セブンスドラゴンⅢ~俺なんでかISDFやってます~ 作:定泰麒
東京から帝竜が消え去った時、世界は終わりを迎えようとしていた。
かつて大国だった国も小国だった国も関係なく、圧倒的な竜による攻撃に秒単位で何百人と命が失われていく。
その中で東京という一つの都市が生き残ったのは運が良かったと人々は言う。
ただ偉大な科学者がかつてこのような事を言った。
『偶然はない。全ては必然である』
であるならば、東京という都市が生き残れたのは偶然ではなく必然的だったのかもしれない。
「『東京タワー』で何があったのか、誰か説明できる者はいないか?」
ヨリトモが横須賀に帰り着いた時、ユウマを医療班及び科学技術班に優先事項と言いつけて彼を預けた後、何があったのかを確認するために上役達がいる会議室に駆け込んだ。
「落ち着け、提督。我々もまだ確認してはいないが一つ確かな事がある。帝竜級がこの東京から消えたという事だ」
「長官。それは先ほど通信で聞きました。問題は部下がどうなっているのか、そして帝竜はどのように東京から消えたのかという事です」
「ふむ、それについてはさしずめ察しがついていないことはない。ほら例のトウジ君が倒したのではないかという事だ」
「無理でしょう、流石にトウジでもそれは無理がある。運が良いとかそういう事では不可能な物。それに聞けば帝竜達は東京タワーに向かっていたという話でしょう。あそこには一体なにが隠してあるんです! 長官!」
それに対して、アクツ長官は苦虫を潰した表情を浮かべた。ヨリトモはそれを見て何かあると読み取った。
「極秘だ。そもそも私にもわからない。最も上にいるお方でなければ知ることはできない」
「そんな極東支部の総司令が知らないというのは許される事なんですか!?」
「許されるなどという問題ではないのだよ。私だって遺憾に思うが、それを知る権利はたった一人しかない。ISDFの最高総司令官その一人にしかな!」
ISDFが世界を統治できたのは、全てその人のおかげだという話がある。
2021年、『13班』がフォーマルハウトを撃破した後、竜に蹂躙された世界で、もはや各国の政府は完全に機能を失っているに近かった。
残された人々に個人達だけで生き残っていく能力は、ほとんどない。
家族に恋人、友人が死んでいくなかで運良く生き残れたのに自分を待ち受ける運命が竜によって殺されるのではなく、餓死なのだと考え自殺するものだって出ていた。
その中で急速に力をつけてきたのがISDFだった。初代ISDFの司令官が全世界同時に救助活動であったり、支援活動を行った。
最初は小さい組織だったが、活動が認められ、世界中に隊員の数が増えていった。
2100年には、世界をほとんど統括するような組織にまで成長していた。
その中で、日本の中心にあったムラクモ機関はISDFに吸収されたとある。
ただその過程は、誰にも知らされる事はない極秘であり、結果だけが世に知られる事になる。
そう案外ISDFには、秘密が多い。その中でも一番秘匿にされている情報は、ISDFの総司令官その人の情報。
名前も顔も、性別さえも知っている者はほとんどいない。
ただまことしやかに、囁かれている噂がある。
ISDFの総司令官は、不死身の人物であるという物だ。
その噂が何故生まれたのか、ISDFという組織で登りつめた先は各国の司令までしか行かないのだ、いやいけないと言った方がいいのだろう。
何故ならば、そう上はISDFの総司令官という席しかなくそこに歴代の長官達がその席についたという資料も歴史もないのだ。
無論、実は極秘裏に総司令官の席についていたという説もあることはあるのだが。
地球が太陽の周りを回る度に、人は年をとる。人が年をとれば最終的に行き着くのは死だ。
よって世代交代というのは、いつになっても変わらない。
でなければ、組織は終わってしまう。だが、総司令官の情報があまりに秘匿にされている為、その席の世代交代が行われているかがわからないのだ。
よって生まれた噂が、ISDFの総司令官は不死身という事だった。
「帝竜級が撃破されてから、事態が収束されつつあるわね。このこと13班にも教えてあげないといけないわね」
「ふーん、何をどう伝えるの♪」
「何をって、東京の現在の様子に決まってるじゃない」
ノーデンス社の方にも、帝竜級撃破の情報は入っていた。ただノーデンス社としてはエデンに送り出している13班の方が重要であり、東京など二の次なのだが、この二人がどうしてもほおっておけない『トウジ』の情報だけは常に入ってくるようにしていた。
「へぇ、トウジ君が消えたっていうことも伝えるのかな♡ そんなことしたら勝てるものも勝てなくなると思うのよね。特にキリカちゃんは……言うまでもないわね」
時々垣間見えるアリーの本心に、ジュリエッタは怯えを感じた。だが、それについて自分の中であまり深く考えないようにしていた。
その答えを知ったら、自分が自分でなくなるかもしれないと考えるとどうしても仕方がない。
