むっちゃ、大変なことになってます。
「一樹様、空間動振検知!何者かがジャンプアウトしてきます。」
皇家の船が、何隻も停泊中のこの宙域に何が来るというのだろう。まさか海賊とかではあるまいし。
「一樹様、船籍確認できません。見たこともない船影です。」
宇宙では至近距離と言って良いだろう、約600光秒先に何者かがジャンプアウトしてきた。
「続いて、10隻ほどジャンプアウトしてきます。同様に船影確認不能。大きさはこの梅皇程度から数百メートル程度のモノが多いですが、惑星規模艦も一隻います。さらに、この船影は・・・。神木・瀬戸・樹雷様の水鏡と・・・、樹雷皇阿主沙様の座船、霧封です。そして、これは、世仁我の美守様の船ですわ。」
霧封と水鏡は、僕の改装中の梅皇と船籍不明船の間に割って入るように、ジャンプアウトしてきた。霧封は、水鏡よりも遙かに大きく、小さな衛星程度はあろうか。長さは梅皇が長いが、球体に近い形故ボリュームは段違いに霧封の方がある。そして、少し離れて世仁我の美守様の船がジャンプアウトしてくる。こっちは、樹雷の船と違って、全金属製の宇宙船らしい形をしている。しかし、二人とも、さっき瞬間通話で話したけど、何事だろう?
「霧封より、全船に向け通信が開かれました。」
「遠路はるばる、この天の川銀河にようこそ。この天の川銀河、この宙域を領宙としている樹雷を統べる柾木・阿主沙・樹雷である。」
次いで、女性の声で話すのは、柾木家で見た美守様だった。
「私は、この天の川銀河に樹雷と肩を並べる領宙を持つ世仁我の九羅密美守と申します。以後お見知りおきを。」
二人の挨拶が終わったあと、様々な船は艦首を放射状に並べていく。戦闘が目的ではないのだろうか?。その中心部分にさらに船がジャンプアウトしてきた。こちらも霧封に負けずと劣らない大きさの衛星規模艦である。きりっと上質なジャケットに身を包んだ、優しげな印象の大男が画面に出た。
「私は、エクシト・レ・セプシーと申します。私は、この天の川銀河でどの国にも属さず、完全中立にて遊興娯楽を提供して参りました。そのような立場から、このたびは、皆様のコーディネーターのようなお役目を務めさせていただきます。さらに、私どもの船には、遊行娯楽施設の他にも、様々な方々に対応できる大会議室がございます。樹雷皇阿主沙様のお計らいで、本船は樹雷の貸し切りとなっております。ただいまより1時間後に銀河間国家代表者会議の第一回目を開催したいと思います。皆様、当レセプシー大会議室まで、転送ビーコンおよび、控え室までのご案内の者を送ります。控え室とお席ではすでに皆様からいただいた環境データを完全再現しておりますので、ご安心の上、大会議室までおいでくださいませ。」
通信が終わると同時に、全船に向け黄色い転送ビーコンが発せられたようだった。なぜか、うちの梅皇にまで届いている。同時に、通信ディスプレイが開き瀬戸様が映し出された。疲れたような、申し訳ないような、ちょっと見ないような複雑なお顔だった。
「柾木・一樹・樹雷殿、銀河辺縁系への遠征ご苦労様でした・・・。お疲れのところ申し訳ないのだけれど、急遽決まった銀河間のこの会議に出ていただかなくてはならないわ・・・。立会人は三命の頂神・・・。コーディネターは、レセプシー。大マゼラン雲銀河、おおいぬ座銀河他天の川銀河周辺の銀河系から代表が来ているの。突発的な事象とは言え、あなたの巨大な姿をみんな見て、本質を見極めたい、ぶっちゃけた話、敵ではないのか確認したいってことね。」
エラいぶっちゃけ話である。こんなおっさん見てもどうしようもないだろうに。
「あなたの力は、傍目に見ても強大だわ。恐怖を覚えても誰も攻められない。・・・アルゼルのアマナック委員長も来ていただくし、あなたはあなたの言葉でいろいろ答えてちょうだい。将来的には、銀河間航行技術を使っての共存共栄、少なくとも交易などが行われるようになれば双方にとっても益はある。そう判断したので、阿主沙ちゃんも今回の会議を承認したの。」
「ええっと、瀬戸様、もんのすご~く重大な局面のような気がしますけど。」
天の川銀河を含む、その周辺銀河の代表者会議・・・。おっさん、結構SFは好きだけれど、それにしてもぶっ飛びすぎだろうと思う。ひくくっと頬を引きつらせた瀬戸様が、つつ~っと額から汗を流したのを僕は見逃さなかった。
「ほんと、あなたの意識が戻って良かったわ。あの、銀河中心ブラックホールを手掴みした影は何だ、我々に危険は無いのかと、大マゼラン雲やらおおいぬ座銀河、小マゼラン雲やらから、毎日矢のような催促があったの・・・。あなたと通信できてから、すぐに大急ぎで準備したのよ・・・。」
