天地無用!~いつまでも少年の物語~。第2部   作:かずき屋

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結構書きためていたのね~~って、連投です(^^;;;。

どうもすみません。




樹雷から銀河へ37

 今回の場合、樹雷領宙であることと海賊の領宙に近いこともあって、樹雷皇の勅命を賜っている。ただ制限は多い。科学技術供与や提供は禁止。個人的な戦闘行為で力の誇示が必要な場合は(まあ、拳での会話とか言うやつです。)は先方の言う忍術にカモフラージュするならOK。明らかな科学兵器や個人携帯武器は、持ち込み及び使用禁止。例の変幻自在の個人端末は持ち込んでも良いが、タブレットやスマホ形状などの類似の機器があれば見せても良いが、形が変化する場面は見せてはダメ。海賊の干渉は確認された時点でなるべく気取られないように排除せよとなっている。

あくまでも大名の査察官という立場で木の葉の里に入り、情報収集及び火影と言われる代表者と顔つなぎをしておくこと。できれば仲良くなって、懐柔とまでは言わないが、何世代も後の将来、スムーズに樹雷やGPの世界へとつなげていきたい。それまで海賊には樹雷の保護下にあることを主張しておきたいとの樹雷皇の意向である。そのためにできるだけ早く第1480星系に到着して活動を始めることが求められている。

 「瀬戸様より、古いけど樹雷皇の印の3Dデータを送るので、そちらで作って欲しいとのことです。生体認証は、一樹様、水穂様、阿知花様のみ認証可に設定したそうです。」

そう、この辺は樹雷の技術。3Dデータと言っても様々なセキュリティデータを織り込み済みで、僕と水穂さん、阿知花さんの生体認証が必須となっている。僕や水穂さん達が使う分には問題ないが、それ以外の者が持ち、印鑑を押そうとすると自動的に消滅するようになっている。

 「了解した。たとえばだけど、地球の技術や物を見せたり話したりするのはどお?」

これに関しては、宇宙から来たなどと言うことがバレなければ、まあ良いでしょう、と言われた。そして、くれぐれも大筒木というキーワードは気をつけて使って欲しいと再度念押しされた。

 そうしてしばらく話し合い、各自イメージトレーニングができるくらいまで煮詰まった後、お昼を食べ、第1480星系外縁でのジャンプアウトに備えた。

 

 「一樹様、間もなくジャンプアウトです。」

籐吾さんの、声がブリッジに響く。数秒後に暗いグリーンの超空間から、遠くに小さく恒星が見える通常空間に復帰した。即座に、茉莉さんが広域探査システムを起動、広域探査を開始し、プローブをいくつか放つ。

 「ジャンプアウト地点は、第1480星系より47光年手前にジャンプアウト。確認されている航路はここまでしかありません。あとは、我々で航路を開拓しつつ第1480星系まで到達しなければなりません。」

水穂さんが、大型ディスプレイを起動し広域探査やプローブの探査結果をプロットしていく。特に現在のところ異常は見られない。

 「広域探査および、プローブの反応は特に異常はありません。星系外縁部まで重重力場や空間断層も確認できません。重力子探査や遠距離ニュートリノ探査にも異常はありません。」

重力子探査やニュートリノ探査にも引っかからないのであれば、たぶん海賊どもは、現れていないようだ。この銀河系宇宙で使用されている恒星間航行エンジンであれば、どちらかの探査に航跡がわずかに残るはず。ただ、皇家の船は全く違う航法なので、この探査には反応は出ない。

 「了解。プローブを帰還させ、20光年ほど超空間航行し、同様に探査せよ。」

この辺、古いマニュアル通り。ここしばらく航路開拓はなかったようだ。こういった辺境以外は、銀河系内の80%に迫る勢いで樹雷及び世仁我、そしてGPの探査活動により、航路はできていた。

 しかし、探査システムそのものの進歩もあって、小刻みと言っても20光年単位程度での探査で済むようになった。以前は数光年単位で探査しつつ、航路を開拓したらしい。

 「ジャンプアウトします。」

また同様にジャンプアウト後、広域探査及びプローブでの探査をする。

 「空間断層、重重力場等確認できず。プローブ探査も同様です。」

また、同じように20光年ほど超空間航行に入る。そしてジャンプアウト。該当星域まで残り7光年ほどになる。この探査結果は、ほとんどリアルタイムに樹雷、世仁我、GPなど銀河条約を結んでいるところと共有されるようになっている。

