生徒会長イッセーと鳥さんと猫   作:超人類DX

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……。これでこの章は終わります。

次からある意味最終章です


二人きりのデート

 無限の進化は刺激を受けるとその速度を上げる。

 つまり、馬鹿の一つ覚えみたいに修行をすればするほどその力は増していくのである。

 

 それ故に、最近レイヴェルが知り合った若い純血悪魔の一人を相手にした修行は、俺に更なる進化をもたらしてくれるのだ。

 

 

「一誠様、こっちです」

 

「おう……誰にも後を付けられてる様子は無いぞ」

 

「ええ、雌猫共には特に細心の注意を払ってますから当然ですわ」

 

 

 が、俺も人間だ。

 修行をするのは好きだが、それ以上に好きな人とのんびりするのも好きだ。

 最近は色々と忙しいのと、互いの距離が近すぎてアレだったというのもあって時間が取れなかったが、今日はやっと時間が出来た。

 

 

「よし……なら行こうぜ」

 

 

 レイヴェルと二人で遊びに行く時間がな。

 

 

「ふー……上手いこと抜け出せた」

 

 

 餓鬼の頃はよく城を二人で抜け出し、街に行ったりして遊んだもので、折角冥界に戻ってきたんだし、あの頃を思い出しながら、なーんも考えずに遊びたくなった俺はレイヴェルにこっそりと誘い、今こうしてステルス抜け出しを見事に成功させた。

 

 最近は色々と他の者に関わったりして中々時間も無かったので、正直レイヴェルと二人だけで出掛ける事にわくわくしてたりする。

 

 

「さ、一誠様、何処に行きましょう?」

 

 

 何と無く落ち着くのと、可も不可も無いという意味で俺もレイヴェルも駒王の制服を着ており、城から離れた俺達は、先ずは何処に行こうかという相談をする。

 

 

「街にでも行くか、冥界に帰ってからまだ行ってないし」

 

 

 腕に組み付くレイヴェルに街に行きたいと伝えると、レイヴェルは嬉しそうに微笑みながらはいと頷く。

 ……。今更ながら、初めて出会った頃は寧ろ嫌われてたというのに、人生とは分からんものである。

 

 

「よっと、相変わらず軽いなレイヴェルは――原始的に飛ぶから舌噛むなよ!」

 

 

 それはそうとして、フェニックス領下の――俺達にとっては昔馴染みでもある街に行く方向に固まると、レイヴェルを横抱きに抱えたまま大きく跳躍する。

 

 飛行手段がこんな感じしか無いのと、転移魔法が出来ない故の、少々乱暴な移動方法だが、跳躍した時から見えるフェニックス領下の街を一望できるし、悪いことばかりでも無い。

 レイヴェルも嫌がってないしね……。

 

 

 

 

 雌猫さん達の出現や、お友達が増えた事で、最近は一誠様と二人きりのお時間が減ってしまった感は否めません。

 その事に不満を覚えてないのか……と言われてしまえば首を縦に振ってしまうのが私の悪い所ですが、今日ばかりはそんな我が儘な不満はゼロです。

 

 

「レイヴェル様よ!」

 

「キャー! レイヴェルさま~!」

 

 

 

「相変わらず人気だなレイヴェルは」

 

「……。昔はよく一誠様とヤンチャしてましたから……自然と覚えられてしまったんでしょうね……フフ」

 

 

 お父様の割りといい加減な税策のせいで、我がフェニックス領の税収は冥界全土でも激が付くほどに安い。

 それは……まあ、フェニックスの涙と呼ばれる我がフェニックスの血筋のみが生み出せる癒しの秘薬や、お母様の簡単な錬金術で生み出す貴金類を別領土に供給しているお陰で、一般悪魔家庭に於ける税収を『形だけ』に留めているからであり、自慢じゃありませんが、別領土からフェニックス領に移住したいという声は決して少なくはありません。

 

 だから昔から一般悪魔とフェニックスは妙に緩い距離感を保っておりまして……。

 

 

