IS学園 秘密の地下相談室 作:????
そこはIS学園の地下に位置する場所。そんな重要そうな場所にあるとある一室の中にとある音が響いていた。
「…………」
寝息、それは人が必然的に出さなければいけないもの。大きさは人それぞれだが、彼女
そんな寝息が響く部屋に立ち入ろうというものが一人いた。
「あのー……あのー……」
黒く長い髪の毛を一本でまとめる、俗にいうポニーテールをしていて、学園の制服に包まれた胸は弾けそうなほどだ。そんな彼女が何をしているのかというと、寝ている月崎を起こそうと必死なのだ。
「ええいっ、起きんか!」
「…………」
しかし、それでも月崎は起きない。
ポニーテールの彼女が、いったいどうしてやろうかと危ない思考へ行き始めると……。
「ふぁ……ぁ? だれ?」
「……やっと起きましたか」
「ん……? あ、そっか。迷子?」
「いつの間にかこんなところに来てただけです!!」
そう、ポニーテールの彼女は気付いたらこの学園地下1階の廊下にいた。彼女自身、こういったことをする者に思い当たりはあったが、それとこれとは話が違う。その『こういったことをする者』には対策をしてもしなくても一緒なのだ。
「あははっ、やっぱり迷子じゃん」
「……帰ります」
そう言ってくるりと身を
「帰り道は分かるの?」
その一言を聞くと、元の場所へ無言で戻る。彼女とて案内なくして知らない場所から帰れるとは思っていないのだ。
「はははっ、イジワルしてごめんね?」
「いえ、そんなことより帰り道を」
「よし、何か悩み事を言ってくれたら帰り道を教えてあげよう」
「は……?」
トチ狂ったことをなんともなしに発言する月崎だが、一つだけ言うと、彼女は寝ぼけている。
「ええ、っと、どういうことですか?」
「ああ、ごめんごめん。どうやらまだ寝ぼけてるみたいだね……」
目を覚ますために飲むのだろう。近くの冷蔵庫からコーヒーを取り出す。
「あ、キミも飲む?」
「いえ、結構です」
「つれないなぁ……あ、緑茶もあるけどこっちはどう?」
「……では、もらいます」
「よしきた」
簡易キッチンで、紙コップにコーヒーと緑茶を注いだ彼女は、両手に持った飲み物を零さないようにゆっくりと元の席へ戻ってゆく。それは傍から見たら危なっかしく、思わずポニーテールの彼女が立ち上がり、
「私も持ちますよ」
「いや、いいのいいの。ちょっとまっててね~」
ゆっくり、ゆっくりと歩いて、やっと椅子に辿り着いた。ポニーテールの彼女も空気を読んだのか、ソファーから月崎の対面の椅子へと移る。
月崎は、コーヒーをグビッと飲み干して、一言。
「さて、目が覚めたし、これでまともな話ができるね」
「はぁ……それで、悩み事というのは?」
コーヒーを一息で飲み干し、やっと話ができる状況になったので、ポニーテールの彼女はそう問う。
「ああ、ここって一応カウンセリングルームなのよね、でも人が来なくて……」
あくまで、教師用とは言わない。ここで言ってしまうと帰ってしまう可能性があるからだ。
「あ、一応カウンセラーの免許は持ってるから安心してね」
「いえ、そういうことではなくて……」
「ああ、何を相談しようか迷ってるの? それならなんでもいいよ。対人関係の悩みでも将来の相談でも恋の相談でも」
「恋の相談!?」
ポニーテールの彼女は恋の相談、という言葉に反応する。恋でもしているのだろうか。
「むむむっ、いま恋の相談って言葉に反応したね? どれ、話してみなさい」
「……それでは、いや、でも」
「ほれほれ、悩むくらいなら言ったほうが楽だよ?」
それはまるで悪魔の誘惑。人の心につけ込み、秘密をほじくり返す。しかし、その後のケアをするだけ悪魔的では無いだろう。
「ま、言いたくないなら言わなくてもいいけどね?」
「……いえ、相談します」
その一言が決定的だった。
「……料理の悩みです」
「恋の悩みじゃなくて?」
「料理についての相談です!!」
頑なに否定する彼女だが、内心では胃袋を掴めばなんとやらの精神があるに違いないと月崎は推測し、これ以上の詮索はやめる。
「そっか、ごめんね? それで、料理の相談だっけ」
「はい、和食は作れるんですが、それ以外が苦手で……」
「ふむふむ、どういった感じで苦手なの?」
「イマイチ気が乗らないっていうのもあるんですけど、何よりも、途中で失敗してしまうんです」
「失敗?」
一体なんだろう。失敗といっても色々ある。火加減、味付け、材料の切り方。それらは意識すれば直せるものなのだが……。
「……何かひとつ失敗してしまうんです。調味料を入れるのを忘れたり、火が強すぎて焦げてしまったり」
「あー、その辺りの失敗ね」
それならば、料理科の先生にでも聞けばなんとかなるだろう。
「今日の放課後、話を通しておくから、食堂の裏口に行ってみて」
「……? わかりました」
「それじゃ、相談終わり! まだ完了したわけじゃないけど、食堂の裏口に行ったら解決するから!」
「あ、はい。それじゃ、案内お願いします」
「わかったわかった」
さて、食堂のおばちゃんに連絡しておかないとね。
◇◆◇◆◇
「アンタが月崎ちゃんが言ってた娘かい!?」
