ハイスクールD×D~アルギュロス・ディアボロス~ 作:Mr.エメト
「はい。そこでターン、ステップのキレも良いわね。鋼弥君はすぐに覚えてしまうわね」
「すげえよな鋼弥は、すぐに覚えてしまうからよ」
「頭で考える事じゃなく、体で覚えればいいんだ」
山から一度グレモリーの別館に来た鋼弥と一誠は、ヴェネラナとダンスの練習を行っていた。
一誠と鋼弥はダンスをやったことがないため覚えるのに一苦労しているようだった。
休憩の時間になった時に二人は小猫の事が気になったのかヴェネラナに尋ねた。
「ヴェネラナ殿、小猫の容態は?」
「無理をしすぎて体力が著しく落ちていたけど、1日か2日。ゆっくりと体を休めれば回復するでしょう」
「そういえば小猫ちゃん。ここに来てから様子がおかしくなって凄く心配だな」
「彼女は今、懸命に自分の存在と力に向き合っているのでしょう。
難しい問題ですが、自分で答えを出さねば先には進めません」
「存在と力?小猫ちゃんの過去に何があったんですか?」
「恐らくだが、朱乃、祐斗、ギャスパーと同じ様に悪魔となる前は別の何かだと思う」
「イッセー君はリアスの眷属になって間もなかったわね。そう、知らなくても当然ですね。少しお話をしましょう」
ここでヴェネラナは昔話を始めた。それは二匹の姉妹猫の話だった。
―姉妹の猫はいつも一緒だった、寝る時も食べる時も遊ぶ時も。
―親と死別し、帰る家もなく、頼る者もなく、二匹の猫はお互いを頼りに懸命に一日一日を生きていった。
―二匹はある日、とある悪魔に拾われた。
―姉の方が眷属になる事で妹も一緒に住めるようになり、やっとまともな生活を手に入れた二匹は幸せな時を過ごせると信じていた。
―ところが事態は急変してしまった。姉猫は、力を得てから急速なまでに成長を遂げたそうだ。
―隠れていた才能が転生悪魔となった事で一気に溢れ出たらしい。
―その猫は元々妖術の類に秀でた種族で、魔力の才能にも開花し、挙げ句仙人のみが使えると言う『仙術』まで発動していた。
―短期間で主をも超えてしまった姉猫は力に呑み込まれ、血と戦闘だけを求める邪悪な存在へと変貌していった。
―そして、力の増大が止まらない姉猫は遂に主である悪魔を殺害し、『はぐれ悪魔』と成り果てましった。
―しかも『はぐれ』の中でも最大級に危険なものと化した。追撃部隊を悉く壊滅する程に・・・
「悪魔達はその姉猫の追撃を一旦取りやめて、残った妹猫に責任を追及しました。
『この猫もいずれ暴走するかもしれない。今の内に始末した方が良い』と。
しかし処分される予定だったその猫を助けたのだサーゼクスでした。
サーゼクスは妹猫にまで罪は無いと上級悪魔の面々を説得したのです。
結局、サーゼクスが監視する事で事態は収拾しました」
だが・・・信頼していた姉に裏切られ、他の悪魔達に責め立てられた小さな妹猫の精神は崩壊寸前だった。
「サーゼクスは、笑顔と生きる意志を失った妹猫をリアスに預けたのです。
妹猫はリアスと出会い、少しずつ少しずつ感情を取り戻していきました。
そして、リアスはその猫に名前を与えたのです。・・・小猫、と」
(小猫、お前にそんな過去があったのか・・・。それにその姉猫はまるで・・・)
「つまり、小猫ちゃんは妖怪だったというわけか・・・」
「そう、彼女は元妖怪の猫又。その中でも最も強い種族、ネコショウの生き残りです。
妖術だけではなく、仙術をも使いこなす上級妖怪の一種なのです」
◇◇◇◇
ダンスの練習も終わり、鋼弥と一誠は本邸に移動した。
そして到着した途端リアスが迎え入れ、イッセーを抱きしめた。
どうやら、会えなくて寂しい思いをしていたようだ
「リアス、小猫は?」
それを聞いたリアスは険しい表情となって小猫の部屋に案内をした。
リアスの案内で中に入るとベッドの中で横になっている小猫と、その脇際で様子を伺っている朱乃がいた。
しかし、小猫の頭から白い猫耳が生えていた。普段は隠していて、体力がなくなると出てきてしまうらしい。
「鋼弥君、イッセー君、これは・・・」
「いや、話はリアスとヴェネラナ殿から事情は聞いた」