「あ、イッセー様も居るわ!」

 

「未来のご夫婦のご視察ね!」

 

「フェニックス領下の古参住人には見事に顔が割れてるな俺……」

 

「一応、一誠様の名を外に出すことは禁止を厳命してましたが、此度の事で一気に名が広まりましたからね……冥界全土に」

 

 

 妙な連帯感も強い。

 既に十年以上も冥界で暮らしていた筈なのに、名が全く広がらなかった一誠様の名にしても、フェニックス領の住人はほぼ知ってます。

 理由? それはお父様とお母様が『時が来るまで、我が息子である一誠の名前は口外しないで欲しい』と、一度何年か前に住人全員に通達したからです。

 

 お父様とお母様を支持しまくりな住人の皆さんは、子供から大人まで残らずそれを本当に守っていて、今まで一誠様の名前が広まらなかったのが何よりの証拠ですわね。

 

 まあ、この街に入れば誰もが一誠様を知っている訳ですが……。

 

 

「聞きましたぜイッセー様。若手悪魔の会合で、クジャラボラスの若造相手にレイヴェル様をお守りしたと」

 

「え? あ、あぁ……うん……あれは正直頭に血が昇ってしまったというか……」

 

「私は全然そうは思ってませんし、嬉しいので全然オーケーですわよ?」

 

「だってさ! 未来のご夫婦は相変わらずお熱いですなぁ?」

 

 

 小さな人間の子供が死ぬほどの鍛練を費やし、そして這い上がった姿を知る古参の住人さん達は特にイッセー様を支持しており、もはや種族の違いなんて全く気にしていない。

 今だって、小さい頃から私と一誠様に良くしてくださった初老の悪魔が、ニコニコしながら気まずそうに目を逸らす一誠様の背中をバシバシと叩いている。

 

 

「変わってなさすぎだろこの街のノリ」

 

「まあ、治めてるのがお父様とお母様ですから」

 

「……。実に納得できる理由だな」

 

 

 何処を歩いても感じる視線を受けつつ、時折手を繋いでみせれば、まるで人間の高校生みたいなノリで囃し立てる様な声を出す住人達に一誠様は苦笑いしつつ、街中を散策する。

 ちなみに犯罪を犯せばその時点でフェニックス領から追放されるので、犯罪率は奇跡の0%であり、外部から危険な生物が迷い込んで暴れようとしても、お父様やお母様が月に何度か開いてる『悪魔も簡単・護身術教室』にて簡単な防衛戦闘方法を仕込んでいますので、この領土に於ける戦力は、ノリの軽さとは真逆に結構凄い。

 具体的に述べると、小さな子供でも危険種の生物に対して精神的敗北を与えられる程度には。

 

 お陰で他の領土の方々や上層部からは『何時かクーデターを起こすかもしれない』だのと思われてるらしく、変人・フェニックス家という風評もあって、あまり良い顔はされてないというのもあります。

 まあ、サーゼクス様の安心院さん効果の胡麻すり行動のお陰で、表立って仕掛ける者は居ませんがね。

 

 

「ん? あれは何だ? 中学に上がって人間界で暮らす前に来た時は無かったぞ?」

 

 

 久々に一誠様とデート。しかも住人の方々からの祝福アリアリで実に充実した気持ちを抱きながら、散策を続けていると、とある建物を目にした一誠様が目を細めつつ足を止めた。

 一誠様がこの街に訪れるのは、人間界で中学生となる前なので、住人の方々のノリの緩さは変わらないものの、街自体は変化している。

 故に、今こうして誠様の眼前に立つ妙にキラキラと電飾で輝くお城の様な建物に首を傾げても仕方ないのです。

 

 

「はて……? そういえば前にお父様とお兄様達が建設に関わった建物があると聞きましたが、具体的に何を目的としたのかは聞いてませんでしたわ――いえ、教えてくださらなかったというべきでしょうか」

 

 

