少年、彼の地にて斯く暮らしたり   作:長財布

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魅惑のダークエルフ

「うわぁ、こりゃすげぇな・・・」

 

アルヌスの門から少し離れた場所、難民キャンプから始まった集落は今や商人を始めとする人々が行き交う大きな街へと発展していた。

 

竜の鱗が収入源になり、自衛隊が生活用品の配給を止めて自立して生活していけるようになったのである。

 

「PXあるしわざわざ日本にまで買いに行く必要性なくなっちまったなぁ・・・」

 

そんな活気付く街を歩いていると・・・

 

「ハシダテ様!」

 

「て、テラさん!?」

 

フォルマル伯爵領、イタリカのメイド、テラがそこに居たのである。

 

「どうしてここに?」

 

「アルヌスの街で人手が足りないから手伝いに行ってこいってメイド長から言われたのニャ」

 

「なるほど~」

 

改めて店を見ると食堂で働くケモ耳娘が多数いる。イタリカから来てたのか・・・

 

「ハシダテ様に再びお会い出来て私も嬉しいですニャ~」

 

そう言って俺の腕にしがみ付くテラ。

 

「俺もですよ~。よーしよしよし―――」

 

くしゃくしゃと頭をかき回してやるとテラはとても嬉しそうな表情を見せる。

 

「そうだ・・・お店の主人に挨拶に行かないと行けないんだったニャ。ハシダテ様、またニャ~」

 

「はい、ではまた」

 

いつまでも手を振るテラに早く行けと手で促しつつ俺は再び街をブラブラと歩き回る。

 

暫く歩き回っていると見慣れた顔が一人、通りをうろうろしていた。

 

「テュカさん、どうしたんですか?」

 

「あのねカイト、私のお父さん知らない?」

 

え?

 

俺は俺達がこのアルヌスに来たときの事を思い出した。その時俺は通訳として難民の名前を一人ひとり聞いて紙に纏めていたのだ。

 

その時も確か彼女はお父さんが云々と言っていた気がする。

 

「い、いや・・・お父さん、知りませんねぇ・・・」

 

「そう、全く・・・どこに行ったのかしら?」

 

再び人混みの中に消えていったテュカを見ながら俺は思った。

 

お父さん、居ないってオチは無いよな?

 

俺は駐屯地へ戻る高機動車に便乗させてもらい、駐屯地へと向かった。

 

「テュカが?」

 

「はい、なんか毎日父親を探しているみたいなんですよ」

 

俺はその事を第3偵察隊の黒川二曹に相談した。なんでも彼女は特地に来る前、自衛隊中央病院に配属していたらしく看護資格も持っているという。

 

「そのことは私も心配しています。彼女は炎竜の被害に遭ったある集落の唯一の生存者だったんです」

 

「・・・ということはテュカさんの父親はもしかして?」

 

「はい、おそらくは・・・」

 

直接言わないにしても分かる。つまりテュカの父上はもうこの世には居ないという事だ。

 

そんな亡き父親を毎晩探すということは・・・

 

「もしかして、父親の死を受け入れられずに・・・ってやつですか?」

 

「分かりません、もしかしたら故人をいるかのように扱うと言う風習があるのかもしれません。そんな話知りませんか?」

 

「いえ、自分は聞いた事無いですね。でもエルフって結構生態が謎でして・・・」

 

「そうですか、まぁこのことは隊長に報告しておきます。知らせてくれてありがとうございました」

 

 

 

 

アルヌスへと戻ると商人や住人に混じってなんか変な格好の女性が居ることに気付いた。

 

ラテックスっぽい素材のなんとも露出の激しい(主に胸元が・・・)服装のダークエルフ。

 

ムチでも持たせたら日本の怪しいお店の女王様的な彼女は俺の視線に気がつくと妖艶な雰囲気を漂わせながら手招きする。

 

知らない人に付いていくなとは小さい頃からよく言われていたがそれはエルフにも適応されるのだろうか?

 

念のため背中に背負っている銃のセイフティを解除して近づいてみる。

 

「あの、何でしょうか?」

 

「実は坊やに話があってだな・・・」

 

坊やて・・・でもエルフからしたら俺なんてガキと変わらないか。

 

「ここでは話せない、こっちに来てくれ」

 

そう言って褐色のダークエルフは俺を路地へと連れて行った。

 

そして人目が無いことを確認すると・・・

 

「話って何でしょ・・・あの、何やってるんですか?」

 

徐に羽織っていたマントを脱いで俺の腰に手を回す。

 

「坊やぁ、私はすっごく困っているのだ」

 

耳元で艶めいた声で囁く彼女、その声と吐息に体がビクッと震えた。

 

「お、お金は持ってないです。それにこういう事はまだダメっていうかなんというか・・・」

 

俺は17歳、手を出したら1発でアウトだぞ。

 

腰に回された手を払って逃げようとするとダークエルフは逃さんとばかりに俺の手を掴み壁へと追いやった。

 

俺、異世界でダークエルフに壁ドンされてる・・・

 

「分かっている。こういったことは初めてなんだろう?私がしっかりリードしてやるから安心しろ」

 

何も分かってねぇじゃんか!