 結局、無事第1480星系の外縁部に到達した。該当の星までほぼ1光日(光の速さで1日の距離)程度である。またも同様の探査をした。

 「空間断層は確認できません。重重力場は、この星系の恒星及び第5惑星の巨大ガス惑星以外は・・・、お待ちください・・・、重力子探査と、遠距離ニュートリノ探査に反応あり!星系外からターゲット惑星へ一直線に伸びて行っています。」

 「その航跡の起点は?」

茉莉さんから、解析結果が告げられた。梅皇のブリッジの雰囲気が一挙に引き締まった。

 「ダルマーギルド領宙内から伸びています。相対距離約10光年ほどあります。未確認航行物体はあと2時間程度でターゲット惑星に到達します。」

予想進路と時間が大型ディスプレイに表示される。ふむ、向こうが速いか。ならば。

 「分かった。水穂さん、上位超空間航行の申請を特急便でおねがい。それと、海賊との交戦許可も。籐吾さん、上位超空間航行準備。第2戦闘態勢に移行する。」

梅皇に、上位超空間航行に入る旨伝える。返答が即座に帰ってきた。

 「了解、上位超空間航行プログラムロード。」

 「梅皇からのエネルギー供給増大。第2戦闘態勢。」

籐吾さんと謙吾さんが各々の仕事を完璧にこなす。

 「了解。申請は・・・送信しました。上位超空間航行許可着信。交戦許可も同様です。」

水穂さんがたたく端末のキーボードごとグリーンに光った。

 「上位超空間航行開始、海賊船とターゲット惑星の間に回り込め。」

第1世代皇家の樹の出力に物を言わせて、数秒で上位超空間航行に入る。これ、イツキだとここまで速くは移行できない。さすがに、わずかながらショックがあった。

 「ジャンプアウトと同時に、潜宙艦モード。重粒子ビーム砲準備、亜空間縮退ミサイル装填。そして、・・・海賊用警告文を準備。」

ひょいと視界に鏡が入る。水穂さんの手に鏡が持たれている。そこには、なんだかものすごく凶悪な人物が写っていた。右足をイスに上げて立て膝までしている。

 「あなた、ほら。」

ぐ、微妙にノリノリで言っていた自分に気づき、我に返った。

 「威圧感凄いんですけど・・・。」

 「アストラルに引きずられまくってるし。」

前を向いたままの、2人のイケメンに言われた。

 「そ、そーだね~。あはははは。」

さわやかに笑いでごまかし、天木日亜モードに帰る。天木辣按様って実は、問題児だったの?

 「そ、そーねぇ、ちょぉっとやり過ぎるところがあった、かもねぇ・・・。」

梅皇がそう返してきた。まあ、そう言えば現樹雷皇阿主沙様も、武者修行で地球に行ったとき、船穂様拉致って来てるし。瀬戸様も、有能だけどアレだし。

 「なにか、こう嫌な予感が走ってね~。」

ピココンという着信音とともに瀬戸様のドアップが前方のディスプレイに映された。手短に水穂さんが状況を伝える。さっきは女官さん通じての通信だったのに・・・。

 「ふふっ。まあ、・・・楽しんでらっしゃいな。」

意味深な言葉を残し、流し目で、しかも唇に人差し指を触れ、小さな投げキッスをして、映像は消えた。なんだったのだろう。瀬戸様も有能だけどアレだし、と思ったのが皇家の樹経由でバレた?うむむ、わからん。

 「一樹様、間もなくジャンプアウトします。」

ディスプレイが追加で開き、後方にターゲットの惑星がそこそこ大きく見えている。衛星がちょうど顔を出すところだった。青い海と緑の木々、白い雲、そして大陸の茶色が垣間見えるところなどは本当に地球とよく似ている。

 「前方、1000光秒に未確認の船、いや艦隊です。戦艦クラス1、重巡洋艦クラス3、軽巡洋艦クラス5、駆逐艦20。惑星間航行速度を超える速度で接近中。船影確認取れました。ダルマーギルドの海賊船に間違いありません。」

