生徒会長イッセーと鳥さんと猫   作:超人類DX

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始まります。

両親については割りとあっさりです。


外からの依頼

 一誠には本来の肉親が居るのは皆知ってる。

 

 だがしかし、性欲バカのせいでその肉親から捨てられ、決着を付けた後になろうとも和解する気は無いらしい。

 

 後悔に苛まれた様子で夏休み最終日に人間界に戻り、一誠の自宅に集まっていた所にやって来た大人二人と対面した時の一誠はただひたすらに淡々と……。

 

 

「兵藤という名字はこの日本に400世帯程居る。

申し訳ありませんが兵藤さん、私とアナタ方は名字が同じだけの他人でしかないんだ。

戸籍上としても……ハッキリと」

 

 

 親子関係は無いと言い切り、絶望する二人をそのまま追い返した。

 別に庇ってるつもりは無いが、理由が理由にせよ、まだ幼かった当時にほぼ捨てられたも同然な扱いを受けたともなれば、確かに最早何もかもが遅い。

 

 

「心配しなくても良い。

アナタ達が苦しむ必要もこの部屋を出れば無くなる」

 

 

 だから一誠は最初で最後の孝行をしたんだろう。

 肉親の記憶から『己の全てを抹消させる』という、最初で最後の手心を。

 

 

「最後の幻実逃否(リアリティーエスケープ)

 

 

 一誠は二人の大人に使い、マイナスを完全消滅させたんだ。

 

 

「………」

 

 

 その時の一誠が何を思ったのかは知らない。

 全てを『忘れ』、子を生んだ現実を失い、性欲バカに騙された事も、一誠という実子にしてしまった事の全てを『無かったこと』にされた夫婦を見送った時の一誠の表情は石像の様に冷たかった様に見えたけど、その浮かべた表情がそのままだとは俺達は思えなかった。

 

 だからこそ俺達は『何があろうとも』一誠を裏切らないという決意を、言葉を交わすまでも無く全員が固めた。

 

 

 

 一誠という存在と、皮肉な事だけど、性欲バカの欲望によって集まった奇跡の面子である俺達だけは決して掴んでくれた手を離さない。

 

 

 

 

 

 

 最後のマイナスで終わらせた後の一誠。

 一学期の終業式にて正式にメンバーを揃えた生徒会の活動と滞りなく進んでおり、元々一誠一人でやっていた生徒会という事と、加入した面子が学園でかなりの人気を持つ者達ということもあって、以前よりも更に生徒会は象徴と化していた。

 

 

「紫藤イリナが……?」

 

「ええ、アナタにどうしてもと訴えています」

 

 

 だがそんな華やかさとは裏腹に、人外の世界にも踏み込んでいる生徒会はこの日、『ちょっとしたお話』という形でやって来た天界陣営トップのミカエルという天使を迎え集めたメンバー全員と共にミカエルの話を聞いたのだが、持ってこられた話はある意味で一誠達にとっては意外な話だった。

 

 

「紫藤イリナの話だというのは理解したが、何故アナタ程の者がわざわざ……?」

 

「彼女は一応我々の陣営の下部に位置する者ですし、今も我々側が身柄を抑えています。

アナタ方の活躍により、彼女達が『正気』に戻ったという話は既にガブリエルとコカビエルから聞いてましたからね」

 

「ガブリエル? と言うと確か、コカビエルを前にかなりテンパっていた女天使だったか? しかし活躍というのは語弊があると思うのだけど……」

 

 

 活躍というミカエルの言葉に、一誠達の表情は一斉に微妙なものになる。

 というのも別に活躍なんてしてないし、ハッキリと言えば向こうが勝手に自爆したのが原因だったので、活躍したと言われると首を傾げてしまうのだ。

 

 

「それと、神の不在について黙っていた事を今この場でゼノヴィアさんに謝りたかったという個人的な動機もあり、私が来た訳です」

 

「え……」

 

 

 ミカエルの視線が祐斗の隣に居たゼノヴィアへと向けられる。

 コカビエルの一件で浮き彫りとなった神の不在。元々神を信仰していたゼノヴィアはその事実に当初心が折れる程のショックを受けていたのだが……。

 

 

「い、いえ! ミカエル様が謝る様な事は何一つありません。

確かにショックでしたが、今はこうして仲間も居ますし、私なりに新しい『目標』が出来て充実してますので……」

 

 

 今のゼノヴィアはその心をきちんと立て直しているし、神の不在という現実を受け入れた上で新たな目標を持って生きている動機もある。

 故に丁寧に謝罪をしてきたミカエルに慌てながらも、ゼノヴィアはミカエルに言った。

 

