阿礼狂いに生まれた少年のお話   作:右に倣え

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人物紹介のフォントをあーでもないこーでもないと悩んだり、どうせなら私の所感も入れようとしたりしている間にこんなに遅くなってしまいました申し訳ありません(土下座)

ちなみに読者に媚びるげっふんげっふん、幻想郷を書くなら出しておきたいよね! という感じのキャラについては省いてあります。ご了承ください。


登場人物紹介

 火継信綱(ひつぎのぶつな)

 

 能力:そんな便利なものはない。

    ……強いて挙げるとするならば、御阿礼の子に狂う程度の能力。但しこれは火継の一族全員が例外なく所持している。

 

 好きなもの:御阿礼の子に仕えること。釣り。単純な物事。

 嫌いなもの:御阿礼の子が害されること。複雑な物事。

 

 得意なもの:やろうと思ったこと大体なんでも。

 苦手なもの:説教をすること。無垢な信頼を寄せてくる者。

 

 この物語の主人公にして、誰もが認める作中トップのキチガイ。不発弾の核弾頭。

 しかし多くの人妖や御阿礼の子に触れ合ったことで人間性も確かに獲得しており、真人間度合いも高いという難しい性根をしている。

 文武に優れた才覚と極めて高い倫理観に道徳観、また誠実さを持ち合わせており、その上で優先順位は動かない狂人。それが火継信綱という人物である。もう一度こいつを一から構築しろと言われたら無理と答える。

 

 基本的に対外的な顔は演技で作っており、生真面目な好人物を演じることで周囲からの好評を得やすいようにある程度意識して立ち回っていた。

 ……立ち回っていたが、その振る舞いを七十年以上続けることができたため、実は演技でもなんでもなく素の人格は真面目で優しい性格だというだけだった。

 ただ本人は椛に指摘されるまで実感しておらず、演技しているだけなのになんでこいつらは俺に寄ってくるんだろう、と割りと本気で不思議に思っていた。

 面倒見も良く、一度顔を覚えた相手が訪ねてくる限り、辛辣な態度こそ取るものの追い返したり無視をすることはなかった。

 そのため多くの人妖に好かれ、彼女らに影響を受けて、また与えながら彼の人生は過ぎていった。

 

 類まれな、などという言葉では収まらない才能の持ち主で、才能で見れば霊夢以上のものを持っている万能の天才。0から1を生み出す方向ではなく10の手間を1に、1の効果を10に跳ね上げる、いわゆる効率化の観点で優れた才能を持っている。

 全く新しい分野の開拓という意味ではほとんど力を尽くしていないが、すでにある技術の習得ペースは非常に早く、基本的にやろうと思ったことは大体一流以上にこなせる。

 また、当人の気質として努力を怠らない性格でもあるため、一度身につけたものは側仕えの仕事や戦闘に応用することが多い。

 英雄としての名声が大きいが、彼の本分は御阿礼の子の側仕えである。それ故に従者に求められるスキルはどれも非常に高いバランスで所持している。むしろ彼としてはこちらの方に力を入れていると言っても良い。

 

 後継者の育成にはさほど熱心ではなかったらしいが、それは自分の技術をまるまる受け継げる者がいなかったため。技術を遺すことには貪欲だったらしく、多方面に様々な書物を遺している。

 中には彼の武芸を記した本もあるらしいが――ある妖怪が持っているという情報以外、出回っていない。

 尤も、彼の人外じみた技術や観察眼を前提にした部分が多々あるため、真っ当に習得しようとしたら十年単位で時間のかかるものばかりである。

 しかし、それを持ち続けて鍛錬を続けるような奇特な妖怪がいたのなら――未来においては、彼の剣術を継承した妖怪も現れるのかもしれない。

 

 阿礼狂いに生まれた少年のお話とタイトルにあるように、これは基本的に彼の目線で物語が推移していく。

 その上で重要なのは彼自身が獲得した人間性を以て、他者にどのような影響を与えるか。ぶっちゃけチートじみた戦闘力とか知力、観察眼などは物語の進行を円滑にしたり、妖怪のお眼鏡に叶うための小道具に過ぎない。

 

 幼少の頃は導かれ、動乱の時代は共に歩み、幻想の時代では誰かを導いていた。

 彼にとっては年齢ごとのあるべき姿を演じていただけかもしれないが、経験則と知識から生まれる観察眼で得られたアドバイスは的確な物が多く、厳しいものながら相手を慮ったものとなるため、評判は良かった。

 

 どんな相手であろうと向き合ってくるのなら向き合うべきだ、という考え方の持ち主であり、彼に対して適当な対応をする輩には適当な対応しかしないが、怒りであれ好意であれ、正面からぶつかってくる相手にはちゃんと正面から応える。

 そのため抱えている悩みが矮小なものであっても、本人にとっては真剣なのだろうという考えで真摯に応対する。

 

 このように考えるに至った経緯として、慧音や椛といった真面目な性格の者と幼少の頃に多く関わり、なおかつ椿といった反面教師も得られたことが起因している。

 何が何でもこうはなるまいという姿を定め、ならばあるべき姿は、という点で彼女らを参考にした。それが今に通じる性格の原点となっていた。

 

 動乱の時代をその力と知恵で駆け抜け、人妖の共存の先駆けとなった、幻想郷の全ての人妖にとっての偉業を成し遂げた人物。

 彼にとっては降りかかる火の粉を払っていただけかもしれないが、その過程で多くの妖怪からの信頼を得ている。

 ……当然ながら、彼女らもただ倒されただけの人物にそこまでの信頼は寄せない。その後の対応でちゃんと悩みを聞いたり、真摯に対応するからこそ得られた信頼も存在する。

 

 そしてそんな時代を駆け抜けた彼の能力は大妖怪と比較してもトップクラスのものである。基本的に大妖怪の能力はある程度団子になるよう意識して書いていたが、信綱だけは大妖怪と二対一ぐらいなら普通に勝ち目があるような戦闘力に設定してある。

 知略の面でも紫や天魔と同等に政治での勝負ができるほどであり、人里の立場が大幅に向上したことの一因にもなっている。

 彼の死後、未来において酒宴の席などで『幻想郷最強は誰か?』という質問があったら必ず何名かは彼の名を挙げるほど、その勇名は刻まれている。

 余談だが、彼の戦闘力が本来の意味で発揮されるのは御阿礼の子が害された時――すなわち、全能力を相手の抹殺に向けた状態であり、そうでない時は手加減こそしないものの、本気にもなっていない状態となっている。阿礼狂いが本領を発揮するのはやはり御阿礼の子が絡んだ時以外にあり得ない。

 ちなみに阿礼狂いとして本気を出している時の戦闘力は二体程度なら大妖怪だろうと圧倒。三対一でようやく互角といった領域になる。

 

 幻想郷の創始者である賢者の悲願。人妖の共存を成し遂げた英雄は最後まで英雄ではなく、阿礼狂いとして在り続けた。

 それでも彼が最後に願った主へのワガママはきっと――英雄にならなければ得られない願いであっただろう。

 

 

 

 作者の所感

 

 キチガイだけど真人間。真人間だけど根っこの部分はキチガイ。幻想郷で一番強い存在は誰か? と聞かれたら人によって変わるけど、幻想郷で一番ヤバいのは誰? となると誰もがこいつを挙げるぐらいにはヤバい。

 

 基本的に彼の狂気性は御阿礼の子という他者に向き続けているため、時と場合によっては主のために自分の願いを押し殺すことのできる、いわゆる長編向きキチガイとして設定しました。

 これが徹頭徹尾自己中心的な狂気性だと、利害を無視して自分の願いを叶えるため物語がどうしても短くなりがちです。

 阿礼狂いという一族に生まれ、その中でも最強と目される資質を持って生まれた少年。それが彼です。

 実のところ設定した当初はここまでまともなキャラではなかったというか、そもそも妖怪との関わり自体ももっと少なくする予定でした。

 御阿礼の子とイチャイチャしている物語が書きたかったので、極力周囲との関わりを減らす予定だったのです。

 しかし博麗大結界が張られ、結界大騒動も起きて間もない幻想郷の人里で、そんな平穏な時間が過ごせるのかという状況だったため、必然的にボコボコと災難が彼に降りかかります。

 その中で彼が御阿礼の子と共にいる時間を増やすためには争いの種――つまり人と妖怪が争う状況自体を解決してしまえば良いという考えに行き着くのはある意味当然の帰結でした。

 

 そして後述しますが、椛の願いを受けて彼は人妖共存を成し遂げます。私としてはあんまり原作と乖離を作りたくなかったというか、それは霊夢にやってもらいたい気持ちもあったのでプロットの上では動乱の時代前後で人妖共存は成っていない予定だったのですが、その時にはもう火継信綱という人物は私の手を離れていました。

 

 阿礼狂いの天才に生まれたからこそ英雄への資格を得て、英雄になったからこそ人間性を獲得した。

 最初は英雄の名声を落とさない程度の演技だったかもしれませんが、ずっと続けば一つの真実。人間性が高いから実力を持って英雄になったのではなく、英雄になれる実力を持って、後から人間性を獲得したパターンの存在です。

 

 まあよくここまで成長したというか、真っ直ぐ歩めたものだと思っております。正直、どっかで原作キャラ死亡のタグが付くかもしれないと思ってました。

 彼自身としては御阿礼の子に始まり、御阿礼の子に終わる人生。ですが他者にとっては多くの救いと希望を与え、跡を濁すことなく最後まで英雄で在り続けた偉大な存在。

 彼の名は幻想郷の存在全てにとって、大きな意味を持つものとして語り継がれることでしょう。

 

 こんな奇特な主人公の物語。お付き合い下さりありがとうございます。

 

 

 

 

 

 稗田阿七

 

 能力:一度見たものを忘れない程度の能力(求聞持の能力)。

 

 好きなもの:側にいてくれた弟のような子。可愛いもの。お散歩。

 嫌いなもの:苦い薬に痛い注射。全く良くならない病弱な身体。

 

 得意なもの:子供のお世話。自分の体の把握(いつ悪くなるかなどのペースがわかる)

 苦手なもの:運動。寒い日に一人で着替えること(子供の側仕えが来てからは彼に手伝ってもらっていた)

 

 物語中、唯一の信綱にとって年上の御阿礼の子であり、彼にとって姉のような存在だった。

 身体が弱く、おいそれと外に出ることも叶わない身体であり、そんな時にやってきた年下の子供に彼女の心は救われていた。

 話し相手であり、未熟な少年であり、大切な弟のような彼に阿七は多くのことを教える。

 合理のみが最善の道ではないこと。常に心配してくれる誰かがいたこと。そして御阿礼の子が生きてと阿礼狂いに願うことの意味。

 あらゆる面で信綱にとって始まりの御阿礼の子であり、彼の歩む波乱万丈の人生の発端になっている。

 当然、彼女にそのような意図はないだろうし、彼女を謝らせるような真似は信綱が許さない。

 ただ家族を思って放たれた言葉を、重く受け止めてしまったのは信綱が悪いのだ。

 

 彼女にとって信綱は弟であり、側仕えではなかった。ただ一人、信綱が側仕えとしての役目を果たせなかった人物とも言えるが、そんな彼女だからこそ信綱は後の二人の側仕えを十全に果たすことができた。

 信綱を導き、微笑みかけ、時に叱り、穏やかに手を引いて彼をただの狂人ではなく、阿礼狂いの英雄という存在へと変える切っ掛けを作った。

 

 今際の際、彼女に生きてと願われたことを信綱は終生覚え続け、いつかその言葉を自分が仕える最後の御阿礼の子に告げることを決心する。

 託された者が、誰かに託す。そうして御阿礼の子に何かを遺すことが、自分の最後の役目であると信じて。

 

 

 

 作者の所感

 

 穏やかで優しいお姉さん、素敵だと思いませんか?(欲望の塊)

 まあこれ以外に言うことがないというか、こんな欲望からこの物語は生まれています。

 性格も性質も違う、けれど記憶は確かに引き継がれていて、一人の人間に色々な面を見せてくれる儚い少女たち。そんなイメージで御阿礼の子三代を書きたいと思い、阿礼狂いに生まれた少年のお話は誕生しました。

 性格の設定も最初に仕える人であり、しかも人間で信綱より年上という物語の後半ではまず活かせないアドバンテージがあったためお姉さんらしく行こう、というのはすんなり決まりました。

 

 とはいえ、彼女が果たした役目こそがある意味一番大きなものでもあります。なにせ彼女こそが信綱にとってのスタート地点。彼女が間違った方向に導いたり、導くことをしなければ、信綱は普通の阿礼狂いとして途中で死んでいました。

 最善が最良の道とは限らない――すなわち、合理のみで計れる物事だけで世の中は動いていない。この事実に気付けるかどうかで信綱の人生はかなり変わります。

 変わった結果として、信綱は合理的でありながらも情を軽視せず、本人的にあんまり価値を認識できていないけれど、決して無意味とは言わない。そんな人間になっていきました。

 

 登場期間も全体を通せば一割にも満たない時間でした。もうここは私の見込みが甘かったとしか言いようがない。始めた当初は百話行くなど誰が思っていたか。

 ですが、彼女がいなければ物語がここまで続くことはなかった。それを覚えて頂ければ幸いです。

 

 

 

 

 

 稗田阿弥

 

 能力:一度見たものを忘れない程度の能力(求聞持の能力)。

 

 好きなもの:父であり、異性であるたった一人の人。紅茶。いつか空から見た雄大な景色。

 嫌いなもの:辛い食べ物。身体を全力で動かすこと。

 

 得意なもの:料理(側仕えは不安そうな目で見ていた)。忍ぶこと。

 苦手なもの:たまにやたらと過保護になる側仕えの人。奔放で振り回してくる人。

 

 生まれてから死ぬまでの間、ずっと側に信綱が居続けた御阿礼の子。動乱の時代の幕開けは彼女の生誕と共に始まっている。

 信綱にとっては大切な愛娘であり、彼にとっても初めてである幻想郷縁起の編纂を共に行っていった、ある意味において肩を並べて歩んでいた。

 彼女自身も阿七から受け継いだ記憶の中にある、大好きな少年が立派な大人になっていたことに喜びながら親子としての時間を過ごした。

 不安など何もなく、ただ元気に遊んで、疲れたら父におんぶしてもらって帰り、暖かい食事をお腹いっぱい食べて、明日を楽しみに眠る。

 そんな子供なら誰もが持つべき当たり前の時間を、他の子供より短いとはいえ満喫することができていた。

 これまでの御阿礼の子にはできなかった、子供としての時間を与えてくれた信綱には深く感謝しており、全幅の信頼を寄せていた。

 阿七の時のような弟に向けるものではなく、娘を絶対に守る親として、また異変解決すら成し遂げた最強の火継としての双方を以て。

 

 だから彼女には妖怪の山に行っても不安などなかったのだ。親を娘が心配するのは当然であっても、彼の力は阿弥が一番信じていたのだ。

 ただ自分が彼にどんな感情を向けているのか、その時はまだわかっていなかった。

 

 生まれた頃から――否、生まれる前から自分たちに全てを捧げてくれた男性。自分のために己を磨き、自分のために世界を変え、そして今でも、自分のために戦ってくれる。

 愛する家族であるはずだったその人に、家族に向けるものとは違う慕情が自分の胸にあると気づいた時、彼女は阿礼狂いと御阿礼の子という互いの立場の悲劇を理解する。

 短命な己と、そんな自分たちに変わらぬ姿を見せ続ける狂人。もしも自分たちが普通の男女だったのなら、などという仮定すらも見出だせない歪な関係。

 

