パソコンより面倒くさいんですが、こういうテキスト編集なら、まあ、出来ないことないし。
「板」抱えて、気が向いたら書くのも楽しいなと。
「と、なると、非常にやっかいな相手だなぁ。もしかして、こちらの武器も通じないかも知れません。」
謙吾さんが、前方を見据えたまま腕組みしてそう言った。
「こちらと同様に、亜空間に潜っている可能性は?」
あやめさんが解析結果を見ながら、言葉を選び報告する。かなり、不可解な結果が出てるのだろう。
「・・・少なくとも、こちらと同じ方法ではないでしょうね。結果的にこちらも見えていないようですし・・・。」
困っている表情の、あやめさんだった。
「我々の知り得ない何らかの信号が、あの種から発信されていると仮定して、今は、亜空間に潜ってるから、奴らに見えていないと考える・・・。このまま樹雷には帰れないよなぁ。超空間航行に入ると相手に感知できるようだし。」
うむむ、困った。他のみんなからも良い案は出ないようだった。
「とにかく、考え得る限りのシールドを張ってみて様子を見てみよう。」
現在、通常の外宇宙用宇宙線シールド(現在の航宙宇宙船の最低装備)と光應翼は張っている。他には、通常の対レーザー兵器用シールド、対ミサイル用強磁場シールド(誘爆用)、現在試験中のアストラルシールド、視覚系の光学迷彩やら不可視フィールドなどがある。光應翼は、いかなる攻撃(物理打撃、エネルギー兵器など)に対しても有効ではあるが、基本的に進行方向前方に展開する性格上、後方等死角も存在してしまう。
今回の場合、なんらかの電磁波を封じ込めるとなれば、強磁場シールドか、アストラルシールドだろう。
「一度、強磁場シールドを張って、通常空間へ出てみますか?」
うむ、そうしてくれ。と言った。メインタンクブロー、空間重力子排出、と籐吾さんの声が続く。相変わらず、あの小型のチョウチンアンコウのエサ状態の宇宙船はひらりひらりと舞っている。
「そうだ、柚樹さん、いちおう後方へリフレクション・光應翼も張ってください。」
お安い御用だ、とラノちゃんの膝にいた柚樹さんから声がする。梅皇の斜め後方を中心にわずかに色味の違う光應翼が展開された。
静かに、ひらひら動いている正体不明の宇宙船から距離を取ろうとする。もちろん、強磁場シールドに重ねて不可視フィールドも展開している。
「微速前進から、星系外航行速度へ加速してみます。」
籐吾さんが、ゆっくりと彼専用にセッティングされている高応答操縦桿を前に倒していった。ディスプレイ上、もちろん光速度からは遙かに遅いので何も変わらないが、慣性制御が当たり前に効くので、すぐに秒速1000キロ程度には到達した。ついては来ない、ようだった。
「後方より、高エネルギー反応!。かなり強力です。大型海賊艦主砲レベル!!。」
ぞくっと背後に嫌な圧迫感を感じた。水穂さんの鋭い声が刺さる。念のため柚樹さんへエネルギーリンクをしたところで着弾した。梅皇が大きく揺れる。
「ぎゃん!」
さらにエネルギーリンクから逆流した、凄まじい熱とショックのフィードバックが来た。視界の端で、柚樹さんが悲鳴とともに弾け飛び、僕自身も左腕を中心に焦げた匂いで包まれた。
「状況報告!、そして柚樹さんを僕のところに!。」
阿知花さんが、煙を上げて床に伏せている銀ネコの柚樹さんを僕に抱かせてくれた。かなりのダメージだった。意識はない。左手の赤い宝玉のエネルギーを柚樹さんに分ける。身体の何カ所かの銀毛が黒く焦げてしまっていた。柚樹さんがゆっくりと目を開けるが、このダメージだと二撃目は危険である。
「船体に損害はありません。なんとか攻撃を反射したようです。敵からの衝撃波来ます。」
慣性制御システムが効いたのだろう、さほど大きな衝撃ではなかった。
「敵宇宙船、正体を現しました・・・。これは・・・全長200kmを超える大型艦です。」
正面ディスプレイには、巨大なタケノコ型の船体が映っている。艦首部分から艦尾へかけて円錐状に細くなっている。さすがにさっきの攻撃は、先方にもかなりのダメージを与えたようだった。敵艦首エサ寄せ部分を含め中破していた。さらに何カ所か誘爆している。それならば・・・。
