天地無用!~いつまでも少年の物語~。第2部   作:かずき屋

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ううう、見事に、なんと20数年ぶりにインフルエンザに罹ってしまいました(TT)。

この忙しい時期に、職場出入禁止(実際は、月曜日まだ熱が出てない時に、当面の段取りだけしてぶっ倒れていました)。

風邪でも38度前半しか熱が出たことなかったのに、39.2度まで体温が上がり、いまだ酷い咳が残っています。

みなさん、お気を付けて。ちなみに、イナビルという吸入薬ですぐに熱は下がったのですが、とにかく大変な一週間でした。


樹雷から銀河へ15

 「籐吾、よろしく頼む。」

了解の声と供に、籐吾さんの右人差し指と中指がコンソールを横に滑り、静かに、暗いが星々の光が見える空間から濃い緑色の空間へ突入した。

 

 今度こそ、静かに時は過ぎていった。わずかな空調の音、そして電子機器類の音。超空間航行中は本当に静かなモノである。あと8時間程度で樹雷の制宙圏内だそうだから、数千光年程度か。蒼穏の星も問題なくついてきている。梅皇経由で、僕の赤い宝玉の余剰エネルギーは、蒼穏へ常時チャージされている。そして、あの破壊力。もう、あの樹も厄介者扱いはされないだろう。今回の旅については、そのあたりの事情は、まあ、良かったことかな、と思いを巡らせていた。

 「・・・どこか、遠くへ行きたいな。」

ふと、口をついて出た言葉。

 「あら、どこまで行かれますの?」

さっきはあえて黙ってたのか、水穂さんの涼やかな声の問いかけが聞こえた。

 「樹雷だの、地球だの、GPだの・・・そう言うモノが記憶の彼方になるような、遠いところ・・・。」

 「そうですか・・・。でも、私たちは・・・。」

そこまで言って、水穂さんは黙ってしまった。

 「でも、寒いところは嫌だから、みんなのいるここにね・・・。」

そこまで言うと、左右から肩をがしっとつかまれる。とても女性の力と思えない。

 「・・・さて、風呂でも入って樹雷到着まで休みましょう。どうせ、樹雷についたら、どっちに転んでも、わやくちゃにされるだろうし。」

やれやれと言った表情で、振り返って僕を見るみんなだった。今は梅皇コントロールで跳んでいる。特に何か操作が必要という訳でもない。

 「今日は、阿羅々樹の風呂がええのぉ。」

柚樹さんの一言で、なんとなく入る風呂が決まった。どこの風呂も気持ち良いことには変わりがなく、この梅皇にも広大で豪華な風呂がある。阿羅々樹は、広さはそう広くないが、どことなく地球の豪華な温泉旅館を思わせる作りだったりする。籐吾さんの趣味だろう。なんとなくうれしそうな籐吾さんだったりする。

 梅皇にしてもイツキにしても、本当に成り立てほやほやの皇家の僕の場合は、その辺のおもてなし系の装備はまだまだだったりする。あ、でも阿主沙様やら立木家やらからいただいたユニットもある。あの非常に大きなジオラマというか盆栽趣味というか。

 見慣れたグリーンの転送フィールドに包まれ、着いたところは阿羅々樹の脱衣場である。いちおう、男女は別。いつものように、逆三角形の二人の背を見てゾクゾクしながらかけ湯をして湯船につかる。樹雷の風呂は、品種改良された藻や草などにより常時浄化、汚れの吸着等行われていて、アロマ効果のある植物もたくさんあって、さらにナノマシンによる洗浄効果も大きく、快適きわまりない。この辺、地球を懐かしむことはあまりない。せいぜい、我が家の狭い風呂に一人つかる贅沢が懐かしいくらいである。