 阿弥は禁忌であると理解した自らの感情に悩み抜き、最後には彼と共に家族であることを決心する。

 異性として見てもらいたい気持ちも確かにあったけれど――家族として過ごした時間を愛おしいと思う気持ちにもまた、嘘はないのだ。

 あるいは、ほんの少し欲張りになっていたら違う結末もあったかもしれないが――全ては詮無きことである。

 

 家族として生きると決め、彼女の最期もまた阿七と同じく信綱の膝の上となった。

 泣きそうな顔を必死に微笑みの形にして、心配させまいとする愛する人に抱かれ。この人を好きになって良かったと二重の意味で想いながら、彼女は旅立つのであった。

 

 

 

 作者の所感

 

 ヒロイン二人目。阿礼狂いに恋をしてしまった悲劇の少女であり、同時にその悲劇を穏やかで暖かい結末に変えた、心の強い少女。

 御阿礼の子と阿礼狂い。どう考えても歪な関係であるはずなのに、彼らはそれを少しも苦に思わない。

 御阿礼の子は変わらない彼らに安堵を見出し、阿礼狂いは御阿礼の子に仕えるために己の一生が無為に終わることすら受け入れる。

 百年以上の周期を経て生まれ変わる形だったらそれでよかった。先代の御阿礼の子に仕えた者はすでにこの世にはおらず、また新たな側仕えがつくのだから。

 しかし、彼女の時はそうではなかった。異例の短い周期での転生を終え、待っていたのは阿七の記憶からは見違えるように少年から大人へと成長した男性。

 阿七の記憶や自分を育ててくれたことから家族としての愛情を覚え、また彼も完璧に応えて十全な子供時代を過ごさせてくれた――情緒を発達させる余地を作ってしまった。

 故に彼女は側仕えの男性に信頼や家族愛から変化した愛情を抱いてしまった。これがただの父娘であったのならあり得ないだろう。

 だが、御阿礼の子として長い月日を生きた記憶を持っていること。その記憶により精神が通常よりも成熟してしまっていたこと。そして本来なら老成し、枯れたと表現しても良い精神に水を与えてしまった側仕えがいたこと。

 

 あらゆる物事が彼女に恋を教え、恋は彼女に禁忌を教えた。後述する椿に負けず劣らず間が悪いとも言えます。

 

 けれど、その感情に彼女はちゃんと向き合い、答えを出した。そしてその答えに殉じ、信綱に想いを告げることはなくただ家族として穏やかに一生を終えた。

 それが幸福であったのかどうかは彼女にしか知る由はない。しかし――彼女の死に顔は阿七に勝るとも劣らないほど、穏やかなものであったことでしょう。

 

 

 

 

 

 稗田阿求

 

 能力:一度見たものを忘れない程度の能力(求聞持の能力)。

 

 好きなもの:祖父。兎鍋。紅茶。

 嫌いなもの:熱すぎる飲み物。血や臓物の出るような絵巻物。

 

 得意なもの:体を動かすこと。笑顔。

 苦手なもの:夜に一人で眠ること。

 

 九代目の御阿礼の子。信綱にとって最期の御阿礼の子であり、信綱を看取る役目を持ったたった一人の子。

 なんだかんだ御阿礼の子全員が物語上、彼女らにしかできない役割を帯びている。そうなるように物語を作った。

 阿七、阿弥を見届けてきた信綱にとって悲願とも言える健康な肉体を持っており、普通の人と同じように遊ぶどころか活発に動くことすら可能。もうそれだけで信綱は何よりも嬉しかった。

 そうした体を持つからか、性格も活発で好奇心旺盛な冒険家気質。気になることがあったら体でぶつかっていくタイプ。信綱は割りとハラハラしながらそれを見守っている。

 

 短い期間での転生とは言え、時期が開いてしまうのは事実であり――再び生を受けた彼女の目の前には阿弥の知る頃よりさらに人妖の共存が成された幻想郷があった。

 阿七の時より、阿弥の時より輝いて見えるそれを少しでも良い形で残そうと幻想郷縁起の大きな変化も試そうとしている。それは信綱の生きている間に日の目を見ることはなかったが、きっと未来において大きな役割を果たすのだろう。

 

 信綱のことを優しくて頼れる祖父と認識しており、同時に彼が阿七と阿弥を支え切った最も優れた側仕えであることも理解していた。

 結果を示して荒事への信頼を勝ち取った阿弥と違い、阿求だけは最初から信綱のことを何もかも信じていた。だからこそ妖怪の住処に向かう時も緊張はあっても恐怖はなかった。

 

 同時に信綱が自分の目の前でいつか死ぬことも理解できていた。それが何よりも怖いものであるとわかっていて、けれどその恐怖は普通の人々が当たり前に背負うものであって。

 信綱は御阿礼の子である稗田阿求ではなく、普通の女の子である阿求にこそ自らの死を以て、人間が当然のように死んで後を託す存在であると教えるつもりだった。

 それを理解して、けれどやはり別れの時は悲しくてたまらなくて。――だけど、最期は笑ってお別れをした。

 

 信綱に託された可能性と未来を手に、彼女はこれからの幻想郷を生きていく。選択は全て彼女に委ねた上で、生きて欲しいと願った信綱の言葉とともに。

 

 

 

 作者の所感

 

 ヒロイン三人目。もうここまで来ると単なるヒロインというより、家族という意味合いの方が強いです。

 とはいえ信綱にとって最も大切な人というのがヒロインであると言うなら彼女こそが間違いなくヒロイン。

 課せられた役割は御阿礼の子の使命を感じさせないほど活動的な少女であることと、彼を看取ること。

 元気いっぱいなお祖父ちゃんっ子として書いていたのは意図的です。阿七、阿弥とお淑やかな――悪く言えば元気のない御阿礼の子を書いてきたので、最後の少女は元気にしたかった。

 

 彼女にとって信綱は世界で一番頼れる人であり、大好きなお祖父ちゃん。多くの困難を乗り越えて固くなった手のひらで撫でてもらうのが大好きだった。

 

 終わりを見届ける役割を帯びているだけとも言い換えられ、阿求自身が信綱に対して何かしらの働きかけをすることはない。

 しかしこれは彼女が信綱に向ける感情が少ないというわけでは決してなく、老齢に入って完成してしまった信綱に対してできる役割がなかったため。

 何より、三代に渡って仕えてくれたたった一人の家族を笑って見送るという、阿七にも阿弥にもできない偉業を果たしている。

 

 阿七、阿弥を看取った後に涙を流した信綱と同じように必死に涙をこらえて、それでも溢れてしまう涙を拭って、精一杯の笑顔を浮かべた彼女がいたからこそ、信綱は彼女に阿七と阿弥の面影を見出して逝くことができました。

 

 

 

 

 

 犬走椛

 

 能力:千里先まで見通す程度の能力。

 

 好きなもの:色々な景色を見ること。大将棋。

 嫌いなもの:手足が斬り飛ばされること。女心のわからない対応をされること。

 

 得意なもの:視ること。将棋。剣の鍛錬。

 苦手なもの:無機質な瞳。やたら偉い鬼に絡まれること。

 

 ほんの少し特殊な能力を持っていること以外、何の変哲も無い白狼天狗にして、本作主人公である火継信綱のバディを務めた妖怪。

 人懐っこくて礼儀正しい、けれど仲の良い相手には遠慮のないことも言う裏表のない性格。とてもではないが、人の上に立てるようなタイプではない。

 

 出会いは信綱が幼少の頃まで遡り、当初は彼に首ったけなある烏天狗のお供程度でしかなかった。そのため信綱への思い入れもさほど大きなものとは言えない。

 この段階で彼女が信綱を殺していても、とうとうやらかしたか程度で済んでいた。

 

 見方がハッキリと変わったのは吸血鬼異変の前後。

 信綱が正真正銘の化外であることを理解し、彼が椿を殺した異変。

 そしてそれを正直に椛に話すことが筋であると語る彼の胸で涙し、こんな結末が訪れない幻想郷にしたいと椛は決心した。

 最初はさほど熱を持っていなかったが、信綱が狂人ながらも不器用に人や妖怪と向き合う姿。閉塞感の漂っていた幻想郷などをその広い目で見続けて――共存すべきだという答えに至る。

 

 信綱はそれを聞き届け、椿や椛と過ごした時間を悪いものとは定義していなかった彼も同意し、幻想郷は共存の方向へ舵を切られていった。

 

 共存を目指す信綱に協力し、目覚ましい活躍を続けながらも自分のことを頼り続ける彼に応えようと、また彼女も努力していた。

 お互いに気の置けない友人であり、背中を預けるに足る相棒であり、同じ夢を見た同志であり。彼と彼女の関係は一言で言い表すには難しいほど長く、深く続いている。

 だからこそ椛は自身の感情に名前を付けなかった。付けてしまうと、きっとその方向に向かってしまうだろうし、何より信綱の無邪気とすら言える信頼に背きたくなかった。

 

 その感情に名前をつける時が来るとしたらそれは――

 

 妖力は白狼天狗相応で、身体能力も妖怪としてみれば中堅程度。雑魚と呼ばれるほどではないが、決して上位陣と並べられるほどでもないといった程度。

 しかし、剣術や体術に関しては信綱に鍛えられており、本人に自覚こそないものの白兵戦での防戦に限れば文や天魔、勇儀や萃香が相手でもある程度持ちこたえられる。

 今はそこまでが限界だが、信綱が遺した戦闘術の本を託されているため、遠い未来ならばあるいは――

 

 ともあれ、彼女は共存の果たされた幻想郷をこれからも生きていくことだろう。それを成し遂げた人間と一緒に歩き、同じ景色を見続けたことを何よりの誇りとして。

 妖怪の山の哨戒天狗である彼女は、今日もまた妖怪の山を飛び回り、幻想郷の営みを見続けるのだ。

 

 

 

 作者の所感

 

 ストーリーを真っ当な方向に持っていった第一人者。こいつがいなければ原作キャラ死亡あり、のタグがついていたことでしょう。

 

 ノッブは意識していないでしょうが、相当な献身を彼女に対し行っています。普通は人と妖怪が争わないで暮らす世界が欲しいと聞かれて、そんな世界を一緒に見たいと思っても幻想郷全体を巻き込んで行動はしません。

 それをやり遂げ、共存が成っても一貫して椛が願ったことだから叶えた、というスタンスを崩していない。普通ならヒロインにするような献身です。本人に自覚はありません。

 

 登場させた理由は以前にも書きましたが、オリ天狗である椿を出すに当たって一人だけだと話を膨らませづらいのでもう一人出そうと思ったのが切っ掛け。

 なんかチョイキャラで出せばええやろ! という適当な考えで出したキャラ。なのでぶっちゃけプロットを構築した当初から重要な役割を持つ予定はありませんでした。

 ですが、長く登場していれば長く描写する機会もあります。長く描写すれば、その分だけキャラに広がりが出て来る。キャラが広がれば、勝手に動くことも増える。

 

 下っ端天狗なのは物語を通して何も変わらず、一人では何もできないかもしれない。けれど彼女は何かを成し遂げられるけど、一人では何もしない少年とともにいた。

 誰とも関わらなければ阿礼狂いとして一個のシステムに徹していたであろう彼に叶えたいと思わせる願いを与えた。その点だけでも彼女の行った功績は大きなものである。

 そもそも他人に願いを与えてもらわなきゃ自発的に動こうとしない主人公に問題がある? アーアーキコエナーイ。

 

 ともあれ一人では何もしなかった人間と一人では何もできなかった妖怪。そんな二人が切っ掛けになって幻想郷の変化は始まったと思っていただければ大丈夫です。

 

 上記にもありますように色々な面を書いてきたキャラでもあります。色々な面を書くということは色々な感情も書くということであり、彼女が信綱に向ける感情はかなり複雑怪奇。

 どこぞのおぜうのようになびいてほしいからアピールするけど、それになびいたら自分の惚れた男じゃないから殺しにかかる、というような根っこが空間跳躍したような捻れっぷりではないですが、友情と異性愛、情緒面で色々と未熟だった彼に対する母性に椿を殺したことへのわだかまり。

 多くの感情を彼に対して向けていて、その上で椛は最後まで信綱と相棒であることを選びました。

 関係を変えたくなったら踏み込めば良い。変えないままでも信綱は変わらず自分を信用し、信頼してくれる。

 

 互いに背中を預けた時もあれば、互いに同じ方向を見た時もあった。信綱と最も付き合いの長い妖怪であり、彼がたった一人選んだ相棒である彼女は、もう閉塞感などどこにもない新たな幻想郷で彼の託したものとともに生きていくのだろう。

 

 

 

 

 

 先代の巫女

 

 能力:空を飛ぶ程度の能力

 

 好きなもの:酒。一人じゃない時間。家族。

 嫌いなもの:戦うこと。誰もいない部屋で眠ること。

 

 得意なもの:霊力の操作。結界術。独りでできる暇つぶし。

 苦手なもの:禁酒(そもそもできない)。早寝早起き。

 

 物語終了時に博麗の巫女を務めている博麗霊夢の先代を務めた博麗の巫女。

 当然ながら名前はちゃんとあり幻想郷縁起にも残されているが、もっぱら先代の呼び名で親しまれていた。彼女の名前を呼んだのは伴侶でもある彼だけだろう。

 現役の頃は人付き合いが極端に少なく、彼女自身も意図して最小限に留めていたフシがある。理由は人妖のどちらかに肩入れができないため、どちらとの関わりも必要最低限にしようとしていたため。

 

 役目に忠実に徹し、けれど隠しきれない寂しさを覚えていた時に信綱とは知り合う。

 最初は祭りの時の顔合わせだけであり、本格的に顔を合わせたのは吸血鬼異変の頃になる。

 家族が死んでも眉一つ動かさない精神性。吸血鬼を一方的に嬲る出鱈目な強さ。阿礼狂いとしての立ち位置を一切崩さず、紫とも対等に舌戦を繰り広げられる胆力。

 あらゆるものが異質な信綱に一度は恐怖を覚えるものの、その後の宴会で彼女なりに折り合いをつける。

 彼が狂人であることに間違いはないけれど、根っからの悪人では決してない。むしろ狂気に触れない限りはかなり優しい方であると持ち前の直感で見抜いたのだ。

 

 その姿に信綱も何か感じ入るものがあったのか、はたまた英雄として名を馳せてしまったから始まった婚姻話の猛攻から逃げるためだったのか、彼女の元をちょくちょく訪れるようになる。

 博麗の巫女であるから深入りはできない。そのことを言っても彼に変化はない。

 なにせ彼自身が阿礼狂いという人間とも妖怪とも違う存在なのだ。誰かに咎められたら考えるが、それもなかったので彼に気にする理由がなかった。

 そのため信綱は何の隔意もなくただ単に博麗神社を隠れ家にして、博麗の巫女と無駄話をするためだけにわざわざ神社まで足を運んでいたのだ。

 それがどれほど大きな巫女の救いになったか――それは彼女にしかわからないだろう。

 

 信綱との付き合いは二十代の頃から始まり、口約束程度とはいえ役目を終えた彼女を引き取るという約束も交わす仲。

 ……と言えば聞こえは良いが、どちらも適当な相手がいなかったからその場にいた相手に適当なことを言っただけの話である。後に実現したことに一番驚いているのは当人同士である。

 だが、彼女自身は信綱に救われたという自覚があるため、彼のことは憎からず思っていた。

 

 百鬼夜行異変が終わり、八雲紫より役目の終わりを言い渡された時に正式に婚姻を交わす。

 信綱としては大した意味を見出していなかったものの、先代となった彼女は大いにその関係を楽しんでいたらしく、縁側で隣り合って晩酌を傾ける姿などを火継の女中はよく見ていた。

 

 年老いてからの婚姻となったため子供を作ろうとは互いに考えておらず、しかし子供を抱きたいと思っていた彼女にとって霊夢の母親ができるというのは願ってもない好機であった。

 誰が見ても親馬鹿であると言わんばかりの甘やかしっぷりを発揮し、けれどちゃんと情操教育も行い、彼女は霊夢を育て上げた。

 尤も、博麗の巫女としての実力面や考え方などは信綱にも助力――というか肩代わりを頼んでおり、霊夢は先代が育てたというよりは信綱と先代の二人が育てたと言った方が適切である。

 

 ずっと孤独に神社で空を眺めていた彼女は、その役目を終えて初めて誰かが隣に立って空を眺めるようになった。

 彼女の隣で何かを語ることもなく、しかし離れることは巫女が望もうとしない限り行わず――彼は巫女の隣に立ち続けた。

 その事実がどれだけ彼女にとって救いとなったか、信綱は最後まで理解することができなかった。そして理解できず、悲しみの感情も浮かばなかった自分を不甲斐ない良人として責めている。

 

 そんな彼が冥界で彼女と再会したら――?

