僕の名前は
6月6日11時29分35秒生まれ。私立舞島学園高等部2年B組。17歳。身長174㎝、体重53㎏。得意教科は、国語、数学、理科、社会、英語、技術。
好きなものは女子だ。
ただし、2D(ゲーム女子)に限る。
セーブできない。
ボタン一つでイベント場所に移動できない。
好感度のパラメーターが表示されない。
こんなゲーム、クソゲーすぎる。
そう思っている間にも、また一つゲームをクリアした。
PFPに写っているのは画面向こう側にある幸せそうな攻略対象の笑顔。
ゲームを攻略した達成感もあって、僕も思わず微笑んだ。
「神にーさまぁ!、朝ご飯ですよぉ!、早く部屋から出てきてくださ~い!」
そんな幸せをぶち壊すかのように、扉をドンドンと叩きながら、甲高い声で僕の事を呼んでいる。
そのせいでエンディングに流れている音楽が、全く聞こえない。
今、部屋から扉を叩きながら大声で僕を呼んでいるのは、僕の妹の桂木エルシィだ。
いや、的確に説明すると、実妹になった⋯と言った方がいいだろう。
エルシィと出会う前、リアルを嫌っている僕に「攻略してほしい女がいる」というメールがPFPに送られてきた。
その中に、「無理なら絶対に返信しないように」と挑発的な文面に僕は憤慨し、何も考えずに返信した。
その直後、空からエルシィと名乗る少女が降ってきた。
本名はエルシュア・デ・ルート・イーマ。
地獄からはるばるやってきた悪魔とだという彼女は、僕に「駆け魂」という悪人の魂の捕獲を依頼してきた。
当然、そんな面倒くさいこと、断ったが、あのPFPに送られてきたメールの返信が契約の承諾だったらしい。
しかも、契約は解除することができず、駆け玉の捕獲に協力しないと、いつに間にか、取り付けられていた首輪が作動し⋯首をもぎとるらしい。
渋々ながら僕は3D女子の攻略を始めた。
その際に、ドクロウは偽の手紙を使い、エルシィを父の隠し子として桂木家に送り込んだ。
それからは大変だった。
ただでさえ、駆け魂を捕まえることに、ゲームの時間を奪われるのに、あのバグ魔、家を破壊するわ、恐ろしい料理を作るわ、僕が何度、命が擦り切れる思いをしたか⋯
途中に、女神を探したり、過去に飛んだりした。
その結果、エルシィは僕の本当の妹になった。
まぁ、それは置いといて⋯
「ええい!うるさ~い!」
「きゃあ!」
いきなり部屋の扉を開けたことで、エルシィは驚いて体制を崩して尻餅をついた。
「僕に朝ご飯はいらん!ゲームがあればいい!」
それだけ言って、僕はまた部屋に閉じこもろうとした。
⋯が、背後には、いつの間にか、僕の母である桂木麻里が、お玉(僕を殴る用)を装備しているのに気付いた。
ニコニコしながら、僕を見ている母さんがお玉を振り下ろす。
振り下ろした先にあったのは、僕の頭⋯ではなく、手に持っているPFPだった。
「うぉぉぉ!」
僕は急いでPFPをを持つ手を後ろに引っ込める。
「何するんだよ!PFPが壊れたらどうするんだよ!」
「だって、あんた、この間、没収されていた大量のPFPが帰ってきたじゃない」
「母さんには、どれも同じものに見えるかもしれないけど僕にとっては、一つ一つ大切な思い出が詰まってるんだよ!」
「そこまで言うなら、さっさとご飯、食べなさい!はぁ⋯こんな子に育てた覚え⋯ないんだけどなぁ~」
母さんはため息をつきながら、階段を下りて行った。
「よし、ゲームの続き⋯」
「神にーさま!いい加減にして下さい!」
エルシィは顔を膨れさせ、僕を一階の居間に引きずり始めた。階段の角が足の指に当たり、電撃のように激痛が走る。
「分かった!分かったから!引きずるなぁ!」
渋々階段を下りていくと、テーブルには、パン、サラダ、コーヒーが並べられている。僕はゲームを続けながら、パンにかじる。
「あぁ~!神にーさま!これ、見てください!」
エルシィはテレビ画面を指差した。そこには、ソードアートオンラインについての世間の反響の様子を映し出していた。
「そう言えば、今日からサービス開始だったな⋯さて⋯僕もプレイしてみるかな⋯」
「あれ、にーさま?今日はちひろさんとデートの予定じゃ⋯ってあれ!?⋯そもそも、プレイするって何を⋯」
「ソードアートオンライン」
「えっ⋯えぇぇぇぇぇ~~~!!!!」
僕がさらりと言うと、エルシィは酷く驚いていた。
「僕は主にギャルゲーを主流にプレイするが、それ以外にも気になったゲームをプレイするさ⋯僕は落とし神である以前にゲーマーだからな」
「けど、にーさま!このゲーム一万本しかないってテレビで⋯いや、それよりもちひろさんとのデート、すっぽかすつもりですか!?」
「はぁ~順に追って説明するぞ⋯僕はこのゲームが一万本しかないので他の奴らに奪われる前に親父と協力してこのゲームを手に入れるように頑張った⋯とりあえず5本は予備で抑えたかったが、3本しか、手に入れることができなかった⋯この話をちひろにしたら、やってみたいと言い出したから、ナーブギアと本体を貸したんだ⋯そして、今日のデートはこのソードアートオンラインの中でやることになった⋯というわけだ」
「なるほどぉ!⋯あれ、残り一台は⋯」
「保存用に⋯」
「使わないなら私に使わせてください!」
僕は一瞬考えた。
このソードアートオンラインというゲームは、他のプレイヤーと協力しながらボスを倒していくゲームである。
つまり、このゲームはRPGとしての力量だけではなく、他のプレイヤーとの協調性を問われる。
当然、どこの誰かかも分からない相手よりは、身内の方が信用できるだろう。
しかし、この世の中、知っているからこそ、こいつと同じ戦場に立ちたくないと考えることも自然である。
結論から、言えば、こいつにやらせたら、何をするか、分からない。
「お前には絶対にプレイさせn」
「神にーさま!これが、なーぶぎあ、なんですねぇ~!!」
気づいたら、エルシィはナーブギアを手に取っていた。保存用のやつを⋯透明な袋が無残に引き裂かれていた。
「な、何してんだぁ!このバグ魔!保存用がぁ~」
「神にーさま!」
「今度はなんだ!」
「今、ちひろさんに電話して、私もソードアートオンライン、やっていいですかって、聞いたら喜んでOKをもらいました!」
僕は今、どんな顔をしているだろうか⋯
今回のデートでちひろを攻略するつもりだったのに、このバグ魔のせいで一気に成功率が下がった。
これはもはやデートではない。ただの遊びになるだろう。
⋯まぁ、いいか⋯ちひろの攻略はこのゲームの次でも⋯それに単純にこのゲームを楽しみたいという気持ちもあるし。
「はぁ~、分かったよ、僕が説明してやるから、その通りやれよ」
「ありごとうございます!神にーさま!」
僕は簡単にエルシィに説明した後、ナーブギアを頭につける。そして、僕とエルシィは声を揃えてこう言った。
「「リンクスタート!!!」」
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