 ですが困った事に、私も実はこの妙にギラギラしたお城っぽい建物の詳細をよく知らないのです。

 今一誠様に説明した通り、お父様とお兄様が建設に一番関わっていた事だけは分かるのですが、それ以上は聞いても教えてくれずでしたので分からず、説明に困ってしまう私に一誠様は眉を寄せます。

 

 

「え、シュラウドのおっさんと兄貴達が関わってるのか?」

 

「ええ、何やら『回転するのが良い』とか『ガラス張りこそロマン』がどうとか……」

 

「は、何だそれは?」

 

 

 私もよくわかりません。

 出来たのはほんの二年ほど前で、その時点では『レイヴェルはあと二年経ったらな』とはぐらかされてしまいましたし……。

 しかし何でしょうね……似たような雰囲気の建物を人間界でしょっちゅう見た気がするのは一体……? と妙に周りの――特に大人の悪魔方がニヤニヤした視線を感じつつ一誠様と一緒になって眺めていると……。

 

 

「ふむ……入ってみるか? 気になってきたし」

 

 

 中が気になるご様子の一誠様に誘われた。

 

 

「はい、二年経ったら教えると言っておきながら、忘れてるっぽいですので、この目で見ておきましょう」

 

 

 勿論、断る理由なんてナノ程も無いので快諾しながら、ちょっと派手なお城に一誠様と共に入る。

 

 

 

 

 

【宿泊・ご休憩だけでも大歓迎!】

 

 

 

 

 という立て札が、真っ赤で目に良くない門を潜った後にベニヤ板が崩れて現れた事と……。

 

 

「お二人が中へ入りました……」

 

 

 小型無線機を手にした住人の一人が、誰かに向かって連絡している事に気付かずに。

 

 

 

 

 

 冥界・フェニックス城。

 朝っぱらから何やら大型モニターを凝視するフェニックス家の全員がシュラウドとエシルの部屋に集合しており、何やら異様な雰囲気を放っていた。

 

 

『お二人が中へ入りました……シュラウド様』

 

「来た! 来た来た来た来た! 来たぞ! 確変来た! フェニックス来た! フェニックス時代が来たぞ!!!」

 

 

 そして異様な雰囲気のまま、シュラウドの手元にあった無線機から聞こえる住人の声を確認した瞬間、部屋内のフェニックス達は一気にお祭り騒ぎになった。

 

 

「っしゃあ! 三年越しの計画が成功するぜ!」

 

「というか、人間界にもあったのに、結局そういう所は行けなかったのか」

 

「仕方ないだろ兄上。人間界の場合は大人にならんと入れん……特に一誠はまだ17だしな」

 

「全く、レイヴェルも一誠も世話の掛かる子です」

 

 

 特にシュラウドがバカに騒ぎ、フェニックス三兄弟がそれに続き、エシルはほのぼのとした表情で建物へと腕を組ながら入る実娘と確定息子の姿をモニターに眺めている。

 そう……一誠とレイヴェルが内緒で城を抜け出してデートに行ったなぞ、フェニックスの面々からすれば解りきった事でありお見通しだ。

 故に敢えて知らんぷりをし、泳がせた……。

 理由? それは決まってる……。

 

 

「ふぅ、黒歌嬢と白音嬢には悪いが、誤魔化すのは骨が折れたよ。

しかし……くくく、これでやっと孫の顔が見れるなエシルよ?」

 

「ええ、この三人の息子が中々見せてくれないせいでしたが、ふふ……」

 

「だってよ兄上。早く結婚したら?」

 

「え? いや、ライザーこそ早くすれば良いじゃん。ね?」

 

「どっちもどっちだろ。

まあ、俺は相手なんか要らねーし、独りの方が気が楽だがな」

 

 

 さっさとキメろ……そういう事だった。

 

 流石に中までは監視の映像は映さないものの、入った時点で勝利を確信したフェニックス家は満足しながら、帰ってきた時の二人を祝福する準備の為に行動を開始する。

 

 

「一誠が居ない……しかもレイヴェルも居ない」

 

