悪魔ですが……」

 

「確かにそうだけど、然るべき地位を持てば駒を持てるルールはある。

今回の事で匙元士郎君は暗黒騎士という、木場祐斗君と同じ例外中例外にて強力無比な力を覚醒させたし、実力はもはや最上級悪魔を越えている。

だから――」

 

 

 そう言いながら、何か打算的な笑みを浮かべたサーゼクスはチラチラと誰かにアピールしてますよと一誠にをチラ見しながらこう言った。

 

 

「キミがカテレアを眷属にするんだ。

そうすれば物理的にも立場的にもカテレアを守れるだろ?」

 

「「……………………は!?」」

 

「サーゼクスちゃん、それ私に喧嘩を売ってるんだよね?」

 

 

 唐突過ぎる話に面を喰らう二人と、一気に寒気のする無表情でサーゼクスを睨むセラフォルー……そして後からサーゼクスに抱き着くタガ外れのグレイフィア……。

 

 

「……。シュールだな」

 

「シュールだね」

 

 

 そのやり取りを眺めていた二人の少年は、ただただシュール過ぎる絵に入り込みたくは無かったのだという……。

 

 

「ちょっと待て! 駒なんざ持つつもりなんて無いし、そもそも持ったとしても、カテレアさんみたいな人が俺みたいなクソガキの下に付きたいなんて思うわけが――」

 

「……。元士郎……あの、その……元士郎とずっと一緒に居られるのなら私は大丈夫ですよ?」

 

「え!?」

 

「む!」

 

「元々私は捕虜ですし、今回で本来なら死んでいる筈でした。

だから……今度は文通じゃなくて……好きな時に好きなだけアナタと語らいたい……なんて……」

 

「お、お……う、うっす……」

 

 

 既に立てる様になっており、頬をほんのりと紅潮させながら元士郎の両手を握るカテレアに思わずドキッとしてしまう。

 またしても良い雰囲気に我慢できないセラフォルーは二人の間に物理的な意味で割って入って離すと、涙目で喚きだした。

 

 

「じゃあ私も元士郎君の下僕になる!」

 

「セラフォルーは王じゃないか……それは無理だろ」

 

 

 そう言いながらフッと笑うサーゼクスをセラフォルーをキッと睨む。

 

 

「何でサーゼクスちゃんは元士郎君とカテレアちゃんをくっつけようとするのかな!?」

 

「さぁ? 単なる偶然だろ……僕は別に誰と誰をくっつけようとなんて思ってないもの」

 

「ぐぬぬぬ!」

 

 

 すっとぼけるサーゼクスがチラチラと遠巻きに眺めていた一誠をチラ見する。

 ……いや、正確には一誠の背後に付く人外の女にだが。

 

 

「俺もっと強くなります。

強くなって、今度こそは絶対にカテレアさんを――」

 

「ふふ……そんな事を言われたら、嬉しくてどうにかなりそうですよ元士郎……」

 

「うぶ!?

お、おおっ……!?」

 

「あ!? ま、またカテレアちゃんは!! 元士郎君も何で抵抗しないの!?」

 

「し、知るか! な、何か知らないけど柔っこくて良い匂いがするからだよ!」

 

「だ、そうですが?」

 

「きぃー! 悔しいよぉ!」

 

 

 元士郎を抱き締めるカテレアに嫉妬しまくりなセラフォルー。

 レヴィアタンの称号の取り合いには負けたが、ある意味勝っているのは皮肉なのかもしれない。

 

 

「……。いい加減やめてくれないかキミ? 度が過ぎるようなら消すぞ」

 

「どうぞお好きに。アナタに殺させるのであるなら本望ですけど?」

 

「…………。チッ」




補足

カテレアさんは何とか復活しました……。
しっかしまあ……ヒロインやってんなぁ(近くのグレイフィアさんを見ながら)


同じ旧派だったグレイフィアさんは、サーゼクスさんに狂いすぎてセルフでセクハラまでし始める始末。
加えてひっぱたかれようがハァハァし始める。

ここに来てサーゼクスさんにとって究極の障害に覚醒しました。
多分シスコンが現れても興味なく……「邪魔、消えて」で終わらせるのかもしれない。


その2
廃神モード状態の一誠は暫くすれば戻りますが、この状態の時の底意地の悪さは半端無いです。


その3

元士郎君はこれにより一誠達と並びました。
そしてこれにより完全に冥界悪魔の中で名を知らぬ者は居ない程の有名人になりました。

 カテレア嬢を改心させたばかりか惚れさせた。
 セラフォルー嬢も骨抜きにした。
 悪魔の中二心を擽る暗黒騎士 呀。
 男の娘とロリ巨乳のどちらにもなるハーフ吸血鬼も惚れさせた。
 レヴィアタン丼。


 本人が聞いたら大騒ぎして否定する内容ばかりですがね(笑)


暗黒騎士 呀

元士郎の黒い龍脈と元士郎内にあった何かが力への渇望により共鳴し、融合した事に覚醒したこの物語の匙元士郎の力。

神器に措ける禁手化を遥かに越え、二天龍の覇龍――いや、無限の龍神すら喰らい尽くせる潜在能力があるこの鎧は、まさに他者の喰えば喰うほど無限に強くなれる。


加えて、祐斗やフリードと違って鎧自身のリミッターが常に外れているので、単純火力は二人を凌ぐ。

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