IS学園 秘密の地下相談室   作:????

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閑話 V・Dの騒動

「バレンタインゥ!?」

 

 とある部屋の中で、二人の女性が机に対面に座って話し合っていた。

 

「ええそうよ。貴方は参加しないの?」

 

 片方は蒼い髪を少女。カラーコンタクトだろうか、目は赤い。

 

「えー……そもそもバレンタイン自体知らなかったし何より渡す相手がいない」

 

 少女を睨みつけるように見るは20代の女性。目は大きく黒色で、染めたのだろうか、髪の毛は赤黒い、赤褐色というのだろうか。しかし現代日本人が染める奇抜な色と違って似合っている。

 

 彼女の名前は月崎瑞希(つきざきみずき)だ。

 

「なんというか、悲しいわね」

「なになに同情? それ織斑先生にして来なさい私には効かない」

 

 効かない、と言っているが顔をしかめている事から推測するに十分効果があったのだろう。

 

「ふーん。ま、いいわ。世間話をしに来ただけだしね」

「世間話って……君ねぇ、ここ一応教員用だよ?」

「ぬふふっ、生徒会長権限って便利よね」

 

 その一言が出てきた瞬間、流れるようにポケットから携帯電話を取り出し、幾つかの操作をした後にコールボタンを押す。

 

「あ、もしもし織斑先生? 今暇ですか?」

「あ、ちょっ。ね、ねぇ、冗談よね……?」

「なんというかですね。目の前にサボっている学生がいるんですよ。え、名前? 言えるわけないじゃないですかー、かの有名なIS学園生徒会長様ですよ? 色んな権限持ってるって話の」

 

 少女は少しだけ涙目になり、月崎は黒い微笑を浮かべている。

 これは決して先ほどバレンタインの話をしてきた復讐などではない。サボっている生徒を正しい道へ導くための、そう、教員として正しい行為なのだ。

 

 織斑先生の「わかった、すぐ向かう」の声を聞き、通話を切る。

 

「ええ、と……やっぱり冗談よね?」

「すぐ来るってさ」

 

 笑顔。

 

「それじゃ、私はもう行くから」

「いやいや、せっかく来たんでしょ? お茶くらいは出すよ?」

「いや!! 行かせて!! 私は逃げるの!!」

「逃げる? 誰からだ?」

「そりゃ織斑先せえ……?」

「こっちに来い。生徒指導だ」

 

 襟を捕まれ連行される18歳少女。いやいやと首を振るも、離してくれるわけもなく、最後には月崎へと助けを求めてきた。

 返答は笑顔。少し悪いかな? とも思ったけれども、救う手立てはない。悲しいが逝ってくれ。心の中では精一杯の自己肯定をするのだった。

 

「いやああああああああああ!!!!」

 

 廊下に連れ去られて暫らくすると、声が小さくなってきた。

 

「ふう、それにしても……バレンタインかぁ」

 

 

◇◆◇◆◇

 

 

「と、言うわけでこれあげる」

 

 バレンタイン当日。月崎は楯無に言われたことを気にしているのか、チョコを渡していた。

 

「……なんだこれは」

 

 職員室の真ん中で織斑千冬(世界最強)に。

 もちろん本命などという百合百合しいものではないいわゆる友チョコなのだが、なぜそんな事に至ったのか……。

 

「いやー、日頃の感謝? というかチョコを渡す人がいなかったというか?」

「後者の理由だろ絶対……」

 

 そう言って、千冬はチョコを月崎に返却しようとする。

 

「いやいや受け取ってよ」

「教師としては受け取ってはいけないだろう?」

「え、貴方以外の先生はみんな受け取ったよ?」

 

 絶句。

 千冬は油の切れた機械のように身体をぎこちなく動かしながら職員室の中を見渡す。

 180度──つまり後ろへと視線をやると、そこには子供のように両手でチョコを口へと運ぶおっぱい緑(山田先生)が。

 その他にもチョコを口へと運ぶ人が散見される。そして、視点が一周した後、月崎の方へと顔を向けると、目の前にチョコが差し出された。

 

「ね? ほら、受取ってもいいんじゃない?」

「……甘いものは苦手だ」

「ビターチョコも用意してるけど」

「……………」

 

 それでも抵抗を試みる千冬だが、しかし月崎の方が一枚上手なのか、儚く散る。

 

「ほら、もうすぐ授業も始まるし! 頑張ってきてね!」

 

 そう言って千冬の教室へと持ってゆく教材にさりげなくチョコを差し込み(・・・・・・・・・・・・・)、背中を押す。

 

「ちょ、ちょっと待て!!」

「待てません!! あ、山田先生もそろそろ行かないと」

「ふぁ〜、え、あっはい。分かりました」

 

