死を経験した俺の生きる時間   作:天空を見上げる猫

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予定を変更して夏祭りの同時刻の出来事を書いています。


四十三話 兎の元に夜が訪れる

イチカ達が夏祭りを楽しんでいる頃、束と永久は別荘の屋上に敷かれたシートに座っている。側にはクーラーボックスが置かれ、それぞれの手には液体の入ったグラスが握られていた。

 

 

「いや~、こうやって永久ちゃんと飲むのは久し振りだね~。最後に二人で飲んだの何時だっけ?」

 

 

「…去年の年明けだな。」

 

 

「そうだったね~。やっぱり親友と飲むお酒は格別だね!永久ちゃんもそう思うでしょ?」

 

 

「…まぁな。…私もお前と共に飲む酒は普段より美味く感じるからな。」

 

 

「そうでしょー。ま、お酒が美味しいのはそれだけじゃないからねー。今私達が飲んでるのは私の秘蔵の「…天空の夜桜だろ?…確かにお前が好きな甘い酒だな。」分かっちゃうか~。…うん?ねぇ、永久ちゃん?」

 

 

「…何だ?」

 

 

「何で夜桜を知ってるの?普通知ってる筈が無いんだけど…。」

 

 

「…普通はな。…まぁ、私は伝があるから、この酒が神界で扱っていてる天空の夜桜だと知ってるだけだ。」

 

 

「うん、もう驚かないからね?本当に永久ちゃんは想像の斜め上を行くよ。」

 

 

束は永久に何故自分が持参した天空の夜桜を知っているのか聞くと納得している様で何処か諦めた様な顔をしながらグラスに口を付ける。

 

 

「と言うか聞いてよ。イッ君とかんちゃんがねー凄いんだよー!もうね!高校時代の私を越えてるの!イッ君は私が教えた事を発展出来るし、かんちゃんは新しいシステムとかプログラムを組み立てるのが得意でねー、もう本っ当に驚いたんだよ!」

 

 

「…知ってるさ。…実際、簪君の専用機である打鉄のマルチロックオン・システムも彼女自身が完成させたからな。…それに二人に限らず、他の娘達もこれから成長し続ければ確実に化けるぞ。」

 

 

「そうだね~今から成長が楽しみだよ。」

 

 

「…フッ、昔と比べて本当に変わったな、お前は。…恋をすると人は変わると言うがまさにその通りだな。…お前が蒼夜と関わってから良い方向に変わった。…他人を認識し、関わりを持ち、友好を深め、存在を認める様になった。…これも蒼夜のお陰だな。」

 

 

「そう…かな?(蒼夜君のお陰…か。多分それは違うと思うな。確かに蒼夜君のお陰で変われたかもしれない…でも私に最初大きな変化を起こった切っ掛けをくれたのは他でも無い永久ちゃんだよ。)さーて、次は何を飲もうかな~。永久ちゃんは何飲む?」

 

 

「…束、強めの酒は飲めるか?…飲めるなら私のお気に入りを出すが?」

 

 

「え?マジ!?永久ちゃんのお気に入り!?飲みたい、飲みたい!それに大丈夫だよ!私はかなり強いからね!」

 

 

「…そうか。…なら待っていろ、直ぐに持ってくる。」

 

 

「りょーかーい。…それにしても永久ちゃんのお気に入りかぁ。どんなお酒だろう?…それにしても、おつまみが食べたいけど用意するの忘れた…。」

 

 

[キィー!]

 

 

「やぁコルー、久し振りー。おや?コルー、その袋は何?何だか良い匂いがするけど。」

 

 

永久が戻って来るのを待っているとコルーが袋を持って束の元に向かって来た。そしてコルーが持っていた袋を受け取り中身を確認すると中にはたこ焼きや焼鳥等の夏祭りで売られている食べ物がかなり入っていた。

 

 

「おぉ!おつまみになりそうな食べ物がいっぱい!もしかしてイッ君からの差し入れ?」

 

 

[キィー。]

 

 

「そっか~、ありがとうねコルー。あ、それとイッ君にありがとうって伝えてくれるかな?」

 

 

[キィー!]

 

 

「またねー。」

 

 

「…待たせた。…?束、その袋は?」

 

 

「これ?イッ君からの差し入れ。色々入ってるよー、焼きとうもろこしも入ってるけど…勿論食べるよね?」

 

 

「…あぁ、頂こう。…それとこれが私のお気に入りの神殺しと言う酒だ。…これも夜桜と同じ神界の酒だ。」

 

 

「神殺し…何か物騒な名前だね。と言うか人が飲んで良い代物なの?飲んだらぽっくりとかならない?」

 

 

「…問題無い。…そもそも酒で言う○○殺しは本当に殺す訳ではない。…その対象を酔わせる事の出来る酒と言う意味の為、何の問題も無い。…ほれ、それとこの酒は強いからかなり薄めている。」

 

 

「へぇ~、そうなんだ。ありがとうねー。」

 

 

束は永久から説明を聞きながら神殺しの水割りを受け取り飲み始める。一口目に眼を見開き、二口目からはゆっくりと楽しみ始める。

 