 「それじゃ、警告文を発信してください。」

なんとも締まらないが、まあ僕だとこんな物。

 「了解しました。全帯域を使って発信します。」

神木あやめさんがタンッと操作卓のエンターキーらしきところをたたくと同時に、大出力の警告電波が海賊艦隊に向け発信された。内容は、ほとんど瀬戸様が良くやるZZZ(トリプルゼット)のままだったりする。それに、樹雷領宙であること、樹雷の保護下にある初期文明の惑星であることも付け加えている。先に言ったもん勝ちだろう、こんなものは。

 「突撃型の駆逐艦が、速度を上げ突入してきます。その数5。かなり小型です。」

 「航空隊全機発進。重粒子ビーム砲発射。散弾型縮退ミサイル発射。艦隊直前でマイクロブラックホールをばらまいてやれ。」

今回、天木輝北様と立木もも様のはからないで、新型エネルギーサーバーを装備している。撃ちっぱなしで薙ぎ払うようなことはできないが、単発であれば巡洋艦クラスのエネルギーを収束させた砲が戦闘機から撃てるようになっていた。

 「先行している突撃型駆逐艦は、船体前方のブレード状の部分にシールドエネルギーを集中させ、光應翼も突き破れると言われている駆逐艦です。」

 「ならば、期待しておるだろうから、梅皇の光應翼を展開する。」

航空隊が発艦し終わり、ミサイルを放ってから、光應翼を展開する。5枚の花びらのような光應翼がふわりと開く。見た目弱そうだが、いかなるエネルギービームも、物理攻撃も受け付けない。高速度で接近してくる艦隊の目の前に、ステルス度も高い散弾型縮退ミサイルが破裂し、シールドをやすやすと通過し、戦艦や重巡洋艦に虫食い穴を開けていく。重粒子ビーム砲の直撃を避けたとしても、装甲板がボロボロでは砲の餌食とならざるを得ない。

 「先行の突撃型駆逐艦、光應翼を突き破れず、全機激突、爆発。」

 「この梅皇に一度乗り込めたとて、その程度の武装で皇家の船を襲おうなど片腹痛いわ。」

またも水穂さんが鏡を差し出す。海賊はこちらではないかと疑うような形相の男がその鏡には映っていた。いかん。反省、反省。

 「薙ぎ払え、とか言っちゃダメ?」

右手を前に出して、胸の前から前に向かって水平に振るジェスチャーをした。できるでしょうけどダメです。と水穂さんが即答する。前に座っているイケメン2人の顔があーあ、と辟易したような顔をしていた。ディスプレイの反射で分かった。

 「航空隊、海賊の艦隊に到達。攻撃を開始しています。」

籐吾さんからの報告である。航空隊の砲撃とミサイルで、駆逐艦、軽巡洋艦が順に削られていく。重巡洋艦及び旗艦の戦艦も深手を負いつつある。後退しつつあり、すでに撤退に入ったようだった。賢い選択だろう。

 「深追いはするな。今日は、樹雷領宙であることの宣言的な意味合いが強い。」

そうですね。航空隊、帰還してください、と籐吾さんが命令を伝えている。潮が引くように敵海賊艦隊は撤退し、超空間航行に突入していった。幸いにもこちらの損害はなかった。この顛末を報告すると、樹雷皇の名で正式に樹雷領宙であることの宣言がされるとの報告を受けた。これでとりあえずは一安心である。この惑星の秘密は、公にも守られることになる。ダルマーギルドに近い故に本当のことが知られると、ちょっかいはかけてくると思われるが・・・。皇家の船が守りに就いたとなるとなかなか手出しは出来まい。

 「さて、海賊さんもいらしゃって、大人気の惑星ですね。今の時刻は?。」

 「ただいま、現地時刻は夜の9時過ぎと言ったところでしょうか。現地時間とのずれは、約40分ほど。無視して良いですね。」

 「それじゃぁ、時間調節しつつ、予定どおりラグランジュポイントへ行って、明日の準備しようか。」

航空隊が次々と帰還してくるのを見ながら、そう言った。

 「了解!」

何故か声までそろってるし。妙に嬉しそうだし。海賊に対処しただけで、他に何も変わったことは無いし。何だろう・・・。まあ、あれか。いちおう、おとなしく席に着いていたし。