 チョコに惚けていたのだろうか、意識が飛びかけていたようだ。それを現実世界へと引き戻して教室へ向かわせる。

 

「さて、職員みんなにチョコを渡したし、帰りますかね」

 

 こうして月崎は相談室に戻って行った。

 

 

◇◆◇◆◇

 

 

 IS学園1年A組は混沌に包まれていた。

 

 原因はクラスの担任である織斑千冬の持ち物にあり、本日の日付にもある。日頃、担任の脇に挟んであるのは古めかしい出席簿だけなのだが、今日は珍しく紙媒体の教材と可愛らしい包装をされた小さな箱を手に持っているではないか。

 誰が言い始めたのかはわからないが、とある一言がことの発端だった。

 

「織斑先生! それ誰から貰ったんですか!?」

 

 イベント(バレンタインデー)に騒ぎたいという心を多数持った生徒のいる中に、そのイベント御用達の品(バレンタインチョコ)を貰ったものが現れるとどう言った騒ぎになるだろう……。それはきっと想像を絶するものになるに違いない。いや、実際に起きた。

 

「皆の者取り出せ取り出せぇ!!」

「私の狙いは2人よ!!」

「織斑先生と織斑ね!!」

「……はぁ、いつの間に仕込まれたんだ……」

 

 千冬としてはいつの間にか仕込まれていたチョコレートによって起こった騒ぎ。本来の元凶は月崎なのだが、しかし傍から見ると、事の発端は千冬にあると見えるだろう。

 

「授業を始める。席に着け」

「そうはさせるかぁ!!」

 

 飛び出てくるのはA組の自称ウザキャラこと岸原理子(きしはらりこ)。席を立つと全力疾走で織斑一夏(おりむらいちか)の席へと向かう。

 

「そこまでだ」

 

 出席簿を投擲され、撃沈すると思われていた岸原理子だが予想外のことが起こる。

 

「乙女を侮るなかれっ、この日のために出席簿を避ける練習をしてきたんだっ!!」

 

 中段、腹部を狙って放たれた出席簿を驚異的な跳躍力で回避し、キメ顔をクラス中に魅せつける。そして、着地しようとした時、

 

「甘いな」

 

 理子の額に白い粉が舞った。

 残心。千冬は右腕を振り抜いた状態で固まる。白い粉とは千冬の右手から放たれたものはチョークであった。チョークが粉になるような威力で額と衝突したのだ。気絶は免れないであろう。

 

「そうだな……これも私が悪いと言えるだろうし……しょうがない。岸原を保健室に運んでこよう、山田先生、手伝ってください」

「はい、足の方を持ちますね」

「では私は頭の方を。A組は自習だ、周りのクラスに迷惑をかけないようにな(・・・・・・・・・・・・・・・・・・)

 

 暗に周りのクラスに迷惑をかけなければ何をやっても構わないと言っているようなものだが、それ以降千冬は黙って理子を保健室へ運んで行く。

 

 

◇◆◇◆◇

 

 

「織斑先生はなんであんなことを言ったんですか?」

「なに、たまには息抜きも必要だろうしな」

 

 

 保健室へと理子を運び終えた後、ゆっくりと教室へと戻る道中に山田先生が話を切り出す。

 

「んー……あっ、わかりました!」

「なにがだ?」

「織斑くんのことを心配してたんですよね! 流石にチョコ0個とかだったら凹みますしってあだだだだ」

「いい加減なことは言わないように」

 

 話を止めるためにアイアンクローを仕掛け、注意を促す。現在痛みに悶えている山田先生に聞こえるはずもないが。

 

「さて、そろそろ教室です。身だしなみを整えて」

「織斑先生がこんなにしたんでしょ……」

 

 アイアンクローを解除するとそこには若干目の濁った山田先生が現れる。

 それを見なかったことにして、教室へと立ち入ると、教卓の上には山ができていた。各個包装は異なっているが中身はチョコレートであろう。

 

「……はぁ」

 

 千冬は静かに嘆息した。

 

 

◇◆◇◆◇

 

 

 暗闇の地下の中にある一室でとある会話がなされていた。

 

「誰かにチョコあげた?」

「もちろんあげたに決まってるじゃない。あまり私を侮らないことね」

 

 片方は(よわい)20くらいの女性。もう片方は高校生くらいの女の子だ。

 

「そういえばね」

「なに?」

「教員に聞いたんだけど、今日教員にチョコを配り回ってた人がいたんだって」

「……誰だろうね」

「確か名前は月ざ──」

「ねえ、チョコいる?」

「GOD○VAね」

「……はぁ」

 

 ここにも嘆息するものが一人。月崎は人知れず財布の中身を確認するのであった。




 
 犠牲(理子)の上に成り立つ物ってありますよね。

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