どうなりますことやら。
「まあ、籐吾さんももしかすると、僕みたいにやっかい事ホイホイなのかもよ。」
白い歯を見せてニカッと笑って、バンバンと籐吾さんの背中を叩いた。珍しいことに、がっくりと肩を落として、うなだれている籐吾さんだった。ちらっと僕の方を見て、すぐに視線を落とす。ふふふ、僕もいついつもいじられキャラではないのだ。
筋肉質で広い背中を触ると、いかん、ムラムラっと来る。まだ日が高いぞと自分自身に言い聞かせているうちに、格納庫に転送された。すでに、32人は、2列横隊で整列していた。その中のリーダーらしき人物が、整列と「気をつけ」をかける。もちろん樹雷式だ。服装も僕らが着ている闘士の正装とは違って、さすがに身体に密着した、スーツのようなものだった。さすがに、以前の僕というか、田本さんのように無様に太っている人はいない。僕らも、僕を中心に横に並んだ。今日は、ラノちゃんは、アルゼルの地球で言う小学校に行っている。とりあえず、籐吾さんに、紹介と挨拶を兼ねて口火を切ってもらう。
「本艦は、ここにおられる、柾木・一樹・樹雷様の座艦、梅皇である。」
おお、朗々とした声だ。別に僕自身は、そんなに偉ぶってはいないけど、やはりここは皇族と言うことだろう。籐吾さんが、君たちは、こちらに派遣されてきた事実を踏まえ、持てる力を惜しむことなく頑張って欲しい旨の挨拶をする。続いては僕である。
「わたしは、柾木・一樹・樹雷である。本日から、10日ほど諸君らの命を預かることになった。今回の第1275開拓星系への視察につき、樹雷王阿主沙様から、あなた方第6航空隊を預かった。視察ではあるが、戦闘がないとは言いきれない。持てる力を尽くせ。以上だ。」
微妙に噛みながら、精一杯偉そうに言ったつもりだったりする。水穂さんに肘で脇腹を小突かれていた。航空隊の面々は、一切表情を変えない。
続いて、謙吾さんや、阿知花さんから居住空間などの説明があった。この格納庫に隣接する格好で、航空隊用というか、一般兵用の居住空間があるようだ。実際に歩きながら施設の説明になって、謙吾さんを先頭に説明を聞きながら歩いて行く。巨大な食堂があり、医療機関もある。一度仕事で見に行った、自衛隊の駐屯基地がひとつ丸ごと入っているようだった。思いつくような一通りの施設はそろっている。それだけではなく、さらにまだ何もない空間が広がっていた。遙か向こうに僕らの家がかすかに見えている。
「水穂さん、実際に目の当たりにすると、もの凄いね、皇家の船って。」
なんだかしみじみと思ったので、そう言ってみた。
「あなた、その皇族じゃない。ほんとにもぉ。」
「だってぇ、この中に引きこもっても大丈夫なくらい広いじゃん。ひとつの町というか、都市が入るよ、あ~もっとか。惑星系そのもの入れてるし。」
「そうそう、ワシらはそのためにここに来たし。なあ菊乃(きくの)。」
「そうよね、あんた。まさか瀬戸様から直々にお声が掛かるなんてねえぇ。」
なんだか後ろで声がする・・・。まさか・・・。
「あなた方は・・・、というか航空隊だけぢゃないの?」
声の方を見ると、60代くらいに見える男女がいた。ひとりは、白髪交じりのちょっと恰幅の良い男性、もうひとりは、割烹着が似合いそうなおばちゃん!と言う感じのふたりだった。
「・・・あ~、一樹様紹介が遅れて申し訳ありません。ウチの父母です。」
そう言うのは竜木謙吾さん。と言うことは・・・。
「立木幹凪(みなぎ)と菊乃じゃよ。これからもよろしくお願いします。」
二人して深々とお辞儀してくれる。あ、こちらこそ。
「こちらこそ、謙吾さんには、いつもお世話になっております。あ、謙吾さんとのこと、ご挨拶に行くのが遅くなって申し訳ありません。」
そう言えば、立木家に一度行こうと思っていながら、結局行けていない・・・。ってそうぢゃなくて!