「怪しい……シュラウド様達は『仕事を頼んだ』と仰ってましたが……というか、祐斗先輩とゼノヴィアさんも居ませんね」

 

「別に良いじゃねーか、仕事なら仕方ねーだろ。

そうは思わねーかギャスパー?」

 

「うーん……でも確かに怪しいかもです」

 

 

 子供達にバレぬよう……密かに。

 

 

 

 

 ……………………。不明な建物に入り、受け付けにどんな建物かを聞こうとしたらニコニコしながら鍵を渡され、その鍵のタグに刻まれた数字の部屋に行かされた俺達は、そこに来てやっと意味がわかった。

 

 

「薄暗いというのは本当だったんだな……」

 

「……。回るベッドも本当に存在したんですね……」

 

 

 いや、うん………流石に俺もレイヴェルも餓鬼じゃない。

 この建物が人間界のネオン街の一角に聳え立つソレの意味を持つ建物だって事ぐらいは分かる。

 分かるからこそ、俺は今腕を組みながら見事なまでの円状のベッドを凝視してるレイヴェルをまともに見れなかった。

 

 

「こ、こんなもんを作ってたのか、俺が居ない間に……」

 

「思い出しましたが、そういえばよくお父様とお母様がツヤツヤしたお顔で出掛けに帰ってくる事がここ二年で多くなった気がしましたが……これで合点が行きました」

 

「だろうな……クソ、やけに周りの連中がニヤ付いていた訳だ」

 

 

 部屋の入り口で立ち尽くすしか出来ずに居た俺は、思わず舌打ちをしてしまう。

 ハメられた事にじゃなく、此処まで誘導されて気付けなかった自分の間抜けっぷりにだ。

 

 

「………。出るか」

 

 

 だが分かった。どんな理由で立てられた建物かも分かったし、リアルに薄暗い空間だったのもわかった。

 だからもう出よう……これ以上この変に掻き立てられる空間いたら……隣で密着してくるレイヴェルに何か色々とヤバイ気分になってしまう。

 いや……そりゃその――アレだけど、こんな……アレでアレなアレでアレしたらアレというか――あぁ、もうアレしか言えてねぇし俺。

 

 

「ほら、出ようぜ」

 

 

 とにかく出よう。精神衛生的にとてもよろしくないし、出て新鮮な冥界の空気を吸って気分を変えよう。

 そう思って、密着するレイヴェルを連れて出ようとしたが……。

 

 

「レイヴェル……?」

 

「………」

 

 

 レイヴェルは全く動いてくれなかった。

 それどころか小さくうつ向き、組んでいた腕を緩めて俺から離れると……何を思ったのか、レイヴェルは部屋の奥へと進むと――

 

 

「あの、一誠様……少々汗ばんでしまったので、シャワーだけ浴びても宜しいですか?」

 

 

 もはや嫌味にしか見えないベッドに腰掛けながら、レイヴェルが上目遣い気味にそう懇願してきた。

 

「え、いや……こ、ここじゃないと駄目なの?」

 

 

 確かに俺も変な緊張のせいだ汗ばんでしまったし、レイヴェルもそうなのかもしれない。

 しかもましてやレイヴェルは女の子だし、常に気にしてる事を俺は知ってる……俺は別にどんなレイヴェルでも常に気にしてないが。

 

 だからシャワーを浴びて綺麗にしたいって主張は解る……解るのだが、此処じゃなくても確か近くに日本かぶれの悪魔の一人が経営してる風呂屋があった記憶があるし、そこで綺麗にしても良いんじゃないかなー……と俺は言おうと口を開き掛けたが――

 

 

「お、お願いします……そうじゃないとお恥ずかしくて一誠様に身を寄せられません」

 

「………う」

 

 

 その一言で俺は了承してしまった……バカなんで。

 

 

 

 

 ザーッと降りしきるシャワーの音と、空調の音が一誠の両耳に入る。

 

 

「…………」

 

 