 

 

 

 作者の所感

 

 サバサバしているように見えて根っこが寂しがり屋の女の人、良いと思いません?(欲望)

 霊夢が出る前の時代を書くわけですから、当然ながら博麗の巫女も不可避なわけです。そんな形でこの人は作り出されました。言葉はアレですが、出そうと思って出したのではなく舞台的に出さざるを得ないキャラでした。

 とはいえ彼女には霊夢の母親としての役割と、信綱と並んで幻想郷を守る役目がありました。

 信綱の奥さんになる役目? そんなもん話の途中で生まれたに決まってんだろ最初からオリ主と博麗の巫女と結婚させようとするとかそこまでだいそれたことは考えないよ! 話の流れでやる時点で変わらない? せやな。

 

 だけど日々動き続けていないと落ち着かないワーカーホリックの気があるノッブの手綱を、御阿礼の子が関わらない範囲で握れる存在として意外と割れ鍋に綴じ蓋な関係となりました。

 なまじ一人でできることが多いために足を止めてのんびりするという発想が出にくい彼を、その首根っこを掴んで自分の隣に座らせ、一緒に空を眺めるように促すことができる。そんな関係に落ち着きました。

 

 霊夢と同じ能力を持っていますが霊夢ほど才能には恵まれず、夢想天生にも到達こそしているものの霊夢より不完全。あれは不完全であることが人間の証明とも言える(と解釈している)ので、一概に未熟扱いもできませんが。

 霊夢より才能が足りてない。だからこそ霊夢よりも地に足がついている。飄々としているように見えて、割りと根っこは悲観的だったりします。霊夢が奥義を覚えたから親の役目も終わりだと思ってしまう辺り特に。信綱が軌道修正しましたが。

 

 誰も訪ねて来ない博麗神社で一人技を磨き、生き残る術を黙々と鍛えていた彼女の幼少期は決して幸福なものとは言えないでしょう。

 だけど彼女を訪ねる者ができて、やがてその人物は彼女の伴侶となって、ともに娘を育てて最期には伴侶に看取られて逝った。

 今際の時、先代には信綱が自分の死に悲しみを見出だせないことを理解していた。

 しかし、そんな自分を悟られまいと必死に隠そうとする彼だからこそ、先代は彼を愛することができたのだ。

 伴侶の死を悲しめない己に悲嘆する信綱への想いを胸に、動乱の時代を駆け抜けた博麗の巫女は安らかにその一生を終えるのであった。

 

 

 

 

 

 霧雨勘助

 

 能力:一般人にそんなものはない。

 

 好きなもの:家族。友達。酒。商売。

 嫌いなもの:誹謗中傷。陰気な空間。

 

 得意なもの:人付き合い。ポジティブシンキング。

 苦手なもの:怒らせた妻。損得勘定の計算。

 

 今作におけるオリキャラその一であり、原作キャラである霧雨魔理沙の祖父に当たる人物。

 大らかで気前が良く、誰かと一緒の時間を過ごすことが大好きで人と人の縁をつなぐことが得意だった。商売人になったのはある意味運命だったのかもしれない。

 

 妻である伽耶とは家がほぼ隣同士で、同時期に生まれた子供ということで寺子屋に通う前からの付き合い。当初――というより告白されるまではずっと妹という認識で家族としての意識の方が強かった。

 信綱との付き合いは寺子屋からになり、積極的に人付き合いをする方ではなかった信綱を慧音にも仲介されながら引っ張っていくうちに仲良くなっていった。

 信綱の方も一度友誼を結んだ相手をないがしろにはせず、頼られれば応える面倒見の良さを持ち合わせていたため、付き合いは一生のものになった。

 

 とはいえ彼の家がどのように呼ばれているかを意識し始めた、大人になりたての頃はぎくしゃくした時もあった。

 阿礼狂い。畏敬と侮蔑、双方を込めて呼ばれる言葉を本人も名乗り、またその通りの価値観を持っていると何の感情も宿さない瞳で言われた時、彼は明確に恐怖の感情を覚えていた。

 覚えていたが――それでも彼は信綱と友人でいたかった。仮に友人でいられない時が来るとしても、あんな一方的な終わりであって良いはずがないと願った。

 勘助にとっても大きな決断であり、信綱にとっても大きな意味を持つものであった。狂っている自分と友人でいたいと言ってくれた勘助を、信綱は終生尊敬していた。

 

 霧雨商店の娘である伽耶と結ばれてから本格的に商売の道に進み始め、彼の人付き合いが上手い才覚はここで発揮されることになる。

 一見すると冷たく、踏み込んでこない限りは誰にも深入りしようとしないが、付き合ってみると面倒見が良い信綱とは違い、人との距離感を無意識のうちに測って相手にとって心地良い距離が取れるタイプの人付き合いの上手さを持っている。

 その力を活かし、霧雨商店を大きく広げていった彼の手腕は幻想郷に名を残すものでなくとも、讃えられるべきものである。

 

 縁に恵まれ、仕事に恵まれ、子に恵まれ。親友の手で激変していく幻想郷を、彼なりの戦い方で戦い抜き、幸せに生きた人間。

 妖怪であろうと商品を買って笑顔になるならお客様である。そんな考え方は息子にも確かに受け継がれ、多少形が変わって孫娘にも受け継がれているのだ――

 

 

 

 作者の所感

 

 実はこいつが魔理沙の祖父になるとか決めてなかった(暴露)。

 ただ筆が動いてしまったものは仕方がない。どうにか辻褄を合わせようと色々動いた結果、割りとそれっぽい立ち位置に収まったんじゃないかなと思ってます。

 出した理由は主人公が妖怪側と知り合うだけだと、人里側の描写が少なくなりがちになってしまうだろうとバランスを取らせるため。

 妖怪としか付き合っていない主人公が人里のために頑張ります! とか言っても説得力薄いだろうし、何より普通の人との付き合いも通して人里自体も描写してみたかった。

 結果として彼は私の予想を超えて信綱の懐に深く入り込み、信綱自身もそれを受け入れるほどに友人として確固たる絆を作り上げた。お前すげーよ(真顔)。

 もともとは農家の息子だったが、人付き合いが上手いという設定は最初からあったので商人に活かせるだろうと転用。そして魔理沙は商人の娘なのに魔法の才能があるという結果になったため、多分変な方向に豊かな才能を持ちやすい一族なんだと思う(他人事)。

 元農家→商人→魔法使い、と彼の一族の子どもたちは割りと奇天烈な方向に進みやすいのだろう。むしろ真っ当な息子の方がおかしいかもしれない。

 

 オリキャラの男主人公を出し、さらにオリキャラの男友達も出した。正直受け入れてもらえるか割りとビクビクものだったけど、特に何か問題が出なくてよかったと胸をなでおろしております。

 ……まあそれ言い出したら天魔とかどうなんだよって話になるけどネ!(後述)

 

 

 

 

 

 霧雨伽耶

 

 能力:パンピーにそんなもの(ry

 

 好きなもの:好きな人の隣にいること。手料理。

 嫌いなもの:陰湿な人。距離感の測れない人。

 

 得意なもの:頭を使うこと。料理。

 苦手なもの:明るく振る舞うこと。

 

 勘助と同時に出したオリキャラその二。物静かで控えめ。だけどここぞというところでは積極的になる女の子。

 幼い頃から自分の手を引いてくれた勘助に寺子屋時代から想いを寄せていたが、勘助はそれに全く気づいていなかった。二人の共通の友人である信綱すら途中から気づき、多少の気遣いはしていたというのに。

 とはいえ決して勘助が鈍感なわけではなく、ただ単に認識が家族からなかなか切り替わらなかったというのが理由にある。家族からいきなり異性として好きですと言われても普通は困惑する。

 

 伽耶自身も勘助の認識は察していたため、ちゃんと大人になるまで我慢して彼の外堀を埋めることに終始していた。その様子を見ていた信綱が密かに彼女を敵に回すのはやめようと決心していたのは別の話。

 そして十分に成長し、大人になったと同時に勘助に告白――をすっ飛ばして求婚した。結婚してからあの時は一足飛びに行き過ぎたと反省していたらしい。幸せになれたので文句があるわけでもないが。

 

 結婚してからは霧雨商店に婿入した勘助を影に日向に支え、ともに歩んでいった。頭の回転も早かったため、勘助の苦手な金勘定などは一時期彼女が一手に担っていたほど。

 子供が生まれてからは良妻賢母として霧雨家を支えていくことに。彼女がいなければ勘助はただの農家として終わっていただろうし、仮に商人になれたとしても霧雨商店ほど大きくはならなかっただろう。

 

 信綱とも仲の良い友人であり続けており、彼の本性を知った上で友人でいることを選んだ者の一人。

 勘助のように本性を直接見たわけではないが、それでも言動の端々に現れる価値観の違いなどから薄々察してはいたものの、彼女は最後まで踏み込むことを選ばなかった。

 たとえ踏み込んでも変わらないものがあり、同時に彼は決して悪人ではないことも理解していたため。

 それに勘助らと一緒にいる信綱の顔は穏やかで狂気性を微塵も感じさせない――巧妙に隠していたとしても――もので、伽耶が信頼するに値するものであったからである。

 

 いつか壊れるかもしれないと理解して友人として付き合い続け――最期まで彼らは友達であり続けた。

 家族としても息子と孫娘に恵まれ、幼い頃から好きで今なお最愛の夫に寄り添い続けた彼女の人生は、きっと幸福なものだったのだろう。

 

 

 

 作者の所感

 

 普段は控えめだけどしっかり手綱は握っている奥さんって素敵じゃない?(欲望の塊)

 

 一番最初から勘助とくっつけさせようと決めてたキャラ。無事くっついて私は嬉しい。

 彼女が商人の娘な時点で霧雨家の設定はほのめかす程度には出していた(霧雨家じゃなくても良くね? ってなった時のために確定はさせなかった)。

 だけどそうなると原作時間軸で魔理沙がぽっと出になることが避けられなかったため、霧雨家の娘に収まる。割りと私は序盤の頃に後からどうとでもなる種をまいておくタイプです。

 

 信綱の物語は幻想郷全体に及んでいたため相対的に影が薄くなりがちでしたが、彼女がいなければ魔理沙の父親が生まれない→魔理沙も生まれないので結構大きな役割は果たしています。

 信綱も彼女を気の置けない友人として扱い、彼女に対しては結構気安い一面も見せております。

 

 良き妻であり、子供を導く賢母であり、そして並大抵のことでは動じなくなった肝っ玉母さんである。勘助と一緒になって多くの苦労もしたし、喧嘩もした。

 でも全てが楽しく、愛おしい時間だった。彼女の幸せは最初からずっと、好きな人の隣にいることなのだ――

 

 

 

 

 

 霧雨弥助

 

 能力:原作キャラの父親になる程度の能力(適当)

 

 好きなもの:酒。商売。家族。

 嫌いなもの:二日酔い。

 

 得意なもの:父親譲りの笑顔。

 苦手なもの:怒った時の母親。

 

 上記の霧雨勘助と霧雨伽耶の間に生まれた子供。二人の名前を取ってこの名前になっている。魔理沙の名前はどこから来たか? 多分母方じゃないっすかね(適当)

 父親似の快活さを持った少年で、幼い頃から信綱が英雄としての名声を高めていく姿を目の当たりにした世代。

 そのため英雄というものに強く憧れていた時期があり、自警団に入る前から人里を駆け回って体を鍛えていた。

 しかし彼の努力は信綱のような英雄に至るものではなく、それを英雄として憧れていた信綱当人から百鬼夜行異変の折に突きつけられる。

 同時に彼にはできないことで貢献する方法がある、という言葉ももらっており、それが彼を商人への道に歩ませる転機となった。

 英雄に憧れていた少年は当たり前のように挫折を経験し、しかし立ち直って自分にできる道を見出した。

 ごくごく当たり前の、平凡な人間としての生き方を見つけて彼は霧雨商店を継ぐことになる。

 

 とはいえ商売の才能はあったらしく、父親から譲り受けた霧雨商店をさらに広げることに成功している。

 そして父親からのモットーである商品を買ってもらえるなら誰であろうとお客様、という言葉を胸に今日も彼は人間、妖怪分け隔てなく商品を売るのであった。

 そんな幸福の最中、可愛い一人娘の魔理沙に魔法の才能があることが発覚する。

 魔法使いになりたいと言う魔理沙の願いを子供の戯言と一蹴したが、信綱に諭されて正面から話すことを決意。ちゃんと子供ながらに考えていた魔理沙と向き合い、彼らなりに折り合いを付けた上での勘当処分となった。

 勘当とは言ってもお互いに納得しているため、普通に他人として話す分には問題ないだろうと父娘としての関係も破綻したわけではない。

 彼女が幻想郷に名を轟かせるのを耳に、英雄にはなれなかったけれど一人の親として立派に成長した彼は、今日もまた娘の心配をするのであった。

 

 霧雨商店で修行し、独り立ちした霖之助とは師弟関係であり、同時に親友でもある。共通の家族である魔理沙のことでよく愚痴を交わし合っているらしい。

 

 

 

 作者の所感

 

 オリキャラ同士が結ばれて生まれたオリキャラの子供であり原作キャラの親。

 こうして書くとものすごい地雷臭のするものを出したな私は(真顔)。

 彼に与えられた役割は魔理沙の父親となることであり、それ以外はあんまり大きい役割は与えていません。

 ですが、人並みに大きなものに憧れて、人並みに挫折して、人並みに立ち直って真っ直ぐ立つ、と人里に住む人間らしい人間を描けて割りと楽しいキャラでした。

 小さな頃からノッブの華々しい活躍を聞いたり、その本人から親友の息子ということで色々と面倒を見てもらっていたため、めっちゃ尊敬しています。

 

 とはいえノッブ自身はあまり褒められることを好んではいないため、彼には普段通りに接してくれと願いながらも、彼の期待を裏切らないよう振る舞っていました。

 

 本編より未来の幻想郷でも彼の役目は変わらず、人里に来る人妖に等しく商品を売っていき、時々魔理沙の自慢話を聞いていくことになるのでしょう。

 

 

 

 

 

 上白沢慧音

 

 能力:歴史を食べる程度の能力

 

 好きなもの:人間。子供。歴史。甘いもの。

 嫌いなもの:悲劇。理不尽。暴力。

 

 得意なもの:学問を教えること(本人談)。歴史の編纂。

 苦手なもの:政治的な考え。教え子である子たちの死。

 

