(鋼の弱点は超高温。アグニの炎は鋼に対する俺の切り札の1つだ。…あの異様な硬さを考えると仕留めてるとは思えねぇが手傷くらいは負わせただろう)
後に『炎神の衣』と名付けられるこの権能は、誠がまつろわぬアグニから簒奪した物である。
その力はアグニの炎を羽織の様に纏い、纏っている間はあらゆる攻撃を焼き尽くす防御型の権能である。
その性質上、炎を飛ばす事が出来ないため、攻撃に転用するには直接炎を打ち込む必要があるが、高い攻撃力を誇る為、誠は鋼に対する切り札として好んで使用する権能である。
オルランドを飲み込んだ火柱は天高くまで登っており、辺りの地面が融解している事から凄まじい熱量である事が伺える。
炎の勢いがだんだんと衰えてきたのを見た誠がその場から離れ様とした時、炎の中から手が伸びて来て誠の右腕をしっかり掴んだ。
「ようやく捉えたぞ、神殺し」
炎の中から出てきたオルランドは火傷1つ負っておらず、全くの無傷であった。更には『炎神の衣』を無視して腕を掴まれている事に流石の誠も驚愕した。
「なッ、テメェ!」
「こうして掴んでいれば逃げる事も出来まい!」
そう言ってオルランドは誠を左の肩から腰にかけてデュランダルで一閃した。
「ガァッ!」
「ヌゥ!」
誠は斬られた直後に腕を掴んでいるオルランドの左手の甲に魔弾を放ち、衝撃で拘束が緩んだ瞬間に神速で一気に距離をとった。
「ハァー、ハァー…」
(どうなってやがる!あいつが幾ら硬ぇといっても限度があるだろう!アグニの炎を喰らって無傷はありえねぇ!
…けどこれで分かった事もある、あいつの硬さは鋼の権能じゃねぇ、もっと別の何かだ。だが何だ?あいつを守る力の正体が掴めねぇ)
「仕留めたと思ったが存外しぶといな。流石、神殺しだ。このデュランダルの一撃を喰らって生き延びるとはな。
だがその体では最早満足に動けまい。勝敗は見えた、諦めてデュランダルの錆となれ。」
「生憎と俺の辞書に諦める何て言葉は存在しねぇんだよ」
「フン、度し難い程に愚かな奴だ。
良かろう!今度こそ首を斬り落としてくれる!」
「チッ、クソが!」
再び、接近しようとするオルランドに対し誠は『王』で武具を展開し、それを『炎神の衣』を伸ばして包み炎を纏わせて放ち始めた。
しかしそれはオルランドにダメージを与える事が出来ず、誠は劣勢に立たされていた。
戦場から離れた位置で戦いを見守っていたエリーゼは、形勢がオルランドに傾いたのを感じ、何とかオルランドの不死の秘密を解き明かそうとしていた。
(如何にオルランドがフランスを代表する英雄神だとしても、間違いなく鋼の神格。弱点たる炎の権能で無傷である筈がない。
だとすればあの不死の秘密は何だ?
オルランドの伝承から考えられる権能は『怪力』『神馬』『デュランダル』『オリファン』などがあるがこの中に不死に関係しそうな権能は……)
その時、エリーゼの近くにオルランドがデュランダルで弾いたクレイモアが辺りの地面を吹き飛ばしながら突き刺さった。
「きゃあ!……コホンッ」
思わず変な悲鳴を上げてしまったエリーゼは恥ずかしくなり、誰も見ていないのに咳払いをした。
(これは紫藤王の武器か。しかしこれも神具か、本当にどれだけ持っているのやら、私にも分けて欲しいくらいだ。
それにしても流石神具だな、デュランダルに斬り払われて傷も付かないとは。
……ん?待てよ。それはおかしくないか?如何なる剣にも勝る切れ味を誇るデュランダルに斬りつけられたのならもっと破損している筈だ。それなのにこのクレイモアは破損はおろか刃毀れすらしていない。もしかしてデュランダルの力はその切れ味ではない?)
デュランダル。それは不滅の刃の意。デュランダルは決して折れず、曲がらず傷つかない。何故なら、その黄金の柄の中には、聖ペトロの歯、聖バジルの血、聖ドニの毛髪、聖母マリアの衣服の一部と多くの聖遺物を納められたいるデュランダルはキリスト教の象徴とも言うべき物だからだ。
故に、デュランダルはキリスト教は永遠であると言う概念が込められた、決して折れてはならない剣なのである。
(そうだ!デュランダルに込められた力は『永遠』や『不変』だとすれば説明がつく!
切れ味が刃毀れしない事に由来するなら、クレイモアの硬度がデュランダル生来の切れ味を上回っていれば破損もしないだろう!
…その力が担い手にも及ぶとすれば?
担い手はデュランダルがある限り決して傷つかない無敵の存在と化す!)
答えにたどり着いたエリーゼは、その事を伝える為に今、まさにオルランドとぶつかり合おうとする誠に向かって、声を張り上げた。
「紫藤王!オルランドの不死はデュランダルによる物です!
デュランダルに込められた『不変』が担い手にも及んでいるのです!」
「その体で良く此処まで生き延びた物だ」
オルランドの前には、全身に切創を刻まれ至る所から血を流し、肩で息をする誠がいた。
何度、魔弾を受けても傷付かないオルランドに誠は次第に押し込まれ、だんだんとオルランドの攻撃が当たり始め、誠は最早、死に体と言っても過言ではなかった。
(クソッ!奴の不死の正体が掴めねぇ!
…挽回する為の権能はある。けどそれで彼奴の不死を突破出来る確証がねぇ。
…だが、このまま続けても死ぬのは俺だ。仕方ねぇ、一か八かの賭けになるがやるしかねぇ)
「ムッ、貴様、最初につけた胸の傷が殆ど癒えているな。その炎の権能は回復の力もある様だな」
『炎神の衣』はアグニの炎である。アグニの炎は人の健康をもたらす炎でもある為、纏っていれば自然と体を最善の状態まで回復する様になっている。
しかし、回復や再生の権能ではない為、致命傷を癒す事は出来ない。また、再生速度も遥かに劣る。
「体の頑丈さは昔からの取り柄なんだよ」
「ほざけ。ならば心臓をえぐり出し、首と胴を泣き別れにするまでよ。見た所、再生力は大した事ない様だからな」
「なら、俺はお前の体の中に直接、とっておきをご馳走してやるよ」
「吠えたな、神殺し!」
オルランドが斬りかかり、誠が新たに取り出した長剣で受け止め様と構えた時、遠方からエリーゼの声が響いた。
『紫藤王!オルランドの不死はデュランダルによる物です!
デュランダルに込められた『不変』が担い手にも及んでいるのです!』
その言葉に誠は思わず顔を向け、オルランドもまた足を止め、離れた位置にいるエリーゼの方を向いた。
「羽虫と思い放って置いたが、存外いい目を持っている様だな」
「なるほどなぁ。まさかお前の不死がデュランダルによる物だったとはなぁ」
誠は思いも寄らない所から答えを得られ、漸く分かったオルランドの不死の源であるデュランダルに視線を向けた。
その視線に気づいたオルランドは、見せつける様にデュランダルを掲げ声を上げた。
「如何にも!このデュランダルこそが我が至宝!デュランダルある限り我に敗北はない!」
掲げられたデュランダルは陽の光を受け、眩く煌めいていた。
次で決着を付ける予定です。
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