\フゥァァァァァ!!/
シンロータス、50年以上前までこの廃都市にあった軍事施設の名前だ。その軍事施設自体は現在機能していないものの、シンロータスに残った「戦闘機」等を見つければ帰る事ができるかもしれない。……戦闘機を操縦したことも、ましてや触れた事も無いが……シレクタと操縦方法が同じなのを祈る。
シレクタは「Boost」または「ブースト」と呼ばれる極めて特殊な加速方法を持つが、消費するエネルギーが尋常ではないため独立行動できる時間が少ない、まぁ馬鹿みたいにでかい金属の塊を動かすのだから当然だ、現在のシレクタは基本「陸戦用」という形で落ち着いているが開発当時は空中戦も想定していたらしい、しかし空中を動き回るほどの出力を実現出来ず、やむを得ずに空中戦は諦めたそうだ。対して戦闘機は「長期戦闘」向きになっていた、凡庸性が売りのシレクタはとにかく臨機応変、多種多様な手段を用意する、戦闘機の性能がどれほど優れていても場所や状況次第ではシレクタの驚異は何倍にでも膨張してしまう。
ならば、確実に勝利を掴むにはどうするか?答えは「逃げ回る」事、シレクタが行動できるエネルギーが少なくなるまで、あるいは無くなるまでシレクタの周囲で回避に徹すればいいという訳だ
《シンロータス防衛ゲート、ハッキング完了。機体をこの場に放棄する場合は、内部データを端末等に移してください》
持っていたタッチパネル式の端末と機体のコンピュータをコードで繋ぐ、シレクタの内部に入っている全てのデータを端末に移してからコックピットの脱出口を開いた
《………》
ノイズが流れたまま、他に何も喋らない。壊れたのか?
《必ず送信されてきた資料に目を通してください》
……?
それを言い終えたと同時に息を引き取ったようにノイズすら流れなくなった、よりによってこのタイミングで本当に壊れたのか、もう戻るに戻れない状況じゃないか。
ため息を吐いてシレクタを出る、シンロータスの扉はビルとビルの間に位置し、人1人がやっと通れるくらいの大きさだ。扉の先は地下へと続く階段が続いていた、端末のライトで足元を照らしつつ1歩、また1歩と降りてゆく、……歩き続けて数分で灯りのついた広い部屋に出た、この部屋には何も無い、あってもおかしくない椅子も、少しの装飾だって無い。しかし不可解な光景を視界にいれてしまった──女の子が、部屋の真ん中で倒れている。
更に驚くべきなのは女の子が白骨化していないということ、ここは50年前に封鎖されて以来この中に足を踏み入れたのは自分が初めてのはず……この少女はずっとこの中にいたという事か?50年も?……馬鹿な、食料も無いんだぞ
「…………………」
女の子は動かない。こちらが女の子の隣を通り過ぎる時に目が合った、目が自分を追っているという事になる。
不思議な事に不気味な事は無い、かと言って安心できる訳では無いが不思議とこの少女に恐れずに声をかけることが出来た、「大丈夫か」と
「……!…………!!」
声を出せないらしい、口をぱくぱくと動かし濁った目で何かを訴えかけているようだ。
とにかく身体が動くかどうかを確認しようと少女の指先を触ってみる、……人間とは思えないほど柔らかい、弾力があるとかぷにぷにしていると言う訳ではなく。例えるなら水の入れた袋を触っているような感覚、その指はから暖かさは感じられず、触っていいものなのか少々不安になった
「!!!!!!!」
………あ。
なん、これ、は、
指が、少女の指が溶けて、消えた。指だけじゃない、顔の皮が崩れるように溶けだし眼球があらわになる、ダメだ、見ていられない
「……」
目を閉じてから数秒後、少女は骨すら残さずに消滅していた、溶けたはずの肉体は液体としても粉状のものとしてもその場には存在せず、文字通り消滅した。最初からそこには何も無かったかのようにだ。
これは幻覚だったのかもしれない
《資料の解読が完了》
その機械音声にビクリと肩を震わせてから自分の持っている端末を見る、送信された資料の解読が完了したようで「資料翻訳完了」と大きく表示されていた。パスワードを解いて資料に目を向ける、見出しは……「Silent Gear」。まず目に入ったのが荒野に咲く花達の写真、赤いシレクタのレポート、「ルーラー」と称される情報管理施設の管理状況だ
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1枚目
我々は失敗したと考えている、全世界は戦場と化し、そう遠くないうちに人類は衰退を開始するだろう。ディマジオはこれに対していち早く気付き対策を練った、その結論が以下のものだ
A:歴史構成・世界の動きを人工的なシュミレーションで把握し、滅亡回避のためのシナリオを完成させる
B:クローンを生成し、人類の存続を確実なものとする
C:戦争をしている国及び組織を残らず消す
まだあったが大雑把にはこの3つが提案され、「A」を実行する事になる、結果はまだ出されていない。
Aは「現在の世界から600年後」までシュミレートを行う
2枚目