 一話から出ている実は原作キャラでも一番最初に登場した人物。

 信綱が生まれる遥か昔から寺子屋を開き、子どもたちに学問を教えている本物の偉人。彼女のお陰で幻想郷の識字率は非常に高いものになっている。

 

 但しその授業が面白いかどうかは別問題で、彼女の授業を聞いて居眠りして頭突きを受けるのは人里の人間誰もが一度は通る道。信綱ですら例外ではない。

 しかし教え方に一難どころじゃない問題があっても、教師としては理想的な人物。

 良く子供たちを見て、一人の子がいたら友達を作ってやり、除け者にされるものがいたら庇ってやり、除け者にされないよう成長を促し、というように子供たちを真っ当な方向に成長させることにかけては彼女の右に出るものはいない。

 信綱も幻想の時代で霊夢や魔理沙と接する時の態度には、彼女の姿を真似したものがいささか以上に存在する。

 

 銀の髪をなびかせた美しい少女であり、人里に生まれた者たちが一度はお世話になる人物であり、そしてどれだけ歳を取ってもちゃんと自分たちを覚えてくれる、という人里全体が彼女の世話になっているようなもの。相手を叱ろうとする時の彼女に頭の上がるものは誰もいない。

 己が長命種である自覚もあるため、政治などの場で我を出すことはほとんどなく、自分が面倒を見るのはあくまで子供たちと道に迷える者たちだけというスタンスを一貫して取り続けている。

 これには人々の取捨選択が致命的に苦手という理由がある。全ての人間が彼女にとってかけがえのない教え子である以上、彼らを切り捨てることができなかった。

 

 後は人里から要請があれば自分にできる範囲で引き受けるという形で人里に奉仕している。

 

 半獣と、人間とは明確に違う種族であるため、そうして生きた時間や力を用いて人里の守護者のような役割を担っている。

 と言っても、主な役割は人里内での犯罪抑止がほとんどであり、外敵と戦う役目は他の者――本作では火継の一族――に任せることが多い。

 その影響で信綱との付き合いは非常に長いものになる。人里の代表に近いような立場になった彼もまた、人里の守護者という形で人里に奉仕をしていたため、ある意味同僚のようなもの。

 

 信綱の活躍を間近で見た、というわけではないが、彼の口から伝えられる内容を後世に残すために歴史書の編纂を行う。

 個人だけで歴史書を作るのは滅多にないのだが――人妖の共存を成し遂げた人物ならば、十二分に偉人として残す価値はあるだろう。

 

 信綱が亡くなった後の幻想郷を見届け、彼女もまた歴史書を記していく。

 かつての血腥いものなどではなく――未来への希望に満ちた過去の足跡を。

 

 

 

 作者の所感

 

 ノッブとは別ベクトルの偉人。この人を見習えば大体の人は真人間になる模範的人間。

 拙作ではかなり昔から寺子屋を開き、教師をしている設定のため、人里で彼女のお世話にならない人はいない状態でした。

 そして人里の守護者でもあるため信綱との接点も比較的多く、最初から最後まで信綱とは先生と生徒として互いに敬意を払う関係を保ちました。

 でしゃばりすぎず、さりとて影が薄くならず、良い感じの立ち位置を確保できたと思ってます。

 

 両親からの愛情を受けず、またそれをどうでも良いものと位置づける阿礼狂いの彼にとって、彼女の教えが最も根底に根付いているものでもあります。

 根幹が阿礼狂いであることは変わりませんが、それを隠すための土台は子供の頃に学んだことが多く含まれています。

 こうはなるまいと決めた烏天狗の姿や、かくありたいと願った半獣の姿。

 そしてお調子者の妖猫や一緒に居続けた白狼天狗などに影響されて、彼の人格は形成されています。

 

 ちなみに実力は大して強くありません。並の人間に比べれば十分強く、ただの雑魚妖怪であれば追い散らせますが、天狗や鬼が相手では分が悪い。

 

 

 

 

 

 火継信義

 

 能力:パンピーにそんなものは(ry

 

 好きなもの:御阿礼の子に仕えること。

 嫌いなもの:側仕えの立場が脅かされること。

 

 得意なもの:武術

 苦手なもの:特になし

 

 本作の主人公、火継信綱の実父であり彼が側仕えになる前に側仕えをしていた男。

 信綱が生まれる前は彼が火継の家で最も強い存在だったのだが、彼が生まれたのを契機にその立場は露と消える。

 齢六歳にして自身を打ち倒した息子のことをひどく憎悪しており、同時に側仕えとしての役割を果たして阿七を看取った彼のことを尊敬もしている。

 当然ながら親子間の愛情など一欠片もない。信綱は側仕えの場所を奪った許しがたい怨敵であり、狂おしいほどの嫉妬が常に渦巻いていた。

 ――それが当の信綱本人には何の痛痒も与えないと理解していながら。

 人間としては最底辺の男ではあるが、阿礼狂いとしてはよくある人間性である。

 

 彼の最期はそんな憎い存在である信綱の盾となって死ぬこととなったが――阿弥のために動いた吸血鬼異変の最中、阿弥の側仕えである信綱を守って死んだことには一片の後悔も抱いていない。

 なぜならそれは憎き敵を生かすための死ではなく――ただ御阿礼の子の力になれる死だったのだから。

 

 

 

 作者の所感

 

 主人公が木の股から生まれたわけにも行かないし、仕方がないから親父も出すか、という安直な考えで生まれた父親です(暴露)

 ノッブが一桁の歳から側仕えになるのは決定事項だったため、彼をどうフェードアウトさせるかは結構悩みました。老衰で気づいたら死んでいた、というのも主人公の異常性を出すには良いかなと考えたこともあったり。

 

 ですがもっと派手に主人公の異常性と、この一族はそういう気狂いの一族であると印象づけるためには別の死に様が良いと考え、吸血鬼異変の時に死ぬことと相成りました。

 ぶっちゃけあそこを逃したら本当に気づいたら死んでたオチになっていたと思います。

 

 

 

 

 

 椿

 

 能力:烏天狗だからといって能力持ちがポンポンいると思うな!

 

 好きなもの:強い人間。命がけの死闘。

 嫌いなもの:心の通わない戦い。争いのなくなりつつある幻想郷。

 

 得意なもの:子供の面倒を見る(自称)。色っぽいポーズを取ること。

 苦手なもの:真っ直ぐな好意。我慢。

 

 幼少の信綱に出会い、妖怪の中では最も早く彼の才覚を見出して稽古をつけた烏天狗。

 天狗の中では比較的若く、大天狗らの話す昔の人間と妖怪の関係というものを実感として得られていない。

 人間と妖怪の関わりが絶たれつつあり、倦怠感の生まれつつある幻想郷に辟易していた天狗で、この閉塞感を晴らすのは人間と妖怪の戦い以外にありえないと考えていた。

 

 そんなところで信綱と出会ったのが本人にとっての福音であり、運の尽き。

 十にも満たない年齢で烏天狗の自分を相手に不意打ちとはいえ逃げ切ったその才覚に深く惚れ込み、人間と妖怪の不干渉という暗黙の了解を平気で破って信綱と交流を深めていた。

 メキメキと実力をつけ、心身ともにたくましく成長していく信綱を側で見続け、やがて彼女は妖怪として人間に恋をする。相容れるはずのない、妖怪である自分のみが得をする利己的なものを。

 

 彼女の願いであった人間と妖怪の殺し合いの果てに得られる何かを、椿は愛情と名付ける。

 ――信綱の敵に回ったが最後、決して得られるはずのないそれを。

 

 結局、彼女の間違いは誰にも正されることなく、決戦の時を迎える。

 全てを理解した時、すでに彼女は取り返しのつかない場所まで来てしまっていた。その結末に至るはるか前から選択肢を間違えていた以上、彼女の結末は必然である。

 

 しかし、彼女が無意味な最期を迎えることと、彼女の死が無意味であることは別である。

 自身の人生に意味はなかったかもしれないが、彼女の死という結末は無意味ではなかった。

 

 それは椿より譲り受けた(婉曲な表現)長刀を片手に英雄としての道を駆け上がり、人妖共存を成し遂げた人間の姿が証明をしている。

 

 

 

 作者の所感

 

 意外と人気が出たことにビビっているキャラ。最初っから途中で殺す予定で出したので、椿エンドすら望まれた時には普通に驚きました。

 

 妖怪らしい妖怪、というのが基本コンセプトにある妖怪です。価値観が違い、愛の表現方法も違う。言動こそサバサバしていて付き合いやすいように見えるが、油断したらすぐに喉元をかき切られる。

 当然ながら人間と相容れる価値観ではありません。信綱と曲がりなりにも十年やっていけたのは彼女が自制したのと、椛が止めていたこと。そして信綱が察して決定的な決裂はしないようにしていたからです。

 それでも信綱が不意に見せた気まぐれで全ては崩壊し、彼女の破滅は決定的なものになる。彼女が死んだお話の後書きにも載せましたが、結局彼女は自分の欲望を満たすことしか考えていなかった。

 

 相手を見ているようで見ていない。最初から最後まで彼女は自分の目的のために動いていた。

 信綱も信綱で自分の目的のために動き、相手の目的――ましてや敵になった相手のことなど一考する価値もなく、信綱は彼女に一片の情けもかけることなく惨殺してしまう。

 

 最期の瞬間、彼女の思考は自らの間違いの後悔と、自分のことを椿という個人としてではなく一絡げな妖怪の一人としてしか見ない信綱に絶望を覚えて死んでいきました。

 

 ただ、彼女の死が全てのターニングポイントになります。彼女との戦いと武器により信綱は並み居る幻想郷の魑魅魍魎を相手に正面から戦える実力を手にし、彼女の死を嘆いた椛によって幻想郷は共存へと舵が切られた。

 椿自身にとって自らの死が絶望的なものであったとしても、物語としては大いに意味があった。ある意味彼女の真価は死んでから発揮されます。

 

 最初から最後まで自分勝手に生きて、自分勝手に間違えて、自分勝手に絶望し、自分勝手に死んでいった。

 ――それでも彼女は一人ではなかった。彼女の死という事実が幻想郷に小さな萌芽を生み出す。

 人間が一人と白狼天狗が一人。たった二人の間に芽生えた願いが、回り回って幻想郷の変革に至る。

 

 彼女は概ねこんな役割の持ち主でした。人気が出て嬉しい限りです。

 

 

 

 

 

 橙

 

 能力:妖術を扱う程度の能力

 

 好きなもの:お魚。主人。耳を撫でられること。

 嫌いなもの:耳を引っ張られること。ゲンコツ。

 

 得意なもの:魚とり。山菜集め(どこかの人間に連れ回されて覚えてしまった)

 苦手なもの:熱いもの(猫舌)。難しい話。

 

 八雲紫の式の式。いずれは八雲の姓も受け継ぐ可能性を持つ妖猫の少女。

 とはいえまだまだ彼女は子供に近く、修行と称して妖怪の山のマヨヒガに住んで日々を送っている。

 主人である八雲藍はマヨヒガに時々顔を出し、課題を出したり橙の世話をする形で橙は修行に励んでいた。

 

 お調子者で尊大と絵に描いたようなガキ大将気質だが同時に優しさも備えており、子分と認めた存在のことは何があっても見捨てず、一度友達だとみなしたら相手が誰であっても物怖じしない。

 この辺りが良い方向に作用し、信綱とは長い悪友としての付き合いを始めていくことになる。

 

 信綱と知り合ったのは彼が幻想郷縁起を届けに行くため、八雲紫の住居に向かうところの案内役になったこと。出会った当初はお互いになんだこの生意気な小僧は、という認識だった。

 しかし不思議と馬が合ったのか、幻想郷縁起を届け終えた後も二人はたまに妖怪の山で会う関係となる。あるいは橙も猫の子分がいるとは言え、一人でいることが寂しかったのかもしれない。

 

 どちらも素直ではないため友人であるとはなかなか認めたがらないが、双方ともにかけがえのない友人であると思っている。

 信綱は彼女ならば未来を託しても良いと思うほどの信頼を寄せ、橙は彼の作り上げた未来を決して蔑ろにはしない精神を持っていた。

 

 何より彼女は正しく人間を知らない妖怪であった。信綱以外の人間を知らない若い妖怪である彼女だからこそ、人妖の共存が果たされた幻想郷に最も早く馴染むことができた。

 それは彼女にとっては何の意味もないことであっても、大きな意味を持つものであった。

 

 

 

 作者の所感

 

 よくこんな出世したなキャラその二。その一? 皆まで言う必要はないですよね。

 元を正せば彼女をレギュラーにした理由は信綱との掛け合いが書いてて楽しいからという身も蓋もないもの。

 

 なのでそこまで物語上で果たす意味は大きくありません。どちらかと言えば彼女は未来の象徴としての意味をもたせました。

 まだまだ未熟でお調子者だけれど、光るものを確かに持っている。それが開花する姿を見ることは本編中になくても、遠い未来に必ず存在する。

 彼女の本当の役割はここではなく、彼らの作り上げた未来において重要な意味を持つものです。

 

 口が悪くてすぐに手が出て仏頂面で顔を合わせるなり人をこき使って、優しくなることも滅多にない。

 彼女にとって信綱とはまず悪口が先に出る存在であることは間違いなく――その後でかけがえのない大切な友人であったと誇らしげな顔で告げる存在である。

 自分がノッブの悪口を言うのは良いけど、他人に言われると我慢ならないタイプ。長い付き合いなのでなんだかんだ大切な時間であると認めています。

 

 信綱の死後、博麗霊夢の時代すらも遠い過去になった未来において、立派に成長した妖猫は今日も首に使い古された鈴を付けて、日々を歩んでいくのでしょう。

 

 

 

 

 

 河城にとり

 

 能力:水を操る程度の能力

 

 好きなもの:機械いじり。きゅうり。ロマン。

 嫌いなもの:ロマンの否定。妥協。

 

 得意なもの:機械いじり。工芸品制作。きゅうりの早食い。

 苦手なもの:コミュニケーション(店番をやる程度は可能)。

 

 山から戻らない人間を探していた信綱と出会い、そこから交流を持つに至った河童。

 臆病者で人見知り。だけど気を許した相手には図々しく、馴れ馴れしい。一度仲良くなるとうざったいが、仲良くなる前も結構うざったい面倒な性格をしている。

 

 妖怪の山の中腹あたりの川の畔で集落を形成しており、機械いじりが好きな種族として妖怪の山では名を轟かせている。主に適当なものを作って爆発事故を起こし、たまに形になるものを作ると誤作動を起こして大騒動を起こすという負の方向で。

 彼女らいわくロマンには勝てなかったという言葉で自爆装置やら暴走機構やらが付くのだからたまったものではない。

 真面目に作りさえすれば彼女らの手先の器用さは幻想郷でも随一なのだが、安定性が全くないのが困りものという面倒な種族である。

 

 基本的に自宅から出ないで機械いじりをするのが好きな妖怪だが、稀に釣りに来た人間と言葉を交わすこともある。にとりもそのクチで信綱――ではなく別の人間と交流を深めていた。

 たまに会った時に適当な話をして、適当に別れる。そんな大して面白くもない、けれど不思議と手放し難い時間をにとりは密かに楽しみにしていた。

 

 それが死別という形で終わることも覚悟はしていた。もとより人間と妖怪。過ごす時間の尺度が違うのだ。

 とはいえ、それが新たな人間との付き合いの始まりになるとまでは思ってなかった。

 名前も知らないのに、大切な友人であった老爺の遺体の前で刀を抜き、剣呑な視線を向ける青年との出会いはここになる。

 