「よし、この隙に超空間航行で逃げるぞ。ランダムジャンプを繰り返しつつ、瀬戸様に連絡、樹雷ではない邂逅ポイントを指定してもらってくれ。」
そう言って、水穂さんを見ると頷いている。とにかく正体不明の敵である。向こうからの先制攻撃であるし、向こうの力も不明である。梅皇1隻で戦えなくはないが、ここは逃げた方が無難だろう。こちらとしては、防衛一方だったわけだし。
「瀬戸様から連絡来ました。この際だから、地球で落ち合いましょう、とのことです。」
うん、鷲羽ちゃんを呼ぶより、そこに行った方がマシか。一応樹雷の保養地扱いらしいし。天地君も魎皇鬼ちゃんもいるし、ノイケさんもいるし阿重霞さんもいる。
「ランダムジャンプをしつつ、地球に向かう。また、途中一度ジャンプアウトの後、空間跳躍を使って痕跡を消すぞ。」
籐吾さんにより、ランダムジャンププログラムがロードされ、暗緑色の空間に突入した。数10光年、数百光年単位のランダムジャンプを繰り返し、得意の空間跳躍で数千光年を移動、また、超空間航行に入る。しばらくランダムジャンプを続けた数時間後、太陽圏が近くなった。ヘリオスフェアまであと1光年弱である。
「現在のところ敵船影確認できず・・・。地球の鷲羽様に連絡入れます。」
梅皇ブリッジ前方の大型ディスプレイいっぱいに真っ赤なカニ頭、いや鷲羽ちゃんが映った。
「久しぶりだねぇ。いろいろあったようだけど元気にやってるかい?」
「鷲羽様には、ご機嫌麗しゅうございます。このたびは・・・。」
ま、いちおう、樹雷皇族だし。
「ちっちっち、鷲羽ちゃん。」
「はい、鷲羽ちゃん・・・。で、本当に良いんですね?なんかこう、いろいろ知れば知るほど・・・。」
「・・・いやぁ、ねえ、やっぱりにじみ出る知性の輝きというか、銀河一の天才科学者の実力が隠しきれないというか・・・。」
いつものように、猫のような細い目で、両手をほほに当てて自画自賛モードの鷲羽ちゃんだった。
「それでは、鷲羽ちゃん、燦葉香草の種の中に古いGPのものらしき脱出ポッドを発見しました。しかもそれが原因で、攻撃も受けたんですが・・・。」
「瀬戸殿から聞いているよ。水鏡も地球に向かってるそうだ。なんらかの電波遮蔽フィールドも解析して作れるだろう。さっさと帰っておいでよ。」
手のひらをひらひらと降りながら、いとも簡単に帰ってこいと言う鷲羽ちゃんだった。
「ありがたいです。柚樹さんも僕も結構ダメージ受けたし・・・。」
左腕を中心に、服が焦げちゃってる僕と、柚樹さんもところどころ焦げている。それを見て一瞬、真顔になる鷲羽ちゃんだが、すぐに、いつもの笑顔に戻った。
「ランダムジャンプを繰り返した上に、空間跳躍を使い、さらにランダムジャンプを繰り返し、ここまで到達しました。かなりトレースは難しいはずですが・・・。」
水穂さんが、そう説明してくれた。
「あいよ、それはこちらも把握している。魎皇鬼もスタンバイしているから大丈夫だろう。」
それでは、後ほどよろしくお願いします。そう言って、籐吾さんの操作で最後の超空間航行に入った。
ジャンプアウトしたら、そこはもう地球圏である。目の前に青い地球が見えている。ジャンプアウト地点は、月と地球のラグランジュ・ポイント。そこで、不可視フィールドを張り、梅皇を月の裏側へ着陸させて、救出した雨木開拓団の皆様と航空隊、そして立木幹凪さん以下は、梅皇で待機。その後、僕の周りのみんなは、おのおのの皇家の船に乗り、地球の軌道上で待機してもらった。その後、イツキに全員集合し柾木家に降りることにした。どちらにしても長距離転送ネットワークを皇家の船間で構築したため、急ぎなら転送で行き来できるようにしている。もちろん、梅皇の対爆カーゴルームに収納している、例の燦葉香草の種はイツキに積み替えて、柾木家の鷲羽ちゃんの研究室で、瀬戸様立ち会いのもと開封予定である。謎の敵に見つかるまでは最低でも数時間からせめて数日は稼げていると信じたい・・・。
