生徒会長イッセーと鳥さんと猫   作:超人類DX

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お待ち―――してはないだろうけど、一応……。


第一歩

 劣悪な模倣を辞めたその瞬間、塞き止められて来たその異常性は決壊したダムの水の如く勢いで兵藤一誠を引き上げていった。

 その速度はまさに光そのものであり、誰にも止められやしない。

 

 マイナスを手放し、妨害するドラゴンを喰らう事で原点へと還った一誠はその性格も真逆であり、当然初めは本来に戻った一誠に対して元士郎や祐斗達は若干の戸惑いがあった。

 

 けれど結局はどんな性格だろうと一誠の根は変わっていないのが理解できれば何て事は無く、数奇な偶然が重なって集結した生徒会役員達は、本来に戻った一誠を会長と認めた。

 もっとも、休み明けにこの性格で登校したら違和感を持たれることになるのかもしれないけど、それは皆でフォローして今の一誠を認識して貰えるように努力すれば良い。

 

 

「今回のレーティングゲームの勝利者は匙元士郎様となります」

 

 

 過去の柵等を消し飛ばして……。

 

 

「王の匙君、並びに女王であるカテレア、ご苦労だったね。

リアス・グレモリーとソーナ・シトリーとのレーティングゲームはキミ達の文句なしの勝利だ」

 

「ハッ」

 

「ふん、いくら落ちぶれたところで、幻実逃否にすがろうとする小娘程度に遅れは取りませんよ」

 

 

 その一つが、容姿から出身から全てが造られただけの偽装であったかの兵藤誠八によってある意味被害者とも言えなくもないかつての元士郎と祐斗の主たるリアスとソーナとの完全なる決別への一手である、二つの合同チームのレーティングゲーム勝利だ。

 

 

「さて、ただ今妹達はそこで項垂れている訳だけど、何か言うことはあるかな?」

 

 

 つい最近昇格を果たして新人上級悪魔である元士郎と、唯一一人の眷属にて敵対していた旧魔王の血族のカテレア・レヴィアタンの二人が、多くの悪魔達に見せた圧倒的な勝利。

 小細工を弄する事も無く、ただシンプルに黒き狼の鎧を纏う元士郎と旧魔王の血族者たる強大な魔力を操るカテレアとの連携による正面突破による二人の王狩りは、ただただ観戦者達を納得させてしまう程の圧倒さであり、寧ろ数で多く上回っていた筈のソーナとリアスに対する評価が兵藤誠八の件を加えて余計に下がってしまっていた。

 

 

「最初はサーゼクス様も推薦するセラフォルー様も血迷ったかと思ったが、なるほど、上級悪魔として相応しき強さを持っている様だ」

 

「加えてあのカテレア・レヴィアタンを御せる器……。元々はソーナ嬢の兵士だったらしいが、素晴らしい」

 

「惜しむべきは転生悪魔という所だが、将来が楽しみだ」

 

「うむ、しかしそれに比べてリアス・グレモリーとソーナ・シトリーの体たらくよ……」

 

「サーゼクス様とセラフォルー様の妹というだけだった様だな」

 

「「……」」

 

 

 完全に真面目からぐうの音も出ない叩き潰され方をされて敗北したソーナとリアスの耳に入る落胆を通り越してあきれた声に二人はただただ俯く事しかできない。

 

 

「かの偽りの転生悪魔に溺れた挙げ句がこのザマとはな、シトリー家とグレモリー家も落ちたものだ……」

 

 

 ソーナとリアスだけではなく、その家の評判までも更に落としてしまった訳だが、ある意味その元凶となる兵藤一誠はといえば……。

 

 

「へーい、お疲れー! 良い感じでぶちのめせてたぜ二人とも!」

 

 

 リアスとソーナが周囲に叩かれて完全に戦意喪失状態だというのに、全くもってどうでも良い――視界にすら入れない様子でフェニックス家の面々達と堂々と現れ、二人を労っていた。

 

 

「おう、何かあっても困るから最初から飛ばして向こうのチーム全員をぶっ倒したぜ!」

 

「ま、私と元士郎に掛かればこんなものですよ」

 

 

 兵藤一誠とフェニックス家達の出現に、観戦者達が注目する中、魔王・サーゼクスは横に嫁さんのグレイフィアが居るにも拘わらず、何かを期待する様な眼差しで気安く話しかける。

 

 

「やぁイッセーくん! キミの仲間は強くなったね! これで約束通りにできそうだよ!」

 

「はぁ……」

 

 

 魔王が人間一人の手を取って、ものっそいニコニコと話し掛けているという時点で、周囲の悪魔達は既に兵藤一誠の存在を知っているとはいえ、どこか微妙な気持ちだった。

 

 

「何だか様子が違う気がするけどさ! 僕は気にしないよ!」

 

「あ、うん……」

 

「ところでさぁ、安心院さんは今日見に来てないのかな?」

 

「………………………」

 

 