 青年――信綱のことは最初のときは恐ろしい人間だとしか思っていなかった。初対面で刀を抜いてきたこともあるし、表情がほとんど変わらず冷たい声で話していた。

 そんな彼を前に老爺を弔いたいと告げるのはにとりにとって多大な勇気を要したというのに、それすらもにべもなく断られてしまった時は本当に目の前が真っ暗になりそうになった。

 だが、その後に老爺の釣り竿を放られ、それを受け取ってからはにとりの抱く信綱への印象は真逆になった。

 

 ちゃんと自分の属する人里への義務を果たしながらも、融通が利く限りで便宜も図ってくれる。決して冷たいだけの青年ではないのだと。

 

 そこから再びにとりと人間の付き合いが始まっていく。老爺の時と同じように、釣りに来る彼の話し相手になったり、彼の側にやってくる妖猫らと一緒に遊んだり。

 こんな関係が再び続いていくのだろうとずっと思っていて――信綱がにとりから見れば全くの天上人である妖怪からも目をつけられる人間であることに気づいてからも、それは変わらなかった。

 

 すでに一度は人間と死別しているのだ。たとえ相手がどれほど偉大な英雄であったとしても、人間と妖怪である限りそれは避けられない結末。

 だからこそ彼女は最後まで自然体であることを選択した。湿っぽい別れなど彼は好まないだろうと理解し、同時に自分もまた彼が最後ではないと確信して。

 なにせ――人間と妖怪の付き合いはこれからも続いていくのだ。何も彼が自分にとって最後の人間というわけではない。

 自分は未来においてもまた彼と同じように友人と作り、時に楽しく、時におかしくやっていくのだろう。それが人妖の共存を成し遂げた友人への彼女なりの餞である。

 

 ちなみにこれは全くの余談だが、釣りをしている彼をサポートするつもりで作ったミミズくんは後に商品化されて釣り人必携の道具になったとかならないとか。

 但し量産化はされておらず、割りとノリで余計な機能も付与されるため、安定性は著しく低いとかなんとか。

 

 

 

 作者の所感

 

 書いてて楽しいからレギュラー化したキャラその二。その一は八雲紫の式の式。

 

 登場させた当初はお互いに名前も名乗ってなかったのは、その時々でどんな立ち位置に当てはめても不自然じゃないようにするためです。

 彼女ににとりを紹介する流れにしようかな、とか色々と考えたけどそんな面倒なことするぐらいならこいつがにとりでいいよね、ということでにとりが誕生しました。

 

 割りとロクデナシだけど人間に友情を感じているのは本当で、なんだかんだ憎めないキャラという立ち位置を意識しておりました。

 ただ、彼女は戦闘力の関係上、出るタイミングがのんびりしたパートのみであったことが多かったため、お調子者の河童として見られているのではないかなと思っております。間違いでもないので問題はありませんが。

 

 彼女に課せられた役割は人間と妖怪の死別を見せることです。

 すでに亡くなっていた老爺との付き合いもそうですが、ノッブとの付き合いも最終的には死別という終わりを迎えます。

 それぞれの人妖がそれぞれの形で折り合いを付けていく中で、彼女だけは信綱の死を明確に悟りながらもサバサバとした別れ方をしました。

 信綱との時間が大切でなかったというわけでは決してなく、むしろ人一倍大切にしていた。

 彼女にとって人間とは必ず死に、自分たちを置いていく存在である。存在であるが、彼らとの思い出は自分の中で決して消えることはない。

 

 何より信綱は人妖の共存という幻想郷にとっても大きなことを成し遂げた。つまり今の幻想郷で人間とともに生きること自体が、信綱の願いとともに歩むも同然なのだ。

 故に彼女は一人ではない。人間とともに歩み続ける限り、彼女の中に信綱との思い出は生き続けるのだから。

 

 

 

 

 

 射命丸文

 

 能力:風を操る程度の能力

 

 好きなもの:楽しいこと。悪ぶってみること。仕事。

 嫌いなもの:鬼の相手。退屈。

 

 得意なもの:速さ比べ。情報収集。

 苦手なもの:煙に巻けない相手との対話。なんか気づいたら自分を越えていた人間らしき存在。

 

 風を操り、その速度と戦闘能力は大天狗はおろか天魔にすら匹敵すると謳われる烏天狗。

 陽気で社交的。誰に対しても慇懃な態度を取り、砕けた言葉遣いは本当に危ない時か気を許した相手にしか見せない。

 

 相手を煙に巻く言葉を得意としており、なかなか本心を見せないように立ち振る舞うものの根は非常に真面目。奔放なようでありながら、その実誰よりも天狗の社会に帰属している。

 事実として彼女は決められた役職を持たない代わりに天魔の指示に従う、直属の部下のようなものになって日々を過ごしていた。

 その付き合いも長く、天魔とは部下と上司という関係ながらも気の置けないものになっている。

 有事の際には忠実な部下であり、余計な思考や疑問を挟むことなく天魔の指示に従うことができるのは長年の付き合いが生み出した、天狗を導く首魁への絶対的な信頼によるもの。

 

 退屈を何よりも嫌っているため、何かと刺激的な物事を好む。

 そんな彼女が幻想郷を白霧で覆う異変に興味を示さないはずがなく、天魔の指示による諜報を行う過程で信綱に会ったのが彼との縁の始まりだった。

 当初は厄介ではあるものの勝利は可能という認識だったのだが、天狗の里での騒乱を終えてからはお互い万全の状態でよーいどんで戦った場合、ほぼ勝ち目がない領域まで差をつけられてしまう。

 

 こいつ人間じゃねえな、と思ったことと天狗の騒乱の折に阿礼狂いとして戦う彼の姿を見てしまったため、騒乱以降は微妙に信綱に苦手意識がある。

 信綱の側も気づいているのだが、彼女が周囲をうろちょろすると後ろの天魔含めて警戒しないという選択肢が取れないため、仕方がないと割り切っている。

 

 百鬼夜行が終結し、人妖の共存が本格的に始まった頃より天魔の指示で新聞作成に乗り出す。

 彼女が作り、彼女が刷り、多くの人妖が見るように作られたそれは天魔の根回しもあって瞬く間に天狗社会に広がり、今や一大ブームとなっている。

 彼女の作った文々。新聞はブームの火付け役となった新聞として絶大な人気と知名度を誇る。

 天魔からの言葉通り情報の精度には多少目をつむり、人々が楽しめる娯楽としての形が強いのが特徴。醜聞などはあまり載せすぎると天狗や新聞自体への悪感情を買いかねないと天魔より釘を差されているため、よほど大きな内容でない限りセンセーショナルには知らせない方針を取っている。

 

 現在は異変解決の立役者である博麗霊夢につきまとっているのだが、時折信綱と似た対応を取られてしまうためたまに苦手意識が浮かんでしまうのが最近の悩み。

 そしてそのことを霊夢に気づかれてちょっと心配されていること。人間に心配される天狗とか、と哀しくもありちょっと嬉しくもあり。

 

 

 

 作者の所感

 

 もっと早く出せば出番も増えていたと思う(小並感)

 こいつより上の階級である天魔を出して、そいつが天狗を導く立場であったため彼のほうがノッブと話す機会が多くなってしまい、微妙に出番を与えてやれなかった印象がある。許せ。

 

 彼女を出した理由は文ファンに媚を売る――もとい、天魔との渡りをつけるキャラであり、当時の幻想郷に倦んだ天狗その二を出したかったからです。

 退屈を嫌い、天狗の里を飛び出した椿とは対照的に退屈を嫌ってはいるけれど、それでも組織の歯車として働いて天魔の側にいるのが一番退屈を潰せると理解しています。

 

 色々と悪ぶったり奔放な様子を見せたりしますけど、本質的には天狗社会の歯車であり掟に忠実な天狗。どんな要因があったとしても天魔、並びに天狗を裏切るような真似だけは決してしません。

 表向きは自分本位ですが、その実誰よりも組織人。ノッブ含め自分本位な連中の多い幻想郷では結構珍しい人種です。

 自分のやりたいこととやるべきことがあった場合、やるべきことを選択できる妖怪です。

 

 もうちょっとノッブを振り回しても良かったかな、と思いますが天狗の騒乱が終わってからだとさすがに実力差が逆転しているので、根が常識的な文ではいじれなかった。

 ちなみにこれが天魔や紫だったら、たとえ実力差があったとしても躊躇なく弄ります。そしてノッブが苛立つ様も楽しみます。この辺りが大きな違いだったり。

 ……まあロクデナシ度合いでは文の方が遥かにマシです。基本的に大妖怪になればなるほど力を持ったロクデナシが多い幻想郷では希少とすら言える存在。

 

 

 

 

 

 天魔

 

 能力:能力なしの実力のみで今の地位に上り詰めたとか格好良くない?(中二病)

 

 好きなもの:妖怪の山に住まう存在全て。知恵比べ。

 嫌いなもの:他人に投げられない案件。自分たちを害そうとするもの。

 

 得意なもの:悪巧み。文をおちょくること。

 苦手なもの:昔の知り合いである鬼二人。肩の凝る会議。

 

 妖怪の山の頂上に住まう天狗。独自の階級社会を形成している天狗社会において頂点に立つもの。天魔とはその称号であり、彼自身の名前ではない。

 鬼が人間に敗北を喫する頃に天狗を導く長として就任し、それ以来千年以上に渡って天狗を導き続けてきた存在。

 外の世界での限界を察し、幻想郷への移住を決断したのも彼であり、その幻想郷においても紫の下にひれ伏すことなく一定の地位と権力を維持し続けてきた、紛れもない天狗の英傑。

 天狗の中での権力争い。幻想郷内での権力争い。妖怪の山内外の憂事はほぼ全て彼が片付けてきたと言っても過言ではないほど。

 

 千年以上に渡って道を踏み外す事なく天狗の地位を一定以上に保ち続けてきた手腕は折り紙つきで、その統率力も群を抜いている。ほぼ身振り手振りだけで完璧に彼の意図を読んで動ける部下も文以外に何名か存在する。

 縦社会の宿命か複数の派閥が天狗社会にも存在するが、それらの流れもある程度は掌握して被害が出ない範囲で意見のぶつけ合える環境を作り、自分が誤った方向へ進まないようにしている。

 ……サボり癖についても他の連中が仕事をできるように、と言い訳していたりもする。なお大体捕まる時は文に捕まって怒られる。

 

 ただ、一面ではそれが放任とも取れてしまうため大天狗の不興を買うこともあり、また他の天狗も彼と同じ視点を持てるわけではないため、時として彼の考えが誰も読めないことになることも。

 それが顕在化してしまったのが天狗の騒乱である。

 あれも背景を見れば信綱がやってきたことが火種であったりと複数の要因が存在するものの、彼にとっては長年ともにやってきた大天狗が自分に謀反を起こしたということが事実である。

 

 妖怪の山に住まう存在全てが彼の家族であり、同時に敵に回った場合は迷わず叩き潰せる相反した精神を両立させており、その在り様は阿礼狂いである信綱をして頭がおかしいと認めるほどのもの。

 飄々と立ち振舞、親しみすら感じさせる態度で相手と接しながらも眼光は政敵の隙を見逃すことなく捉え、ほんの僅かでもほころびを見つければ容赦なく食らいつく。

 信綱が生涯において最も面倒な相手が誰だったか、を挙げるなら確実に候補に入るであろう存在。同じ目的を見据えていたとしても、天狗寄りで進めるか人間寄りで進めるかで大きな違いが出る。

 

 彼自身の能力は政治に長けた面が強調されているが、素の武力も天狗の頂点として相応しいだけのものがある。

 鬼とは相性上の問題で難しいものの、他の大妖怪と比肩しても全く引けを取らない実力の持ち主。実は剣術とか信綱と同等に近かったりする。

 ……妖怪が有り余る時間に物を言わせて磨いた剣術をたかだか数十年の人間が越えている辺り、あいつ本当に人間じゃねえなと内心で思っていたりもする。

 といってもその数十年の間対等に舌戦を交わし、同じ方向を見ながらも知略を尽くした相手である信綱のことは信頼し、友人であると本心から思っている。

 

 信綱のいなくなった幻想郷において、今日もまた彼は天狗たちの未来のために動き続けるのだろう。

 ……彼が死んでからすぐに妖怪の山の中腹にドカンと神社ごと神様がやってきたことに本気で頭を抱えながら。

 

 

 

 作者の所感

 

 男のオリ天狗を妖怪の山の頂点に据えるという暴挙。

 彼の役目は穏健派の天狗として信綱と同じ人妖の共存を見据えること。但しノッブのようにある意味感情に基づいたものではなく、彼なりの合理的な判断によって現状では立ち行かなくなると判断したため。

 ごちゃごちゃと小難しい政治的なことも書くのならそのエキスパートがいても良い。そんな感じで天魔はキャラ付けをされていきました。

 

 政治的なあれやこれやに長けていて、天狗という総体の利益のためなら少数を切り捨てることができるけど、彼自身は天狗全てを間違いなく愛している。

 矛盾しているように見えますし実際矛盾しています。利益のために家族を切り捨てるのに、その利益は家族のためなのですから。

 到底千年持たないような信条の持ち主であり、そして見事に耐えきって両立させている。だからこそ彼は天狗の英傑足り得るのです。

 ノッブが人間の英雄ならば彼は天狗の英雄です。生真面目で何事にも全力な信綱と飄々としていて割りと適当な天魔で、そのあたりが対照的になるようにも意識しました。

 

 人妖の共存を見据えていたこともあって、割りと描写の機会も多かったので上手く書けたかと思っています。普段は適当で文に無茶ぶりしたりしてますけど、ヤバい時は天狗の頭として確かな姿を見せる。

 ノッブのことは対等にやり合える好敵手のようなものであり、同時に彼のためなら私人としての天魔は命を懸けても良いと思えるほどに感謝と信頼を抱いています。公人としての優先度は天狗のためなのでそちらは揺るぎませんが、そちらが揺るがない範疇なら最大限彼の味方になってくれます。

 根が政治家気質なので後述するレミリアのように表立って感情を見せたりはしませんが、彼も結構ノッブのことは大好きです。なにせ自分と対等に知略を交えて、自分に一泡吹かせることすら可能な人間でしたから。

 

 

 

 

 

 レミリア・スカーレット

 

 能力:運命を操る程度の能力

 

 好きなもの:人間の血。強い存在。美しいもの。

 嫌いなもの:醜悪なもの。弱い存在。

 

 得意なもの:戦闘。一発ギャグ(自称)

 苦手なもの:妹との対話。日光浴。

 

 人体に有害な白霧で幻想郷を覆う吸血鬼異変を起こし、幻想郷にやってきた吸血鬼。

 妖怪の住まう楽園と聞いた場所に来たため、まずはとばかりに挑戦状を叩きつけたのである。

 そして解決に来た人間の片割れ――当時はまだ無名の人間であった火継信綱によって打倒される形で彼女は幻想郷の一員として認められることになる。

 

 傲岸不遜で冷酷無慈悲。侮蔑を決して許さず誇り高き夜の女王である一面を紅魔館という群れの長として確かに持ち合わせており、有事の際に自らと敵対したものには容赦なくその暴威を浴びせる。

 しかし、そうでない時は見た目通りの子供らしい一面も見せており、普通に人里にやってきては普通に遊んで帰ったりもするなど、ある意味一番気安く人間と接している大妖怪でもある。

 

 独自の美学の持ち主で、紅魔館や彼女の仲間たちはその美学に基づいて彼女が引き入れたものがほとんど。強いものを尊び、弱いものを蔑むその在り方は波長の合う者を強烈に惹き付けるカリスマでもある。

