兵藤誠八か。
今にして思えば実によく考えた名前だよ、自分で付けたのか、それともそう名乗る様に『誰か』に言われたのか……まぁどちらでも構わない。
「そう身構えなくても良いよ兵藤誠八。
俺は寧ろ貴様を解放しに来たのだからな」
「!」
見世物にされるのは気に食わんが、目の前の男にしてみればどちらでも良いみたいだし、とっとと始めさせて頂くとしよう。
「前置きも要らないし、こうして見ている者も居る。
最早お互いに話す事なんて無いだろう?」
「な、何をするつもり――っ!?」
俺は兵藤一誠。数奇な人生の果てに手に入れたこの幸福の為、兵藤誠八なる男に全ての清算をさせる。
その為にはまず、この悪魔達の目の前で兵藤誠八という人物が俺の双子の兄等では無い事をこの場で証明する。
「幻実逃否……貴様の全てを兵藤誠八
「!? ふ、ふざけるな! や、やめろォ!!!」
そう、進化させたこのマイナスで。
誰しもが息を飲む。
同じく罪人として穴倉に落とされたリアス・グレモリーやソーナ・シトリー達……兵藤誠八を愛したつもりでいた面子達も、そして見ていた他の悪魔達全ても。
「ぐ、あ……ぉ……がぁぉ!?」
「な、何よ……これ」
「セーヤ……くん……?」
リアスとソーナは目の前の現実に呆然とした。
穴倉から引き上げられ、目の前には裏切り者の元下僕と全ての元凶である兵藤一誠が魔王達や悪魔達が見ている中、自分達の前にいけしゃあしゃあと現れ、憎悪を向ける誠八に一誠が手を翳して小さく呟いた……まではよかった。
「ぐ、ぉ……ひぃ……!」
その瞬間、誠八は突如として左腕のみを残した哀れな姿で苦しみ始めた。
そして何が起こったのか、その後徐々に誠八の顔の皮膚が……いや、全身の皮膚がズルズルと崩れ始め……、
「はぁ……はぁ……はぁ……!」
誠八だった筈のその者は、リアスやソーナ達も知らない……全くの別人の容姿をした男へと変化していたのだ。
「ふむ、それが貴様の正体か……」
「く、て、てめぇ……!」
「おっと、声も別人か。くく、どれだけ自分を偽ったのやら……」
「だ、黙れ!」
くつくつと笑う一誠を『五体満足』となっている、少し小肥りのでまるで手入れもしていないボサボサした薄毛気味の男が殺意に満ち溢れた形相で睨み付けている。
「も、戻せ!」
「だから戻しただろう? 元の貴様に」
「違う! こ、これは転生前のであって、俺は――」
「おいおい、兵藤誠八―――いや、どこの何方さん。
いい加減自分を偽るのは止めたらどうだ? 貴様は俺の双子の兄でも無ければ、兵藤誠八でも無い……そして赤龍帝ですらな」
「くっ……」
「それに見ろ、ふふ、仮に貴様のリクエストに答えて元にとやらに戻した所で、くくく……果たして今の貴様を見てしまった連中が兵藤誠八と認識してくれるのか?」
「!?」
心底可笑しいと嗤いながら言う一誠の言葉に、誠八だった男は目を見開きながら、周囲を見渡す。
「魔王様の言った通り、姿形を偽っていたのか……」
「別人過ぎるだろ……変化の秘薬かなにかか?」
「リアス嬢もソーナ嬢も見事に騙されていたみたいだな」
「………!」
周囲の悪魔達の自分を軽蔑する声と視線。
そして……。
「だ、誰よ……あの人……!」
「セーヤくんは……」
「彼がその兵藤誠八ですよ……」
「現実逃避したい所悪いが、奴は一誠にそっくりに化けてアンタ達を美味しく頂いてたのさ……。
へ、実物はどうやら質の悪い引きこもりみてーな風体だったみたいだがな」
「う、嘘よ! アナタ達がセーヤを――」
「はいはい、そう思いたければそう思ってくれて結構だよ。それに、風体は変わっても兵藤誠八ではあるんだから、アンタ等ならお得意の愛とやらで愛せるんだから、問題ないだろ?」
明らかに今の自分を見て心底ショックを受けているリアス達。
「元士郎の言う通り、今の貴様でも奴等なら愛して貰えるのでは無いか? 何せ盲目なまでに貴様についていたのだからな?」
「ぐ……」
「だが、双子でも何でもない赤の他人の貴様が俺とそっくりな顔をされて余計な真似をされても困るんでな。
