生徒会長イッセーと鳥さんと猫   作:超人類DX

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暫く日常をやってやって……聖剣かな。


這い上がるのだ、男の子達!
閑話・休日の生徒会長と鳥さんと猫さん


 人間かつ部外者なので詳しくはわからないが、どうやらライザーの身に降り掛かったトラブルは解決したらしい。

 らしいのだが、果たして本当に解決したのだろうかと変に勘繰ってしまう。

 明確な言葉には出来ないが、何と無くという予感めいたものが……。

 

 

「遊びに来ました」

 

 

 そんな予感を残しつつ、取り敢えずこんがらがったライザーの婚約騒動が収束し、時はとある休日。

 学校の無い時の俺は実に年相応の過ごし方をしてる……と自分で思ってるつもりだが、如何せん友達があんまり居ないせいで何処かに出掛けるなんてことは少ない。

 故に休日は自動的に宿題するか鍛練するか……なのだが。

 

 

「帰れ雌猫」

 

 

 最近は家にレイヴェルが住むようになったので、寂しい独りぼっちの休日じゃなくなった。

 +これまた最近親交が深くなった塔城一年――じゃなくて小猫――でもなく白音が休日になると決まって我が自宅に遊びに来てくれるのでますます孤独な心は癒えていた。

 まあ、毎回白音が遊びに来るとレイヴェルと衝突しちゃうんだが――まあ、喧嘩するほど仲が宜しいという事で強くは止めないつもりだ。

 結局こんな言い合いをしててもなんだかんだで家に上げるしなレイヴェルも。

 

 

「ありがとうございます。お邪魔します」

 

「チッ……」

 

 

 ほらな。

 露骨に舌打ちしてるけど、なんやかんやで入れてる。

 しかしまあ、こんな狭くて安くてなアパートに女の子が来るだなんて……はは、俺も意外と捨てたものじゃないらしいぜ。

 

 

「ふむふむ」

 

「む、どうした? 本棚が気になるのか?」

 

 

 そんな白音は、せまっ苦しいアパートに住んでる俺を馬鹿にする事無く上がると、只でさえ狭い部屋の隅っこに置いてある近所のお婆さんから貰った本棚をしげしげと眺めてるので、何か気になるのか? とレイヴェルに淹れて貰ったお茶でほんわかしながら声を掛ける。

 すると白音は『いえ……』と前置きをしてから本棚の端から端までをジーッと見つめたまま口を開く。

 

 

「前に兵藤先輩の家に連れてかれた時、兵藤先輩の幼い頃のアルバムを見せて貰ったのですが……」

 

 

 そう何かを確かめたそうに本棚から俺に顔をむける白音。

 

 

「一誠先輩の幼い頃が写ってる写真が一枚たりとも無かったんですよ……」

 

「……………ふむ」

 

 

 金色に輝く白音の瞳から『なんで?』という純粋な疑問が言葉に出ずともハッキリ感じ取れる。

 つまり白音は何故あの家に現存するアルバムに俺の姿が一切無いのかと聞きたいらしい……。

 

 

「兵藤先輩の写真はありました……けど、一誠先輩の写真は一枚も……」

 

「兄貴と俺はクローンじゃないかというくらい似てるんだぞ? だからお前らが見間違え――」

 

「馬鹿にしないでください。一誠先輩とあの人の違いなんていくらでもありますし、見分けられます。

それにご両親も『写ってるのは誠八だけ』とハッキリ言ってました」

 

「………………ほぅ?」

 

 

 誤魔化そうとする俺にむっとしながらピシャリと言う白音にちょっとだけ嬉しく思ったのは秘密だ。

 うむ……白音の言う通り、あの家のアルバムには俺の写真は一枚もない。

 だがその理由を言った所で信じてくれるとはちょいと思えない。

 

 

 

 

 『奴が現れた途端、本来『俺が』写ってた写真の全てが奴にすり替えられていた』のだからな。

 

 

 

「もしかして、家出をした時に一誠先輩が写ってる写真を持って行ったのかと思い、それを確かめたくてこうしてアルバムがないかと本棚を……」

 

 

 なるほどね……それが今日来た理由だったわけか。

 ふむ……俺のアルバムなんて見て面白いとは思えんが、残念な事にそういったものは――

 

 

「残念でしたね塔城さん。

一誠様のお写真は冥界にある実家の母様のお部屋ですわ。

故に人間界(コッチ)にはありません」

 