 またこれは単なる戦いの技量にとどまらず、心の強さや彼女が美しいと感じるものであるため、普通の人間であっても美しいと判断するに足る輝きを示したらそれなりの敬意を払う。

 

 そんな美学に則って、最強であるとはばからない自分を打倒せしめた信綱には心底から惚れ込んでいる。精神性から肉体まで全てを愛していると言っても過言ではない。

 欲しいものは力ずくで奪う性分でもあるため彼のことは本心から自分のものにしたいと思っている。思っているが――自分が惚れ込んだ信綱は阿礼狂いとして在る信綱である。

 そのため、自分に傅く信綱は自分の愛した信綱ではないと判断して殺してしまう。素直そうに見えてその実性根は捻じ曲がっている。

 

 反面、妹に関することでは奥手でなかなか一歩を踏み出せずにいたりもする。信綱が背中を押さなければ紅霧異変が起こる時まで何もできなかっただろう。

 

 後に不意打ちに近い形での勝負だった吸血鬼異変の時とは違う、正真正銘の一騎打ちを信綱に希望。

 一騎打ちの体を取りながらも夜を作り上げ、それを誤認させるために室内の空間を広げさせ、さらに徹底して信綱の苦手な遠距離で戦うなどあらゆる手段で勝ちを掴みに行ったが、それでも敗北してしまう。

 だがレミリアの顔に悔しさのそれはなく、最初に出会った時と変わらず彼が御阿礼の子に狂っていることを理解できたことが心底から嬉しかった。

 

 最初から最後まで自らの在り方を曲げず、貫き通した信綱に生涯変わらぬ敬意を表し続けるであろう彼女は、これからも彼と交わした約束を何一つ破らず生きていくことだろう。

 

 

 

 作者の所感

 

 すっごい面倒くさい内面だけど、不思議と書きやすいキャラだったりします。

 ノッブのことが大好きでたまらないのに、彼が自分になびくと殺すという大型地雷も良いところな性根の持ち主ですが、ノッブが核地雷持ちだったので相対的に見ればまだ安牌です(震え声)

 それ以外は大体の方向に全力投球するだけのわかりやすい性格です。基本的に彼女の行動に嘘はありません。遊んで欲しいと思うのも、なびいて欲しいと思うのも、でもなびいたら違うと思うのも全部彼女の本心です。

 

 ノッブに邪険に扱われて涙目になっている姿も、侵攻してきた鬼に対して啖呵を切る姿もどちらも彼女の本性。根っこが妖怪なのは変わらないため、ついさっきまで笑っていた相手であろうと殺すことに躊躇はありません。一瞬でギャグからシリアスに突入できるキャラです。

 

 おぜうは動乱の時代の最初に出てきただけあって、付き合いも長くなって色々な部分が書けて楽しいキャラでした。ギャグやるにもシリアスやるにも彼女がいると回しやすくてありがたい。どっちか片方しかできないキャラというのもほとんどいませんが。

 

 ノッブにつきまとう子供っぽいおぜう。醜悪なものを退けるべく本気を出すレミリア。妹との関係で悩みを吐露するお嬢様。全部間違いなく彼女の一面であり、それだけ色々書けたのだと思うと作者ながら嬉しく思います。

 

 

 

 

 

 フランドール・スカーレット

 

 能力:ありとあらゆるものを破壊する程度の能力

 

 好きなもの:クランベリーを使ったお菓子。本。

 嫌いなもの:野菜。騒がしい場所。

 

 得意なもの:暇つぶしの空想。一瞬で眠る。

 苦手なもの:コミュニケーション。姉。

 

 レミリアの妹であり、彼女の手によって地下室に四百年もの間幽閉されていた少女。

 ありとあらゆるものを破壊する程度の能力を所持する彼女の価値観は人間とも妖怪とも違うそれであり、彼女にとって世界の全ては脆い硝子細工にしか見えなかった。

 肉親であるという情を感じられたこともなく、昔に父親を殺したのは姉のためではなくより気に入った硝子細工を残そうとした程度のもの。

 結果として姉の手で地下室に幽閉されることになるが、物理的な拘束などがあったわけでもなく、前述した通り全てが硝子細工である彼女にとっては、己の自由すらも硝子細工のように感じられていた。

 

 そして一人の時間で自分の行いを振り返ることも出来たため、幽閉されたことに文句はない。罪悪感もさほど感じておらず、まあ若気の至りだったよね、程度のものだが。

 また地下にいて多くの時間を本とともに過ごしたため、知識や想像力は非常に豊富。

 その影響で硝子細工であっても下手に壊すと物語の結末がそこで決まってしまうと感じ、能力を使うことに忌避感を覚え始めている。

 但し人と触れ合う環境が百年以上断絶していたため、情緒がまだ未発達。本を読むことで増えた知識で悟ったようなことは口にするが、実感を伴った言葉はほとんどない。

 

 四百年の幽閉に関してもすでに自分の中での答えが消えてしまっており、良いことなのか悪いことなのか、その判断すらもつかなくなっている。

 そのため姉であるレミリアに対しても自分を幽閉した姉、以上の感情が消えかけていた。このタイミングでレミリアが対話を試みたのは割りとファインプレー。

 

 レミリアとの肉体言語も交えた対話。紅魔館に新しくやってきたやや天然混じりのメイド。スペルカードルールによる紅霧異変で知り合った霧雨魔理沙との対話。

 諸々によって外への興味を持ち始め、レミリアの知る幻想郷最強の存在である信綱とともに人里を見学する。

 信綱に対する印象は何事にも答えてくれる博識なお爺さんで、なんか得体の知れないという割りと正鵠を射たもの。

 そこで知り合った上白沢慧音に寺子屋へ誘われ、咲夜や美鈴に連れられて時々寺子屋へ通うようになる。勉強そのもの以上に、そこで知り合える人や慧音との対話が楽しいらしい。

 

 知識はすでにあるため、あとは情緒と相応の振る舞いさえ覚えれば、彼女は姉にも負けない立派な吸血鬼になっていくことだろう。

 

 

 

 作者の所感

 

 個人的には結構好きなキャラです。姉よりエロそう(薄い本脳)

 

 出すのが遅くなった理由はノッブがこの子のこと気にする理由がないよね、というのと動乱の時代にこれ以上の揉め事を入れると後々のバランスが悪くなりそうだったからです。

 ……まあ出すのを忘れていたというのもありますが(小声)

 

 彼女の狂気性についてはかなり悩みました。確かな理性を持った上で平然と禁忌を犯す狂気はすでにノッブが持っている上、もっとわかりやすいテンプレ的な狂気はノッブの前に出したら殺す以外の道がなくなるよねというジレンマ。

 なので他者と違う価値観を持っているけど、そもそも他者と触れ合う環境がなかったため狂っているのかどうか自分でも判断がついていないという微妙な線になりました。

 ……今さらだけど主人公が狂気持ってるとかおかしくありません?(真顔)

 

 ノッブは生まれついての狂気持ちで、人里での生活や他者とのふれあいで取り繕う術や人間性を学んでいます。素の阿礼狂いのままで学ぶ機会が与えられなければ、一個の歯車として機械に徹してました。

 そういった意味で言えば彼女はノッブと同じように自らの価値観の歪さや他者の価値を学んでいる最中です。ノッブが物語を通して進んできた道を彼女もまた進んでいる。

 

 その結論が出るのは遠い未来かもしれませんが――魔理沙や霊夢がいて、心配してくれる姉もいてくれる彼女であれば、きっと美しい結論が出せることでしょう。

 

 

 

 

 

 星熊勇儀

 

 能力:怪力乱神を持つ程度の能力

 

 好きなもの:人間。酒。強い男。

 嫌いなもの:軟弱なもの。自分を男扱いする者。

 

 得意なもの:喧嘩。酒の早飲み。

 苦手なもの:小難しい話。

 

 かつては大江山を縄張りにし、人間に暴威を働いた鬼の四天王、星熊童子その人。

 幻想郷でもトップクラスに危険か、人間友好度が極端に低いため地上に出ることすら危険であると封印される地底――旧地獄で暮らしていた鬼の首魁。

 

 当時の人間にだまし討に近い形で倒されたことに対しては、卑怯だとは思っているものの恨みや憎しみがあるわけではない。

 ただ人間への愛情も薄れてしまっており、さらに自覚があったためこれを覆してくれる人間が現れることを心待ちにしていた。

 余談だが、彼女の人間への愛情とは鬼と人間が戦い合っていた頃のものであり、当然ながら人間と相容れるものではない。ぶっちゃけない方が人間にとっては圧倒的にマシ。

 

 しかし彼女にはある予感があった。根拠も何もないが、いつか自分の前に自分と同等に戦える人間が現れるという予感が。いまガチャを回せば当たる、みたいなアレである。彼女の場合は見事に当たったが。

 そんな折に吸血鬼異変を解決した男の話を聞き、実際に姿を見た萃香やお燐の言葉を聞いて予感は確信に変わった。

 

 そうして待ちに待って邂逅を果たした信綱への第一印象は――最高の一言だった。

 勇儀ほどではないとはいえ強大な鬼を何十体と屠り、息一つ切らさず返り血も浴びずに佇む男を前に、彼女は久しく忘れていた血の昂ぶりを思い出す。

 その昂ぶりのままに鬼の頂点としての膂力に体力、再生力を全て使い尽くして戦い――打倒された。人間を襲い、人間に打倒される。妖怪としての本懐をこの上なく果たした。

 

 結局殺されることはなく、信綱と交わした人間を襲ってはならないという約定を胸に彼女は人間と生きることになる。

 かつてのように人と妖の境が薄い夢のような時間。それが永遠に続くことなどありえないとわかっていて、その結末が残酷なものであることも理解して、その上で彼女は笑うことを選択した。

 

 なぜって――それが鬼だからである。いつか訪れる終わりに怯えるぐらいなら、笑える今を心から楽しむ。そして全てが終わった時には自分を打倒した英雄の墓守でもやろう。

 秘められた感情は誰に知られることもなく、今日もまた彼女は笑って日々を過ごすのであった。

 

 

 

 作者の所感

 

 さっぱりとした気質で書きやすいキャラ。もうちょっと乙女っぽい部分というか、可愛い部分が書けなかったのがちょっと心残りです。

 

 ノッブが阿礼狂いでない状態で戦った妖怪の中では最高クラスです。間違いなく死線を十や二十は越えている勝負になってました。

 ですが尋常な勝負であり、潔く負けを認めて鬼を抑える役目も果たしているのでノッブの方はさほど悪感情を持っていません。はた迷惑なのは変わらないけど、狙うなら御阿礼の子ではなく自分を狙うだろうし御しやすいという意味も含めて。

 

 地底のまとめ役であり、鬼の代表。地底は出す予定がなかったので鬼の首魁としての意味合いが強く出ました。荒くれ者だらけの鬼の頂点に立つ力は戦闘で遺憾なく発揮されています。

 めっちゃ強くてめっちゃ堅くてめっちゃしぶとい相手との正面対決という、人間側からすればクソゲー待ったなしの勝負を乗り越えて見事自身を打倒したノッブに対しては、実はレミリア並みの好感度の持ち主です。ただ彼女は秘することを是としただけで。

 

 なので信綱の死後は表向き普通に暮らしながらも、足繁く信綱の墓に通う姿が見られることでしょう。そして遠い未来で人間と妖が再び別れた時には、彼の墓を守るものになることでしょう。

 

 

 

 

 

 伊吹萃香

 

 能力:疎と密を操る程度の能力

 

 好きなもの:酒。喧嘩。

 嫌いなもの:人間。己。

 

 得意なもの:喧嘩。悪巧み。

 苦手なもの:純粋な意思。

 

 星熊勇儀と同じく大江山にて暴威を振るった鬼の四天王の一人、伊吹童子。またの名を酒呑童子という。

 名の通りいつでも酒を飲んでいるが、心底から酔ったことはかつて人間と楽しくやっていた時以外にない。いつも陽気に振る舞っているフリをしながら、その実冷めた目であらゆる物事を見下していた。

 

 かつての人間にだまし討されたことを切っ掛けに人間不信の気があり、百鬼夜行の折に信綱との勝負で人々を集めたのもこれに端を発する。

 星熊勇儀を打倒した相手でも信じきれず、多くの人々や鬼の見ている前での勝負にしなければそもそも安心できなかったため。

 結果としてそれは信綱の核地雷を踏んづけたため、人間不信どころじゃない状況に陥ってしまい、その事実については彼女も割りと反省していたりする。

 

 とはいえその勝負で鬼の暴威すら退ける力量を持った人間と出会えたこと。鬼の力を目の当たりにしてなお道を譲らず、見事に意思を示した勇者に出会えたこと。

 かつて人間にだまし討される以前の人々のあるべき姿を思い出すことができた。それはだまし討されて以来くすぶり続けていた火を燃やし尽くすに足るものであり、人間と妖怪の関係に決着をつけることができた。

 

 それ以降は勇者と認めたとある白狼天狗にちょっかいをかけたり、打倒した人間にちょっかいをかけたりと、日々を心から楽しく過ごしている。

 その姿が迷惑極まりないものであることは議論の余地がないが、決して他者に迷惑をかけたくてかけているわけではない。

 

 祭り好きである彼女も彼女なりに幻想郷を盛り上げようとしているのだ。……多分。

 

 

 

 作者の所感

 

 ラスボスとして出すのは予定してた人です。人間不信の鬼であり、彼女の試練を乗り越えることが物語の山場でした。

 本当ならノッブがこれまで培ってきた椛や橙との絆を駆使して戦う場面があったりしました。

 強大な鬼の力。疎と密を操る力でノッブの握る長刀が弾かれてしまう。あわや絶体絶命となった彼に自らの大太刀を投げ渡す椛と、それを受け取る時間を稼ごうと一瞬の、されど万金にも勝る時間を橙が妖術の炎で稼ぐ。そして武器を受け取ったノッブが見事に鬼を打倒する流れを考えてました。

 

 まあ実際はそもそも阿弥を鬼のはびこる戦場に連れてきた時点でノッブの取るべき行動とか決まりきってましたよね、と書いてて気づきました。

 なのであの場面はノッブが阿礼狂いとしての本性を最も強く表した戦いになっていました。相手の主義主張感情に一切の価値を見出さず、ただただ御阿礼の子を害した存在を排除する殺戮機械。

 もし他の鬼が割って入っていたら一瞬で殺されてましたし、ゆかりんも入るタイミングを間違えていたら首が落ちてました。

 

 ですが彼女が求めていたのは自らの不信さえも覆すような『戦い』であり、決して屠殺されることを望んでいたわけではありません。

 なのでノッブのことも実力自体はこの上なく認めていますが、彼女が本当に評価しているのは尋常な勝負で自分を下した、とある白狼天狗になっています。

 これから先の未来でも彼女は適当に酒を飲みながら、時々霊夢たちにもちょっかいをかけ、さらに時々椛にもちょっかいをかけて楽しく生きていくのでしょう。

 

 

 

 

 

 八雲紫

 

 能力:境界を操る程度の能力

 

 好きなもの:昼寝。謀略。恋バナ。

 嫌いなもの:幻想郷を乱す者。仕事。

 

 得意なこと:スキマを使った情報収集。

 苦手なこと:茶化すことなく人と対話すること。

 

 幻想郷の創始者の一人であり、スキマと呼ばれる摩訶不思議な空間を操りあらゆる物事を可能にする強大な能力を持つ、スキマ妖怪その人。

 

 実態も噂に違わず美しい金髪の少女でありながら、身にまとう空気は油断すると一瞬で呑まれかねない恐ろしいもの。

 スキマを使うことで幻想郷内の情報で彼女の知らないことはほぼないと言っても過言ではなく、内部で起こる事件はほとんど全てで彼女が主導権を握ることも可能だった。

 

