それではどうぞ。
変更を加えました。
鋼の魔王紫藤誠。災いを呼ぶカンピオーネ。
その誠がこのオルレアンの町に来ている。普段であれば凶報でしかないこの知らせは、今この時においてはこれ以上無い吉報であった。
ブルーノは一瞬理解出来なかった言葉をもう一度、頭の中で咀嚼しながら円卓に駆け込んできた伝令に確認を取った。
「……それは確かか?」
「はいッ!自分が町を巡回中に紫藤王のお姿を拝見し、声を掛けされて頂きました!
そして今、オルレアンの森で起きている異変をお伝えし、ご助力を願いました。
自分の手前勝手な判断で、事後報告となってしまい申し訳ありません」
「…どの様な状況であってもお前の行動は許されるものではない。お前への処罰は追って伝える。だが、お前がもたらした情報の価値を吟味すれば、それ程重くなる事は無いだろう。
…それで、王は今、どちらにいらっしゃる?」
「はっ、総帥であられるブルーノ様に詳しい話を伺いたいと仰せなので、この『聖女の城』の来賓用応接間にお通ししております」
「そうか、分かった。直ぐに向かう。下がっていいぞ」
「はっ、失礼します」
伝令の構成員が退室した後の円卓は、不思議と時が止まったかの様な静寂に満ちた。
ブルーノはその静寂を破る様に一度大きく溜め息を吐き口を開いた。
「些か想定外の事態であるが、私はこれから紫藤王との謁見に向かう。
この場は一旦、閉会にしたいと思う。」
「お待ちください。総帥。本当に大丈夫なのでしょうか?
紫藤王は苛烈な王であると耳にした事があります。もし、ヴォパン侯爵の様な方であればより被害が拡大するのでは?」
紫藤誠が起こした最も有名な騒動は?と聞かれれば多くの者が『アメリカ軍元帥虐殺事件』と答えるだろう。
当時、太平洋戦争で戦勝国であったアメリカは超大国である自国にカンピオーネが居ないのを不満に思い、たまたまアメリカに来ていた敗戦国のカンピオーネである誠に軍隊を差し向け、隷属する様に迫ったのだ。
その時に怒り狂った誠は、その場にきた軍人を1人残らず虐殺し、アメリカ軍陸、海、空の元帥の邸宅に押し入りその首を刎ね、その足でホワイトハウスを制圧し、大統領の前に3つの生首を置き『次はお前だ』と言ったのだ。
当時の大統領はすっかり恐慌状態に陥り、体中のありとあらゆる穴から体液を垂れ流しながら何度も許しを乞い、二度と誠に逆らわない事を誓い、何とか見逃してもらったのであった。
この事件の反省からアメリカはカンピオーネに対し最大限の敬意を払う国になり、政治家達は今まで以上に魔術界には関わらなくなったのだ。
この事件を知るティメオは不安を拭い取る事が出来ずにブルーノに問い掛けた。
「そうですぞ!危険すぎます!
矛先がいつ此方に向くかもわかりませぬ!」
「万が一我らにその矛先が向けば、それこそどうしようも無いではありませんか!」
「然り!やはり此処は何としてもサルバトーレ卿に来て貰うほかありまーー」
「静粛に!」
ティメオをの言葉を皮切りに急展開する状況を飲み込めて無かった面々が、慌てて喚き始めたが、ブルーノの一声に皆一様に口を噤んだ。
「皆の不安もよく分かる。
確かに紫藤王は、苛烈さでその名を知られている。だがそれは敵対者に対しての話だ。かの王は敵対もしていない者に力を振りかざすヴォパン侯爵程の暴君ではない。
それに、かの王が世界中を放浪するのは獲物ーーまつろわぬ神を求めての事だと聞いている。
まつろわぬ神がこのオルレアンに居る以上、我らが対応を間違えなければその矛先が此方に向く可能性は低い。故に希望は十分にある。
…まだ何かあるか?」
ブルーノの言葉を聞き、これ以上喚く者は居なかった。それは、もしかしてブルーノならばカンピオーネとの交渉も上手く纏められるのではないかとの期待でもあった。
ブルーノは静まり返ったその場を眺めもう一度口を開いた。
「これにて閉会とする!各自、最大限の警戒をしながら持ち場に戻る様に!
…ティメオとエリーゼは私について来い。」
円卓の間を後にした3人は紫藤誠の待つ来賓用応接間へ続く廊下を歩んでいた。華美と言う訳ではないが、所々に施された装飾や絵画、骨頂品などが威厳と歴史を感じさせる場所である。
その廊下を歩きながらティメオは前を歩くブルーノに対してある疑問を投げかけた。
「総帥。お嬢様はともかく何故私も同行させるのですか?
カンピオーネは常識が通用しないと聞きます。私が役に立てるとは思えないのですが…」
「父上、私を同行させる理由も教えて頂きたいです」
その問いに対しブルーノは立ち止まり、後ろを振り返り、2人の顔を見ながら答えた。
「ティメオ。私はお前を次期総帥候補にと考えている。
此処でカンピオーネと言う存在を知ることは、お前にとって大きなプラスになるだろう。そう考えお前を同行させる事にした。」
「なッ、何を仰っているのです!新参者である私がお嬢様や古参の方々を差し置いて総帥などとありえません!」
「私が思う組織の長に必要な物は情報の理解能力、冷静な判断力、そして政治能力だ。
無論、魔術の腕もあった方が良いが必須ではない、戦うことは周りに任せれば良い。
お前は十分に条件を満たしている。
それにこれは、まだ正式に決まった訳ではない。あくまで候補だ」
「……分かりました。可能性の1つとして胸の内に留めておきます。」
「エリーゼに関しても同様の理由だ」
「父上、私も総帥候補なのですか?」
「そうだ。最もお前の場合はティメオとは違い、その実力で皆を引っ張り満ちを示すーー私に近い指導者になるだろうがな。
それに……これからの未来を担うお前達には知っておいて貰いたいからだ。
この地上に君臨する理不尽の塊であるカンピオーネと言う存在を。
魔術師である以上、目を反らす事の出来ない現実を。天上の神をも殺す地上の覇者を…!」
そう言いブルーノは苦虫を噛み潰したかの様に顔を歪めた。
初めて見るブルーノのその表情に2人は驚き、同時に理解した。
これから会うのはブルーノを持ってしてもどうする事も出来ない真性の怪物なのだと。
所々に黄金が散りばめられ、巧みな装飾が施された扉の前に3人は立っていた。
扉の奥からは『聖人』でありフランスで5指に入る呪力量を誇るエリーゼすら霞んで見える程の莫大な呪力が感じられ、3人は改めてこの中に居るのは人外の存在であると感じた。
ブルーノは一歩前に踏み出し、一呼吸おいてから扉をノックした。
「入れ」
王の許可が下りたのを確認してから3人は扉を開け入室した。
「「「失礼します」」」
扉の奥で3人を待っていたのは全身から呪力を走らせ、絶対者のオーラを纏いながら、応接間に置かれた豪勢な椅子に足を組み肘掛けにひじを立て掌で頭を支えながら此方を見下し不敵に笑う金髪紅眼の少年。
鋼の魔王、紫藤誠の姿であった。
如何でしたでしょうか?
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