IS学園 秘密の地下相談室   作:????

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T・Sさんの登場

 IS学園の地下1階の廊下は暗い。しかし、唯一明るいと言えるような光を放つ部屋があった。IS学園の七不思議の一つであり、人が迷い込む不思議な部屋。その実態はIS学園所属の教師専用の相談室だった。

 だが、教師専用とは言ってもカウンセリングルームに頻繁に訪れる教師などいないため、基本的に暇なのだ。

 これは暇を持て余したカウンセラー、月崎瑞希(つきざきみずき)によるとある相談の一場面。

 

 

◇◆◇◆◇

 

 

「ここだーーっ!!」

 

 廊下へと続く扉が勢いよく開くとともに、そんな奇声が部屋へと響き渡った。そして、その奇声を発した者はと言うと。

 

「あれ、部屋を間違えたかな?」

 

 純粋に部屋を間違えたようで、頬に手を当てて周りをキョロキョロと見回していた。

 

「え、と。とりあえずお茶飲む?」

「んー、君は誰だい? って言うか此処はどこなんだい? 束さんは暮桜の所に向かったはずなんだけど」

 

 奇声の主が厳しい目つきで部屋の主──月崎を見るが、そのような視線はどこ吹く風とばかりに流して話を続ける。

 

「とりあえずお茶入れるね。そこに座ってて」

「だーかーらー、質問に答えようよ。此処は何処かを聞いてるの」

「いいから座ってて」

 

 キツイ口調で言われ続けて月崎も思うところがあったのか、2回目は少し厳しめの口調で着席を促す。

 

「…………」

 

 厳しめの言葉が効いたのか、ほんの少しだけ呆けた後に、ため息をついて月崎が座っていた席の対面に座る。

 そのあいだ、月崎は保温ポッドに入っていたお湯を使い、いつものようにお茶をコップへと注ぐ。

 

「はい、これ」

「これ、緑茶か……」

 

 来訪者の女性──篠ノ之束は元々和風の家の出身だ。そのため、紅茶やコーヒーなどよりも緑茶の方が飲み慣れているのだが、最近近くに置いている者は紅茶く作ってくれてため、緑茶は永らく見ていない。

 久しぶりに飲んだ緑茶の味を噛み締めながら、両手でコップを持った。

 

「それで、用事はなんだっけ」

「っ、もう忘れたの? ついさっき言ったばかりだと思うんだけど」

「なに、忘れたわけじゃないよ。ただ、話しかけるための前口上みたいなものさ」

「……前口上なんて要らないよ」

 

 篠ノ之束の普段の様子を知らない月崎は、その姿を見て生意気な子供を想像したが、実のところではこの様に会話が成立する事すら異例の自体なのだ。

 篠ノ之束とはISの製作者である。その為、出自や性格などは政府によって隠匿されており、一般的な印象が存在しない。ある人は「篠ノ之束は世界に災厄を齎した悪魔だ」とも言うし、またある人は「篠ノ之束は世界に恵みを齎した天使だ」とも言う。また、唯一公開されている写真を見て、ファンになる人間もいれば、写真すら見たくないと言う者もいる。

 

「で、貴方は篠ノ之束であってる?」

「話を逸らさないでよ。束さんは暮桜の場所を聞いてるんだよ」

「強情だね……」

 

 ここまで強情だとは思わなかった、と心の中で愚痴を呟く。そして、さり気なく左手をズボンのポケットに入れてある動作をする。

 

「暮桜の場所だっけ、それは言っちゃダメな事になってるんだよね……」

「ダメとかそういうのは知らないから、いいから教えなよ」

「とは言ってもね……」

 

 右手で頬を搔く。

 

「君がさっき左手で何かをしてた事は分かってるんだ。束さんに対して何か出来ることなんて無いだろうけど、はっきり言って気に食わないね」

「あはは……バレてたか」

「いいから教えなよ。さもないと……」

 

 束は右手を何も無い空間に構える。するとそこに光の粒子が集まり、極々普通の工具──スパナが現れた。

 

「これで殴り」

「これで、何だって?」

 

 束がスパナを構えて脅し口上を始めた瞬間に、とある女性が現れた。

 ISに乗って世界最強(ブリュンヒルデ)を証明した存在であり、恐らく生身でも世界最強であろうとされる女性、織斑千冬だ。

 

「やっほー! ちーちゃん!」

 

 千冬の姿を確認すると、束は身体を翻して突撃行動に変更する。

 

「うるさい、黙れ」

 

 しかし、その突撃行動はアイアンクローにより失敗となった。当然束は千冬の掌から逃れようと全身を使うものの、逃げる事が出来ない。

 仕方ない、とばかりに全身の力を抜いた。

 

「すまないな、後は私が処理しておこう」

「任せました」

 

 千冬は束の頭を掴んだ状態から襟を掴んだ状態へと移行し、廊下へと向かう。

 後に残ったのは、お茶を啜る月崎とその対面の机においてある中途半端に残ったお茶だけであった。

 

 

◇◆◇◆◇

 

 

「で、ちーちゃん」

「なんだ?」

「さっきの女何者よ」

 

 暗い廊下の中に二人の女性の声が響いていた。

 