 「お夕飯にしましょ。」

水穂さんの明るい声が妙に刺さる。そうか夕ご飯まだだっけ。

 「えっと、・・・どっか外のお店行く?」

気を遣ってそう言ってみた。怪訝な顔をしたイケメンふたりとお嫁さん達。

 「もしかして、ご自身のお誕生日をお忘れとか・・・?」

 「は?」

 「ええっと、僕の誕生日はもうちょっとあとだったと思うけど・・・。」

ちゃんと聞けば、イツキの種もらった日らしい。そんなの覚えてないし。ってそうか、あの6月の蒸し暑い日。100歳慶祝訪問の話で柾木神社を訪れたのがきっかけである。

 「皇家入りの日・・・、そう、あなたの樹、イツキちゃんに選ばれた日ですから。」

樹雷側としては重要なのか?結局はご飯は食べないといけないし。珍しく笑顔が軽い水穂さんと、みんなに言われるまま食堂に行った。

 「記念日を忘れてはだめじゃない。まあ、結局みんな飲みたいだけだったりするけどね。」

立木菊乃さんが、でかい鍋をかき混ぜながらそう言った。結構それでテンション上がる。 「ちなみに、本日は、梅皇内はお祭りになっています。後は一樹様の無礼講のご発声だけですね。」

とにかく、たまには良いでしょ。みんな家族なんだし。そう真顔で水穂さん達に言われると、それもそうかと再認識。こちら側での家族か・・・。確かにそうだった。ま、なんとなく真意は分かる気もするけど。この世に引き留め大作戦ってところだろうか。

 そんなこんなで、いまだに慣れない大邸宅のテラスに立って、声高らかに(でもあがってしまって、微妙にかみながら)乾杯と無礼講を宣言した。その後、できたばかりの街に繰り出して、梅皇の町放浪記よろしく、あっちにふらふら、こっちにふらふらと楽しんだのだった。基本的に、引きこもってしまうよりも、いろいろ人と話をするとそれはそれで、気晴らしになる。地球でも認知症の治療とまではまだ行かないが、軽度の認知症の方が、地域のデイ・サービスに行き始め、疎遠になっていた同級生や、近所の人と話し始めて症状が大きく改善した。なんて話は以前の仕事の時に聞いたことが良くある。

 ちょうど小さな田舎の町くらいの商店街が梅皇の中にできているが、あたりまえだが、さすがにシャッター街ではなく活気あふれる町なのが妙にうれしい。人口減少とか、少子化とか、高齢化とかそんな話ししかなかった前職のことを思うと、ただこの町を歩くだけでうれしくなってくる。人が居るって、本当に大事なことだな、と仕事を離れた今頃になって強く思う。楽しい時間はあっという間に過ぎて、就寝時間になり、町も静かになってきた。邸宅に戻って、賑やかだった一日が終わる。明日は、いよいよ火の国来訪である。

 

 明けて、次の日。少し早めに起床した。昨日のイベントというかサプライズのおかげで気持ちを切り替えられたような気もする。そして今日から勝負の日である。妙に気合いが入っていたりする。早速、バイオロイドのメイドさんが用意してくれたモノを水穂さんと一緒に確認する。だいたいの期間と滞在内容はすでに話してあった。

 「だいたい、1ヶ月程度のご予定ですので、衣服などは数日分、そして地球のデザインに近いモノをご用意しています。また、当面の生活費等の金銭に関しては、大名府で受け取りになります。あと、生活ベースの家ですが、一樹様夫妻とラノ様はターゲットの火影様の家の隣に住むようになるようです。神木祥瑞様は、そこから数百mほど離れたアパートのような物件です。」

 バイオロイドのメイドさんが、簡単な木の葉隠れの里の模式図で説明してくれる。水穂さんと昨日確認したことの詳細事項と当面の実質的な暮らしに関することである。おおきめの旅行用ケースに見えるモノに収納してくれている。取っ手を引き出して、引っ張れるアレである。

 宿舎というか、仮の宿が火影の家の横というのは、先方が監視するとしても簡便ということだろう。まあ、たまたま空いていたのかもしれないが。

 「全体に結界と呼ばれる、強力なシールドのようなモノがかかっています。木の葉隠れの里を護るためでしょう。基本的に、外へ出るときには火影様の許可などが必要なのでしょうね。」