 兵藤一誠は子供だ。

 口調がどうのこうのだとしても、一誠は子供だ。

 しかしそれでも精神は大人になっているので、こういう建物の意味はちゃんと知ってるし、ましてや小さい頃から共に居たレイヴェルとこんな薄暗い空間の……ましてやシャワーをスモークの張った扉の向こうで浴びてるともなれば落ち着きが無くなるのも仕方ない話だ。

 

 普段は人間界のボロアパートで一緒に住んでたとしても、場所が違えば心情も変わる。

 今の一誠の精神状態はまさにそれだった。

 

 

「……。くっ、TVでもつけて誤魔化すか……」

 

 

 レイヴェルの鼻歌まで聞こえ始めた頃にその緊張はピークに達した一誠は、全力でその精神から逃げようとTVをつけて誤魔化そうと、薄暗い部屋のベットのすぐ近くにあったTVに向かって手を伸ばし、スイッチを入れた。

 

 

「……ん?」

 

 

 しかしTVはつかない……。

 ボタンを間違えたか? と今度は別のスイッチをポチポチと押すが、どれも無反応だ。

 

 

「何だ……まさかコインを入れるタイプ……じゃないな」

 

 

 押してるうちに何かが起動した音が何度か聞こえたものの、肝心のテレビがつかない事に焦りのせいでイラつき出した一誠は、テレビを諦め、今度はこの精神衛生的によろしくない薄暗さを何とかしようと照明の調整が出来るスイッチを探そうとテレビから背を向け――

 

 

「~♪」

 

「なっ!? ななっ!?」

 

 

 絶句して固まった。

 

 

「~♪」

 

 

 気持ち良さそうにシャワーを浴びるレイヴェルの姿が、全身に渡って一誠の視界をジャックする。

 何のカラクリだか、最早この時点でまともに考えられなくなった一誠には到底分からない事だったが、どうやらテレビをつけようと適当に押してたスイッチの一つに、ここから浴室の様子を全面に映す仕掛けを起動させるそれがあったようだ。

 

 

「噂通り、無駄に広いですわねぇ……」

 

 

 しかしどうやらレイヴェルは気付いてないからして、マジックミラーの様なものが施されてるらしく、何時もの縦ドリルでは無くなりストレートの髪型になったレイヴェルの独り言に一誠はテンパったままテレビの近くにあったスイッチを押しまくる。

 

 

「く、くそ! は、早く戻れ!」

 

 

 しかし現実は一誠の思惑を嘲笑いたいらしく、どれを押しても元の壁に戻らない。

 それがますます一誠の精神をガリガリと削っていくのだが……。

 

 

「ん……はぁ……」

 

「!?」

 

 

 身体を解そうと両腕を上げながら伸びをしたせいで余計強調されるレイヴェルの胸に、それまで必死になってガチャガチャとやってた一誠の手は止まり、視線はレイヴェルへと釘付けになってしまう。

 

 

「まさかこんな施設を作るなんて、お父様達もアレと云いますか……でも一誠様と一緒は……フフ♪」

 

「っ……」

 

 

 そ、そのタイミングで俺の名前を呼ばないでくれ! とハッとして頭を振りまくる一誠。

 落ち着かない空間だからこそ余計に意識してしまう……ましてや幼少期から一緒で、最近はより女性らしく成長した女の子の肢体をノーカットで魅せられてるのだ。

 

 

「でも、一誠様はやっぱり私には何もしてくださらないのでしょうね。

私は……どんな事をされても良いのに……」

 

「ば、ばか……今それ言うなよ……! 色々と筒抜けなのに――」

 

「一誠様……。黒歌さんと白音さんが現れてから、私は少し寂しいです……」

 

「っ!?」

 

 

 その上、水に濡れた……一糸纏わぬ艶姿で本当に寂しそうな声で呟いた言葉に、一誠の中で何かが崩れた。

 

 

「……」

 

 

 もう良いや。

 一誠は自分の中でそう呟きながら、立ち上がると、ちょっと大股でレイヴェルの居る浴室の扉を乱暴に開けた。

 

 

「え? い、一誠さま……?」

 

「………」

 

 