だから貴様の人生を返すついでに元に戻してやったのさ……コカビエルに持ってかれた手足も元に戻してやったんだ、文句は無いだろう? それに兵藤誠八と転生悪魔で無くなった今、貴様を処罰するという事も無くなったので晴れて釈放だ。
釈放されて人間界で生きるにしても、コネも無さそうな貴様がどう生きるか見物だな」
「ううっ……!?」
一誠の言葉に誠八だった男は狼狽え、リアス達にすがろうと近寄る。
だが……。
「だ、騙されないでくれ、あ、あいつが俺の姿を無理矢理――」
「!? こ、来ないで!」
「な、何故か急に……何でセーヤ君を好きになってたのか疑問に感じて……頭の中がグチャグチャに……」
元に戻るということは、補正、洗脳力もまた無くすという事であり、リアス達は目が覚めた様な表情と共に誠八だった何かを拒絶する。
「……!」
「あーぁ、まぁ散々詐欺師宜しくに周囲を騙くらかしていたんだから、バレたらこうなるもの必然だわな」
「よりにもよって一誠様の兄を語るからですわ。恥を知れ」
そんな誠八だった男に元士郎とレイヴェルが冷めた顔で吐き捨てる。
「見たかい皆? 兵藤誠八と語っていた彼はご覧の通り、兵藤一誠の血縁なんかじゃあ無かった。
特殊なチャームでリアス達を自分の物にして好き勝手やり、勝手に自爆したのさ」
そしてトドメはサーゼクスによる悪魔達への説明。
これにより見ていた悪魔達はほぼ確定的に兵藤誠八は姿を偽って悪魔を利用し、そして弄んだ。
特に手足を失ったソーナの両親や、姉のセラフォルーは殺意すら滲ませながら誠八だった男を睨んでいる。
「つまり貴様は色々と詰んでいるんだよ、兵藤誠八だった者よ」
「っ……クソガァァッ!!!」
その状況を今一度一誠に指摘され、遂に逆ギレした誠八だった男は、全ての力を失っているというのにも拘わらず、腕を組んで堂々と立つ一誠に飛び掛かった。
「テメーさえあの時大人しく死んでれば、レイヴェルだって、黒歌だって白音だって、セラフォルーだって俺の物だったんだ!!!」
そして開き直ったとばかりに己の欲望を叫ぶ。
「冗談じゃありませんわ、死んでもあんな男のモノに何かなってたまりますか」
「でも、もし一誠先輩が居なかったらと思うとゾッとしますね」
「うん……あんなのに知らない間に洗脳されて好きに身体を――と思うとね」
「殺意しか沸かないよ……ホント」
身勝手な怒号にレイヴェル達は心底嫌悪する視線をしながら、軽く誠八だった男の無様な拳を捌く一誠を見つめる。
「レイヴェル達をモノ扱いとはな………ふん、やはり一度貴様には『二度とそんな気が起きない様に』心を粉々にしてやらんとならんようだ……な!」
「うが!?」
レイヴェル達をモノ扱いした事に怒りを覚えた一誠が、鍛えてない小肥り男となった誠八だった男の懐に潜り込み、ブリッジの体勢で男をルシファー城の高い天井スレスレまで跳ね上げる。
「うっ!?」
天井スレスレまで吹き飛ばされた誠八だった男は、浮遊感に恐怖を覚える間も無く、鋭い目付きをした一誠に身体が動かせない。
「うわ!? や、やめろ!」
「ふん、今更もう遅い」
今になって恐怖で命乞いをするも、殺気を帯びた表情を崩さない一誠に止めるつもりは無く、ブリッジの体勢から何度も誠八だった男を天井スレスレまで跳ね上げさせると……。
「俺の師匠から聞かされたお伽噺を貴様に見せてやる。
ある『風紀委員長』となった男の技をなァ!!」
5度目の跳ね上げを終えた一誠は、突如そう告げながら、天井まで跳ね上げた誠八だった男を追って大きく跳躍すると、空中で相手の首と片足を固定し、両腕は相手の後ろに交差するように無理矢理組ませ、そのままエビ反りになるようにクラッチし始める。
「あ、あれは……?」
その姿に固定された誠八だった男の全身から骨が砕ける音が城内全体を響かせ、口から夥しい量の血の塊を男が吐くのを、その場に居た全員は呆然としながら見ている。
「イヤン、一誠様の新技ですわ!」
「なんかえげつないね」
「あれ食らったらどうなっちゃうんでしょうね?」
「また強くなったのか……信じらんねぇ」
「僕達も負けられないね」
「うむ……体術もやはり怠らぬ様にしないとな」
一部、一誠の友人達の反応が少し違うが……。
