あんまり読んでも読まなくても本編には関わりはありません。
閑話 社畜と子狸 その1
これはこれは、大体六年くらい前のお話。
後々社畜と呼ばれる少年とまごう事無き子だnゲフンゲフン、美少女のお話。
「はあー、何やこの書類の量…絶対嫌がらせやろ……」
管理局、食堂の端の方にて机一つを独占し、その上に大量の書類を乗せて唸っている少女が居た。
少女の名は八神はやて、現在指揮官研修の為いろんなところを回っている彼女なのだが…
「何で一枚で済みそうな事を五枚も六枚も分けておるんや、しかもそれから更に分けられとるし…陰謀か、誰かしらの陰謀が絡んでおるんか?」
はやてが机の上に広げている書類は様々な種類のように見えるがその実、五種類ほどしかないのである。なのに何故、机の上に広げる程の書類があるのか?それは彼女の特殊な事情故に…というかその特殊な事情を毛嫌いする嫌な上の人間によって何枚にも分かりづらいように編集された書類を渡されたからである。
編集された書類は分かりづらい難解な表現に、遠回しな言い方。無駄な言葉に果てには虚偽のものまでと兎に角酷いものであった。唸ってしまうのも当然と言えよう。
そして周りもその事を気にかけない。いちいち気に掛けては身が持たないからだ。
彼女に書類を渡した上司の人柄は簡単に言えば妄執正義人間。自分が信じる正義のみを絶対とし、それ以外を全て悪と決めつけ、己の正義を他者に強要すると言うハッキリ言って害悪な人間である。だが、それでも管理局内での立場は上の方で下手に逆らえばクビにされる。管理局員は事務職であれ、戦闘職であれ、基本クビにされることはなく給料もいい職業だ。それをクビにされてはたまらないだろう。
書類について唸ってる彼女に手を貸すと言うのは上司に逆らうということと同義だ。だから周りの局員たちは誰も手を貸そうとしない。
――誰か助けてくれればいいのに
そうはやてが思ってもその可能性はかなり低い。間違いなく、正規の職員が助けてくれることなど無いだろう。……そう、『正規』の局員なら――
「なにうーうー唸ってるんだ?」
「へ?」
はやてに声を掛けたのは同じ年くらいの少年。少年は管理局員の制服は着ておらず、本来なら居てはいけない筈…そうはやては思ったが、彼が首に掛けているIDカードを見て合点が行った。
IDカードにはこう書かれていた。
『管理局員非正規雇用者 ID番号114514
名前:ピース・ルナセル 年齢:15 担当職:事務』
非正規雇用者…つまりアルバイトの人のことである。この少年はアルバイトで此処に居るのだ。
そしてはやてはその声を掛けられたことよりも、彼がアルバイトの人間であることよりも
――っていうか事務職のアルバイト…その歳で出来るんかい!
自分と同じ年でアルバイト…しかも管理局の事務職のアルバイトをしていることに驚いた。
「…なんだこれ、メチャクチャだな。誰が作ったんだこんな書類」
「やっぱりメチャクチャやったか…ああ、それな。それは○○○○っていう人や」
「ああ…あの人か」
はやては話かけてきた少年、ピースに書類を見てほしいと頼んだ。
もしかしたら、ミッドではこの程度普通のことで簡単に済ませられる書類なんじゃないかと疑いもしたが、心の内で聞くは一時の恥、聞かぬは一生の恥と言う言葉を思い出し聞くことにしたのだ。そして帰ってきたのは書類がメチャクチャだと言う返答。それを聞いて「よかった…聞いておいて…」と思った。
「ちょっとそっちのヤツも貸してみろ」
「ほい」
「……成程な、これ別の偉い人達からサイン貰ってこいってやつだ。最低三人って書いてあるな」
「分かるんか!?」
はやては少年に言われて残りの書類を渡せば、少年は僅か数十秒で読解してしまった。それにはやては驚く、自分があんなに唸って理解しようとしてたものを直ぐに分かってしまったのだから。しかし少年は、
「これ、矛盾したり変に分かりづらい説明が出てるから完璧に読ませるつもりで作った書類じゃないな。嘘も入ってる」