 

 此処には無い。

 そう説明しようとした俺よりも早く台所から淹れたての紅茶をお盆に乗せて現れたレイヴェルが嫌にドヤ顔で説明してくれた。

 

 

「……。そういうことさ、残念ながら今は見せられんよ」

 

「むむ……」

 

 

 レイヴェル含めたフェニックス家も、もう十年以上の付き合いだ。

 兵藤家に現れた兵藤誠八に一度心を折られ、逃げた矢先に師匠である『なじみ』と出会い、そのなじみの悪平等(ぶんしん)である彼等に世話になりすぎた結果、兵藤家を出た後の軌跡は全てエシルおば――――じゃなくて『エシルねーさん』の部屋の本棚にあるって訳よ。

 

 なじみに勝負を挑んでボロッカスにやられた直後の情けない姿とか。

 ライザーと冥界紐なしバンジーやった時の姿とか。

 どうしてもと言われて撮った、レイヴェルを姫様抱っこした姿とかとか……まあ、5歳のあれ以降は皆フェニックス家やらなじみとのやりとりの一部を納めたものばっかりなのだ。

 

 

「見たかったのに……残念です……」

 

「ふふん、幼い頃の一誠様のお姿はそれはそれは……うふふ」

 

「……。微妙に恥ずかしいからやめて」

 

 

 たかが写真だというのにかなり残念がってる白音と、それを見てまた煽るレイヴェルにちょっとだけ気恥ずかしさ的な何かを覚えてしまう。

 あんな半人前にすらなってない頃の姿を見ても白音も面白くないと思うし、期待しなくても良いと思うんだ。

 まあ、どうしても見たければ別にいいんだけどさ……。

 

 

「一誠先輩の写真が何処にあるのかは分かりましたが、それでも不可解なんですよね。何で兵藤先輩の家には一枚たりとも……それこそ見切れてる写真すら無いのが」

 

「あー……親不孝者の俺の写真なんか取っといても仕方無いんじゃないのか? ほら、俺って兵藤の苗字名乗ってるけど実質勘当だし」

 

「それでもですよ……。

前に私と祐斗先輩がご両親に『一誠先輩の写真は?』と聞いたら物凄い空気が悪くなったから察しは付きましたが、それでも不自然過ぎると言うか……」

 

「ふん、だから何だと言うのですか? 貴女が不可解に思おうとも『それが現実』なんですよ」

 

「そういうことだ……」

 

 

 まさかあの『兄貴』について『5歳の誕生日を迎えた当日の朝に突然沸いて出て来て、さも当然のように肉親と宣い、周りもそれが当たり前ですの様に奴を認識してました』とは言えんし、勘当されて追い出されたせいで写真が無い言った方がまだ尤もらしい。

 なじみ曰く……

 

 

『彼はね、俗に言うと別世界からの『転生者』って奴だ。

どうも『何処かの誰か』が人生終了だったはずの彼の望むがままに、普通以下の容姿を一誠そっくりに作り替え、キミが本来持つべきだった力やポジションに成り代わっらせたらしいんだぜ?』

 

 

 と、兄貴についての情報を、何処から仕入れたのか良くわからんがペラペラと得意気に話していた。

 なのであの兄貴が突然沸い現れたというのも、アルバムの写真がすり替えられていたのも俺の誇大妄想じゃなかった訳だ。

 

 

「まあ、口にしてはいけないのだろうが、正直俺はこれで良いと思ってるよ」

 

「はぁ……」

 

 

 転生者ってのはピンと来ないが、兄貴とは明確な他人と確信出来てる気持ちを持てるだけストレスも貯まらないし、何よりあの体験があったからなじみと出会え、レイヴェルやライザー……フェニックス家と出会え此処まで来れたのだ。

 寧ろ嫌味とかじゃなく兄貴には礼が言いたい気分だよ…………まあ、あの催眠術じみた何かについては何とかならんのかとは思うが。

 

 

「色々と複雑なのは分かりました、なのでこれ以上は聞きません……。

私としても一誠先輩は一誠先輩ですし」

 

「ふっ、そういう言葉が一番救われるよ……ありがとな」

 

 