 「傷はないようですね。」

まだ謙吾さんは首と胸を交互に見ている。

 「なんだか、身体が再構築されたような感じだから、たぶん傷は元々無かったことになっていると思うけど・・・。」

静かに、僕の顔を見つめる謙吾さん。だんだんと目に涙が溜まってきて

 「ううわあ~~~~あん。」

大声で号泣だった。本当に子どものように。

 「せっかく、せっかく俺が好きになった人がどんどん、・・・遠くなっていく。」

反対側では、

 「・・・日亜様、一樹様・・・。」

さめざめと大の男が泣いている。だまって、二人を抱き寄せて、しばらく、人肌の暖かさと湯の温かさを噛み締めていた。

 「説明しよう!」

目の前に、真っ赤なカニ頭の女性がポンッと現れた。即座に、僕の頭にカイセキ君三号をかぶせる。柾木家で、一度かぶったことがあるものだ。

 「・・・、ええと一応、梅皇の中で、しかも阿羅々樹の中の、しかも男湯なんですが・・・。」

ひとしきり泣いて気が済んだのか、謙吾さんが泣き笑いしていた。

 「・・・鷲羽様に、私たちの常識は通じませんよ。」

 「ちっちっちっ、鷲羽ちゃんと呼んで。」

左手の人差し指を左右に振り、いつものどこでも開ける半透明の端末を湯の上に開いて、見事なブラインドタッチの鷲羽ちゃん。泣いていた籐吾さんは、びっくりした顔で固まっている。

 「・・・鷲羽ちゃんと呼んで。」

籐吾さんの顔をのぞき込んで、もう一度言った。

 「はい、・・・鷲羽ちゃん。」

 「よくできました~~。」

なでなでと、頭をなでられている籐吾さんだった。 「ところで、鷲羽ちゃん、また急なご訪問ですね。」

 「津名魅に、あ、いや違った、阿主沙殿や瀬戸殿に頼まれてね~。」

 「ぐ、影響はここまで・・・。」

ぴたこらぴたこら、と丸いボール状のカイセキ君の左右の目?が交互に光っていたと思ったら、数秒後、ぴここん、と両方光って止まった。終了したらしい。ずばばば、と色とりどりの小型ディスプレイが鷲羽ちゃんの周りに開いていく。

 「天地殿と、同じ結果か・・・。いや、ちょっと違うか・・・。だが・・・まだ、羽化には早いね。」

珍しく、一言一言区切るように言う鷲羽ちゃんだった。たくさん開いているウインドウの意味は、たぶん鷲羽ちゃんしか分からない解析結果なのだろう。そうそう、きっちり鷲羽ちゃん、胸までのバスタオル巻いている。まあ、この三人、微妙にバスタオルがあってもなくても、どっちでも良かったりするかも、である。

 「今度、休みでももらって、地球に帰っておいで。そのときに説明するから。」

 「え、いま、説明しよう!って・・・。」

 「男が細かいこと気にしないっっ!」

またもや、どこから出したのか、純白のハリセンである。阿羅々樹のお風呂に気持ちの良い打撃音が反響した。

 「そうさね、いろいろ準備ってモノがあるのさ。とにかく、元気な姿を阿主沙殿や瀬戸殿にみせてやっておくれな。うるさくてかなわんのよね~。それじゃーねー。」

と、来たときと同じように、超長距離転送されていった。梅皇も転送ゲートが開くまで分からなかったらしい。さすが天の川銀河随一の天才科学者。

 「あーあ、鷲羽様に毒気を抜かれてしまいました・・・。」

両側の二人も、苦笑いしている。熱い心が戻ってきたように感じる。へ?人の心まで?マジ?ハッキリとではないが、二人の温かい心が感応できている。とにかく、ここら辺は微妙なので黙っておこう。

 「どうかなさいましたか?一樹様。」

 「いや、なんでもないよ。お前達とこうして風呂に入れることがうれしいな、と思ってたところです。」

ぽ、と二人ともほほを赤らめる。手を回している、むちっとした肩の筋肉や、引き締まり、あばら骨がハッキリ分かる脇腹がなんとも美しい。ぽて、と二人が両肩に頭を乗せてくる。

 「ええっとぉ、欲望が暴走しそうですが・・・。」

ふふっと笑う二人が愛おしい。そして、時間は過ぎ、今度こそ何もなく、樹雷到着予定時刻の1時間前になった。みんな交代で眠っていたようであった。正装してブリッジ各所に座っている。

