しばらく投稿されていない、鵜飼ひよこ氏の小説も読みたいのでつついてしまいました。
どうもすみません。
一路君のその後待ってます!
一瞬わずかにディスプレイがフラッシュアウトし、通常空間に復帰した。樹雷星系の主星を遠くに見る位置である。ここから何もなければ、惑星間航行速度で2時間程度というところである。
「いまのところ、前みたいな恥ずかしいカッコで樹雷星系に入らなくても良さそうだよな。」
警戒するのである。樹雷の様々な軍だって忙しいだろうし。瀬戸様のお出迎えはあり得るだろうな。
「・・・皇家の船が続々とジャンプアウトしてきます。船穂様の瑞穂、美砂樹様の霞鱗、竜木西阿様の水薙・・・。それぞれ率いている艦隊とともに・・・。瀬戸様の水鏡にも第七聖衛部隊が合流しました。」
ゴージャスである。旗艦の皇家の船は、それぞれ木製の煌びやかな外装で、それこそ船ごとに美しい。僕のイツキと梅皇は、どちらかというと実質重視なので、美しいか?といわれるとそうではないだろうと思う。
そして、各旗艦の皇家の船から、連絡が入ってくる。僕は立ち上がって、正式な樹雷の敬礼をしながら、各旗艦から入ってくる連絡に一礼しつつ頷いた。
そうやって、皇家の船にエスコートされて、樹雷本星に近づくと、なんと樹雷皇阿主沙様の霧封が待っていてくれた。これもまた、もの凄い数の艦隊を従えている。
「長旅と、まあ、いろいろご苦労だった。」
通信がつながり、梅皇のブリッジ中央にひときわ大きなディスプレイが浮かぶ。ニカッと笑顔の樹雷皇阿主沙様だった。もちろん樹雷式最敬礼である。
「は、樹雷皇直々のお迎え、恐悦至極に存じます。また、様々なご迷惑をかけ申し訳ありません。」
「しかし、まあ、呆れたぞ。銀河間代表者会議のあとに、皇家の樹の種、第1世代および第2世代2個持ち帰りとはな・・・。」
若干口をとがらし気味で頭をかく樹雷皇阿主沙様だった。
「いえ、あの、その。なんだかとても申し訳ございません・・・。」
ブリッジ内でぷぷ、と押し殺した笑いわずかに聞こえる。顔が火が出ているように熱い。
「GPで長年行方不明だった教授も救出したしな。しかも未知の敵から守りつつ。GPから礼状が届いておるぞ。7000年ぶりだそうだ。」
「え?」
す~~っかり忘れていたのだ。そうそう、夷隈教授。鷲羽ちゃんに引き渡して安心してそのままだった。おお、とブリッジの謙吾さんたちからも声が上がる。
「雨木開拓団も救出しとるし。」
こっちも、す~っかり忘れていた。
「・・・そっちは、新しい問題も出ています。」
数百億の大軍団で攻めてくる、惑星を食べるもの達。
「まあ1週間ほどは、わしと式典に出てもらわんと、周りが承知すまいな・・・。」
すまないな~的な表情で言う樹雷皇阿主沙様だった。
「水穂に、阿知花に謙吾に籐吾。一樹殿のサポートは頼むぞ。」
と、釘?を刺されているお嫁さん達。はい!と異様に元気いっぱいなのはどうしてなんだろう。
「・・・おっさん、そんなたいしたことしてませんがな・・・。」
ぼそそっと小声でそう言ってみた。
「・・・そうそう、皇家の皆様がお出迎えなのですから。」
水穂さんが、そっと立ち上がる。樹雷木彫りの立派なトレイが水穂さんが上げた両手に転送されてきた。次に僕の目の前に、儀式めいた仕草で半透明の力場テーブルを作り、謙吾さんから樹雷木彫りの立派な作りの箱を一個まず受け取りトレイに乗せ、そのテーブルの真ん中に置いた。次にそれに準じた作りの飾り箱を同様に二個を置いてくれた。そして、三個とも、蓋を開けた。
「!!!」