「嘘まで入ってたんか…どこまであのおっさん意地悪なんや」
「あの人は自分が好むもの以外は皆駄目だって決めつける人間だからな…何かあの人の癇に障るようなことでもしたか?もしくはあの人に嫌われる経歴をもってるとか」
「あはは…昔ちょっとやらかして」
「…そうか」
―――あんまり、聞いてこないんやな
少年ははやてがはぐらかしたことに気付き、そして聞かなかった。はやては何故と思ったが、少年からすればはぐらかすのだから聞かれたくないことなのだろうと思い聞かなかった。
そして少年は書類を持って立ち上がる。
「よし、ちょっと着いて来い」
「ちょ、どこ行く気なん?」
「俺が働いてる所の人にサインを付けてもらうのとこの書類について言う」
「え、ええんか!?」
はやては正直、何故少年が自分にここまでしてくれるのか分からなかった。
もしかして一目惚れでもされた!?なんて妄想に近い考えも浮かぶがすぐに切って捨てる。見た感じ下心と言う訳ではないようだ。
「別に構わないな。それに俺もこの人の出す書類に文句を言いたかったところだ。仕事をしてると毎回俺の所まで回されてくるんだ、理解できる人が少ないから…御蔭でこっちの仕事量は増えるばっかりだ」
「そっちにも事情があったんやな」
「この人が出す書類の所為で何回残業受けたと思ってるんだ全く………」
歩きながらブツブツと文句を言うように喋る少年。
苦労してるんだなと、なんとなくだがはやては感じた。後、文句は言いながらも仕事は必ずこなしてる所を見ると多分、この少年は社畜の気を持ってるのだろう。そう思った。
「あ、そうや。せっかくなんやし自己紹介の一つでもしよか」
「確かに、自己紹介の一つも出来ないのは駄目だな」
「それじゃあ私から…名前は八神はやて、今は指揮官研修中の身や。歳は君と同じくらいかな?」
「書類を見て指揮官研修中だったのは分かってたよ…」
「じゃあ俺だな。俺の名前は…ピース・ルナセル、管理局の事務員のアルバイトだ。歳は十五だな。ああ、後嫌いなことは強要だ」
「ピース…なんていうかミッドでもあんまり聞かん名前やな」
「だろうな、自分でも変な名前だと思ってるくらいだ」
はやてはピースに着いて行く。
ピースは淀みなく歩いていくので大分この管理局でアルバイトしているんだなと、はやては思った。
「なあ、そう言えば君が勤めてる部署ってどこや?」
「ん?別に普通の警務部隊の人たちの所だ。何でも書類を捌く時間が無いらしくてな、こうして街でバイト募集の張り紙を見つけた俺がやってるって訳だ」
「…え?一つの部署の書類一人でやってるんか?」
「最低限の分は自分でやって貰ってるが…大体俺だな。まあその分給料がいいんだからいいんだけど…あ、いや給料が多くてもバイトなのに残業をさせられてるってのは嫌だな…何で帰りが十時ギリギリになるんだか」
ピースは案外凄い、そしてやっぱり社畜だった。
はやてはピースくんのバイトなのにこのこき使われように少し同情を覚えた。確かに、何故バイトなのにここまで仕事をさせられているのだろうか。きっと多分、彼の潜在的社畜性を見抜いた人物でも居るからだろう。
そうして話してる間にピースの部署の前に着く。部署の扉は大分結構ボロボロだった。
しかし、そんな事気にせずにピースは扉を開けた。
はやての先に広がったのは扉の先の光景…その光景はきっと特定の人(社畜)から見れば泡を吹いて倒れるかもしれない物だった。
書類の山…いやビル群が幾つも積みあがっていた。しかもそれ等全てに『ピース担当』と札が掛けられている。
唖然とするはやて…そしてふと、頭の中にある情報が浮かんだ。
この基地の警務部隊は素行があまりよろしいとは言えず、よく上層部からはお叱りを受けてる…何故解体されないかと言えば大量の雑務を引き受けることで解体を回避している…そういう部署なのだ、ここは。
未だポケーっとしているはやてを置いて、ピースは先へ進んでいく。
はやても置いて行かれてることに気付き急いで後を追うが書類や他の荷物が邪魔をしていてうまく動けない。そしてようやくピースの元にたどり着けばそこはもう終着点(上官の机)だった。