 

しかしこのダークエルフの攻撃的な身体、それに何どんな香水を付けているのかは分からないが頭がポーッとするし息も荒くなってきた。

 

シャツのボタンを外される。あ、もうダメだ・・・

 

「よ、要求はなんです?」

 

何とか声を絞り出す。ぶっちゃけもう要求とかどうでも良くなってるんだが。

 

「ある人物を紹介してほしい」

 

「ある人物?」

 

「緑の人だ。炎竜を追い払ったという噂を聞いてやって来た」

 

緑の人、炎竜を追い払った?もしかして・・・じゃなくてもしかしなくても自衛隊の事か!?

 

その瞬間、俺の理性は完全に復活した。何とか体を振り解きダークエルフに向かって銃を向けた。

 

「なんだ、まだまだこれからだぞ?」

 

「アンタ何者だ?自衛隊に何の用だ」

 

人を惑わす露出の多い服装、あの素振り・・・間違いない、コイツはスパイだ。どこかの国がダークエルフを使って諜報を行っているんだろう。

 

「炎竜の退治をお願いしたい」

 

「炎竜の退治だと?」

 

確かに自衛隊に接近するにはこれ以上の理由はないな。

 

「信じられるかよ。アンタ、エルフだろ?精霊かなんかにでも頼んどけ」

 

この場から去ろうと踵を返した時、ダークエルフは俺の腰にしがみついた。

 

「頼む!こうしている間にも炎竜によって同胞の命が危険にさらされているのだ!なんとか、なんとか私に緑の人を紹介してくれまいか!?」

 

涙ながらに懇願するダークエルフ、嘘をついているようには見えない・・・

 

「アンタ、名前は?」

 

「我が名はヤオ・ハー・デュッシ、シュワルツの森から族長の命を受けやって来た」

 

シュワルツの森って言ったら滅茶苦茶遠いじゃんか・・・

 

ヤオは族長の命であることを示す書類とクソデカいダイヤモンドも見せてくれた。

 

この大きさはそんじょそこらの山で採れるものではない、となると彼女の言っていることは本当なのか?

 

「・・・一応、紹介はしてあげます」

 

後は自衛隊に任せよう、こういったことに関しては向こうのほうが専門だろう。心理カウンセラーやら自白剤やらもあるだろうし。

 

「本当か!?」

 

「はい、付いて来てください」

 

通りに出ると丁度MP(警務)という腕章を付けた自衛隊員が居た。

 

「あ、すみません」

 

「おぉ、橋立君やないか。調子はどうや?」

 

「問題ないですよ。それでですね、この人なんですけど」

 

ヤオを見せた時、隊員達の顔色が変わった。

 

「特徴が一致するな」

 

「イタリカに送還ですかね?」

 

「日本人も被害に合ってたら地検送りやが・・・」

 

え・・・もしかしてこの人本当に悪い人?

 

警務の隊員達は俺に向かって敬礼した。

 

「ご協力感謝します!」

 

「いや、その。えぇ・・・」

 

なんか混乱してきた。

 

「一緒に来てくれますかね?」

 

「あぁ、話、ちょっとき、聞かせてほしい」

 

言葉の通じる自衛隊員にヤオの表情が一気に明るくなった。いや・・・絶対誤解してるぞ。

 

俺からも事情を聞きたいと言われ同行することになった。また駐屯地行くのか・・・

 

個室に通され、俺は路地裏での一件のことを話した。

 

「それは、災難だったというかなんというか・・・むしろご褒美なんじゃないか?」

 

「いやぁ、あのときはヤオさん、どこかの国のスパイかと思ってましたからねぇ」

 

「俺からしたら羨ましいことこの上ないぞ、あんな体のダークエルフに誘惑されるなんてさぁ」

 

「自衛隊がそんなこと言って良いんですか?」

 

ヤオの正体がはっきりしたところで俺への聞き込みは半分雑談の様になっていた。なんでも周りとは服装や顔立ちも違う俺を自衛隊の関係者だと思ったらしい。

 

酒場での伊丹との一件で周りの皆があまり関わりたくないというカンジだったので強硬策であるハニートラップをしたとの事。節操なさすぎだろ・・・

 

 

 

 

 

 

ラッパの音と共に国旗と自衛隊旗が後納されるのを俺は自衛隊病院のベンチに座って眺めいていた。

 

「炎竜退治をしたいのはヤオも自衛隊も同じなのに場所が他国の領土じゃなぁ・・・」

 

ヤオの訴えはレレイとともに狭間陸将へと届けられた。しかし陸将の答えはヤオにとって非情なものであった。

 

ヤオの故郷はシュワルツの森、エルベ藩王国領内である。いくら炎竜退治のためとはいえ、自衛隊が越境して進軍することは出来ないのだ。

 

「なんじゃ、若いもんがこんな所でたそがれておって・・・」

 

「え?」

 

声の方を向くとそこには傷痕だらけの老人が立っていた。たしか自衛隊病院に入院している農家の人だって黒川さんが言っていたな。

 

だが俺はこの顔に見覚えがあった。この爺さん、決して農民なんかじゃない。

 

「座らせてもらうぞ」

 

「あぁ、どうぞ」

 

老人はゆっくりとベンチに座り松葉杖を壁に立てかけた。この老人、左手と右足は義肢なのだという。

 

そして俺はその老人に向かって単刀直入に言った。

 

 

 

 

 

 

 

 

「エルベ藩王国の国王がこんな所で何やってるんですか?」

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