 

「…ぷはぁあ!永久ちゃん何このお酒!?もの凄く美味しいんだけど!?夜桜と違ってガツンって来て凄く美味しいよ!永久ちゃんが気に入るのも納得だね!」

 

 

「…そうか、気に入っている様で何よりだ。…ふむ、露店の食べ物をつまみに飲む酒も悪くないな。[♪]…成る程な。」

 

 

「?どうしたの?何かトラブルでもあった?」

 

 

「…いや、知人から連絡があっただけだ。…束、焼きと「あるよー。」…感謝する。」

 

 

「永久ちゃんってさー、本当に焼きとうもろこしが好きだよねー。…ねぇ?永久ちゃん、何か良い事でもあった?何かこう…嬉しそうな雰囲気になってるんだけど?」

 

 

「…まぁ、あったと言えばあったな。…人が多い所が苦手な妹が今やってる夏祭りに居るんだ。…それに、共に回る約束をした人が居ると言っていたんだ。…それを聞いた私は嬉しく思い、妹の成長を感じる事が出来た。」

 

 

「へぇ、永久ちゃんに妹が居るのは知ってたけどそんな事があったんだね。そう言えば永久ちゃんの妹って何歳なの?」

 

 

「…今年で十七だ。…妹もIS学園に在学しているから、もしかしたらイチカ君達と関わっているかもな。」

 

 

「そうなんだ~。あ、永久ちゃん神殺しのおかわりちょうだい。薄さはそのままで良いよ~。」

 

 

「…分かった。…ほれ。…なぁ束、お前は今この世界は楽しいか?」

 

 

永久は束からグラスを受け取り先程と同じ分量で神殺しと水を注ぎかき混ぜる。そして束にグラスを渡しながら疑問に思った事を訪ねる。

 

 

「?どうしたの突然?ま、そんな楽しいに決まってるじゃん!私の周りに大切な人や親友が居て、沢山の友達が居て、私を慕ってくれる子達が居て、本当に毎日が楽しいよ!そう言う永久ちゃんはどうなの?」

 

 

「…そうか。…まぁ、私も退屈しないくらいには楽しいと感じているさ。…そろそろ時間だな。」

 

 

「何が…「だーれだ。」!?えっ!?ちょっ!?どう言う事!?ねぇ、永久ちゃん!?一体どう言う事!?」

 

 

「…。」

 

 

永久の呟きに疑問に思っていると束の視界が手で遮られ声を掛けられ、その声の主に驚き軽くパニックになっていた。その光景を永久は酒を飲みながら束の質問に答えず静かに眺めていた。

 

 

「な、な、な、な…「ほらほらー、答えないとずっとこのままだよー。それに早くしないと…愛してるよ束。」ほわぁぁぁぁぁあ!?」

 

 

「こんな風に耳元で囁き続けるよー。」

 

 

「…。(…別に害は無し、助ける必要は無いな。…そうだ、確か天照が言っていたな神殺しと天空の夜桜を2:1で合わせると良いと言っていたな。…丁度良い、試してみるか。)」

 

 

「永久ちゃん!?ねぇ永久ちゃん!?マジでヘルプ!お酒飲んでないで助けて!?このままだと幸せすぎてヤバいから!?現在進行形で耳と脳がヤバいから!?」

 

 

「…親友が幸せで何よりだ。」

 

 

「真顔でサムズアップしないでくれるかな!?「ほーら、早く答えないと。じゃないと…さーん…にー」蒼夜君!蒼夜君!ほら!答えたよ!だから囁きは無し!幸せだけど囁きは無し!」

 

 

「正解。もう少しこうしていたかったけど仕方無いね。ま、取り敢えず…約二ヶ月振りだね、束。それに久し振り永久。」

 

 

「…久し振りだな、蒼夜。…束?」

 

 

「スゥ…ハァ…よし!ひ、ひしゃしぶりだね!蒼夜きゅん!ッ~!?///」

 

 

「噛んだね。」

 

 

「…普通、此処で噛むか?」

 

 

「し、仕方無いじゃん!?蒼夜君と二ヶ月振りに会うんだよ!?緊張するに決まってるじゃん!?」

 

 

「ま、そう言う所も含めて好きなんだよね。」

 

 

「何でそう言う事を平気で言えるかな!?」

 

 

「束はこんな僕は好きじゃない?」

 

 

「ッ~!?好きだよ!私をからかうそんな蒼夜君も大好きだよ!」

 

 

「良かった♪」

 

 

「ッ~///と、永久ちゃんも黙って飲んでないで何か言ってよ!?せめて止めるとかさ!?」

 

 

「…束、御祝儀は幾ら包んで欲しい?」

 

 

「何で!?何で御祝儀の話になったの!?」

 

 

「…何となくだが?…まぁ、取り敢えず束と蒼夜は積もる話もあるだろうから飲みながら話せば良い。」

 

 

「おっと…ありがとね。」

 

 

永久は首を傾げながら束に答え、蒼夜に缶のビールを投げ渡す。それを難無く受け取ると缶を開け少しずつ飲み始める。

 

 