 「なんだかどんな出迎えがあるのかが怖いですが・・・、樹雷帰投準備を始めてください。先に樹雷からの作業船が来るはずですね?」

はい、そうです。と謙吾さんから返答がある。しばらくするとジャンプアウトしてくる船があると茉莉さんから報告があった。

 「樹雷の作業船5隻と、仮設ドック施設船1隻、あれは・・・、樹雷一刀彫り人間国宝の天木輝北(あまき・きほく)様の座船、瑞浪(みずなみ)です。私、竜木謙吾の師匠です。お、お師匠様自ら・・・。」

珍しく、頭を抱えている謙吾さんだった。やっぱり、師匠には頭が上がらないものなんだろうな。電子コールが鳴り、通信ディスプレイが展開された。50代くらいに見える、ロマンスグレーの意志の強そうな男が現れた。

 「柾木・一樹・樹雷様、お待たせしました。惑星を亜空間固定される、とのことと、梅皇の修繕および外部装甲、武器の強化の作業を樹雷皇阿主沙様から命令を承りました、天木輝北でございます。」

 樹雷式の正式な深々とした一礼をしてくれる。こちらも(何度も練習して水穂さんに怒られながら覚えた)一礼を返した。ほんの数刻、僕と天木輝北は視線を交差させ、すぐに天木輝北は、竜木謙吾の方へ視線を向けた。ニッと笑って、言葉を紡ぐ。

 「失礼します、柾木・一樹・樹雷様。・・・くおらぁ、謙吾っっお前が付いていながらぁ、この体たらくはどうしたことだぁぁぁぁ。」

ブリッジのスピーカー(あるのか?)が吹き飛ぶかと思うような大音声だった。

 「師匠!、すんません。想定外のことばかり起こりましたぁ!」

直立不動でバネのように立ち上がり、頭を下げて同じように大声で返す謙吾さんだった。

 「・・・まあ、しょうがないだろうよ。不完全な皇家の樹の種の、エネルギーバーストを至近距離で受け、よくこれだけで済んだ物だ・・・。6連補機のうち、暴走した2機をパージ、中破した左翼部分から敵海賊の侵入を許してしまったのか・・・。」

報告されたデータと、現状の梅皇外観データを突合するかのように読み上げている天木輝北だった。 「・・・で、船体に使った樹は?」

ギロリ、という感じで謙吾さんを見る天木輝北殿である。

 「は、はい。天樹の第1435枝、樹雷星史28300年度伐採部、です。」

すぐに、水穂さんが座っている僕に、身をかがめて耳打ちしてくれた。なんでも、天樹の船体構築用「枝」(そういうのがあるらしい)でもビンテージイヤーに属する材料で、樹雷でもおいそれと手に入る物ではないらしい。

 「うむ、材料はお前が手に入れられる物でも最上だな・・・。しかしなぁ、お前が、二度目に大事に思う者のために作る船なのだろう?しかも第1世代だ。なぜ、わしに相談せん?」

はっ、と何かに気づくようにディスプレイを見上げる謙吾さんだった。

 「わしは言ったはずだ、お前が意を決して最高の船を作ろうとするとき、協力は惜しまぬと。」

 「もしや、あの伝説の・・・。」

数瞬の沈黙が降りるが、すぐに天木輝北殿が口を開く。

 「おうよ、可愛い愛弟子への餞(はなむけ)だ、出し惜しみする理由があるまい?」

ニヤリと笑う、天木輝北殿だった。再び僕に視線を向け、済まなさそうにしゃべり始めた。

 「柾木・一樹・樹雷様、第1世代皇家の船が中破したまま樹雷に帰投されると、樹雷全ての人民の士気に関わる大事なのです。どちらにせよ、すぐ分かることとは言え、いかなる理由があろうとも、第1世代皇家の船が傷つくなどということはあってはならぬこと。そのため、この場で最新の船殻に交換いたします。ブリッジや居住区等は、ほぼ同じ物をご用意しています。乗員および乗組員の皆様は、現在梅皇コアユニット内にいらっしゃるのでそのまま待機ください。武器等はリストを送りますのでそれでご確認を。それと、その作業のために竜木謙吾と、立木幹凪、上木晴信を一時的に借ります。」