視覚化して見せてくれたが、木の葉隠れの里を囲う大きな壁が有り、入り口はひとつ。そして、結界と言われる、こちらが感知できるシールドは3重のシールドだった。これを破って侵入するのはかなり難しいと思われる。ただ、大出力ビーム兵器で、衛星軌道や、もっと遠くから狙われるようなことは想定していないのだろう。そうそう、今回は査察官の家族とその随行員だっけか。

 「水穂さん、ラノちゃんは、とりあえず地域の学校にでも入るのかな?」

 「ラノちゃんにも、子ども同士での会話の中でいろいろ聞いて情報収集をして欲しい面がありますから・・・、忍者養成学校、通称忍者アカデミーではない学校があるようですのでそちらに編入するような手続きになっていますわ。」

最近、アルゼルの学校に行って、若干子どもらしさが増したラノちゃんだったりする。今も横でおとなしく、メイドさんのお話を聞いていた。

 「一樹様、大丈夫です。火影様のおうちにも同じような歳の女の子が居るようです。」

 「そうだね。銀河横断はできないけど、その子とお友達になっていろいろお話を聞いたり、お話ししたりしてくれるかな。ただし、僕らが宇宙から来たようなことは言っちゃダメだよ。」

こちらも、すでに水穂さんや阿知花さんが話しておいてくれている。さすがにもともとAIと言うか、銀河間を航行して生命を創造した船のメインコンピューターである。その辺の飲み込みは早い。それと、だいぶ肉体にも慣れたと言うことで、第2段階までの生体強化をしたようだ。ラノ・ヴォイス3号から生まれ落ちたときから、少し背も大きくなっている。いまだに、やっぱりお兄ちゃんとは言ってくれない。謙吾さんの方が、ラノちゃんはお気に入りのようだった。謙吾さんも、妹が増えたような扱いで接してくれている。

 「持ち物などの、準備ありがとう。それじゃ、行ってくるよ。」

バイオロイドのメイドさんが転送機まで見送ってくれる。気をつけていってらっしゃいませ。というバイオロイドのメイドさんの声を聞き、ブリッジに3人で転送された。

 「おはようございます、一樹様、水穂様、ラノ様。」

待ち構えていたように、みんなの若々しい声がする。責任者、よねぇ、とちょっとテンションが下がるけれど気を取り直してこの仲間達をいろんな意味で護らねばと思う。

 「一樹様、このように、転送地点を設定しました。」

火の国大名府へ1kmほど手前の目立たない建物が転送ポイントになっていた。昨日、適当な空き地に建物ごと転送しておいたのだ。簡易的なシークレットウォールをかけていて、見た人にも印象に残らないような処理をしている。見た目はちょっとくたびれた感じの、地球で言う雑居ビルでこの惑星でもよく見るものである。

 「ありがとう。それじゃ、頼みます。」

了解!と言う神木あやめさんの声を聞きつつ、転送シールドがおりて、数秒後にはターゲットのビル内部に3人でたたずんでいた。

 「それじゃ、しばらく歩きだけど、行きましょうか。」

水穂さんとラノちゃんがうなずくのを見て、目の前のドアを開ける。すぐに通りに面していて、通りを通行する人々が見える。不思議なことに自動車やバスなどの公共交通機関はない。みんな徒歩だった。自転車もない。地球だと昭和を思わせるような電柱が規則的に立っている。と言うことは、電力は使えると言うことだろう。こちら側の見た目は、いちおう、シールドのせいで不審には見えないはずだし、こちらに注意を向けてくる人間もいないはずだ。旅行者のような雰囲気を漂わせているつもりで通りを歩いて行く。この道をただまっすぐ行けば、大名府に着くはずだった。

 「一樹様、聞こえますか?周りに危険な行動をする人は居ないようです。私たちが常時モニターしています。」

先ほど、ナノマシンを飲んで構築した内耳用通信機の感度も良好である。腕時計に擬態した個人端末でも通信はできるが、より自然に誰にも気づかれずに通信できるということでこれを支給された。僅かに声を出すだけで、こちらの声を拾って、個人端末経由でラグランジュポイントの梅皇に届けてくれる優れものである。


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