「・・・なんで、お二人が乗ってるんですかっ?」
「ええっと、父は以前、天木辣按様の座艦の機関長だったのと、母は、食堂で働いていたのと、医師の免許もあるので・・・。まあ瀬戸様が呼んじゃったんですけど・・・。」
頭を掻き掻き、謙吾さんが済まなさそうな声で言う。籐吾さん達は、あ~あ、とあきれ顔である。瀬戸様がそう言ったと言えば、何でも通りそうなのが怖い。
「・・・あ~、はいはい。そう言えば、一年ほど前の通信の時にお目に掛かっていましたね。重ねてよろしくお願い申し上げます。」
もうここまで来れば、毒をくらわば皿までだったりする。いえいえ、こちらこそ。謙吾はあなたのおかげで出世までさせていただいて。あんな綺麗なお嫁さんまで。とか世間話状態になってしまった。
「・・・で、そこの茂みに隠れてる、お兄さんとお姉さんは?」
気配が、4人まだあるのだ。木の枝を持って4人が立ち上がる。なんだかあからさまだったりする。若い男性2人、若い女性2人である。
「上木晴信(はるのぶ)、平田健二(けんじ)、上木彩矢(あや)、上木愛優(あゆ)でございます。」
「一樹様、どうもすみません。上木晴信は機関士で闘士、平田健二は看護師で闘士、上木彩矢と、上木愛優も看護師で闘士です。それぞれ、便宜上、僕、謙吾の下で、父の立木幹凪と上木晴信が。阿知花さんの補佐と、医療、食事など生活全般を僕の母、立木菊乃と、上木彩矢、上木愛優が担当します。」
と、例のタブレットを操作しながら謙吾さんが済まなさそうに言った。水穂さんを見ると、ちょっとホッとした顔をしている。阿知花さんは僕の視線に気付いてにっこり笑う。
「わたしの愛よ!、愛。それにね、みんな、あなたの意思に賛同してくれているわ。希望者絞るの、大変だったんだから。」
また聞き慣れた電子コールで、ドアップの瀬戸様だった。僕の知らないところで、謎の作戦が進行していたと、まあそう言うことだろう。
「ホントはわたしだって、あなたの船に乗りたい。でも立場がそれを許さないの・・・。」
いつもの水鏡の内部のようだったが、平田兼光様と天木蘭さんが、顔を引きつらせているのが見える。瀬戸様の顔を見ても真面目なのかどうかが読み取れない。ハンカチを持って頬をぬぐっては、いる。
「・・・わかりました。知りませんよ、宇宙海賊王になっても。」
ぼそぼそとそれだけ言ってみる。
「あなたがその気なら、みんな付いていくわよ。それに、そんなこと思ってもいないことは今までのあなたの行動が示しているわ。」
「一樹様!」
ざっ、と地を蹴る音と共に、僕らの前を歩いていた、航空隊の32名と、竜木謙吾さんのお父さんとお母さん、そして上木の3名と平田健二さんが、僕の前に頭を垂れ、跪いた。
「我らすべて、柾木・一樹・樹雷様のご随意のままに!」
水穂さんと、阿知花さん、籐吾さん、謙吾さん、あやめさん、茉莉さんを順番に見た。やれやれという表情と、ホッとしたというような表情が同居しているように見えた。
「わかったよ。みんな共に行こう。でも、僕より先に死ぬことは許さぬ。どこであろうとも、助けに行くよ・・・。」
頬を何かがつたってる。体験したことのない力のようなモノを跪いているみんなから感じた。
「あ~、一樹殿、うちの甥っ子だが、使ってやってくれ。」
平田、と言う姓から、なるほどと思った。さっき枝を持っていた若い男性がこちらを見る。優しげな印象だが、凜とした雰囲気は樹雷の闘士らしい。平田兼光様が瀬戸様の後ろから声をかけてくれた。
「たぶん知ってると思うけど、上木はうちの一族、神木の眷属になるの。3人ともよろしくお願いするわ。」
はい、瀬戸様と素直に頷く。ふわっと柔らかな笑顔をした瀬戸様だった。白のあやめの花、そんなイメージが湧いた。
