ハイスクールD×D~アルギュロス・ディアボロス~ 作:Mr.エメト
ブラックヴァルキリーの剣戟の餌食となったのは、朱乃を庇う形で剣に背中から貫かれたバラキエルだった。
黒い剣を引き抜く戦乙女、バラキエルの口と傷口から大量の血がこぼれる。
「・・・どうして?」
「・・・お前まで失くす訳にはいかない」
バラキエルの声に朱乃は何とも言えない表情となっていた。
コノハナサクヤは扇子でブラックヴァルキリーを薙ぎ払うように吹き飛ばす。
【アーシアちゃん、バラキエルさんを!!】
「はい!!」
回復のオーラを飛ばすよう指示を出し、アーシアから放たれた淡い光がバラキエルを包む。
朱乃は酷く狼狽した。
「・・・私は・・・私はっ・・・!」
「・・・しっかりしろ、朱乃。まだ戦いは終わっていないのだぞ」
涙を流す朱乃を見て、コノハナサクヤは悔しそうに歯を食い縛った。
主人の恋人を守り、不幸にさせないと決めていたのに、護りきれていないではないか・・・!!
ブラックヴァルキリーは朱乃とバラキエルを見て、苦しんでいた。
もし、朱璃の自我が残っているのなら、あの禁術を使えば・・・。
(・・・コノハナサクヤ。あの禁術を使おうとしているのか)
(でも、鋼弥。貴方はそれを望んでいないでしょ?論理を外し、命を弄ぶようなこの術を・・・)
(俺は、その罪を背負う覚悟は出来ている。誰かが悲しい思いをするのは沢山だ・・・!!)
鋼弥もコノハナサクヤも覚悟を決めているようだ。
朱乃はコノハナサクヤが何かをしようと気づき、話しかけた。
「・・・コノハナサクヤさん・・・?」
【朱乃さん、私は許されない事をします】
左右の手で印を結び、呪文を唱える。
コノハナサクヤが意識を集中させて目を閉じると、風景が映し出される。
『――――あんたがたどこさ。ひごさ、ひごどこさ』
小さな家の庭で、まりつきをしている女の子が見える
『朱乃、どこ?』
朱乃そっくりの女性が小さな子朱乃を呼ぶ。
『母さま!』
朱乃が母の朱璃に勢い良く抱きついた。
『母さま。父さまは今日のいつごろ帰ってくるの?』
『あら、朱乃。父さまと何処に行くの?』
『早く帰ってきたら、一緒にバスに乗って町へ買い物に行くの!』
〈寂しかった〉
朱乃の声が聞こえ、場面が変わる。
バラキエルと小さな朱乃が風呂に入っていた。
『父さまの羽、嫌いじゃないよ。黒いけど、つやつやで朱乃の髪の毛と一緒だもの!』
『そうか、ありがとう。朱乃』
〈いつも父さまがいてくれたら、良かったのに〉
再び聞こえてくる朱乃の声。再度場面が変わる。
『ねえ、母さま。父さまは朱乃のこと好きかな?』
『ええ、もちろん』
微笑みながら朱乃の髪を優しくとかす母。
〈たまにしか父さまに会えなかったから・・・〉
そして、場面が急変する。
畳が大きく抉れた室内で、術者らしき者逹が複数で小さな朱乃と母の朱璃を囲んでいた。
『その子を渡してもらおう。忌々しき邪悪な黒き天使の子だ』
『この子は渡しません!この子は大切な私の娘です!
そして、あの人の大切で大事な娘!絶対に!絶対に渡しません!』
『・・・貴様も黒き天使に心を穢(けが)されてしまったようだ。致し方あるまい』
『母さまーーーーっ!』
次に映されたのは血まみれのバラキエルだった。
術者を全て殺し、その身は鮮血に濡れていた。
朱乃は息絶えた母親の体を揺らし、嗚咽を漏らしていた。
『・・・朱璃』
『触らないでっ!』
バラキエルが震える手で妻に触れようとするが、朱乃が怒りをぶつける
『どうして!どうして母さまのところにいてくれなかったの!?
ずっとずっと父さまを待っていたのに!今日だって、早く帰ってくるって言ったのに!
今日はお休みだって言っていたのに!父さまがいたら、母さまは死ななかったのに!』
幼き娘にとって、母の死は何よりも痛い。
その痛みを無理矢理緩和させようと、幼い朱乃はバラキエルに怒りを露にする。
『あの人達が言ってた!父さまが黒い天使だから、悪いんだって!黒い天使は悪い人なんだって!
私にも黒い翼があるから悪い子なんだって!父さまと私に黒い翼が無かったら、母さまは死ななかったのに!