 決して自分が入ってたり肌を露出している時は頑固なまでに何もしてこなかった一誠が入ってきた事にレイヴェルは驚いて目を見開き、思わず固まってしまう。

 

 

「きゃっ……!?」

 

「っ……ふー……ふー……!」

 

「い、いっせー……さま……?」

 

 

 固まるレイヴェルの腕を掴み、自分の服が濡れようが知ったこっちゃないとばかりに、そのまま浴室の壁に追い詰めるかのようにレイヴェルを押さえつける一誠の目は血走っていた。

 それはあまりにま初めての一誠というか、レイヴェルはそれでもドキドキしつつ、全身に込み上げる熱を感じながらされるがままになる。

 

 

「レ、レイヴェル……」

 

 文字通り何も着ていないレイヴェルの両足の間に足を割り込ませ、手首を掴みながら壁際に追い込む一誠は、頬を紅潮させる彼女の名を小さく呼ぶ。

 

 

「はい……何ですか一誠様?」

 

 

 それに対してレイヴェルは、一誠の精神状態が壊れてるのを敏感に察知し、敢えて優しく――包み込むような笑顔で返事をする。

 その表情はまさに母性に溢れており、精神状態キレかかっていた一誠の線を繋ぎ止めるに成功する。

 

 

「す、すまん……お、俺……」

 

 

 その笑顔で一気にのし掛かる罪悪感を覚えた一誠が、押さえ付けるようにしていたレイヴェルか離れて、叱られた子犬の様な顔で何度も謝る。

 だがそこはレイヴェル。黒歌と白音を遥かに凌駕するアドバンテージ故に、罪悪感で今にも自害しそうな顔で俯く一誠のを頬を撫でながら笑顔を見せると……。

 

 

「何時も冗談で言っていたつもりはありませんでしたけど、今一度言わせてください……。私は一誠様が大好きです、だから――私の事、一誠様のモノにしてください」

 

 

 ただ優しく、ただ包み込む様に、ただ慈愛を込めて。

 のらりくらりと逃げ、今また背を向けようとした一誠を後ろからがっちりと捕まえた。

 

 

「レイヴェル……レイヴェル……!」

 

「あ……♪ もう、一誠様は甘えん坊さんですね……ふふ、でも良いんですよ、そんな一誠様を私はずっと見てきたのですから」

 

 

 思わずといった顔で抱き締めてきた一誠を受け止めるレイヴェルは嬉しそうに目を細めながら胸元に抱いた一誠の頭を優しく撫でる。

 

 

「お、俺……」

 

「分かってます、一誠様が肝心な所でヘタレになられるのも、もう何年も焦らされてた身なのでよーくわかります。だから、今はこのまま何もしないで良いです」

 

 

 捨てられた犬みたいな顔をして自分の身体を抱き締める一誠にそう告げながら再び頬を撫で、安心させるように微笑むレイヴェルは、コツンと一誠の額に自分の額をくっつけると、優しく何度もキスをした。

 

 

「もっと大人になったら……いっぱい愛してくださいね?」

 

 

 

 焦らず、ゆっくりと猫姉妹にゃ負けてたまるかという気持ちと共に……さりげなーく更なる釘を刺しながら。

 

 

 

 

 ちなみにこの後、浴室を出てから半日はこの場所で一誠を膝枕したりで甘やかしたレイヴェルだが、一線を越えることは無くそのまま帰るのだった。




補足

レイヴェルたん命が行きすぎて、どっかの風紀委員長さんみたいに、相手を神聖視して自分を下に見る傾向がやや強い。

とはいえ、グレーゾーンですがね。


その2

フェニックス家は何時でも甥っ子か姪っ子・孫をウェルカムしてます。
つか、一家総出で外堀埋めまくる。

その3

何か妙に前より距離感がさらに近い一誠とレイヴェルたんの様子に猫姉妹は即仕事じゃねーと察した模様。

そして健全に手を繋ぎながら然り気無く帰還してきた木場きゅんとゼノヴィアさん。

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