 これまた頂き物のガラステーブルを囲いながら、レイヴェルの淹れたお茶と手作りの菓子にパクつきながら雑談は進み、白音から一番言われて嬉しい言葉を貰った。

 お前はお前……何をしても完全な兄貴のお荷物として認識されてしまった俺にとっては一誠という一個人として見てくれる人は俗物な考えだが好きだ。

 

 そんな人達が居たから、諦めずに此処まで来れたから……。

 まあ、ただ――

 

 

「お礼ならキスをして欲しいですね。

それも激しく私を逃がさないとばかりなべろちゅーを……」

 

 

 異様に積極的というか、相手を間違えてないか? というか……そんなシレッと口にする言葉じゃないというか、それ言うとレイヴェルがというか――

 

 

「泥棒猫みたいな台詞しか言えないかしらね。

まったく卑しい雌猫が……」

 

「おやおや? 一緒に住んでる割りには余裕の無い発言ですね。

あ、何にもされてないからでしょうか? しつこい雌鳥で一誠先輩に女とすら見られてないから……」

 

「あ゛? 女らしい体型すらしてない貴女に言われたかありまんせわねぇ? まあ、貴女みたいなド寸胴でも好き者な殿方はいますし? 今すぐにでもそちらに尻でも振りになったらどうでしょう? 一誠様はご覧の通りですので」

 

「図星突かれてお怒りですか?

あー怖い怖い、一誠先輩……あの雌鳥が睨んで来て怖いのでこうして良いですか?」

 

「え……お、おい……」

 

「ふざけるな雌猫がっ! 一誠様は私だけの……!」

 

「ちょ……レイヴェルまで……!」

 

 

 あぁ、やっぱこうなった。

 俺も馬鹿じゃないつもりだし、レイヴェルも白音も俺に好意的なのは嬉しいのだが、喧嘩する度に引っ付かれるとアレなんだどな……。

 その……女の子特有の良い匂いがぁ……。

 

 

「私が一誠様のただ一人の女ですわ! 野良雌猫なんぞお呼びじゃない!」

 

「一誠先輩の意見は無視して女宣言とは……とんだお花畑脳の雌鳥ですね」

 

「あの……」

 

 

 だからこそ強く止められんというか……おぉぅ……ヒートアップしてるせいで気付いてないのかな……。

 さっきからキミ等のフニフニがめっちゃ当たってるというか……白音って決して無い訳じゃないというか……レイヴェルもこんな女らしいアレになって嬉しいと思えば良いのか解らんというか……あへぇぇ……。

 

 

 

 

 雌猫……。

 やはり気に食わない。

 一誠様に色目を使うのが特に気に食わないが、やはり彼女は私に似てる様な気がしてなお気に食わない。

 

 

「こうなったら、どちらが一誠様を満足させられるかハッキリとケリを着けてやりますわ!」

 

「……。良いでしょう、べろちゅーとセットで分からせてやる」

 

「駄目に決まってんだろうが! お前ら頭を冷やせ!!」

 

 

 だからこそ負けたくない。

 体型は勝ってるけど、それ以上に一誠様にご奉仕…………つ、つまり……え、えっちな事で勝れば――とちょっとした一誠様への願望を込みで勝負を仕掛け、塔城さんも好戦的な目で頷いたのだが、結構(決行?)する前に一誠様に拳骨をされて叶わずに終わってしまった。

 

 

「い、痛いです先輩……」

 

「な、なんで叩くんですか……」

 

 

 当然、その気満々だった私と塔城さんは頭を押さえながら部屋の隅っこに逃げて顔が真っ赤な一誠様を涙目で見つめる。

 どうせお嫁さんになるのだし、将来を考えての予行演習と考えれば良いのに一誠様はお堅い。

 

 

「お、俺は兄貴じゃないんだ……二人の女性を侍らせられる程デキた男じゃない」

 

 

 そう言いながら、変に前屈みとなって後ろを向く一誠様は妙に息を切らせている。

 はて……?

