「金目の物は全部積んでけ!」
盗賊団の首領、ドロは荷馬車を空き家の前へ寄せた。
炎竜の知らせを聞いてもぬけの殻になった家は彼等にとって宝の山だ。避難する際に必要最低限の物しか持っていけないため金目の物が残っている場合が多い。
このワカ村だけで荷馬車1つが満杯になってしまった。
「キケ、あと何軒だ?」
「次で最後ですぁ」
「早くしろ、次の村が待ってる」
「りょーかい」
意気揚々と最後の家に入って入って行くキケ。
ガタガタと物音がここまで聞こえてくる。
「アイツ、自分でパクったりしねぇよなぁ?」
「後で隠し持ってないか検査しないと」
他の家もあらかた探し終え戻ってきた仲間たちと談笑する。あと2つ集落を回ればしばらくは遊んで暮らせる、他の村も炎竜の噂でもぬけの殻になってるため無駄な戦闘を行うリスクがない。ドロはそう思っていた。
女が居ないのは少し残念だが・・・
「おい、アイツ遅すぎないか?」
「でけぇモンでも見つけだんだろうぜ、いまに入り口から引きずりながら出てくるさ」
なんて話していた時、突如破裂音が響く。
「なんだ!?」
ドロには聞いたことのない音だった。
「何かトラブったのかもしれない。カール、見てきてくれ」
「わかりやした。全く、アイツ何やってんだか・・・」
小言を言いながら家に入るカール、しかしすぐに彼は家から飛び出してきた。胸を紅に染めて
カールはそのまま背中から崩れ落ちる。白目を剥いて口からも血を吐いている、絶命しているのは目に見えていた。
「カール!?」
彼の傍に駆け寄ろうとした部下をドロは手で制す。
「待て、炎竜騒ぎで誰も居ないと思っていたが残っている物好きもいるらしいな。武器を取れ!」
一斉に皆が荷馬車から剣や斧、鉈を取り出す。必要ないとは思っていたが念の為に持って来ておいて正解だった。
「俺の合図で一斉に突入しろ、キケとカールの仇だ」
皆が一斉に頷く。
「よし、かかれ!」
元々戦闘を想定していなかったため頭数は決して多くはない、現状の戦力はドロを含めて4人、だが問題無いだろう。こんな小さい家ではせいぜい1人か2人だ。
一斉に家の中に入る部下達。
再び破裂音が鳴る。同時に部下たちの悲鳴も聞こえた。
「足が・・・俺の足がぁ!」
「クソッこの野郎!」
しばしの物音の後、沈黙が流れる。
「おい、何があった!?」
呼びかけても誰も反応しない、ドロは最悪の事態を予想した。
「畜生!」
ドロは剣を抜いて駆け出した。
武装した体格の良い男性4人が短時間で倒されるなど信じたくはなかったのだ。
閉じかけていた戸を蹴破り中に入る。
「まだ居たのか」
物陰から掛けられた声に振り向くドロ。
「お前は・・・」
目の前に立っていた人物にドロは驚きを隠せなかった。
まだあどけなさも残る少年、年齢はおそらく10代後半だろうか。
目や顔立ち、髪の色からこの辺りの土地の人間ではないらしい。武器だろうか、木と金属で作られた棒状のモノを持っている。
「ガキ、テメェが殺ったのか?」
「そうだと言ったら?」
にやりと笑う少年、自分よりも遥かに年下の人間に馬鹿にされているという屈辱的な感情がドロの中を支配した。
ドロは剣を鞘から引き抜いた。帝国軍に従軍していた時に使用していたもの、何年も前のことではあるが剣は未だに輝きを残している。
「舐めんなよクソガキ!」
中世に西洋諸国で使われていたの諸刃の剣、ロングソードは重さが5キロとかなり重量級だしかしドロはそんなロングソードをまるで木の枝であるかの様に片手で振り回していた。
机や棚に深い切り傷が刻まれる。丸太のような腕から繰り出されるパワーは帆斗の想像を遥かに超えていた。
帆斗はそんなドロの肩を狙って引き金を絞った。
放たれた弾丸はドロの肩に命中した。しかしドロはそれを意に介さない様子で帆斗に襲いかかる。
振り下ろされた剣を間一髪で躱す帆斗、しかし彼の額から鮮血が流れる。
「伏せろ!」
リュウの声でとっさに身を屈めると突如背後から突風が襲った。リュウの魔法である。
ドロの居る一方向に向けての指向性の高い風、あの巨体が壁を突き破って外まで飛ばされてしまった。
「お前はそこにいるんだ」
ドロの元へ走っていったリュウ、無力化するために睡眠を誘導する魔法を掛けるようだ。
「ガキの次はアマか、ナメられたもんだな」
「ぐっ!」
魔法を展開するには多少の時間がかかる、その隙にドロはリュウの首を掴んで持ち上げる。
「リュウさん!?」
慌ててライフルを拾い上げて構える。スコープを覗いた時、帆斗は自分の体の違和感に気付いた。
帆斗は出血のせいで貧血状態に陥っていた。焦点が定まらず周りが目が眩んだような感覚、このような状態で撃ってしまうとリュウに当たりかねない。
「クソッ、どうしちまったんだ・・・」
目をこすったり頭を降ってみるも逆効果、今にも意識が飛びそうになっていた。
その時自分のモノとは別の銃声が聞こえてきた。帆斗が使っているものよりももっと大きな、口径の大きい物。
「ガハッ、お・・・お前らは・・・」
頭から血や脳漿を散らせて倒れるドロ、貧血のせいか帆斗には何が起こったのか理解できなかった。
空気を求めて喘いでいリュウの背中を優しくさすっている人物を見て初めて状況を理解した。
「さっきの自衛隊の・・・どうしてここに?」
「大丈夫ですか?出血がひどい・・・日向!」
前に炎竜の情報を教えてくれた自衛隊の人達であった。先ほどの銃声は自衛隊の隊員が手にしていた64式7.62ミリ小銃のものだったのだ。
隊員の一人が帆斗の頭の血を見て人を呼ぶ。
日向と呼ばれた女性自衛官は帆斗の傷口を確認するとなれた手つきで応急処置をし始める。
「あ、あの・・・リュウさんは?」
「安心してください、無事ですよ」
そのまま帆斗は自衛官に抱えられ高機動車へと横たえられる。傍には若干戸惑った表情のリュウが同乗していた。
「こんな乗り物は見たことがない、あなた達は一体・・・」
一番最後に乗車した坂出が言った。
「我々は日本という国から来た陸上自衛隊です。貴方がたを駐屯地の自衛隊病院へとお連れします」