IS学園 秘密の地下相談室 作:????
そこはIS学園校舎裏の普段使われていない第4格納庫。青い髪を持った少女がその倉庫の前に立ち、比較的簡素な作りの倉庫を見上げていた。
「ここが……」
少女は辺りを見回し、近くに誰もいないことを確認すると、中へと入る。
倉庫の中は長らく使われていなかったのであろう。雑然としてあり、整備されていないのか、一部錆び始めている。
「え、と。ここをこうして……」
独り言が多いのは、クラスに友人が少ないからだろうか。少女は手元のコンソールシステムを操作して、再び辺りを確認すると、何も置いていない箇所の壁に手を着く。
「あ、えっと……ひ、ひらけゴマ!」
すると手をついた部位の壁がスライドして、地下への階段が現れた。ちなみに言っておくと、この壁は音声認証で開いた訳では無い。
緊張からだろうか、少しだけ喉を鳴らすと、地下への階段へ踏み出す。
背後から気配を消した
◇◆◇◆◇
「くぅ〜っ」
扉に相談室との表示がされているその部屋の中には、仕事の合間の休憩だろうか、伸びをしている女性がいた。
彼女の名前は
なぜ教師用カウンセラーなどがあるのかというと、ここIS学園は各国の精鋭が集まってくる。その際、生徒のプライドが高かったり、生徒が問題を起こしたりした際、教師の精神が折れないようにするために設置されたのだ。
「さてさて、この間のお菓子の残りでも消費するかな〜」
お茶請けのお菓子を出すために、席を立ち、近くの棚の中を探る。
「これこれ、この間は大変だったみたいだし、アルコール関連を分別して置かなきゃなぁ……ま、最近多かっただけで普段は来ないのか普通なんだけどなぁ」
「月崎、邪魔するぞ」
お茶請けを取り出し、席に着いて休憩しようと思った瞬間に、訪問者が現れた。
凛とした顔つきで、長い黒髪。
「え、と。お茶飲む?」
「ああ、3人分頼む」
「3人分……?」
廊下から出てきたのは水色の少女だった。なるほど、片手が隠れていると思ったらそういう事だったのか。少女は俯き、無言でいるのでとりあえずお茶を入れる。
「あ、コーヒーの方が良かった?」
「コーヒーで頼む」
「インスタントだけど許してね」
カップを追加で2つ取り出し、片方に粉末タイプのインスタントコーヒーを入れ、もう片方にはさきほど自分の為に淹れたお茶の残りを入れる。
「はい、お湯が沸くまで少しだけ時間がかかるからこれでも食べてて」
少女にだけお茶を出し、さきほど出したお茶請けを勧める。少女は少しだけ躊躇ったが、おずおずとお茶を飲み出した。
「おいしい……」
「はははっ、お茶っ葉から選んだからねぇ」
丁度お湯が沸いたので、コーヒーカップに注ぐ。そして、トレーに載せて、机へと持っていく。
「はい、コーヒー」
「ああ、ありがとう」
「それにしても、ち……織斑先生が生徒をここに連れてくるなんて珍しいですね」
千冬、と呼ぼうとすると睨まれたので、仕方なく外聞呼びの“織斑先生”へと変える。
「なに、立ち入り禁止区域へ立ち入ろうとする不届き者を見つけてな。その不届き者の行き先がここと来たものだから、連れてきた」
「連れてきたって……」
少女を見ると、気まずいのか眼を逸らしている。
「で、君は何の用だったの?」
「ね、噂の何でも解決してくれる相談室が本当かどうか確かめたくて……」
「なんでも解決って……」
噂とは途中で変化する、伝言ゲームみたいなものだ。その際、“秘密の相談室”から“なんでも解決してくれる相談室”と変わっても不思議ではない。ましてや噂するのは現役女子高生だ。
「なんでも、は解決しないけど、一応相談には乗るよ」
「何でもは解決出来ないんですね……」
「そりゃ、なんでもは無理だよ」
「そうですか……」
それほどまでに難しい悩みなのか、俯いて何かを考えている。
「それじゃ、相談に乗ってください」
「ほいさ。あ、織斑先生は廊下に出ておいてくださいね」
「ああ、わかった」
飲み終わったコーヒーカップに流れるような動作で再びコーヒーを入れて、それを片手に廊下へと出ていった。
「さて、相談って言うのは?」
「……最近、クラスメイトの人たちが話しかけてくれるようになったんですけど、彼女達にどういった対応をすればいいのか分からなくて……」
「最近……?」
「それ以前は私はとある事に集中してて……周りの人と話してなかったんですよね……」
「ああ、なるほど。久しぶりで勝手が分からないってことね」
「はい……」