嘗て、アリーに『あの話』を持ちかけられた時に自分はアリーに全てをかけたのだ。
「じゃあ言わないでおいた方がいいっていうの?」
「こっちが全ての情報を得るまで何も伝えない方がいいと思うわ。特に『紅杭の塔』での出来事を解明しないことにはね」
「わかったわ……、じゃあミオには何も言わない様に言っておくわね。あの子も多少は知ってるから」
「それでいい。じゃあ私は『紅杭の塔』の情報を調べてくるわ。後はよろしくね♪」
そうしてアリーは、ある人物に会いにノーデンスから『紅杭の塔』へ向かった。
2020年、2021年、そして現在まで唯一、最前線で竜と戦っている男がいる。
かつてムラクモ機関の最後の総長キリノ・アヤフミ。又の名をブラスターレイブンと呼ばれる男だ。
彼は歴史の生き証人として、2021年からおよそ80年間世界を守ってきた。
次の竜の襲撃に備えて、彼は世界を変えてきた。
最初は、ムラクモ機関と別に組織を立ち上げたのが始まりだった。
主に、人命救助と生活の支援を中心に考えられた組織だ。
ムラクモ機関は、竜に対する人類の反撃の証であり、救えるのは自分達の近くにいる人達だけだった。
それに、黒のフロワロの影響で体を機械仕掛けにしなければいけなかった事もあり、ほぼ不老不死のような存在になった。
そうして常に裏方として、世界を守ることにしたのだ。
80年の中で様々な事があった。人命救助の為の組織がISDFと名前を変え世界の中心となる組織となった。
元々の人員は、ムラクモ機関から出ていたものの竜の影響が薄くなるにつれISDFとしての活動の方が重要になっていき、最終的にISDFに吸収という形でムラクモ機関とISDFを統合することにした。
そう、このキリノこそがISDFの最高総司令官なのである。
それを知る者は、ほんの僅かだ。だからこそ彼はトウジの情報を簡単に得ることができたし、活動を制限される事はなく行動が出来る。
そして『紅杭の塔』又の名を『東京タワー』の地下はブラスターレイブンの行動拠点になっていた。
全ては、人類の最終兵器を守るため。自分自身のメンテナンスといずれ来たる竜の襲撃の為に永い眠りについた『13班の彼女』を見守るためだった。
そんな場所に突然の来訪者が訪れる。
「ついに来たんだね。アリーさん、いつか来ると思ってたんだよ」
「正体不明のヒーローね。ジュリエッタがあなたの事を調べ始めたからようやく正体がわかったのよ☆」
ブラスターレイブンのマスクが外され隠されている素顔が現れる。
「それで何故ここに?」
「トウジ君が消えた時、ここを守っていたし、彼が消える瞬間キリカちゃんに近い反応、でも確実にもっと強い反応が出たの。もしかして彼女はここにいたの?」
「さあどうだろうね。部外者の君に教えるつもりはないよ、正体不明の社長さん」
「面白い。トウジ君と謎の強い反応そしてあなたの反応がここにあった時、帝竜が消えた。その後トウジ君と『彼女』が消えた。あなた完全なタイムマシンを開発したわね」
アリーは、地下基地を見渡しながら、そう言ってのけた。元々予想はしていたが、目前にある機械はノーデンスにあるそれとよく似ている。
「時間はたっぷりあったからね。それでもトマリ君のアレがなければ完全には完成しなかっただろうけど」
トマリとは、ジュリエッタの本名だ。キリノは彼の事を注目していた。
「これをISDFに使わせなかったのは何故なの? やっぱりうちの会社を監視するため?」
「それもあるけど、一番の大きな理由は今の13班を見守るためかな。まあサードエンカウントが起こったせいで今はそれどころじゃなくなってしまったが、それとこっちからも一ついいかな?」
「いいわ、なに?」
アリーは軽く目を見開き、キリノを見つめる。キリノはその瞳に戦慄を覚えた。その感覚は昔味わった感覚だ、圧倒的絶望を垣間見たのだ。
「竜斑病の事を教えてくれないかな。アリーさんはなにか知ってるんじゃないのかい?」
「ふふ、いいわ。これは私の推測でしかないけどいいかしら。あの病の症状は知っての通り慢性的な風邪の症状とよく似てる。でもね、特殊な症状も出るときがあるの。いえ症状とは言えないわ、ある種の成長を促す作用があるの」
「なるほど、それで納得いったよ」
キリノはそう言いながらも、悔しさをこらえきれない様子だ。何故なら竜斑病とはなんなのかを理解してしまったからだ。
「やはり貴方は頭が良いわね。だからまだもう少し生かしてあげる。だからこっちから最後の質問に答えなさい。トウジと『彼女』はどこに飛んだの!?」
「……少しだけ、過去に飛んだのさ」
「そう、わかったわ♪ じゃあまた会いましょう♡ ……まぁ次に会いに来たときは貴方が死ぬ時だけどね」
そうしてアリーは、 紅杭の塔から去っていった。
絶望に震えるヒーローを残して。ただ彼は希望を残していた。ほんの80年前に飛ばしたトウジと人類のために今まで眠りについていた『トウコ』を。
そのお陰で、絶望に飲まれる事はなかった。