「鷲羽さまの宇宙港の亜空間キー取得しました。同時に宇宙港進入許可受信。・・・着水します。・・・イツキの補機を含めたすべての航行システムをシャットダウン。鷲羽さまの宇宙港への転送ゲートオープン。」
籐吾さんの操縦で、イツキは無音のまま柾木家の池に降下し、亜空間固定された鷲羽ちゃん専用宇宙港に入港した。イツキ、ありがとう。休んでくれ、そう心の中で言うと、イツキのブリッジの様々な光がゆっくりと消えていく。僕らは、それを見ながら転送ゲートをくぐった。柚樹さんは、僕に抱かれたままだった。いつもだったらすぐに地面に降りて、姿を消してついてくるのだけれど・・・。
「みんな、お疲れだったねぇ。」
転送フィールドが消えると、目の前には柾木家の皆さん、天地君や阿重霞さん、魎呼さんに砂沙美ちゃんに魎皇鬼ちゃんにノイケさんが出迎えてくれた。口々にお久しぶりですなんて言ってくれる。なんかもう、懐かしさで胸がいっぱいになった。ちょっと気になって地球時間では、いまいつの何時だろうと例の変幻自在腕時計ガジェットを見ると、現在は地球時間2017年7月の末で土曜日の午後1時過ぎだった。真夜中とかじゃなくってよかったと安堵した。
「・・・いや、もう本当にありがとうございます。涙出そうなくらいホッとしています。」
このたびは、ご迷惑かけるかもしれませんけど、どうぞよろしくお願いします。と頭を下げた。
「ワケありの、なにやら脱出ポッドと言うじゃないか。そちらに出向くつもりだったのだけど、きな臭いにおいもあるしね。いま、水鏡が地球圏に到着したようだ。・・・鷲羽ちゃん絶対防衛圏のセキュリティレベルは最高レベルまで上げたよ。樹雷第一世代皇家の船レベルでも突破は難しいはずだ。」
いつものように、半透明のノートパソコン型端末を出現させて、キーを流れるようにたたいている鷲羽ちゃんだった。とりあえず、イツキのカーゴスペースから燦葉香草の種を下ろす。さすがに、そこそこ重いもので、反重力フィールド発生器を4つほど取り付けて、それで地面から30cmほど浮かし、鷲羽ちゃんの研究室に運び込んだ。その間、阿知花さんが携帯端末をタブレット状にしてモニターしてくれる。特に何も不安定な要素もない。そうこうしているうちに、水鏡が地球軌道上に到着。シャトルで瀬戸様と平田兼光さんが来るそうである。
「ふううん、確かに古いGPの汎用脱出ポッドだねぇ。それで、この種の方はどうするね?」
おお、たしか長距離を旅してきた「種」。捨てるというのも気の毒だし・・・。
「かなりデカい木に成長するからねぇ・・・。地球で植えるにゃ、地と荷が重いねぇ。しかも成熟すると種を飛ばすし。」
「あんら、立派な燦葉香草の種じゃない?私が買い取るわ。」
そう言いながら現れたのは、神木・瀬戸・樹雷様だった。
「お風呂に入れると、お肌がつるつるになるわよ。シミ、そばかす、何でもたちどころに抜けるような美白にしてくれるのよ。」
きらりん、と女性陣の目が光った。一緒に籐吾さんまで光ってるのは、よくわからないけど。美白とか、化粧品とか、やはり永遠の謎である。おっさんにとっては。
「種については、そのへん、お任せします。・・・神木・瀬戸・樹雷様、このたびはご迷惑をおかけして申し訳ありません。」
瀬戸様は、そそそ、と歩いてきてぎゅっと抱きつかれた。
「樹雷の皇族戦闘服が、こんなに焼けちゃって・・・。さぞや、凄まじいエネルギー・キックバックだったろうに・・・。」
瀬戸様の大きな胸が結構気持ちイイ、じゃなくて…。
「はいはい、それじゃあ、開けるよ。みんな下がった下がった。」
鷲羽ちゃんが、ほれほれどきな、と手を振る。そしてゴムの手袋のような物を付け、オペレーター席に座った。次いで、燦葉香草の種がトラクタービームのようなものに引かれ手術用のベッドのような物に固定された。そして、僕らがいる空間の前に遮蔽フィールドができる。種が固定されたベッドの左右に自走式のマルチ工具のようなものが横付けして、それの1本がレーザーメスのような物を照射し、切り開いていった。何層にも重なった茶色の表皮を少しずつ切り開いていく。その茶色い表皮が終わると中から褐色の種の組織が見えてくる。それを同じように切り開き、左右から巨大なクリップのような物で切開面を左右に開き固定する。程なく内側が白く曇った、GPの汎用脱出ポッドが出てきた。マニピュレーターの大きな物が、4本で器用に種から引きずり出した。