一瞬イジメかと思った月崎だが、その後の一言によってその勘違いは霧散した。少女自身が関わりを絶っていただけだったのだ。
「そうなると、うーん……あっ、仲のいい友達はいるよね」
「数人は……」
「それじゃ、その娘達に接する態度でクラスメイトに接してみたら?」
「でも……恥ずかしくて」
「うーん、1歩踏み出してみよう? 何なら半歩でもいいから」
「…………」
「むぅ……」
無言で俯く。どうやら厳しいようだ。それはそうだろう。いきなりこう言われたところで実践できる人なら既にしているはずだ。
「そうだね……まずはクラスメイトに笑顔を見せてあげよう」
「笑顔?」
キョトン。とした顔をこちらに向けてくる。
「そう、笑顔だ。せっかく可愛い顔をしてるんだから」
「笑顔、ですか……」
「初めは作り笑いでもいいさ。いずれは本当の笑顔になるはずだから」
「作り笑い……」
「ほら、こうやって」
月崎の両手が少女の頬に伸びる。そして、口の端を上に持ち上げると、口が三日月型のニンマリ笑顔に。
「こうするだけでも可愛いんだ。ね? やってみよう?」
「は、はい……」
いきなり顔を触られた恥ずかしさからか、少し顔を赤くして答える。
「さ、こういうのは急いで行動した方がいいんだよ。善は急げ、鉄は熱いうちに叩け、ってね」
「はい、できる限りは頑張ってみます」
「よし! それじゃ、返そうか」
廊下の扉を開けて、千冬を呼び戻す。
「話は終わったのか?」
「終わったよ。というわけで返しちゃって」
「よし、更識付いて来い」
「はい」
連れられて帰っていく少女。その後ろ姿を月崎は見送るのであった。
「更識って言ったら……あの娘の妹?」
なにか疑問があるようだが。
◇◆◇◆◇
場所は変わり、織斑先生に連れていかれた青色の髪の少女──
「……はぁ、笑顔、かぁ」
教室に戻り、授業を上の空で聞き流した後の昼休み。
簪は自分の席に膝を付きながらそう独り言を呟く。彼女の心の中にはさきほど言われた笑顔で仲良く作戦をどう実行するかだが、そんな事は露知らず、教室に簪目当てでの来客が訪れる。
「かんちゃん遊びに来たよ〜」
そう言って入ってくるのは、
「……ねえ本音、あなたは笑顔ってどうやって作る?」
「笑顔〜? うんっとね〜、気づいたらなってる物だよ〜笑顔って〜」
「気づいたらなっている……」
「どうしてそんなこと〜?」
「いや、ちょっと……」
気づいたらなっているもの、気づいたらなっているもの。
心の中で反芻するも、イマイチ理解が出来ない。ここまで来ると笑顔とは風邪などの流行り病なのではないかと思える。
「そっか……私は用事があるから……」
「そっか〜、じゃぁ、放課後ね〜」
そう言って4組の教室から去っていった。どうでもいいけれども、15分ほどの短い休憩時間に何をするつもりだったのだろうか。
「さて、とりあえず笑顔を作ってみよう」
口元に手をやり、頬をふにふにと動かす。
その作業をしばらく続けていると
「あの、更識さん? 何をしてるの……?」
「え……、いや、あの、え、笑顔の練習を……」
「笑顔の練習……?」
クラスメイトが不審に思ったのか、話しかけてきた。それに返答すると、更に不審な表情。
「い、いや……私って無表情だから……」
「そっか……いや、無表情でもいいと思うよ!」
「そうかな……」
月崎には笑顔の方がいいと言われたが、肝心のクラスメイトには無表情がいいと言われる。もうなにをしたらいいのか分からない。だが、どうせならクラスメイトの意見を聞いた方がいいだろうと思い、無理に笑顔を作ることを止めた。
◇◆◇◆◇
とあるクラスメイト達はひそひそと話し合っていた。
「更識さん何をしてるのかしら」
「ちょっとあなた聞きに行きなさいよ」
「え、私!?」
「あなたよ!」
「し、しょうがないなぁ」
1人の女子生徒が簪へと質問しに行く。
「え、笑顔の練習!?」
「不味いわね……彼女ののクーデレは私達の希望なのに」
「このクラスに他の可愛いクーデレがいないし」
「何とか誘導するのよ」
簪と話している少女へとこっそり指示を出す。が、その生徒は指示に気づかずとも簪をクーデレの道へと戻していた。
「流石彼女も[更識さんファンクラブ]の一員だね」
更識さんファンクラブ──それは更識簪の魅力に気がついた者達の集いであった。
「更識さんはたまに見せる笑顔がいいのよ!」
「そうだよね!」
「この間なんて……」
今日も4組は仲良しこよしで元気がいい。
余談だが、その集まって興奮している様子を見て簪は少し引いていたとか。
感想待ってます!