「ほう、コレはなかなかおもしろい構造じゃのう」
ラーダ村長は帆斗がノートに書いた設計図に興味を抱いていた。
「私が居た世界ではかなり前の技術なんですが構造もそれほど複雑では無いですしこの村でも作れるのではないかと思いまして」
「うむ、鉄工を生業にしておる知り合い相談してみようかのう」
ノートに書かれていた設計図は手押し式ポンプだった。井戸水を汲み上げる方法の一つで田舎の方では使われては居ないが置いてある所もあるのではないだろうか。
「これでわざわざ井戸の中に桶を投げ入れる必要がなくなると思うんです」
「確かに、これだと取っ手を上げ下げするだけで水が出てくるんじゃからのう」
ラーダはノートの切れ端を懐に仕舞うと早速外出の支度を始めた。
「しかしカイトよ、お前さんの知識には毎度驚かされるわい。若いのにコレほどの事を知っておって、お前さんの居た世界はよほど進んだ技術を持っておるのだろうな」
「えぇ、そうですね・・・」
話し合いを終え村長宅から出ると家の前にリュウが立っていた。
「会合は終わったのか?」
「えぇ、早速村長が知り合いに話を付けてくれるそうです」
帆斗がこの村に来てから3ヶ月、彼は元居た世界の技術をこの村にもたらした。技術自体は地球ではすでに忘れ去られかけているものばかりではあるがこの村にとっては最新鋭の技術であった。
「カイトの知恵はこの村の発展に大いに役立っている。私はあの水車がお気に入りだな」
この村には近くに川が流れている。この川の水を使うことが出来れば畑に水を供給することが出来るのだが村が川よりも少し高い位置にあるため水を運ぶことが出来なかったのだ。
そこで帆斗は水車を使って一旦高所へ水を運びそれを水路を使って村まで運ぶという案を提示した。
お陰で畑に水をやるのに井戸から汲み上げるか川まで行く必要がなくなり効率化も測ることが出来た。それらによって村人とも良好な関係を築けている。
「それよりリュウさん、こんな所に何か用ですか?」
「いや、カイトに用があってここで待っていたんだ」
「俺にですか、なんでしょう?」
「ちょっと来てくれないか?」
そう言われリュウに連れてこられたのは人気のない河原だった。
「ちょっとお前の知恵を借りたくてな・・・」
「はぁ・・・でも魔法関係は全然知識無いですよ」
「それは分かっている、私が聞きたいのは使い道の事だ。ちょっとコレを見てくれ」
そう言ってリュウが取り出したのは緑色の小さな鉱石だった。それを地面へと放ると・・・
ドォン!
突如爆発音が響いた。
「これは投げると爆発する石なんですか?」
この世界ならこのようなものがあってもおかしくない。帆斗はそう思った。しかしリュウは首を横に振る。
「いや、爆轟の術式をこの鉱石に記憶させたのだ。そうすることで複雑な魔法式を組み立てる時間を省くことが出来る。それを何らかの刺激、今回は地面に衝突した際の衝撃をきっかけに術を起動させたのだ」
「石に魔術を記憶ですか・・・」
魔術を記録するフラッシュメモリのようなものだろうか、ともかくコレならば魔術を使えない人間でも現象を起こすことが可能になるのではないだろうか。
試しに帆斗自身がその石を投げてみる。すると先程と同じように爆発が起こったのだ。
「ただコレだと一瞬の熱と爆発音と光しか出ない、なんとかコレを応用することが出来ないかと思ったんだ」
帆斗は手渡された鉱石を眺めた。ウズラの卵くらいの大きさで色は透き通った緑、光にかざしてみると薄く文字のようなものが刻まれているのが見える。
「これ、もう少し小さく作ることは出来ますか?」
「具体的にどれくらいだ?」
「これくらいですね・・・」
勿論のことだがこの世界でメートル法は使われていない、独自の単位があるらしいのだが帆斗にはよく分かっていなかった。
「なるほど・・・かなり小さいな」
帆斗の要求した大きさはおよそ直径9ミリ、長さが44ミリだった。これは5.56ミリNATO弾の薬莢とほぼ同じサイズになる。