「う~ん、何の変哲もない脱出ポッドだねぇ。でも、時間は経ってるか・・・。ざっと1万7,8千年、いや2万年ってところか。それじゃ、コールド・スリープの解除作業に入るよ。・・・1ヶ月くらいかけてゆっくり温度を上げ解凍しないといけないね。」
え、そんなにかかるの?って顔して水穂さんをみた。
「鷲羽様、加速空間では・・・。」
「もちろんそうするよ。でもそうだねぇ、加速空間外時間で3時間程度は必要さね。」
ホッとした空気がただよう、鷲羽ちゃんの研究室だった。
「それにしても古い脱出ポッドだわね・・・。」
じっと、そのポッドを凝視している瀬戸様である。まさか見覚えがあるとか。
「それでは皆様、お茶でもいかがですか?」
ノイケさんの声を久しぶりに聞いたなぁ。さわやかで若々しい声である。以前にも増してグッドタイミングだったりもする。
「そうね、何か失礼なことを考えている人もいるようだけれど、お茶にしましょう。」
こっちを向いて、口の端をつり上げてそう言って、すたすたと歩いて行く瀬戸様である。何も言わないで座っていれば、その雰囲気だけでその場の人々をひれ伏させる迫力である。くわばらくわばら。できればおっさんは、みんなと一緒にコンビニでも行こうかな。
「天地君、どう?みんな変わりはない?」
とりあえず、鷲羽ちゃんの研究室から出ると、そこは見慣れた柾木家の廊下。そのまま引き戸を開けてリビングに入った。ささっと平机とか出してくれて、座る場所を作ってくれる。お茶菓子なども並び、キリン印の保温ポットが置かれて、湯飲み茶碗が並び、急須にお湯が注がれていった。ちょっと遅れて勝仁様も到着した。
「ええ、まあ。福祉課はしばらく大変だったようですが・・・。」
そういうものだろう。地球を離れて1年。人の噂も75日などと言うし、そうそう一個人の話題がその地域で長期間語られることはまずない。
「水穂よ、息災かな。」
70代、そう言ってもおかしくない格好の勝仁様である。静かな声で水穂さんにそう問うた。
「お父様・・・。」
そう言って、勝仁様を見て、数秒後スッと視線を落とす。僕はドキドキしている。あれだけ水穂さん泣かせたし。もちろん目を合わせられない。
「樹雷皇族・・・。世仁我やGPなどよりも、・・・苛烈かもしれんて。」
そう言った勝仁様は、砂沙美ちゃんに煎れてもらったお茶を静かにすすった。
「そうよ、なあ・・・、瀬戸殿。」
「ええ。私も、・・・身を切るような痛みが心を占めております。」
右手で湯飲みを覆い、お茶をすする瀬戸様。ううう、耐えられない・・・。
「あの、その・・・。ごめんなさい。」
あちゃぁ、という表情の天地君に、無表情のノイケさん。砂沙美ちゃんはなぜかキラキラお目々である。魎呼さんや阿重霞さんは、静かにお茶を飲んでいる。
「瀬戸様とご一緒した毎日も、いろいろありましたけれど・・・。愛するお方と共に生きることは、なお一層苦行であり、幸せで楽しいことだとこの一年思い知りました・・・。」
ちょっとうつむき加減のまま、水穂さんは静かにそう言う。
「一人で、自分の皇家の樹連れて、宇宙空間に飛び出していくし・・・。」
「私は、あなたのお創りになったこの棒で、胸を刺し貫こうかと思いました。」
水穂さんと阿知花さんの向こうに座った、イケメンの二人がボソボソ言った。
「そうさのぉ、ちょうど良い。今夜は、正木紳士会と正木淑女会の例会だ。そこで、いろいろ聞いてもらうとええ。柾木・一樹・樹雷殿は、今回の紳士会が初めてじゃな。」
ええ、と頷く。話には聞いていたが、正木の紳士会が勝仁様を筆頭に、正木の村の数名と天地君、面識は無いのだが、GPで働く正木珀嶺さんという方がいらっしゃるようだった。水穂さんと結婚して、すぐ樹雷に行っちゃったので、正木紳士会には僕は出たことが無い。