「お目覚めかな」
……周囲が薄暗い、何もわからない。ただ何か……椅子に座らせられている?腕も足も拘束されていないようだが。そして向かい側にも誰かが座っている、寝起きで目が霞んでよく見えないが
「寝起きは弱いのか、オリジナルによく似ている」
この声はツェダクか
「うん、ちょっと君に聞きたいことがあってね。君と共闘した傭兵は今怪我を治してるから安心してくれたまえ」
ここはどこで、何を聞きたい
「その前に君も聞きたいことがあるんじゃないかな?答えることができる範囲で答えるよ」
聞きたいこと……。あの後、戦闘はどうなったのだろう?被害は大きいはずだ、神宮も無事ではないだろう
「数が減ったことにより敵部隊が撤退、傭兵で構成された我々ディマジオの部隊はその場で解散した」
つまり現在神宮を守っている傭兵は
「いない、次攻めてきたら終わりかもしれないね。……それだけならこちらから質問をさせてもらうよ」
ツェダクは1度だけ深呼吸をして間を空けた、そして改まって、しかし声を落とさずにこう言った
「君、サイレントギアって呼ばれる計画を知っているよね」
サイレントギア……?
「シンロータスの近くでグラジオラスにそのデータを渡されたはずだ」
また質問が増えた、なぜそれを知っている?あのデータを受信したのはシレクタのコックピット内での出来事だ、どうやっても部外者であるツェダクには知り得ない事だが
「……その質問にだけは落ち着いた後で答える。まぁ単刀直入に言うとサイレントギアのデータを僕に譲ってほしいんだ、君にとっては何の損もないだろう?」
得も無い
「報酬が無ければ働かない……傭兵っていうのは随分と取引を大切にするようだね、でもその姿勢は良い、君こそが本来あるべき傭兵の姿だ。話を戻すけどその点も考えてある……君の機体はもうただの鉄の塊だ、だからディマジオから機体をプレゼントさせてもらうつもりだけどどうかな」
1機分となるとかなりの値段なはずだが、そこまでしてデータが欲しいのか。……こちらが持ってても特に意味の無いデータと機体を交換できるのだ、これは悪くない。
データをツェダクの端末へ転送するためにポケットから携帯端末を取り出す、……データを送信する準備が出来た、内容を見返してみるとツェダクは勝手にデータを抜き取ったりはしていないようだった。許可を得る必要があったのだろうか
「今、PCにデータを送っている。あと10分くらいで終わるかな……その間、話でもしようか」
ろくな話ではない予感がするが、このまま退屈なのも苦痛だ、聞いておく
「OK、じゃあKrβってしってるかな?」
ケーアールベータ?
「その昔……600年前に猛威を奮っていた兵器さ、限りなく機械に近い「生物」とでも言うべき兵器だった。大きさはシレクタと同じ、しかし燃費も速さも火力もkrβの方が上手だったんだ、化物だけど……ナイフで切れば血は出るし銃で脳を貫かれれば行動は停止する」
それはもしかして神話生物の類なのではないか?
「れっきとした兵器だよ、「クラフトラゼ」と呼ばれる企業が運用していてね。krβの特徴はいくつもあるけど、中でも大きいのは「不老」「意志を持つ」っていう所かな……君は、現代に生きるkrβを知っているはずだよ」
……グラジオラス
「少ない情報で、しかもここで答えを出すとは思わなかったよ、これは驚いたな…」
これは勘だった、シンロータスで遭遇したグラジオラスは明らかに現代のパーツを使っていない
そして何よりシステムが解析した結果だ、こちらが使っているAIは戦闘中にグラジオラスの事を「600年前」の機体と言った、これはもはや答えのようなものでもある
「そうだ、君を攻撃したグラジオラスはkrβだ、元人間のね。そして君がよく知る「傭兵」のグラジオラス、これはkrβのグラジオラスとは別の個体となる」
krβグラジオラスと傭兵グラジオラスは別の人で
なら、なぜグラジオラスが2体も?
「傭兵のほうはオリジナルのクローンだ、この先君が面倒を見る事になるからもう少し情報をプレゼントしよう」
聞くべきか、聞かないべきか。これを聞いてしまったらもう後戻りはきかないような……。
いや、仮にも男だろう、覚悟くらい決めよう
「この世界は我々ディマジオによってループするように出来ている、例としては、そうだなぁ……君は20数年後にとある反逆者との戦闘に敗れて命を落とす。そしてその数年後には地上がすべて焼き尽くされ、全てをリセットした状態から君達の行動は再開される………簡単にゲームで表してみると、第1話をクリアしたけど次の瞬間には第1話をもう1度やっているような感覚だね」
どうやってそんなことをしているのかが分からない、そもそもどこにそんな技術がある?クローンなんてのも聞いたことがない
「だってここは仮想世界だし主導権さえあればなんでもできるよ、現実の君はコールドスリープされている。でも現実の君とここに居る君は別人だ、現実世界にいる人が仮想世界に入る術は無いんだよ」
訳が分からない
「ここでのシュミレーションが終われば君は消え、現実世界にいる「ルドア」に記憶を渡す事になるんだ」
消える……?いや、その前に……なぜツェダクはそこまで情報を持っているのだ、それにここが仮想世界だという証拠も無い
「このシュミレーションを提案したのは僕とディマジオさ、だから全部知っている。証拠の方は出せないかな、証明できる物が無いし……も信じたくないならそれでもいい、消えるという結果は動かないからね」
《作業50%完了》
端末から発せられたその音声により、どこか冷たい空間だったこの部屋は少しだけ暖かさを取り戻す。機械音声で暖まるこんな時代はやはりどこかがズレているのだろうか?
「っと、話の続き聞くかい?」
その問いを軽く断る、事情はだいたい分かったし一気に話されてもバカなこの脳には内容が入らないのだ
「バカって……あんまり自分を過小評価しないように、その自信のなさが精神的な病をも引き起こすんだよ」
きっと疲れだろう、それは
「変な病気じゃない事を祈るよ」
そんな掛け合いも終わり、部屋は再び凍りつく。
情緒不安定、その言葉だけがシミのようにしつこく頭の中でリピートされた。何故だ?落ち着いている、落ち着いているはず、ストレスも無いし精神がおかしくなるようなものには近づいていない
「寝起きだし寝ぼけてるのかも……そうだ、君さえ良ければ仮眠を取るといい、少し歩くが仮眠室があるんだよ」
~~
用意されていたのはベッドなんてものではなく畳と布団、潜り込んでみると案外寝心地は悪くない……もしかしたら自分は日本人なのかもしれない、まぁ物心つく頃には親族がいなかったため知る術もないが
ああ……そういえば最近は「自分の言葉」を出していない、傭兵としての自分が吐くべき言葉と行動を淡々とこなしてきた、本当の自分を見失う前にこの布団の中で自分が本当にやりたい事を考え直してみようか?
……何か食べたい、くらいしか思い浮かばない、なんて面白くない男なんだ自分は
~???~
《システム起動、テストモードを実行します》
「ディマジオ本部、聞こえるかな」
ツェダクは半ば諦めたような、腹ではなく喉から出た声でモニターに語りかける
「返答無し……見放されたか、現実世界にはもう人がいないか」
傭兵の金に汚いイメージを覆すようなシーンも入れなければ、いや金には汚いけども。