 

「そうですか……。ありがとうございます、正直少しだけホッとしました」

 

 

 それに対してミカエルは少し安心したように笑みを見せた。

 どうであれ騙していた事に対して初めて許されたのだ。

 後は……。

 

 

「それで、如何ですか兵藤一誠君? 紫藤イリナと一度対面して戴けますか?」

 

「…………」

 

 

 一誠との関係についてを何とかしないといけない。

 コカビエルに土を付けた人間の少年、そしてそれに迫る勢いで力を付ける同世代の少年・少女達とは敵になるよりも良い関係で在りたいとミカエルは思っていた。

 

 

「勝手ながら調べた所によると、アナタと彼女は昔――」

 

「ちょっと待って貰えませんかミカエル様。

知ってる体で言わせて貰いますけど、紫藤イリナってのと一誠はもう大分昔に拗れてるんです。

だからそんな簡単に会わせる訳には――」

 

「匙さん。仰りたい事は分かりますが、一誠様の判断にお任せなさい。

私たちが口を挟める案件ではありませんわ」

 

 

 紫藤イリナについて一誠から前にチラッと聞いた事のあった元士郎が思わずミカエルに言ってしまう。

 しかし意外な事にそれを止めたのが、同じく聞かされてショックを受けていたレイヴェルであり、白音も黒歌も同じく黙って一誠の判断に任せろという目線を送ってきたので、元士郎は小さく『出すぎた真似をして失礼致しました』とミカエルに頭を下げ、会長席に座る一誠の半歩後ろに控えていた位置から更に二歩ほど下がって、心配そうな眼差しを送っていたギャスパーの傍らに立つ。

 生徒会としての地位は元士郎がNo.2だが、人外世界での仲間内ではレイヴェル・フェニックスがトップなのだ。

 彼女の言葉に逆らうなんて大それた真似は最初から無いし、言われた事も尤もな事だった。

 

 

「副会長が失礼した。

確かに紫藤イリナが俺と対話したいと言ったのだな?」

 

「ええ、彼女の保護者が直接聞いたので間違いありません。それと、あまり時間がありません」

 

「……? どういう事だ?」

 

 

 時間が無いと言われ、一誠だけじゃ無く全員が疑問を抱くと、ミカエルは重々しく口を開いた。

 

 

「正気に戻った紫藤イリナは、一度自殺未遂をしました」

 

「……。なに?」

 

「な、なんですって!?」

 

 

 自殺未遂という言葉に、それまで淡々としていた一誠の目元が僅かに揺れ動く。

 それは同様に『全くそんな行動を起こそうとしなかった』リアス達を知ってたので、一誠だけじゃなく祐斗や元士郎やギャスパーやレイヴェル、白音、黒歌も目を見開いてしまう。

 特に聖剣事件でコンビだったゼノヴィアは一番驚愕しており、思わず声が出てしまう。

 

 

「幸い取り押さえたので命に別状はありませんでしたが、報告によると彼女は兵藤誠八との件も去ることながら、それによってアナタを傷つけた事に多大な罪悪感を抱いてしまっている様です」

 

「…………………」

 

 

 かなり重い話に、全員が口を閉じてしまう中、一誠は目をスッと細める。

 

 そんな一誠の無言さに、後ろで控えていた元士郎達は、リアスやソーナ達とはまるで接点も無いからと思っていたが、考えてみたら一誠と紫藤イリナは元々レイヴェルよりも更に前に出会っており、しかも友だったんだと思い出す。

 

 しかももっと言えば――

 

 

「紫藤イリナを生かしたいのか?」

 

「……。全部全部とは言いませんが、兵藤誠八による被害を受けたとも言えますから。

それに、ゼノヴィアさんとコンビを組んだ相手が自ら命を絶ったとは私も言いたくありませんので」

 

「だから俺に『依頼』という形で接触した訳か」

 

「本音を言うと、私個人はアナタ方を恐れていますから……コカビエルを個人で下したアナタと事を構えたくは無い」

 

「なるほど、尤もな意見だ」

 

 

 一誠の初恋の人……なのだから。

 ミカエルの個人的な考えと共に紫藤イリナの現状を聞かされた一誠は、一度静かに目を閉じる。

 

 

「……。良いだろう、わざわざアナタは生徒会の象徴たる『目安箱(めだかボックス)』に投書してまで俺達に依頼したのだ。

会うだけ会ってはみよう…………但し、勘違いして欲しく無いが、別に紫藤イリナが自殺しようが俺はアナタ方に何をするつもりはない――それはわかって欲しい」

 