 皆は知らないだろうが、サーゼクスの目的は一誠を介して安心院なじみと会いたいという、妻も子も居るのに別の女の尻を追い掛けたいが為の媚売りだった。

 イッセーは元士郎とカテレアと話がしたかったのに、割って入ってきてニコニコしまくるサーゼクスに若干引いてしまうし、そのサーゼクスの一歩後ろで安心院なじみの名前を聞いた瞬間、凄まじく嫉妬の念を飛ばしまくるグレイフィアに気付く。

 

 

「来ては無いし、確実に勝つと信じてたらしいから見てもない。

ところで、貴方の後ろの嫁さんが……」

 

「え? あぁ、コレ? 放っといて良いよ別に。ね、ね、それより安心院さんが姿を現す予定とか聞いてたら教えてほちぃ」

 

「ほ、ほちぃってアンタな……」

 

 

 まるで調教したいしされたい、変態芸人の必殺ワードみたいな事を宣うサーゼクスの安心院ストーカーのブレなささに改めて引いてしまう一誠に、シュラウドとエシルが助け船を出す。

 

 

「魔王様、お望みなら後日我々が彼女に予定を聞いて貴方様にお伝えしましょう。

それよりも、元士郎君とカテレアさんが勝利した事による約束事についてこの場で明言して頂けますかな?」

 

「偶然にも私、安心院さんのお写真を持ってますのよ?」

 

「なぬっ!? や、約束だからね!? そしてその写真は僕にくれるだな!? よっしゃあ!!! なら匙君! キミは何を望むんだい!!」

 

 

 チラッと懐から見せた安心院なじみがピースした写真を貰える気に完全になってしまってるサーゼクスが、鼻息荒く――後ろで嫁さんが地面の小石を蹴り壊しまくってるのにも拘わらず、圧されてる元士郎に問う。

 

 

「えっと、そこの元主さんとご友人さんには二度と我々にしつこく付きまとうのをやめさせて貰えたらと……」

 

「勿論だ! 何なら人間界の学校を退学させちゃう?」

 

「なっ!?」

 

「お、お兄様! な、何故!!?」

 

「あ? 黙れよ小娘共? 散々周りに迷惑掛けたあげく、イッセー君を兵藤誠八と同じだって? 自分で勝手に蒔いた種の尻拭いをそこまでして貰いながら図々しいとは思わないのか? 恥を知れ」

 

「そ、そんな……」

 

 

 妹のリアスに甘いサーゼクスとは思えない、バッサリ過ぎる言い方にリアスどころか然り気無く居たジオティクスやヴェネラナも絶句していると、元士郎と然り気無く手を繋いでるのを見てぐぬぬしていたセラフォルーも、ソーナに向かって言った。

 

 

「サーゼクスちゃんの言い方は乱暴だけど、私も同じだよ。

流石にいくら大事な妹のソーナちゃんでもこれ以上は見逃せない」

 

「お、お姉様まで……」

 

「嘘の存在に唆された所をここまで戻れただけでもありがたいと思うべきだよソーナちゃん?」

 

「「…………」」

 

 

 兄と姉其々に言われ、今度こそ完全に折れてしまったソーナとリアス。

 ちなみに他の者達は元士郎とカテレアの猛攻によって全員冥界の病院送りにされてしまったので不在だ。

 

 

「その辺にしてやれば良いと思いますよお二人とも?」

 

 

 だがそんな二人を宥めたのが意外にも一誠だった。

 

 

「む、だがキミ達に散々迷惑を……」

 

「色々あったけど、まぁ深く考えたら彼女等も俺みたいなものだしね。

何かにすがって忘れないとやってられないという気持ちはわからないでもないし」

 

「「!」」

 

 

 ほんの少し遠い目をしながら語るその言葉にリアスとソーナがハッと顔を上げる。

 そういえば妙に口調が軽いというか堅苦しくない事に今更気付くが、二人にそれを考える余裕は無かった。

 

 

「だがハッキリさせる所はさせる。

まず俺はもうあの時そこの二人とお仲間に使った様な手品はもう使えないから何とかしろと言われてもどうすることも出来ない……ってのを兎に角解らせて貰えますかね?」

 

 

 だがこの状況から救い上げられる訳じゃない。

 その現実が再び二人の心を突き刺した。

 

 

「それは勿論だ、過負荷を失ってるのは小耳に挟んでる。

こんな事で失わせたのは本当に申し訳ない、妹に変わって謝罪しよう」

 

「別に構いませんよ、寧ろ枷のひとつが取れてスッキリしましたし。

それよりももっと大切なのは、最早自立できた祐斗と元士郎とギャスパーと白音を自分達の眷属扱いして絡もうとするのはやめてやってください」

 

「そうだね、聞いた二人とも?」

 

「「………」」

 

 

 姉と兄までもがそれを認めてしまっている以上、認める他無い。

 ましてや既に元士郎は上級悪魔に昇格しているし、フェニックス家という後ろ楯まであるのだから。

 

 