出迎えの船や艦隊から人間のざわめきが凄かった。樹雷皇の船、霧封からのディスプレイ越しに伝わってくる。樹雷皇も目を見開いている。
「・・・種、はあんまり見たことないのかねぇ?」
またも小声でつぶやいてみた。
「はいはい、皆さん見たことないです。特に津名魅様から賜った第1世代の樹の種なんて。初代樹雷皇以来ですよ、伝説の・・・。」
謙吾さんが解説してくれた。籐吾さんは、嬉しくてしょうがないみたいな笑顔だったりもする。
樹の方は喜んでいた。迎えに来てくれた船から神経光が四方八方に伸び、船で反射して花火のように弾けている。それに呼応して、箱の種達も、亜空間固定されてあるはずの蒼穏も七色の神経光を発していた。樹雷は、樹の間の樹々がすべて神経光を発しているのだろう、樹雷本星そのものが七色の後光が差しているように見える。
「そうだ、蒼穏も姿を見せようか。」
そう言うと、あやめさんが、一枚ディスプレイを立ち上げてくれた。亜空間固定されている惑星アルゼルと連星をなす星にズームインし、蒼い色で燃え上がっているように見える蒼穏を映し出してくれる。
「おお、これがあの樹であるか。」
ええ、そうです、と僕は頷いた。外からのエネルギーチャージなしには生きていけない樹。しかし、類い希なる攻撃力を内包する樹。その意識は悲しみに彩られ、半ばその意識は封印され、津名魅様により僕に預けられた樹。
そして、水穂さんに頼んで樹雷皇阿主沙様との秘匿回線にしてもらった。
「この樹は、付いて来ちゃったのでしょうが無いんですけど、この種達を皇家の樹の間に植えてしまいたいのですが・・・。いっそのこと、竜木言申様の机にそっと置いてダッシュで梅皇に逃げ帰りたいのですけど。」
うん、言いたいことは言っておかなければ。
「気持ちは分かるが、そんなことしたら言申殿はショックで心臓麻痺起こすぞ。」
ぼそそっと阿主沙様が引きつった笑顔でそう言う。籐吾さんがうんうんと頷いて、笑いそうなのを右手で頬をつねって耐えていた。
「まあ、その、あれだ。何にもなしではマズイだろうな。」
もう一度ちらりと種を見て、そこまで言うと、秘匿回線を一方的に切断された。内心どう思おうと、長ったらしい儀式はあるんでしょうね。にこやかに樹雷皇への敬礼をしながら、梅皇は静かに樹雷の皇家の船専用港に着岸した。僕の梅皇は、他の船よりも大きいので、専用港には特別なスペースが用意されている。
「・・・しょうがないか、水穂に阿知花、謙吾に籐吾、頼むぞ。」
はっ、と勢いのある声で答え、敬礼をする4人。しかし、4人とも例の柾木家の笑顔だった。マジっすか、と言って、顔を引き締めて敬礼を返した。
若干では無くて、だいぶ憮然とした表情だったのだろう。皇家の船専用港の梅皇専門ゲートをくぐった時に、樹雷闘士が一列に並び、その後ろに女官さん達が控えて出迎えてくれた。そのお出迎えの樹雷闘士と女官さん達が、僕らを見た瞬間、引きつった表情になり緊張感が増すのが伝わってきた。いちおう、前樹雷皇天木辣按様の若かりし頃の姿で出て行った。これ、どうも第三者にはもの凄い威圧感があるらしい。瀬戸様が頬を赤らめる時があるほど、と言うのを思い出して、なお顔の筋肉がこわばる。近くの闘士の表情がぐっと硬くなるのがわかる。
「ひっ。」
と言う息を詰めた悲鳴のような声を僕は聞き漏らさなかった。内心は、さっさと終わらせてと言っても、大変な難行苦行(式典)が待っている・・・、と言う思いで一杯だ。あとの四人も、まあ、黙ってれば引き絞った剛弓のような、緊張感を出せてしまうほどのやり手ばかりである。地球の人間なら、気迫に負けて鼻血ぐらい出てもおかしくは無い。