「ああ、この人です。部隊長」
ピースは追いついたはやてを見てそう言った。
ピースに部隊長と呼ばれた人物は、お人よしそうな顔をしたおじいさんだった…が、何となくはやては勘で感じ取る。この人…大狸や……と。
「ほう、君が私に書類のサインをお願いしたいと言う子か」
「は、はい。すいませんがこの書類の内容的にサインを上官からもらわなくては行けなくて…」
「ハハハ、構わんよ。どれどれ…ふむ、全く分からん!ピースくんよ!」
「ちょっとは自分で読む気を持ちましょうよ…」
文句を言いつつもピースは書類の内容を説明しだした。ついでにこの書類の粗悪性も綺麗に説明した。
「成程、○○○○からの書類だったかね…道理で読めないわけだ…さて、それはそうとして…よし、終わったぞ」
「え、そんな簡単にサインもらっていいんですか?」
「何、構わん。私のサインなどあってないようなもので全く権力など持ちはしないが…まあ頭合わせにはなるだろう」
「あ、ありがとうございます!」
はやては礼を言った後、再び書類を避けながら出て行った。それを横目で見ながらピースは部隊長に話かける。
「部隊長、真面目にこの人の書類をやるの嫌なんですけど?」
「ハハハ、バイトが文句を言うとはビックリだ。まあ、
「そうですか…分かりました」
「あ、そうそう。ピース、お前はこの子の補佐についてやりなさい。それが明日からお前の業務内容だ」
「…は?」
部隊長は言う、この子大変そうだし最近はお前に頼り過ぎてるのでこっちのはやんなくていい。だけど働かない奴には給料はやれないのでその子の補佐に着きなさい。そう、ピースに言ったのだ。
翌日、はやては昨日の内に他の部署の人からサインをもらい提出をしに行ったのだがまたも、訳の分からないメチャクチャな書類を渡された。その所為で昨日と同じ様に食堂の端で必死に理解しようと唸っていた。
―――ピースくんが助けてくれないかなー
そう思うが、流石にそれは無いだろうとはやては自己完結をする。昨日のは偶然、彼が上司への抗議として抗議用の書類が必要だったからである。だから助けてくれることはな「それは出張から帰ってきた日にサインをつけてやる。その日に来なかったら絶対やらないって意味だな」
「…え?」
「よお、昨日ぶり」
そういってはやての後ろから書類を覗きいていたのは昨日のように首から非正規雇用のものであることを表すIDカードを首から下げたピースだった。
ピースは少し恥ずかしいそうに頬をポリポリと掻きながらこう言った。
「…なんかお前の手伝いをやることになった。これから、少しの間になるがお前付きの補佐だ」
「…」
―――言葉が出ない、とはこういうことを言うのだろう。
はやては口を開け、ポカンとしていた。その目も大きく見開かれ、信じられないといった風だ。
そして少ししてから開いていた口と目を閉じ、顔を酸っぱいものでも食べたかのようにギューっとさせた後にピースに言った。
「…私の補佐はきっと、割にあわんで?」
はやては、なんとなくではあるがピースがどういう人間かはわかっていた。
ピースは基本的に自分の得のためにしか動かない人間だ。だから、割に合わないであろう自分の仕事は彼にとって無意味であまり得のないものだろう。そう考えたから、そういったのだ。しかし、その言葉を全く気にした風もなくピースは返す。
「補佐をしなきゃ給料はもらえない、だったら働く。だから、まったくもって文句はないさ。それに、お前の補佐はただの書類仕事ばかりじゃなくて面白そうだ」
不敵に、笑いながらそう言ったのだ。その顔を、はやては信じることにした。
「言うやんか…」
「率直な感想だ。………だから、これからよろしくな」
「…そうか!それだったら、よろしくな!ピースくん!」
これが、後に狸と社畜の名で知られる名(迷)コンビの誕生である。
感想は、いつでも大募集中だぜ!
後、これ書いてて気づいた。リインⅡは何処に行ってんだよ