 

 ゆっくり開いた両目でミカエルを見据え、一誠は淡々と依頼を受理した。

 本来なら学園生徒専用の目安箱(めだかボックス)なのだが、わざわざ投書までしてくれたというなら無下には出来ない。

 

 紫藤イリナの為云々は横に置き、ミカエル自身の誠意にだけは応えよう……そう言外に告げた一誠は、紫藤イリナとある意味で本当の『再会』の決意をするのであった。

 

 

 

 

 

 

 そんな訳で依頼を受け、ミカエルを見送りした後の生徒会室の空気は――

 

 

「……………………………………。兵藤誠八だった男と幸せにやってるままの状態にしておいた方が良かったのかもしれないな……はぁ」

 

 

 一誠を筆頭にどんよりしていた。

 

 

「ミカエル殿が連れてくると行っていたが……………うっわぁ、また会うのか……」

 

「私も会って良いだろうか? 正気に戻った今ならちゃんと話せるのだろうし……」

 

「そうだな。寧ろ俺よりゼノヴィアの方が良いとすら思うぞ」

 

 

 というより珍しく一誠が一番精神的に弱腰になっていた。

 

 

「大丈夫かよ? 無理なら俺がハッタリでオラついて断ってきても良いぜ?」

 

「そうだよ、無理するのは良くないし……」

 

 

 椅子に深く座り、唸りながら天井を見上げる姿はレアだが、こんなレアは見たくないと元士郎と祐斗が気遣う様に言うが、一誠は二人に大丈夫だと告げながらだらしない姿勢を正す。

 

 

「てっきり俺は殺意を抱かれてるとばかり思ってたのだがな……」

 

「まあ、所詮彼のアレは洗脳だったのだし……」

 

「それに仲良かったんだろ? クズヤローが沸き出て来る前までは?」

 

「さてな……確かによく遊んでは居たが――――――む、先に言っとくぞレイヴェル? 俺は今紫藤イリナに何にも思ってないからな?」

 

「ええ、ええ、わかっていますわ一誠様。だからそんな捨てられる前の子犬みたいなお顔はしないでくださいな。………………………………ちょっとゾクゾクしちゃいますし」

 

 

 最後辺りレイヴェルがボソッと……母親の血を彷彿とさせる台詞を呟いたのを元士郎と祐斗の二人はバッチリ聞こえてしまうが、聞かなかった事にしようと目を逸らす。

 

 

「あのー……紫藤イリナって誰ですか?」

 

「あ、そっか、ギャーくんはその時まだ封印されていたんでしたね? 紫藤イリナさんというのはですね……まぁその認めたくは無いんですけど、レイヴェルさんよりも更に前に一誠先輩と知り合いなってた人で……」

 

「…………イッセーの初恋の人だってさ」

 

「へぇ~? ………………………え!?」

 

「だからそれも昔の話だぞ!? 若気の至りだ!」

 

 

 驚くギャスパーにすかさず今は違うと主張する一誠。

 これ以上蒸し返してレイヴェルに嫌われたら、それこそ今すぐ紫藤イリナよりも前に自殺してしまうとすら真面目に思ってる故の必死さが見える。

 

 

「それに俺はビンタまでされて完全に振られてるんだ、紛れも無く過去の出来事だ!」

 

「でもそれってアレに洗脳された後の話にゃ」

 

「そ、そうじゃないかもしれんだろ? 奴が出て来る前に既に嫌われてたとも……」

 

「そんな人なら今更謝ろうとしますかね? 自殺未遂までして」

 

「う、うむぅ……ま、まあ洗脳はされた後かもしれんけども。

というかその話は蒸し返さないでくれよ……レイヴェルに嫌われたら紫藤イリナよりも前に死ぬぞ俺は」

 

「嫌う訳無いですわ。寧ろ死んだら後追いしちゃいますわよ?」

 

「同意。生きてる意味が無くなります」

 

「当然私もにゃ」

 

「……。それを言われたら死んでも死にきれないぞ……」

 

 

 何にせよ、ある意味で本当の再会を前に一誠はどうするのか。

 それはその時が来るまで誰も分からないし――

 

 

 

 

 

 

 

「で、生徒会室の前で盗み聞きしてるのはどーすんだ?」

 

 

 その前に、先程から黙って盗み聞きしている気配二つについての話をどうにかするべきだったと、話も区切りが付きそうなタイミングで元士郎がめんどうそうに顎で生徒会室の扉を指しながらとっくに気づいていた全員に問う。