鋼弥は朱乃にそう返すとベッドの隣に移動して小猫の様子を伺った。
「小猫、身体は大丈夫か?」
「・・・何をしに来たんですか?鋼弥先輩」
小猫は不機嫌そうな声を上げた。
「心配したからという理由では駄目か?話はアザゼルとヴェネラナ殿に聞いた。小猫、何を焦っている?」
「・・・なりたい」
小猫はゆっくりと起き上がると涙目で、こう言った。
「強くなりたいんです。祐斗先輩やゼノヴィア先輩、朱乃さん。
そして、鋼弥先輩やイッセー先輩のように心と体を強くしていきたいんです。
ギャーくんも強くなって来てます。アーシア先輩のように回復の力もありません。
・・・このままでは私は役立たずになってしまいます・・・。
ルークなのに、私が一番・・・弱いから・・・お役に立てないのはイヤです・・・」
確かに小猫を除いた全員は強くなって来ていた。
祐斗は禁手で聖魔剣を手に入れ、ゼノヴィアはデュランダルを使える。
朱乃は最強の駒の女王(クイーン)で、ギャスパーは着実と神器のコントロールしている。
アーシアは回復能力が優れており、一誠は伝説のドラゴンを身に宿している。
鋼弥は格闘能力が優れており、更にはあらゆる神魔と契約し、その者へと姿になれる≪業魔化身≫を持っている
「・・・けれど、うちに眠る力を・・・猫又の力は使いたくない。
使えば私は・・・姉さまのように。もうイヤです・・・もうあんなのはイヤ・・・」
小猫は溜まった涙をボロボロこぼしながら話を続ける。
初めて見せる小猫の泣き顔。
姉と同じ様に主を殺してしまう力に恐怖していた。しかし、これからの戦いを考えとる強くなりたい。
今、小猫は自分がどうするべきなのか思い悩んでいたのだった。
「小猫、オーバーワークしても本当の強さは身に付かない。お前は自分の身体と心を痛めても強さは得る事は出来ない」
「・・・鋼弥先輩は強いからそんな事が、言えるんです!!私の気持ちなんか――――」
「喝っ!!!!」
小猫が言いきる前に鋼弥は喝破を入れると部屋がビリビリと響き渡る。
突然の事で驚く、一誠、朱乃、小猫は呆然とした。
鋼弥は一呼吸してから、口を開く。
「少しは落ち着いたか?焦って無理に強くなる事は誰も出来ない」
「どうして其処まで言い切れるんですか・・・?」
「それは、小猫と朱乃は昔の俺と同じ境遇になった事がある」
「私と小猫ちゃんと同じ境遇って・・・?」
「昔の俺は、≪業魔化身≫を使う事に恐怖感を抱いていた事がある。
自分が自分で無くなってしまうという感じを・・・家族がバラバラになってしまった呪われた力を・・・。
だから使わぬよう、我武者羅(がむしゃら)に拳撃だけで強くなろうと決めていた」
両親が死に、兄が去ったあの日から――。
只管、強くなる為に毎日、厳しい修業をしてきた。
でも、どんなに修行をしても強くなったという実感が来なかった。
「その時、師匠が俺の事をこう言ったんだ。
"自分の持っている力に拒絶せずに受け入れる事も強さです。
貴方は父と母の両方の力を受け継いでいます。不屈の心と慈愛の心を見失わずにいれば強くなれる。
そして、忘れないで欲しい。貴方は決して一人ではありません。
私やここにいる仲間、そして貴方と契約する事になる仲魔がいることを"―――。
師匠の言葉があったから、今の俺がこうしていられたかも知れない。
小猫、朱乃、自分の持っている力を恐怖したり拒絶しないで受け入れて欲しい。
辛い事があったら仲間に頼れ。決して一人じゃないと言う事を忘れるな」
鋼弥がそう言って立ち上がり、部屋を退室した。
一誠も後を追い、部屋へ出て、鋼弥と話す。
「鋼弥、おまえの過去にそんな事があったのか…」
「昔の俺は何も考えず我武者羅に強くなろうと、そう思っていたからな・・・。
あの時、師匠の言葉が無かったら、俺は≪業魔化身≫の力にとり憑かれ、
闘いだけに生きる悪鬼羅刹(あっきらせつ)になっていたかもしれない」
「……小猫ちゃん、大丈夫かな」
「後は小猫次第だ。これは自分の壁を乗り越えなければいけない」
一誠と鋼弥は再び、タンニーンが待っている山へと向かった。