「ぐごっ!?」
「先に言うぞ? 手加減なんかしない……」
バキバキに誠八だった男の全身の骨を砕いた一誠は、低い声で実質一度完全に殺すと宣言した後、血ヘドを吐く男へ続けざまに相手と背中合わせの姿勢で手足を固め、首を外側に無理矢理固定させると……。
「完璧弐式奥義・アロガント・スパァァァァァァクッ!!!」
そのまま勢いよく相手の頭と体を地面に叩きつけるように落下した。
尊大・傲慢な火花と叫びながら……。
「がばぁぁぁっ!?!!」
その技は殺意に満ち溢れた技だった。
「う……」
その技は、悪魔達ですら言葉を失わせる程のおぞましさがあった。
「……ご……が……ひゅーひゅー……ひゅ………」
その技は文字通りの必ず殺す技と書いた必殺技だった。
誠八だった男が地面に叩きつけられてたその瞬間手足……そして首はあらぬ方向へとねじ曲がってしまい、たった一度の技で誠八だった男は戦闘不能――いや、死を迎えてしまった。
「っ……と、なるほど……なじみの話に出ていた風紀委員長とやらが手こずったという話も本当らしい……中々身体にくる技だなこれは」
「………」
技を解き、全身があらぬ方向に捻曲がって息絶える誠八だった男を見下ろしながら、一誠は自身の身体に掛かった負荷に片目を閉じながら苦笑いを浮かべると、その手にいつの間にか持っていた巨大な釘を己の身に突き立て、反動ダメージを否定して逃げる。
「ふっ、心配するな兵藤誠八だった男よ……貴様は此処では死なん。
貴様が洗脳してきた女子達に対して貴様は何のケジメもしてないし、そもそも………ふふ」
白目を向きながら絶命する男から、恐怖に顔を引きつらせていたリアスとソーナ達へと視線を向けた一誠は、何時も越えた底意地の悪い表情で言った。
「検査させた結果……おっと、ここからは貴様が言ってやれよサーゼクス・ルシファー?」
「うん、全員ご懐妊だったよ。
父親は当然、そこで死んでる小肥りの男さ」
「っ!?」
絶望的な現実を……。
「え……え……?」
一瞬何を言われたのか理解できないという顔をするリアス達。
「まあ、散々避妊具無しでやってりゃあ、そうもなるわな」
そんなリアス達に元士郎が呆れた様にそう呟き……。
「おめでとうございます元主さん。
あの男との念願の子供が出来て……」
「ひっ!?」
心の底からの皮肉を笑顔で言いきるのだった。
「幻実逃否……さて、この男は今死を否定して強制的に復活させた。
この男のシンパである貴様等に言うことも最早何も無いが、精々この男との間に出来た子供を育てる事に専念でもするんだな……」
「う……ぁ……!」
「ちなみにだけど、僕は妹であってもお前の支援はしないよ。
父と母はどうだか知らないけどね」
兵藤誠八だった男……ご懐妊させエンド確定。
終わり
オマケ……
その後の兵藤誠八だった男がどうなったかなぞはどうでも良かった。
多分殺されてしまってるとしてもだ。
「ほれ、これがなじみの写真だ……変な事に使うなよ?」
「わかってるさ! うひひひ!」
サーゼクスに写真を渡し。
「何か久しぶりな気分な気がするので、レイヴェルに膝枕されたいと思う」
レイヴェル達とイチャイチャしたり……。
夏休みはまだ始まったばかりである。
そして――
「………。奴等を見て思う。
好意に対してのらりくらりじゃダメだと思うんだと。
だから――」
前回の怪しい宿屋。
「……。最後に聞くが本当に良いんだな?」
「当然」
「当たり前です」
「まあ、此処まで来たなら私も反対しませんわ」
兵藤一誠……覚悟の時。
嘘です
補足
という訳で皆ご懐妊でした。
あーこれから大変だー……
その2
なんて事があるから一誠は踏み込もうとはしないんですよね。
まあ……そろそろ彼女達に対してのケジメを付ける話が入りますけどね。
その3
何処かの世界の風紀委員長……一体誰なんだ……
その4
そう、次回からはこんな調子でなんと元士郎君がダブル・レヴィアタンととか。
木場きゅんがゼノヴィアさんと何かしたりとか。
一誠、レイヴェル、黒歌、白音が………とか。
ご懐妊されたアーシア嬢を浚おうと奴がやらかしたりとか……まぁ、そんな感じでありたい。