「・・・そうですね、瀬戸様のふんわりしたお顔も拝見出来ましたし・・・。それでは、再び、行って参ります。」
瀬戸様は、一瞬爆発したような真っ赤な顔をしていた。じゃあね~、と固まってる瀬戸様の後ろから、平田兼光様と、天木蘭さん2人のバイバイと手を振る画で通信が切れた。
「さすが、一樹様・・・。瀬戸様のあのようなお顔は見たことがありません。感服いたしましたぞ!」
妙に感心してくれている、立木幹凪さんだった。ざわざわと、あのGBSで踊っていたのは本当だったんだ、すげえなぁ、とか聞こえてくる。そっち?と個人的には思ったりする。
「・・・それでは、各自持ち場についてください。視察予定の星域までしばらく時間が掛かります。今夜は皆さんの歓迎会ですかね?」
水穂さんと阿知花さんを見ると、ふたりとも、しょうがないわね~的な軽やかな笑顔だった。
「それじゃあ、腕によりをかけてお料理を作ろうかね。」
竜木謙吾さんのお母様、菊乃さんのキリッと張った声がした。それだけでもう、今夜の宴会はもの凄く楽しみになる。梅皇と、イツキから超空間ジャンプ可能位置に到達、超空間ジャンプするよ、と話しかけてくれた。
「梅皇さん、イツキ、航路に従って、超空間ジャンプしてくれ。」
虚空を見ながらそう言う。すぐに了解!と返事が来て、密かに響いていた作動音の音色がわずかに変わった。もちろんショックなどと言う無粋なモノはまったくない。
「一樹様、僕らの仕事を取らないでくださいよぉ。」
籐吾さんが、ちょっと悲しげに言う。
「あはは、何か事が起こったら、頑張ってもらうよ。」
ぎゅ、と籐吾さんをきつめにハグして、謙吾さんも同じく・・・。2人とも紅さす頬が可愛い。額の青筋が目だつ奥様2人は、また今夜。
「そ、それじゃあ、補機や超長距離リープシステムのチェックや、やることはたくさんある。機関長、上木晴信いくぞ!」
慣れない号令をかける、謙吾さんに、
「すでに、梅皇に亜空間固定されたアルゼル星域には許可を取ってある。梅皇第1航空隊は、アルゼル星域外縁で訓練だ!」
籐吾さんも、同じようだ。
「了解!」
航空隊32名と、幹凪さん、上木晴信さんが凜とした声で応えてくれた。
「それじゃあ、平田君と上木彩矢さんと上木愛優さん、私に付いてきて。診療システムを確認しておきましょう。」
阿知花さんが、病院区画に向けて歩き出す。1年前と違って、街のような施設が整いつつあった。
「樹雷の人って、病気なんてあるんですか?」
思わず、そう聞いてしまった。
「あなたが一番無茶するからよっ。」
びしいっと、人差し指で僕を指差す阿知花さんだった。ぷぷぷっと水穂さんが吹き出している。
「はいいぃ。・・・気をつけます。」
若い3人の表情がゆるむ。
「そうだ、時間ができたので、アマナック委員長に・・・。」
今回の視察について話を通しておいた方が良いだろう。文字通り呉越同舟だし。
「・・・呼んだかね?」
背後に突然現れる気配。高度な科学技術は、魔法と見分けが付かない。
「いつもながら、びっくりします。いらっしゃいませ、アマナック委員長。」
様々なことはみんなに任せて、僕と水穂さんは、梅皇の邸宅の一室に転送で移動し、アマナック委員長と話をすることにした。このアマナック委員長は惑星アルゼルの最高責任者兼最高権力者である。超長距離リープシステムの技術を僕に託してくれている。そのアルゼルを含む星域は、防衛の手間を省くこともあって、この梅皇に星域ごと亜空間固定されていた。そんな縁もあってラノちゃんは、アルゼルの学校に通っている。
「第4世代皇家の樹、第5世代皇家の樹の枯死、雨木の名の開拓団と、天木家の艦隊・・・。やっかいかも知れぬな。」