「そんなに、怒らんでも儀式はいろいろあるでな。」
柚樹さんが、足もとでつぶやく。心の中で、
「ぶう、ぶう。」
と言ってみた。一瞬姿を現した銀猫が、僕の顔を見上げて、にたりと笑う。最近猫又っぽくなってきたなぁ・・・。あ、でも尾が二本ある時点で猫又だな。そんな思考で少し緊張感が減る。こういう役割は柚樹さんやはり年の功だったりする。ありがとうございます。と心の中で言うと、二本の尾をふるふる振って答えてくれた。
ガイドの闘士の案内で、宇宙港プラットフォームからの転送ポイントに入り、転送された先はすぐに皇家の樹の間だった。巨大な扉があ利、そこで立ち止まった。広い廊下を歩いてくるのは、正装された樹雷皇阿主沙様と船穂様、美砂樹様である。遅れて、竜木言申樹雷様が僕らの横に立った。竜木籐吾と目配せし合っている。また、水穂さんと阿知花さんの手に美しい木彫の盆が転送されてきて、同時に例の種の入った箱が転送されてきた。梅皇からの直送なので、非常にセキュリティは高度だそうである。水穂さんに、第1世代の種の箱、阿知花さんに第2世代の種のふたつの箱それぞれが転送で出現した。
「しかし、わたしが生きている内に皇家の樹の種をこの目で見ようとは・・・。」
竜木言申様が、見事に想定していたような言葉を紡ぐ。
「父上、一樹様は、父上の机に、そっとこの種達を置いていこうとしていたんですよ。」
それこそ、水が流れる音がするかのように青ざめる竜木言申様だった。
「・・・なんと恐ろしい!そんなことをされたら、寿命が縮むどころか、アストラルの海に身投げしてしまいますぞ。」
ほらね、と言った感じで籐吾さんがニカッと笑っている。
「竜木言申様でしたら、すべてのことを丸く収めて戴き、そっと皇家の樹の間に植えて戴けるかと・・・。」
真っ青な顔をしている竜木言申様を直視できず、言い訳がましくそう言うと、言申様はふらりと本当に倒れそうになっていた。
「父上!」
籐吾さんが慌てて、それでも想定したかのように倒れそうな言申様を抱えて、何とか立たせた。
「だから言ったではないか。まあ、素直に、まずは皇家の樹の間でコアユニットへ植樹の儀だな。喜べ、一樹殿。初代樹雷皇以来の儀式だぞ。」
それだけ言うと、阿主沙様は竜木言申様に目配せして、樹の間の扉を開けた。
ふわりと、わずかに湿った清浄な風が首筋を抜けていく。いつ来ても気持ちが良い場所である。いつものように、神経光が乱舞して美しい。今日は1年前に来たときに比べておとなしい。すでに新しい仲間の種の到着を知っていたのだろう。第1世代の樹の間は、僕と樹雷皇阿主沙様しか入れない。転送されていった先は、荘厳で圧迫感というか、ほとんど圧力のような力を感じる樹の間だった。しばらく歩き、用意された樹の苗床のような部分に植えるようだ。どの樹の周りも水路があり、多くも少なくも無い透明な水がさらさらと流れている。まず、第1世代の樹の種を樹雷皇阿主沙様に手渡した。
「この樹の周りを巡っておるのは、通称命の水と言われているものだ。天樹の葉が雨を受け、幹を濡らし、地に落ちた水滴を天樹の根が吸い込み、そしてこの樹の間に湧き出ておるのだ。もちろん成分分析をして様々な場所で合成を試みるも全く同じ物は出てきてない。この水だけは唯一天樹しか作ることが出来ない水だ。まあ、鷲羽どのが一番近い物を作ることが出来たようだが、やはり天樹が作る水とは違った。・・・そう言えば、一度鷲羽殿に、この水を分け与えたことがあったな。」