「…それで?…最近はどうなんだ?」

 

 

「至って順調だよ。先月はイタリアので作ってたし、今度はフランスに行く事になってるよ。」

 

 

「…成る程な、聞く限りではかなり大変そうだな。」

 

 

「まぁね、確かに色んな国を回ってるけど、それ以上に楽しいんだよね。その国の文化や技術に触れる事が出来るしね。それに…会える時間は少ないけど、可愛くて自慢の恋人も要るしね。」

 

 

「…///」

 

 

「…恥ずかしがる束を見るのは新鮮で、見てて面白いな。(…仲が良いの構わないがほどほどにしろ。)」

 

 

「それ絶対に本音と建前が逆だよね!?」

 

 

「…すまないな、つい面白くて本音が。」

 

 

「隠す気すら無い!?」

 

 

「アハハ、本当に束と永久は正反対なのに仲が良いね。そう言えば…二人はの関係は昔からそんな感じだったの??」

 

 

蒼夜は束と永久のやり取りを見て笑いながら缶ビールに口を付け焼き鳥を手に取り食べながら、前から気になっていた事を二人に質問する。

 

 

「あー、最初からこんな感じって訳じゃ無かったよ。むしろ永久ちゃんとの出会いは最悪だったからね。あ、今は心から信頼できる親友だからね!」

 

 

「そうなの?今となっては信じられない話だね。」

 

 

「あ、アハハ…(言えない…永久ちゃんとのファーストコンタクトが気に入らないから剣道の試合を吹っ掛けて、面一撃で気絶させられたなんて蒼夜君だけには死んでも言えない…。)」

 

 

「(…とでも思っているんだろうな、束は。…まぁ、此処で言う必要もない事だから束の為にも黙っておくか。)…さて、まだ時間はある事だ楽しむぞ。」

 

 

永久の言葉に三人は自分達の思い出話を楽しみながらそれぞれのペースで飲み始める。そして時間が過ぎる内に酔いが回り潰れる人物が現れる。

 

 

「えへへ~、しょうにゃきゅんだいしゅき~。」

 

 

「おーい、束ー?あ、ダメだ完全に酔い潰れてる。しかも、ガッチリと抱き締められてる。」

 

 

「…まぁ、久々にお前と合って楽しかったんだろう。…飲むペースも速かったし、度数の高い酒ばかり飲んでいたからな。…蒼夜、お前に聞きたい事がある。」

 

 

「聞きたい事?」

 

 

「…お前は何の為に此方に戻ってきた?」

 

 

「と言うと?」

 

 

「…お前は此方に帰ってくる頻度と滞在日数が増えているようだな。…それに今回の仕事に関係の無い帰国に束ではなく私に報告、何かあると思うとは必然だと思うが?」

 

 

「成る程ねー。…あれ?永久に僕の帰国日と滞在日数って言ってたっけ?」

 

 

「…そこにお喋りな兎が寝てるだろ。」

 

 

「成る程ね。ま、永久になら良いかな。実はね、次のフランスと数ヵ国を回ったら本格的に此方で店を開こうと思ってね。その為に色んな物件を見て回ってるんだよ。」

 

 

「…ほぉ、此方で店を開くのか。…まぁ、お前の場合はそれだけでは無いだろう?…例えば、束と関係のある事とか。」

 

 

「…はぁ、永久には敵わないね。そうだよ、それだけじゃないよ。僕もそろそろ覚悟を決めて束にプロポーズしたいと思ってるんだよ。…ただでさえ高校を卒業してから僕と束は会える時間が格段に減ってるのに、束は寂しさを隠して応援してくれて、電話を掛ければ嬉しそうに話して、会えば笑顔を向けてくれて、別れ際には名残惜しそうに見送ってくれる。そんな束が僕は好きだ。だから今度は僕が束の近くで支えたいんだ。」

 

 

「…成る程な。…蒼夜、これは私の単なる好奇心からの質問だが、お前は何時から束を好きになったんだ?」

 

 

「何時からって…恥ずかしいから束には絶対に言わないでね?束を好きになったのは高校の入学式の日に、その…一目惚れ…したんだよ。それでちょっとした事から関わる様になって、ますます惹かれていって、気付いたら一緒に笑い合って僕の隣に居てくれたんだ。」

 

 

「…蒼夜、私はお前が束を好きになった瞬間だけを聞いたつもりだったんだが。…まぁ、まさか馴れ初めまで話すとは思っていなかったがな。」

 

 

「…え?…永久!頼むから今の聞かなかった事にしてくれないかな!?」

 

 

「…それは出来ない相談だな。…蒼夜、私の親友のこれからを頼んだぞ。…束を幸せに…いや、束と共に幸せになれ。」

 

 

「…!勿論、そのつもりだよ。束と一緒に幸せになってみせるよ。」

 

 

「…フッ、なら安心だな。…本当にお前にお似合いの良い奴と出会ったな、束。」

 

 

蒼夜の言葉を聞いた永久は表情に出していないが、グラスを傾けながら嬉しそうにしており、蒼夜は嬉しそうにしている永久に驚きながら束の髪を優しく撫でていた。


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