この人も不思議な人である。この天の川銀河にあっても、かなりのオーバーテクノロジーを持っていて、そのために完全鎖国を続けていた星系の最高責任者である。
「いまも、この船に、たくさんの樹雷の闘士が参加してくれたんですが、この闘士達が死ぬようなことがあってはならない、と・・・。」
そこまで言うと、アマナック委員長は、手を振りながら険しい顔をする。
「兵を、言葉は悪いが効率的に殺す、それも戦場の理であり、上に立つ者はそう割り切ることも必要じゃ。兵士も、犬死にはいかんが、国のため、そして信じられる者や、愛する者のため散るのは兵士の本望であるものだぞ。」
こう言うことを言う時は、この人はとても苦しそうな顔をする。戦いというのはそういうモノと樹雷の兵法も、古くは地球の兵法も大概そう言っている。
「・・・ええ、分かってはいますが、僕は、身内の者と思ったなら、戦なんぞで死んではならない、暖かなベッドで最期を迎えて欲しい。そう思っています。甘いんでしょうけどね。」
「・・・そう、甘い・・・。だが、お主ならやれるかもしれんの。」
この話題は、この一年、様々な人と交わしてきた。今のところ、それほど危急のことはなかったが、この先、護らねばならぬ者が増えてくるのはたしかだ。今も現にそうだし。
「・・・私は何度も泣きました。この人、自分のことは二の次なんです。」
水穂さんが、腹いせに近い、それでもどことなく柔らかい声で言った。
「ぐ・・・。水穂さんにそう言われると、ぐうの音も出ませんが・・・。」
「まあ、まあ。そう言う立場だと言うこと、肝に銘じておく事じゃのぉ。元の話に戻るが、天木は、何か掴んでる、そう思った方が良いじゃろうのぉ。」
「やはりそうでしょうね。いまのところ、天木家の第2世代艦や他の第3世代艦は動いていないようです・・・。」
うむ、と2人とも黙り込んでしまう。しばらく間が開いた。すっと、お茶が目の前に置かれた。透き通った青色のお茶。例のマゼラン星雲からのお茶だろう。ミントに似た良い香りと、口に含むと上品な渋みと甘みが心地よい。いつものバイオロイドのメイドさんかな、と顔を上げると阿知花さんがお盆を持って立っている。
「あれ、もう終わったんですか?医療設備の確認は。」
「はい。さすが現役の看護師たちですわ。それに、ここの設備も樹雷の皇立中央病院並みです。脳さえ残っていればクローニングによる生体再構築も可能です。ベッド数は、最大500床。拡張も可能です。医師と看護師さえいれば、大規模戦闘の病院船としても活用できます。」
まあ、そう言えば四国くらいの空間なら朝飯前で固定できる、さらに加えて、ほとんど無尽蔵のエネルギー・・・。まさにやりたい放題だろう。わらわらといつ尽きるとも無く発進してくる戦闘機群、さらに1000万光年の超長距離を跳べ、兵士も後から後から湧いて出てくる・・・。補給もまず必要ない。そう言う意味で、天の川銀河制圧も問題ないだろう。
「補給をほとんど考えなくて良いなんて、この船一隻で、天の川銀河制圧もできちゃいますね~。」
ひくひくと頬が引きつるのが分かる。
「どちらにしても理論上は、と言う、但し書きが付くな。」
腕組みしたアマナック委員長がそうつぶやく。
「そうですね。そんなことやって何かを手にしようとも思いませんが・・・。そうだ、今夜、乗り組んだみんなの歓迎会をします。アマナック委員長もいかがですか?」
「ほっほっほ。ありがたいお誘いだが、今夜はこっちも祭りでな。それこそ、リルルとメルルが舞を舞うのじゃよ、見に行くのを約束しておってのぉ。」
ああ、目に入れても痛くないんだろうな、と思える笑顔だった。