僕は、阿主沙様の言葉を聞きながら、辺りを見回した。樹はみんな元気そうだ。梅皇が元気になって良かった、と樹達は言葉にはしないけれど、ふわりと僕の心を温めてそう意思表示をしてくれている。我に返ると、阿主沙様が考え込んでいた。
「鷲羽様に、この水を・・・ですか?あの方なら、何とでも・・・津名魅様もいらっしゃるし。」
「これこれ、それはかなり上位のトップシークレットだ。まあ、田本殿、いやもとい柾木・一樹・樹雷殿はその渦中にいるのだな。」
額から一筋、汗を流してそう言って、すぐにニカッと笑う阿主沙様だった。ころころと表情が変わるのが楽しい方だなぁと思ってしまう。まあ、国民皆闘士という樹雷という星の樹雷皇と言う立場は、そう言う表情を、重圧で見せなくしてしまうのだろう。阿主沙様は、そう言いつつ、コアユニットになるであろう場所に、しゃがんで木製の小さなシャベルで種より二回りほど大きめで深さ10cm程度の穴を開けた。
「うおっほん。・・・それでだ、その命の水を持ち帰り、鷲羽殿は地球でひとりの少年の命を救った。その後GPへ行かせ、まあ様々な出来事の後、我らの目にとまり、その少年は樹選びの儀式を受けたのだが・・・。鮮やかな緋色の木刀を手に樹の間から帰ってきたのだ。何と友になったのやら・・・あやつもおぬしと同様規格外だな・・・。」
へええ、そんな少年がいたんですか・・・。と話しながら、先ほど開けた穴に第1世代の樹の種を僕から受け取り、両手で一度頭上に差し上げるようにしていた。細い神経光が樹雷皇の眉間の印に当たる。何かを認証したように、するすると神経光は消えた。そして樹雷皇阿主沙様は御自らお手植えされた。そして、種の上に静かに土をかけ、僕と一緒に手で命の水をすくい植えた場所にかける。あとは、短ければ数週間、長ければ数年程度で芽が出て幼木となるそうである。ただ、第1世代の樹を種から育てた記録が、初代樹雷皇の頃と古いため、ある意味試行錯誤に近いようではある。
「その少年、すでに5,6年まえになろうか。鷲羽殿にたまにはこちらに顔を出せと言っておいてくれ。・・・さて、第1世代の樹の種は、これで良いだろう・・・。」
そうか、現在確認されている、第1世代の樹でパートナーが居るのは、樹雷皇阿主沙様の霧封、遥照様の船穂と僕の梅皇・・・。本来ならば樹雷皇のみが入れる第1世代の樹の間なのだなぁ、と感心してしまっていた。
「なんだか、とても申し訳ない気がしています・・・。」
どうしてかな?とりりしい顔立ちで目力の強い阿主沙様がこちらを見据えて問いかけてくれた。
「僕1人で、友達になっちゃってるような気がします。」
あっはっはっは、と大きな笑い声を上げてきびすを返して歩いて行く樹雷皇だった。
「ここ樹雷では、樹が気に入ってるのだから誰も何も言わんよ。」
「そうなんですかねぇ・・・。あったりまえで普通のおっさんですけどねぇ・・・。」
まだ、くくく、と笑っている阿主沙様だった。そのまま歩いて行き、第1世代の樹の間の転送ゲートに2人で立った。ふと、何か異質な匂いが、というか以前来た時とは違う何かを感じた。
「樹雷皇阿主沙様、すみません・・・。なにか変な気配と言うか匂いを感じました。しばらくお待ちください。」
樹雷皇阿主沙様も瞬時に、戦闘モードに入ったようだった。一礼して、転送ゲートから一旦出た。そして通路を静かに数歩、歩いて立ち止まり、気持ちを落ち着かせた。ふうわりと、とても軽い衣のような意識を四方に飛ばしてみた。奥の一番古い樹だろうか?大樹の陰に何か居る・・・。
「名は知りませぬが、ご勘弁を!」
その大樹に走り寄り、右手で樹の皮に擬態している生き物を引き剥がした。ついで、左手の宝玉から力を放出する。