 しかしそうして主導権を握り続ければ誰だって自分の領域にこもりたがるのが自明の理であり、信綱が生まれる前から続いていた人間と妖怪が触れ合わない幻想郷を作り上げてしまった原因でもある。

 そのことを認めて反省し、どうにかしようと思考するもののこれまでの振る舞いが作り上げてしまった印象は覆せない。スキマを使って上手く立ち回り過ぎてしまったがために、彼女は身動きが取れなかった。

 

 そんな中で現れた新たな御阿礼の子の側仕えである、火継信綱という名の才人を見て歴史が動く確信を持つ。

 妖怪と真っ向から戦い、下すことすら可能な少年。そんな存在を他の妖怪が放っておくはずがないと確信して時間を置くことを決める。

 

 そして訪れた吸血鬼異変において頭角を現し、さらには外からの新しい視野も手に入れることに成功した信綱を見て紫は本格的に信綱を見守ることに決める。

 彼ならばきっと――そんな山勘にも等しい直感を信じ、紫は自らの幻想郷を委ねる決断をした。彼女にとって一世一代の大博打とも言える瞬間だった。

 

 無論、信綱はそんなことは全く知らず――とはいえある程度予測はしながら走り続け、紫の思惑通りに人妖の共存を成立させる。

 この時点で紫が信綱に期待した役割はほぼ終わっており、後は待ち受けている百鬼夜行を致命的な形で収めることにさえならなければ良かった。

 

 ――そしてそこからは彼女の思惑を外れた結果となっていく。

 

 信綱は百鬼夜行を収めるどころか退けてしまう。強くなるとは思っていたが、良くて鬼の首魁二人とは相討ちが関の山だと思っていたのだ。

 相討ちどころか一人は真っ向勝負で打倒し、もう一人はほぼ屠殺と言っても過言ではないもの。人間ってなんだろう、とさすがの紫も考えてしまった。

 

 さらに萃香を殺そうとした信綱を止める過程で自分も表に出ることを約束させられ、表舞台に立つことを余儀なくされる。

 信綱も途中で自分のやっていることは紫の尻拭いに近いことであると気づいていたため、ここで帳尻を合わせにかかっていた。

 かくして、目をかけた人間は彼女の予想を越えた結果を出すことと相成り、それに伴って彼女も幻想郷の賢者ではなく、幻想郷に住まう一人の妖怪として人間たちと関わっていくことになる。

 同時に信綱のことを目をかけた人間ではなく、自分と対等の領域に到達した存在として友人のように接するようになる。

 ……信綱もそれに気づいており、別に友人だと思ったことはないと言ったら泣かれそうなので何も言わなかった。

 

 その後は対等の存在と認める者たちとともにスペルカードルールを制定し、信綱が鍛えた博麗の巫女の成長などを観察しながら春雪異変で霊夢の前に姿を現す。

 彼女からも胡散臭い妖怪だと思われて、内心自分の印象を変える方法に悩みながら彼女もまた幻想郷の空を飛んでいく。

 これから先も訪れるであろう、多くの異変と人妖の共存をとりまとめるために。

 

 

 

 作者の所感

 

 もうこいつ一人でいいんじゃないかな、状態を続けてしまったがために周りが誰も彼女に付き合わなくなってしまったというある意味残当な経歴の持ち主。やり合っても手玉に取られるだけの相手と真面目に取り合う必要はありませんよねそりゃあ。

 

 スキマを使った情報戦ではほぼ無類の強さを誇っており、それで色々とやりすぎてしまったので人妖が顔を合わせないようにしようという状態になってしまい、ゆかりん反省(๑ゝڡ◕๑)テヘペロ

 当初はそれでちょっと反省していたものの、その時間はあまり長く続かないとタカをくくっており、信綱が生まれた頃になってからはテヘペロとかしてる場合じゃねえヤベェ! となっていて割りとガチで焦ってました。

 そんな折にノッブが現れ、歴史の転換期が訪れていると長年生きてきた妖怪の直感で理解。ノッブの動向を見つつ、自身もこれから起こるであろう騒動に備えてました。

 

 それでも騒動が起こるのがかなり遅くなり、吸血鬼異変を起こしたレミリアたちに一定数の妖怪が流れていったことも鑑みてマジのマジにヤバい、という危機感を抱いてました。

 ただ、それは天魔も同じことを思っていたため、ノッブがレミリアを打倒した瞬間に諸々の勢力が動き始めました。但し鬼の胎動だけは想定外だった。途中で気づいたけど、ノッブはこの辺で死ぬかな、ぐらいにしか思ってなかった。

 

 それを覆し、さらにはゆかりんが夢見ていた形以上の共存を成し遂げたノッブへの好感度は非常に高いです。抱きついて頬ずりしてキスしても良いくらいにはテンション上がってます。やったら抱きつく前に殴られて終わりですけど。

 

 登場させた理由としては幻想郷での物語なんだからそりゃあ出すよね、というお約束とスキマという限界がわからない能力を使っている関係上、彼女が動きづらい状況を作るための基準値みたいな部分もありました。

 こういう状況なら彼女が動きづらいだろう、というのをまず頭で想定して動乱の時代の状況とかを書いてます。

 

 そして彼女は明確にこの後の未来でも霊夢とコンビを組んで頑張るのがわかっているため、ノッブが後を任せる相手として適切という理由もありました。

 

 序盤はなんかノッブを手玉に取る大物感を見せて、中盤は暗躍しつつノッブに任せるムーブ。そして共存が成ってからは対等な存在として書きました。魅力的に見えていたら幸いです。

 

 

 

 

 

 風見幽香

 

 能力:花を操る程度の能力

 

 好きなこと:花の世話

 嫌いなこと:花の世話以外の大半の物事

 

 得意なこと:妖精いじめ。将棋(不本意)

 苦手なこと:人付き合い。舌戦。

 

 太陽の畑のみならず、四季の花が咲き乱れる場所を転々と動いて生活している妖怪。

 これだけ聞くと大したことがないように思うかもしれないが、彼女の行動範囲は特級の危険地域として人間のみならず妖怪にも知られている。

 

 そういう風に記すよう過去の人里と交渉しており、結果として彼女の周辺は信綱が訪れるまで平穏が存在していた。

 だがいつまでも続くと思われていた安寧はスペルカードルールが生まれたことと、それを伝えるために信綱がやってきたことで終わりを告げることになる。

 

 人里の英雄になったばかりの彼であれば取るに足らないと一蹴できるだけの実力はあったものの、すでに彼は百鬼夜行すら退けた領域に至っており、彼女をして勝ち目が薄いと認めざるを得なかった。

 そうして誰かを懐に入れたことにより、そもそも彼女は人付き合いが極端に少ないため言葉での勝負に非常に弱いことが露呈してしまう。

 

 将来悪い人に騙されるのではないか。そして騙されたことに気づいた彼女が人里に害を成さないか。あと妖怪連中もイジれるのならイジるだろうし、人里に被害が来ても困るという信綱の思惑により、彼女は人里に定期的に来るよう誘導される。

 

 人一倍負けず嫌いであることも利用されて、ものの見事に引っかかった彼女は良いように扱われている自覚を持ちながらも逆らえず、信綱の口車に載せられていた。

 本人に聞けば間違いなく屈辱の時間であったと答えるだろうが、不思議と彼女が信綱に突っかかっていく姿は楽しそうなそれに見えたらしい。

 

 人里で武張った勝負を行うわけにはいかないというのはさすがにわきまえており、信綱が適当に提案した将棋で勝負をすることになる。提案した本人もここまで食いつかれるとは思っていなかったとのこと。

 思考が狭いというより、これと決めたら他が見えなくなるタイプで一部の場面に集中しすぎるあまり他の箇所で手玉に取られてしまう。

 

 それが災いして攻める手段の豊富な信綱に様々な方向から煮え湯を飲まされており、その度に心底悔しがる姿が人里ではよく見られていた。

 

 ――しかし、他に考えることが少なくなる戦闘においては大妖怪と比しても何ら遜色のないものであり、信綱が正面戦闘を避けたのは面倒であることもそうだが、戦ったら死ぬ危険が排除しきれないからである。

 殴り合いになったらマズイからこそ、信綱もわざわざ別の手法に誘導していた。それほどに彼女の力は脅威の一言。

 

 自分のいない場所で力を振るえば人里は容易に壊滅させられるだけの力を秘めており、その力を持った当の本人が人慣れておらず些細な言葉にすぐ引っかかる。

 信綱が彼女の性質を知った瞬間、本気で頭痛を覚えたらしい。

 

 そんな経緯で付き合いが始まっていき、積み重なっていく将棋の負けに苛立ちながらも同じ勝負を挑み続け、幽香はやがて自己を振り返る。

 しばらくはずっと花に囲まれる生活を送っていて知らなかったが、自分はどうやら己に恥じない自分でありたいらしい。

 

 負けることは屈辱だが、彼女にとって決定的な恥ではない。

 決定的な恥とは、そんな己に目を背けてしまうこと。

 それに気づいてから、彼女は己を高嶺の花でありたいと位置づける。

 

 信綱が生きている間は彼から勝利をもぎ取ろうと奮闘し、人とも関わる価値を見出だせば関わるようになるだろう。

 だが全ては己に対する糧とする。そうして咲き誇り続けるのだ。美しいものも汚いものも全て見て、それでもなお咲き誇る花は紛れもなく美しいのだから。

 

 

 

 作者の所感

 

 終盤も終盤に登場させたのにすごい人気で驚いた(小並感)

 

 スペルカードルールの話もあるのでどこかで出そうとは思っていたけど、出すとしたら超序盤か終盤の二択だった。序盤は何か? 大体六十年周期に起こる花映塚。忘れてました(白状)。

 

 もうここまで来ると役割もへったくれもありません。書いてて楽しいから出す、以上。

 ……というだけなのも味気ないので、彼女は成長する大妖怪としての一面を出してみました。

 

 めっちゃ負けず嫌いだけど、ただ負けず嫌いではない。言葉での負けを暴力で覆すのではなく、言葉で勝たなければ自分が納得しないという一点のみで意地を張り続ける少女です。

 成長性とか己への妥協のなさは幻想郷でもトップクラスです。彼女は一人で、一人だからこそ自分のために自分の力を磨くことができる。

 

 そして口には出しませんし、指摘しても認めたがりませんがノッブにも感謝しています。死んだら花の一輪ぐらいは添えてもらえます。

 ノッブも彼女の負けず嫌いは好ましく思っていたので、なんだかんだやってくる彼女の相手はそんなに面倒なものではありませんでした。

 

 彼女は今も昔も変わらず、ただ揺るがない己を目指して花とともに、たまに人妖と関わりながら生きていくことでしょう。

 

 

 

 

 

 森近霖之助

 

 能力:道具の名前と用途がわかる程度の能力

 

 好きなもの:道具の蒐集。静かな時間。

 嫌いなもの:騒がしすぎる空間。

 

 得意なもの:薀蓄語り(大体ハズレ)。商売(自称)。

 苦手なもの:タカリに来る巫女と魔法使い。

 

 もともとは無縁塚に居を構えていた妖怪と人間のハーフ。

 無縁仏の身柄を整える代わりに身につけていた遺品をもらっていくということをしており、そうして集めた外の世界の道具の用途などを考えたりして生活していた。

 

 そうして道具に囲まれる日々を送り、やがて彼は道具をあるべき人に渡したいように考えるようになった。

 そこで商人の修行をしようと思い立ったところで信綱と出会ったのが本編となる。

 

 彼のツテで霧雨商店を紹介してもらい、そこで彼は生涯の親友となる霧雨商店の店主と、その大旦那と大奥方。さらには店主の娘と霧雨家に連なる人物と出会う。

 人付き合いを避けるきらいのある彼をして大恩あると断言するに相応しい人々と出会い、彼の修行は穏やかに過ぎていった。

 

 親友となった店主の両親が他界したタイミングで自らも店を辞し、念願の自分の店を手に入れる。酷なタイミングであることは重々承知していたが、それを続けることがどちらにとっても良くない結果を招きかねないと判断していた。

 そうして店を持ったため、ここからは悠々自適な楽しい生活が待っている――と思ったのも数年程度。

 

 家を飛び出した魔理沙がタカリに来て、信綱に頼まれて巫女の服を作ったところ、たいそうお気に召した博麗の巫女にタカられ、何やら最近は紅魔館のメイドにすらタカられる。

 半妖であるため食事も睡眠も人間より必要でないとはいえ、ひもじい思いは誰だって嫌だ。とはいえ年下の子供、しかも手のかかる妹のように思っている子に強く出るのも大人げない。

 霖之助はこんなはずじゃなかった、とため息を連発しながら今日も店にやってくる子供たちの相手をしていくのである。

 

 余談だが、信綱との付き合いは意外とあったらしく、時折信綱が酒肴を持って香霖堂を訪ねる姿が見られたらしい。妖怪の友人は大半が少女である中、面倒なことを考えないで良い同性との付き合いは気楽だったのだろう。

 霖之助自身も高価な酒や上等な酒肴、そして彼自身の豊富な経験と知識による観点は歓迎すべきものだったのだろう。気の置けない友人として彼を歓迎していた。

 

 半妖として、道具を愛する者として、彼はこれからの幻想郷を生きていく。道具をあるべき人に渡し、また自らも道具の行く末を見届けるために。

 

 

 

 作者の所感

 

 魔理沙を出すならこーりんも出さないとね、という一粒で二度美味しい的な感覚で出しました(真顔)

 とはいえ幻想郷では数少ない男性のキャラということもあり、それなりに気を遣っています。

 ノッブは公私で多少は分けるものの、基本的に無骨一辺倒な言葉遣い。彼の親友である勘助は誰とも仲良くなれる気さくな言葉遣い。天魔は誰が相手でも人を喰ったような言葉遣い。結構男キャラの言葉遣いは意識してます。

 

 霖之助はある意味原作があるので一番ラクでもあり、再現が大変なキャラでもありました。まあ基本フィーリングだけどネ!