「月崎……?」
「なんだ、ちがうのかい……」
放課後、食堂の裏口に二人の人間が居た。片方は、胸の大きな黒髪ポニーテールの少女、
箒は月崎に言われてここに来たのだが、食堂のおばちゃんが言う月崎という名前に聞き覚えがない。対して、食堂のおばちゃんも月崎に言われただけなので、何もわからない。
「なんだ。月崎ちゃんの話じゃ人を送るってことだったけど」
「あ、それ多分私です」
「なんだ、やっぱりアンタじゃないか」
やっと食堂のおばちゃんの言う月崎、の正体がわかったのか、反応する箒。
「それじゃ、ここに入ってくれよ」
箒が手伝いだと判明したため、食堂のおばちゃんは裏口から厨房へ招き入れた。厨房では、夕食のための仕込みが行われており、野菜を切る音から炒める音まで、様々な音が鳴っている。
「アンタの仕事はこっちだよ。朝に開放されてるから、何がどこにあるのかは分かるね?」
「はい、で、これは……」
箒の目の前に置かれたのはキャベツが大量に入った籠であり、周りにいるおばちゃんたちは、微笑ましくこちらを見てくる。
「私も若い時はあんなものだったねぇ……」
「私もよ」
「私も」
「ええ、っと」
周りのおばちゃんは作業をしながらも、こちらをチラチラ見て若いころの話をしてくる。
「このキャベツを一口大に切るんだよ。もうすぐ食事の時間だから急いで!」
「は、はい!」
手渡されたエプロンを身につけ、近くの流し台で手を洗い、キャベツを切り始める。
「それが終わったらこっちの作業も手伝って!」
「わかりました!」
野菜を切る手は手慣れたもので、芯を取り除いて切る作業が続く。
しかし、いくら山で存在していたとしても、限りはある。遂に箒はキャベツの山を処理したのだ。
「おわりました!」
「よしっ、ちょうどいい大きさだね! それじゃ、それをこっちに持ってきな!!」
はじめは仏頂面だったが、作業をしていくうちに笑顔に染まった箒を更に微笑ましく見る周りのおばちゃん。だが、今の箒にはなんの気にもならない。なぜなら熱中している彼女は、周りのことが見えていないからだ。
◇◆◇◆◇
「さて、次はこれだよ!」
目の前に置かれたのは卵黄と卵が入った、業務用の紙パック入り卵。これで何をするんだろうか、と箒は柄にもなくワクワクしながら待機する。
「これをボウルに入れて、溶くんだ。やってみな」
そう言われて、手渡された紙パックからボウルへと卵を移す。そして、菜箸で、空気を含ませるように混ぜる。
「そうそう、いい感じだね」
「ここでなにか混ぜたりしないんですか?」
「何も混ぜはしないよ。だってこれ、オムライスの上に乗っている卵だよ?」
「オムライス……」
いままでに作ったことのない料理に身を震わせ、卵を混ぜ終わる。
「良し、じゃあ、作ってみようか」
「はい!」
まずはフライパンに火を通す。フライパンが温まってきたら、溶いた卵を適量落とし、十数秒放置。そして、裏面にうっすらと焦げ目があ付いてきたら裏返して、
「バカッ、アンタそれは薄焼き卵じゃないか!」
「え、オムライスの卵ってこうやって作るんじゃないんですか!?」
「ああ、もう。おら、貸してみなさい!」
おばちゃんの手にフライパンが渡る。フライパンの上に乗っていた薄焼き卵は綺麗に皿に移され、新たな卵がフライパンに乗る。
はじめは何も手をつけず、少し火が通ってきた辺りで、フライパンを傾けて、菜箸を使い、一箇所に集める。全体的に裏面が焼けると、器用にフライパンを振って裏返す。するとオムレツのようなものができた。
「これを……?」
「こうするんだよ」
盛ってあったチキンライスに出来上がったオムレツを乗せて、中央のラインに沿って箸で1層を切る。そして、開けた層を広げると……。
「おお、オムライスだ……」
「どんなもんだい、手慣れたもんだろ?」
「うむ、私も作ってみたいな」
「これから練習していけばいいさ。とりあえず、その分は食べておきな」
「……?」
「賄い飯、というわけでも無いけど、手伝ってくれたお礼みたいなものさ。さ、早く食べな」
先ほど作った薄焼き卵が隣に添えられたオムライスを持って、隣接されている給湯室へと向かう。
……なぜ隣が厨房なのに給湯室があるのだろうか。
◇◆◇◆◇
「それでは、今日はありがとうございました」
作業が終わり、食堂が閉まる時間帯になってきた頃、箒は食堂の裏口でおばちゃんに向かってそう言った。一応他のおばちゃんたちもいたことにはいたのだが、明日の仕込みがあるため、まだ厨房の中にいる。なので、目の前にいるのははじめにここに立っていた食堂のおばちゃんただ一人だ。
「なあに、こっちも助かったからね。また来てくれてもいいんだよ?」
「はい、また今度も手伝わせてもらいます」
「はははっ、そうかいそうかい。それじゃ、私も仕込みがあるから戻るよ」
「お疲れ様です」
「じゃあね、元気にするんだよ」
こうして箒の料理修行は終わった。いや、始まったというべきか。
ここから3年間、たまに食堂に現れる可愛い料理人がいるとかいないとか。
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