それでは!とどことなく楽しそうな表情に変わった天木輝北殿だった。通信が切れてすぐ、様々なデータの着信があり、すぐに謙吾さんを始め、神木あやめさんや茉莉さんが解析作業に入った。

 「一樹様、たぶんもう問答無用でうちの師匠の用意する新船殻に変わるんですけど・・・、こりゃ凄いわ・・・。」

そう言って、黙ってしまう謙吾さんだった。しばらく送られてくるデータを読んで、また口を開く謙吾さん。

 「これ、約700年前の対魎皇鬼戦で、船穂が戦ったデータと数十年前に阿重霞様が戦ったデータを元に・・・って、どこからそんなデータが・・・、うわ、データ提供元、柾木・遥照・樹雷、白眉鷲羽とある・・・。霧封には反映済み・・・。光應翼なしで、通常兵器の主砲クラスではダメージが与えられないほどの硬度を持っている。天樹からの伐採・採取部分は、幹?まさか・・・。」

 「おい、さっさとこんか!作業にかかるぞ!。」

音声のみの通信が謙吾さんの目前に入り、謙吾さんを急かしている。天地君がじっちゃんと呼んでいる、遥照様と鷲羽ちゃんがツーショットでVサインしているヴィジュアルが脳裏に浮かんだ。

 「師匠、これ、この材料ってもしかして!。」

 「なんじゃい、やっぱり気づいたか。早く来いよ。」

ぶっきらぼうに通信は切れてしまう。

 「一樹様、これは・・・、樹雷皇阿主沙様の霧封二番艦とでも言うべき内容の船殻です。とにかく行ってきます。」

はい、いってらっしゃい、と言うとすぐに、グリーンの転送フィールドに包まれて謙吾さんは作業船に行った。同時に、全乗組員宛に、梅皇船殻入れ替えのため梅皇が固定している亜空間内、つまり現在位置から動かないよう伝えた。

 「え~っと、いままで、第1世代の皇家の船が傷だらけになって還ってきたことって・・・。」

そう言いながら、横に立つ水穂さんを見上げた。

 「わたしが、水鏡に配属されてからは皆無、前樹雷皇のときもそんな記録はありませんわ。」

早速タブレット形状に変化させた腕輪で情報を読み上げてくれた。

 「光應翼が張れる皇家の船は、ほぼ無敵なのが身内を含めて外向きにも通説です。事情が変わったのが、約700年前の対魎皇鬼戦。その折にも第1世代艦は他星系への外遊のため戦闘には参加していません。一般的に行方不明扱いの船穂の他は・・・。」

そう、魎皇鬼との激しい戦闘で樹雷領宙から空間の裂け目に飲み込まれ消えたことになっている。

 「結果的には、分かることとは言え、樹雷の民の前に傷ついた皇家の船を見せること、それ自体が精神的なダメージが大きい、との判断だとは思いますわ。世代が下の船ならともかく、梅皇は第1世代ですし・・・。」

今度は阿知花さんである。

 「光應翼も万能ではないからなぁ・・・。」

そう言いながら、胸のあたりをなでた。

 「皇家の樹と同質のエネルギーを持つ物には躊躇してしまったり、役に立たないことがある、というのは魎皇鬼戦の結果で、非公式ですが確認していました。今回は、まさか皇家の樹が敵に回るなどとは、本当に全くの想定外・・・。」

水穂さんが目を伏せがちにそう言った。アイリさんにはまた怒られるよなぁ。今回の旅はいろんな意味で影響が半端なくでかい。たぶん様々な情報操作が行われることだろう。

 「しかも、あの八面体シリコン生命体も、これから大きな脅威となるでしょう。侵攻速度が遅いことと、あの1275星系以外で発見されていない事が救いですが・・・。数が少なければ皇家の船の敵ではないでしょうが、さすがに数百億ともなると・・・。追討部隊の派遣が必要かもしれませんわね。」

阿知花さんが前を見据えながらそう言う。うん、どのくらいの速度で増えるのかは知らないが、岩石惑星がエサでは洒落にならない。文字通り我らの星が食い潰されてしまう。

 「一樹様、空間動振検知!何者かがジャンプアウトしてきます。」

 

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