「それが守れるなら、どうせ後半年程度だし、通いたければ学校に通っても良いんじゃないかと俺は個人的に思う。

なぁ、元士郎や祐斗、白音とギャスパーもそれぐらいは良いだろう?」

 

「まぁ、何かして来るなら返り討ちにできるしね」

 

「僕も異論は特にないよ」

 

「ぼ、僕もそれでいいです」

 

「私もおなじくです」

 

 

 かつて自分で手放した元・眷達の全員が頷いた。

 その瞬間、周囲の悪魔達から感嘆の声が上がり、サーゼクスとセラフォルーも頷く。

 

 

「わかった。けど何かあったら直ぐに言ってくれ、即座に冥界に連れて帰るから」

 

「流石にこうまで元士郎に叩き潰されたんだし、下手な事はしないと思いますけど、その時はお願いしますわ」

 

 

 こうして良い感じで落とし所を付けたレーティングゲームは閉幕したが、こんなオチでも特にソーナがまだ納得できないといった様子を休みが終わるまでずっと示していたらしいが、最早何をしようとも元士郎に手が届くことは無かった。

 

 

「ねぇソーナ、やっぱり彼に洗脳されてるとは流石に思えないのだけど……」

 

「そ、そんなのまだわからないじゃない! さ、匙は私が好きだった筈なのに……! あ、あんな女なんかに……それに私は接触すら禁じられているのにお姉様まで匙を……! こんなの何かの間違いよ!!」

 

「でもあの子達に見限られたのは私達自身の問題――」

 

「そうかもしれない! けど、その隙を突いてあの男が奪ったのは間違いないじゃない!!」

 

「………ソーナ」

 

 

 少しは自分の迂闊さを認めているリアスとは反対に、元士郎の進化を見てやっと手元に居ないと気がすまないと思い始めてしまったソーナはただただこの状況を呪っていたのだとか。

 

 

「勝ったんだ俺達、これでカテレアさんも堂々と生きていけるんだ……!」

 

「まだまだ色々とあるけどね。でもアナタが守ってくれるのでしょう?」

 

「勿論っすよ! 絶対に、何かあろうとも貴女を守れる男になります!!」

 

「ふふ、こんな年下の男の子に言われる日が来るなんてね……でも、嬉しいわ元士郎、ありがとう」

 

 

 そんなソーナの呪詛とは正反対に、柵破壊の第一歩を踏み出せた元士郎は、月が照らすフェニックス家の中庭で二人寄り添っていた。

 少しソーナやリアス達に甘かったかもしれないけど、今回の勝利で完全な自信をつけた元士郎の表情はとても男らしい……と、カテレアは思う。

 

 

「後はカテレアさんを追ってくるだろう他の旧血族達を何とかしないと……」

 

「彼等は私が死んだと思ってるか、捨て駒扱いしてなんとも思っていないわ」

 

「でも0%では無いですから」

 

「それは解るわ。でも根を詰めるのは良くなくってよ元士郎?」

 

 

 思えば自分の血に誇りを持ち、人間なんて全く気にも止めなかった自分が、その元人間の転生悪魔に守られてるだなんて人生とはわからないものだとカテレアは元士郎を見て感じる。

 

 

「すいませんカテレアさん」

 

「ふふ、でも本音を言うとそこまで思ってくれて嬉しいわ」

 

 

 きっと同じ旧血族の連中が見たら嘲笑するだろう。

 けど今はハッキリと後悔していないと胸を張れて言える。

 彼なら、元士郎なら自分を捨て駒にしたりしないし、そして何より――

 

 

「か、カテレアさん、む、胸が……」

 

「あ、ご、ごめんなさい!」

 

「い、いえ……寧ろその……」

 

「元士郎……?」

 

「お、俺……その、カテレアさんが……」

 

 

 不器用だけど真っ直ぐな所に惹かれたのだから。

 互いに緊張しながらも見詰め合い、その目に引き込まれていったカテレアは目をゆっくり閉じる。

 それを見た元士郎も緊張しながらゆっくりと目を閉じて待っているカテレアの唇と―――

 

 

 

 

 

 

「駄目ぇぇぇ!!!」

 

「「っ!?!?」」

 

 

  重ねることは無く、突然聞こえる大声のせいで互いに離れてしまう。

 

 

「な、なんだよ!?」

 

「ま、またセラフォルーが……」

 

「ぜぇ、ぜぇ、皆に聞いたら中庭で二人きりって聞いて急いで、そ、それより駄目だからねチューなんかしたら!」

 

「し、してないし!」

 

「な、何を言ってるのか全然わからないわね……!」

 

「嘘だもん! しようとしてたの見てたもん!」

 

「だとしてもアンタに何の関係があるんだよ……」

 

 

終わり




補足

一応彼女達も被害者ではある的な意味なので落とし所はこんなとこでもないか? というのは実は建前だったりする。


その2
自信を付けて進化する元ちゃんは、まだ中学生みたいなやり取りからは抜けられなさそうだった。

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