嫌い!嫌い!こんな黒い翼大嫌い!あなたも嫌い!皆嫌い!大嫌いっ!!!!』
〈父さまが悪くない事ぐらい分かってた・・・でも、そう思わなければ、私の精神は保たなかった。
私は・・・弱いから・・・。寂しくて・・・ただ、3人で暮らしたくて・・・〉
目を開けると、黒い戦乙女を見る。
ブラックヴァルキリーの目の所から、涙を流していた。
『朱乃に・・・朱乃に言葉を届けたい。あの人の事を伝えたい・・・』
二人の足元に、陣を形成させて禁術を唱えた。
【彷徨える御霊よ、我は命ずる。今ここにて現世に甦り、その姿を再び現さん】
両手を広げると、桜の花びらが舞い踊りだす。
【反魂蝶桜!!】
桜色の蝶達が出現し、ブラックヴァルキリーを包みこんだ。
眩い光が辺りを包みこみ、徐々に光が弱まり光が人の形を成していく。
そこにいる誰もが信じられない様な目を向けた。
巫女の服を身に纏った女性―――姫島朱璃がこの世に蘇生したのだ。
「・・・ここは?私はあの時、確かに・・・」
「母さま!?」
「朱璃なのか!?ほ、本当に・・・」
朱乃とバラキエルが驚きながら涙を溢れさせる。
「もしかして、あなたが甦らせてくれたのですか・・・?」
【はい・・・。貴女から、二人に言葉を贈って欲しくてね・・・】
それは、神や悪魔でも許されざる事をしたのかもしれない。
しかし、コノハナサクヤも、鋼弥も、後悔はしていない。
同じ悲しい思いをするのは、自分たちだけで十分だと思っているから・・・。
朱璃は朱乃の頬に触れて優しく声をかけた。
「朱乃。何があっても、父さまを信じてあげて。
父さまはこれまで他者をたくさん傷つけてきたかもしれない。
でもね、私と朱乃を愛してくれているのは本当なのだから。
だから、朱乃も愛してあげて・・・」
朱璃が優しく抱き締めながら朱乃に言う。
再び、母の温もりを腕の中で朱乃は止めどなく涙を流した。
「私は、父さまともっと会いたかった!父さまにもっと頭を撫でてもらいたかった!
父さまともっと遊びたかった!父さまと・・・父さまと母さまと3人で・・・!!」
バラキエルが傷だらけの体を起こす
「朱璃・・・!」
「あらあら。あなたったら、そんなに泣いてはしたないですよ?」
「お前が・・・生き返ったお前が目の前にいるんだぞ!堪えられる訳が無いだろ・・・!!」
「私を忘れてしまった訳では無いのでしょう・・・?」
「お前の事を・・・朱乃の事を・・・1日たりとも、忘れた事など無い!!」
涙にまみれ、震える手を朱乃と朱璃に伸ばす。
朱乃と朱璃はバラキエルの手を取った。
「朱乃、父さまを許してあげてね。父さまは、まだ泣き虫ですから」
「母さま・・・!父さま・・・!」
すると、腰に付けていたミョルニルが極大の光を発していた。
だが、コノハナサクヤは一誠を呼んだ。
【・・・赤龍帝!!これは貴方が使いなさい!!】
ミョルニルを一誠に投げて、一誠はそれをキャッチする。
「でも、コノハナサクヤさんはどうするんだ!?」
【私なりで決着を付けるわ。命を弄んだもの達に見せつける為にね。それまでに、時間を稼いで!!】
「・・・はい!!」
「覚えの無い波動を感じるな。銀牙、やはり君は一番の危険人物だな!」
ロキが再び自分の影を拡大させて、量産型ミドガルズオルムの一団を出現させる。
その時だった、地面から黒いドラゴンと黒い炎が巻き起こり、ロキたちを捕獲した。
タンニーンがそれを見て驚愕した
「この漆黒のオーラは!?