この資料はシュミレート内で動いている者が見るための資料だ、どこの世界にだって知りすぎた者は存在する。シュミレート内にもそういう者が居なくてはならない、正確に結果を出すことができないからだ。
この資料を読んでいる君は人工的に作られた世界の住民なのだろう、どのような経由でこれを読んでいるのかは我々には分からない。
はっきりと伝えておくが、君や、君以外に力を持つ者が人類を存続させるという未来を確定させなければシュミレートは放棄され、君の努力や功績は塵のように消え去るだろう
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一応全てのページに目を通すと分かってくる、ディマジオは仮想世界を構成し様々な結果を出そうとしているということ。
仮想世界のシュミレーションは「現実世界と違う点」を数個用意して開始する、例えるなら……現実世界で「A」という名前の男性が腐ったパンを食べたとする、結果は当然「腹を壊す」になるはずだ。
ところが仮想世界では「腐ったパン」を「作りたてのパン」に置き換える、作りたてのパンを食べたAの結果は「腹は壊れない」となる、………これは極端な例となるが、仮想世界でも同じような事が起こっている、現実世界で起きていない戦争が起きていたり、存在しないはずの国や組織が立ち上げられていたり。
戦争が現実世界に起きていないのなら起こせばいいしイレギュラーな存在は元々無かったことにしてしまえばいい、過程はともかく結果さえあればいいのだ。………ここまで読んでみても驚きは無い、仮にこの資料に書いてある事が本当で自分が仮想世界の人間だったとしても自分の生き方は変わらないからだ、あるいは書いている事が壮大すぎて頭が理解していないのか。
《検索終了、シンロータス施設内部に軍用兵器が格納された経歴無し、よって、この施設内にとどまる必要はありません》
ダメだったか。ひとまず頭の整理のためにシレクタに戻る事にする、この資料も溶けた少女の事も深く調べる必要がない……というか関わりたくないとはいえ状況把握はしておかなければ
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コックピットはいつもの風景で体に安心感を与える、起動していないためとっさに動く事は出来ないが、動力を節約しなければいざと言う時にもっとまずい事になりかねない。では状況を簡単にまとめよう、まず自分は帰る手段を無くしている、輸送機はグラジオラス(仮)に破壊されており現在のシレクタ内部に残っているエネルギーだけではディマジオに辿り着けない。
そしてAstとBextの部隊が全滅した事でこの辺りに敵は居ない、が、これはその場凌ぎだ、この事態に気付いたAstやBextの上層部が援軍を出す可能性がある、あいにく単機で部隊を退けるほどの実力は自分には無いため戦闘は避けたい所だ、早急にここを出るべきだろう
《CB OS起動中、シレクタの出撃準備をしてください》
まずは端末でマップを開く、近くに街などは無いか……
見つけた、「神宮」と呼ばれる都がある。ここ日本では珍しいまだ文化が残っている場所の一つだ
《目的地を神宮に設定、ナビゲートを開始します》
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シレクタに標準搭載されている加速装置「Boost」はバーニアで大きな爆発を起こし加速するため膨大な量のエネルギーを消費する、本来なら3回ほど加速を終えたら機体内のエネルギーは空っぽになってしまうが、その問題を解決したのが「ディマジオ」の存在だ、Boost時に常時小規模の爆発をバックパック内で起こす事で持続的に推進が可能となった。
シレクタの特徴であった化け物じみた加速は失われたものの代わりに「凡庸性」を手に入れたのだ。しかし小規模といえどもバックパック内で起きているのは正真正銘の爆発な訳で、当然……
《機体、オーバーヒート》
こうなる訳だ、困ったな。神宮まであと少し、というか見えているのに。
周囲をふと見回す、……ビルの残骸、砂、ゴミ、雑草………見るだけ無駄な地上が続いており、視界を邪魔するものがないため地平線まで見えてしまう
《シレクタの脚部を使った徒歩での行動を推奨します》
確かに機体をこんな所に置いていては回収も面倒だ。
いや、神宮の人達に攻撃されないだろうか?攻めてきたと思われるかも……。傭兵はあまり危険視されていないものの金で動く点は絶対に変わらない、襲撃依頼を受けたのかと警戒はされるだろう
《神宮からシレクタの反応を確認》
コックピットからも人型の影が見えた、敵か?
《分かりません》
気は抜けないか
《シレクタの解析が終了、非戦闘用の作業機と推測されます》
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だがもし、この資料を読んでいる君に戦う力があるのなら。
どうか見せて欲しい、我々が救われる未来もあったのだと。この星に償える未来だって作れたのだと。
2 end
シレクタって真正面から戦ったら戦車にすら負けちゃうんですよね、やっぱり対応力が凄いんやろなぁ(他人事)