IS学園 秘密の地下相談室 作:????
金属質な壁が印象に残る廊下、光が漏れるトビラ。そしてその部屋の中を覗き込む
彼女──
──どうせ客も来ないだろうし、最近客が多かったのだ。少しくらい自分に褒美を出してもバチは当たらないだろう。
そう自問自答の過程をすっ飛ばして答えをもぎ取った彼女は油断をしてそのお菓子の数々を机の上に放置してしまったのだ。誰が来るのか予測できるはずがないのに。
「で、私のお菓子は……?」
「すみません、全て束さまが食べるそうです」
「はぐっ、はぐはぐっ、クーちゃんも食べよーよ!」
そこは混沌を表していた。
廊下で物音のする部屋の中の様子をうかがっていた時、中にいる目を閉じた銀髪の少女、クロエ・クロニクル──名前はついさっき教えてもらった。──に入るように言われたのは良いのだが、自分へのご褒美用にと机の上に並べておいたお菓子は何故か
更に
ならばこの
「……はぁ、なんでこのタイミングで来るのかなぁ」
結果、瑞希は二名の不法侵入者を放って置くことにした。お菓子の事は確かに惜しいが、無理に取り返すほどのことでもない。何より、後で責任者であろう千冬に請求すればいい話なのだ。給料が生活費用とビール代に消えているであろう千冬に支払能力の有無は聞いていない。ビールが数本発泡酒に変わることだろう。
「いやはや、甘いものなんて久しぶりだねー!」
「そうでしたっけ。確かこの間私が『ダンプフヌーデル』を作ったじゃないですか」
「いや、アレ甘い甘くない以前にお菓子だったっけ……? 流石の束さんでも舌が痺れ始めたときは死を覚悟したよ?」
「シビレ……、ですか。そうですね、今度はもう少し甘くしてシビレとやらを無くしてみます」
「が、頑張ってね……?」
──いや、痺れって甘み関係なく完全に毒物か何かが入ってるでしょ。
二人睦まじく話している中に割り込むことは出来ずに、仕方なく室内に設置してある私物のソファに身を預ける。良いお値段をしたが、こういったどうにもならない事に遭遇した時に
唐突にドアが開く。
「よし、ちゃんとここで待っていたんだな」
「おっ、ちーちゃん!」
「ええい、抱きついてくるな鬱陶しい」
千冬だった。入ってくるや否や客人(?)と戯れだした千冬にガンを飛ばしながら一言物申す。
「……なんでこのタイミングなの?」
「……そうか、すまなかった」
机の上の惨状を見て理解したのであろう。素直に謝ってきた。
「そんな凡人の相手をするよりさっ、ホラッ、暮桜を診に行こうよ!」
「は? あ、ああ。それじゃあ行こうか。すまない瑞希、今度何か埋め合わせをするから許してくれ」
「ホラホラ、行くよっ」
……部屋に残されたのはクロエ・クロニクルとお菓子の残骸と私だけであった。というかいつの間にお菓子を食べ終えていたのだろう。全部空になっている。
「……カウンセラー、とかやってるんでしたっけ」
「え? ああ、まあ本職というか、この学園にカウンセラーとして雇ってもらってるね。と言ってもキャラの濃い闖入者の所為でまともに仕事した記憶があまりないけど」
「カウンセリングの内容に含むどうかは知りませんが、少し相談を受けてもらってもかまわないですか?」
「別にいいけど……? 今日やることはもう無いし」
一体何の相談だろう。天才の近くにいるから自分の才能が無いと思ってしまうようなやつかな? 割りと多いらしいけど。それとも閉じたままの目に関してかな。
「えっと、その……」
いざ聞くとなると
「落ち着いて、まずは深呼吸してから話し出そうか」
「いえ、緊張してるなどでは無いのでその必要は無いです」
「……そう、それじゃあ続けて」
「……その、料理、のうまくなる方法、とか、知ってます?」
…………。一応気にしていたのだろうか。確かに先程の会話の中で出てきたお菓子の感想はとてもじゃないけどお菓子の感想とは言えないものだった。しかし、ソレを気にするような態度を取っていなかった。