 

 

「? どうしたんですか? 後ろなんて向いて……」

 

 

 塔城さんも気になったのか、此方を一切見ない一誠様に近付きながら声を掛ける。

 ええ、人と目を合わさないで話をする一誠様は珍しいですからね……違和感を感じるのは仕方ないというより私もちょっと気になるので塔城さんと同じく近付こうとすると――

 

 

「い、いや何でもないから!」

 

 

 相変わらず壁へ向いたまま、切羽詰まる様子で何でもないと言っている……ふむ。

 

 

「何でもないって事は無いと思いますけど……」

 

「ほ、ホントに何でもない! た、頼むから1分……いや3分だけ俺を見ないでくれ!」

 

「は、はぁ……?」

 

 

 何を言っても何でもないの一点張り……。

 一誠様らしくない……うむむ、そんな態度をされると逆に気になってしまいますわよ。しかも何ですか1分だの3分だのと……でも待てと言われたら待たない訳にはいかないので、言われた通り3分程塔城さんと無言で会話しながら待ってると、何度か深呼吸をしていた一誠様が漸くお顔を見せてくれ、そして何故か私達に何度も頭を下げると。

 

 

「すまん……俺は最低だ……10発ずつ程本気で殴ってくれ」

 

 

 そして急に泣きそうな声と共に私達に殴ってくれと突拍子の無いことを……。

 

 

「は? な、何故?」

 

「意味がわかりません。

悪いことでもした訳じゃないのに殴れる訳が無いじゃないですか」

 

「いや、した。

直接じゃないけどした。

お前等の好意をぶち壊す事を……」

 

 

 好意をぶち壊す? ますます分からない……。

 一誠様は何もせず、寧ろ私と塔城さんの小競り合いにお付き合いしてくださったのだ。

 それがぶち壊されたとは思ってもないし、塔城さんも同じ気持ちなのか、急に態度が急変した一誠様を不思議そうに見つめている。

 

 

「精神修行が足りなかったばかりに……すまん……すまん……」

 

「「?」」

 

 

 うーん? 詳しく言いたくないせいで全然わからないけど……どうやらご自身の修行不足に嘆いているのでしょうか?

 しかし何処でそれを感じたのか……ええっと確かさっきまでの行動は私と塔城さんが一誠様にひっついて……その後急に私達から離れて前屈みになりながら後ろを向き―――――あれ? 確かその時の一誠様は下腹部辺りを―――――あ!

 

 

「あ……そういう事ですか」

 

 

 また腹立たしい事に丁度私と同じタイミングで結論に達した塔城さんを横目に目をあちこちに泳がせている一誠様をジーッと見つめる――――――のと同時に歓喜の気持ちが沸いてしまい自然と表情が緩んでしまう。

 

 

「…………」

 

「なんですか一誠先輩、そんな事で罪悪感なんて感じてたんですか? だったら言いますよ……全くそんな気分になる必要はありませんよ? 寧ろちゃんと反応してくれたって事実を知れて私は嬉しいです」

 

「塔城さんじゃあありませんが私も同じです。

寧ろそのまま私だけをこの雌猫に見せつけるようにメチャメチャにして欲しかったですわ……ぽっ」

 

 

 どうやら私達に密着された事により一誠様は……うふふ♪

 あぁ……どうしましょう……此処に来てちゃんと女として認識されてると分かっただけでお腹がポカポカしますわ……あは、あはは♪

 

 

「私は一誠様が大好きですわ。

だから、その様な死にたそうなお顔は止めてくださいな……似合いませんわよ?」

 

「私も一誠先輩が大好きです。

なので寧ろそのまま押し倒してくれても一向に構わなかったのに……」

 

「……。ま、まだ子供だろ俺達……。

それに俺は、兄貴みたいな甲斐性は無いし……」

 

 

 …………。あのオカルト研究部の部室で兵藤誠八とそれにすり寄る女連中のやり取りを見て軽くトラウマになってるみたいですわね。

 

 チッ……とことん余計なことばかりしてくれる……。

 カスの分際で一誠様の全てを奪い、催眠術よろしくに複数の女性を虜にして肉体関係すら持つのは勝手だが、そろそろ私の邪魔になり続けるなら一度『不能』にしてやろうかしら……。

 

 

「兵藤先輩の……? あぁ……そういうことですか。

チッ……余計なものを見せてくれましたねあの方々は」

 

 

 ……。ふん、どうやら塔城さんも同じ事を考えてたらしく、同じ眷属仲間だというのに小さく悪態をついている。

 全くとことん私と似てるわね……この雌猫は。

 




補足

どんなに突き詰めても彼も思春期の男の子なのさ。
しかたないよね、だって二人とも美少女だもん。


その2
一誠くんは、生徒会の仕事で訪れた際にオカ研の部室で兄貴達がギシギシしてたのを見てしまったせいか、無意識にトラウマってます。ほんのちょっとだけ。

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