「そんな浮気を発見した彼女みたいなことを言うな、面倒だ」

「いやいや、そういう意味じゃなくて。束さんはちゃんと暮桜の場所までマッピングしたはずなのに……」

「……そのデータはISコアの位置情報を検索したのか?」

「いやいや、暮桜が動かないっていうのはちーちゃんもわかってることでしょ?」

「そうだな。詰まるところ、お前の暮桜を探すために使ったデータが間違ってたということだ」

「そんな、ちゃんとIS学園の見取り図を……! ……そういうことか」

 

 何か確信を得たかのように、束は腕を組み口元に手を当てる。

 理由は不明だが、IS学園の見取り図は何者かによって改竄されていたようで、その改竄された後のデータを束が入手したようだ。しかし、そうなると疑問が出てくる。いくらIS学園が国が主体となって組まれた次世代のIS操縦者の育成場だとしても、束による世界最高峰のクラッキング技術を誤魔化すことができるのだろうか。

 理解はできたが納得はできない。そんな様子の束を見て、千冬は不服ながらもネタばらしをすることにした。

 

「お前が手に入れたデータは学園の見取り図だろう?」

「うん。その見取り図のデータが改竄されてたんだよね、でも誰がどうやってしたのかな。興味が湧いてきちゃったよ」

「あー……非常に言いづらいことなんだがな、改竄などされていない」

「えぇ!? ならこのデータはなんだって言うのさ!!」

 

 手のひらを虚空に向け、空間ディスプレイを展開する。そのディスプレイには、学園の地図と暮桜の場所が書いてあった。その暮桜のポイントは、先ほどの月崎がいた相談室の場所にマークしてある。

 

「……確かに暮桜はその場所にあった」

「じゃあなにさ、あの部屋の奥にでも隠してあったのかい?」

「いや、もうあの部屋には暮桜は無い」

「──!! そういうこと、ね。なんで束さんはこんな事に気が付かなかったのか……」

 

 そう、情報が改竄されていた訳でもなく、あの場所に暮桜があったわけでもない。暮桜が移動されてただけなのであった。しかし、それにも疑問は生じる。果たして書類も無しに重要な素材(暮桜)を移動させることが出来るのだろうか。

 

「今は懐かしき手書きの紙媒体だ。流石にお前でも見ることは出来ないだろう」

「おー、考えたねー」

「本当の暮桜はここだ」

 

 とある部屋の前へと辿り着き、指紋認証の為のタッチパネルへと右手の親指を押し当てる。数ステップの確認の後にその指紋認証が完了すると、指紋認証のパネルが壁に収納される。すると、パネルが本来あった場所に新しく鍵穴が出てきた。

 千冬は右のポケットから鍵束を取り出し、そのうちの1本を鍵穴へと差し込む。

 

「開けるぞ」

「ちょっと待って、いい加減下ろしてよ」

「……はぁ」

 

 千冬は部屋を出た辺りから今までずっと(・・・・・・)左手に掴んでいた束の服の襟を離す。

 

「よしよし、これで自由になったね」

「開けるぞ」

 

 扉が開く。

 暗い部屋の中ではスポットライトが動き出し、部屋の中央に鎮座してある暮桜へと光を浴びせた。

 

「おぅおぅ……こんな姿にされちゃってかわいそうに」

「戯言は叩くな。で、どうだ? 治りそうか?」

「いやー、調べてみないことにはわからないなぁ」

 

 そう言って、束は何処からか出した機器類を暮桜の端子へと接続していく。

 

「……一応機密なのだから許可は欲しいものなんだがな」

「ちーちゃんなら許可をくれるって思ったけどね」

「まぁ、一応出すが……」

「でしょ?」

 

 そのような会話をしている内に作業は進んで行く。先ほどの様に空間ディスプレイを展開した後に、付属の空間投影型のキーボードを使って十数行のプログラムを打ち込む。これは、暮桜のコアデータの情報開示キーであり、現在は束によって止められているが普段は1秒に1回のパス変更がされている物だ。

 

「どれどれ~うわっ、中が酷いことになってるよ……それにハードの方も色々とダメになってる」

「で、どうなんだ? 直ぐに修理できるか?」

「うーん、今回は無理っぽいね。持ってきた奴じゃ治せないよ」

「……そうか」

「安心していいよ。絶対に束さんが治すから」

「頼んだぞ」

 

 思い入れのある機体である暮桜を見上げ、今回は治らないのかと嘆息する。

 

「ああ、そうだ。次に来る時にはここに暮桜は無いだろう」

「んん? どういうこと?」

「セキュリティの問題でな。お前みたいなヤツが暮桜を狙うからと定期的に保管場所を変更してるんだ」

「えー、めんどくさいことを……」

「だから、次も月崎のところに行け」

「月、つき、何だって?」

「月崎だ。私から一言言っておくから次も大丈夫だろう」

「むー」

「分かったな?」

 

 有無を言わせぬ口調で、片手に出席簿を構えながら確認を取る。

 

「ち、ちーちゃんが言うなら分かったよ」

 

 若干声が震えているが、それは出席簿があるからという訳では無いだろう。きっと

 

「それじゃ、私はもう帰るから!」

「おい、こら待てっ」

 

 脱兎の如く廊下へと逃亡を図る束に、それを追いかける千冬。

 IS学園の地下では鬼ごっこが開始されるのであった。




 登場の後は、活躍がありますよね。

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