少しの邪魔が入ったけれども僕は無事に家を出ることが出来た
近くの駅まで歩き、そこから聖應女学院の近くの駅まで行く。一度も行ったことは無いけれども、この聖應女学院というのは広く知られた女学校で、大体の場所が分かるくらいに有名なのだ
して、到着
校門の前には守衛室があるのを見る限り、相当な警備を敷いてあるのだと云うのが分かる。史が後に昨年くらいに女子生徒が襲われた事件があったからと教えてくれた
「すみません、身内の迎えに来たのですが」
僕は守衛さんにそう声をかける。守衛さんは顔を上げて僕を見て、しばらくしてああ、入っていいよって云った。それで良いのか、守衛さん
とりあえず校門をくぐったはいいけれど、史が今いる寮がどこなのかまでは分からない。だから史に電話することにした
「ああ、史。僕だけど今、校門の近くにいるよ」
『千早様……申し訳ありません』
電話にでると共に史は謝ってきた。はて、何かあったのだろうか
「どうしたんだい?」
『それが、千歳様の弟と云うのを見てみたいと寮の皆さんが仰っていまして』
「寮生の人が僕を?」
『はい。私の迎えに来ると聞いて興味が湧いたようです。申し訳ありませんが来て頂けませんか?』
急だな。迎えに行った僕まで遅く帰ると無理言って出てきたから母さんが何と云うか……
「はぁ、わかった。少しだけだよ?」
『ありがとうございます』
「校門の近くにいるから迎えに来て」
『承知致しました』
ピッ、と電話を切り当たりを見回す。夜、光がないからわからないけれど昼ならばきっとここは綺麗な桜並木道であるに違いない
『ちーちゃんは美人さんだから女装すればぜーーーったいバレないよ!』
ふと、千歳さんの云ったことを思い出す。もし、ありえないがもし僕が女装をしてこの桜並木道を歩いているとしたら
自分でもありえないと思ってはいながらも考えてしまい、フフッと笑ってしまった
「千早様、お迎えに上がりました……どうなされました?」
「いや、なんでもないよ、史。さあ行こうか」
「そうですね、皆さんがお待ちしてます」
「……あまり期待されても困るんだけどね」
そう云いながら桜並木道から少し外れた道を歩き、そして質素ながらもお嬢様学校にふさわしい建物が見えてくる。おそらくそこが寮なのだろう
「お、おじゃまします」
史が扉を開き、僕はそう挨拶をする。扉の向こう側には女の子たちがこちらを見ていた
「え、ちょ、千歳ちゃん! 弟って云いましたですよね!? よね!?」
「はい! 弟の千早、ちーちゃんって呼んでいいよ!」
何勝手に人の呼び方を決めているんですか千歳さんは、そう云いたかったけど初対面の人ばかりだったのでグッとこらえる。こういうことはいつものことだから慣れたと云えば慣れたけれど
見ると、目の前にいる少女たち全員がぽかんと口を開ている状態で
「いつもの事ながら、千早様の容姿に驚かれているようですね。女装無くともこの学院に……」
「史、それ以上は言わないでくれ。男としての大事な何かを失いそうだから」
「史は事実を申したまでです」
「くっ」
僕はそこまで女の子に見えるのか
「お、お、お、男!? ちょっと千歳っ! 本当にこの子が弟なの!?」
「薫子ちゃん、驚きすぎだよ。まっ、ちーちゃんは可愛いし当然の反応だよね~」
「うっわー、すごい。色以外全く千歳と同一パーツで出来ちゃってるよこの子」
「あ、あの、ちょっと近いです……よ?」
八重歯が特徴的な少し日に焼けた活発的な少女に詰め寄られて狼狽する、と一歩下がるとそこは扉でこれ以上下がれない
「由佳里お姉さま、千早様がお困りです」
「あ、ごめんね」
史にそう言われて由佳里お姉さまと呼ばれた少女は僕から離れた、と史にクイクイと袖を抓まれる
「千早様、自己紹介を」
「あ、うん。えっと僕は御門千早と云って、そこの千歳さんの弟になります」
「男……私よりも全然可愛いじゃない」
そう云われても、と崩れ落ちる黒髪長身の女の子を見つめながらそう思った。と云うかそこまでショックなのだろうか
「千早様はもう少しご自身の容姿に関心をお持ちになってください」
ああ、関心は持ってるさ。どうすれば男っぽくなるかとかね!
「本当に男の子なのですか?」
「『本当に?』って聞かれてもそうですよとしか云えませんよ、奏先輩」
一同は本当に千早が男と理解できない―――否、したくないのだろう
「ね、千早ちゃん! どうしたらそこまで綺麗なお肌になるんですか!」
初音にそう云われながら千早は頬を抓まれる。抓まれた千早の頬はシミひとつ無い透き通るような真っ白な肌で、またキメの細かい触ってて心地の良い肌だった。余談だが、それは千歳も同じである
千早も男であるから、そのように初対面の少女にずいっと詰め寄られ顔を見られるというのは気まずい、いや、女であっても気まずいだろうと彼は考えた
「初音お姉さま、千早様は今まで何もお手入れ等されておりません、髪も同様です」
「嘘!? こんなにさらさらってしてゆるっとしてふわってしてるのに!?」
薫子も初音同様に千早の髪の毛を好き勝手弄っている。この光景を千歳は笑いながら見つめて、上級生二人は呆然として見ていた
「由香里ちゃん」
「何?」
「どうして私たちの近くって瑞穂お姉さまと云い、紫苑お姉さまと云い、美人な方ばかりなのでしょうか?」
「さあ」
瑞穂お姉さま、紫苑お姉さまと云うのは彼女らの姉であり、去年の卒業生である。瑞穂は昨年のエルダーシスター、簡単に云うと学院生全員の尊敬を集める生徒に選ばれるほどの美貌と知性を備えた人だった。紫苑は病弱で留年したものの、瑞穂の前のエルダーシスターを務めた生徒である
そんな彼女らと関わりのあった奏、由佳里はそのような女性に憧れると共にその美貌が羨ましくもあったのだ
それに、今この場に現れた少年は銀の髪、菫色の瞳も相まって彼女らの姉と同等の美少女に見える。彼女らも十分美少女と云える外見なのだが、それを超える人とどうしても比較してしまうためにどうしても卑屈になってしまう
「あ、あの二人共? そこら辺で……」
「いえ! これは全女子に対する挑戦です! ね、薫子ちゃん!」
「そうね、初音。男で手入れしてないでこれ……秘密を解き明かす必要があるわ!」
しかし、この少年の登場が中々距離の縮まらなかった薫子、初音の距離を縮めてくれたようで奏と由佳里はまあいいか、という心境になったのだった
「わー、ちーちゃんモテモテだね~」
「世の殿方が希望しているモテ方とは少し違うと思いますが」
その日、結局帰宅が遅くなった千早と史が妙子に怒られたのは簡単に想像できることだろうが、そんなことを気にすることが出来ないほどに千早は薫子と初音に色々と質問攻めに合うのであった