「これをこのようにして金属の筒に入れるんです。爆発のエネルギーが漏れないようにきちんと密閉してないといけません」
ノートに薬莢の図を書き始めた。通常薬莢の中にはガンパウダーと呼ばれる無煙火薬が入っている。それを爆轟魔法を封じた鉱石を代わりに使うという考えだ。
「そしてこんな形の金属の塊を飛ばします、この金属が飛翔するので威力は十分かと」
薬莢の図に弾丸を書き加えると見た目では普通の5.56ミリ弾と同じであった。
ノートに書かれた図を見てリュウは感嘆の声を上げる。
「なるほど、爆発自体に威力をもたせるのではなくそのエネルギーで別のものを動かすのか!」
「さらにこれを飛ばす機構ですが・・・筒の中に螺旋を刻むんです。これで弾道が安定して命中精度と飛距離が上がります」
「これがカイトの世界の最新技術か」
「いや、これ俺の居た世界では100年以上前から使われているんですよね・・・」
「なん・・・だと」
リュウは心の底から驚いたようだ。
「設計図を書いて村長が紹介してくれた鉄工業の人に試作品を作るようお願いしてみます」
「やはりダメじゃったわい・・・」
「そうでしたか」
帆斗は銃の開発に行き詰まっていた。
この世界の金属加工レベルではどうしてもクリアできない課題があったのだ。
「筒の中に線を刻むという方法は聞いたことが無いそうじゃ」
最も大きな問題はライフリングだ。銃口内に彫ってある溝、これが再現できなかったのである。
「筒の中に線を刻みたいのか?」
実験から帰ってきたリュウが割って入って来た。
「そうなんです。こういったカンジに―――」
帆斗はノートに線を引いた。その線を内側にして丸めて筒を作る。
「ほうほう、これは興味深いな・・・」
「ただこれが出来なくて、なんかいい方法は無いですかね?」
リュウは紙の筒を見ながら唸った。
「待てよ?金属の加工に関する論文が論文が・・・」
リュウは自室へと戻ると本の山を崩し始めた。雪崩のように崩れる本の中から1冊の本を手に取り戻ってくる。
「これならもしかするといけるかもしれない」
数日後、帆斗はリュウに呼ばれて実験を行っている河原へとやって来た。
「貸してくれ」
「はい、どうぞ」
バレルを渡す。リュウはバレルを手にとって呪文を唱え始めた。
するとバレルが淡く光り始めた。表面には何やら文字のようなものが浮かび上がり始める。
そして数分後、光は収まった。
「これでどうだろうか?」
受け取ると口の部分から金属の粉がこぼれ落ちる。
太陽に翳してみると中には薄っすらと螺旋状の溝が見て取れた。
「スゲェ・・・成功です!」
その正確さに帆斗も驚かざるを得なかった。まるで機械で加工したかのような出来なのである。
「どうやったんですか?」
「まず術式を材料全体に掛けて残す部分と取り除く部分を区別する。そして指定した部分を取り除いたんだ。その際に―――」
帆斗には詳しいことはよくわからないがとりあえずとても複雑で高度な魔法ということは分かった。
「こんな事が出来るのにどうして普及していないんですか?」
「複雑な式をいくつも重ねて展開する必要がある。それだけ大量に式を一度に展開していては体が持たない・・・」
帆斗は納得した。確かにリュウの体力はこの数分でかなり消耗しているようにみえる。
「ほんとうに有難うございます。お陰で助かりました!」
早速組み上げて試射してみる。結果は成功、帝都の職人の加工もあってライフルはスムーズに動いた。最も、手間が掛かりすぎて大量生産は出来ないだろうが・・・
その威力にリュウも驚いていた。なんせ数百年先の技術なのである。
「まぁこの世界だとこれが精一杯ですね・・・」
地球ではその後、セミオートマチック、フルオートマチックと発展していくのだがこの世界ではまだ無理だろう。
帆斗はそう思っていた。
しかし1ヶ月後、帆斗の予想を裏切るように戦闘という概念を覆す大きな出来事が起こってしまった。
門の出現によって・・・