なるほど、さすがに樹雷皇でも抑えきれなくなったと・・・。う~、鷲羽ちゃんと一度話しておいた方が良かったかもしれない。
「そう・・・、本当は津名魅様から直接お聞きになった方がすんなりいくとは思うけれど、あなたと天地殿は・・・。」
ざざざ、と僕の周りの世界が、ぶれたような気がした。す~っと周りが暗くなり、巨大な三つの影に囲まれた。気配も無いのに背後からポンポンと肩をたたかれた。後ろを振り返ると、そこには柾木・天地君がいた。いつもの作務衣とジーンズ姿である。
「えっ・・・え?、天地君も呼ばれたの?」
驚きで、こう聞くのが精一杯だった。
「う~ん・・・、僕はこの三次元時間軸から離れた存在の天地なんだ。田本さんが知っている天地は遙か彼方の存在・・・。詳しくは、この三姉妹から聞くと良いよ。」
そう言って天地君は、僕の後ろを指さした。
「鷲羽ちゃんでいっ~す。」
小さくなって可愛くなった鷲羽ちゃん、だけれどもいつもの服ではない。女帝、女神、そんなキーワードが思い浮かぶ。その鷲羽ちゃんに加えて、一人は津名魅様だけれど・・・、もう一人は見たことがない。
「われは、訪希深である・・・。」
見た目は2次元かわいい系キャラだが、声だけは深みと凄みのある声だった。
「え~っと、天地君、この人達は・・・、津名魅様がいるし・・・三人・・・女神様?」
いつもの短髪で後ろ髪を短く縛った天地君が頷いている。若干頬が引きつっているような気もする。 「こんな形で、本当のことをお話ししたくなかったのですけれど・・・。あまりにも急展開に事が進んでしまったので包み隠すことなくお話ししようと思います。」
真ん中の、いちばん大人しそうなちっちゃなかわいらしい子がそう言った。ちょっとモジモジしているのがまたかわいらしい。どことなく似てるなぁ・・・、あ、砂沙美ちゃんか・・・。
「津名魅様、でよろしいのでしょうか?済みません。砂沙美ちゃんと融合してらっしゃるのでしたっけ?とても親密な感じがしてしまいます。どうもすみません。」
頭を掻きながら、深々とお辞儀をした。
「あんたは、何があっても変わらないね~。今の立場を分かってんだか・・・。」
今度はちっちゃな鷲羽ちゃんが人差し指を立てながらそう言った。
「姉様達が、このような者達に興味を持つこと自体が、きわめて興味深い・・・。」
もう一人の訪希深と名乗った子が腕組みしながらそう言った。
「我ら3姉妹の本体は、ほれ、これじゃ。」
と、三人が後ろを振り返ると、そこに巨大な影が見える。確かに、三人の女神様だ。
「我らの持つ力の上澄みの、さらに霞のような物をこの時空間に顕現させたのが、今一樹殿が見ている三人だよ。」
うんうんと、3頭身キャラの三人が頷いている。
「ちょくちょく、津名魅様にはお目にかかってますし、鷲羽ちゃん?それとも鷲羽様?はいつもお世話になってますし・・・。訪希深様は初めましてですね。」
思わず、二礼二拍手してしまう。
「ありがとう。・・・我らは三位一体の頂神と言われている。この世界や一樹殿が銀河間航行ユニットを受け継いで覗いた、第5次元をはじめ、隣接次元は全て我らが創造した物だ。そして、我らはこの世界では万能である。」
創世の女神様、三命の頂神。ものすごく高位の存在だろう事は分かったが・・・。
「しかして、その万能の三命の頂神様がなぜに、このようなおっさんの前に・・・?」
三人して、おっとっととこけてくれる。ものすごく可愛い。
「おっさんって・・・。まあ、ぶっちゃけた話、一樹殿は、二度、人の姿を破って大きな何かになろうとしたね?」
一度目は、籐吾を助けようと、5樹の皇家の樹のエネルギーを自分の一身に集めたとき。2回目は、ホントに何日か前で、ナナシの子どもの第2世代皇家の樹に殺されかけたとき。
「はい、そうです。その度に、もっと大きな何かに未だ時に至っていない、と言うようなことを言われてこの身に還ってきました。」
「我らは、三名の頂神と言われている。確かに全てにおいて万能ではある、あるのだがまた我らもより高位な存在の何らかの実験体かもしれぬ。そして、もしもその高位の存在が在るとしても、我らでは感知できない。さらに全知全能であることがその事実はないと否定している。」
訪希深と名乗った存在がそう言った。
「無限の時をかけて、我らは無限の思考錯誤を行った。さらに無限の時を無限に費やして思考錯誤を繰り返した。しかし、答えは出ない。そこであるとき、三人がそれぞれの可能性があると信じる道をとって試してみることにしたのだ。」