 落ち着いていて知的だけど、どこかズレている。口では色々言いながらも面倒見が良くて、頼まれごとには嫌と言えない性格。そしてたまにさらっとイケメンな台詞を言う。

 概ねこんな感じで書いています。ノッブも彼のことはやや、いやかなりズレているけど悪いやつではないと認識しているので、トンチンカンかつ無駄に長い薀蓄を語ろうとする時以外は普通に接します。

 

 ちなみに戦闘能力に関しては全くできないってわけじゃないけど、天狗とか鬼とかとは比べられないって辺りだと裁定してます。慧音先生とどっこいどっこいかやや下。

 ノッブのことは人里で修行を始めてから伝聞でのみ話を聞いている状態ですが、初対面の時に半妖としての身体能力でも一切見えなかった抜刀などがあるため、怒らせるのはやめておこうと心に決めてあったりします。

 

 ……ボツネタとしては香霖堂を訪れたノッブがその辺にあった古い武器を見つけて、霖之助が剣の由来を説明しようとしたところであっさりと抜き放ち、こーりんがマジビビリするもノッブが大して剣に興味を示さずに終わるという話を考えたりしましたけど、よく考えなくてもこの主人公に天下取らせるとか武器の目がフシアナすぎるわ、となって却下しました。

 

 

 

 

 

 十六夜咲夜

 

 能力:時間を操る程度の能力

 

 好きなもの:ピカピカの部屋。主人。可愛らしい小物。

 嫌いなもの:汚い部屋。冷めた食事。

 

 得意なもの:家事全般。ナイフ捌き。

 苦手なもの:素直な賞賛(照れてしまう)。クールで仕事のできる人という自分のイメージ(気づいたらついてた)。

 

 上品で瀟洒な振る舞いが特徴的な紅魔館の年若いメイド。年の頃は霊夢や魔理沙よりやや上か同年代といったところ。

 人里でも休みの時でもメイド服をまとっており、当人に理由を聞いてもメイドですから、としか返ってこない。筋金入りの忠誠心の持ち主かと思いきや、主を軽んじる発言をしてもあっさり受け入れたりと、やや天然気味な部分を持つ。

 

 信綱のことはレミリアからの話で一方的に知っていただけだったところ、紅霧異変を機に顔を合わせる。

 実際に顔を合わせてわかったことは仏頂面に反して意外と面倒見が良いというか、余計な苦労を背負い込むタイプであることと、レミリアから聞いた話以上の実力を持っているという確信である。

 

 その後、彼女は従者として見ても紛れもない先達である信綱に弟子入りを試みる。

 半ば以上押しかけではあったものの、きっちり面倒を見て自分の内面も見抜いたアドバイスをくれた信綱には感謝しており、個人的な付き合いも継続して持ち続けていた。

 

 自分の生きた年数の倍以上を主に仕え、ただその幸福のみを願って自らを磨き、彼女の環境である幻想郷の変革すら行った人間。

 目標にはなり得ないが、彼の歩んだ道と積み上げた結果には同じ従者として強く尊敬している。

 

 戦闘スタイルは服の随所に仕込んだナイフを使い、時を止めて不意を打つスタイル。

 信綱でさえも時間の止まった瞬間は認識できず、彼女との戦闘に関しては完全な後手になることが強制される。

 ……が、彼女の能力もまた任意で行うものであり、時間を止められる彼女が取るべき行動など不意打ち以外にあり得ないとも考えているため、不意を突きやすい隙をわざと見せることで攻撃を誘導し、対処することは可能。

 ちなみにスキマ妖怪にも同じ手法で信綱は攻撃を当てることができたりする。天魔たちと酒を飲んでいた時に話したところ、誰からも賛同を得られなかった手法だが。

 

 原作とほぼ同じタイミングに登場したため、信綱との付き合いは必然的に短くなる。

 しかし、その短い時間であっても決して無意味な時間にはならない。

 友人を作り、視野を広げてみると良いと教えられ、またその通りに友人を作って楽しく笑いながら、瀟洒な従者はより高みを目指すのである――

 

 

 

 作者の所感

 

 原作主人公勢、と作者は勝手に思っているので可愛く書くよう意識してます。

 

 振る舞いは上品で瀟洒。言葉遣いも丁寧だけど、たまに天然。可愛いものが好きで普通に女の子らしいところもあって、実は周りから仕事のできる人だと思われていることに悩んでいる。そんな感じをイメージして書いていました。

 

 ノッブとは同じ従者つながりなので結構尊敬しています。ノッブの方もちゃんと接してくる相手を無下にはしませんから、普通に面倒を見ています。割りと自分の技術を教えるのを楽しんでいたので、こっそりと咲夜が次に覚えるための技術を書物にまとめていたりしています。

 もう一人の従者? 初手幻想郷の春を奪うとかちょっとノッブ的に看過できない(真顔)

 

 おぜうへの忠心は間違いなく本物で、彼女のためなら命も懸けられます。

 無論、どこぞの阿礼狂いのように心から喜んで、というわけにはいきませんが、おぜうは咲夜にそれは求めていません。

 レミリアが信綱に見出したのは一切の迷いも恐れも持たず、ただ自らの狂気に殉じる美しさであり、咲夜に求めているのは人間が恐れながらも勇気と意思を持って立ち向かう――そんな、バケモノを退治する人間の美しさを求めているからである。

 

 そんなレミリアの思惑に気づくことなく――気づいたとしても変わらず、彼女は幻想郷の空を飛んでいく。

 人里に来たばかりの頃よりも柔らかく、優しくて魅力的な微笑みを湛えて。

 

 

 

 

 

 霧雨魔理沙

 

 能力:魔法を操る程度の能力

 

 好きなもの:魔法の修行。他人の作るご飯。

 嫌いなもの:説教。ジメジメした雰囲気。

 

 得意なもの:魔法。目利き(自覚なし)。

 苦手なもの:とある人物の説教。家事全般。

 

 霧雨弥助の一人娘であり、人里一に大きな商店となった霧雨商店の看板娘。そしていまは異変の解決役として幻想郷に名を馳せている魔法使いである。

 

 信綱の親友である勘助の孫であるため、信綱と彼女との付き合いは魔理沙が赤ん坊の頃から続いている。

 彼も人見知りせず、子供らしい無邪気な好意をぶつけてくる彼女を嫌ってはおらず、時折店にやってきては彼女を甘やかす姿が見受けられた。

 大人は子供を守るもの、という当たり前の理屈を守っているだけだと本人は言い張るが、なんだかんだ子供には甘かったりする。

 

 幼い頃は優しい家族に囲まれて元気に育ち優しさと活発さを併存させた少女らしい性格をしていた。

 優しい性格と活発な行動力が相まって、一人で里の外へ出るような無茶をすることもあったが、その時は信綱に助けられた後こっぴどく叱られている。

 その事件そのものは覚えていないのだが、信綱に怒られた経験は体に残ってしまっているようで、信綱のことは子供の頃から変わらず祖父の友人として大好きなのに、不思議と睨まれると頭が上がらなくなってしまうようになってしまった。

 

 そんな彼女は寺子屋時代に霊夢と出会い、人を惹き付ける彼女の性質や年齢とはかけ離れた能力に強く憧れ、同時に対抗心を抱くことになる。

 

 その段階ではまだ明文化はできていなかったものの、たまたま店にあった霖之助の持ってきていたマジックアイテムを起動してしまったことで彼女の人生は大きく動くことになる。

 魔力を扱う素養がなければ使えないマジックアイテムが動かせた――すなわち、魔法使いになる道が存在するということが発覚し、魔理沙は魔法使いになることを熱望する。

 

 父親である弥助は昔に魔理沙が魔法の森に一人で行って妖怪に襲われたことから、安全な人里で一生を終えて欲しいと願っていた。

 魔理沙は魔法使いそのものに夢もあったし、何より博麗の巫女として修行している彼女に追いつくには魔法使いぐらいにならなければ不可能だと考えていた。

 

 当然のように両者の言い分は激突するが――たまたま双方の事情を知った信綱が二人に腹を割って話すよう導き、大喧嘩の末のケンカ別れは避けられることとなる。

 このため勘当という処分にこそなっているが、親子仲自体は良好。そもそも衣食住を担っている店でもあるため、魔理沙が普通に利用することには何の不具合もない。

 

 現在は魔法の森で一人暮らしをしているが、修行にかまけてばかりのため部屋はいつも散らかりっぱなし。努力は嫌いだが家事はしっかり行う霊夢と、努力家だけど家事はしない魔理沙で対照的になっている。

 信綱がたまに抜き打ちで部屋を見に行っては魔理沙に説教しながら掃除をするのが定番の流れになっていた。

 ……信綱がいなくなってからはアリスが渋々その役目を引き継ぐことになるとかどうとか。

 

 異変解決役としては霊力を使う霊夢とは対照的に、魔法を使ったパワーあふれる弾幕で戦う姿がよく見られる。

 適当に進んでいれば異変の元凶にたどり着ける霊夢とは違い、元凶を見つけることについては霊夢に一歩劣るが、彼女の異変に臨む姿は元凶とは別の妖怪を惹き付けることもあり、その姿はすでに妖怪たちから注目を浴びている。

 霖之助お手製のミニ八卦炉を片手に今日も彼女は幻想郷の空を飛んで霊夢に追いつくべく修行を続けていくのだろう。

 

 

 

 作者の所感

 

 原作主人公勢二人目。ノッブとは赤ん坊の頃からの付き合いなので、本当に爺ちゃんという認識。

 妖怪の跋扈する魔法の森を平気な顔で歩き、人里の大人たちから聞こえるおとぎ話じみた伝説や霊夢がやたらと懐いていることから何かしらあるんだろうなーとは思っていますが、彼女だけはノッブが鍛錬をする光景や戦う場面を見ていません。唯一あった子供の頃のアレも忘れてます。

 

 なので魔理沙にとってノッブは口うるさいけど面倒見が良くて優しい爺ちゃん、という認識になっています。

 

 一度だけ霊夢、魔理沙、咲夜の三人とノッブが戦うシーンを考えたのですが、ノッブにそんなことする理由ないよね、ということであえなくお蔵入りに。彼も親友の孫娘の前で戦おうとすることは嫌がります。

 

 意外と書いてて女の子らしかったというか、蓮っ葉で誰に対しても物怖じしないように見えて、根っこは常識人というのが伝わるよう努力しました。

 そして人たらし。まあこれについては彼女の祖父が狂人を絆させているんですから、ある意味当然の帰結かなと。自覚して使えるようになったら魔性の女待ったなし。

 甘えて良い人を見極めるのも非常に上手で、ノッブはちゃんとしていれば小言も言わないため結構甘えられています。だらしなければ容赦なく小言とゲンコツが飛んでくるため、部屋がヤバそうな時は逃げてますが。

 

 戦闘力に関してはガチバトルになると若干怪しいところがあるものの、弾幕ごっこなら間違いなくトップクラスです。弾幕ごっこの範疇なら霊夢ともタメを張れますし、ゆかりんが相手でも互角に戦えます。

 素の殴り合い? 今の幻想郷でそれが起こること自体が問題なので大丈夫大丈夫(適当)。

 

 出て来る時代が時代で、背景も人里の生まれなので原作との乖離はかなり少ないキャラだと思っています。強いて言えば父親と喧嘩別れしていないことくらいですが、逆に言えばそれしかありません。

 

 

 

 

 

 博麗霊夢

 

 能力:空を飛ぶ程度の能力

 

 好きなもの:家族。だらけること。爺さんの稽古。

 嫌いなもの:努力。爺さんのシゴキ。

 

 得意なもの:博麗の秘術。弾幕ごっこ。他なんでも。

 苦手なもの:自分の気持ちを素直に表すこと。

 

 紫が外の世界から連れてきた少女で、これからの幻想郷を担う博麗の巫女。

 これまでは博麗の巫女の死が次代の博麗の巫女の選出だったのだが、動乱の時代を生きて乗り越えることができた先代は彼女を娘として迎え入れて引退することができた。

 

 そうして連れてこられた少女は――これまでの博麗の巫女に二人といない才覚の持ち主だった。十歳にもなる前に博麗の巫女が覚えるべき結界術や体術は一通り覚えてしまい、すでにその能力を活かした彼女にしか扱えない術の開発すら行っていた。

 しかし彼女の類まれな才覚とは裏腹に霊夢は怠惰を好み、努力するのが嫌な性格だった。なんでもやればできてしまう以上、必要に迫られた時にやれば良い。そんな考えが彼女を努力から遠ざけた。

 

 だが、必要に迫られた時に時間があるとは限らない。必要に迫られた時が命の危機だったらどうしようもないのだ。

 そこで霊夢の怠け癖に危機感を覚えた先代が一計を案じ、信綱が彼女の教育役という形で面倒を見ることになる。

 

 負けず嫌いな性格でもあることを初対面で見抜いた信綱に上手く誘導され、信綱とは定期的に稽古を行う関係になる。但し稽古日になると大体逃げ出しているため、追いかける時間も含まれる。

 逃げ出すと言っても本気で逃げているわけではなく、子供が大人から隠れるちょっとした遊びのようなもの。霊夢も信綱が真剣に自分と向き合っているのはわかっているため、その気持を無下にするような真似はできないのだ。

 

 先代のことは母さんと呼び本当の母親のように慕い、信綱のことも爺さんと呼んでなんだかんだ慕っている。本人は認めたがらないが、家族のことが大好き。

 

 空を飛ぶ程度の能力の影響からか天衣無縫な気質を持っており、あるがままの自分であることを尊ぶ性格。

 しかしあるがままであることとそれで好き勝手することは別問題。ただ自分勝手に振る舞っていることを自由とは言わず、やがて巡り巡って自分に悪因悪果として返ってくるだけだと信綱に教えられている。

 そのため彼女も無闇に軋轢を作ろうとはせず、よほど気に入らないことでもない限り誰が相手でもある程度は穏便に相手をしようとする。

 

 そして信綱、先代によって鍛えられた実力はすでに幻想郷でも無視できないほどになっている。

 特にスペルカードルールでは最強の一角であり、信綱も彼女に負ける可能性は否定しきれないほど。

 あらゆるものの干渉から浮いて無効化するという最強の能力、夢想天生もすでに扱えるようになっているが、こちらは信綱の勧めで今以上の練度にはしないよう注意している。

 理由としては極まってしまったそれは霊夢自身の人間性すら奪いかねないものであることと、彼女の意思が消えて自動化した攻撃で勝っても、霊夢自身がそれを誇れないため。

 

 またこれは信綱が意図したものであるが、他と比べられる環境が少なかったため、努力のハードルが異常に高かった。魔理沙に指摘されるまでずっと努力とは朝から晩までずっと信綱と組手をすることだと思い込んでいた。

 

 指摘を受けて自分が騙されていたと発覚した後も、信綱から教えられた体操だけは黙々と続けている。理由は信綱がちゃんと自分のことを考えて作ったものだから。口では色々言っても、家族は裏切れない優しい子である。

 

 信綱が亡くなってしまったことで、彼女は家族を全員失うことになる。

 ――だが、一人ではない。すでに彼女は多くの人妖に気に入られ、ひっきりなしに神社に訪れるようになっているのだから。

 

 母さんと爺さん。二人から色々なものを与えられた博麗の巫女は今日も今日とて、博麗神社にやってくる妖怪たちにため息を連発しながらも相手をしていくのだろう。

 

 

 

 作者の所感

 

 目指せ愛されいむ。ということで登場人物紹介の最後を締めくくるのは我らが主人公霊夢です。

 

 原作では見られない子供の頃も書くため、先代がお母さん役ならノッブにも何かしらやらせようと師匠役になりました。

 意外と父親としてもちゃんとしていましたが、残念ながら信綱の娘にはすでに阿弥がいた。阿弥を唯一無二であると考えるがために、霊夢に父親と呼ばせることだけは拒否しました。

 

 霊夢も霊夢で勘が鋭いためその辺りの機微を察し、基本的には爺さんと呼んでいます。

 それが崩れるのは彼女が精神的に弱っている時――すなわち、先代が亡くなった時だけは彼を父と呼ぶことを希望したりしています。ノッブは断りますが。

 

 超然とした幻想郷の調停者ではなく、普通の少女のように笑い、泣き、怒って成長していく。等身大の少女であり、それでいて心根には強いものを秘めた少女、という風に意識して書きました。

 

 異変の時にはノッブが教えたように邪魔するやつは全て敵、という考えで容赦がありませんが、それ以外であれば物言いこそキツイかもしれないけれど、面倒見の良い――彼女を育てた者が誰か知っていればすぐに連想してしまうほどそっくりに、彼女もまた幻想郷を生きていくことでしょう。




めっちゃ疲れた(小並感)

書きたいものを書くだけの本編より疲れた気さえします。あーでもないこーでもないと悩んでは消し悩んでは消しの繰り返しでした。
そして気づいたらこんなに遅くなってしまいました。誠に申し訳ありません。

次の先代ルートや椛ルートは書くものが決まっているため、早めにお届けできる……と良いかな(現場の始業時間が早くなって、夜遅くに書くのが難しくなっている人)

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