「ヴリトラ?匙か!?」
その時、一誠のイヤホンから通信が入って来た。
『兵藤一誠くん。聞こえますか?私はグリゴリの副総督シェムハザです』
「あ、どうも。あのでっかい黒いドラゴンを送ってくれたのはシェムハザさんですか?」
『ええ。アザゼルに匙くんのトレーニングが終わったら、こちらに転送するよう言われましたから』
「あれ、やっぱり匙ですか!?いったい何をしたらあんな姿に!?」
『彼にヴリトラの神器を全部くっつけました』
また、そんな無茶を・・・と、一誠は口元を引きつらせた。
『ヴリトラは退治されて神器に封じ込まれる時、何重にもその魂を分けられてしまった。
そのため、ヴリトラの神器所有者は多いのです。
"
これらの神器が多少の仕様違いで各所有者に秘められていたのですよ。
そして、我が組織グリゴリが回収し、保管していたヴリトラの神器を匙くんに埋め込みました。
あなたとの接触でヴリトラの意識が出現していたので全ての神器が統合されるかもしれないとアザゼルは踏んだのです。
結果、ヴリトラの意識は蘇りましたが、蘇ったばかりで暴走してしまったようですね。
しかし、匙くんの意識は残っているようなので、あなたがドライグを通じて語りかければ反応する筈です。
後はあなたにお任せします。出来ますか?』
「・・・ええ、何とかやってみます。いざとなったら、力ずくで匙を止めます」
ヴリトラの黒い炎がロキの動きを封じてる間に、コノハナサクヤの魔力がドンドン集まって行く。
シェムハザの話によれば、ヴリトラは直接的な攻撃よりも特異な能力を多く持っており、五大龍王の中でパワーは弱いが、技の多彩さと異質さは一番らしい。
一誠は自分の神器を通して、匙の意識へ接触を試みる
『匙!聞こえるか?』
『・・・・ぐうう。兵藤か?俺、今どうなっている?とてつもなく熱くて体が燃え尽きてしまいそうだ・・・』
『意識をしっかり保てよ!せっかく格好良く登場したんだから、最後まで仕事をしてからぶっ倒れてくれ!!』
『・・・どうすればいいんだ?』
『何か見えるか?』
『・・・黒い炎の中に、得体の知れない魔術か何かを感じる。それで黒い炎を消し去ろうとしている・・・』
『そいつは敵の親玉だ!消し去られるな!強く念じて、そいつを繋ぎ止めてくれ!後は俺達で決着をつけるからよ!!』
一誠はハンマーを強く握りしめて、翼を大きく広げてロキへと飛び立つ。
焦りを見せたロキが炎を打ち破り、空中高く浮かび上がる。
ビガガガガガガガガガガガガガガガガガガガッ!!
特大の雷光がロキを包み込んだ。
一誠が後ろを向くと、朱乃とバラキエルがお互いに手を握り、黒い翼を出していた。
煙をあげて落下してくるロキに、一誠は雷が宿ったミョルニルを振り上げた。
「や、やめろぉぉぉぉぉぉぉぉっ!」
「ウオリャアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアッ!!」
ドガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガッ―――――――――!!!!
ブーストで力を増した強化ミョルニルがロキへ打ち込まれた刹那、大質量の雷がロキを呑み込み焦がす。
だが、ロキはボロボロになりながらも堪えていたのだった。
「なっ!?この一撃を喰らってまだ立っているのかよ!?」
「我に・・・ここまで恥をかかせるとはぁぁぁぁぁ!覚えておくが良い、三度ここに訪れて混沌を――――」
【いいえ、貴方は黄泉へと逝くのよ―――】
声がする方を見るとコノハナサクヤの足元に複雑な魔法陣が描かれていた。
今までよりも途方で膨大な魔力が満ち溢れており、小さく放電していた。
【赤龍帝。今直ぐ避難しなさい。巻き込まれるわよ?】
一誠は急いで、安全な場所へと離れる。
コノハナサクヤは目を閉じて、ゆっくりと空へと飛び短歌を述べた。
《BGM:ボーダーオブライフ》
――――"願わくは 花の下にて 春死なむ その如月の 望月のころ"
彼女の背後に満開の桜を連想させるような美しい巨大な扇子が出現した。
――――"ほとけには 桜の花を たてまつれ 我が後の世を 人とぶらはば"
天まで届くほどの桜の大樹が現れ、花弁が満開に咲き誇る。
――――"身のうさを 思ひしらで ややみなまし 背くなら ひの亡き世なりせば"
両手をゆっくりと広げて、十字の姿勢をとる。
――――"咎重き 桜の花の 黄泉の国 生きては見えず 死しても見れず"
目を見開くと、桜色の無数の魔力弾、蝶が出現した。
【最終奥義。
唱えたと同時に全方位の桜色レーザー、大玉、蝶々弾、桜の花弁弾幕を一斉に放つ。
終わること無き魔力の弾幕は濁流となり、敵を破壊尽くした。
色鮮やかな弾幕の光景は、息をのむほどの美しい光景でもあった。
「ぐああああああああああああああああっ!!」
弾幕の激流に呑まれ、ロキの全身はボロボロになっていた。
ハティ、スコル、量産ミドガルズオルム達は既に、粉々に散ってしまっただろう。
そして、激流の中から女性が生まれ、両手を広げて、包み込もうとしていた。
――さぁ・・・眠りなさい
優しい笑顔と声をかけた瞬間、顔が髑髏となり大きく口を開いた。
――――・・・!!・・・!!――――
ロキの意識は完全に黒く塗りつぶされて、二度と目覚めることは無かった。
全てが撃ち終わると、ロキ達がいた場所は焦土と化し、何も残らず消滅した。
コノハナサクヤは地面に降り立つと、桜の大樹と扇子は音もなく消え、元の鋼弥へと戻る
母親に抱きつく朱乃の姿を見て、涙を流していた。