神様だからそりゃ、まあ、考える時間はあるわな。ものすごい永い時。時間のスケールが思い及ばない。とりあえず、僕は、話に会わせて頷いた。
「その中で、私、津名魅は自らの存在を元にして世代を重ねることにして新たな生命を生み出そうとしたのです。」
「まあ、あとの私たち二人も、試したのだけれど、その結果というか可能性が天地殿ではある。」
はあ、とほとんど僕の思考は停止しかけていたが、天地君の名前を聞いて、そう言えば、一回目の時に悲しそうな顔をしている天地君を思い出した。
「そう言えば、鷲羽ちゃん、で良いですか?天地君が複雑な表情をしていたことが一度ありましたが・・・。そう、それに西南君にも一度鷲羽ちゃんに診てもらうと良い、と言われました。」
「そうだね、そこら辺は、またこっちに帰ってきた時に話すよ。」
鷲羽ちゃんはにべもなくそう言った。
「そして、私、津名魅の思考錯誤の結果、可能性があなたなのです。私たちを超えて、無限の向こう側を見ることが出来るかもしれない存在、それがあなたです。」
ちっちゃな津名魅様が、右手のひらを僕の方に向けそう言った。
「それで、”我らの祝福を心静かに受けよ”と言われたのですか・・・。地球人ベースのおっさんには、分かったような分からないような。」
さらっと言われた荒唐無稽な事柄をハイそうですかと理解できるほどは僕は頭良くない。
「まあ、皇家の樹がいくつも協力してくれていたり、この左手の赤いエネルギージェネレーターがある時点で、もう人間やめてる事実は濃厚ですけど。」
ははは、と乾いた笑いを作ってみる。でも三人のまじめな表情に、思いっきり笑いは凍り付いてしまう。
「津名魅の追求した可能性の結果、それが一樹殿だけれど、まさかね~、天の川銀河周辺の銀河系まで恐れおののくとはね~。ま、天地殿の件入れて3回も、人にとっては、超巨大生体エネルギーの発露をみせちゃったからね。まあ、そう言うことだから、なんとかこの会議を乗り越えておくれな。第一回銀河間代表者会議を。」
なんかうまく言いくるめられたような気がする。まあ、いいや。そう思って、しゃがんで三人を抱きしめた。
「ごめんなさい。なんかとても可愛らしかったもので。でも、ちゃんとついていてくださいよ。そんな可能性があったとしても、今はちょっと凄い力を持っているだけのおっさんですからね。」
三人をぎゅっといっぺんに抱きしめて、パッと手を離して立ち上がると、鷲羽ちゃんは、目の前まで飛び上がって、ハリセンで殴って、津名魅様は真っ赤な顔して後ろ向いちゃって、引きつった表情の訪希深様はでかいグーパンチだった。ちょっと後ろに吹っ飛んだりした。
「いだだだ。あ~、でもとりあえず、なんとなく実験体というか、まあ、女神様達の可能性の一つであることは分かりました。」
ちょっと鼻血が出ているような気がするが、まあ、どうにか、しゃっきりしたのだ。そそそ、と津名魅様が駆け寄ってきて、無言で鼻を懐から出した紙のような物で拭いてくれる。
「津名魅様、今度帰ったら美味しい物食べさせてくださいね。」
そう言って、ちっちゃな手を取って手の甲にキスした。
「女神に手を出すなんて、こんの不届き者がぁ!。」
本日二度目のハリセンだった。今度は横殴り。
「はいはい、女神様達も大人げない。僕はもう行きますから。30万年後の次元クラッシュの後始末も終わってないんですよ。それじゃぁ、田本さん、無茶は禁物ですよ。また、時の狭間か、高位次元空間のお茶室ででもお会いしましょう。」
もみあげのところを右手の人差し指で掻きながら、天地君はそれだけ言うと、ふっと消えた。
「天地殿もそうだけどさ、あんたも私たちの大事な可能性であり光なんだよ。・・・吹っ切れたようだし、それじゃあいっといで!。」
ニカッと鷲羽ちゃんが笑い、津名魅様は微笑んで、訪希深様はキッときつい顔から、こちらも微笑んでくれた。三人は、す~っと後ろに下がっていき、巨大な影に一体化した。
「津名魅様に聞くとすんなりいくと思うけど、天地殿とあなたは三命の頂神の・・・。」
ちょうど瀬戸様のさっきの通信につながった。
「可能性であり光だと言ってくれました。今、女神様達に会っておりました。」
まあ!とびっくりした様子は一瞬で、すぐに表情を引き締めて続ける。
「なら、話は早いわ。第一回銀河間代表者会議とでも言うべき会議であなたの釈明が必要なの。一時間後よ。いい?」
わかりました。神木・瀬戸・樹雷様。と答え、一礼し、通信を切って、後ろを振り返る。水穂さんと阿知花さんが頷く。
「籐吾、ゆくぞ。」
そう声をかけた。
「はっ、一樹様。」