「うーんとね、料理って経験値がモノを言うって聞くし、うまくなる方法って言ったらもう料理本を読みながらひたすら作るしか無いんじゃないかな」
「料理本、ですか……」
日々の努力は実を結ぶと言う。誰しもはじめから上手い訳では無いのだからこういうことしか言えない。それに私自身、ここで働きだして
「今度本屋に行って見てみます」
「あ、後は毒物とか入れないようにね?」
「どくぶつ……?」
さっきも心の中で言ったけど舌が痺れるって絶対身体に悪い物が入ってるでしょ。いや、まあ意識して入れてないかもしれないし、もしかしたら身体に害のあるものを入れてないかもしれない。
「いや……何でもないよ、ごめんね」
「? は、はぁ……」
一体何だったのかと首を傾げてる姿を見ると見た目以上に子供っぽさを感じてしまう。
「そうだ。あなた日本人じゃないよね? 見た目的に」
「ええ、少なくとも日本人では無いですね」
……? 日本人ではない、その言い方に違和感を感じた。いや、まあ色んな事情があるんだろう。なにせあの篠ノ之束について回るほどの人間だ。
話を戻そう。日本人以外に教える事ができる簡単な料理といったらアレしか無い。
「────って知ってる?」
「────、ですか……? いえ、知りませんけど……」
雑な説明だけど教えてしんぜよう!
◇◆◇◆◇
薄暗い基地の中、リビングルームに当たる場所でクロエはとあるものと向き合っていた。
ツヤツヤとしたコメ、その上に乗るのは透明な液体に包まれた黄色の球体。つまるところ朝食でしばしば見られる『卵かけご飯』だ。
産まれ方はどうであれ、ドイツ人であるクロエにとって生卵と言うものは忌避すべき物である。一歩間違えれば食中毒、その危険性を回避するために卵はわざわざ日本で買って帰ってきた。また、コメもあまり親しんで来たものではない。ミルヒライスなどと言った日本のコメに似た品種もあるようだが、生憎ドイツにいた頃はまともに食事をすることすらできなかったのだ。
そんな未知の組み合わせを見つめる。
湯気は立っている。当たり前だ。なにせ先程パックのコメを電子レンジで温めたのだから。
見つめる。
透明な部分──シロミ、という名だっただろうか──のコメに面している部分が段々と白く固くなっている。しかしどうやって食べるのが正しい食べ方なのか見当がつかない。
見る。見る。
増えている。いや違う。決して卵かけご飯が増えている訳ではない。ただ卵かけご飯を見つめる目が増えているだけのこと。
「……ええっと、食べますか?」
「いいの!?」
実年齢など関係なく純情、純心を備えているまさに子供の心そのままな束に目の前の
「ん~っ! おいし~っ。あれ? でも少し味が薄いような気がするなぁ、しょうゆしょうゆっと」
「なるほど……そんな食べ方だったんですね……」
コメの上に乗った卵の黄身を割って
「あれ? そう言えばクーちゃんよく卵ごはんなんて知ってたね」
「……? 卵ごはん……卵かけご飯では……?」
「……あれ?」
「…………?」
静寂。
「まあいいや!! とにかくいつ知ったのさ。束さんは教えた覚えなんて無いけど」
「今日あった人に教えてもらいました」
「……ふーん、……まっ、いっか。」
ほんの少しだけ眉を潜めたが、さして衝撃が大きかったわけでもないのだろう。いつもの笑顔に戻る。
「あっ、そうだ。クーちゃんソイツに偶に料理を教えてもらいに行くのはどう? 流石に毎日っていうのは厳しいけど」
「……いいんですか?」
「だってクーちゃん、いつも暇そうにしてるし、定期的に外に出ないと不健康になっちゃうんだぞ~?」
ま、私はそんなこと無いんだけどね。
そう呟いて束はテーブルから勢い良く立ち上がり、研究室の方へと戻っていく。その後姿を見ながら、明日のメニューはどうしようかと考えるクロエであった。
「……よし、明日はサンマのマヨネーズ焼きにチャレンジですっ」
更新するまでに色々な本を読み漁っていたので文章の癖なんかが変わってるかもしれません……。
感想待ってます!