 

 

『っ!?』

 

 

 元士郎の声が扉越しに聞こえたのか、それまで盗み聞きをしていたと思われる気配二つが動揺した空気を放つが、今更遅いとばかりに元士郎が扉を開くと……。

 

 

「何か用っすか先輩方?」

 

「あ、い、いや……」

 

「そ、その……」

 

 

 復学したリアスとソーナだった。

 

 

「盗み聞きは良くないと思うんだが? そこの所どうなんですかね?」

 

「「……」」

 

 

 このまま逃げても取り押さえてやるぞ的な殺気を一誠とレイヴェル以外が放ちながら、床にへたり込んで小さくなるリアスとソーナを見据えると、一誠が特にどうとも思ってない顔で『取り敢えず中に入ってもらえ』と言葉は普通ながらも強制力満載に二人を迎え入れる。

 

 それはまるで、黒塗りの高級車に押し込められて事務所に連れていかれるパンピーのそれに近いものがあった。

 

 

「レイヴェル、お茶を出してやれ」

 

「はい一誠様」

 

「「………………」」

 

 

 ヤバイ、まずい、やらかした。

 ただでさえ今の彼らの気に触れたら実家どころか悪魔社会で落ちに落ちまくった名を更に落としてしまうのに……とつい出来心で盗み聞きしてしまった事を早速後悔してしまう二人の悪魔。

 

 しかし盗み聞きをした事で得た情報により、二人はレイヴェルがお茶を出す前に思わず言ってしまう。

 

 

「し、紫藤さんは少し特別扱い……なのね?」

 

「は?」

 

「で、ですから、会ったらそれなりのケアをするのでしょう?」

 

「………………。何が言いたいんだ貴様らは?」

 

 

 不思議な力であの洗脳男との関係をある程度無かったことにしたのは目の前の……洗脳した男が被っていた皮と同じ容姿をした男なのは知ってる。

 だがリアス達が無かった事になったのは、その男との関係により身籠った現実のみであり、その他の事は何も無い。

 というのに、同じ状況だった紫藤イリナに関しては聞いてた所じゃ会ってケアまでする予定だという。

 

 

「えっと、お二人とも? まさかとは思いますが、一誠君の最後の力を使って貰った上に、まだ何か求めるつもりなんですか?」

 

「「………」」

 

「いやいやいや、流石にそれは言い過ぎだぜ木場? いくらなんでも図々しいを通り越しちまうぜそりゃあ?」

 

「「………………」」

 

「おい、おいおいおいおい。やめろよその冗談は? え、ひょっとしてマジでんな事思ってるんすか?」

 

「「………………………」」

 

「うっわ、マジだぞこれ……」

 

 

 そのケアはどんなものかは知らないが、もしかしたらあの不思議な力を使って貰えるのかもしれない。

 そして今度は元々あの洗脳男が存在しない、順風満帆な生活をする現実にしてくれるのかもしれない。

 

 そう期待してしまったが故の沈黙に、全員が怒り云々を突き抜けて引いてしまった。

 

 

「あの、リアス先輩にシトリー先輩? それは流石に無いと思いますよ」

 

「孕んだ現実を否定して貰っただけでも破格なのに、接点もほぼ無かったイッセーにそれ以上は無いにゃん」

 

 

 勿論白音と黒歌も、諭す様にそれは無いと口にする。

 

 

「イリナは一誠と一応知り合いではあったんだ。それに今のはミカエル様からの依頼なんだぞ」

 

「………」

 

 

 ギャスパーは何も言わずにオロオロし、ゼノヴィアもイリナと一誠が知り合いだったからこそ成立しつつある話だと告げるが、二人は何も返さずただ無言だった。

 まるで親が折れて玩具を買うまで玩具売り場に居直る子供の様に。

 

 

「いやいやいやいや………いやいやいやいや! アンタ等それ本気で思ってるのか!? あり得ないだろそんなの!」

 

「だ、だけどそうすれば匙が戻って――」

 

「ねーよ! それがまずあり得ねぇ! 何で俺がアンタの下僕に戻るって事になる訳!? 木場もギャスパーも小猫さんもグレモリー先輩の所に戻って皆ハッピーってマジで考えてんのか!? ミジンコですらもっとマシな思考するわっ!!」

 

 

 すがるような目で見てくるソーナに即切り捨てる様に言う元士郎に、無言ながら祐斗と白音と……あのギャスパーすら頷いた。

 

 

「勘弁してくれよ。正気に戻って孕んだ現実が消えただけでも黒歌さんの言うとおり破格だっつーのに、あり得ねぇ……これは俺もビックリだわぁ」

 

 

 煽ってるつもりじゃなく、本気で引いたと呆れてしまう元士郎だったが、やはり元々はソーナ自身の兵士で更に言えば己に惚れていた事を薄々気付いていたのもあってか、思わずソーナはムッとなってしまい……。

 

 

「……。旧派で三大勢力会談を襲撃してきたカテレア・レヴィアタンはあっさり許す流れに裏工作した癖に……」

 

「ソーナ!!」

 

 

 地雷を踏んでしまった。

 リアスがギョッとして止めようとしたが、色々遅かった。

 

 

「あ゛?」

 

「あ……」

 

 

 呆れ顔から一変、世紀末覇者みたいな形相へと変貌させた元士郎に、ハッと自分の口を押さえたソーナだったが、最早手遅れだった。

 

 

「今の話はちょっと面白いっすね先輩? もう一度言って貰えませんか?」

 

「い、いや! 今のは失言――」

 

「んな事言ってねーだろ? おら、聞いてやるから言えやとっとと?」

 

「う……!」

 

「あ、あの……ソーナも言い過ぎたと思ってるから――」

 

「あ? 別に怒ってないっすけど? 確かに冥界に住む多くの悪魔さん達からしたら、アンタ達みたいな考えを抱くのは普通の事ですからね? でも俺が言いたいのは、それを出汁にして何訳のわからねぇ図々しさ発動しちゃってんの? って事っすよ」

 

 

 目の色が文字通り変化し、暗黒騎士の鎧を纏った時の禍々しい瞳となってカテレアの事自体じゃないと言う元士郎は、確かに元々はクーデターの真似までしたカテレアが今の悪魔達に宜しく思われてない事ぐらい承知していた。

 だが、それとこの二人の図々しさは別の話であり、もっと言えば元士郎は覚悟した上だった。

 

 

「今の悪魔さん達がカテレアさんを敵って認識して、殺せってんならそう思えば良いさ。

そうなれば俺はあの人の肉壁になって死ぬまで味方になるだけの事だからな。

ガキの戯言で我が儘ってんならそれでも構わねぇ……俺は何があろうとあの人の盾になる。だからどうぞ好きに思えば良い、だがな、その事とアンタ等のほざいてる訳の解らねぇ図々しさは別じゃないのか? え?」

 

「さ、匙……」

 

「………」

 

 

 皮肉な事だが、ソーナという初恋を完全に断ち切った事で覚醒した元士郎の一言に、ソーナは今になって心底後悔してしまった。

 

 洗脳されても匙を蔑ろにすべきでは無かったと。それはリアスとて同じであり、同等の覚醒を果たした祐斗に何とも言えない視線を送っていた。

 

 

「一誠はアンタ等の便利道具じゃないんだよ、分かったらとっとと茶ァ飲んだら帰ってください」

 

「「………」」

 

「僕からもお願いします。どうかこれ以上一誠君に尻拭いをさせるのだけは勘弁してください」

 

 

 それが頭でわかっていたとしても、リアスとソーナは急激なまでの進化を遂げる元下僕達を前に後悔しつつも『どうにかならないのか』という希望にすがりたかった。

 

 

「元士郎と祐斗が言うとおり、俺にはこれ以上貴様等に出来る事はない。

確かに現実を否定するスキルはあったが、それも貴様等に使ったのを最後に消滅した。

故にこれからは俺も貴様等もやって来る現実を受け止めるしか無いのさ」

 

「「………」」

 

 

 力を無くしたと言って諦めさせようとしてるのか、一誠が淡々と話すのも耳に入らず、二人はただ黙って俯くのだった。

 

 

終わり




補足

と、こんな感じで両親とは既に完璧に決別しました。

そしてイリナさんは……まあ、今マイナス消滅してるので若干イザコザがあるかも。

その2

前回の通り、身籠った現実は否定されたものの、及んだ現実はそのままなので叩かれに叩かれまくってるせいで、最早誰でも良いからすがりたくなっちゃってます。

ので、もう図々しいとか二の次っぽくなってます。

その3

カテレアさんが許されてる癖に……というソーナの言葉自体は匙きゅんもとっくに自覚してます。

それを覚悟で、それこそ敵となってしまわれようが彼はカテレアさんの為に強くなります。

 この思考回路が一誠君に『似てる』と言われる理由ですかね

………あれ、暗黒騎士なのに守りし者の手前じゃね?

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